ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味 作:むこ(連載継続頑張ります)
こんばんは、今回で稽古回だと言ったんですが…。やりとりとか取り入れた結果、尺が伸びました(またかよ)物語の進展はそこまでないですが、ユウキはキリトにある約束をします。
その約束を守れるようにするためユウキは今日も頑張ります。日常会に近い話となっております。そしてこの22話の内容で半日以上悩んでいる間にUAが7500、そしてお気に入りが100件突破いたしました!!本当に、本当にありがとうございます!!
感想も、アンケートの方もご意見たくさんいただいておりまして皆さんとの繋がりを実感してる次第でございます。もう一度言います、本当にありがとうございます!
今後も変わらぬご贔屓にたばかれるよう不撓不屈の精神で不惜身命を貫いてまいります。それでは、第22話どうぞ!
西暦2026年2月2日月曜日 午前8:00 桐ヶ谷邸
和人は深く眠りについていた、ここ三日間は波乱の毎日だった。SAO事件の時も波乱ばかりだったが、あの時とは違うベクトルで波乱の毎日を和人は過ごしていた。肉体、精神共に疲労困憊の満身創痍だ、しかしそのお陰か昨夜は深い眠りにつくことが出来ていた。
「ん、朝か……今何時だ……?」
目を覚ました和人は窓際の壁に掛けてあるデジタル時計に目線をやると、寝ぼけ眼をゴシゴシ擦りながら今現在の時刻を確認した。しかしその時刻を目にした瞬間、和人は顔面蒼白となった。デジタル時計の表示は学生の和人にとって、この時間に寝ていては不味い午前8時を記していた。
「がっ……はっ、8時イィッ!? マズい遅刻だッ!!」
和人は時刻を確認するなり慌ててベッドから飛び出し、急いで寝巻を脱ぎ散らかしていつも着ている学生服へと着替えた。しかしその着替え模様といったらだらしがなく、靴下は左右逆に履くわワイシャツのボタンは留め間違えるわで散々なものであった。人間焦るとロクなことがないことの表れだ。
慌てて着替えを終わらせると勉強道具一式や授業用のタブレットをカバンに詰め込み、ブレザーの上着を片手に持って抱えながら扉を乱暴に開けて廊下に出た。続いて部屋の目の前の階段を駆け足で一階に降りるとダイニングにいるはずの母親に朝の挨拶を交わす。
「盛大に寝坊した!! 母さん朝ごはんはいらな……い? ……あれ?」
和人が冷静にダイニングを見渡すと、そこに母親の姿はなかった。いつもなら9時出社なのでまだ家にいるはずなのだが、すっかりもぬけの殻となっていた。そしてテーブルの上には登校前の朝食としていつものパン食ではなく、しっかりとした和食のメニューが並べられていた。更に食器の側に和人宛だと思われる翠からの書置きも残されていた。
「おかしいな、もう出たのかな」
ダイニングやキッチンを見渡して母親の姿を探すが、母親どころか妹の直葉の姿もどこにも見当たらなかった。やがて埒が明かなくなった和人はテーブルに置かれている書置きを手に取って、まじまじと読み始めた。
「えっと、なになに……?」
" 和人へ、今日お母さんちょっとだけ早い出社なので朝ごはん作って置いておきます。たまには和食でも胃に詰め込んでおきなさい。休学届は昨日しっかり受理してもらったからあとは和人がどんだけ頑張るかにかかってるわ、必ず木綿季ちゃんを助けるのよ!
