IDX《インフィニット・ダブルクロス》   作:茨木次郎

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大変お待たせして申し訳ありません。
戦闘描写、機体の設定などで大いに手間取ってしまいました。
次からは更新速度が上がるようにしたいとおもいます。



暴走 から 契約

 

「待たせたな、オルコット」

「──斑鳩さん、そのISは一体……?」

 機体確認を済ませ、ライフルを油断なく構えたものの、驚愕を隠せないオルコットに声をかける。それはそうだろう、初期化(フォーマット)すらしていない訓練機が形態移行(フォームシフト)したんだから。しかしこれって話して良いものか……、いやマズイよな。そもそもこれは一次移行(ファーストシフト)()()()()し。

 

──ハッキングし、起動させてしまったのはコア内部に秘匿されていた《契約(コントラクト)》とだけ記されたシステム。それは形態移行(フォームシフト)の原型であり、それの土台となった代物だった。コアの搭載された機体そのものを素体としコア自体が操縦者の情報を解析、それに基づき操縦者と相性の良い専用機体を構築するという常軌を逸したシステム。

 こんな開発者要らずな代物が存在しておきながら何故秘匿されていたのか、それはあまりにもギャンブル性が高すぎるからだ。コアが操縦者を解析し機体を構築するため、どんな機体が生まれるかわからない。相性は良いけど欠陥機、相性は良いけど従来機よりも遥かに劣る劣等機なんて結果になりやすいらしい。むしろ部の悪い──悪すぎる賭けとなる。そのためにこのシステムを土台とし、機体と武装(素体)をあらかじめ開発しそれをコアに調整させるという形態移行のシステムが生まれたのだろう。

 さて、こんな丁半博打よりも遥かに質の悪いシステムを勢いまかせに起動し、機体を構築させてしまった俺の博打は──結果から言えば勝ってしまった。いや、俺としては外見変わらず中身をオーヴァード()に合わせた機体となってくれればいいかなと思ってたんだが思った以上の成果が出てしまったのだ。

──まあ、それはあの主義者教師のお陰でもあったんだが。

 コアがあの女の小細工で俺の頭に過干渉してきたハイパーセンサーを利用し俺の脳内ネットワークに干渉、そこに溜め込んでいた情報、ノイマンの思考構築能力すらも利用し機体を組み上げたのだ。

 ラファール本来の装甲を徹底的に削ぎ落とし、四肢のユニットも一部の例外を除いて、小型スリム化したために他のISよりも人のシルエットに近づき、左肘と両膝と踵に格闘戦用に小型ブレードが増設されている。

 装甲の縮小化や四肢の小型化によって余剰となったパーツをも流用して大型化したウイングスラスターはワーディングで生み出すレネゲイド物質を取り込み推進材として利用する機構を新設、高性能化に成功した。

 そして一番目につくのが右腕部ユニット、他の四肢ユニットとは逆に大型化し、あらゆるものを引き裂かんとする異形の大爪を備えていた。掌中央には水晶体が埋め込まれている。コイツは俺のエフェクトを増幅する機構が組み込まれており、第三世代兵装を模した攻撃も可能とする多目的武装ユニットとして進化を果たした。

 ラファールの面影がほとんど無くなったその姿は正に異形。機体色まで黒に染まり、異形の鉤爪を備えた悪魔のようになってしまった。

 

「──すまないが、答えられない。それに今は質疑応答の時間じゃないぞ?」

 オルコットの疑問には答えず、多目的武装ユニットをクローモードで起動。五本の鉤爪が電光を纏い、超振動を起こす。多目的武装ユニットのエフェクト増幅機構は正常に働いているらしい。

「──さて、オルコット。試合を続けないか? 俺のシールドエネルギーはあとわずか。コイツでどこまで食い下がれるか、試させてもらう」

「……良いでしょう。貴方の最後の足掻き、存分に楽しませていただきますわ!!」

 充填を完了したオルコットは再びビットを展開した。ライフルは勿論のこと、ビットの一発でも被弾すれば即終了。しかしやるしかない。ここまでやってあっさり負けましたじゃ、やらかした分マズイ気がするし。それにIS(コイツ)がどれ程のものか試したいというのもある。

