ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味 作:むこ(連載継続頑張ります)
祝! ソードアート・オンライン ホロウ・リアリゼーションに、ユ ウ キ 参 戦 決 定 !
イヤッホオオオオオオオオオオオオウ!! 速攻でPS4版をポチりました。嬉しすぎるぜええええええええええ! 新衣装のユウキもめっちゃ可愛いいいいいいいいいッ!
すみません取り乱しました、家族がドアを開けるぐらい狂喜乱舞しました。あまりにも嬉しすぎて21話を急遽投稿します。前回の後書きでレッスン回と言っていたのですが…すみません、レッスンは次回になります。それではどうぞ!
西暦2026年2月1日 日曜日午後16:30 横浜港北総合病院 無菌室前
木綿季は明日奈に、自分の体の後遺症のことを聞き出した。現時点ではあくまでも可能性の話でしかないが、五感に影響が出るかもしれないことと、四肢が使えなくなるかもしれないこと。折角病気が治っても……ただ単に生き永らえるだけなのであった……。
しかし、和人はそんな状態になっても木綿季と一緒にいてくれるという、一生傍にいて支えてくれるという。その生半可ではない和人の覚悟と、自分への愛情に木綿季は言葉に表せないほどの感謝の気持ちを胸に抱いていた。
(ボク、ホントに幸せ者だ。後遺症が残っても……和人となら頑張れるかな……)
しかし木綿季としても、和人に支えられっぱなしというのは正直嫌だった。いくら自分が病気で現実世界で体を自由に動かせないと言っても、何かしらの力になれる方法はないだろうか? 別に今すぐでなくとも構わない、もしも後遺症がなかったら、精一杯体を元に戻していって、それからお返しが出来るかもしれない。……そう考えると体に力が湧いてきた気がした。明日を生きるための活力に変わってきてる気がした。
『ありがとね明日奈……、正直に教えてくれて……』
「ううん……私も……隠す様なことして……ごめんね……」
『そんなことないよ! 明日奈はボクにショックを受けさせないために黙っててくれたんでしょ? ボクを傷つけない為に……』
「そ、そんなことないよ……」
『んーん、わかってるよ。明日奈も和人と一緒で……優しいからね……』
「……木綿季……」
かつて和人と付き合っていた元恋人と、今和人と付き合っている現恋人。二人は同じ男を愛する者同士、複雑な心境を抱えていた。元々固い絆で結ばれている親友同士の木綿季と明日奈であったが、いざ和人のことを考えると、少しだけ心に引っかかるものがあったのだ。
木綿季にしてみれば明日奈に申し訳ないといった気持ちを抱えており、明日奈にしてみても木綿季が今和人と付き合っていると言っても、病気と必死に闘っている。それならば親友として応援しないわけにはいかない。しかし明日奈の心のどこかに引っかかるものがあるということは、やはり今でも和人のことが好きだということを意味していた。
もとはと言えば、和人と明日奈は仲違いなどで別れたわけではない。家の事情で仕方なく別々の道を歩んでいくために別れたのだ。事実、和人はしばらく明日奈のことを引きずっていたし、明日奈もいまだに和人を見る目は、恋する乙女のままだった。
「あ……ごめんね木綿季、私……そろそろ帰るね。家の人が待ってるから……」
『あ……うん……! 引き留めたみたいになって……ごめんね明日奈……』
「んーん、木綿季が元気になって私も嬉しいよ! ……私もね、現実世界の木綿季ともっとお話ししたり、一緒にショッピングに行ったりしたい!」
『う……うん! ボクもだよ明日奈! 一緒に……可愛いお洋服とか……見せっこしようよ!』
「うん……! 絶対に行きましょう! 約束!」
互いに現実世界で遊ぶと言う約束を取り付けると、明日奈は「木綿季!指切りげんまんしよう!」と木綿季に話を持ちかけた。そう言いながら明日奈は自身の右手を無菌室のガラス越しに、メディキュボイドのカメラ経由で木綿季に見える位置に小指を差し出した。木綿季はその姿を見てから、仮想空間内で自分の小指を立てた。
『……へへ、ゆーびきーりげーんまんっ』
「うーそつーいたらはーりせんぼんのーますっ」
「ゆーびきったっ!」
『ゆーびきったっ!』
硬い約束で交わされたゆびきりを済ますと、明日奈は長い栗色の髪をなびかせて、木綿季のいる病室を後にした。
「またね! 木綿季!」
『うん! バイバイ明日奈! また会おうね!』
――――――
木綿季と別れの挨拶を済ませた明日奈が無菌室を後にすると、別室の扉がガラガラという音を立てて開いた。中からは倉橋と話を終えたばかりの和人たち桐ヶ谷家の人間が姿を現し、明日奈と丁度鉢合わせする形で顔を合わせることになった。
「あ、明日奈さんー!」
「直葉ちゃんにキリト君……、お話はもういいの?」
「ああ、ちょっと木綿季のことで……話をしていた」
「……後遺症のことかな……?」
「え……知ってたのか……明日奈……」
