ゆかりさまとほのぼのしたいだけのじんせいでした 作:織葉 黎旺
今年の桜は例年よりも数割増しで散るのが早く、花見の時間が少なかったのが悲しかったな、と博麗神社の桜の木の下で寝転がりながら思う。すっかり衣替えに入った葉桜を眺める物好きは幻想郷にはおらず、敷かれっぱなしにされていた広いブルーシートは、私一人が独占していた。
「あー、酒切れた……」
幻想郷に似つかわしくない、空になった缶ビールを乱雑に放り投げた。後で巫女さんやら彼女やらに怒られそうだが、すっかりアルコールに浸った頭は、そんなものドンと来い、とすっかり気持ちを大きくしていた。
「貰ってくるかあ……」
と呟いたものの、本殿の方で掃除をしているだろう博麗の巫女が快く酒を分けてくれるとは思えない。はてさてどうしたものか、と天を仰いでいると、枝先に妙な空間の裂け目が開いた。
「あ痛っ!!」
そこから勢いよく、何かが落下してきた。落下してきた何かは私の額を直撃し、私を悶えさせる。頭を抱えていると、今度は後頭部に先程よりも重たい何かが降ってきた。
「いったあ……何するんですか、紫さん」
「幻想郷はポイ捨て禁止なのよ」
なるほど、額を直撃したものはどうやら、先程ポイ捨てした空き缶らしかった。じゃあ後者のものは何だろう、と振り返ると、開いていない缶ビールが見つかった。
「……折角ですが、遠慮しておきます」
貰ったものをそのまま突き返すと、紫さんは困ったように肩を竦めた。
「……まだ怒ってる?」
「そりゃあ、まあ」
はあ、と大きなため息が聞こえた。んーと悩むような声も。可哀想にも思えたが、今日の私の決意は固い。まだ許すわけにはいかなかった。
「何もそんなに怒ることないじゃない」
「それは第三者が言うべき台詞であって、争いの渦中にある人の言葉ではないです」
「ごめん遊ばせ?」
「反省の色が見えないんですが」
「言ってはなんだけど、正直貴方が何故そこまで怒っているのか皆目見当もつかないわ」
「そりゃあ怒りますよ」
何せ彼女は、一瞬で私の数時間の努力を無に帰したのだ。怒らずにはいられない。
「紫さんが急に現れたせいでトランプタワーが崩れたんですからね。折角八段まで出来てたのに」
「ちゃんと謝ったししっかり作り直したじゃない。二段増しで」
「それはもう私のトランプタワーじゃなくて紫さんのトランプタワーじゃないですか! しかもひょいひょい、と気軽にやってのけてたし……」
「もしかして悔しいの?」
「当たり前です」
意地悪な微笑と共に紫さんはスキマを開いた。
「ならこうすればいいんじゃないかしら?」
降ってきたのは大量のトランプ。花弁が舞うように、ヒラヒラと舞い落ちる。
「今度は二人で作り直しましょう?」
「……はあ」
足を引っ張らないでくださいよ、とぶっきらぼうに呟く。こっちの台詞よと彼女が笑って、空へ空へと、積み重ねていくのだった。
ゆかりさまと些細なことで喧嘩したい……したくない?