ゆかりさまとほのぼのしたいだけのじんせいでした   作:織葉 黎旺

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あめもおもむきがありますね、ゆかりさま

 忙しなく降り注ぐ雨音が耳に響いてくる。庭に目をやると、鹿威しの加減から相当雨が降っていることが伝わってくる。表に出てる藍さんは大丈夫かなー、なんて呑気に心配しながら煎餅に手を伸ばした。

 季節は梅雨。少し蒸し暑くなってきて、雨も降りやすいという割と人に嫌われる悲しい時分。私個人としては、割と好きな季節であるのだが。雨のザーザーと降り注ぐ音も、降る時特有の謎の匂いも、レインコートが雨を弾く感覚も好きだ。久々に、雨の散歩にでも赴こうか……

 

 「それなら一緒に如何?」

 

 いつの間にか隣に座っていた彼女に、是非と返して立ち上がる。レインコートを着込んで表に出ると、心なしか先程よりも雨量が増えているように感じた。

 

 「なかなか趣があっていいわね」

 

 いつも通りの紫のドレスに例の帽子、開いた上等そうな傘という出で立ち。レースだとかフワフワした造形だとかで日傘にしか見えないが、濡れている様子を見たことがない。不思議である。

 

 「そうですね。雨だからこそ、そこを抜けていく感覚が新鮮で楽しいです」

 

 雨天の道を歩く。雫が与える衝撃が気持ちいい。踊り出したいような心持ちだが、いい大人がそんなことをしてはみっともないだろ、と自重する。

 

 「大人も子供もないでしょう。やりたいことをやりたいようにやる、それが人間らしくて一番好きだわ」

 

 幻想を失った人間ほど面白くないものはないもの――そういって胡散臭い笑みを浮かべた。なるほど一理ある、と陽気に踊り出そうとしたが、落ち葉で滑ってよろけて転けた。

 

 「あらあら……大丈夫?」

 

 「あはは、まあ何とか……」

 

 差し出された手を掴み、ふらふらと立ち上がる。それだけでどうしようもなく胸が高鳴るので、まるで生娘のようだと自嘲気味に笑う。

 

 「綺麗ですね」

 

 「えっ?」

 

 「この紫陽花。こんな場所に咲いてたなんて知りませんでしたよー」

 

 「ええ……そうね」

 

 何故か苦笑する紫さん。長いこと生きてるわけだし、この程度の花は見慣れているのだろうか。或いは、もっと綺麗なものを知っているのか。

 水気を帯び、色鮮やかに咲き誇る大輪の数々は、これまで見た中では二番目くらいに美しく感じられた。

 

 「これからもっと綺麗になるわよ」

 

 「え?それはどういう……」

 

 言いかけて気づく。いつの間にか雨が弱くなっており、雲も薄くなっていることに。顔を出したお天道様が眩く辺りを照らす。咄嗟に目を細めるが、慣れた頃に開いてみると、日の光を受けた花々は爛々と輝き、先程よりも一層元気に開いているように見えた。

 

 「本当に綺麗ですね……!」

 

 「上の方も綺麗よ」

 

 「上……?」

 

 彼女が指差したのは空。見上げると、先程までの重たい雲は何処かへと消えてしまい、空には鮮やかな虹がかかっていた。

 

 「より強く、長い雨の後ほど――虹っていうのは綺麗に出るわよね」

 

 「綺麗ですね――特に、あの紫」

 

 「え、ええ……」

 

 「でも同じ紫でも、紫さんがいる以上霞んで見えちゃうのが残念ですね」

 

 「っ!?」

 

 話の転換が突然だったからか、動揺した様子の紫さん。てっきり『あらありがとう』だとか、『そこまで上手くないわ』みたいな返しがくるかと思ってたから少し意外だ。しかし可愛い反応だから良い。

 

 

 「六月はいいことが多いですね。雨に虹にサヤエンドウに西瓜に、ジューンブライドなんていうモノの旬ですよね」

 

 「果たして誰が結婚するんでしょうね?」

 

 余裕を取り戻した様子の紫さんが体を寄せてくる。濡れますよ、と離れたが、いいのよ。といってより密着してきた。

 パラパラと、肩に滴がかかった。見上げると少し雨が降ってきている。俗に言う、天気雨ってやつだ。

 

 「……狐の嫁入りね」

 

 「そうですね」

 

 我が家の九尾様を想いながら思う。白無垢が似合いそうだななんて考えたが、それよりも。隣にいる彼女に、ウエディングドレスを着てもらいたいな何て考えながら、雨の道を引き返し始めた。

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