「うん……先にログアウトしたときにね、先生から……直接聞かされたの。キリト君たちが別室で話してるのも……聞こえてたよ」
「……そうだったのか……先生から……」
……ん? ちょっとまて。今……明日奈がとんでもないことを口走らなかったか? 「キリト君たちが別室で話してるのも」……だと? っていうことは……も……もしかして……。
「……明日奈さん、つかぬことをお聞きしますが、先ほどの私めの叫び声って……ひょっといたしますと……?」
「うん! 思いっきりすぎるぐらいばっちり聞こえてたよ? キリト君の告白! いや~私も言われたことないのに木綿季が羨ましくてしょうがないよー!」
折角落ち着きを取り戻してきたというのに、明日奈に恥ずかしい話題をぶり返され、和人は再び体温と心拍数が上がっていくのを肌で感じていた。しかも明日奈はまるで和人にトドメを刺すかのように、先程叫んだ和人の物真似をしだした。
「"一生木綿季にこの身を捧げる!" "木綿季は俺の人生そのもの!" "木綿季は俺なんだ!" なんて! キャー! 私もいつか言われてみたいな~!」
明日奈は若干キャラクターが変わりつつも、和人に精神攻撃を仕掛けるのかの如く、先程叫んでいた和人のセリフを本人に聞かせてみせていた。その様子を見て、直葉はお腹を押さえて爆笑し、翠と倉橋は和人から見えない角度に顔を隠し、口元を片手で押さえてくすくすと笑いを抑えていた。和人は和人で全身の隅々まで肌を真っ赤に染め、体をぷるぷると震わせて周りからの精神攻撃にただひたすらに耐えていた。
程なくして直葉たちが一しきり笑い終えると、倉橋が話題を切り替えるべく、改めて今後の木綿季の身体について、和人に語り出した。先ほどまでのおちゃらけた表情とは一転して、医師とての真剣な表情を浮かべながら、和人に向かって話し続けた。
「和人君、先ほどはあのようなことを言いましたが、後遺症が残るのは現段階ではあくまでも可能性の話でしかありません。だからといって後遺症にならないというわけでもありませんが……。決して諦めないで希望は持ち続けてください。少なくとも全身が一気に使えなくなる、なんてことにはならないと思いますから」
倉橋は先ほど別室で和人に告げた悲しい現実を突きつけたときと打って変わって、今度は和人を安心させるような希望がこもったような言葉を並べた。医師として正しいことをしていたはずなのだが、少しばかりの罪悪感を持ってしまっていたようだ。勿論、今回倉橋が話している内容も杞憂などではなく、あくまでも可能性の話であった。
「いえ……俺の方こそ声を荒げてしまい、申し訳ありませんでした……。病院で大声を出すなんて……ご法度でした…」
「いえ……私も和人君の気持ちはわかりますから……。しかしもし後遺症が残っていたとしても、克服できるレベルであれば治療の継続と、リハビリで何とかできるかもしれません。だから和人君、最後まで諦めないでください」
「ええ……分かってます。木綿季は俺の大切な人です、俺に出来る事なら……何でもします」
和人からの決意の気持ちに満ちたその返事を聞くと、倉橋はにこやかな笑顔を見せて深々と頭を下げ、和人を含む桐ヶ谷家の人間と明日奈に向かって「今日も来てくださってありがとうございます」と謝礼をした。
「俺……また明日も来ます。木綿季によろしく伝えておいてください」
「わかりました、確かにお伝えします。……道中気を付けてお帰りくださいね」
「はい……お世話になりました。倉橋先生」
―――――――
同日午後14:40 横浜港北総合病院 タクシー乗り場
「んじゃ和人、母さんたちはタクシーで帰るから……明日奈ちゃんをしっかりお家までお届けするのよ?」
「ああ分かってるよ母さん、間違っても事故ったりなんかしない」
「頼んだわね、キリト君?」
そういうと直葉と翠は手前に待機しているタクシーに乗り込み、運転手に目的地を伝えるとそのまま病院の敷地を出て、見えないところまで走り去っていった。和人と明日奈は二人が乗っているタクシーが、見えなくなるまで視線を送り続けていた。
やがて見えなくなると、しばしの静寂が流れ和人も明日奈も上の空で木綿季の入院している病棟を下から眺めていた。
「それじゃ、俺たちも帰るか……明日奈」
「うん……そうだね……」
和人がそう言うと、二人はタクシー乗り場を後にし、和人のオートバイが停めてある駐輪場まで歩を進めていた。二人とも、終始無言であったが数十メートルほど歩いたところで和人のオートバイが視界に入ると、明日奈が無言の空気を破るかのように、キリトの名前を切なそうな表情を浮かべて呼んだ。
「ねえ……キリト君」
「ん……何だい? あす――」
明日奈に声を掛けられて振り向いた和人の頬に、明日奈は自分の唇を近付けて接吻をしていた。いきなり振り向きざまに接吻をされた和人は困惑の様子を隠せなかった。何でだ? 何で明日奈は俺にキスを……? 今の俺には……木綿季がいることをわかっているはずだ……、だのに何で……?
