インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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祝50話達成! 
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14.白銀の脅威

 ――作戦行動時刻、午前十一時半。

 

 空は隅々まで晴れ渡っており、福音と戦闘する上で視界を遮るモノは一切無い。

 今回の作戦に参加する一夏と箒は砂浜の上に並び立っている。二人はお互いに目を合わせ、一度だけ頷いた。

 

 それを合図に二人の身体は光に包まれ、ISアーマーが形成される。PICが物体の慣性を制御し、二人の身体を宙へ浮かび上がらせていく。次にパワーアシスト機能が作動することで一夏と箒の全身の感覚強化が施された。

 

「んじゃあ、頼むな箒」

「本来であれば女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないのだが、今回ばかりは仕方ないことだ」

 

 今作戦において、一夏は移動によるエネルギー消費ですら無駄に使用することはできない。故に箒が一夏を背に乗せることで、対象である福音の下へ移動することとなった。

 最初に作戦内容を聞いた箒はイヤな顔をしたものの、それ以外に方法がないと聞くや否や受け入れることに。

 

(しかしなあ、大丈夫なのかな……?」

 

 一夏の目に映る箒の姿は何処か上機嫌であり、浮ついているように見えた。それどころか箒は専用機に乗ってから数時間も経っていない。いくら束のお墨付きであろうとも、一夏は不安だった。

 

(……何かあったら俺がフォローしないとな)

 

 そう思い、一夏はいつも以上に気を引き締めた。

 

「それにしても、一夏」

「なんだ?」

「たまたま私たちが臨海学校で訪れていたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせればできないことなどない。そうだろう?」

「ああ、そうだな。だけど箒。先生たちも言っていたことだけどこれは訓練じゃないんだからな。実戦では常に何が起きるか予想できない。車の運転のように十分に気を配って――」

「無論、そんなことはわかっているさ。ふふっ、怖いのか?」

「そうじゃねえって。いや、怖くはないってワケじゃないが――」

「心配するな。お前は私がきちんと目的地まで運んでやるからな。期待して待っていればいいさ」

 

 箒自身は大丈夫だと言うが、一夏から見れば箒は完全に浮かれていた。今まではなかったはずの専用機を貰い、妙な高揚感に包まれているのだろう。人は欲しかったモノを手にすることで少なからず浮かれてしまうものだ。

 

 そんな不安を感じながら、一夏は箒の操る紅椿(あかつばき)へと飛び乗った。

 

『織斑、篠ノ之。聞こえるか』

 

 ISの開放回線(オープン・チャネル)から千冬の声が聞こえてきた。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)だ。短時間での決着を留意しろ』

「了解」

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

『そうだな。だが、決して無茶はするな。お前は専用機での実戦経験は皆無だ。お前も福音同様に暴走してしまう可能性も否定できん』

「わかりました」

 

 一見して見れば普通の応対であったが、やはり声色は歓喜の色が混じっていた。これは幼馴染である一夏にだけ感じられるものなのか、それとも誰にでもわかるほどに彼女が浮かれているのか……一夏には見分けが付かなかった。だが、間違いなく箒が浮かれているという事実だけは理解できる。

 

『――織斑』

「は、はい」

 

 今まで使っていた開放回線ではなく、操縦者同士にしか聞こえない個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)での声が聞こえ、一夏は慌てて回線を切り替えた。

 

『どうも篠ノ之は浮かれているな』

「織斑先生にも……?」

『ああ。あれは軍人が初めて銃を手にした時のそれによく似ている。そういう輩は絶対に何かをやらかす。いざって時はきちんとサポートしてやれ』

「わかりました」

『では頼んだぞ』

「もう一つ、いいですか」

 

 一夏は回線を閉じようとする千冬に声を掛け、気になっていたことを尋ねる。

 

『なんだ』

「静馬は見つかりましたか」

『ああ、深見なら更識が見つけたと言っていた。心配するな、お前は目の前のことにだけ集中しろ』

「はい」

 

 秘匿回線を閉じ、千冬は開放回線で作戦開始の号令をかけた。

 

『では、これより作戦を開始する――はじめっ!』

 

 その声とともに、一夏を乗せた箒の機体――紅椿は一気に遥か上空へと飛翔した。

 先程までいた場所は小さく消えていき、一夏はその速度に驚きの声を上げる。

 

