リリカル・マジカル・オレ、自爆 作:ジャー・ジャック・ジョー
やぁ、別次元で全裸になったりした裁人君だよ。
ん?オレは何を言ってるんだ?
まぁ、それはそれとして。
突然だが目の前にでっかいワンコロが居たらどうする?
オオカミのようにデカいワンコロだ。
撫でくりまわす?犬好きにとってはデカいワンコと戯れるのは一種の夢でもあるだろう。
すぐさま逃げる?犬嫌いにとっては悪夢のような光景だろう。
無視する?これが一般的かな。写真だけ撮って雑誌に投稿するもよし、SNSに挙げるもよし。
保健所に電話する?まぁ、迷惑だよな、そんなのが近所に居たら。
まぁ、とれる行動としてはそんな感じだろう。
オレか?オレは...
目の前にはデカい牙がある。犬特有の発達した犬歯だ。
鼻はちょうど額の直ぐ前にあり、興奮した鼻息で汗に濡れた髪の毛が後ろに撫でつけられる。
鋭い眼光はギョロッとオレを睨みつけている。
両手で木刀の切っ先と柄をそれぞれ握り、犬ッコロの口の奥に入れ込んだ木刀の腹の部分は現在犬の牙が食い込み、穴が穿たれている。
両腕がプルプル震える。
一瞬でも気を抜いたら最後、振りほどかれて木刀もオレの命も散るだろう。いや、実際には散らないが、モグモグされるのは流石にトラウマになるだろう。
こんな感じである。
頼む、なのは...来てくれ...!
☆
ゴンッ!
頭に鈍い衝撃が走る。ジジイの木刀が頭に叩き込まれた。
疲れ果てて半ば朦朧としていた意識ではジジイの木刀の動きを目で追うことすらできなかった。
体が徐々に傾いていき、道場の床にバタンと倒れこんでしまう。
「お前、体力無さすぎだ。いや、違ェな...ペース配分が下手すぎだ」
「普通に、動いて、る、だけ、だよ...!」
「いィや、下手だね。お前は変なとこでも力を入れちまって結果台無しになッてンだよ」
「あぁ?強く、動かなきゃ、意味、無いだろ?」
「違ェよ、要は緩急が大切なンだよ。抜くとこは抜く、入れるとこは入れる。こっちのがいいもんなンだよ」
「緩急、ねぇ...」
言われてもいまいちピンとこない。
するとオレのその様子を悟ったのか、ジジイは少しイタズラっぽくニヤついて
「つーわけだ、表でろ、ガキ」
少し休憩してから言われるままに外に出ると、有無を言わさずに近所の山に連れてこられた。
山、と言っても上に神社がある低い山だ。神社までの道には石の階段があり、そこを登って神社の境内まで行く。
近所のジーサンバーサンなら神社に用があると少し無理をしてでもこの神社に行く。まぁ、付き合いがあるからな。
しかし、若者は年末とかにこんな石段を登りたくはないのだろう。少し離れた、山の上にない神社に行く。そんな少し寂れた場所だ。
さて、オレはその山に来た時点である程度の内容は理解していた。
どうせ石段ダッシュだろう。まぁ、体力をつけるんだったら一番の方法だろう。
少し疲れるぐらいは覚悟して石段に足をかけた瞬間ジジイが
「おいガキ、そこから登るんじゃねェよ」
イタズラが成功した子供のような顔で止めてきた。
「はぁ?じゃあ、どこから登れっていうんだよ?」
「あそこだ」
ジジイが指を指した先は獣道すらないような神社の鎮守の森、その端っこだ。
「...へ?」
「あ、木刀持って構えながら行けよ。足下の訓練でもあるんだからなァ」
ジジイは本気で言ってる。2年間ほぼ毎日道場に通いつめてるオレが言うんだ。間違いない。
「...マジ?」
一応聞く、嘘だと信じたい。嘘だと言ってよバーニィ。実際はジージィだが。プッ。
「マジだ」
有無を言わさぬ眼光であった。
オレは泣く泣く階段ダッシュならぬ森ダッシュを始めた。
☆
「ハァ...ハァ...!」
現在森ダッシュ5往復目。そろそろ折り返し地点の神社に着く。
ジジイの言った通り、確かにこれは力を抜く場所、入れる場所を意識しないとかなりキツイ。いや、意識しててもキツイ。
木刀を構えながら走ってるので足場と足の使い方を考えなければすぐに転けてしまう。
転けたのはジジイに分かるらしく、下に降りたときに転けた回数指を折って数えてたのは流石にゾッとした。
何も無いよな...?
