ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味 作:むこ(連載継続頑張ります)
こんばんは、今日は仕事休みだったのでなんとか3話分投稿できました。思い立った時に書かないと内容が吹っ飛ぶので即行動を心がけてます!
そして活動報告でも書きましたが、UAが10000突破いたしました、
本当にありがとうございます。
10.000突破記念に新たなアンケートを設けましたので、差し支えなければご参加いただければと思います。
もう一度言います、本当にありがとうございます。それでは26話、ご覧ください。
西暦2026年2月2日(月)午後18:10 メディキュボイド仮想空間 木綿季の部屋
「この歌詞……ボクの今まで歩んできた、人生のもの……なんだ」
その言葉を聞いた瞬間、和人はあまりの衝撃に絶句してしまう。慌てて木綿季のもつ仮想メモに書かれている歌詞に目を通す。そして1フレーズずつ、意味を確かめていく。
その歌詞の中には木綿季の昔の、当時の心境を表現したものもあれば、つい最近起こったであろう出来事を思わせるようなものも書かれていた。
「な……こ、これは……どうなってるんだ……?」
和人はこの紙切れに書かれていることが信じられなかった。何故こんなにも木綿季に関連性のあるフレーズばっかりが載っているのだろう?
七色は木綿季の過去の出来事を知っているとでも言うのだろうか?
「…………」
二人は食い入るように歌詞を見つめる。その表情には焦りと疑問が窺え、額から汗が滴り落ちている。
「やっぱりどことなく……木綿季のイメージを思わせる歌詞を意識してるように感じるな」
「和人……これってどういうことなんだろ……、この曲を用意したのはセブンだし、やっぱりセブンが……?」
「……それは作った本人にしか分からないだろうさ」
二人の間に静寂が流れた。
メディキュボイドの仮想空間に存在する、ホロパネルのシステム音だけが、その狭い空間にかすかに響いていた。
「でもボク……なんかこの歌詞嫌いになれないんだ。むしろなんか……ボクが歌うために生まれてきたような、そんな曲のような気がする」
木綿季は神妙に、そしてどことなく神秘的な顔をして、歌詞を見つめている。
この歌を歌うのは彼女しかいない。そう運命づけられている。そんや気がしてならなかった。
「木綿季……大丈夫か……?」
「うん、大丈夫。でもなんだろな……この歌詞さ、最初は意味なんて全然分からなかったけど、理解出来ると……なんか悲しいんだ」
「……悲しい?」
「うん、でも……悲しいけど、温かさも感じるの。温かくて懐かしくて。えへへ……変かな……こういうの」
木綿季はそう言いながら苦笑いを浮かべている。確かに一見悲しさを思わせるような歌詞だが、和人も何故か嫌いにはなれなかった。
この歌詞と、いや、歌と一体化することによって、木綿季自身が成長することが出来るのではないかと、そう感じていた。
「いけそうか?」
「うん、よくわかんないけどて頑張れそうな気がする!」
「……そうか」
和人はそう言って安心した表情を見せると、木綿季をゆっくりとこちら側へ抱き寄せた。
「か、和人……」
「今日はよく頑張ったな……木綿季」
「ううん……、和人が……和人が元気づけてくれたからだよ……」
「そんなことないさ、あれはきっかけに過ぎない。実際に頑張ったのは木綿季なんだから、木綿季が偉い」
「……もう、和人ってそーゆーとこ結構頑固だよねえ……、んじゃあ、お言葉に甘えてそゆことにしておこっかな♪」
二人は体を寄せあったまま、目を閉じ静かに仮想空間の中で静寂を過ごした。
木綿季が今まで感じたことのない、メディキュボイドの中で初めての温かさであった。
――――――
「ねえ、和人……?」
「…………」
木綿季が呼びかけても和人の反応はなかった。何かおかしいと思い、木綿季は彼の顔を覗き込んでみる。