「ごめんね……驚かせちゃって……。ただの私の我儘……なんだ。やっぱり私ね……キリト君のことが……好き……」
「明日奈……」
改めて和人に好きだと告白した明日奈の瞳には涙が浮かんでいた。しかし切ないながらもその顔は何故かどことなく晴れ晴れとした表情にも見えた。仕方ないんだ、キリト君には……木綿季という大事な人が出来てしまったんだから。私がいくらキリト君のことが好きでも、キリト君の目にはもう……木綿季しか映っていない。だから……もうこれで……いいんだ……。
「だからね……これでお終い。本当に……結城明日奈と……桐ヶ谷和人君の恋人関係は……お終い……なの……」
明日奈は瞳から滝の様な涙を流しながら、和人に向かい走り出し、そのまま飛び込むようにして抱き着いた。長年付き合ってた身として、和人はなんとなく明日奈の気持ちを理解していた。やっぱり俺に未練があるんだ、だけどごめん。俺は……木綿季のことを好きになってしまったんだ。もう君とは……付き合えない……、もうあの頃には……戻れないんだ……。
「お、おい……明日奈……」
「ごめん……ごめんねキリト君……。これで本当に最後だから……お願い……最後にもう少しだけ……こうさせて……」
「……ああ……わかった……」
和人は明日奈に言葉を掛けてあげることが出来なかった。以前までの和人なら……優しく抱き留め、頭を撫で、元気づけようとするだろう。だが……今はそうしない、ただ胸を貸すだけであった。恋人でない明日奈に、それ以上のことはもう出来なかったのだ。そのあたりの線引きだけは……しっかりしておかないといけない。それがけじめというものだ。
しばらくして時間が経過し、明日奈はほとぼりが冷めると抱き着いている和人から体を離して、上着のポケットから自分のハンカチを取り出し、自身の瞳から流れ出てくる涙を拭った。高ぶった感情も収まってくると、それに比例するように涙も次第に流れなくなり、やがて止まった。少しだけ冷静さを取り戻した明日奈はポケットにハンカチを仕舞い、重苦しい空気の中、口を開いた。
「ごめんねキリト君……迷惑だったよね……」
「明日奈……」
「もう、大丈夫。これで……私は……大丈夫だから……」
「……ごめんな……」
「何でキリト君が謝るの? キリト君は悪くないのに……むしろ、あの時母さんを説得出来てれば……!」
話の途中で明日奈がはっとなった。今更過去のことを振り返って後悔してももう遅い、それに今キリト君との関係はお終いと自分で言ったではないか、まだ私はキリト君に未練があるのか……いい加減諦めろ、キリト君には……木綿季がいるんだから……、もう私とは……終わったんだから……。
「やめよう……今更こんな話をしてもだめだよね……。ごめんね……なんか……」
「いや、構わないよ……。さ……帰ろうぜ……」
「……そうだね……」
和人は明日奈と一緒に重たい足取りで駐輪場まで足を運び、オートバイのシートからヘルメットを二個取り出すと、一つを明日奈にかぶらせ、もう一つを自分でかぶり、バイクにまたがりキーを差し込みエンジンを起動させた。明日奈を後ろに乗せサイドスタンドを蹴り、少しずつスピードを上げ病院を後にした。
走ってる間は二人は終始無言であった。気まずいからなのか、ただ単に口を利きたくないからなのか……。明日奈は若干の後悔を胸に抱いていた。和人は今の明日奈に対してどうしたらいいかをずっと考えていた。事故ったら元も子もないので運転に支障がでない範囲でひたすら考えていた。
今までは恋人として明日奈を支えてきた、だけど今はあくまでも友人同士でしかない。そうなれば今までと違ったやり方で支えていかなければならない。その接し方、支え方が、和人はわからなかったのだ。やがて一時間ほど時間が経過し、二人が乗ったオートバイは明日奈の豪邸に近づいていた。明日奈が予め連絡を入れておいたからか、門の前には家政婦の佐田が迎えに来ていた。
和人は結城邸の門の前の路側帯にオートバイを停車させると、後部座席に座っている明日奈を先に降ろし、サイドスタンドを立てて、ギアをニュートラルにいれ、事の成り行きを見守っていた。
「お嬢様、お帰りなさい」
「佐田さん……!わざわざ待っていてくれたんですか……」
「ええ……そろそろこのぐらいの時間に帰ってくるのではないかと思いまして、先ほどからお待ちしておりました」
「そうなんですか……わざわざありがとうございます、佐田さん」
「勿体ないお言葉です。……ところで、お友達は大丈夫なのですか?」
「ええ、おかげ様で……病気を治す算段がついたんです」
「それはそれは……本当にようございました……!」
佐田は木綿季の病気が治りそうだということを明日奈から聞かされると、まるでそれを自分のことのように喜んだ。本当に心が温かい人だと思う。明日奈がいい子に育ったのはこの佐田って人のおかげでもあるのではないだろうか。時折不機嫌になって威圧するときもあったが、明日奈のこの人格は、佐田の教育の賜物なのかもしれない。
積もる話も大体終わり、明日奈はオートバイに跨っている和人の方を向くと「ここまで送ってくれてありがとう、キリト君」とお礼を言い、踵を返して佐田と共に家の中へと入っていった。
