ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 こんばんは! 我ながらこのシリーズ…投稿のペースが速すぎる方だと自負してるのですが、皆々様的には投稿が早いっていうのはどう感じてるんですかね? 早く読めていいというのならこのまま投稿ペースは落とさないようにしようと思うんですが、コンテンツの終焉を早くしてしまいそうっていう声も出てきそうでなんだか……。

 UAが3500、お気に入り50突破しました、本当にご愛読感謝感激でございます。引き続き頑張って執筆を続けていきますのでご声援よろしくお願いいたします。大変励みになります。てなわけで第16話です。タイトルで若干のネタバレをしている気がする。

 


第16話~再開、絶剣と閃光~

 

 

 西暦2026年2月1日 日曜日午前10時 神奈川県横浜市金沢区 横浜港北総合病院

 

 

 

 和人と明日奈を乗せたオートバイ、そしてギルバート、遼太郎、里香、珪子、詩乃、琴音らSAO帰還組を乗せたワゴン車は、横浜港北総合病院の駐車スペースへと到着していた。先にオートバイを駐輪場に停めた和人と明日奈は先に降りて、ワゴン車組の駐車を待っていた。明日奈は病棟を駐輪場から見上げていた。

 

「またここに来れるなんて……」

 

「俺は昨日来たばかりだけどな……」

 

「私、ちょっとだけ緊張してきた……。木綿季にどんな顔で会えばいいのかな……」

 

 二人で病棟を見上げていた、二人共この病院には今は様々な思い出がある。とある病室にお互い大切な人がいることも同じだ。明日奈が心配そうに言うと和人は明日奈の肩に手を当てフォローを入れる。

 

「別に、今まで通りでいいんじゃないかな。……まあ木綿季は明日奈との約束を一生懸命守ろうとしてたから、お礼ぐらいは言ってあげた方がいいな」

 

「そうだね……」

 

 複雑そうな顔つきで話を交わしてる間に、和人たちのバイクの後ろを走っていたワゴン車組が、ゾロゾロと行列をなして彼らに追いついてきた。

 一人のお見舞いをするのにこの人数は正直多すぎると思う。病棟の廊下を歩くときに他の患者さんや看護師さんの邪魔になったりしないか少しだけ心配だ。

 

「ここが木綿季ちゃんの入院してる病院か、でっけぇな……」

 

「ああ……行こう、木綿季が待ってる」 

 

 遼太郎が大きい病棟を見上げて言葉を漏らした。でかいだけではない、ここには世界で唯一といっていい医療設備がある。そこに木綿季がいることを、この中では和人と明日奈しか知らない。

 和人はそんな中、先陣を切って病院に入っていった、それを残りの七人は慌てて後を追って続くように院内に向かって穂を進めていった。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 病院内のエントランスはそこそこの人がおり、忙しそうな感じはなく、慌ただしくもない様子だった。この感じならこの人数でもあまり迷惑はかからなそうだ。和人は明日奈を連れ、受付へと足を運んだ。

 

「すみません、面会をお願いしたいのですが……」

 

「はい、ではお名前と患者さんの名前……ってあなた方は……」

 

「あ、昨日の……、どうもこんにちは……」

 

 なんと昨日の受付のお姉さんであった。そのお姉さんは明日奈が病院を訪れたときも受付しており二人に何かと縁があった。

 

「あなた方が訪ねてこられたということは……」

 

「はい、紺野木綿季さんの面会に来ました。でもその前に、担当医の倉橋先生とお話をさせていただきたいと思うのですがよろしいでしょうか」

 

「畏まりました、只今お呼びしますので少々お待ちください」

 

 お姉さんは慣れた様子で受付の奥へを消えていった、流石に3回目ともなると慌てる様子はなかった。この何かを待っている時の"間"というのはどうも落ち着かない。

 早く次の行動に移りたいのに待たされているときのもどかしさといったら。

 

 それが大事なことを控えてる前なら尚更である。やがて五分ほど経過すると、木綿季の主治医である倉橋が姿を現し、和人たちに軽く頭を下げながら近付いてきた。

 