自分の体に肩を預け、前髪で隠れている所為で顔がよく確認出来ない
「……和人?」
「……スゥ……」
相当な疲れが溜まっていたのか、和人は一人先に夢の世界へと旅立っていた。
女の子みたいな顔をし、すうすうと寝息を立てながら、無防備に寝顔を晒している。
木綿季はその寝顔に一瞬ドキッとしつつも、今現在の状況をどうしようかと頭を悩ませている。
「え、えっと、ど……どうすればいいの、この状況……」
木綿季は迂闊に動くことがままならなかった。
変に今動いてしまうと、和人は重力に負けてずり落ち、仮想空間の床に頭をぶつけてしまうだろう。
仮想空間なので痛みはないが、しっかりと衝撃自体はあるので、間違いなく和人は起きてしまう。
「……起こしちゃ悪いし、しばらくこのままでいいかな……? なんだったら、ずっとでも……」
「……木綿、季……」
和人は眠りながらも、愛する女の子の名前を呼んだ。
木綿季は一瞬びっくりしたが寝言だということが分かると、やわらかな表情で和人を見守り、彼の頭をそっと撫で回す。
そして、ふとある事を思い出すと、右手でメニューを表示させ、メディキュボイドのアプリ機能の一つである、ドクターコールアイコンをタップする。
「先生、倉橋先生! ちょっと……お願いがあるんですけど、今いいですか?」
この通信は倉橋の事務室にある業務用PC、並びに院内ローカル通信専用のスマートフォンに繋がるものだ。
呼び出しを始めてから三十秒程経過すると、無菌室の前に倉橋がひょこっと姿を現し、木綿季に声を掛ける。
『お待たせしました木綿季君、えっと、どうかしましたか?』
「あ……倉橋先生、急に呼び出してすみません。あの……ちょっと和人の様子を見てきてもらっても、いいですか?」
『和人君の? 彼に……何かあったんですか?』
「えっとその、奥の部屋を見てもらえれば……分かると思います」
木綿季の逐一濁したような言い方に、倉橋は頭に?マークを浮かべ、彼女に言われるがまま隣の部屋に足を踏み入れる。
そして隅っこに目をやると、アミュスフィアを被ったままの和人が無防備で仰向けに横になっている姿が飛び込んできた。
パッと見はただのフルダイブ中の人間だ。
しかし彼がどこにアクセスしているか、そのアクセス先の木綿季が何で一人で困っているのかと考えると、察しがついたのか、くすっと笑いながらまた木綿季の前に顔を覗かせる。
『あはは、さては木綿季君のところで寝てしまってるというわけですね?』
「は……はい、寒いので風邪ひかないように、毛布か何かかけてあげてもらっていいですか……?」
木綿季からのお願いを聞き届けると、倉橋は「分かりました」とだけ笑顔で答え、別室から薄ピンク色の毛布を持ち出し、現実の和人の体にそっとかけてあげた。
「あ、ありがとうございます……先生」
『いえいえ、これぐらいのことはなんでもないですよ』
普通はこういった雑用めいたことはナースコールで看護師を呼び出してやってもらうのが、普通だ。
しかし倉橋はこういったことも喜んでやってくれる。自分が動くことで木綿季のためになるのが嬉しくて、自ら積極的に動いてくれている。
『木綿季君は休まないのですか?』
「ええっと、休もうとしてるんですけど、ボクが動くと……その、和人が起きちゃうので……」
『ははぁ……なるほどなるほど、そうゆうことですか……ふふふ』
「も、もう……先生ー!」
倉橋はからかうような笑みを浮かべると「すみません、面白かったのでつい」とだけ言葉を漏らすと「また何かあったら呼んでください」と言い残して、無菌室を後にして再び仕事に戻っていった。
ここ最近、非常に濃い毎日が続いている。
病気はまだ治ってないし、この無菌室からも出られてないけど、ここ数年で一番充実しているかもしれない。
でも、ちょっとその分ちょっと疲れちゃった……かな。和人を見てると……なんだが眠くなる……。
