対セシリア戦終了まで書こうと思ったのですが、今までの話と比べると長過ぎるかと判断し、分割させていただきました。
次回こそセシリア戦終了させようと思います。
という訳で今回の話は千冬さんの視点です。
時はわずかばかり遡る。
──おかしい。
モニターに映る勝負──イギリス代表候補生、セシリア・オルコットと二人目の男性IS操縦者である斑鳩八雲との試合は一方的な様相を呈していた。
そこにおかしなことはない。専用機を数百時間単位で稼働してきた代表候補生と訓練機をわずか数時間、下手をすれば一時間にも満たないかもしれない程度にしか動かしていない素人との戦いだ。むしろその程度の実績しか持たない素人が相手より劣る機体を動かし、楯やアサルトライフルを上手く運用し、代表候補生の猛攻を被弾しながらも抑えているほうが素晴らしいと言える。
「──すごいですね、斑鳩くん。まだ数度しかISに乗ったことがないだなんて思えません」
実際、千冬の隣でデータ収集を行いながら観戦している山田真耶は斑鳩八雲の機動を絶賛していた。確かに彼女の言う通りだろう。似たような稼働時間しかない女生徒たちなら最初の一斉射で勝負が着いていた可能性は非常に高い。
本当なら現在控え室で幼馴染みとともに漸く届いた専用機の『
しかし、否、
このモニタールームで自分だけが──自分と自分を焚き付けた、隣で不機嫌に爪を噛む少女だけが知っている。
斑鳩八雲の実力は
入学式直前となったその日、無条件入学が決まっている二人の男性操縦者に対する試験が行われた。名目上は専用機を与えるのに相応しいのはどちらかを判定するため、となっていたが実際は違う。専用機を一夏に与えるための箔付けだった。一夏には男に対する免疫が無くあがり症な面もある新任の山田真耶、対して斑鳩には
千冬はこの処置に当然反発した。両者の相手は統一すべきだと。ISになど関わらせたくなかったがそうも言っていられなくなった以上、唯一の肉親である一夏には
しかし、千冬の訴えは聞き入れられなかった。今回の指示を出したIS委員会は正しく一夏のことなどどうでもいいと考えているのだろう。
更識楯無。古くから日本の対暗部用暗部組織として活動し、現在もIS学園の運営に関わり、斑鳩八雲の後ろ楯ともなっている更識家当主を務める少女だ。学園長室で委員会からの通達を発する学園長に、彼女はニコリと笑ってみせた。
「良いんじゃないですか?」
味方だと思っていた少女の一言に千冬は絶句してしまった。そして千冬の味方はいなくなり、試験は断行されることとなってしまった。
千冬は楯無を問い詰める。後に知ったのだが、斑鳩はただの被後見人ではなく彼女の幼馴染みだという、余計に訳がわからなかった。
「あの子っていつも手を抜くから私も実力がわからないんですよ。だからちょうど良いかな〜って♪」
あっけらかんとした物言いに顎が下がる。人を見抜けぬ者には務まらない更識家当主の眼力を以てしても実力を掴ませない少年。「だから変に手を抜かなくても良いですよ」と宣い去る彼女の言から興味が湧くのを抑えきれなかった。
そして試験当日、斑鳩が手を抜かぬよう軽く脅しをかけてから始まった試合は千冬に衝撃を与えた。
無論手は抜いた。初めてISを操る相手に全力でぶつかるのはただの虐待でしかないと判断したからだ。それでも斑鳩の同世代の代表候補生ならば即座に試合終了となってしまうだろう程度には力を出した。楯無の発言に触発されたのかもしれない。
──結果は時間切れの引き分け。判定があるなら文句無しに自分の勝利。自分のシールドエネルギーはわずかにしか減ってはいないし、斑鳩のそれはのこり10しかなかった。後1秒時間が残っていれば0とすることも出来ただろう。
しかしそれが出来なかった。最後の10秒間はわりと本気になっていたにも関わらず仕留めきれなかった。斑鳩はこちらが手を抜いていた間に自分の機動を学習、対応し、本気を出した最後の10秒間を耐えきったのだ。正直に言おう、もし今回の試験の結果が委員会の横槍により極秘と言い渡されてなかったなら自分は斑鳩八雲を代表候補生として推薦していたはずだと。
だが、そんな人物が今目の前で同一人物かと疑いたくなる醜態をさらしている。セシリアの実力が高い? 否、彼女には悪いがあの時の自分とは明らかに差がある。自分の猛攻を辛うじてとは言え凌ぎきった斑鳩が対応できないとは思えない。
「──虚ちゃん、八雲の機体のチェックをお願い」
「了解です。…………簡易チェックを行いましたがこれといった異常は検知されていません」
楯無はモニターを食い入るように見詰め、幼馴染みを応援する妹たちに気付かれぬよう、小声で真耶とは別にデータを収集していた従者に声をかけるが期待した
──三味線を弾いているのか?