「これは……和人君に明日奈さん、今日はお二人でいらしてたんですね、ありがとうございます。木綿季君も喜ぶと思います」

 

「こんにちは、倉橋先生。いつも木綿季を支えてくださって…ありがとうございます」

 

 明日奈が丁寧に深々と頭を下げる。その姿をみた倉橋はいいえ、こちらこそ助かってますと返事を返すと先ほどの本題を切り出してきた。

 

「それで私にお話とは……一体何でしょうか」

 

「木綿季を助けるための提案があります。時間がよろしければここではなんですので、落ち着ける部屋で……お話をさせていただけませんか?」

 

 引き続き明日奈が丁寧な口調で説明をする。

 こういう時は和人より明日奈の方が上手だ。伊達にお嬢様の生活をしているわけではなかった。倉橋はその言葉を聞くと一瞬驚いた表情をし、しばらく考え込んだ後明日奈に聞き返した。

 

「ゆ、木綿季君を……助ける……?」

 

 倉橋もまさかこんな話を切り出されるとは思わなかったようで、よくみると顔のいたるところに汗が浮き出ている。よほど動揺したのか、それとも心当たりがあったりしたのか。

 

「はい、俺たちはAIDSのことを調べました。それも徹底的に一般人が調べられる範囲でですけど。それらを踏まえたことを前提としてお話しさせてください。お願いします!」

 

 和人も深々と頭を下げる。その様子を見た後真剣な表情をした倉橋は、今までの感じとは違うものを感じ、「こちらへどうぞ」と手のひらで導きながら、使っていない会議室へと二人を案内した。

 奥へ行く前に和人は、遼太郎達にそれまでここで待っててというジェスチャーだけして、倉橋についていった。

 

「歩きながら話しましょうか、お二人とも……木綿季君を助けるということは、おそらくアレの存在に気付いたという認識で、間違いはないんですね?」

 

「ええ、辿り着くまでにすごい苦労しましたけどね。でも木綿季を助けられる唯一の可能性はもうこれしかないと思っています」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「こちらです、看護師に飲み物を持ってこさせますね」

 

 

 和人はお構いなくとだけ言うと持ってきた資料をクリアファイルから出し、机の上に広げた。桐ヶ谷親子が、必死になって調べ、まとめあげた手製の資料だ。

 

「倉橋先生、今から俺が話すことは医師としての判断ではなく、素人の一般人としての認識としてお聞きください。情報の間違い等があったら遠慮せずに指摘してください。間違った方法で木綿季を助けたりはしたくないですから」

 

「……分かりました、聞きましょう」

 

 和人は倉橋にすべて話した。

 骨髄移植のこと、それのドナー登録者を見つけることの困難さ、昨夜調べて分かったことを、こと細かく全部倉橋に話して聞かせた。

 

「どうでしょう、俺たちの話でおかしなところはありますでしょうか……」

 

「ふむ、そうですね……」

 

「…………」

 

「……和人君、あなたは本当にすごい。この短期間でHIV耐性骨髄のことを調べ、どうやれば木綿季君の助かる道につながるかどうかもしっかり探し突き止めた。これは本当にすごいことです」

 

 倉橋はしばしの沈黙の後、和人の行動力にえらく感心を示していた。そしてあくまでも医師としての角度で話を続けた。

 

「あなた方の仰る通り、結果だけ言うと木綿季君のHLAに合致する骨髄ドナーを見つけられれば、木綿季君を助けることが出来ます。移植手術によくありがちな大掛かりな手術でもありません、だから手術による木綿季君への肉体的負担はほとんどないと見ていいと思います」

 

「ほ……本当ですか……!」

 

「しかしリスクがないわけではありません。運よく木綿季君のHLAに合致する骨髄が見つかったとしても、拒絶反応が起こる可能性は決してゼロではないのです」

 

「拒絶反応があったときの最悪の事態は知っています、それで……その拒絶反応が起こる可能性というのはどのぐらいなんですか?」

 

「……一般的には15から20%ほど、と言われています」

 

「…………」

 

 和人と明日奈の顔が強張った。骨髄があれば助かるという簡単な問題ではなかったからだ。そりゃあそうだ、もしそうなら世界中でAIDS患者が続々と完治してるはずだ。やはり、そう甘い話などではなかった。

