おいでなさいませ、血霧の里へ!   作:真昼

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一人称の作品を無理やり三人称に改定しているので、なんか文章が変になってる気がしないでもない。



アカデミー編 第三話

「ん~医療忍術ね……。確かにユキトのチャクラコントロールならできるかもね」

 

 あの悪夢のような卒業試験を目にして、ユキトは少しでも新しい力を得るために満月に相談していた。

 新学年になり、一つ学年が上がったが習う内容は既に覚えている内容でありユキトや満月はすでに扱えるものであったのも理由だ。このままでは生き残れない、そんな焦燥感からユキトは当初考えていた医療忍術に眼を付けた。

 

「あぁ、それで誰か教えてくれそうな人を紹介してくれないか? 名門の家なら人脈もあるだろう?」

 

「ボクの家は治すより殺す専門だからね。ボクに心当たりはないな」

 

 やはりというべきか、医療忍術の使い手というものは中々お目にかかれないかとユキト落胆した。そもそもこの世界には医療忍術を専門とする学術施設は無い。医療忍術を覚えたいのであるなら、代々その術を専門にしている家系か、既に習熟している者に弟子入りするかのどちらかである。

 勿論、ただの村人出身のユキトにそんなコネは無く、満月に相談したのもそれが理由であった。

 そして答えは満月の家系は治すのとは真逆の性質を持っている家で医療忍術とは無縁の家でもあった。満月の話を聞く限りでユキトも半ば予想していたことでもあった。

 しかし、満月の言葉はそれだけでは終わらなかった。

 

「まぁ、今回ユキトに強くなってもらおうとして、発破かけたのはボクだし。今度の休みの期間に色々とボクの実家の知り合いに当たってみるよ」

 

「すまない」

 

「アカデミーなんていうつまらない中で、ユキトとの戦いは唯一の楽しみだからね。ユキトには強くなってもらわないと」

 

 満月の強い者と戦いたいという、ユキトが少し引くような理由でユキトの願いは叶うかもしれなかった。

 

 

 

 結局、ユキトたち二人は特にお咎めなしだった。本当にあの場で二人に気づいていたのは、あの二人だけのようだ。

 

 ユキトは無事に今期のアカデミーを次席の成績で修了した。主席は満月が取り、非常に珍しい飛び級二人によるワンツーフィニッシュと相成った。来期のアカデミーが始まるまでは休みなので、ユキトは一度実家に帰ることにした。

 実家に戻ったユキトはアカデミーで習ったことや行ったことを両親に報告したりした。ただし、あまり暗い話を除いてだ。それはユキトが両親に心配をかけたくなかったという事が大きい。半ば自身の意思で無理やり入学したのだ。もし、危険な場所という意識を持たれたら、連れ戻される可能性があるとユキトが考えたためだ。しかし、霧隠れの里のアカデミーは危険ということは水の国ではそこそこ有名であり、両親は既に知っていたことをユキトは知らない。

 霧隠れの里の名物の水まんじゅうもお土産として渡し、後は実家の傘づくりを手伝ったり、親孝行をなるべくするようユキトは休みの期間を満喫していた。

 もちろん、休みの間も修行はかかさない。里の中ではないので、派手な忍術の修行はできない。よって基本となる体術やチャクラコントロールの基礎訓練を徹底的にやった。影分身には滝登りの修行をひたすらたやらせ、本体の俺は体術の訓練を行う。

 特に体術は重要だ。これの練度で生死が分かれるだろう。いくら、忍術が強くても当らなくては意味がないし、忍術を素早く発動できなければもっと意味がない。原作でも、いくら忍術ができた人が、最後に体術でひっくり返されたりしていたことをユキトは掠れいく記憶から思い出す。

 休みの間は徹底的に体術を磨き、自分を苛め抜いた。ユキトはよく漫画であるような、重しを付けた修行もしてみたかったが、もしかしたら背が伸びなくなるんじゃないかという危惧が浮上したため、それはやめた。その代りに抵抗の多い水の中での修行をやるようにした。これは体術の修行になるだけではない。この国と周りの国には水辺が多い。任務に出たとしても、当分は近場での任務になるだろうからやっといて損はないだろう。そして、休みがそろそろ終わる頃、ユキトは家を出発した。

 

「親父、母さん。行ってきます」

 