P.S. この前作った宣伝は私のパソコンからクリック一つでトピックスに表示できるようになってるから、そのタイミングになったら絶対に連絡を頂戴ね? プロモーション効果は少しでも多い方がいいでしょ? しっかりやりなさい。 翠 "
その手紙を読んだ和人はハッとした、そうだ、休学届を出してもらったから、木綿季の病気が治るまで学校を休むことになっていたのだ。本人はすっかり忘れていた。
「さ、さっきの慌てっぷりはなんだったんだよ……」
和人はほっと胸をなでおろすと大きなため息を吐き、脱力しながらも食卓に着いた。どうも人間というものは、毎日の習慣は抜けきらないものであるとつくづく思った。とりあえずの時間が出来た和人はテーブルの上に乗られた朝ごはんの献立に目を通していた。
「塩鮭、岩海苔に卵焼き。そして味噌汁か、珍しいな、うちで和食なんて」
和人は炊飯器から自分のご飯を茶碗に盛ると席に着いて「いただきます」とだけ言うと白いご飯の上に鮭をほぐし、口へと運んだ。少ししょっぱいがそのシンプルな濃い塩味が、白飯といい感じに合うのか、和人は次から次へと朝ごはんを口へ運んでいった。
「うん、美味い。たまにはパンじゃなくて白いご飯もいいな……」
表面がつやつやで、湯気が立ち上る白いご飯と、色とりどりのおかずを順番に口へ運び続けるたびに、和人の食欲は掻き立てられていった。日本人ならやっぱりお米だと、和食にありつけられることに幸せを感じていた。やがて朝から茶碗三杯ものご飯と、出されたおかず全てを平らげた和人はすっかり満腹になり、満足そうな表情を浮かべていた。
「ご馳走様……っと」
和人はそう言いながら右手に持っていた箸を皿の上に置き、一息入れると使った食器類を流しへ運び、蛇口をひねって水を出すと、右手に洗剤のついたスポンジを持ち、そのまま自分で洗い始めた。水の流れる音と、食器をこする音だけが桐ヶ谷家のキッチンに響き渡っていた。10分ほどの時間を費やして使ったすべての食器の洗い物を済ませた和人は、今日やることを頭の中で整理していた。
「ふう……さて、今日は12時頃にライブの打ち合わせとユウキの歌のレッスンだったな……」
昨日はユウキに病気が治る可能性があることを伝えた。そのために骨髄ドナーを数多く集めなくてはいけないこと、集めるためにライブに参加し歌を歌い、イベントを成功させて、世界中からドナーを集うことを、一から細かく説明した。
しかしそれを成功させるためには、ユウキの努力と、自分たちのバックアップにかかっているといっても過言ではない。セブンやスメラギ達にまかせっきりにするわけにはいかない。自分にも何か出来ることがあるはずだと、和人は頭の中で考えていた。
「……ようし、ちょっと早いかもだがもう出るか」
和人は洗った食器類を戸棚に仕舞うと階段を上がって自室へ戻り、今度は全身真っ黒の私服に着替えを済ますと、壁に掛けてあるライダージャケットを手に取り、ベッドの上に置いてある財布とスマホをポケットに仕舞って外出の準備を済ませた。
部屋を出て、階段を降りて玄関まで足を運び、家の鍵を閉めて敷地内に停めてある愛車の元へを歩を進めていった。今日も今日とてこいつの世話になるのだ。
「ん、ガソリンがなくなりかけてるな。行きにスタンドかなんかで給油しなくちゃあな……」
「あら、和人ちゃん今から学校?」
和人がバイクのエンジンをかけようとした所でお向かいに住むおばちゃんが声を掛けてきた。和人とは小さいころからの顔見知りで、年齢は四十歳ほどの如何にもおばちゃんといったおばちゃんだ。和人はおばちゃんの声掛けに気付くとシートに荷物をまとめながら、挨拶を返した。
「あ、おはようございます。実は学校は今休学してるんですよ。友達が入院してまして……病気が治るまでずっと付き合うって決めたんです」
「あらっ偉いわね~、自分の成績を犠牲にしてまでなんて。そこまでするってことは、ひょっとしてこれかしら?」
「え、ええ……まあそんなところです……」
「あらあらまあまあ若いわね~和人ちゃん! 頑張りなさいよ! おばちゃん応援してるから!」