 

「しかし、報告を見ると骨髄移植で亡くなっている方々はほとんどが四十を越した中年以降の方々ばかりなのです。木綿季君は病気で衰えているとはいえ、肉体自体はまだ若い。実際の死亡リスクはその数字より低いとみていいでしょう。そして……『全体』を通して見ても、木綿季君が助かる確率は贔屓的に判断して……」

 

「…………」

 

 二人は倉橋の回答に息を飲んで待った。お願いだ、出来るだけ高い確率であってくれ、木綿季が助かる数字であってくれと、祈りながら倉橋の言葉を待ち続けた。

 長い沈黙のあと、倉橋は頭の中で計算を終え、ゆっくり口を開き、和人たちに結論を話して聞かせる。

 

「やはり現状では限りなくゼロに近いでしょう」

 

「なっ――――」

 

 倉橋の口から放たれた言葉に、和人と明日奈は絶句してしまっていた。

 嘘だろ……ここまできてそんなのって、今助かるって言ったじゃないか、どうして……? 結局俺たちがやってきたことは全部無駄だってのか? そんな……木綿季、木綿……季……。

 

「お、お二人とも落ち着いてください、あくまで"全体"を通してみての確率です。手術そのものの純粋な成功率の数字の話ではありません!……私も誤解を招くような言い方をしてしまって申し訳ありません、顔を上げてください」

 

 倉橋からのその言葉を聞いた二人は震えるように息を吐き、安堵した。自分自身の寿命が削られた、そんな感覚に襲われていた。

 上げて落として、また上げられる。天国と地獄を両方味わっているようだった。

 

「ジョークにしたって……心臓に悪すぎますよ、倉橋先生……」

 

 和人と明日奈の心臓はバックバクであった。

 まるで自分が死刑宣告をされたかのようだ。和人は思いっきり倉橋を睨むと、恨みを込めた視線を送り続ける。倉橋はちょっと気まずくなったのか少しだけ視線を外側にずらした。

 そして、それらを誤魔化すかのように、若干強引に話を元に戻した。

 

「木綿季君の場合、手術の成功確率自体は九割程とみていいと思います。木綿季君はHIVに体を侵されている以外のことに関しては健康ですから」

 

 ……あんな寝たきりの状態で健康だなんてよく言えるなと思った和人であったが、高ぶった感情を表に出さないように、ここはぐっとこらえた。

 

「じゃあ、何でさっきゼロに近いなんて言ったんですか……」

 

 和人に代わって明日奈が倉橋に切り込んだ。二人で話を聞きに来て本当に良かったと思う。

 和人だけだったらきっと倉橋を殴りつけていたであろう。医者は患者やその遺族に現実を突きつけたときに逆恨みを買うことがよくあるらしい。……今の状況がまさにそれだったのかもしれない。

 

「その理由は恐らくあなた方も理解していると思います。HIVの骨髄移植の成功率の低さは……ここが一番の問題なんです」

 

 その先にあるであろう壁の事を倉橋から聞かされる前に、和人と明日奈はお互いの視線を合わせると同時に頷き、倉橋に視線を戻すと意味深な笑みを浮かべながら今回の件の打開策を提示した。

 

「先生、ドナーの問題なら、これで解決すると思いますよ」

 

 和人は徐に席を立つと足元に置いていたカバンからクリアファイルを取り出し、その中身の資料を倉橋に見せた。今日集まってくれたSAOメンバーに見せたものと同じものだ。そして淡々と今回の件の概要を説明していった。その後に倉橋が見せた反応は言わずもがな驚愕の模様を見せていた。

 

「え……えええええ~~~~~っ!?」

 

 倉橋はその資料を見るとお約束の反応をしてみせた。和人は既に目を瞑り、耳に指で栓をしていた。和人はというと「何で皆おんなじ反応なんだ」という自分の感覚のおかしさに、ちょっと哀しさめいた感覚を覚えていた。

 そして和人から見えない角度で明日奈が笑いをこらえていた。ちらっとその姿を確認した和人は「後で覚えてろよ……」と思った。

 

