少女と廻る非日常   作:鈴本暁生

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春が来ない理由

今日は原作で言う、獄寺隼人が並盛中学校に転校してくる日である。

 

転校生の噂をどこで嗅ぎ付けたのかと言う勢いであっという間に広まった。

 

勿論、A組に帰国子女の転校生が来ると言う情報はC組にも届いていた。

 

獄寺隼人の姿を運良く見かけた女子生徒の口コミで瞬く間に広まった。

 

 

「ねぇ見た?A組の転校生!」

「まだ見てなーい」

「すっごく格好良かったよ!イタリアからの帰国子女って言ってたけど、本当にTHE本場って感じね!」

「え!今から見に行ってくる!!」

 

 

普段はそこまで関係を持たない他クラスとの女子と連携を取るのだから「イケメン」とは凄い効果だ。

 

明日か明後日辺りにはファンクラブが出来上がるだろう。

 

しかし「帰国子女」と言うと美少女しかイメージ出来ない。

 

単庫本なら幾つか思いつくのだが、マンガではあまり出てこない気がした。

 

趣味が偏り過ぎているだけなのかもしれないと、アスカは横目で観察してそう結論づけた。

 

 

「あぁ~.....めっちゃ、かっこいい.......」

 

 

獄寺隼人を見に行って来たのだろう女子(モブ)が頬を赤く染めながら教室に戻ってきた。

 

便乗して様子見するべきだろうか。

 

やや危険性は上がるが、一般の女子生徒を演じるには必要な気がしてきたアスカだが止めることにした。

 

理由は単純、"好み"でも無ければ"そういう"キャラじゃない。

 

アスカは容貌より性格=美声.........つまり「隠れ声フェチ」だった。

 

しかし他にも理由はある。

 

範囲は分かっていないが、山本武のファンクラブが大半を占めていることは知識で知っていた。

 

勿論C組にも山本武のファンクラブに所属するものは多数を占めている。

 

獄寺隼人が転校してから、半分はそちらに向かったと予想している。

 

というか、予想しなくても誰か見ても明らかだろう。

 

アスカは委員会を除けば特定のグループに所属したことがない。

 

交友グループも然り、部活も然り、ファンクラブも然りだ。

 

「山本武ファンクラブ」に入らなければ、これから出来上がるであろう「獄寺隼人ファンクラブ」も入るつもりはない。

 

無理に入って「きゃー」などと奇声を上げるのも性格上不可能に近く、それ以上にファンクラブに入ったことを家族に知られる(・・・・・・・)と言う状況を作り出したくなかった。

 

よって、今回も烏合の衆作戦に出たのだった。

 

ふと、アスカは手に持っていた本から視線を外して窓の外に向けた。

 

窓の席に座る方々は、テスト後は不憫な思いをする羽目になるのかと少し同情した。

 

テストは嫌だが、受けなければ将来に響くと考えるとその考えは勝手に治まる。

 

が、爆音の中で授業するのは流石に嫌だと断言出来なくもない...........窓から離れた廊下側で良かったと心底思ったのだ。

 

 

 

 

ちなみにテストの手応えは何時も通りに近く、何度も見直したので問題無いだろう。

 

こう見えてアスカは頭が良かったりするのだ。

 

途中で爆音とダイナマイトの震動が伝わってきたが、授業に差し支えるほどでも無かったため教師も仕切り直していた。

 

......この学校の教師のメンタルは日々成長していっているようだ。

 

どちらにしても嬉しくない方向に、だが。

 

 

「アスカ、テストの方はどうだった?」

 

 

夕食中、向かい側に座っているアスカの保護者・真護(まもる)そうやはふと思い出したように聞いてきた。

 

このタイミングでテストの事を話題にするのは確信犯かとツッコミを入れたいアスカ。

 

だが、今回は分からない所はあまり無かったので------お駄賃の前払いだろうが知らないが------取り敢えず「問題無い」と答えておいた。

 

 

「全部書けたんだろう?」

 

 

無言で頷けば、あの人は嬉しそうに微笑んだ。

 

家族もなく身寄りのない幼い私を引き取り、緒方家の家事全般を引き受けるのは主に目の前の彼だ。

 

派遣型の海外企業で働く彼は多忙な日々を送っている。

 

不安要素はできるだけ無くしておかなければならない。

 

頭の良いアスカなりの不器用な配慮である。

 

 

「テストの結果が楽しみだな」

 

 

蕩ける様な笑みを浮かべる彼に、正直期待しないで欲しいとアスカは内心で冷や汗を流す。

 

彼は決して「ドS」な思考回路ではない。

 

ただ、結果がもし残念だった場合アスカ自身が苦しい思いをするから止めて欲しかった。

 

だが、そんな事を口に出せる訳もなく黙々と食事を取るしかなかった。

 

漸く話題が尽きたと思ったアスカは、水の入ったマグカップの淵に口を付けた瞬間だった。

 

 

 

 

「もう友達はできたか?」

 

 

その一言を僅か0.1秒で理解したアスカは、ほぼ条件反射で咽せた。

 

ゴホゴホッ.....と片手で口を抑えながら咽せるアスカの向かい側で、苦笑しながら慣れた手つきで噴き出してしまった水を台ふきんで拭いていく彼に思わず視線を投げ掛けた。

 

投げ掛けたと言うより、睨み付けたと言った方が正しいだろう。

 

実際にアスカの視線はそちらの方に近かったのだから。

 

 

「その様子だといないのか」

「.......まだ、入学式から二ヶ月しか経ってない」

「そんな事も無い。ご近所さんの娘さんなんかファンクラブに入ったって聞いたぞ?それに、『かっこいい帰国子女の転校生』が来たって言っていたからな」

 

 

その情報網は井戸端会議で得たものとは思えないほどの拡散率だ。

 

やはり近所の同年代に同中がいるとなると情報も早く拡散しやすいのかもしれない。

 

昨日転校してきた筈なのに広まるの早くないか、と言うツッコミを今更してはいけない。

 

 

「聞いた話だから信憑性湧かないが、実際の所どうなんだ?」

「興味ないから見に行っていない」

「.........別に好きになれとは言っていないが、枯れ過ぎるのも良くないぞ?」

 

 

たとえ天変地異が起きたとしても、意識もしなかったし興味無かった。

 

後は死亡フラグを建たせたくないと内心で呟く。

 

見たと言うより、原作知識で知っているから見なくても特定出来ている。

 

進んで死地に向かう様な自殺行為をする人間などいないだろう。

 

なぜこのタイミングでそんな話を切り出す彼に疑問を抱きつつ御馳走様をした。

 

食器を片付け、リビングでのんびり緑茶を飲む。

 

食後の緑茶は胃の中を綺麗にしてくれる効果を持っている。

 

苦い味だが慣れれば美味しく感じてしまうので、小学校から飲み慣れたアスカにとっては美味しい飲み物に変わりなかった。

 

部屋に戻って、充電を完了したウォークマンを取り出して曲を選択する。

 

お気に入りの曲を選択すると、小さな本棚から新作の小説を取り出し、ベットで楽な体勢を模索する。

 

無難な体勢になると読書を開始した。

 

こうなると、アスカは就寝時間までずっと読書をしている状態だ。

 

今日も原作キャラと遭遇しなかっただけ良しとしよう。

 

平穏な日々を満喫する反面達観し過ぎる感性の所為か、恋愛方面に全く縁もなければ興味もないアスカだった。

 




モテない訳じゃない。
アスカへの愛情が重過ぎる過保護な真護により排除されているだけというものあるし、目立ちたくない本人が周囲に地味(空気)な印象しか与えていないからである。
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