 俺はウイングスラスターを全開にし、オルコット目掛けて突貫した。

 

 

☆★☆

 

 四方八方から絶え間無く降りそそぐ光弾の雨をことごとく回避し続ける。

──軽い。非常に軽い。先程までISという名の重りを身に纏っていた分、余計に軽く感じる。(オーヴァード)用に調整されているせいか織斑先生との試合の時よりも軽やかな機動を見られた。

 この圧倒的な爽快感と万能感、これこそがISを操縦する者に与えられる感覚か。ISを絶対視する奴が出てくるのも仕方がないわ、これ。

「な、何で当たりませんの!?」

 先程までとは打って変わり一切の被弾を許さない俺の機動にオルコットは驚愕の声をあげる。その動揺はビットの制御にも乱れとして表れ、結果として回避の容易さへと繋がった。

 というか、先程までの被フルボッコタイムの時も感じたことだがオルコットの射撃は『ヌルイ』。全てのビット、ライフルを命中させようとするから射線を読みやすい。はじめはあえてそうしてこちらの油断を誘っているのかと思ったが、違うらしい。

 ビットの数機、もしくは自身のライフルを命中に拘らずにこちらの機動を制限するように使用すればとうの昔に決着が着いていた。こちらは一発でも喰らったら負けなんだし。

 

 あ、ルートが開いた。チャンス!

 

「──よっ!!」

 スラスターを全開にし、オルコットの懐に飛び込む。訓練機ver.ラファールのそれとは雲泥の差ともいえる加速。わずかばかりだが急激なGに身体の中が軽く悲鳴をあげるが構わず突貫。

 ブラックドッグのエフェクト、《バリアクラッカー》を発動させると異形の鉤爪が紫電に包まれた。

「よいしょっ!!」

「きゃあぁっ!?」

 紫電を纏った鉤爪をそのまま振るい、引き裂く。手応えあり。本来ならそのまま追撃、一気にケリを着けるんだが、専用機持ち(オルコット)の戦闘情報は得られたし、以降はこちらのISの情報収集を主目的とするため、今回はそれをせず一時距離を開ける。体勢を整えつつ自身のシールドエネルギーの残量を確認したのだろう、オルコットの表情がまたもや驚愕に歪む。

「そんなたった一撃で!?」

 オルコットの悲鳴に想定通りにいったことを確信する。エフェクトにより、シールドバリアーを破壊し、絶対防御を引き出せたのだ。

 絶対防御は大抵の攻撃から操縦者を護るが、その発動には大量のシールドエネルギー(ヒットポイント)を消費する。通常の試合ではシールドエネルギーを0とすれば勝ちであるため、コイツはなかなか使える。織斑先生の代名詞、《零落白夜(れいらくびゃくや)》モドキだ。尤も絶対防御は名前の通り絶対、というわけではない。そのため万が一のことを考えると、バリア破壊攻撃は狙う場所を考えないと危険かな?

「──こ、このおっ!!」

 お返しと言わんばかりにオルコットのライフルが火を噴くが、スナイパーライフルという特性上連射速度は低く、回避は容易だった。というかオルコットはライフルとビットの同時運用ができないらしい。第三世代兵装であるビット制御に意識をとられるのだろう。

「──行きなさい!」

 オルコットがまたビットを切り離し、多角攻撃を繰り出そうとするが甘い。鉤爪を備えた掌をオルコットに向けてエフェクトを発動。掌中央部にある結晶体が微細な振動を発生、腕部ユニット全体を利用して増幅、衝撃波として放出する。目には見えない広域衝撃波がオルコットと切り離されたビットを襲う。

「……バリア破壊攻撃に広域衝撃波? どこまで無茶苦茶なんですの、貴方は!?」

 出力を抑えていたためか、破壊を免れたビットを操り多角攻撃を繰り返すオルコットが金切り声をあげるがそれを無視し、ビットの攻撃を回避しつつ、考える。どうしよう、このままじゃ多分()()()()()()。既に訓練機の魔改造(ムチャクチャ)をやってしまった訳だが、そちらはまだなんとかなる可能性がある以上、大番狂わせ(ジャイアントキリング)を起こし、目立ち過ぎる訳にはいかない。だからと言って今更降参(リザイン)してもオルコットを無意味に怒らせるだけだ。