「どうでしょうか先生、あまりにもアンポンタンな計画ですけど結構現実的だと思うんです……」

 

 明日奈の和人の計画に対する罵り方がだんだんひどくなっていった。しかし、別に悔しくないと感じていた和人であった。明日奈の自分へのいじりは慣れたものだし、半分扱いがどうでもよくなってきた、という開き直りもあって、水に流しながら成り行きを見守っていた。

 

「どうもこうも何も和人君、君は天才かもしれませんよ……! この発想は画期的だ! これなら木綿季君を……!」

 

「そうです、ドナー提供者を待ってるだけじゃ世紀が変わっても木綿季は助けられません。ならばこちらから……呼びかけないと(・・・・・・・)!!」

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 木綿季の病気を治すための三段をつけた三人は、ひとしきりのことを話し終え、エントランスへと戻ってきていた。

 今回の倉橋へのコンタクトは成功とみていいだろう。現に今まで出会った倉橋のどの表情よりも希望に満ち溢れている顔をしていたからだ。

 

「倉橋先生、お忙しい中どうもありがとうございました」

 

「いえ、むしろお礼を言いたいのはこちらです。これでようやく……」

 

「先生……安心するのはまだ早いです。この喜びは木綿季が治ってからにしましょう」

 

「そうですね……そうしましょう。ドナーバンクの件については私にまかせてください。いつでも受け入れられるようにしますので。……それでは木綿季君の病室までご案内します。……それと、あちらはお連れさんですか?」

 

「……ええ、そう、なんですけど……」

 

 和人は倉橋に聞かれると、手を差し伸べられた方向から熱烈なジェスチャーを送り続ける、謎の集団と目があった。謎の集団とは言わずもがな遼太郎らSAO組のことであった。

 こんな人通りの多いところで、それも病院で一体何やってんだと、和人は肩を落とし頭を抱えながら首を垂れ俯いた。今この瞬間だけは他人のフリでいたかった。

 

「お兄ちゃんおそーい! 何やってたのよまったくー」

 

 急遽遼太郎達とはまた別の、和人を呼ぶ声のする方に視線をやると、そこには何故か妹の直葉の姿があった。そして更にその後ろには母親の翠も確認できた。

 

「え……ちょ、ス……リーファ!? 母さんまで……なんでいるんだよ……こんなところに!」

 

「あらー? 徹夜してまであなたに力を貸してあげた母親にその言い方はひどいと思うわよ……? 和人」

 

「母さん、その言い方はいろいろと誤解を招くからやめてくれ」

 

 

 ついでに本名で呼ぶのもやめてくれと言いたかったがキリがないのでやめておいた。どうせここにいるメンバーは互いの本名を全員知っている。すると翠は唐突にみんなの前まで出ると丁寧に挨拶を始めた。

 

 

「どうも……息子が普段から大変お世話になってます。母親の桐ヶ谷翠と申します、皆さんよろしくお願いいたします」

 

 これ以上ないぐらい丁寧な口調とお辞儀で翠は挨拶を済ませた。遼太郎はというと翠に釘付けだ、本当に見境がない男である。

 身内に色目を使われた和人はなんとなくムカついたのか、咄嗟に遼太郎のみぞおちに肘をかますと「おぶっ」という面白い声をあげると共にクラインが胸を抑えて悶えさせ、体をプルプル震わせていた。

 少し手加減したつもりだったが運悪く入ってしまったようだ。

 

「この……キリの字何……しやがる……」

 

「す、すまんクライン……手加減したつもりだったんだが……」

 

「まあでも……今のはアンタが悪いわよね~?」

 

 里香が「ざまあないわ」という笑みを浮かべながらニヤニヤ遼太郎を見下していた。その様子はなんだか心の底から楽しんでる様子で、若干周りから引かれていた。

 

「初めまして翠さん。和人と同じクラスの篠崎里香です。よろしくお願いします」

 

「同じ学校の綾野珪子といいます! よろしくお願いします!」

 

「朝田詩乃です。和人とは学校は違いますけど……よろしくお願いします」

 

「竹宮琴音です! よろしくお願いします!」

 