「ちゃんと、無事に帰ってきてね。行ってらっしゃい」

 

「いつでも、戻ってきていいからな。体を大事にするんだぞ」

 

 

 そして、霧隠れの里に戻ってきたユキトに、満月が朗報をもたらした。なんと、医療忍術を使うことの出来る人が紹介できるという話だ。

 

「まぁ、正確には医療忍者ってわけじゃないんだけど、医療忍術が得意な人だって。どうする?」

 

 ―――……医療忍者じゃないのか。でもまぁ貴重な医療忍術を学べるなら何でもいい話だな。

 

 ユキトはそのまま満月に紹介してもらうことにした。満月から鬼灯一族の紹介状をもらい、その人の元へ向かった。

 そして、ユキトはある意味これからの自身を形成する上で非常に大きな人物と出会うことになった。

 

 ―――……とても、マッドな人でした。

 

 勿論、ユキトはその人物と初めて出会ったわけだが、霧隠れの里の名家、鬼灯一族の紹介状のおかげか、ユキトはなんとか教わることができることになった。本来は弟子を取るつもりなんてさらさら無かったらしい。流石は名門、この里ではとても影響力があるとユキトは心の中で満月の家に感謝した。そして、ユキトは医療忍術を学び始めた。

 

 ユキトがその人物に師事をしてから最初に行ったことは、修行でも何でもなく、とある丸薬を食後に食べるようにする事だった。その丸薬を食べた後は体調が悪くなる事が多かった。後からユキトが聞くと、毒の耐性をつけるために少量の毒と解毒薬が入っていたらしい。これを毎日3回食後に摂取する、繰り返すことで毒の耐性をつけるとのことだ。

 

 ―――ハンター×ハンターの某殺し屋みたいな事しやがって……。あのマッドめ。

 

 ユキトがマッドという呼ぶこの人物は医療忍術は確かに使えるし、腕もいいだろう。しかし、どちらかというと解剖医という職業に近い。原作でいうと大蛇丸のような存在である。

 

 ―――マッド自身が切り刻むことが趣味だし、そこらへんはこの里らしい。

 

 ユキトは毒の耐性をつけつつ、医療忍術を扱うための知識を得るために、ひたすら解剖の手伝いをさせられた。どこに臓器があり、血管が通っているか……。知識で教えるのではなくひたすら実践だ。習うより慣れろとはまさにことのことであった。ユキトも始めての解剖の時は吐いた。基本的に死んでる人間の解剖だったが、たまに生きている他里の忍も解剖しすることもあった。

 死人に口なしという言葉がある。しかし。忍には当てはまらない。忍は死んだとしても色々な情報を持っている。一族特有の術を持つ死体の時には、マッドのテンションが高く。それに付き合わされるユキトにとっては気持ち悪いものだった。

 

 解剖に明け暮れる日々を送っていたユキトが、その間にもっとも多くマッドに言われた言葉は。

 

「観察しロ」

 

 という単純な言葉だった。

 

「ケガ人を見たら、ソいつが致命傷かドうか観察しロ。毒ヲ受けたやつがいるなら、毒が回っているかいないかヲ観察しロ。知っている毒か、知らない毒か観察しロ。死んでる奴がいたら、情報ヲ持っているか観察しロ。何かノ手違いで前線で戦うはめになったら、相手ヲ観察しロ。自分がケガしたら治せるか治せないか観察しロ」

 

「木ノ葉ノ里ノね、医療忍者は攻撃ヲ受けてはいけないトいう教えがある。間違いじゃない。間違いじゃないヨ?ただ、ワタシならコう教える。周りヲ犠牲にしてでモ、相手を観察しロ、トね」

 

 ユキトはマッドに助手としてこき使われることで、医療忍術の腕は確かに上がっていった。医療忍術以外にも色々な術をマッドから教えて貰う事が出来た。

 

 ―――……おかげで周りからは俺もマッドな人と見られるようになって、少し泣きそうだ。

 

 マッドから教えて貰ったのは、どれもアカデミーでは絶対に習わないような特殊な術が多かった。例えば、傀儡の術というのがある。本来の用途は人形を動かす為の術である。しかし、一番効果的な使い方は死体を操る時だとして、ユキトはマッドから習う。解剖した死体でその実践もさせられる。その為、傀儡の術というのはそういう術だと、ユキトは認識してしまうことになった。

