少女と廻る非日常   作:鈴本暁生

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野次馬≠モブ

翌日のことだ。

 

昨日が原作開始日の「6月18日」だとすれば、今日は憐れな主人公が自己中男(もちだけんすけ)と理不尽に剣道勝負を受ける筈である。

 

その為学校に登校すると、学校内はその話で騒がしかった。中にはトトカルチョや賭け事をやり出す奴等まで出始めた。

 

浮つき過ぎて、さながら動物園にいる様な感覚に落ちる。

 

こいつら発情期の猿か、と一瞬失礼な事を考えたアスカは悟られぬ様に自分の席に座った。

 

元々友人を作っていないので挨拶するクラスメートはいない。

 

少しだけ話したクラスメートは気付いて挨拶していたが、無言で頷き返すだけだった。

 

本当に主人公は憐れだと熟々思う。

 

いや、憐れと言うより「不憫」と言った方が良いかもしれない。

 

彼のご先祖がマフィアの初代ボスだからと言っても、元々自分達の街を護る為に結成した自警団から始まった筈だ。

 

彼の部下、つまりD.スペードが愛する者を失ったのを引き金に起こった暴走が現在のボンゴレ。

 

目覚めることも無かった彼の潜在能力を覚醒させたのは、リボーンも要因の一つだが、やはり延長線上に起きる抗争が大半を占めている。

 

同情はするが、関わろうとは思わない。

 

マフィアは恐ろしい。

 

ぬるま湯に浸っている一般人を予想を斜め上の考えで来るからだ。

 

裏の世界では当たり前なのだろうが、こっちからすれば"異常"にしか見えない。

 

彼だって否定し続けようが何れにしても逃れられないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『                             』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスカの脳内をノイズ音が駆け巡ったことで思考を停止させた。

 

そして気付いた。

 

やけに周囲が静かだなと思い顔を上げると、アスカ以外の生徒は教室に残っていなかった。

 

どうやら他の生徒は体育館の方へ向かってしまったようであった。

 

モブキャラを目指す彼女にとって必至な「原作イベント第三者視線」に出遅れてしまったのだ。

 

だが、彼女は慌てることも無く------どこで黒い悪魔が見ているか特定出来ない------状況を把握した。その上で彼女は体育館には向かわず自身の教室に残ることを選択した。

 

但し勘違いして欲しく無いのは、理由も訳も考えた上での判断だ。

 

 

まず、勝負から敵前逃亡しただろう沢田綱吉と遭遇する可能性。

 

彼が持田剣介を前にして逃走したのは、原作でも描かれて居たことなので間違いない。

 

その逃走先が体育館のトイレでも無く、校舎の廊下辺り。

 

しかし、彼が何階にいるのか特定出来ていない。

 

彼は死ぬ気弾を撃たれるので当然そこにはリボーンもいる。

 

偶然による遭遇の危険性を考慮して迂闊に行動出来ない為、アスカは教室から出なかった。

 

次に、アスカのクラス内での立ち位置にあった。

 

アスカの立ち位置は一グループに入らず、あくまで第三者の立場を取っている。

 

誰の味方をする訳でも無く、誰の敵になる訳でもない彼女はクラス内では「空気」の様な存在と化している。

 

体育館へ向かえば今までやってきた事を水の泡に返してしまう。

 

当たり障り無い言動や態度で周囲と接してきた基本スタンスを今ここで崩す訳にはいかなかった。

 

最後に、アスカ自身が体育館のイベントに根本的興味の欠片も向けなかったことだ。

 

原作知識を持っていたとしても"彼等に関わらない"。

 

その選択肢をしている為徹底的に関わりそうなものを現実から排除して、意識上からも排除している。

 

イベントを自身の意識に留めておかない。

 

いや、留めているのかと問われても、即判断出来るか怪しいほど彼女のむk......げふんげふん!淡白さは万能振りを発揮していた。

 

 

個人的且つ不安要素満載の理由等々を説明したが、遭遇するよりマシな選択だとアスカは思っている。

 

実際最強の殺し屋であるリボーンの情報網でアスカの事は簡単に調べられてしまう。

 

家族や交友関係------これに関しては在るかどうか不明------、果ては性格・行動・クラスや家での過ごし方まで完璧に。違和感を与えようと何れ時間も経てば忘れてしまうだろう。

 

彼の性格を考えると、同業者相手だろうと興味の引くものが無ければ三流には興味無い筈だ。

 

 

数十分後、体育館の決闘を見に行っていたクラスメート達がぞろぞろと戻って来た。

 

人権を無視した調査方法をするリボーンの手腕を逆手に取った結果、アスカの目論見は成功したようだ。

 

一番乗りに戻って来たクラスメートに結果を聞けば、原作通りに沢田綱吉が持田剣介に勝ったらしい。

 

 

「おれ、あの人苦手だったんだよねー」

「あぁー、それ俺も思った......」

「あの笹川さんとナルシストの持田先輩が付き合うなんて想像出来るかっての!」

「笹川さんと付き合うなんて可笑しいと思ってたのよね」

 

 

剣道部に所属している男女の生徒数人が愚痴り始めた。

 

新入部員からも遠巻きにされている持田剣介に------同情心は無いが------憐れだと思った。

 

周囲は沢田綱吉を褒めているが、知識保持者からすれば「モブキャラの悲劇」にしか聞こえない結末。

 

丸坊主になって泣いている彼の姿を想像して、少しだけアスカは戦慄を覚えた。

 

持田剣介の一件で、改めてA組により近付かない様にしなければならないと誓う。

 

一歩間違えれば------持田剣介とは違う結末になってほしいが------モブキャラの立ち位置から一気に崩れ去るかもしれない。

 

そして死亡フラグは大幅にアップ。

 

それだけは避けなければならない。

 

内心で誓うと視線を感じた。

 

しかしそれは一瞬だったため視線を向ける前に霧散した。

 

周囲からの視線を考えて見回さず、授業の用意をし始める。

 

最初の授業は理科、球技大会後に姿を消す男の担当する教科だ。

 

関わりたく無いが、あの男の性格からして素行の悪い奴や成績の低い人間にしか目を付けないことを思い出して一安心する。

 

帰宅後の予習復習は大事だと熟々思った。

 

平穏の証拠とも言える正常な思考回路に、あの時感じた視線の違和感を忘れて少し安堵を感じたのだった。

 




アスカはバカではありません。
頭は良い方なんですが、考えなくていい所まで考え過ぎてしまうタチです。
ある意味、残念なキャラなんですよね。
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