「ボクも寝ようかな……、この体勢のままでも、別にいっか……」
口を開け、大きく欠伸をすると木綿季も和人に体重を預け、ゆっくりと瞳を閉じ、大好きな人の名前を呼んで眠りについた。
誰よりも頼りになる、逞しくてカッコイイ、女の子みたいな顔の男の子の顔をそっと撫でながら。
「おやすみ……和人……」
――――――――――
翌朝 西暦2026年2月3日(火)午前4:45 メディキュボイド仮想空間 木綿季の部屋
「ん……ん、うん……、ふぁ……」
木綿季が眠りに入ってから、現実では八時間余りが経過していた。
こんなに朝早く目が覚めるのは久しぶりだ。昨日早い時間に床についたこともあり、いつもより早い時間に起床した木綿季は、ゆっくりと目を開け、欠伸をしながら徐々に覚醒する。
「ふわぁ……あ、……あ? あぁっ!?」
ふと右肩に違和感を感じ、その方向を見ると木綿季はその状況に困惑した。
木綿季の顔のものすごい近い位置に、和人の顔があったからだ。
「ふぇえ!? か……和人!? どうして!?」
「……スゥ……」
和人を起こさないように姿勢を戻しつつ、木綿季は一度目を閉じ、昨日のことをゆっくりと思い出していた。
昨日は歌のトレーニングをして、めきめき上達していき、その後スメラギに宿題だされ、和人から学校に通わせてくれる約束をしてもらった。
そしてご飯を作る約束もしてもらい、その後、和人がこの部屋に来た。
一緒に頭をフルに回転させ、なんとか答えにたどり着いた。
木綿季は一つ一つ順番に思い出していった。
そして今のこの状況が、どうしてこうなったのかも。
「そうだった……、和人がこのまま寝ちゃって動けなくなっちゃったんだっけ……」
ん、あれ、ちょっとまって、昨夜と状況が全く変わってないっていうことは……。
「結局ボク動けないじゃん!!」
突如木綿季の発した大声の影響か、すぐ目の前で寝ている和人が「うーん……」という声を漏らしながら、眠たい目をパチパチさせながら、夢の世界から戻ってきた。
「ふぇあ!? あ、か……かずと、おはよう……」
「ん……おはよう……」
和人は目を覚ますと体を垂直に戻し、目をごしごしこすって周りを寝ぼけ眼で見渡していた。
いつもの自分の部屋とは違う空間。
PCもない、アミュスフィアもない。クローゼットもベッドもない。
はて、ここは一体どこなのだろうか。
「ん……、あ、あれ……ここどこだ……?」
「か、和人……覚えてないの……?」
「……え、何で木綿季が……?」
「覚えてないんだね……」
木綿季にそう言われ、和人は一度頭の中を整理すると、今自分がとんでもないことをしでかしているこの状況に、漸く気が付いたようだった。
いたいけな少女の細い体を、二つ年上のしっかりした肉体の自分がガッチリ拘束している。
「――!? ぶあ!? ゆ、木綿季!? な、何で!? 俺は……その、す……すまん!!」
事の重大さに気付いた和人は半身のまま木綿季から少し離れた。
すぐさまこの場からログアウトしたがったが焦っていたのと、仮想空間の木綿季の部屋にいたのもあって逃げ道を失っていた。
「か……和人?」
「こ、これ……どうやってログアウトするんだ!? 手をスライドしても何も出ないぞ!?」
和人は先程の気まずさと恥ずかしさを隠すかのように、この場から逃げ出そうと必死に仮想空間からログアウトをしようとしていた。
その情けない状姿に呆れた木綿季は、大きく溜め息を吐いた後に、たまらず彼に喝を入れる。
「……和人ッ!!」
「は、はイィッ!?」
すぐ近くで大声が耳の中に響き渡ると、和人はビックリして背筋をピンと伸ばし、大きく目を見開いた。
「一回、落ち着こ……?」
木綿季は声を張り和人を制止させた後、和人の側に寄り手をギュっと握り、落ち着かせる。
彼女の手からの温もりを感じた彼は、一回二回と呼吸をしていくうちに、心臓の鼓動が少しずつ、少しずつ収まっていくのを感じていた。
