ゆかりさまとほのぼのしたいだけのじんせいでした   作:織葉 黎旺

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ゆかりさま、あまいものはすきじゃないのですよ

 

 

 「♪〜」

 陽気な花歌を歌いながらチョコを湯煎する彼女の姿を見たら、幻想の少女達は一体どんな反応を示すだろうか。きっと博麗の巫女は訝しがりながらお祓い棒を構えるだろう。普通の魔法使いは笑いながら相手でも聞いて茶化すだろうか。瀟洒なメイドは……意外と作り方やら味付けやらに的確な口出しをくれるかもしれない。

 まあそんな考察はともかく。八雲紫はチョコレート作りに勤しんでいた。作る、と言ってもいくらなんでもカカオ豆や焙煎などの工程からはやらない。よくある、市販のチョコを湯煎して型に填めて冷やして、というタイプのアレだ。手際良く鍋の中のチョコをかき混ぜ、牛乳や砂糖を混ぜ込みながら時折味見をし、小さく首をかしげたり小さく微笑んだり困ったような笑みを浮かべる様は、どう見ても生娘。見てるこちらの心にくる。色々な意味で。やっと満足いく味になったのか、小さく頷いた彼女は鍋からハート型の大きな型にチョコを流し込み、冷蔵庫へと押し込んだ。サイズ的にギリギリ入ったようで、中のスペースを大きく圧迫したようなので、買い物に出かけている藍さんが帰ってきたら怒られることは必至だろう。それまでに固まるといいね、としか言えない。――さて、作り終えて満足した様子の彼女は昼寝でもするのか、寝室の方に向かっていった。重い緊張を解くように、小さく溜息を吐いた。

 

 「バレなくてよかったけど……バレなくてよかったのか……?」

 おやつでも作ろうか、と台所に向かっていたときにエプロンでチョコをかき混ぜる彼女の姿を発見し、隅に隠れて様子を伺っていた。何故急にチョコ?と首を傾げて、今日が何の日か思い出す。そう――二月十四日、血祭りが始まる日だ。外の世界にいた頃には全く縁がなかったし、幻想郷にはあまり浸透していない文化なので、存在を忘れていた。

 しかし難儀なものである。恐らく彼女は私を驚かせようと、普段なら私が外出してるこの時間を狙って作っていたのだろうが、残念ながら本日は寒いので家の中に引きこもっていた。普段は使わない別室で本を読んでいたので、お互いに気がつかなかったのだろう。彼女のサプライズを知ってしまったのは申し訳ないが、しかし――一つ、大きな問題があった。

 

 「……私、甘いもの嫌いなんだよなあ………」

 チョコとか本気で駄目。何というか、甘ったるい感じとカカオの風味が私の口には合わない。苦かろうが甘かろうが、チョコは大変苦手だ。見かけたときに声をかけようかと思ったが、しかし、彼女はとても楽しそうに作っていた。流石にそこで口出ししてその幸せと、大切な気持ちをぶち壊せるような屑にはなりさがれなかった。辛い。貰ってすぐに、「ごめん! チョコ苦手なんだ!!」と告白する勇気も私にはない。大人しく黙って食えよ、という話だがどう考えても表情に出てしまう。それを見逃さない彼女ではないだろうし、嫌いなものを無理して食べる様子というのは、作った人もあまりいい気持ちではないだろうし食べてる方も無論いい気持ちではない。そんなお互いに益のないことをして何になるんだ、と。

 

 

 ――要約すると、"私がクズなせいで選択肢が狭まってて八方塞がり"って感じだ。どうしよう。一言告げる勇気もない。でも後からチョコが嫌いでしたー、とバレるとそれなら無理して食べなくてよかったのに、と気を使われそうだし。悩みだすとキリがない。一番いいのはチョコを好きになってしまうことだが――そうか、その手があったか。橙のおやつ用に置いてあったチョコレートを、一つ手に取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ☆ ★

 

 「……状況が読めないけれど、大丈夫?」

 「……大丈夫……です、多分……」

 血の海に倒れ伏す私を心配そうに見つめる紫さん。無理してチョコをまるまる一個食べてみた結果、緊張と興奮と無理な我慢のせいか鼻血が噴き出してきて、運が悪いことに現在ティッシュを切らしており、とりあえず布か何かで押さえようと慌てて走り出した結果、垂れた血で滑って顔面から転けて、その際にまた鼻を打ち付け、尚更血が吹き出した上に痛みで悶えていると、いつの間にか血の海が出来てた。どうしよう。後で絶対に藍さんにどやされる。今のうちに証拠隠滅しなければ……

 

 「とりあえずお掃除しましょうか」

 呆れたように肩を竦めながら、彼女は雑巾やらないと思っていたティッシュやらを持ってきてくれた。なんだよあったのかよ。とりあえず鼻をティッシュで押さえ、ティッシュで床の血を拭き取った後に雑巾である程度綺麗にした。綺麗になった……はず。バレないくらいには。

 

 「ごめんなさい……ありがとう」

 「別にいいわよ。それにしても珍しいわね、貴方がチョコレートを食べるなんて」

 見透かされたような気がして、ドキッとした。

 

 「はは、偶には悪くないかなー……なんて思って」

 「嘘。無理して食べたんでしょう?」

 「ぐぬぬ……」

 クスクスと、何を馬鹿なことをとでも言いたげに上品に微笑む紫さん。いつの間にか取り出していた扇子で口元を隠し、空いた左手をスキマに突っ込む。

 

 「その……はい、ハッピーバレンタイン」

 「え……?」

 渡されたのはお皿に入ったフルーツポンチ。色とりどりの果物が目を楽しませ、芳醇な香りが心を踊らせる。いや、でもなんでフルーツポンチ……?

 

 「だって貴方チョコとかの甘いものは嫌いでしょう?でも果物は好きだから、それならフルーツポンチでいいかなーと思ったのよ」

 「お……覚えててくれてたんですか……っ!」

 「当たり前でしょう?」

 紫さんの小さな優しさに激しい感動を覚える。嬉しい。本当に嬉しい。

 

 「貴方のことだからさっきのチョコレートを自分宛だと勘違いして、断るか我慢して食べるかみたいなことで迷った挙句、チョコレートを好きになれば問題ないみたいな短絡的な思考でチョコを貪り始めたんでしょう?」

 「完全正解とはたまげたなあ……」

 「そのくらい容易にわかりますわ」

 私がわかりやすいだけなのだろうか。まあ、そんなことはどうでもいいか。

 

 「チョコが好きならアレをやる予定だったのだけどね」

 「アレってなんですか?」

 「聞きたい?」

 「聞きたい」

 「大事なところをチョコでコーティングして、溶けないうちに食べて♡ってやるやつよ」

 「ふぁっ!?」

 「冗談よ」

 「あー、なんだ……」

 そもそも現実的に体をチョココーティングは難しいのよ。すぐに溶けちゃうしお肌によくないしね、と夢を壊す情報を付け加える紫さん。

 

 「それが出来てたらチョコ好きになってたかもしれないんですけどねー、残念だなー」

 「固と溶の境界でも弄れば出来なくはないかもしれないけど」

 「あ、冗談なんで真に受けないでください」

 くだらないことを話しながら、いただきます、とフルーツポンチを食べ始める。胸焼けでもしてしまいそうなくらい甘くて、とても甘くて幸せだった。

 
















僕もチョコは嫌いです(唐突)
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