「…………」
和人はその様子を最後まで見守ろうとせずに、オートバイを発進させようとしたが、心にどこか煮え切らない思いを抱えていた。何だかよくわからないがこのままではいけないと思ったのだ。そしてどうしたらいいかわからないが、吹っ切れたように明日奈の名前を叫んだ。
「明日奈ッ!!」
和人からの突然の呼び出しに反応して明日奈は振り返り、目を丸くして驚いていた。もう話すことなど何もないと思っていたばかりに、一体何の用なんだろうと思いながら、明日奈は和人の口から聞かされるであろう言葉を待っていた。
「俺は……君とはこれからもずっと友達でいたいと思っている! だから……今後も困ったことがあったら、今まで通り遠慮なく俺を頼ってくれ! でもその代わり……俺が困ったときは……相談に乗ってくれよな!」
和人はそれだけ言い残すとヘルメットのアイシールドを降ろしアクセルを空ぶかしし、何故か敬礼のポーズをした後バイクを走らせた。明日奈はそれを追いかけるようにすぐさま駆け出し、門の外に出ると和人に向かって精一杯叫んだ。
「キリトくぅぅ~~~ん!! ありがとぉぉ~~!! またね~~~!!」
その声が和人に聞こえたかどうかは分からないが、和人は左手をハンドルから離し、グッと親指を立てた。どうやらちゃんと聞こえていたようだ。普通は元恋人となると、気まずすぎて話しかけることすら躊躇われるのがほとんどだ。しかし和人の場合は、恋人ではないがあくまでも親友同士として、これからも接していこうとこう言ってくれた。
その優しさが、やっぱりなんだかキリト君らしいなと思った明日奈は先ほどまで抱いていた後悔の気持ちが少しだけ晴れたのか、病院にいた時よりも晴れやかな表情へと変わっていた。どうやら今度こそ本当に吹っ切れたようだった。
「キリト君……ありがとう、頑張ってね……」
既に声が聞こえない距離にまで走ってしまっていった和人にそう呟くと、明日奈は再び門をくぐって自宅へと帰っていった。自分にキリト君以外の人……好きになれるのかな……と思いながら。
――――――――
一方オートバイを走らせている和人は、明日奈の家から更に1時間かけ、無事に事故に合うことなく自宅へと戻っていた。体力がある方の和人も二日連チャンでの往復は流石に堪えたようだ。それもまともに休息を取ってないときたもんだ、安全運転を心がけてたとはいえ、我ながらよく事故らなかったもんだと思っていた。和人はオートバイを自宅敷地内に停めると、フラフラの体をなんとか気力で支えながらシートから降りて、メットを仕舞い、エンジンを切って、おぼつかない足取りで自宅の扉を開けた。
「た……ただいまぁ~~……」
「あ、お兄ちゃんおかえり~~」
和人が玄関をくぐると、妹の直葉が両手を広げて玄関まで出迎えに来た。そして疲労困憊の兄に労いの言葉を掛けた。
「昨日から本当にお疲れ様、お兄ちゃん」
「ああ、ありがとうスグ。流石にちょっと……クタクタだ……。悪いけどちょっと夕飯まで部屋で休ませてもらうよ……」
「あ……うん、分かった。ゆっくり休んでね? 木綿季ちゃんにあんまり心配かけちゃだめだよ?」
「ああ……分かってるよ。木綿季にも言われたしな、んじゃちょっと……眠らせてもらうよ」
「うん……おやすみ、お兄ちゃん」
「おやすみ、スグ……」
和人は直葉と挨拶を交わすと、そのまま二階に上がり、自室に入るとカバンをぶっきらぼうに投げ、上着を着たままベッドにダイブした。その顔からは疲労感や徒労感といった表情が見て取れた。
「ああ……つ、疲れた……マジで……」
ベッドに突っ伏すように体を横に倒すと、和人はここ最近起きたことを思い返していた。本当に短期間で色々あり過ぎた。新しい恋人、HIVのこと、ライブのこと、明日奈のこと、そして……木綿季が退院した後、家族になるかもしれないということ……。
「……あの時はしどろもどろだったけど、もし……木綿季が……望むなら俺は……」
家族となるのもやぶさかではない、そんな考えを巡らせていると、段々と睡魔に襲われていた。いいや……まだ考えるのは……、次に目を覚ましてからでも……遅くはないだろう……。ちょっと頑張りすぎたかもしれないから……今日ぐらい……ゆっくり休もう……。
「おやすみ……木綿季……」
眠りにつく間際に、恋人の名前を呟いた和人は瞳をゆっくり閉じ、何も考えずにベッドから足をはみ出させた状態のまま眠りについた。
――――――
同日夜19:05 桐ヶ谷邸
桐ヶ谷家の一階にあるキッチンでは和人の母、翠が晩御飯のおかずをテーブルに並べていた。一通りの献立を並べ終えると、翠は子供たちを食卓に着かせるために、やや大きめのボリュームで家のどこかにいるであろう自分の子供に食事のお知らせをした。
「直葉ー! 和人ー! 晩御飯出来たわよー! 降りてらっしゃーい!」
「はぁ~~い!」
一階から自分たちを呼ぶ声が聞こえると、直葉は大きめのボリュームで返事を返し、隣の部屋にいる兄を呼ぼうと読んでいる雑誌を傍らに置き、ベッドからぴょんと起き上がり、華麗な足取りで部屋を出て、和人の部屋の扉をノックした。