 もちろん、原作では人形を動かす術だったはずであるが、霧隠れの里だどんな術も血生臭くなる。ある意味とても『らしい』といえるだろう。

 

 また、秘術として、死体の心臓に札を埋め込み自分のチャクラで操る、死魂の術といものを教えてもらった。札なしでも使えるそうだが、札があったほうが長く、正確に操れるとのこと。死体の中に起爆札を埋め込み死魂の術で操作し、敵陣で爆破させるのが有効とのことだ。

 

 ―――……俺は使わないようにしよう。

 

 そう心の中で決意をするユキト。

 そうして、ユキトが本来考えていた以上の血みどろな生活が過ぎて行った。

 

 

「最近のユキトはボクより血の匂いがするね」

 

 嬉しそうな顔をした満月に、そんなことを言われてユキトは心に小さくなくない傷を負う。

 

 ―――何が嬉しくて殺戮中毒(キリングジャンキー)より血の匂いがするとか……。

 

 そんな、たわいもない会話をユキトが満月としていたところ、桃の花をあしらった(かんざし)を頭につけた女の子が話しかけてきた。

 

「アンタたち、教官が私たちを呼んでるからついてきて」

 

 ―――……誰?

 

 

「キミ……。誰?」

 

 満月がストレートに聞いた。知ってる? とばかりにユキトに目線をよこす満月。ユキトも、そんな目線をよこしても俺は知らないぞ、とばかりに肩をすくめる。

 

「はぁ!? アンタたち1年もいて同期の! しかも、同じクラスの人の顔を覚えてないの!!? クラス替えなんてしてないのに!!?」

 

 そう、このアカデミーは模擬試合は同期全体で行うが、座学はクラス単位。そして新しい学年になった後もクラス替えはしていない。でもまぁ知らないものは知らない二人であった。

 

「一々、雑魚の顔なんて覚えてないさ」

 

 満月も当然知らないようだ。そして、開き直ってニヤリと挑発的に笑う。その女の子の顔が朱にそまる。男が笑って、相手が顔を赤くする……。

 

 ―――これがニコポというやつか?

 

 ユキトはほとんど意識を別な所に飛ばし、無駄に変なことを考えていた。満月はどうでもいいとばかりな表情だ。そんな二人の態度に、顔を真っ赤にしながら女の子が叫ぶ。

 

「ア、アタシはこれでもアンタたちに続いて3位の成績だっ!」

 

 目の前の少女にとって、二人の態度はあまりにも有り得ない出来事だった。少女は確かに満月やユキトに劣るものの、その下にずっとつけていたという自負が少なからずあったのだ。しかし、実際に出会い、二人のその態度から『お前なんか眼中に無い』と言われたのも同然だったからだ。

 

「ボクらの下は弱すぎだからね。」

 

「なっ!? ア、アンタたち! 年下でしょう! 年上に対して敬意とかないのっ!?」

 

 ―――アンタ『たち』ってことは俺も含まれてるのかねぇ。

 

 満月と現れた少女の会話を耳にしつつ、ユキトは先ほど飛ばした意識を回収しようとしないで、相変わらずにぼおっと変なことを考えていた。

 

「年下のボクたちより弱い年上に、何で敬意を払う必要があるのさ?」

 

「ッ!!?」

 

 ―――あぁ~あぁ、満月は挑発するのが好きだからなぁ。俺は中身が転生者?で大人だから挑発されても、いつもスルーしてるけど……。この子は反応が良いから、満月の玩具になってるよ。

 

「ア、アンタたちぃ!」

 

 ―――可愛いお顔を真っ赤にしちゃって……。

 

「図星をさされて、怒ってるのかな?」

 

 満月のターンはまだ終わらない。この調子で満月の挑発は続いていく。

 

 

 

 ―――……なんか呼ばれてるとか言ってたし、そろそろ止めるか。

 

 満月がからかい、少女がその度に反応良く激怒するという光景をユキトは何も考えずにひたすら見ていたが、始めに少女が言っていた言葉を思い出して行動を起こす。

 

「はいはい、そこまで。呼ばれてるんだろ?そろそろ行かないと俺たち全員が罰せられる」

 