「あ、ありがとうございます。えっと、んじゃあ俺はもう出かけます!」
おばちゃんが片手の小指を垂直に立てると、和人は首を縦に振りながら肯定の返事を返した。そして噂大好きのおばちゃんがトリップして暴走し始めるよりも早く、和人は自宅を後にして横浜港北総合病院を目指し、バイクを走らせた。途中のセルフのガソリンスタンドに立ち寄り、タンクいっぱいにレギュラーを給油して、愛車に元気を注入していった。
「しかし今から木綿季の病気が治るまで休学するとなると、三学期をほとんど欠席することになるな……。もしかしたら留年しちまうかもだな……」
給油をしながら和人は学校の成績について考えてた、一学期、二学期の成績が良いとはいえ、流石に三学期をまるまる休んでしまったら成績は格段に落ちてしまう。そうなると留年という可能性を懸念しなくてはいけなくなる。
「まあそれならそれで構わないかな……、なんなら来年度全部休んだって……俺は別に……」
むしろそれはそれで美味しいかもしれない、木綿季は怒るかもしれないが和人が来年度も留年すれば、ひょっとしたら木綿季と学校にいけるかもしれないのだ。和人の通っている学校はSAO事件の被害者が生徒として通っている、同じ学年でも年齢が離れているということは珍しくない。つまり、和人と木綿季が同じ学年同じクラスでもなんら変な話ではないのである。
「そうなったら楽しいだろうな、ちょっと留年でもしてみようかな、なんてな」
それをしたら流石に世間体的に回りからの視線が痛くなる、妹の方が先に高校を卒業して先を越されるとかはちょっと兄貴としてどうなんだろうと和人は思い始めた。それよか自分のことよりまずは木綿季のことを心配しなくては。そう胸に抱いて、給油を終えた和人は病院へと、再度バイクを走らせた。
――――――――
同日午前10:45 神奈川県横浜市金沢区 横浜港北総合病院
「三日連続……、ハットトリックだな、ははは……」
木綿季のためとは言え毎日毎日自分でもご苦労なこったと思う。でもそれで木綿季が喜んでくれるのなら全然かまわない。自宅からでもアミュスフィアを被れば仮想世界でユウキといつでも会えるのだ。しかし和人はわざわざ病院まで足を運んでいた。木綿季の方も直接和人が来てくれた方が嬉しいに違いないし、何より和人だって木綿季の近くにいたかったのだ。
「おはようございます……」
自動ドアを通り、エントランスを通過して受付に足を運んだ和人はフロントのお姉さんに面会に来たことを伝える。
「おはようございます、ご面会ですね? それではお名前と、入院患者さんのお名前をお願いします」
「あ、ハイ。桐ヶ谷和人と言います。患者さんは紺野、紺野木綿季です。メディキュボイドの被験者の……」
「! あなたが桐ヶ谷和人さんでしたか、倉橋先生からお話は伺っています。先生に話は通しておきますのでこちらから直接向かわれて大丈夫ですよ?」
「あ、本当ですか。ありがとうございます、ではそうさせてもらいます」
和人は受付の人にそう言われると、倉橋が特別病棟に立ち入る際に使っているパスと、面会者プレートを受け取り、受付を後にした。
しかし物凄く話がスムーズに進んでいる。どうやら和人はここの常連というかちょっとした有名人になっているみたいだった。しかし、メディキュボイドの被験者を毎日見舞いに来ている珍しい人というだけでなくこう、なんていうか浮ついた視線をあちらこちらから感じとっていた。
(き、気のせいか? なんか物凄くあちらこちらから視線を感じるんだが……?)
和人の予感は間違ってはいなかった。かなり浮ついた視線を、特に女性の看護師さんや医療スタッフからの視線を周囲から感じていた。普通ならここまで熱烈な視線は向けられないだろう。ただの来院者なのだから。しかしそうなると恐らくこの原因は昨日にあったと思うのが妥当だ。昨日帰るときまではこの様な視線は感じなかった。
(ま、まさかとは思うが昨日のあのコト……病院中に聞かれてたかもしれないってことか……!?)
