「いっ、つぅ……!」
本日の出先で負ってきた怪我を処置してもらいに医務室に来たのだが、うむ、来る時間を間違えた。
「我慢してください。すぐに終わります」
と言われても、縫合寸前の裂傷とその傷口に容赦なく処置を施していくのに痛みが伴わないわけがなく。
「う、ぐぅ……」
「まったく。仮にも数々の修羅場を潜り抜けてきたマスターなのでしょう? しっかりなさい」
「うへぇ……」
うちのサヨナキドリ殿は、少しだけ手厳しい。
*
「彼女にも困ったものだよねぇ……」
苦笑しつつ、サヨサキドリ殿――フローレンス・ナイチンゲールが施してくれた処置の上から治癒魔術をかけてくれるロマン。
途端に痛みが和らいでいくのを感じつつ、首肯する。
「召喚直後に医務室を占拠して自分好みの内装に変えちゃうとこから始まって、ロマンが抜けてる隙を縫って医務室に居座っちゃってるしな。まぁ、らしいっちゃ、らしいけど」
なにせ、あのナイチンゲールである。
しかもバーサーカークラス。話はそれなりに通じるのだが、やはり狂化スキルの影響というのは大きいらしい。
にしても、こうして魔術で傷を治してもらってると、ナイチンゲールと彼女が時間を割いて施してくれた治療に対してなんだか申し訳ないような……。
「まぁ、君に関しては治癒魔術で早期完治させてしまわないと、カルデア自体が回らないからね。気持ちはわからないでもないけど、仕方ないよ」
またも、ロマンは苦笑していた。
彼の言うことも最もだが、いや、完全に俺の気持ちの問題であるし、ここで言っても栓ないことだな。
「じゃあ、後でフローレンス女史になにか贈り物でもしてみたら?」
「贈り物?」
「ああ。彼女、医療に携わることを自分から使命として己に課している節があるだろ?」
節、というか、事実そのとおりだ。
だからこそ、彼女は二年間の戦いを生き残ったあとも医療に携わり続け、大きな成果を残せたのだから。
「じゃあ、そこに誰かからの感謝があってもいいよね」
今度は苦笑ではなく、優しげな笑みを浮かべるロマン。
なんだ、そういうところはちゃんと大人っぽいのか。
「まぁ、今までも感謝がなかったわけではないだろうし、むしろそういうことも慣れたものかもしれないけど、」
最後にまた苦笑したロマンは、こう言い残した。
――――でも、やっぱりありがとうって言われるのは、嬉しいことだろうしね。
*
「フローレンス」
「あら、マスター。なにか用ですか?」
「まぁ、ちょっとな」
ちょいちょいっと手で招くと、首を傾げながらも素直についてきてくれる。
目的地に着くまでも幾度か、真意を問われるも、そのすべてをのらりくらりと躱し続ける。
そして辿り着いたのは、俺の部屋であった。
「マスター。本当に、どうされたのですか?」
またも流して、そのまま彼女を部屋に招き入れる。
未だ訝しげにする彼女を備え付けの椅子に座らせて、背後に回りこむ。
「マ、マスター……?」
「動くなって」
「いえ、あの、これは……」
用事をすませて、彼女の頭を一つ撫でてから、鏡を持って今度は前へ回りこむ。
そして、鏡で彼女自身を見せてやると、数瞬固まって、おもむろに照れだす。
「似合ってんな」
「マ、マスター……」
「ジャンヌに付き合ってもらって、ちょっと練習したんだ」
「そう、なのですか……」
「シニヨンハーフアップ? だっけか。でも、まぁ、可愛いじゃん」
「うぅ……」
鏡には、いつもの三つ編みではなく、カジュアルな感じにまとめられた髪をしたナイチンゲールが写りこんでいた。
「こういったことは、その、治療の妨げになるので……」
すぐにでも解きにかかった彼女に、そうさせないために、言葉を投げる。
「治療とか、その他のこともだけど、いつもありがとう。助かってる。その髪飾りは、ほんの気持ちだ。持っといてくれ」
それだけ言って、すぐに部屋を出る。
これでも俺は結構羞恥心の強いほうなのだ。
*
「……これは、少し、困りました。治療の妨げに……いえ、せっかくですし、このままでも……でもやっぱり、うぅ……」
部屋に一人残されたナイチンゲールの頭上に、白いアルストロメリアの花飾りが一つ。
その凛々しさを誇るかのように、ライトに照らされていた。
これにて、主要パーティ三名が出揃いました。
完全無欠の脳筋パ。辛うじてナイチンが命をつなぎます。あるいはすぐさま全滅します。
マシュは支持担当のマスターと一緒に後方待機です。