そうこう考えてるうちにそろそろ頂上だ。降りは体力的に楽だが、足下に注意を払わないと直ぐに転けてしまう。謎のカウントが増えるのはもう嫌なので気をつけていこう。
お、森を抜けるぞ...
森を抜けると、そこは犬だった。
...うん?
何かでっけえ犬ッコロが目の前に鎮座している。もう視界を埋める勢いでデカい。
こんなのが居たら近所で噂になってるはずだが、オレはこんなの聞いたことないぞ。
つまり、いきなりデカい犬ッコロがこの街に現れた。しかもごく最近。
厄ネタの臭いしかしねぇ...
てか、もしかしなくてもジュエルシード関連だよなぁ...
うーん、なのはを呼んだ方がいいよな?オレじゃジュエルシードの封印が出来ないからな。
犬ッコロはまだこっちに気づいてないし、ここはなのはに救援を求めた方がいいな。
うし、降り終わったら即行でなのはを呼びに行くぞー。
ジジイから逃げてるわけじゃないぞー。
さて、自己弁護終わり。さっさと降るか。
パキッ
あっ、やべっ...木の枝踏んじゃった...。
グルルルルル
後ろから唸り声が聞こえる。
飢えた者の声だ。
お前を喰わせろと囁いているのが分かる。
そーっと後ろを振り向くとそこには眼をギラギラと光らせ、口元からは涎をだらだらと垂らしてこっちを見る巨大な犬ッコロがいた。
額から嫌な汗が流れ落ちる。
思わず足がすくみそうになる。
この犬ッコロから向けられているのは本物の、純粋な殺気だ。
そこからの展開は早かった。
まず犬ッコロがこちら目掛けて噛みつく攻撃。
「うおっと!?」
オレはそれを右に転がって避けつつ間合いを離そうとする。
が、犬の狩猟能力はオレの想像していたよりも高く、避けて体勢をたて直そうとした瞬間に二撃目の噛みつきがこちらを襲う。
「またかよ!?」
オレは咄嗟に木刀の持ち方を変え、右手で柄を、左手にで切っ先を掴み、木刀の腹を犬ッコロの口の奥に入れ込み食い込ませる。
ミシィ
犬ッコロの牙が木刀に食い込む。
犬ッコロの牙はギリギリオレには届かず、お互いに顔を見合わせた均衡状態となっている。
犬ッコロは頭を左右に振り、木刀とオレを引き剥がそうとしているが、オレも力を込めて耐えているし、この木刀はジジイの特注品で樫の木で作られた木刀だ。固さと頑丈さは一級品なのでなかなか引き剥がせない。
こんなので毎日叩かれていたのか...
それはともかく、正直、この均衡状態を崩さなければ負けるのは体力と力の差で俺だ。
何か勝つ方法は無いか。そう思ったオレは今日ジジイから習ったことに行き着いた。
「力の、配分を...」
そう言って力を緩める。
力を緩めたのを感じ取ったのか、犬ッコロは今までよりも力強く首を振り、オレを食い込んでた木刀ごと引き剥がして上に飛ばした。
子供程度の重さはこのデカい犬ッコロにとっては屁でもなく、犬ッコロはオレを難なく空に放り出す。
浮遊感を感じる。下には犬ッコロが大口を開けてオレが下に落ちるのを待っている。
それでいい。喰らわせてやるよ。
「セイヤァァァァァァ!!」
オレは空中で体勢を整え、犬ッコロの鼻目掛けて木刀を思いっきり叩きつける。
ギャンッ!
犬ッコロが悲鳴をあげてもんどりを打つ。
鼻というのはかなり敏感な器官だ。いくら空中での体重が乗らない一撃とはいえ、鼻への打撃ならかなりのダメージを与えられる。
「これで、終わりだ!」
オレは木刀を構え直し、地面に転がる犬ッコロへ必殺の袈裟斬りを放つ。
「チェストォォォォォッ!!」
ボゴォッ!
