ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 おはようございます。今回はやや短めとなっております。同日夜からの木綿季視点での物語となっています。
 前回では確率は低くとも木綿季を治せる可能性を見出した和人。そんな和人を待ち続ける木綿季の視点で描いたお話です。それではご観覧ください。
 


第13話~木綿季の闘い~

 

 西暦2026年1月30日土曜日午後19:05 神奈川県横浜市金沢区 横浜港北総合病院

 

 木綿季は仮想空間の自分の部屋があるメディキュボイドにその意識を戻していた。ALOでキリト、和人からたくさんの大好きをもらい、そして何より希望という大きく温かいものをもらった。

 ログアウトしてからも、仮想空間にもかかわらずしばらく体の熱が冷めることはなかった。ALOとは違う体だが、まだこの温かい感触が残っているような気がした。

 

「和人……」

 

 木綿季は長年思っていた。自分は誰も好きになってはいけない、必要以上に親しくなってはいけない。遠くないうちに永遠のお別れをしてしまうのだから。

 仲良くなればなるほど……相手を悲しませてしまう。だったら、ひっそりと孤独に死んでいった方がマシだ、そう考えていた。

 

 しかし、今は違う。そんなボクを好きって言ってくれる人が現れた。ボクを助けてくれるって言って元気づけてくれた。

 その人は医者でもなんでもない普通の男の子だ。でも……その子の言葉はなんだか信じられる気がした。信じて全部まかせていいかなって思った。なんの根拠もないんだけれど、全部身をゆだねていいかなって、そう感じた。

 

「キリトから好きって言ってくれるなんて……思ってもみなかったな……」

 

 自分を好きって言ってくれる人は今まで少なからずいた。明日奈もそうだったしスリーピング・ナイツのみんなもそうだ。パパ、ママ、姉ちゃんも木綿季のことが大好き。そう言ってくれた。

 でも……それ以上に和人の体の温もりが忘れられない、温かかった、大きかった、そして何より安心できた。

 

 そう思うと、木綿季は死への恐怖というものを久方ぶりに感じ取っていた。怖い、死ぬのが怖い。和人と離れ離れになるのが怖い。今はあるこの意識が、ふっと自分の知らない遠くへと飛んでいってしまうのが怖くてたまらない。

 自分の体のことは自分が一番理解している。調子が以前よりいいとはいえ、崖っぷちであることには変わりはない。すぐに死ぬということはないだろうが、あまり長い命とも言えないのも紛れもない事実だ。

 

 ならば……ボクに出来ることはただ一つ。和人が助けに来てくれるその瞬間まで、一秒でも長く生き永らえ、病気と、AIDSと、HIVと闘い続けることだ。

 頑張ってるのは和人だけではない。ボクにだってやれることは残っている。そう思うと……自然と体に力が湧いてくる気がした。心の底から勇気が溢れ出てくるような感じがした。

 

「ボク、生きなきゃ……、精一杯……生きなきゃ……!」

 

 精一杯生きる、そう心に誓う。きっと和人は来てくれる、それまで頑張る、頑張りぬく。病気を治す為に、再び現実世界に帰る為に、ボク自身の未来の為に、そして何より……ボクを初めて好きと言ってくれた……和人の為に……。

 

 

――――――

 

 

『こんばんは、木綿季君』

 

「こ、こんばんは、倉橋先生……」

 

『和人君とは……、もういいんですか?』

 

「……はい、たくさんお話できました」

 

「それは……よかったですね」

 

 木綿季の担当医の倉橋が、メディキュボイドの外部トーク機能越しに木綿季に声を掛けてきた。検診の時間が来たのだ。検診といっても木綿季の意識は仮想空間の中にあるので、現実の体を倉橋達が調べて、それを仮想空間の木綿季に報告をするといったものだ。

 

 ただ、自分の本当の体をいじくられてるという状況を、遠目で見ているようなこの感覚はいつまでたっても慣れることはなかった。ちょっとばかり恥ずかしいというか、背中がむずかゆいというか、自信のない部分があるからというか。

 それに今日は一瞬とはいえ一度心臓が停止しかけた。いつもよりも調べることは増えるだろう。

 

『先程、和人君とすれ違いましたよ』

 

「……和人と?」

 

『ええ、何かを決心したような、真剣な表情をしていました』

 

「…………」

 

