ゆかりさまとほのぼのしたいだけのじんせいでした 作:織葉 黎旺
「…………」
「…………」
「……眠れないですね」
「ええ、そうね」
「貴女は妖怪ですし、別に寝なくてもいいのでは?」
「別段夜に寝る必要は無いけれど、寝ようと思えばいつでも寝られますわ」
「そうだったんですか……え、っていうかそれなら私を待たずに眠ればいいじゃないですか」
「眠れない貴方を見ているのが面白いのよ」
「いい性格してますね」
「そうね」
「…………」
「急に黙られると寂しくなるわよ?」
「ああいえ、喋っているから寝られないのかなーと思って。それで黙ってみただけです」
「本当に眠い時は喋ってようが黙ってようが寝られるんじゃないかしら」
「眠い時と眠りたい時は別だと思います」
「そもそも、眠る必要なんてあるのかしら?」
「健康的で文化的な生活を送るためには最低限の睡眠は必須かと思われます」
「眠くないってことは体が睡眠を求めていないということなのだから、昼間に眠くなった時にでも寝ればいいんじゃない? どうせ暇人なのだし」
「ぐぬぬ、一理あるし突き刺さるお言葉……!」
「起きて晩酌でもしましょうか」
「実は貴女が飲みたかっただけなのでは?」
「八割くらいね」
「どっちがですか!?」
「ご想像にお任せしましょう」
「絶対飲みたかっただけだ……絶対飲みたかっただけだよ……」
「晩酌っていうには微妙な時間になっちゃったけれどね」
「午前三時半ですか、空が傾き始める頃ですね。うーん、やっぱり私は寝ようかなあ」
「つれないわね」
「徹夜して幾度となく酷い目を見てきたので」
「今度も見るとは限らないでしょう?」
「まあ、そりゃそうだ。とはいえ統計的にはほぼ確実に見ますもの」
「いつだって歴史を作る者は、そんなつまらない統計を壊してきたのよ? そんな姿勢でいいの?」
「まあ背伸びしようが逆立ちしようが私は凡人ですので、そんな姿勢で生きていこうと思います。ということでおやすみなさい」
「もう、しょうがないわね。おやすみなさい」
「…………」
「…………」
「……紫さん」
「あら? どうしたの、素敵な上目遣いをして」
「どうしたのはこちらの台詞です。何故くっついてくるのでしょう」
「くっついて寝た方が寝やすいもの」
「それは紫さん基準でしょう、自分の物差しを人にもあてはめるのはよくないですよ。悶々としてどう考えても寝づらいです。寝かせる気あります?」
「言ったでしょう? 今夜は寝かさないわよ、って」
「……言ってましたっけ?」
「今言ったわ」
「……はあ、そんなに私を寝かせたくないというなら、こっちにも考えがあります」
「あら、何かしら」
「どっちが長く起きていられるか勝負しましょう。先に寝た方が負け、そして敗者は勝者の言うことを何でも一つ聞くということで」
「ふうん、面白そうじゃない」
「じゃ、今からスタートってことで」
「……あれ、起きないの?」
「何で起きる必要があるんですか? 先に寝た方が負けのチキンレースなんですから、布団の中で行うべきでしょう」
「お、お酒は」
「お酒を飲んだらアルコールの影響で勝負の平等性が損なわれます。駄目ですね」
「……そう、ふふ、わかったわ……この勝負に勝てばいいだけだものね、精々私に挑んだことを後悔するがいいわ……!」
「それはこっちの台詞です。私は、自分がほぼ確実に寝ない方法を知っているのだから……!」
「はうっ!?」
「可愛い声ですね紫さん! まったく、ドキドキして寝られたもんじゃありませんよ!! でも私は知っている、紫さんは抱かれてるとポカポカしてきて眠くなっちゃうって!!」
「……ふふ、どうやら誤算だったようね」
「なん……ですって……!?」
「ほら、ここ。……ね、わかるでしょう?」
「く……互角、みたいですね」
「そのようね」
「申し訳ないですが、今回は賭けているものが大きいのでね。容赦なく寝かしつけさせてもらいますよ!」
「それはこちらの台詞よ、今夜は寝かせるわよ……?」
おかしな言葉に、お互いくすりと笑った。夜明けは近かった。それでも、不思議と眠くはならないのだった。