残念な事に初バトルのヤヤコマに逃げられたユリーカとデデンネはそのまま四番道路を進んでいた。
地図通りではもうすぐでハクダンシティ到着である。
ただ……。
「んー! 疲れたー……」
「デネデネ」
デデンネもそうだと言わんばかりに首を縦に振る。
ミアレシティを出発して数時間、太陽も真上を通り過ぎていた。
「ちょっと休憩しよっか?」
「デーネ!」
休憩と言う単語にデデンネの顔もほころびる。
「出ておいでツタージャ!」
「タジャ」
モンスターボールから出て来たポケモンはプラターヌ博士からもらったイッシュ地方のポケモン、ツタージャだ。
まだ出会って少しだが冷静な性格をしていると分かった。どうやら♀のようだが彼女(?)の雰囲気とミスマッチしてクールな印象を抱かせていた。
ユリーカとデデンネ、ツタージャは木陰に座って休憩を取る事にした。ユリーカはカバンから水筒とミアレガレットを取り出し、それらを三人分に分けた。
「いただきまーす!」
勢い良くミアレガレットに噛り付く。口一杯に甘い味が広がり、疲れた体に良い癒しを与えてくれる。
「うーん! 美味しいー!」
ミアレガレットはユリーカの好物である。ただこの商品は大変人気でありいつも行列が出来ているのだ。
無論簡単に入手できる代物ではない。シトロイドが皆のためにと人肌脱いでくれたおかげなのだ。
「デーネネ!」
デデンネもその前歯でかりかりとミアレガレットを食べている。
ユリーカと共に過ごして来たデデンネにとってもこれは好物の一つである。
「タジャ……」
美味そうに食べるユリーカ、デデンネとは対照的にツタージャは口数少なく黙々と味わって食べていた。ただツタージャの目尻を見るかぎり決してマズイと言う訳ではなさそうだ。
「ツタージャともバトルしたいねー」
まだデデンネしか使っていないユリーカとしては早くツタージャとも一緒にバトルをしたい所だ。
すると、狙ったかのようにユリーカ達は声をかけられた。
「やいやいやいやいやいそこで何か食ってるお前達!」
「デデンネ?」
声のする方に目を向けるとそこには青い帽子を被ったユリーカと同年代ぐらいの短パン小僧がこちらを指さしていた。
「オイラは短パン小僧のキュウタ! お前! ポケモンを連れていると言う事はポケモントレーナーだな!? 目と目が合ったらポケモンバトル! オイラと勝負しな!」
どちらかと言うと目と目を無理矢理合わせて来たに近いのだが。
ただ、これはユリーカにとって嬉しい申し出だった。
「バトル!? 私やりたいやりたい!」
これまで野生のポケモンや他のポケモンとならデデンネと一緒にバトルをした経験はあるがこうしたトレーナーとの対戦は生まれて初めての事だったのでかなりテンションが上がる。
更にツタージャと戦いと思っていた時だった。まさに絶好のチャンスだろう。
「決まりだな!? んじゃ早速行くぜ!」
ユリーカも立ち上がりバトルの準備をする。
「まずはオイラの初めてのポケモン! 行って来いジグザグマ!」
「ジグジグー!」
キュウタの投げたボールから出て来たのはジグザグマだった。
「よーし!」
「デネネ!?」
「ごめんねデデンネ、今度使うのはこの子!」
そう言ってユリーカはツタージャの方を見る。
ふと、頭の中をよぎった物があった。
「一度、言ってみたかったんだよね……!」
ユリーカは親指を前に出して声高々に指示した。
「ツタージャ! 君に決めた!」
それを聞いたツタージャの目つきが戦いの目に変わる。
「タジャ!」
ツタージャは勢い良く飛び出していった。
四番道路を歩く一人の姿があった。
それの視線はすぐ近くで繰り広げられているポケモンバトルに注がれる。
「あれは……」
先手を取ったのはユリーカだった。
「行くよツタージャ! まずはたいあたり!」
「タジャ!」