 右も左も美少女のラインナップが並んでいる光景を眺めて翠は「あらあら和人ったら」と笑顔をこぼしながら自分の世界にトリップしてしまった。

 和人は即座に「そんなんじゃないから!」とフォローを入れた。それを聞いた少女たちは若干不機嫌気味になっていた。

 

「んでこっちのでっかいのがギルバート、こっちのリーマン風の男は壷井遼太郎。どっちも社会人だ」

 

「あらら! どちらもたくましい方なのね……、よろしくお願いしますね」

 

 SAO組と桐ヶ谷一家と、一通り挨拶を交わした一行は、首を長くして待っている倉橋の存在を若干忘れつつも、本来の目的である木綿季のいる病室へと足を運ぶことにした。

 

「それで和人、どうなの? 木綿季ちゃんは」

 

「うん、大丈夫。多分このままいけば上手くいく。先生も認めてくれたよ」

 

「そう……、よかったわね……」

 

「でも、まだこれからだ。まだ……これからが本当に大変だ……」

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 一行は倉橋に案内されるがまま歩を進めていった。

 医者のあとを大人から子供までゾロゾロと行進してる様子ははたから見たらそれは何の集団だと思ったことだろう。道行く看護師や患者さんの視線を集めてしまっていた。

 

 しばらく歩き続けるとやがて倉橋が足を止めた。和人と明日奈が見たことのあるゲートが現れ、その奥にはブラインドて真っ黒になっている無菌室が見えた。倉橋はカードキーでゲートのロックを解除し、皆を無菌室の前まで連れてくると、口を開き、木綿季を合わせる前に一行に注意事項を促す。

 

「皆さん、ご存じのことだとは思いますが、木綿季君はHIVに感染しています。細菌やウィルスからの感染予防のため無菌室で毎日をすごしています。そして……今から見せる木綿季君の姿は、人によってはあまりにもショッキングな内容になるかも分かりません。それでも構いませんか……?」

 

 倉橋からそう告げられた和人と明日奈を除く一行は、一度視線を合わせた後、同意の意味も込めて頷いた。

 倉橋は「分かりました」と皆にそう告げると手前のパネルでボタンの操作を始めた。

 

「木綿季君、おはようございます。気分はどうですか?」

 

『あ! 倉橋先生おはようございます! 今日もボクは元気ですよ!』

 

 倉橋がマイク越しに仮想世界の木綿季に話しかけると、スピーカーから元気な木綿季の声が返ってきた。その声を聞いた瞬間、明日奈が口元を手で押さえ、力なく床に崩れ落ちてしまった。

 

「明日奈……! 大丈夫!?」

 

 和人と詩乃が慌てて傍に駆けより背中を支えた。泣き崩れた明日奈の目には涙が浮かんでいた。久々に親友の声を聴けて胸からいろいろなものがこみ上げてきたのだ。

 

『え……? 先生以外に誰か来てるんですか……? い、今……アスナって……』

 

「――ブラインドを解除します」

 

 倉橋が最後のパネル操作を終えると無菌室の真っ黒なブラインドが解除された。そして一行の目の前にガラス越しにメディキュボイドに身を包む木綿季の姿があらわになった。

 その姿を初めて見た遼太郎、珪子、里香、琴音、直葉は驚愕の表情を見せていた。

 

 無理もない。か弱い女の子がケーブルを通して機械に繋がれてまで延命しているその姿は、大変にショッキングな光景だ。

 和人と明日奈も最初はこうだったのだから。

 しかし、詩乃だけはそこまであまり驚いた表情をみせてはいなかった。ガリガリに痩せ細ってしまった木綿季の体には驚いていた様子だったが。

 

「…………」

 

 ギルバートと翠は冷静に木綿季を見ていた。目の前の光景にまったく動揺をしていないわけではないが、肝が据わってるというやつである。大人なだけあってその現実を受け入れる強さを持っていた。

 

『わあ……すごい、何でこんなに人がいっぱい……? ひょっとすると……ALOのみんな……なのかな?』

 

 木綿季は驚きの声を隠せずにいた、こんなにぞろぞろ大人数でお見舞いにくるなどとは夢にも思わなかったのだ。完全に知らない顔までいる。モニター越しに一人ずつ知ってる顔を見て誰かを確かめていった。