 ビットの光弾を回避しつつ、先日正当な方法で調べたオルコットのISの装備を確認。まず、ブルーティアーズの代名詞であり、そのものであるBT兵器(ビット)。次にエネルギーライフル、スターライトmkⅢ。そして近接戦用ショートブレード、インターセプター。ビットにはレーザー型とミサイル型がある。ミサイル型は切り札なのか未だ使用せず。

 

──よし、作戦は決まった。どうかバレませんように。

 指揮者が指揮棒を振るうようにオルコットが腕を振るえば中空を漂うビットがこちらの死角に入り込もうと機敏に動く。しかしそれはもう通じない。きっちりと回避し、そのままエフェクトを発動しつつ、一気に懐に踏み込む!

「貰ったッ!!」

──と同時にeエフェクトを重複発動。オルコットの声と口調を真似て彼女の耳にだけに指示を飛ばす、まるでオルコット自身の心の声のように。

『今ですわ! 早くインターセプターを!!』

 オルコットの声に偽装した俺の指示に従うようにライフルから手を離し──

「インターセプター!」

 初心者用コールを用いてショートブレードを展開し身構えた。よし! そのまま爪撃を()()()()()()()()()叩きつける!

「──何!? ヤベ──」

「貰いましたわ!!」

 端から見ればショートブレードを展開したオルコットに必殺の一撃を見事に受け止められた形となった俺は驚愕の表情を浮かべ、一瞬だけ機体を止め、隙を作る。当然そんな隙を代表候補生が見逃すはずもなく、背後からのビットの一斉射が俺の機体を貫いた。って一斉射じゃなくても良いだろ別に!?

 

 そんな俺の内心のツッコミとともに試合終了を報せるブザーが鳴り響いた。

 

 

「……負けちまったか」

「斑鳩さん……」

 フィールドから絶対防御用のエネルギーが供給されているため、意識を失うこともなかった俺は悔しげにため息を吐き、すぐにそれを顔から消した。

「流石代表候補生だな。完敗だ」

「……そちらこそ、()()()動きには驚かされましたわ」

 試合終了直後の興奮収まらぬ状況だからか、最後の小細工にはまだ気がいっていないらしいオルコットが微笑む。しかし、それは固い。どうやら前半の体たらくはこちらが意図的に手を抜いていたと思われているらしい。……むしろ手を抜いていたのは後半の方なんだけどな。さて、それについてはどう説明するか……。

 

『──オルコット、斑鳩。試合はまだ残っているんだ、さっさとピットに戻れ。それとオルコットは機体のチェックと小休止をとるように。五分後には織斑との試合だぞ』

「は、はい!」

 オルコットにバレないよう悩む俺と彼女の機体にモニタールームにいる織斑先生の声で通信が送られてくる。その声は妙に冷静だったが、助かったことに変わりはない。

「──じゃあ、次の試合も頑張って。まあ、油断さえしなけりゃオルコットの勝ちは揺るがないだろうけどな」

「……ええ、後で詳しく聞かせてもらいますから。その機体のことも含めて」

 ニッコリと(目を除いて)微笑み、オルコットはピットへと戻っていった。さて、俺も戻るとするかね。

『──斑鳩、お前には訊かなくてはならないことが山ほどある。逃がすつもりはないから覚悟しておくように』

 俺への直通回線で送られてきた織斑先生の絶対零度の声に胆が冷える。ピットに戻る最中、カッとなって行動するのは今後はなるべく控えようと誓った俺なのだった。

 

 




ダブルクロス設定
☆ブラックドッグ
 13のカテゴリーで構成されるシンドロームの内の一つ。
 全ての生物が持つとされる生体電流を意思の力によって増幅、打ち出せることができるようになるシンドローム。
 また、電流を調節することによって機械を外部からコントロールすることもできる。これによって自身の肉体を機械化することも可能。
 名称の由来はイギリスの伝説にある、雷とともに現れる犬、黒妖犬(ブラックドッグ)から。
 
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