ツタージャは頷くとジグザグマ目掛けて体当たりしていった。
「避けろジグザグマ!」
「ザグ!」
だがツタージャ渾身のたいあたりはジグザグマのジグザグ移動に躱されてしまった。
「タジャ!?」
「何あれ!?」
ジグザグマの移動に驚いたユリーカはポケモン図鑑を開いた。
ポケモン図鑑から音声説明が流れる。
『ジグザグマ まめだぬきポケモン ジグザグに あるいて くさかげや じめんに うまっている たからものを みつけるのが とくいな ポケモン』
(ジグザグに動く……)
だからあんな避け方をしたのか。
「今度はこっちから行くぜ! ジグザグマずつき!」
キョウタの指示でジグザグマの獅子に力が入る。
「ザグザグー!」
声を上げながらずつきをしてくる。
しかしまたしてもジグザグと不規則な移動だった。
「ツタージャ! 気を付けて!」
「タ、タジャ」
このへんてこりんな動きにツタージャも戸惑っているようだ。
ツタージャも反撃出来ずにジグザグマのずつきをモロに受ける。
「タジャ!?」
「ツタージャ!」
ジグザグマのずつきを食らったツタージャはそのまま吹っ飛んで地面を転がった。
「よっしゃ! 先にダメージを与えたぜ!」
「ザグザグザグー!」
「ツタージャ! 大丈夫?」
ユリーカの問いかけにまだ闘志の残る目でツタージャは首を縦に振って答えた。
ツタージャの無事を確認した後、ユリーカは考えた。
あの変則的な動き、どうすればいい? おそらくまたたいあたりをした所で避けられリのが関の山だ。
「…………あ!」
ここである一つの案が思い付く。
動くのが嫌なら動きを止めればいい。
「うん! ツタージャ! つるのムチ!」
「タジャ!」
掛け声と共にツタージャの方から緑色の蔓がにょろにょろと出てくる。
「な!? つるのムチなんて使えたのかよ!?」
そのつるのムチが素早いスピードでジグザグマに迫って行く。
「ザグ!?」
ジグザグマも驚いて動けなかったのかそのまま体を蔓でぐるぐる巻きにされてしまった。
「や、やべ! ジグザグマ!」
「ザ、ザグ~!」
身動きが封じられて苦しいのかジグザグマは悲鳴を上げた。
ユリーカがツタージャに指示を出す。
「今よツタージャ! そのまま地面に叩きつけて!」
「タジャ!」
ツタージャの蔓がジグザグマを持ち上げ、そして地面に叩きつける。
「ザッ!?」
「ジ、ジグザグマ! し、しっかりしろー!」
キョウタ必死の叫びも届かずジグザグマは何とか蔓を振り解こうとするも振り解けずツタージャの攻撃にされるがままだった。
「ジ、ジグザグマ~!」
「キメるよツタージャ! たいあたり!」
最後にツタージャはつるのムチで思いっきり地面にジグザグマを叩きつけた。
「ザグッ!」
その際の反動でジグザグマが地面から少し浮かぶ。
そこを狙ってツタージャがたいあたりを仕掛けた。
「タジャー!!」
気合のこもった声と共にツタージャの一撃がジグザグマに炸裂した。
「ジ、ジグザグマー!」
キョウタの叫び声が響き渡る。
だがキョウタの声援届かずたいあたりを食らったジグザグマは目を回してその場で倒れていた。
ジグザグマ。戦闘不能。
「やったツタージャ!」
「デネネー!」
「……タジャ」
当然だ。と言わんばかりにツタージャは腕を組んでただ一言そう言っただけだった。しかし頬が赤い所を見るとやはり嬉しいようだった。
「くっそー! ジグザグマお疲れ! よく頑張った!」
「ザ……ザグッ……」
キョウタは戦闘不能になったジグザグマをボールに戻し、ねぎらいの言葉をかけてやった。
「お前中々やるな! だけど勝負はこっからだぜ!」
「勿論! 次のポケモンを出して!」
「デネデネ!」
キョウタが腰に付けていたもう一つのモンスターボールを取り出す。
「こいつは一番俺と付き合いの長いポケモンさ! さあ頼むぞ!」
「へー……あの子達結構やるわね」