「お兄ちゃ~ん? 晩御飯出来たって~、早く食べよ~~?」
「……………」
「おにいちゃーん……開けるよー……?」
返事が返ってこない兄の部屋のドアのノブに手を掛け、ガチャリと開けると、僅かに開いたドアの隙間から中の様子を覗き込んだ。中は真っ暗だったが、廊下の灯りの僅かな光が差し込むと、少しだけ中の様子が見えた。少し……というか大分不格好だったが和人がベッドの上で寝ていることを確認した直葉は、苦笑いを浮かべながら兄の寝相を見つめていた。
「クスッ……しょうがないっか……」
直葉は和人を起こさないようにそーっと扉を閉め、抜き足差し足で廊下を歩いて階段を下り、リビングに足を運ぶと食卓の椅子の背もたれに手を掛けながら、翠に事情を説明した。
「お母さーん、お兄ちゃん寝ちゃってるよ。無理に起こしちゃうのも可哀そうだから、そのままにしておいたよ」
「そう……それじゃあ和人の分だけラップして下げておきましょうか。起きたら食べるでしょう」
碧はそう言いながら台所の引き出しからラップを取り出し、和人の更にだけ被せ、和人の座る位置に戻した。そして炊飯ジャーから自分と直葉の分のご飯をよそい、食べる準備が整うと直葉と共にお行儀よく、手を合わせた。
「いただきます」
「いただきまぁーす!」
桐ヶ谷家の今晩の晩御飯はカツだ、それも豚ではなく鶏肉を使ったチキンカツだった。千切りキャベツと真っ赤なプチトマトが同じ皿に盛り付けられ、その傍らに小皿と真っ黒なトンカツソースの入っている容器が置かれていた。何故トンカツではなくチキンカツにしたかというと、翠に考えがあってのことだった。
「あれ……トンカツじゃないんだ、珍しいね……うちでチキンカツなんて」
「うん、そうなのよ……ちょっとだけワケがあってね」
「ワケ……?」
「直葉、食べられるお肉の中に縁起を担いでるお肉があることって知ってるかしら?」
「ほえ? そんなのあるんだ……」
「うん……あるのよ。多分その界隈に関わってないと知らないかもしれないんだけどね、ところで直葉……一般的なお肉って何だと思う?」
「え……そりゃあ牛肉、豚肉、鶏肉、んでもってお魚?」
「そうね、お魚はちょっとだけ違うかもしれないけど一般的には牛、豚、鶏になるわね。そこで……この中で仲間はずれがいるのだけれどわかるかしら?」
直葉は首をかしげて疑問に思っていた。何で母さんは食事の時間になぞなぞをかけてきているのだろうと。お肉に縁起も何もあるのかなあと。口にチキンカツを頬張りながら翠からの問いかけに応えるべく、直葉は三種類の肉の異なる点を探し出していた。
何だろう、お肉の硬さとか? ……いや違うなあ……、そんなのブランドとか調理法で硬さとかはがらっと変わる。多分この線はないだろう。んじゃ何だろう……栄養成分とか……もそれぞれ違うだろうし。……となると肉の元となっている動物の差……かな? 牛と豚と鶏でそれぞれ相違点っていったら……。
「えっと、鶏……かな?」
「正解、何で鶏だと思う?」
「え、また答えるの……? ん~、鶏だけ哺乳類じゃない……?」
「んー、正解だけど違うわね……。答えはね、鶏だけ二本足なのよ」
「え、あ……確かに。でもそれが何で縁起を担ぐことになるの? そもそも "カツ" にしてるんだからその時点で縁起がいいと思うんだけど……」
「そうねえ……んじゃあもう答え言っちゃうわね。ねえ直葉、お相撲ってみたことある?」
「え、お相撲……? お相撲って……男の人がふんどし一丁で戦うアレ……?」
「ふんどしじゃなくて "廻し" ね。お相撲さんが食べる料理の中にちゃんこ鍋っていう料理があるの。別にそれだけをちゃんこって呼んでるわけじゃなくて……お相撲さんが食べる食事は全部総じて "ちゃんこ" って呼んでるのよ」
「へぇ~~…」
「それでね、お相撲さんが食べるちゃんこ鍋のお肉にはね、豚肉や牛肉は絶対に使われないの、基本的に鶏肉だけなのよ」
「へぇ……そうなんだ。でも……何で?」
「ねえ直葉、お相撲のルールって知ってる? 何をしたら勝ちになるか」
「ええっと、転んだり……土俵……だっけ? あの外に出たら負けだったような……」
気が付くと翠による相撲談義が始まっていた。縁起のいい食べ物の話をしていたはずなのに、何でこうなったのだろうと直葉は内心思っていた。直葉は翠の口から語られる相撲講談を半分聞き流し気味に耳にしながら、チキンカツを頬張り続けた。
「うん、正確には足の裏以外が地につくか、体が土俵の外に出たら負け、ね。基本的にお相撲さんは土俵の上では足の裏以外をつくことを許されないの、それ以外が地面についた瞬間に負けになっちゃうから」
「へぇ~……」
「さて、ここで思い返してほしいんだけど、さっきのお肉で二本足で立っているのは……どれかしら……?」
「どれかしら……ってそりゃあ勿論鶏肉……あぁっ!」
「そう、牛と豚は前足……つまり人間に例えると手をついている状態になるの。相撲で言ったら即負けになっちゃうわね。だから負けを思わせるような動物の肉は縁起が悪いとされてるのよ。その点、鶏は二本足で力強く大地に立っていることから、負けない動物として縁起を担ぐようになったって言われてるわ」