昨夜、実際に和人はそれぐらい聞かれてもおかしくないぐらいの声量で叫んでいた。木綿季に俺の一生を捧げる、木綿季は俺の人生そのものだ、俺そのものだ……と、渾身の力を込めて精一杯叫んでいた。それはそれは病棟内はおろか、病院の窓の外にまで響き渡るほどの大ボリュームだったそうだ。
「あれが病院中に……丸聞こえだと……?」
認めたくない真実を目の当たりにした、途端和人は顔を真っ赤にしてうつ向いた姿勢のまま木綿季のいる病室を目指した。出来るだけ目立たないように、出来るだけ地味でいるように心がけて一歩一歩歩いていった。しかし既に和人は有名人である所為か、向かう道中に看護師さん達がちらちらこちらを見ながら、ひそひそ話をしている様子がうかがえた。
「ねね、あの子じゃない? 紺野さんの王子サマって……」
「あ、きっとそうよ! へぇ~……結構可愛い顔してるじゃない! 私の好みだわ……、紺野さんも隅に置けないわね」
……や、ヤバイ、恥ずかし過ぎて死にたくなってきた。俺はなんてすごいことをしてしまったのだろう、早く木綿季の病室へ辿り着きたい。行って誰からの視線も送られない所に身を投じたい。
「頑張ってね~王子サマ~!」
とうとう直接的な野次まで飛んできた。もうだめだ、限界だ! 恥ずかしくてここにはいられない! 早く、早く木綿季の病室に……! そう思った和人は、とうとう走ってはいけない病棟で小走りから更に足の速度を上げ、走り出してしまった。居ても立っても居られなくなってしまっていたのだ。
急いで走っていると、病棟の雰囲気が少し変わりいよいよ木綿季の無菌室が見えてきた。あとちょっとだ、あとちょっとで木綿季と会える。何よりこの恥ずかしい空間から逃げ出せる。焦り更に足の速度を上げ、通路の角を曲がろうとそう思った次の瞬間、壁の向こうを歩いていた何者かに追突してしまった。
「バボッ!?」
「ぐあっ!?」
和人から追突されてしまったのは、木綿季の主治医の倉橋であった。和人に思いっきり体当たりされた倉橋は尻もちを搗きながら、持っていた書類を床に派手にぶちまけてしまったていた。和人もぶつかった衝撃で後方に倒れるも、すぐさま何が起こったかの状況を確認し、倉橋にぶつかってしまったんだなという事実を把握していた。
「す、みません倉橋先生! お怪我はありませんか……?」
「あいたた……、わ、私は大丈夫です。しかし和人君だめですよ、廊下……それも病院で走ったら危険です。ぶつかったのが私でよかったですよ。これが患者さんだったら、取り返しのつかないことになっていたかもしれませんよ?」
「は、はい……ご、ごめんなさい……」
倉橋は和人を優しく諭しながら床に散らばっている書類を拾い始めた。和人も慌てて、申し訳ないと思いながらも必死にぶちまけられた書類をかき集めていた。
「考えてみてくださいね? もしも和人君が車椅子にのっている木綿季君を介助していて、急に誰かが木綿季君にぶつかってきそうになったら……どうしますか?」
「……そ、それは……」
「それと同じことです。病院は私達のように五体満足で暮らすことの出来ない人たちだっています。そのことを忘れないでくださいね」
「……はい、本当に……申し訳ありませんでした」
和人が反省の色を見せながら深々と頭を下げ、謝罪をすると倉橋は「よろしい」と笑顔になった。無菌室のある方にいたということは、倉橋も木綿季に用があったのだろう。和人が面会に来てくれたため、足並みを揃えてガラス張りの面会室前へと一緒にやってきてくれていた。
「和人君、今日も来ていただいてありがとうございます。学校の方は大丈夫なんですか?」
「あ、はい。実は休学届を提出しまして、木綿季の病気が治るまで……ずっと付き合うことに決めたんです」
「そ、それはそれは……なかなか勇気がいる決断ですね。君は……それだけ木綿季君が大事なんですね」
「……はい、木綿季は今の俺にとって、生き甲斐ですから……」
倉橋は和人がどれだけ木綿季を大切に想ってくれているかを知ると、優しい笑顔になっていた。こんな素敵な男の子に好意を寄せられて、木綿季君は本当に幸せ者だと、そう思っていた。
心が温かくなるのを感じた倉橋は、和人を木綿季と会話が出来るようにするために、前回と同じようにパネルを慣れた手つきで操作し、ブラインドを解除すると、マイクのスイッチを入れ、メディキュボイドの中にいる木綿季に向かっていつもの挨拶を交わした。
「おはようございます木綿季君、今朝の調子はいかがですか?」
『はぁーい! 倉橋先生おはようございまぁす! ボクは今日も絶好調ですよ!!』
面会室のスピーカー越しに木綿季の元気な声が聞こえてきた。この声を聴くたびに安心出来る、ちゃんと木綿季が生きてるって実感できる。和人はほっと胸を撫でおろすと、愛する人がいる無菌室に向かい、声を掛けた。
「おはよう、木綿季」
『……えっ? か……和人!?』
「やあ、今日も来たよ」
『和人……今日も来てくれたんだ! ……ありがとう、ボク……すっごく嬉しいよ……!』
朝一番に大好きな男の子の嬉しい訪問に、声のトーンを上げて木綿季は喜んでいた。病気で死ぬしかないと思っていたボクに希望を与えてくれた和人が、今日も来てくれた。ボクを助けるために、今日も来てくれた……!