 

『エギルさん、クラインさん、シリカにリズ、フィリアにシノン! それに和人! またきてくれたんだ! 嬉しいなあ……ありがとう!』

 

 皆の姿を確認していった木綿季であったが、明らかに和人に対してだけ反応が違った。恋人だから当然の反応だが。しかしそれでも知らない顔が何人かいた。

 

『ねえ和人、一人の隣にいるそっちの黒い髪のお姉さん二人は……誰?』

 

 木綿季が質問を投げかけると、自分たちのことだと悟った翠がペコリと丁寧にお辞儀をした。直葉も木綿季の現実の姿に同様を隠せていなかったが、翠につられるようにして、同じように頭を下げた。

 

「初めまして……紺野木綿季ちゃん、いつも和人がお世話になってます。和人の母親の……桐ヶ谷翠です。よろしくね」

 

『……え?』

 

 木綿季は固まってしまった。

 付き合って数日……というより翌日で既に目の前に恋人のお母さんが現れたというではないか。色々な考えが脳裏を巡っていたが、とりあえず驚愕の叫びをあげることしかできなかった。

 

『……えええええ~~~~~~ッ!?』

 

 その瞬間スピーカー越しに何かドッタンバッタンといった音が聞こえたような気がした。仮想空間なので部屋が散らかるとかはないはずなのだがおかしな話である。仮想空間の中で姿勢を正したであろう木綿季は慌てて挨拶を返す。

 

『はははは、初めまして!! こっ紺野……ゆっ木綿季です!! か……和人君とはお、お、お、お付き合いをさせていただいておりまする!!』

 

 慌てすぎて微妙に変な言葉遣いになってしまっていた。あまりにもおかしな慌て方をした所為か、和人も顔が真っ赤になってしまっていた。

 人がたくさんいる目の前で付き合いを公言されたらもう赤面するしかない。頭のてっぺんから湯気のようなものが出ている気がした。

 

「ご丁寧にありがとう、やっぱり木綿季ちゃんって可愛いのね……、和人は幸せ者だわ」

 

『え、ええ!? か……可愛いなんて……はぅ……あぅ……』

 

「……え、えっと木綿季、紹介するな。母さんの隣にいるこの子は妹の直葉。シルフ族のリーファだよ、一緒にデュエル(決闘)したり冒険したことあっただろ?」

 

『! リーファだったんだ! ……道理でアバターと同じようにスタイルがいいと思った!』

 

 木綿季に自身のスタイルの事を言及されると、直葉も顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 野郎がいるこの場面でスタイルいいなんて言われたらこうなってしまうだろう。直葉自体はこの豊満な肉体をあまり良しとは見てない様子だ。運動をする時には大変に邪魔になるということらしい。

 

 ひとしきり現実世界のメンバーと挨拶を交わした木綿季であったがまだ一人、詩乃の後ろに誰かが屈みこんでいる事に気が付いた。そして木綿季はきょとんとした表情を浮かべながらその正体について皆に訪ねた。

 

『えと……あと一人、シノンの後ろに誰かいるよね? えっと誰だろ……』

 

 詩乃は勇気に言われると、カメラの視界から自分の位置を横に少しだけずらした。ずらした先には木綿季が長い間ずっとずっと会いたかった親友が、膝をつきながら涙を流している光景が目に映ってきた。

 

『……あ、アス……ナ……?』

 

 木綿季は明日奈の姿を目に移すと、親友の名前を口ずさんだ。

 明日奈はそれに応えるように力を振り絞り、ゆっくりと膝を立て、体を起こすとカメラに向かって涙を流しながら笑顔を作り、深呼吸をしてから精一杯の挨拶をした。

 

「……木綿季、久しぶり……!」

 

 

 

 




 

 木綿季と明日奈が再開できました(知ってた) あと木綿季の治療が現実味を帯びてきましたね、肝心のドナーを募集するための方法をまだ明かしてはいませんがこれは一応ギリギリまで伏せていようと思います。

 登場人物や行動とかでバレたりする予感はしますがそれでは以下次回! 
 
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