 その疾さは瞬時加速よりも疾く、持続性も高い。

 二世代型と三世代型で隔絶された性能差があるとすれば、三世代型と四世代では更に大きな壁が存在していた。

 

「暫時衛生リンク、情報照合――完了。対象の現在位置を確認――! 一夏、衝撃に備えろ!」

「お、おう……っ!」

 

 箒は福音の位置を確認し、更に速度を上昇させていく。

 脚部の展開装甲が開き、そこから濁流のようなエネルギーが放出され、絶対防御によって守られているにも関わらず強烈なGが二人の身体を襲う。

 

(これが《雪片弐型》と同じ……それの完成形か)

 

 開発者――束の話によれば、だが。

 しかし、そうなってくると一つの疑問が浮上してくる。

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 それは開発者である束にしかわからず、各国にいるどの科学者であろうとも理解していない。

 それどころか、ISというものがどういう仕組みで稼働しているかさえ。

 

「捕捉したぞ、一夏!」

「……!」

 

 ハイパーセンサーの視覚情報が脳へ走り、まるで自分が知覚したかのようにして目標――『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の姿を映し出す。

 その機影は名に相応しい輝く銀色。頭部からは一対の巨大な機翼(ウィング)が生えており、本体よりも銀色に輝くそれは、大型のスラスターと広域射撃武器としての機能を有しており、多方向同時攻撃という特性からあらゆる方向を同時に攻撃できるという性能であった。

 

「加速するぞ……! 目標に接触するのは、おおよそ十秒前後だ。一夏、気を引き締めろ!」

「ああ!」

 

 スラスターと展開装甲の出力が更に上昇し、これ以上の出力はパーツが破損するのではないかと思わせるほどの衝撃を発しながら、福音との距離を凄まじい速度で縮めていく。

 

 ――5秒、6秒、7秒、9秒――10秒……!

 

「うおおおおおッ!」

 

 5秒の時点で一夏は零落白夜を発動させ、それと同時に出し惜しみなしの瞬時加速でもって間合いを一から零へと詰めていく……!

 

(行ける……!!)

 

 そう、一夏が確信した時――

 

「    」

「なっ!?」

 

 福音は失速させることなく、まるで見えていたかのように反転し――

 

「敵機確認。迎撃モードへ移行。《銀の鐘》、稼働開始――」

「!?」

 

 一夏や箒の耳に届いたのは、抑揚の感じられない機械音声。そこには微かな敵意や害意が感じられ、一夏は身体を硬直させる。

 

 そして、零落白夜が触れる刹那――触れるか触れないかのギリギリの精度で攻撃を回避し、広域射撃武器としても機能する巨大な機翼を大きく広げながら、一夏の方へと向ける。

 

「くっ……! 精密な動作に加えて、ミリ単位で加速できるのか……!?」

 

 ここでようやく一夏は本当の意味での軍用ISの力を思い知らされた。

 

「箒! 援護を頼む!」

「任せろ!」

 

 時間を掛けるのはあらゆる意味で不利だと感じ、箒の背中から再び福音へと接近し斬りかかった。

 

「くっ、このっ、当たれ……ッ!」

 

 が、しかし。一夏の攻撃は一度たりとも当たりはしない。まるで上空で繰り広げられる演舞(ダンス)のようにしてひらりひらりと攻撃を紙一重の回避を繰り広げていく。

 

 ――当てれるものなら、当ててみなさい。

 

 と、でも言わんばかりの動きに一夏は焦りを感じ。大振りの攻撃を放ってしまう。

 

「しまっ……!?」

 

 銀色の翼が更に大きく広がり始め、更に輝きを増していき……次の瞬間、目を焼き尽くさんばかりの閃光と共に無数の光弾が目にも留まらぬ速さで撃ち出される。

 

「ぐぅぅッ……!」

 

 光弾は超高圧縮されたエネルギーの塊で、着弾した瞬間に今まで圧縮されていた力を失ったかのようにして解き放たれることで爆発を引き起こす。

 

「箒、左右から同時攻撃だ! 左を頼んだ!」

「了解した……!」

 

 一夏と箒は交差するようにして回避行動を取りながらも、光弾を止めない福音へと、左右同時攻撃を仕掛ける。

 が、しかし。二人の攻撃は当たらない。当たらない。当たらない。まるで次の動きが完全に読めているかのような変則的な動きでもって回避していく。

 一夏や箒は動きを変えるために少しの減速があるのに対して、福音にはそれが存在しない。まるで絵を描くかのような繊細さで上空を駆けていく。

 