正直に言ってしまえば斑鳩にまともに勝負をする理由は既に無い。斑鳩はクラス代表の座につくことを忌避していたが、生徒会に所属することになり、この試合と一夏との試合でどのような結果を出そうとも代表になることはなくなったからだ。故に手を抜き、他の二人の
「──楯無、お前はどう見る?」
「……正直わかりません。自分の手札を見せたがらないとは言えこれでは
千冬は二人だけに聴こえる程度の声量で楯無に問うが彼女にも理解不能らしい。
「
自分たちに疑われないよう三味線を弾くとしてももっと上手く演技をするはず──そこで漸くだがわずかな違和感を覚えた。
「山田先生、斑鳩の顔を拡大してくれ」
「へ? どうかしましたか、織斑先生?」
「早く」
疑問の声をあげる真耶を急かす。違和感とはなんだ? 何に違和感を覚えた?
「山田先生、八雲の顔の映像と音声データを同期して下さい」
「は、はい」
どうやら違和感に気づいたらしい楯無の指示に従い、真耶がコンソールを操作するとその違和感の正体が判明する。
「──唇の動きと音声が噛み合ってない!?」
日本語吹替えの洋画を見るような違和感が漸く発見された。つまり、アリーナの集音マイクが拾った八雲の声は《誰かに偽造されたもの》である可能性が高い。
瞬間、楯無の声に反応するかのように音声と唇の動きが同期する。ノイズ混じりのデータには明らかな焦りを含んだ、こちらに呼び掛ける斑鳩八雲の声があった。
「これは一体どう言うこと!?」
楯無の声が荒げる。誰かがモニタールームをハッキングし、試合が違和感無く進んでいるように誤解させられたのだ。
「──そんなこと一体誰が!? そもそも
自身の説明に言外に不可能だと言わんばかりの声をあげる真耶と一つの推論が浮かぶ。IS操縦者はハイパーセンサーの恩恵を得て通常よりも認識力が上がっている、しかし逆に言えばハイパーセンサーに五感を支配されているとも言えるのではないだろうか? 斑鳩の声を編纂し、オルコットに違和感を与えないように彼女と斑鳩とのコミュニケーションを断ち切ったのではないか──
「真耶! 現時点でデータ収集は中止! こちらのリソースを可能な限り使用し、斑鳩の機体を
稼働中の──戦闘中のISの完全精査は基本行わない。稼働中のコアに干渉するなど不可能に近いし、常に流動する情報を完全に精査するなど不可能だからだ。だから戦闘中の機体情報の確認は先程虚がやったような簡易チェックで行われる。しかし、モニタールームのリソースの大部分を使用すれば(完全とは言い難いが)精査が可能となる。
「虚ちゃん!貴女も山田先生のサポートをして!!」
千冬と楯無の遅すぎた英断により漸く八雲の機体の異常が白日の元にさらされた。
「何……だと……?」
「……嘘でしょ?」
「……」
ISの持つ優位性のほとんどが封じられていた。斑鳩はこんな状況の中。オルコットの猛攻を凌いでいたというのか? 絶句している日本代表候補生である更識簪でも不可能に近い。
「真耶! 試合を中断しろ!!」
「……ダメです!! こちらからの干渉を受け付けません!!」
斑鳩の機体にオルコットのレーザーライフルの光弾が掠め、その
『──まあ、ISを動かしてまだ二度目ですし、この程度でしょう』
ビットを機体に戻し、エネルギーを充填しながら何も気付いていない、気付きようの無いオルコットは決論づける。
ラファールのシールドエネルギーは後わずか。ライフルなら一撃、ビットなら三発ほどで尽きるだろう。
干渉が封じられている以上、今自分たちにそれを止める手段はない。千冬は拳から血が滴るほどに握り締め、真耶に斑鳩八雲の機体の異常を記録するように指示を出す。万が一委員会がこの試合の結果を見て斑鳩にIS操縦に難有り、資格を剥奪し研究施設送りにするなどと言い出した時のために。