「落ち着いた……?」
「……あ、ああ、落ち着いた……」
珍しく慌てふためいている彼を見て、木綿季は意外な一面が見れたと内心クスッと笑っていた。
こういったことは、アインクラッドでアスナともあったであろうに。こういう時は意外にも、彼はうぶなのである。
「何かごめんな……、ってうわ……まだ朝の四時か……早く起きすぎたな……」
「そうでもないと思うよ? 昨日ボクたちが寝たのは確か、夜の十八時ぐらいだったし」
「なんだかんだで十時間ぐらい寝たのか……、でもなんだかまだ眠いし、心なしか体中が痛いような……」
仮想空間のアバターなので痛いはずはないのだが、和人は奇妙な痛みと違和感を訴えていた。どことなく顔にも覇気を感じられない。
「和人、やっぱり疲れ取れてないんじゃ……? 本当に大丈夫……?」
「ああ……大丈夫だ、木綿季の頑張りに比べれば、こんなもん……」
「平気ならいいけど、無茶しないでよ……?」
「ああ、だいじょう……ぶだ、よ――」
――和人が体に力を込め、立ち上がろうとした次の瞬間だった。
ゆっくり立ち上がったつもりが、突如全身に力が入らなくなり、バランスを失い前のめりに倒れこんでしまった。
そして彼はそのままうつ伏せの状態で、ピクリとも動かなくなってしまった。
あまりにも一瞬の出来事に、木綿季は何が起こったんだと、彼を見つめている。
「――かずと……?」
木綿季は急いで和人に駆け寄り、上半身を背中から支え、体を起こし抱き寄せて声を掛け続けた。
「和人!和人! しっかりして! 和人!」
木綿季は必死に和人を揺さぶり、意識を覚まそうとするが和人は一向に意識が戻る様子はなく、ぐったりしている。
額には汗が浮かび、どことなく顔色も悪い。仮想空間だというのに、彼の調子の悪さが目にとってわかるような具合だ。
「和人……? 起きてよ! 和人!」
木綿季が声をかけ続けても、和人の反応はない。彼女の目には次第に涙が溜まっていった。
通常、仮想世界で意識を失うということは、眠気が襲ってきたか、現実世界の肉体にフルダイブするだけの脳波が乱れるだけの、何かが起こったということだ。
「いや……いやだ、いやだよ和人……ッ、目を覚ましてよ!」
支えていた和人の体が、力なく木綿季の体からずり落ち、ドサッという音とともに仮想空間の床に倒れ込んだ。
その姿を間近で見てしまっていた木綿季の目からは、大粒の涙が零れ落ち、その瞬間木綿季の中で「何か」が切れた。
「い……いやだあああぁぁッ! かずとおおおぉぉッ!!」
木綿季が泣き叫んだ次の瞬間、和人のアバターは木綿季の目の前から白い光と共に消えていった。
和人が消えると、彼を支えていた木綿季の手が、何もなくなってしまったその空間を虚しく空ぶった。
「かず……と……?」
木綿季に更に絶望の表情が浮かんでいた。大好きな和人が目の前で倒れ、その姿も消してしまった。
何がおこっているか分からない現状と、和人が倒れてしまったというショックが重なり、木綿季は更にパニックになってしまった。
「いや……いやだ……、和人がいなくなるなんて……やだ、いやだいやだいやだあぁッ!!」
身体を震わせ、絶望の底に叩き落とされたような声を漏らしていると、何やら無菌室の外が慌ただしくなっている。
そして外を通りかかった一人の男から、パニック状態の木綿季に声が掛けられた。
『――木綿季君! 返事をしてください! 木綿季君!』
その声が聞こえると、木綿季はハッと我に返り、声のする方を見る。
そこには長年彼女を傍で支え続けてきた頼れる倉橋の姿があった。
忘れてはいけない、彼を含め、ここには医療のプロが顔を揃えている。
声を振り絞り、泣き叫ぶ思いで倉橋に助けを求める。今この状況を打開できるのは、医師である倉橋しかいない。