「フゥー。ここからが面白いところだったのに」

 

「アンタたち覚えてなさいよ!」

 

 俺もか、俺何も言ってないのになぁと、ユキトは内心で溜息を吐きつつ、だからといって突っ込めばさらに話が進まないのは明白であった為、とくに反応しないで事を進める。

 

「さぁ、さっさと教官のいるところまで、案内頼むよ。年上のキミ」

 

「っ!」

 

「……満月。」

 

「はいはい、わかったよ。相変わらずユキトは事なかれ主義だねぇ」

 

 とりあえず、場は落ち着いた。

 

「アタシは於保花霧豆美(おほかむずみ)。さっきも言ったけど、アンタたちに続いての成績よ。それで、アタシたちが呼ばれてるってことは、学年の上から3番目までを呼んでいるってことね」

 

「ふぅん、何の用事かな。楽しめればいいんだけどね」

 

「俺は面倒事じゃなければ、なんでもいいよ」

 

「じゃあ、ついてきて」

 

 そういって、3番目の女の子は行こうとする。……が、いきなり二人の方を振り向くと。

 

「あ、アンタたち。アタシを呼ぶときは呼び捨て禁止ね。仮にも年上なんだから、さん付けするように。ムズミさんとかムズミ姉さんとか呼びなさい」

 

 すんごい嫌そうな顔をする満月。

 ユキトはもう面倒くさいので、投げやりで返した。正直これ以上、巻き込まれたくないというのが率直な感想であった。

 

「わかりました、ムズミ姉さん。だから早く教官のところへ行きましょう」

 

 ユキトがそう返したところで、気分を良くしたのか、ムズミはムスっとした表情から普通の表情に戻った。そして、教官のところへ行こうとする。

 

 ―――……あれか、年上ぶりたいお年頃なのだろうか。うん、きっと、お姉さんぶりたいのだろう。

 

 勝手に納得し、ムズミについていく。

 

 満月は嫌そうな顔をしたまんまだ。

 

 

 

 

 そして、教官がいる場所、それはアカデミーの校長室であった。木で出来た両開きの扉には、左右に額当てがある忍者が控えていた。ユキト達三人を見やると、持っていた資料で確認を行う。それぞれが軽い確認を取った後、忍が無言のままドアを開ける。

 校長室の中は一番奥に校長用の机があり、その前には本来なら応接用のソファーがある筈であったが、今は片づけられている。壁際には相応の値段がするであろう調度品の数々。だからといって主張するわけでもなく、威厳として成り立っていた。ユキトは校長室に入るのは入学した時以来であったが、その時と違い中にはそれなりの人数が居る。その為、一時的にソファーは片づけられたのであろう。

 そこにはユキト達の担当の教官だけではなく、他の学年の教官も全て居るようだ。そして、この部屋の主であるアカデミーの校長までいる。校長の隣には百戦錬磨と思わせるような忍が佇んでいる。つまり、この場にはアカデミーの中において権力がある者達が勢ぞろいしている形である。他にもアカデミーの生徒たちも何人か集まっていたが、あまりにもの雰囲気に押されているようであった。

 場は重く、近づくとピリピリしたような肌が居たくなるような空気が横たわっていた。

 

 ユキト達三人が校長室に入ったことを確認した教官の一人が一度校長の方に目線をやり、校長がうなずく。今からこの召集について説明されるようだ。

 非常に厄介ごとの予感がすると、ユキトの第六感が。楽しい事が起きそうだと、満月の第六感が其々つげている。少女は何が起きるのかよくわかっていないようだ。

 

 教官が口を開く。

 

「去年度の卒業試験のことは皆、知っているな?」

 

 去年度の卒業試験……、つまり再不斬先輩の事件である。結局あの事件は、知っている人は知っている程度の箝口令がしかれた。アカデミーの生徒でも情報通やトップ成績の人たちは知っているレベル。つまり、この里の卒業試験の実態を知っている人は事件のことも知っているってところである。

 校長の隣に佇んでいる忍がアカデミー生たちの顔色を素早く探る。この程度の情報収集は出来ているのか出来ていないのか。

 ユキト達の方にも目が追ってくる。視線は素早く逸らされたが、既にユキト達が情報を知っていると判断されたのだとわかった。あくまで、その情報を知っているかということを確認されただけとユキトは信じたかった。まさか、あの一瞬で例の卒業試験の場に居たことまでばれていないだろうなと、内心焦る。