『でも学校とか大丈夫なの? 確か和人は学生さんでしょ……?』
「ああ、そのことなら大丈夫だよ。昨日休学届を受理してもらったから、お前の病気が治るまでずっと付き合うことに決めた」
『えぇ!? そ、そうなの!?』
「ええ、和人君の意思は本物です。本当に心から木綿季君のことを想ってないとここまで出来ません」
「いいんです先生、俺が好きでやってることですから。学校なんて一年や二年遅れても、構いやしませんよ」
『……和人、その、えっと……ごめんね?』
「おいおい、何で木綿季が謝るんだよ、言ったろ? 俺が好きでやってることだなんだから」
『えっと、それはそうかもしれないけど……』
「それにな、俺にとっては木綿季が一番大切だ。何より俺もお前とずっと一緒にいたい……」
『あう……、う、うん……、ありが……と……』
木綿季は顔を真っ赤にして恥ずかしがってしまった。自分のためにしてくれることは大変に嬉しい、しかしこうも歯の浮く様なセリフを並べられるとこっぱずかしくなってしまうのも確かだった。何でこうも当人は後先考えず、恥ずかしがらずに言えるのだろう。
『和人ってさ、結構……図太いよね』
「そうか? リハビリしてまだ筋肉少し戻ってきただけだけど、そんなに太ったか?」
『そ、そういう意味じゃないッ!!』
図太くて頼りになるくせに、こういう感性については鈍い和人に、木綿季は呆れてしまっていた。ちょっとしか会話をしていないはずなのに、既に木綿季は肩を落として疲れていた。VR空間の中なのにである。
『ねえ和人、ALOにこれないかな……?』
「ああ、そのつもりだよ。セブンたちとの合流時間まで余裕あるし、会いに行くよ」
『やった! それじゃあボク、向こう側で待ってるから!』
「ああ、向こう側で会おう」
和人は木綿季と会話を済ませると、後ろのベンチで微笑ましそうに腰かけている倉橋とアイコンタクトを済ませ、奥の部屋に足を運び、持ってきたアミュスフィアで意識を仮想世界へとゆだねていった。
「……リンク・スタート!」
――――――――
同日 同時刻 ALO内、世界樹の街 アルン 緑の丘
ALOにログインし、アルンの街に降り立ったキリトは、現在の時間を確認していた。今日は正午からセブンたちとライブの打ち合わせ、そしていよいよユウキの歌のレッスンが始まる。ユウキはソロで歌うことになっている、個人の実力が試される場になるので、きっとハードなレッスン内容になるに違いない。そう思いながら空を見上げて佇んでいると、キリトに近付いてくるプレイヤーの姿があった。
「キーリト!」
「お、ユウキ……オボッ!?」
キリトが声のした方を向くと、すぐ目の前までダッシュで迫ってきているユウキの元気な姿があった。ユウキは真っすぐにキリト目掛けてステップすると、大好きなスプリガンの男の子の胸に飛び込んでいった。キリトは少しだけグラつきながらも、恋人であるインプの女の子をしっかりと受け止めていた。
「キリト、今日は受け止めてくれたー!」
「ああ、そうくる気がしたからな」
そう言いながらキリトは右手をユウキの頭にあてて、さするようにして撫でていた。ユウキはそんなキリトの胸板に頭をうずめ、擦りあてて幸せそうに精一杯キリトに甘えていた。
「えへへ……キリト~……」
「何だ、今日は随分甘えん坊だな、何かあったか?」
「だって……ずっと会いたかったから……♪」
「そうか、俺も会いたかったぞ」
「えへへ♪ ありがとね、キリト!」
「ああ、どういたしまして」
再会を喜んだ二人はセブンたちとの約束の時間がやってくるまで、のんびり話でもしながら待とうということに落ち着いた。互いに告白してからはゆっくりとした時間を得られなかったのもあり、今ぐらい恋人らしいことをしようということだった。