「へぇ~~そうなんだ。あたし……初めて知った……」
「そうなの、だからお相撲さんはみんな鶏肉ばっかり食べてるのよ。まあちゃんと他のお肉も食べてるけど、本場所を控えてるときは決まって鶏ってのが鉄板らしいわ」
直葉は最初こそ興味がなかったが、話を聞いていくうちにすっかり感心していた。相撲には全然興味がなかったけど、今度から見てみようかなとも思った。VRMMOとはまた違った面白さがあるのかもしれないと、その時はほんのちょっとだけ思った。
「だからこそ……今日いい鶏肉買ってきて、わざわざカツにしたのに……和人ったら……」
翠がそう言い漏らすと、二人して和人の部屋があるであろう方向に苦笑いを浮かべながら視線を向けた。縁起物の鶏肉のカツを食べれば、木綿季ちゃんにとってもいいゲン担ぎになるかなと思ったのにと。
「まあ……今日ぐらいは大目に見てあげますか…」
「あはは、そうだね……! 冷めないうちに食べよ!お 母さん!」
「うふふ……そうね……!」
夢の中にいる和人を放っておいて、桐ヶ谷親子は仲良くチキンカツをいただいた。直葉はこの雑学をお兄ちゃんに聞かせてやろうとそう思っていた。その後、直葉たちが晩御飯を完食したタイミングで入れ替わるように、夢の世界から帰還した和人が寝ぼけ眼を擦りながらリビングへと姿を現した。
絶好のチャンスと思ったのか直葉は、先ほど翠から聞かされた相撲の雑学を、これでもかと和人にぺらぺらと説明してみせた。半分意識を夢の世界に置き去りにしていた和人はよく耳に入っていなかったが、母親の作ってくれたチキンカツは美味しいと感じていた。
それより明日はセブンによる木綿季の歌のレッスンだ。俺に出来ることは木綿季の傍で彼女を支えてやることぐらいしか出来ないだろうが、精一杯応援してあげよう……。今日はまだ眠いし、飯食ったらシャワー浴びて寝よう……明日に備えて……。
――――――
同日 午後21:35 東京都世田谷区 結城邸 ダイニング
一方結城邸では明日奈が母親である京子が帰宅するのを待っていた。佐田から京子の本心を聞かされ、自分がどれだけ今まで自分勝手かというのを思い知らされた。別に今の現状をどうこうしたいわけじゃない、ただ……母さんと仲直りしたい。もう……気まずいままこの家で毎日を過ごすのはいやだ、親子らしく……仲良く過ごしていきたい……。明日奈はただそれだけを胸に思っていた。
明日奈がいる結城家のダイニングは、全体的に赤を基調とした内装で、中央にある細長いテーブルには、真っ赤なテーブルクロスがかけられており、その上には豪華なキャンドルと高級な花屋でしか見られないような綺麗な生け花が花瓶に差し込まれていた。そして天井には大変に豪華な如何にもといったシャンデリアがキラキラと光を放っていた。まさにザ・お金持ちのお嬢様の食卓といったダイニングだった。
明日奈はダイニングの椅子に腰を下ろしながら、京子にどうやって自分の心を伝えようか考えていた。思っていることを直接伝えればいいのか、京子の期待にちゃんと応えるからと伝えればいいのか頭を抱えていた。明日奈が難しい表情を浮かべていると、明日奈の傍らに姿勢正しく立っている佐田が、優しい口調で明日奈に声を掛けた。
「大丈夫ですよお嬢様……、そんな難しい顔をされなくても……、京子様にはちゃんと伝わります。私が保障いたしますよ……」
「……うん……そうですね……」
「それに……京子様はああ見えて……お嬢様からの愛情を欲しておられます。お嬢様が京子様への想いを忘れなければ、きっと京子様もお応えしてくれますとも……」
佐田はそうは言うが、やはりあの気難しい母さんのことだ、一回突っぱねたら引き返せない性格のこともあるから、変な意地を張らないかどうかが心配だった。思えば私のこのなかなか後ろに引き下がらない性格も、母さんに似たのかなと、そんな思いも胸に抱いていた。
そしてとうとうその時はやってきた。玄関の方からやや重たい扉の開閉音が聞こえると、コツン……コツン……とハイヒールのヒール部分を床に押し当てながら歩いている音が、遠くから明日奈たちのいるダイニングへと響いてきた。京子がこちらへ近付いてくる模様だ。今日明日奈が予定を全てキャンセルし、木綿季のいる病院へ駆け付けたことは、既に京子の耳に入っている。その情報を聞かされた時は表情を変えなかった京子であったが、帰宅して真っすぐダイニングのあるこちらに向かっているということは、京子の方も明日奈と話し合う気があるということなのだろう。
ハイヒールの足音はどんどんダイニングへと近くなり、やがて目と鼻の先ぐらいまでの距離までの足音を響かせると、ダイニング内にいた佐田が、タイミングを計って大きなダイニングの扉を開けた。その開けられた扉の先には、肩まで伸びたセミロングにきつい形の眼鏡を掛け、真っ赤なキャリアスーツに身を包んだ明日奈の実の母親、京子が不機嫌そうに佇んでいた。
「おかえりなさいませ、奥様」
「おかえりなさい……母さん……」
「……ただいま戻ったわ……」