 

 この場に居るアカデミー生は知っていると判断したのか、教官がそのまま続ける。

 

「本来、複数人合格する予定の試験が、たった一人しか合格者が出なかった。そのため本来、新米の忍がやる任務に支障が発生している」

 

 ―――やっぱり、忍不足が深刻化しているのか。ただでさえ、第二次忍界大戦が終わったばかりなのに、各国の国境付近で長引く戦いが次第に戦火を広げている形だもんな。おかげで忍がぽんぽん死んでいく。マッドの所の仕事が多くなるわけだ。おかげで俺は血の匂いが取れなくなってきてるしな……。泣きそうだ。

 

「そして、幹部たちが話し合いとある政策が決まった」

 

「こちらが選抜したアカデミー生に実地研修ということで任務をこなしてもらうことになった。その際、任務をこなせば給料も支給する」

 

 ―――アカデミー生に依頼を持ってくるとかどんだけ人不足なんだよ……。

 

 そこで、今まで殺伐としていて、一言も声を出さずにいた一人の先輩が手をあげて質問をした。

 

「質問があります。それは私たちは繰り上げ卒業ということでしょうか?」

 

 ―――飛び級の繰り上げ卒業はエリートの証だもんな。目をキラキラさせちゃって……。

 

「いや、あくまで実地研修という授業の延長という形となる。しかし、貸出という形にはなるが額当ても支給される。任務が終わると回収されるがな」

 

「チームに関しては、本日呼び出した時のメンバーとする」

 

 ―――つまり、俺たちのチームは俺、満月、ムズミ姉さんの3人か。ムズミ姉さんの実力がわからないけど、俺と満月だけでも簡単な任務はこなせるはずだ。とりあえず、後からムズミ姉さんの実力を測るために組手でもするか。

 

「任務に関しては来週からだ。任務が発生した時には、各々の担当教官から伝達される。以上だ。何か質問があるやつはいるか?」

 

 誰も質問をしない。

 

「では、解散」

 

 

 

 ユキト達3人は空いてる演習場までやってきた。ユキトと満月がムズミの実力を知るためだ。その、本人であるムズミは興奮している。

 

「これは、チャンスよ! ここで功績を出せば、繰り上げ卒業で忍になれる可能性があるわ!」

 

 ―――まぁ気持ちはわかるけどね。とりあえず、そんな功績を残すような任務は俺達のような、たかがアカデミー生に回ってこないと思うんだが……。

 

「まぁ、それは置いといてムズミ姉さん。とりあえず各々何ができるか、何が得意か、苦手なものは何かしっかり把握しよう」

 

 俺と満月に関しては何ができるかほとんど知っているため、実際はムズミが何をできるかを把握するためだったりする。

 

「俺の場合、体術とチャクラコントロールは得意だ。忍術に関してはアカデミーで習うやつは全て使える。他に応用の分身の術、まだ使い慣れてないが水遁系の術を少し扱える。これも修行中だが、一応医療忍術も使える。幻術にかんしては、基本の金縛りの術に魔幻・奈落見の術だな。これぐらいだな」

 

 ムズミは目を見開いてユキトを見ている。

 

「ボクの場合は体術と水遁系の忍術が得意だよ。水遁系の忍術は下手な下忍や中忍にも負けないと思う。あと、鬼灯一族特有の術も使える。幻術はユキトと同じぐらいかな。あぁ、もちろんアカデミーで習う基本の忍術は全て使えるよ」

 

 ムズミは驚いて声が出せないようだ。

 

 

「な」

 

「「な?」」

 

「な、なんでアンタたちそんな高等な忍術使えるのよ!? 医療忍術に性質変化!? アカデミーのレベルじゃないわよ! アンタたち本当に5歳なの!?」

 

 ―――おぉっと地味に俺の本質をついている。

 

「それだけボクたちには才能があるということさ。もちろん修行もかかさないけどね」

 

 満月がニヤニヤしながら、挑発するようにムズミの方を見ている。

 

「そ・れ・で、『年上の』ムズミさんは何が使えるのかな?」

 

