少女と廻る非日常   作:鈴本暁生

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飛べないヒーロー

テストは予想通りの点数を取れてまず良かったと安堵する。

 

心配していた根津銅八郎(ねづどうはちろう)からの嫌味攻撃は受けずに済んだ。

 

赤点を取った者はもれなく補習行きとなるのだが、それも回避されたので良しとしよう。

 

アスカの学校生活は順調な切り出しだと言っても良い。

 

今日は6月28日、山本武の自殺未遂事件の要因となる骨折が起こるイベントだ。

 

但し、違うクラスなので接触も無ければ遭遇もない。

 

A組を無視して普通通りの生活を送っていれば、巻き込まれずに済むイベントである。

 

アスカは今日もA組に近寄らない努力を惜しまなかった。

 

テストも終わって、このクラスの恒例化?に早々なりそうな「席替え」が行われた。

 

担任・白澤匠(しらさわたくみ)の性格からしてそれを容認したか不明だ。

 

だが、基本的担任の決めた何かしらの基準線を超えなければ自由に意見なり行動なりしてみろと言う感じだろう。

 

普段から授業妨害する生徒は片っ端からチョークを投げつけたり、放課後に廊下掃除をさせたり、用務員の仕事を手伝わさせたり.......学校側も容認している事には驚いているが、最近の体罰問題に触れないかギリギリで罰を与える担任もある意味「度胸あるな」と感心してしまった。

 

そんな感じで席替えは基本的男女に分かれてくじ引きで決める方式だ。

 

時間は担任が受け持つ英語の時間の残り十数分で決めることとなった。

 

結果的にアスカは一番後ろの窓側の席を引き当てた。

 

前回も一番後ろの席で廊下側だったのだが、視力の方が1.0を切っていないので問題無かった。

 

荷物を入れた鞄を持って席を移動すると、丁度授業の終了予鈴が鳴った。

 

次の時間は国語だったのでこのまま教室で待機の筈だ。

 

ちなみに今日も授業妨害した(と判断された)生徒は担任から有り難い呼び出しを喰らっており、その背中には哀愁が既に漂っていた。

 

周囲は哀れみの視線を向けていたが、本人達の自業自得なので声をかける者はいなかった。

 

 

とても平和だった。

 

今日の最後のA組の授業はどうやら体育だったらしく、原作通り野球だったのを窓側から観察した。

 

今日はやけに静かだと思ったが、獄寺隼人が不在のイベントなのだから仕方無い。

 

彼は確か代名詞であるダイナマイトの調達の為に不在なのだ。

 

沢田綱吉からすれば、一時の平穏が訪れたものだ。

 

しかし彼は壊滅的に球技系はダメなようだ。

 

他のクラスメートが決まっている中、一人だけポツンと真ん中に佇んでいた。

 

「ダメツナだから」と言う理由だけで疎まれている図を改めて見ると、何だか憐れに見えてきた。

 

あ、片方のチームの一人が声を掛けて来た。

 

この距離でも、原作で分かっていたが声を掛けたのは十中八九山本武(やまもとたけし)だろう。

 

A組の人気者、所謂「ヒーロー」。

 

野球部の期待の星と言っても過言では無い、一年エースである。

 

中学生にしては大柄な身体付きは、大勢に混じっていても、遠くから見ても、目立っている。

 

性格は海のように寛大で物事の全てをアクティブに解釈する楽天家。

 

且つかなり天然気質で、空気を読まない頓珍漢な発言をすることもある。

 

身体能力も高く、リボーンから「生まれながらの殺し屋」と評されるほど。

 

アスカが最も警戒しているのはリボーンと沢田綱吉だが、その次に警戒しているのはこの山本武だ。

 

山本武の気さくさと言うのはアスカにとって致命的だ。

 

A組だけでなく、他のクラスにもその気さくさは発揮され、誰とも仲良くしてしまう。

 

初対面だろうと話題に出ている人と会えば、高確率で声を掛けられてしまう可能性を恐れている。

 

初対面の相手とも気さくに声を掛けられる恐怖を常に意識して表情筋が強張るくらいとても警戒していた。

 

ちなみに獄寺隼人はダイナマイトと天才的な頭脳を持つ厄介な人物に変わりないが、直接的に関わらず遠巻きにしていれば問題無い。

 

沢田綱吉関連で関わらなければもっと安全だ。

 

図書室に時々通っている為、接触する危険性もあるが訪れる日を決めているらしく、幸いにもその日の当番では無かったのだ。

 

気がつけば授業終了の鐘が鳴った。

 

号令を掛けて挨拶して、帰りの支度をする時ちらっと外の方を見た。

 

どうやら原作通りに彼の入ったチームは負けたらしく、トンボを押しつけられた彼がグランドに佇んでいた。

 

端から見るとただのボッチだ。

 

もう少しで『ヒーロー』が来るだろうから待っていろ。

 

他クラスのアスカには他人事のように見ていた。

 

......ここまで思考が回って気付いたアスカの顔色は徐々に青白くなっていく。

 

 

「........あ」

 

 

明日の日直は、誰が(・・)やるのかを......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突だが、アスカはヒーローは憧れている内が一番の華だと思っている。

 

なってみても絶対碌な事が無いって思うのだ。

 

周囲に好かれるヒーローって結構素敵じゃないかって?

 

世間体や一般の子供はそういう印象だろうし、ヒーローを信じる大人もそういう考えもあれば違うかもしれない。

 

だから山本武がいい実例だ。原作知識を持っているからこそ分かった。

 

 

......好かれるのは、あくまでもその人自身では無く『ヒーロー面を出す人物』だ。

 

 

『ヒーロー』にこだわっているあの男はそんなこと承知の上だろうか。

 

そこまでこだわる理由など知らないが......幾ら天然でも気付いている筈だろうにとは思った。

 

自分ならば今のままが良いと即答すると断言出来る。

 

少なくとも、頑張ろうと思った分だけ努力した挙げ句に自分じゃない「ナニカ」が好かれると言う状況にはならない。

 

そもそもそれ自体が耐えられない。

 

この性格と言動と態度故に、好かれるとは最初から期待していなかった。

 

被っている皮を好かれて、自分が好かれていると思う勘違い系馬鹿にはならずにすむ。

 

アスカの場合、素でやっていることを利用して現状を保っているので、"被っている皮"云々の話以前だろうが。

 

ヒーローの皮を被ってきた山本武は、今日の内が限界(タイムリミット)だろうと分かっていた。

 

そして、原作通りの結末になることを願った。

 

同級生としてもそうだが、彼らが原作通りに進むにあたって死んでもらっては困るのだ。

 

だからこそ、沢田綱吉には頑張ってもらわなくては非常に困るのだ。

 




談でもなく本気だ。本気と書いて「マジ」と読ませるくらいアスカは至極真面目に神頼みをしていた。
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