袈裟斬りは犬ッコロの頭へ見事に当たり、犬ッコロは悲鳴をあげる間もなく静かになった。
「ハァ、ハァ、やった、勝ったぞ...!」
オレは気力も使い果たし、立つこともままならず、その場に崩れ落ちる。
体力的な疲れではなく、精神的な疲れだ。
始めて、純粋な、野生の殺気を受けた。
殺気とはあそこまで恐ろしいものなのか...。
「ここだよ!なのは!」
「うん!って、さ、サイ君!?」
なのはとユーノがやって来た。
「なのは、早く、封印してくれ...」
「そ、そうだ!なのは、早く封印を!」
「分かった!」
そしてなのはは変身してジュエルシードの封印を始める。
「裁人、もしかして一人で倒したの?」
「おうよ、結構、きつかったけどな」
「魔法も使えず、しかもこの辺りの被害を見ても爆破の痕跡も見当たらない。その手に持ってる木刀だけで倒したの?」
「ったりめーよ。伊達にタイ捨やってないって言ったろ?」
「すごい...」
「ふふん、サイ君は凄いんだよ」
なのはが青い宝石とあの犬ッコロから凶暴性を抜き取ったみたいな子犬を手に持ってこっちへ来た。
「お前が威張ってどうすんだよ。てか、その子犬は?」
「ジュエルシードを封印したら出てきたよ」
「今回はどうやら生物がたまたま拾って願いを叶えたパターンだね。願いは<強くなりたい>かな?」
てことはアレはこの子犬だったってことか。そんなパターンもあるのかよ。
「っ!サイ君、後ろ!」
って、ヤベっ!ジジイの気配っ!
オレは急いで立ち上がり後ろを振り向き、襲ってきた木刀を防ぐ。
「おゥ、サボって女の子とお喋りたァいいご身分だなァ、ガキ」
いつまでも山を降りてこないので痺れを切らしてこっちに来たのだろう。
「いきなりたぁ卑怯じゃねえの、ジジイ」
犬ッコロに穴を開けられた木刀がミシミシと音を立てる。
このままでは木刀が折れてしまう。
そこでオレは木刀を少し斜めにしてジジイの木刀を滑らせ、そのまま自由になった木刀をジジイの腹に叩き込もうとする
「ほゥ、分かったじゃねーか」
ジジイが感嘆の声を漏らす。
力を抜き、チャンスを作る。受けるのではなく、受け流す。守から流れるように攻に転じる。
待つことを捨てろ、『
「が、まだまだだな」
ジジイの鋭い蹴りがオレの木刀よりも速く、オレの腹部に刺さる。
「ゴフッ...」
オレは吹き飛び、木にぶつかって気絶した。
☆
ユーノは目を見開いて驚いていた。
「い、今のは...!?」
「そうだね、ユーノ君は知らなかったね。あの人がサイ君の剣術の師匠だよ」
「あの人が...」
「と言っても、私も稽古を見るのは始めてだよ」
なのはも内心驚いていた。裁人はあんなことを何時もやっているのか。それを何故黙っていたのか。
そんな自分の知らない裁人がいたことにショックを受ける。
そして、自分の知らない裁人を知っている老人に、少しだけ嫉妬した。
「おゥ、士郎のとこの嬢ちゃん。あのガキと友達なのか?」
老人がこちらへと近づいてきた。
「はい!ワルイ子友達です!」
なのはは元気よく答える。
老人は少しの間面食らった顔をしたが、直ぐにニヤリと笑って
「そうか、あのガキのことをよろしく頼む」
そう言って去って行った。
「カッコいいなぁ...あの人も、裁人も...」
ユーノは誰にも聞こえないように呟いた。
学者肌の彼でも、立派な男の子である。そういうものに憧れる。
「そうだ!サイ君を起こさないと」
そう言うとなのはは小走りで気絶している裁人に近づく。
「むにゃ...ジジイ、覚悟しろー...」
裁人は寝ていても稽古をしているようだ。
(もう、サイ君のバカ...)
なのははいつもよりも強めに裁人の尻をつねった。
あれ?リリなのを書いてた筈なのになぁ...?