明日奈は京子の姿を視認すると、座っていた椅子から立ち上がり、軽く会釈をして母親の帰りを出迎えた。少しだけ不機嫌そうな京子に怖気づいてしまっていたが、佐田から聞かされた言葉と、病気と闘うと決心した木綿季の気持ちを思い出すと表情を変え、もう一度京子と話し合うべく、京子を自分の向かい側の椅子へ座るように促した。
「母さん……その、今日は……予定を全てキャンセルしてしまって……ごめんなさい……」
「……言いたいことはそれだけかしら?」
「え……」
明日奈がまず第一声に謝罪の気持ちを表すと、早速京子は不機嫌オーラを全開にして娘の言葉に対して反応をして見せた。明日奈は一瞬たじろいたが、佐田からの「大丈夫です」と言いたげな優しく、真剣なアイコンタクトが自分に対して送られていることに気付くと、気持ちを仕切りなおして話を続けた。
「……別に今回の件については……私は怒ってないわよ? 前に話した友達のことでしょ? AIDSを患っているっていう、それなら仕方ないわ。確かに勉強や受験も大事だけど……、人の命にだけは……変えられないもの」
「……はい、ありがとう……母さん……」
ここで明日奈はどことなく京子の様子に違和感を感じていた。不機嫌は不機嫌なのだが、何といえばいいのだろう。今まで見せていた刺々しさというものが感じられなかった。もう一言で表すと中々素直になれない一昔の時代を生きてきた堅物な親、といった印象を受けた。佐田はそんな京子を、困ったような表情で見つめていた。もっと奥様も素直になられたら良いのに……そう言いたげな表情をしていた。
明日奈は明日奈で京子に何と話しかけてよいかわからないままだった。佐田の言う通りならば下手に言葉を並べて説得しても、前回のように一蹴されるだけであろう。だが、明日奈は既に京子の本心を知っていた。自分に対して厳しく当たり過ぎてしまっていたことも後悔していた。つまり、京子は強がっているように見えるが、実は心の奥底では苦しんでいる筈なのだ。ならば明日奈のやることは一つしかなかった、言葉なんて必要ない、今私に出来ること……母さんに伝えることが出来る、私の愛……それは……。
「……ッ!? あ……明日奈……どうしたのよ……」
「……かあ……さん……ごめん……なさい……」
「え……?」
明日奈は涙を流しながら京子に抱き着いていた。流れる涙が明日奈の頬を伝い、顔を埋めている京子の胸元のキャリアスーツを濡らしていた。抱き着かれた京子は困惑していた、かつて娘がこんなにも自分に密着して甘えてきたことがあっただろうか? いや……ない、こういったことは全て佐田にまかせていたからだ。
「どうしたのよ明日奈……貴方らしくないわね」
「……かあ……さん……」
いきなり抱き着かれた京子もこの状況をどうしたらいいかわからなかった。そして何で娘がこんなことをしているのかもわからなかった。さんざ悩んだ挙句、京子のとった行動は、自分に抱き着いてきた娘を、抱き締め返すという、普通の母親らしいものだった。
明日奈がどうしてこんな行動をとったのかわからない、しかし京子は何故か明日奈を抱き締めずにはいられなかった。何がそうさせたのかはわからないが、今抱き締めないといけないと思ってしまったのだろう。京子は力の限り、娘を抱き締めていた。どのように声を掛けたらいいかわからない京子だったが、そこにすかさず佐田が助け船を出しに京子へと歩み寄ってきた。
「奥様……申し訳ありません。実は……お嬢様には全て……お話しさせていただきました」
「え……全て……って……」
「ええ……本当に……”全て”でございます」
「…………そう……なの……」
佐田のいう全てというのは、文字通り昨今京子が佐田に話した娘への本当の気持ちのことだった。そのことを聞かされた京子は、娘が何故こんな行動にとっているかというのを理解した。そして明日奈が母親の愛を欲していると同じように、自分も娘である明日奈からの愛を欲していることに気付いてしまっていた。
「母さん……ごめんなさい……、私……母さんの気持ち……何も考えてなかった……」
「…………」
「母さんはただ……私を不幸にさせたくなかっただけなのに……、私は反抗的な態度ばっかりとって迷惑掛けて……、心配ばかりかけて……本当に……ごめんなさい……」
明日奈はようやく、自分の本当の気持ちを母親である京子に向けて言葉にすることが出来た。今まで随分自分勝手なことをしてきたが……これからは母さんの期待に応えられるように努力していこう。そうすれば……母さんもきっと愛情をもって私と接してくれるはずだ……と。
京子は明日奈からの心の声を聞き届けると、目を丸くして固まってしまっていた。今まで自分の意見しか言ってこなかった娘が、母親である私に心配かけさせまいと、今までの態度を改めると言う。……それはそれで喜ばしいことには違いないだろう。しかし違う……何かが違う、私は……本当は娘にそんなことを言わせたかったわけじゃない。そして……私も……娘に本当に伝えたいことがある、厳しく教育するだけが……親じゃない、親の本当の役目は……、私が……明日奈にしてあげられる本当のことは……!