「ねえ、キリト」
「ん? なんだ?」
「あのさ、キリト……ボクにしてほしいことないかな?」
「してほしいこと?」
「う、うん。ボク、ずっとキリトに助けられてばっかりで、ボクからは全然何もしてあげられてないから、何かキリトが喜ぶことしてあげられないかなって……」
女の子座りで自分の髪の毛を指でいじくりながら、ユウキがもじもじと照れくさそうにキリトに話を持ちかけた。何かお返しがしたい、お礼がしたい。ボクの気持ちをキリトに伝えたい、喜んでもらいたい。そう思ってわくわくしながらユウキはキリトからの返答を待った。
「ありがとな、でも俺はユウキが元気な姿を見せてくれるだけで十分だ。ユウキと一緒にいるだけで、俺は心の底から癒されてるんだ。今のままでも十分俺にお返しはしてもらってるんだ」
「え……で、でも……」
「気持ちだけ受け取っておくよ、今は病気を治すことに専念しようぜ?」
「うぅ……ボ、ボクだってキリトに何かお返ししたいよ。お願いだからボクにも何かさせてよ! ねえ……キリトォ……」
ユウキはキリトの胸板に顔を当てこすったまま、そのまま上目遣いでキリトをまっすぐ、瞳をうるうるとさせながら見つめていた。その顔を至近距離でまともに見てしまったキリトは観念したのか、顔を赤面させてあっさりとユウキからの提案を飲んだ。ユウキの十八番をされたとあっては、男でも女の子でも断りきれないだろう。
「うっ……、えーっと……そうだな……」
「何か! 何かない? キリト!」
ユウキはうきうき嬉しそうにキリトの返事を待っていた。両手を上下に交互にぶんぶんと振り、まるでデパートの買い物の時におもちゃをねだる子供のように、楽しそうにキリトから答えが返ってくるのを待っていた。
「んじゃあ、お願いというよりも一つだけ約束をしてくれないか?」
「約束……?」
「病気が治って、無事に退院出来たら、俺……ユウキの手料理を食べてみたい」
「え、料理……!?」
「ああ、ダメか……?」
手料理を作ってくれと言われた瞬間、先程の明るい様子が一変して、ユウキはバツが悪そうに暗い顔をして俯いてしまった。手を後ろに回し、視線をキリトから逸らして細々と声を出していった。
「えっと……その、キリトごめんね、ボク……お料理出来ないんだ……」
「えっ……、あ、そ、そうなのか……。わ、悪い……変なこと言っちまって……」
空気がすこしだけ気まずくなってしまった。キリトはアスナの影響が強いのか女の子
「んーん、別にキリトは悪くないよ」
口ではそう言ってキリトのフォローをしてくれていたユウキだったが、明らかに肩を落として落ち込んでしまっていた。
キリトが言葉を詰まらせて困っていると、ふとなにか思い浮かんだのか、ユウキは頭を上げて顔に指を当てて思い出したことを呟いた。
「あ、でもボクね、あれなら作れるよ?」
「アレ……?」
「うん、ボクご飯とかは全然だめなんだけど、和菓子なら……少し作れるよ?」
「へぇ……ユウキ、和菓子なんて作れるのか!むしろ料理よりそっちの方がすごいと思うぞ?」
「死んだお婆ちゃんの作ってたとこを見てたんだ。ボクにもやらせてって言ったら、喜んでやらせてくれたの。それからは夢中になっていろんな和菓子を作ったよ?」
「そうなのか……」
「そりゃ和菓子屋さんみたいなすっごいのは作れないけど、スーパーとかにあるようなものは……大体作れるよ」
ユウキは懐かしいな……と思うような切ない表情で空を見上げていた。キリトもそんなユウキに釣られるかのように、一緒に同じ方向を見つめていた。