「うぐっ……せ、先生……倉橋先、和人が……和人が倒れて、目を覚まさなくて……消えちゃって……ッ」
木綿季はパニックに陥りながらも、必死に先ほど起こった状況を倉橋に説明した。
涙を流しながら、ヒクヒクしながら話していたので、よく聞かないとわからなかったが、それでも倉橋は木綿季の言いたいことが全てわかっていた。
『ええ分かっています! アミュスフィアの信号異常をこちらでキャッチしたので急いで駆けつけました! 万一のことを考え和人君を集中治療室に連れていきます!』
倉橋が駆け付けた後、すぐに看護師が何名か現れ和人を、患者を運ぶ白のストレッチャーにのせると、治療室へと搬送していった。
その様子を木綿季はメディキュボイドの中から、黙って見守っていることしかできなかった。
木綿季は仮想空間の巨大ディスプレイに両手をあて、項垂れながら今にも千切れてしまいそうなか細い声で、木綿季は倉橋に救いの手を求めている。
そんな不安に押し潰されそうになっている木綿季に、倉橋が励ましの声をかけた。
「せんせいお願いです……かずとを、かずとを助けてくださいッ、お願いです……かずとを……ッ」
『大丈夫です木綿季君、和人君は必ず助けます! だから木綿季君も落ち着いてください!」
「かずと……死んじゃいやだ、ボクを……独りにしないで……ッ」
木綿季は仮想空間の中で両手を組み、必死に神に祈っていた。
お願いします、和人を助けてください。もう贅沢なんて言いません。
どうか和人をそっちに連れていかないで下さい……。
――――――
あれから一時間半ほど時間が経過した。倉橋は医療スタッフに和人のことを任せると木綿季を安心させるために無菌室へと戻ってきていた。
『木綿季君……大丈夫ですか?』
「……はい、少し落ち着きましたて」
メディキュボイドの外から、倉橋が木綿季に声を掛ける。木綿季が安心出来るように優しく、やわらかな口調で語り掛けてきた。
『おそらくそろそろ検査結果がくると思います。大丈夫ですよ、ここには医療のプロがそろっています。和人君を死なせはしません』
「……はい……」
木綿季の顔は涙で真っ赤になっていた。少し落ち着きを取り戻したものの、心の中は和人への不安でいっぱいだった。和人の安否が気になって仕方がないと言った様子だ。
「和人……死んじゃいやだよ……、和人がいなかったら……、ボ、ボク……ボクは……ッ」
――もう生きていけない。
そう弱音を吐こうとした瞬間、看護師から倉橋のもとへカルテが届けられた。
その様子を見た木綿季は、すぐさま検査結果をまじまじと見つめる倉橋に食らいつく。
「先生、和人は……和人はどうなったんですか!」
木綿季は興奮しすぎて、仮想空間内の巨大ディスプレイの画面ぎりぎりまで身を乗り出していた。
すぐ目の前には倉橋の顔が映し出されている。その顔つきはあくまでも冷静で、一人の医師としての表情をしている彼の姿があった。
『木綿季君、まずは落ち着きましょう。あまり興奮しては木綿季君の体によくありません。折角和人君が木綿季君のためにいろいろ尽してくれて、体の調子もよくなっているのですから……』
「……はい……」
まだ心臓がバクバク鳴ってる。怖い、和人の容態を聞くのが怖い。
とんでもない病気なんじゃないか? ボクの所為でああなってしまったのではないかと。
不安を胸に抱きながら、木綿季は倉橋からの話に耳を傾ける。
『……安心してください木綿季君、命に別状はありません。和人君は"過労"です」
「……か、ろう……?」
その瞬間、木綿季は仮想空間内で崩れ落ちた。
緊張感が一気に解け、全身の力がすっかり抜けてしまったていた。
過労? 病気じゃなくて本当にただの過労? 頭の中を色々な情報が交錯し、入り混じる。
『ええ、ただその影響で熱も出ていて、呼吸も荒く、血圧も上がっています。とてもではないですが、外を出歩かせるわけにはいきません。しばらくはベッドの上で過ごしてもらうことになります」