次の瞬間、京子は大粒の涙を流しながら、明日奈を自分の方へと抱き寄せ、力いっぱい抱き締めた。京子が明日奈のことを母親として抱き締めたのは、恐らく幼少の頃依頼になるだろう……、それぐらい明日奈は母親の温もりを忘れていたのだ。そしてそれは京子も同様、自分の娘の温かさを忘れていた。明日奈と京子は十数年ぶりに「親子」として触れ合うことが出来ていたのだ。
「かあ……さ……ん……?」
「……なさい……」
「……え……」
「ごめんなさい……ごめんなさい明日奈……ッ」
京子はひたすら明日奈に謝っていた。こんなはずじゃなかった、私の変な意地の所為で貴方に苦しい思いをさせてしまってごめんなさい、変なプライドを押し付けてしまってごめんなさい、そしてかけがえのないものを奪ってしまってごめんなさいと、ひたすらに謝っていた。
「ごめんね明日奈……貴方に……私のエゴを押し付けてしまって……」
「……もういいの……もういいのよ母さん、私……もっと頑張る……母さんの期待に応えられるように……頑張るから……」
「明日奈……明日奈……ッ」
長年娘へのスパルタな体制を崩さなかった京子が、今日初めて、娘から愛されているということを肌で感じ取り、暖かい涙を流していた。それと同時に、長年娘である明日奈に、気の遠くなるほど長い間、母親としての愛を注いでいないことに気付かされたのだ。
久しぶりに抱き合ったお互いの体は暖かかった、忘れかけてた暖かさだった。互いの体温を心行くまで確かめ合うと、明日奈と京子はお互いの体の距離を置き、視線を合わせ合った。今まで頑なに反抗期な娘と頑固な母親として接してきただけに、いざ本当の気持ちがわかったとなっても、少しこっぱずかしいものがあった。それから三分ほど時間が経過したが一向に進展がないため、すぐ傍にいた佐田がまたもや二人に助け舟を出した。
「奥様、言いづらいようでしたら、私めが代わりにお嬢様にお伝えいたしましょうか?」
三歩ほど京子達に距離を詰めながら使用人らしく両手を丁寧に前で交差させ、気品を漂わせながら佐田が京子に自分が代わりに本当の気持ちを明日奈に伝えようかと持ち掛けた。しかし京子の頑固スキルがここでも発動し「私が言うから佐田は下がってなさい!」と頬を赤らめながら言い放った。
佐田は「そうですか」とくすくす笑いながらもうこの二人は大丈夫だなと心に安心感を抱きながら、親子の間に水を差すまいと「それでは失礼いたします」とだけ言い残してダイニングを後にした。佐田が部屋を出ていったことにより、ダイニングには明日奈と京子の二人きりとなった。
「……母さん……あのね……あのね私……」
「……明日奈……、これからは……明日奈は明日奈のやりたいことを……やりなさい……」
「……え……?」
「私は……貴方からいろいろなものを奪ってしまった……。これが罪滅ぼしになるかは母さんにはわからないけど、貴方のやりたいことを……あなたのやりたい場所で……やってみなさい……」
「……えっと……それって……」
「あの学校で……貴方の好きな道を……歩いていきなさい……」
「え……、いい……の……?」
「……構わないわ……。……えと……それと……彼のことなんだけど……」
「……キリ……和人君のこと……?」
明日奈が聞き返すと、京子は気まずそうに首を縦に振った。明日奈からいろいろなものを奪ってしまった中で、恋人であった和人を引き離してしまったことを、やはり一番取り返しのつかないことだと認識していたようだ。しかし今更後悔しても遅い、明日奈は和人への想いを持ったままだが、今の和人には木綿季という掛け替えのない大事な人がいる。いくら京子が懺悔しても、和人はもう明日奈のもとへは戻ってこないのだ。しかしそんな京子を、明日奈は恨んだり憎んだりはしなかった。
「……んーん……もういいの母さん……。和人君は……守りたいものが見つかったみたいだから……、私にも……多分そのうち現れるわ、きっとね……」
「……ごめんなさい……」
「もう大丈夫だから……あのね、今日お見舞いにいった友達……病気が治るかもしれないの。これからも傍で支えてあげたいと思うんだけど……いいかな……?」
「いいも何も……傍にいてあげなさい。大切な……お友達なんでしょ……?」
「う……うん! ありがとう……母さん……。本当にありがとう……」
その後、今までの冷え切った間柄が嘘であったかのように、明日奈と京子は砕けた会話に身を投じていた。明日奈には密かに内緒にしていた京子の趣味や、明日奈の兄の失恋話など、明日奈が興味津々になりそうな話に花を咲かせていた。そして明日奈は今日見舞いにいった友達が和人と付き合っていること、和人とはちゃんとけじめをつけたことを伝えた。
そしてそこにすかさず京子はお見合いの話を持ち掛けたもんだから、明日奈は苦笑いを浮かべていた。以前までの明日奈なら憤慨して断っていたところだが、今回は「もう! やめてよ母さん!」と冗談交じりに笑顔を振りまきながらさらっと話を流していた。微笑ましい親子らしいやりとりだった。
その後、明日奈は正式に元いたSAO被害者の通う学校に再び戻ることとなり、きっつきつに組まれた習い事も、明日奈の勉強したいことだけに絞られ、門限もゆるくなり、勿論アミュスフィアの使用も許可された。しかし成績は今まで通りトップレベルを維持することを条件に付けくわえられたが、明日奈なら問題ないだろう。
こうして、一度は絶望的だと思われた明日奈による京子の説得は、なんとか解決と相成った。木綿季の後押しと佐田からの助力が、再び二人を親子としての関係を取り戻させたのだ。二人がこれからも仲睦まじい関係を積み上げられていくかどうかは二人次第だが、きっと大丈夫だろう。今度からは自分の気持ちに素直になって接することが出来るはずなのだから。
ご観覧ありがとうございます。Pixivにも同じ内容で小説を投稿しようと思ったんですけどあっこはものすごい文字数制限があるのですね、結構かったるい……。ホロウ・リアリゼーション、買う方がいましたらば是非私と一緒にやりましょう! ニコニコで生放送もしているので機会があれば遊びたいですね。
ちなみに私は相撲大好きです。一番好きな力士は昭和の大横綱 千代の富士です。なんとかこのSSに相撲の話を取り込みたかったんですよね。それでは以下次回!