無冠のアウグスタ
それは日本中探しても、何処にでもありそうな普通の学校。
生徒数も他の地域の中学校と変わらない。
白塗りのコンクリート製校舎とやや広めの校庭、茶色の男女ブレザーを採用している至って普通の中学校だ。
部活動や委員会も並々とあり、大きくも無ければ、小さくもない。
只並々とした日常を過ごしながら生徒達は学校生活を満喫しているのだ。
だからこそ、何も変わらず平穏な日々を並々に過ごす。どこにでもある中学校だった。
そんな学校の三階突き当たりに、学校定番の『図書室』があった。
図書室は静かだった。
調べ物をする生徒、自習室に利用する生徒などごく僅かに限る。
殆どの生徒、教師達は部活や放課後のひとときを楽しみ、明日の準備に取り掛かっている頃だろう。
昼休みの図書室はやや賑わう程度で終わるが、放課後の図書室は殆ど訪れる生徒は存在しない。
現在の図書室は、一人の女子生徒が当番を担当していた。
女子生徒の名前は「
今年から並盛中学校に通う、どこにでもいそうな中学生である。
彼女は所謂「
何故この二次元にいるのか?
前世では一体何をしていたのだろうか?
自分は一体何者だったのだろうか?
それらの記憶は彼女が物心ついた頃には既に稀薄になっていた。
代わりに『家庭教師ヒットマンREBORN!』の原作知識や他作品の原作知識は鮮明に覚えていた。
もしや前世の記憶を失う代わりに得たものだったとしたら、前世の自分はどれだけ強欲なヤツだったのか、と時々思った。
それでも彼女には前世があり、此処は前世で読んだ『家庭教師ヒットマンREBORN!』の世界であることは分かった。
アスカは一般家庭に生まれ、平穏な日々を過ごしていた。
思考は
入学式から二ヶ月経過したのだが、一向に友好関係を結ぶ人間------所謂「友達」を作ろうとしない。
積極的に作ろうと思ったりする訳でもなく、只単に一人でいることが好きなだけだ。
そう言う生徒はどこの中学校でも一人ぐらいは存在するので、アスカは平穏な生活を過ごせていた。
嘗て読んでいた少年マンガの世界で、活躍出来る機会に興味も関心も持たず、ただ『平和に暮らしたい』と願いを持つアスカからすれば望むべき日常生活であった......これから始まる原作以外は。
「........何で、並中なんだ」
後悔しても遅い悩みに、本日何度目かの溜息を吐いた。
この作品は今日の放課後、つまり原作開始日である6月18日に主人公が自ら「
他中学とのマフィア抗争、身内同士の後継争い、10年後の世界でのマフィア抗争......どれもこれもマフィアが必ずと言って良い程関わっている。
沢田綱吉の性格からすれば別に関わった所で問題無い。
寧ろ交友関係を持っても支障は出ない。
が、原作を知っている明日香はこの先で起こることも知っている。
10年後の未来で沢田綱吉と関わった人間が『ボンゴレ狩り』に会っていることも、全て知っている。
単純に言ってしまうと、アスカは原作に関わりたく無かった。
勿論白蘭が倒されれば、復活したアルコバレーノのおかげで死んだ人間が生き返ることは知ってる。
原作知識を持ってしても、それが100%と聞かれて「大丈夫」とは言い難かった。
白蘭と同じ考えを持つ人間が現れてしまった場合の対策は可能なのか。
原作が終了してもその先は続く上に、アスカや他の人達も生きている。
原作が終わってしまっては生き返ることは不可能だと結論を出していた。全然良くない結果だ。
アスカが他人との関わりを最小限にしているのは、厄介事や面倒事を自分に向かないためでもあり避けるためでもある。
知識で関わっただけで死ぬと分かっていればますます関わる気になれない。
原作にいないイレギュラーが関わればどんな化学反応式を引き起こすか予測出来ない。
平穏を望むアスカにとって避けなければならないことだ。
幸いにもアスカのクラスはC組。
恐れていた沢田綱吉達と同じクラスになるフラグは回避出来たのだ。
恐怖の1-AはB組を挟んで昇降口側の階段近くにあるため、入学式の席も、移動教室の時も、合同授業の時も接触は無かった。
誰かに原作を話すのは絶対タブーだ。
勿論家族も含む、アスカは一人で抱え込まなくてはならない。
関わらない様に努力するしか無いだろうが、別の問題が浮かんでしまったのだ。
アスカは病気になりやすい、所謂「病弱体質」だ。
しかし決して「虚弱」と言う訳では無いので、体調が万全且つ優れている場合、普通に持久走やリレーなども出来る。
それでも彼女は目立つ存在では無かった。
どうしてなのか?
アスカは某バスケマンガの主人公の如き極端に影が薄いと言う訳でもない。
彼女は周囲は勿論のこと、家族にも言っていない"ひみつ"------原作知識を持っていることとは別ものである------があった。
誰にも言っていない、その"ひみつ"を何故持っているのかは自分でも理解していない。
恐らく前世と関係しているのだろうとアスカは思っている。
だが、深く詮索しなかった。幾ら試行錯誤しても切りがなかったからだ。
......知識の代わりに、前世何をしていたのか覚えていないから見当が全く着かないと言うものあるが。
率直に言うと、アスカの『ひみつ』にリボーンが目を付けてくる可能性があるからだ。
別のクラスだから安心してはいけない。
リボーンは沢田綱吉を監視しながら、彼のファミリー候補を同時に探している。
心の緩みが最大の油断となる。
しかし意地を張り過ぎて、逆に不信感か違和感を覚えさせれば本末転倒となる。
やはり、モブキャラを演じるにはA組に近寄らない様にするしか無いようだ。
先程も言ったが、C組に割り振られたことだけでも幸いだろう。
それだけでも良しとするか、と隣りに隣接する資料室にいる委員会の顧問に図書室の鍵を預けた。
下校中に悲痛の様な叫び声に聞こえなくもなかった。
しかし「聞こえないふり」を選択したアスカの判断は決して悪くないだろう。
それは気の所為だったと言う場合もあるのだから。