 笑いながら満月がムズミに尋ねる。

 今の反応からできることなんてたかが知れてるだろうとユキトは把握した。そんなにいじめなくてもいいだろうにと、内心で今日何度目かの溜息をついた。当分はこのチームで動きそうな上に、ユキトはからかいをある程度スルーするので、満月にとってからかう対象ができて楽しいのだ。

 

「う……、アカデミーで習う術は一通りできるわよ!」

 

 

 ……場に沈黙が下りた。

 

 つまり裏を返せば、アカデミーで習う術以外は出来ないと言っているようなものである。満月もここまでひどいと思ってなかったのだろう。珍しく表情が固まっている。ユキトは自分達の学年のレベルを大体は把握していたので、そこまで驚きはしなかったが。

 

「っていうか! 普通は来年や再来年アカデミーで習うはずの忍術を、予習して使えるのはすごいはずなのよ!?」

 

「そんなこと考えてるからボクたちに勝てないんだよ」

 

 

 ……二度目の沈黙が下りた。

 

 ―――満月、ストレートに言い過ぎだ。

 

「あ! あと木登り業はできるわっ!」

 

「ボクは水面歩行の業まで、ユキトに関しては滝登りの業までできるよ」

 

 ……撃沈。5歳の子供二人にへこまされる7歳の女の子の図がそこにはあった。

 

「フゥー。これは完全に足手まといだね。ユキトどうする?」

 

「さて、どうしたものか。ムズミ姉さん、他には何か使えないのか?今、練習中の術でも何でもいい」

 

「ぇ、えーと……。まだ全然使いこなせてないんだけど、感知の術を練習中よ」

 

「へぇ……?」

 

 感知の術は本人の生まれ持った性質に左右される所がある。ユキトと満月は感知に関してはあまり得意ではなかった。満月が馬鹿にしたような顔から変化した。これは、少し使えるかと考えを改めたのかもしれない。

 

「ムズミさんには、アカデミー終了後ボクらと修行をしてもらう。足手まといは要らないからね。そうだね……、来週までに感知の術を使えるようにしてもらおうかな」

 

 ―――おぉ結構、無茶な要求な気もするけど。ムズミ姉さんもやる気なようだ。うなずいているし。

 

「あとはそうだね、水面歩行の業をやりつつ、性質変化の術をいくつか覚えてもらうか」

 

 満月がどんどんムズミの修行を組み始める。しかし、そこでユキトに余り知らない単語が混ざっていたのに気づく。先ほどムズミ姉さんも言っていた性質変化という言葉だ。原作でなんか見た気もするんだけどなとユキトは考えこむ。

 

 ―――チャクラの属性だっけか? 満月に聞いて、ちゃんとした情報を確認しとくか。

 

「満月センセー。質問でーす」

 

「なんだいユキト? 今、色々ムズミさんの修行を考えているところなんだけど」

 

「性質変化ってなんだ?」

 

 ……都合何度目かの沈黙が下りる。呆れと驚きを混ぜ合わせたような表情で俺を見る満月とムズミ。

 ユキトはそんなに変なことを言ったのか? と急に不安になってきた。

 

「……まさか知らないで使ってるとはね」

 

「ってことは、すでに俺が使えてる術なのか?」

 

 満月は少し苦い顔をしている。

 

「ああ、水遁系の術が当てはまる。軽く説明すると、チャクラにはいくつかの種類の性質があるんだ。火・風・雷・土・水といったようにね。だいたい皆それのどれかに当てはまる性質のチャクラがあるんだよ」

 

 ―――ふむ、だいたいうろ覚えの通りであってたか。水遁が使えてるから俺は水なのかね。

 

「そうか、てっきり水遁を使えるからユキトは水の性質だと思ってたよ。ムズミ姉さんの件もあるし、これは一回調べなおしたほうがいいな」

 

「明日、アカデミー終わった後、またここで修行をしよう。その時に二人には自分の性質を調べてもらうよ」

 

「わかった」

 

「わかったわ」

 

 今日はこれで解散となった。

 

 自分の性質を知ること。来週から始まる実地研修。

 

 それらが事なかれ主義のユキトに新たな波紋を浮かべる事になるとは、今のユキトには知る由もなかった。




おかしいな……。一話5000文字程度の話が改定すると倍以上になってる。

次も早めに更新出来ればいいな。時間がなぁ……。

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