ゆかりさまとほのぼのしたいだけのじんせいでした 作:織葉 黎旺
かち、かち、と律儀に秒針が進む音だけを感じていた。
耳をすませるだけで眠りに誘われそうな安らかなリズム。それに身を委ねようかと思案していた時に、目の前にスキマが開いた。
「お誕生日おめでとう」
「ああ、ありがとうございます」
不思議な空間の裂け目から、見慣れた別嬪さんがひょっこり顔を出し、そのまま抜け出してきた。最近は寒くなってきたからか大体導師服着てるな、と思った。
「ドレスの方がお好きかしら?」
くるりと回りながら問う彼女には、私の考えなぞお見通しらしい。
「いえ、服自体のデザインは導師服の方が好きです」
「ああ。あっちの方が露出度高いものね」
「紫さんに似合ってるからですよ」
いやまあ、その理由もないわけではないのだが。ドレス姿の時の方が思い出が多い、というのが大きいかもしれない。
「というか、よく覚えてましたね」
「忘れてるとでも思ったの?」
もう何回も祝ってるのに、とクスクス笑いながら言われた。
「私自身が忘れかけていたからですかね」
「あら、自分のアニバーサリーを忘れるだなんて」
「子供の頃なんかはそりゃあ、プレゼントだパーティーだとワクワクドキドキしたものですが、こんな歳になってしまってはね。むしろ増えないでくれー、と願うばかりですよ」
「私は、幾つになろうがめでたいものだと思いますけれど」
貴方がこの世に生を受けた、素晴らしい日だもの――そう言って、彼女は小包を差し出した。
「ささやかながら、お祝いの品ですわ」
「おお、ありがとうございます!」
思わぬ品に、自然と頬が緩んだ。「開けても?」と聞くと、ゆっくり頷かれた。
「おー……!」
橙のラインの入った紫の小包の、藍色のリボンを解く。中から顔を出したのは一本の扇子であった。
「これは……いいせんすですね」
「突っ込まないわよ?」
「中途半端にぼかしたのにバレましたか」
開いてみる。紫色を基調とした、"和"って感じのお洒落な扇子だった。桜の花弁を模した紋様が綺麗である。しかし、どこか見覚えがあるような……?
「……もしかして、紫さんのとお揃いのやつですか!?」
こくり、と頷く紫さん。しかし微妙な表情を浮かべ、
「嫌……だったかしら?」
と上目遣いで聞かれた。いやいやそんなはずないです!!
「嫌なんかじゃないですよ! むしろめちゃくちゃ嬉しいです。いい誕生日プレゼントを頂けました!」
「ふふ。それならよかったわ」
「いつも涼しそうな扇子だなーと羨ましく思ってたんですよね」
パタパタ、と扇いでみる。雅な風を感じる。涼しくていい心地である。
「涼しいだけじゃないのよ?」
「え?」
「ちょっと縁側に出てみましょう」
部屋の中と違って、秋の夜長の縁側は少し寒かった。月が空に寝そべっている。
「さあ、少し扇いでみて?」
言われるがままに扇いでみる。すると、涼風ではなく暖風が吹き出してきた。
「おお……! すごい扇子ですねこれ!! 素晴らしい物を頂けましたなー、ありがとうございます!」
「喜んでもらえたならよかったわ」
秋風を受けて靡く、絹糸がごときサラサラな金髪。星々を背後にして優しく微笑む紫さんの姿が眩しくて、そんな姿を見れただけで素晴らしい誕生日だったな、なんて思うのであった。
滑り込みセーフ!!! 日頃この作品をお読み下さり、少しでも楽しみにしてくださっている皆様ありがとうございます!この作品も晴れて二周年を迎えました!!
これからものんびり、ゆかりさまとの日常を綴っていけたらなあ、と思います!これからもよろしくお願いしますー!