 そうか、もう和人はボクを助けるために動き始めてくれてるんだ。本来なら倉橋先生が動くことなのかもしれない。それでも和人はボクを助けるために行動を始めている。

 

 嬉しい、嬉しいな……。本当に和人のことを好きになってよかった。強くて優しくて、頭も良くて、かっこよくて。 正直、ボクにはもったいないぐらいだ。

 でもこういっちゃなんだけど、ボクなんかよりやっぱり明日奈の方がお似合いのような気はする。でも、ボクは和人のことを好きになってしまったし、和人もボクを好きだと言ってくれた。

 

 それなら自分の気持ちに素直になっても……いいよね? ボクだって女の子だもん。普通に恋愛だってしたいもん。

 もしもボクの病気が治ったら、現実世界で和人と一緒に過ごせるんだよね? 将来の夢を語り合ったり、デ……デートとかしたりなんかして。え、えへへ……。

 

『ゆ、木綿季君……?』

 

「え……え?」

 

『ど、どうかしましたか……?』

 

 木綿季が正気に戻ると、倉橋を含めた医療スタッフが驚きの表情でメディキュボイドに包まれた木綿季をあっけらかんに視線を送っていた。

 どうやら木綿季の心の声が、ついつい表に出てしまっていたようで、今まで聞いたことのない木綿季の独り言に、倉橋たちは何があったんだろうと不思議な表情を浮かべていた。

 

『な、何かいいことでもありましたか……?』

 

「あ……、え、えっと……、はい……」

 

『……もしかして、和人君のことですか?』

 

「えっ、…………は、はい……」

 

 倉橋に改めて聞かれると、木綿季は体育座りをしながら顔を赤らめて恥ずかしそうにうずくまっていた。外からでも中の様子が想像出来たのか、倉橋は少しだけ笑みを見せていた。

 

「好きって言ってもらったんです、和人に……」

 

『……そうですか……、よかったですね……』

 

「……はい……」

 

 あの後ALOで何があったのかと簡潔に話すと、木綿季は更に赤くなり、耳まで湯気が上がるぐらいに真っ赤になってしまっていた。検診中なので心拍数があがるようなことは避けなければならないのだが、彼女の気持ちは今はそれどころではなかった。

 

『木綿季君、その嬉しい(・・・)という気持ち、忘れないでくださいね』

 

「え……?」

 

『体をいい方向に向かわせるには、嬉しい、楽しい、と感じることが、鍵になっていくことがあるのです』

 

「は、はぁ……」

 

 医学的、体力的な問題以外にも、病気には精神的なものから容態が変わる時がある。病は気から(・・・・・)、精神論だとバカにされる時もあるがこれは本当のことである。

 どんな難病でも歯を食いしばり、気を強く持つことによって奇跡を起こしたことが過去には例がいくつもあった。

 

 倉橋先生はそのことを言っているのかな? そうだとするなら、ボクも奇跡を起こせるんだろうか。 ……いや違う、起こさないといけないんだ。和人や明日奈みたいに強い心は持ち合わせていないけど、ボクはボクなりに気持ちを強く持って、生き続けないといけないんだ。

 

 強く持って待ち続けていれば、和人が必ず来てくれる。だから……頑張ろう。残された命を無駄にしないその為にも、精一杯……頑張ろう!

 

「えっと、倉橋先生」

 

『何ですか? 木綿季君』

 

「正直に本当のことを教えてください。ボクの命は……あとどれぐらい残されているんですか……?」

 

 木綿季は自分に残された余命について、倉橋に質問を投げつけた。それを聞かれた倉橋の表情がほんの少しだけ強張っていた。その様子を見る限り、決していい返事はもらえないだろうということが伺えた。

 

 しかし倉橋は答えないわけにはいかない。誤魔化すことも考えられたが、倉橋はいつもとは違う何かの決心や覚悟といったものを、不思議と木綿季から感じ取っていた。

 なので決して誤魔化さず、医師として、一人の人間として正直に木綿季に答えを返した。

 

『分かりました。では落ち着いて聞いてくださいね。ひと月ほど前、末期症状にもかかわらず木綿季君の体はHIVの活動が弱まり、調子が良い傾向に働きました。これは紛れもない事実です』

 

「……はい」

 