「一夏! 私が動きを止める! いいな!」

「ああ、わかった!」

 

 箒は左右の空裂(からわれ)雨月(あまつき)を展開し、突撃による攻撃と斬撃による攻撃を交互に繰り出す。それと同時に展開装甲が開き、そこから生じるエネルギーの刃が攻撃に連動して自動で射出されていく。

 然しもの福音もその猛攻には今まで使っていなかった防御を使用し始め、そこには若干の隙が生まれているように一夏には見え、これならばいける――! と、再び零落白夜を握りしめるが、

 

「――La……♪」

 

 甲高いマシンボイス。二人を賞賛するようなニュアンスを含んだ声が聞こえた刹那。

 ウィングスラスターに隠されていた砲門の全てが露わになる。その数、36門。

 全方位に無駄なく吐き出される一斉放火。

 

「ふっ……! だが、押し切ってやる!」

 

 箒は吐き出される光弾の雨を紙一重で躱しきり、肉薄し――僅かな隙を攻め立てる。

 

「……!」

 

 だが、その大きな隙を一夏は捨て、福音とは真逆の位置へと全速力で駆けていく。

 

「なっ!? 一夏!?」

「うおおおおっ!! 間に合え……ッ!!!」

 

 瞬時加速でもって限界まで加速し、一つの光弾へと追い付きそれを弾き飛ばす。

 

「何をしている!? せっかくのチャンスに!」

「船がいるんだ! 海上は先生たちが封鎖したはずだってのに! ああ、くそっ密漁船か!」

 

 キュゥゥゥン……

 そんな音と共に零落白夜の展開装甲が閉じ始め、光の刃が消失する。

 リミットアウト。

 

「馬鹿者! 犯罪者をかばって……。そんなやつらは、そんなやつらは――!」

「箒!!」

 

 一夏は状況を忘れ、箒に向かって叱咤する。

 

「箒、そんな寂しいこと言うなよ。力を手にしたら、弱いヤツのことが見えなくなるなんて……どうしたんだよ、箒。らしくない。お前らしくないぜ」

「わ、私は……」

 

 箒に明らかな動揺が走り、致命的な隙を生む。そんな瞬間を見逃してくれるほど、福音は甘い存在ではない。そして、それと同時に箒の刀から光が失われていくのを見て、一夏はぎくりとして腕を伸ばす。

 

 ――明らかな、具現維持限界(リミット・ダウン)

 

「箒ぃぃぃぃ――ッ!」

 

 一夏は先程にも劣るとも勝らない速度で駆け抜け、一直線に箒の下へと向かった。

 

(間に合え、間に合え、頼む間に合ってくれ――!!)

 

 視線の先で福音が箒に向かって、その巨大な翼を広げて一斉放火を食らわせようとしているのが見える。

 具現維持限界を迎え、エネルギーが枯渇しかけているISアーマーの強度は脆く、それが第四世代であろうとも変わりのない特徴だろう。絶対防御があったとしても、あれだけの物量と威力を一身に受ければ――その想像は容易い。

 

 そして、一夏は追いついた。だが、その攻撃を回避あるいは受け流すほど余裕は一切ない。故に一夏が箒の代わりに攻撃を受けるのは明白だ。

 

「ぐああああっ!!」

 

 箒を庇い、一夏は福音の一斉放火をその身に浴びた。

 エネルギーシールドが受けきれずに破損し、それを越えてきた爆発の衝撃が一夏の身体を軋ませる。

 肉を、骨を、神経を、熱波が灼いていく。

 狂いそうになるほどの激痛を浴びながらも、命懸けで守った無傷の箒を見て、満足気な笑みを浮かべた。

 

(ああ、無事か……よかった……ああ、本当によかった。はは、何て顔してやがるんだよ……らしくねえなあ)

 

「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!」

「――――う、ぁ……っ」

 

 一夏は体勢を意識する余裕もなく、破損したパーツと同じように海へと真っ逆さまに落ちていった……

 

 

「――La♪」

 

 その様子を見て、福音は鐘の音を鳴らすような声を漏らす。

 何度も、何度も、何度も。

 まるで、福音の音のように……

 

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