ゆかりさまとほのぼのしたいだけのじんせいでした 作:織葉 黎旺
「…………」
ちびちびと日本酒を飲む。酒に弱くはないが強くもないので、私ごときが一気にかき込むとすぐに顔に出て、態度に出て、記憶が飛ぶところまでがテンプレートである。のんびり飲めばそこそこ強い方なので、お猪口でちょびちょびと芋焼酎を味わっていた。
桜を肴に飲むというのは凄く乙なもので、年に一度のとっておきの贅沢だと思っている。一昨年なんかは件の異変の影響で春がやって来ず、寒さともどかしさで悶々とした日々を過ごしていたものだが、今年は例年通りの穏やかな春を迎えられて、私の酒もどんどん進む。
「んー、つまみ取ってくるか」
勝手に拝借してきた枝豆が底を尽きたので、恐らく人のいないであろう台所に忍び込んで何か貰ってこようと思う。
「相変わらず良い場所に陣取るわね」
「うおっとっとっ!?」
「あら危ない」
立ち上がった瞬間に背後に現れた彼女に驚き、体勢を崩して落下しかける。そこにぎゅっと抱き着かれ支えられて、どうにかその場にとどまれた。
「足場の不安定な場所で脅かさないでくださいよ……」
「それは失礼」
まあ軽く良い思いも出来たので、これ以上は触れないでおく。彼女のことだから恐らく、良いつまみも持ってきてくれたのだろうし。
「日本酒持ってきたわよ」
「おお!それで、そのお酒に合うつまみは何処に!?」
「ごめんなさい、台所に置いてきちゃったわ♪」
「あああああああああ!!」
とか言って頭を抱えてみる。フフフという小さな笑い声とともに、彼女はスキマに手を突っ込む。
「まあ、わざわざ動かずとも取りに行けるのだけれどね」
「流石ァ!」
「……あなた、もう割と酔ってきてるでしょう?」
チーズやらポテチやら枝豆やらを、もぐもぐ食べながらごくごく飲む。うーん、幸せ。いや、普段から割とこんな生活を送れなくもないが、やはり催し事の時だからこその格別さがある。
「中々に良い趣味よね、あなたも」
「どこがですか?」
「祭りの喧騒に加わらず、それを遠くから眺めるだけとは」
「まー私ごときじゃ、あの空気に呑まれてしまいますからね」
「酒に飲まれてしまわないだけ、十分心得てるんじゃないかしら」
――本日は博麗神社の春季お花見宴二日目、まだまだ参加者は元気そうで、どんちゃん騒ぎを繰り返している。私はこういうのは、参加するよりも見守る方が遥かに楽しいタイプだから構わないのだ。博麗神社の屋根の上からの景色は、桜を上から眺められる中々良いポイントであるし。
「ねえ、紫さ―――」
何気なく会話を振ろうとしたとき、目を細めた彼女が、どことなくとても幸せそうな表情をしていることに気づく。恐らく自分でもなければ気づかないような、小さな変化ではあったが――それがとても嬉しかった。
彼女の愛するものはここにあって。理想としたものは、幻想であったものはここにしっかりと存在している。隣の私とどちらが大切なのか、なんて無粋な質問が脳裏を過ぎったが、そんな答えの分かりきった質問はするまでもないよな、と彼女の持ってきた日本酒を持った。
「一杯如何でしょう」
「ふふ、一杯酌してもらおうかしら」
人の愛らしさと、妖怪の騒がしさと、神々の微笑。最高の肴がそこにあった。