──不意にモニターから笑い声がこぼれた。最初は小さく、しかし徐々に大きく、そして哄笑となったそれの主は斑鳩八雲だった。
「──八雲? あの子一体何を……?」
思わずもれた楯無の呟きに答える者はいない。彼女の内の誰もその意味がわからないからだ。斑鳩と対面するオルコットも訝しむ。──どうやら彼女の情報規制はいつの間にか終了していたらしい。
そして──
『──だったらこっちも自重なんざ止めてやらぁぁっ!!』
斑鳩は叫ぶとありったけのハンドグレネードを
☆★☆
斑鳩自身の周囲にばら蒔かれ起爆したグレネードによりモニターは砂埃にまみれる。
「なにやってるのあの子は!?」
「……自爆、じゃないよね?」
「かんちゃん、さすがにそれは無いと思うなー」
幼馴染みの意味不明な奇行に驚きを隠せない更識姉妹+1。しかし、機体の情報を記録していた真耶からの悲鳴が異常事態が始まったことを認識させた。
「どうした真耶!?」
「ラファールのコアが……、コアが、ハッキングを受けています!!」
「何だと!? こんな時に……! どこからだ!?」
ISの心臓部、コアへのハッキング。起動中のISのコアは自閉し、外部からの侵入を受け付けない。関係者なら誰でも知る事実。真耶の報告は普通の人間なら「ありえない」と一笑に付す類いのモノだった。しかし千冬は「ありえること」として対処した。
彼女の友人には不可能を可能にしてしまう、ISを生み出した《
「──操縦者からです!! 斑鳩くんがラファールのコアに干渉を仕掛けています!!」
真耶の悲鳴混じりの報告にモニタールームの空気が凍った。
「……ちょっと待て真耶。本気で言っているのか?」
「山田先生の仰っていることは本当です!
「「はあっ!?」」
真耶のサポートをしていた虚の声に自身でもらしからぬ声をあげる楯無とハモってしまった。
──千冬に知らぬ二つの要因があった。一つはISのコアについて。戦闘中のコアは自閉し、他所からの干渉を拒む。事前準備をしておかなければ
そしてもう一つは斑鳩八雲自身。たった二人の例外を除いて誰も知らないことだが、彼は異世界の未知のウイルスによって束並の人外の干渉能力を獲ていた。その例外たちだって
鉄壁と思われていたコアに存在していたか細い穴、斑鳩八雲の持つ人外の干渉能力。二つの要因が絡み合った結果が、戦闘中のコアのハッキング成功という
「斑鳩くんはコアの異常な速度で内部パラメーターをいじり始めました! ええっ!? ──何なのこのシステム!?」
「今度は何だっ!?」
「斑鳩くんがコア内にある正体不明のシステムに干渉、起動して──ああっ!? 弾き出されました! もうこちらからの干渉も監視も不可能です!!」
「虚ちゃん! 急いで
「ダメです!! 何者かの干渉により此方からは手が出せません!! クラッキングして制御を取り戻そうにも時間が掛かりすぎます!!」
従者からの悲鳴混じりの報告に楯無は決断を下す。
「緊急事態と判断し、私がISで突入。ムリヤリでも止めてきます!!」
「──お姉ちゃん、土埃がはれる!」
自身のISを展開しようとした楯無に、モニターを凝視していた妹の声がかかる。
思わすその場にいた誰もが固唾を飲んで
「……何あれ?」
耳に届いた呟きが誰のものか、千冬には確認する気が起きなかった。何故なら──
『──こんなモンかな?』
異形のISを纏う斑鳩八雲の姿があったからだった。
今回の件の補足。
八雲くんは物質創造能力、モルフェウスは所持しておりません。
今回の件は次回に簡単に説明する予定のシステムの恩恵を利用してやらかしました。