「初めに作ったのはね、お団子だったんだ。二人でよく作って食べてたよ。ちゃんと出来たらおばあちゃん喜んでくれて、次から次へと色んな和菓子の作り方教えてくれて……」
「……楽しそうじゃないか……」
「うん、すっごく楽しかったよ! ボクや姉ちゃんがHIVに感染してるって知っても変わらず接してくれて、他の親戚の人たちはボクらを腫物扱いしてたんだけど、おばあちゃんだけはずっと可愛がってくれた」
「いいおばあちゃんじゃないか……」
「うん、大好きだった。だから和菓子作りはボクのおばあちゃんとのつながりの証でもあるんだ……」
「そうか……素敵だな、ユウキのおばあちゃん……」
「…ウン。おばあちゃん、もう会えないけど……おばあちゃんの味はね、ボクが全部覚えてる。だから……」
ユウキは胸に手を当てて上半身だけキリトの方へ向け、ちょっとだけ困ったような顔をしながら、キリトへお願いの言葉を送った。
「病気が無事治って、退院出来たらさ、キリトに……ボクの作った和菓子を食べてもらいたいな……」
「和菓子か……」
「だ、だめ……かな?」
「だめなもんか、むしろ食べてみたいぞ?」
「ホント!? やった! えへへ……ありがと!」
「れ、礼を言うのはちょっと変じゃないか? 俺がお前に何かしてもらうんだぞ?」
「え? ……あ、そうか……そうだったね、えへへ……♪」
ユウキは舌をペロンとだしながら自分の後頭部をぽりぽりとかきながら、彼女らしい明るい表情へと戻っていった。ユウキが抱えている心の闇は、正直キリトの想像以上に深いだろう、しかしこれから大切な時間を作っていくことで、それを明るく照らせていけるんじゃないかと、キリトは感じていた。
この先どんなにつらく、険しい壁が立ちふさがってくるとしても、俺がユウキの傍にいて支え続けてやる。キリトは一層、固く心に誓った。
「……っと、そろそろ予定の時間だ、俺のホームにいくか」
「うん! ちょっと緊張してきたけど……、ボク頑張る!!」
「ああ、応援してるからな、ユウキ!」
ユウキに激励の言葉をかけると、キリトは一足先に翅を広げ、地上から50センチほどの高さでホバリングしながら、ユウキに左手を差し伸べた。
「あ、えっと……ありがと、キリト……」
ちょっとこのエスコートのされ方は恥ずかしかったが、ユウキは嬉しそうにキリトの手を握り返し、自分も翅を大きく広げてキリトと一緒の高さまで体を浮かび上げていた。そして互いに満面の笑みを見せ合うと、アルンの街にある転移門目がけて、手をつなぎながら飛んでいった。
「どうしたユウキ、えらくご機嫌だぞ?」
「えへへ、何でもないよーだ♪」
「……? へんなやつ……」
(ありがとうキリト……大好き……)
ユウキはまた、生きる希望を一つ見つけることが出来た。その希望を形にするためにも、これから大変な試練に立ち向かうことになる。しかし、今の彼女ならつまづくことはあっても乗り越えられるはずだ。
何故ならユウキには、心から信頼している一生涯のパートナーがいるからだ。この関係が今だけで終わらないように、ユウキは前を向いて進んでいった。
「さ~~て、次回のユウキさんは~?」
「キリトです、セブンと歌のレッスンを続けるユウキですが、やはりプロの目は厳しく何度も何度もやり直されます。ユウキ自身のためにやってくれてることなのですが、あまりにも厳しくてユウキは挫けてしまいます。一体この先どうなるのでしょうか?(棒読)」
「次回は、第23話~レッスン~の1本だよ! 次回もまた見てくださいね! ジャン! ケン! マザーズ・ロザリオ! えへへへ♪」
何だこの茶番。