『しかし、あくまでもAIDSの末期症状だという現実はひっくり返りません。感染症や合併症を抱えていることも事実ですし、何がきっかけでまた心肺停止等に陥らないとも言い切れません。これに関しても真実であることは間違いありません』

 

 木綿季は少し首を垂れると小さい声で「やっぱりな……」と呟いていた。あまり期待はしていなかったが、いざ目の前で話されると心に来るものがある。

 そもそも今もこうして仮想空間とはいえ日常を過ごせていることがほとんど奇跡に近いものだったのだ。しかしそんな木綿季を慰めるかのように、倉橋は口を開き、先ほどの話を続けるかのように語り出した。

 

『ですが……木綿季君、君の心はとても強い。少なからずこの病院で入院している患者さん全員より遥かに強い心を、精神力を持っています。そしてこれは憶測の域を出ないのですが……もしかするとその強い心が、遠くないうちに何か(・・)を起こすことになるかもしれないと、そう思っています』

 

 木綿季は首を上げた、倉橋先生がこんなにあやふや(・・・・)なことをはっきり(・・・・)と言い切ったのは初めてだ。余命を少しばかり誤魔化した過去は何度かあったが、その倉橋の口ぶりからはこの先遠くない未来でまるで、木綿季の体に「奇跡」が起こるかもしれないとでも言いたげな様子だった。

 

「先生、何か(・・)って……何ですか……?」

 

『あ……えっと、私も上手く言うことは出来ないのですが……すみません。本来は医者がこんな曖昧なことを言ってはいけないのですが……、ちょっと感じることがありましてね…』

 

 感じることってなんだろうか、もしかして先生もボクと和人の間にあったことを知っているのだろうか。

 だとしたら……和人が奇跡を起こすかもしれないって、思ってたりするのかな。

 

『いえ、やめましょう。この話はここまでにしましょう』

 

 やはり医師として曖昧なことは言い切るべきではないと話を中断した倉橋に、木綿季は小さい声で「はぁい」と返すと、ひたすら検診が終わるのを待ち続けた。体育座りの体勢で目の前に表示された大きい仮想ディスプレイの様子を、じーっと見つめていた。

 

「和人……、会いたい、会いたいよ……寂しいよ……」

 

 つい十数分前に帰ってしまった和人を、木綿季はもう恋しく思ってしまっていた。この仮想空間から出たくてたまらない。現実世界で和人の隣に座りたい、和人の温もりを感じたい、和人とお喋りしたい、和人に抱きしめてもらいたい。

 

 和人と……和人と……。

 

 そう考えているうちに、木綿季は一日の疲れからか眠りについていた。木綿季にとってもここ数日は激動の日々であった。和人を元気づけ、好きになってしまい、拒絶したと思ったら明日奈と同じように追いかけてきてくれた。そして自分を好きだと言ってくれた。病気を治してやると約束してくれた。

 

 そのことを思うと寂しかった気持ちが、ちょっとだけ温かい想いに変わっていった気がした。和人がいれば頑張れる、和人がいればどこまでも行ける、だから……もう少しだけ頑張ろう。和人が迎えに来てくれるその時まで。

 

 正直、木綿季は自分の病気が治るとは思っていなかった。自分の侵されている病気がどのようなものかは木綿季が一番わかっていた。しかし、和人の言葉を聞いていくうちに不思議と治るのではないかと思い始めていた。

 だから助けてやると言った和人の言葉を信じたのだ。そもそも治るのなら倉橋先生が治してくれているはずだ、しかし和人が信じてくれというのなら、ボクはいつまでも和人を信じて待つ、待ち続ける。

 

 だって……和人はボクの、ヒーローだから……。

 

 木綿季は木綿季で、和人は和人で各々がそれぞれ新たな思いを決心した。お互いの明るい未来の為に戦い続けることを心に固く誓った。

 

 激動の二日目が幕を下ろした。

 

 

 




 
 お読みいただき、ありがとうございます。倉橋先生が意味深なことを口ずさみましたね。
もう藁にも縋る思いになっているのか、本当に奇跡に近いことが起こることを無意識に感じてしまっているのかは分かりませんが。

 それぐらいHIVは恐ろしいウィルスなのですね。自分もマザーズ・ロザリオ本編を見てからAIDSについて調べました。小学校の時も授業で勉強したのですが、一生治らない病気というのはいやですよね……。

 それでは次回でまたお会いいたしましょう。
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