「……はい……」
和人の命に別状はなかった、ここ最近の無理がたたってしまい、とうとう限界がきてしまったのだ。
不規則な食事と睡眠が続いたことにより体の生活リズムが狂い、疲労もたまり過ぎてしまい、精神的な疲れもあってついに倒れてしまった。
木綿季はその報告を聞いてひたすら安堵した。和人は死なない、いなくならない。
――――よかったッ。
「かずとのばか、自分が倒れてどうする……のさ……」
『ゆ、木綿季君……大丈夫ですか?』
「だい、じょうぶ……ですッ」
再び木綿季の目には大粒の涙が滴り落ちた。心配しすぎて流したこともそうだが、彼が大事なくて、いい意味で裏切られて良かったとほっと胸をなで下ろす。
そしてひとしきり泣いた後、木綿季は少しだけ落ち着きを取り戻し、倉橋の話に耳を傾ける。
『和人君がいきなり倒れてまだ混乱していると思いますが、気をしっかり持ちましょう。命に別状はないのです』
「…………」
『体調が回復すれば、また一緒にいられるようになりますから』
「先生……和人が回復するまで、どれぐらいかかりますか……?」
『本人の回復力次第ですけど三日ほど、だと見ています。和人君は若いですし回復も早いと思いますからね』
「み、三日……」
木綿季は仮想空間内の自室の仮想カレンダーの日付を見た。三日後というと金曜日、本番前日だ。
残りのセブンからのレッスンを、木綿季は和人なしで受けなくてはならなくななってしまった。
和人なしでどうやればいいんだろう、不安だ。不安で押しつぶされてしまいそうだ。
(あ……、和人がいないとって考えちゃってる、ボク……)
体育座りをして項垂れながら木綿季は考えていた。ここ最近のボクは和人に頼りっきりだ。
ボクに好意を寄せてくれ、側で支えてくれたのは和人。
HIVを治す計画を立ててくれたのも和人。学校に行く約束をしてくれたのも和人。
(ボク、和人がいないと何も出来ないじゃんか……)
明日奈に頼まれ和人を支えてくれと言われてたあの日から数日が経ち、フタを開けてみれば何のことはない。
支えられてるのは和人ではなく自分だった。
和人はボクにたくさんのことをしてくれた、だけどボクは和人に何をした? 何をしてあげられた?
和人の傍にいるだけじゃダメだ。和人がいなくてもボクだけで解決できなくちゃだめだ。
和人がいなくても強いボクでいなくちゃダメなんだ。
だから――ボクは――
「先生、和人が目を覚ましたら……伝えてもらってもいいですか?」
『え、ええ……構いませんけど、なんとお伝えしましょう?』
「……"三日間絶対に無茶しないで、ボク一人で頑張るから"って……」
『分かりました……確かに伝えます』
「いつまでも和人に頼りっきりじゃいられないんです、ボク一人でも……やり抜かなきゃいけないんです……!」
『そう……ですか、変わりましたね……木綿季君』
「……和人のおかげです……」
和人は無理がたたって過労で倒れてしまった。木綿季はそれを目の前で見てしまい、大変なショックを受けた。
しかしかつて持ち合わせていた精神力をなんとか取り戻し、新たな決意を胸に前へ前進していくことを決めた。
和人がいなくてもやり遂げる、次に和人に会った時に胸を張って強い木綿季を、絶剣のユウキを見せられるようになろう、そう誓った。
「あ…あと…先生もう一つだけ…伝えてもらっていいですか…?」
『はい、何でも仰ってください』
「三日経つまでにボクに会いに来たら…"絶交する"って…そう言っておいてください!」
ご観覧ありがとうございます。
無茶がたたり、とうとう和人は倒れてしまいました。
これにより、木綿季はしばらく一人で頑張ります。
絶剣と呼ばれていたあの頃と同じぐらい、いやそれ以上の強い精神力を身につけるため、一人で歌のレッスンに挑みます。和人を自分が支えれるようになるぐらいまで、より強い自分になるために。