ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 こんにちは、気が付いたらUA15000突破目前となっててびっくりしてます。お気に入り登録もあっという間に200を突破していてなんか異常な勢いを感じると思ったら、10月9日付けの総合ランキングで10位にランクインしていたのですね。
 光栄というか恐れ多いというか。非常に嬉しいです、ありがとうございます、ありがとうございます。
 この結果におごることなく今後もユウキを幸せにするという信念を貫き通して引き続き書き綴っていきたいと思います。
 そしてこの物語も30話まで到達いたしました。ちょっとサブタイが変な感じになっていますが、決してふざけてはおりません。
 


第30話~燃え尽きろ!! 絶剣! 閃光! 超激戦!~

 

 

 西暦2026年2月3日(火)午後14:05 神奈川県横浜市金沢区 横浜港北総合病院 和人の病室

 

 

 

「……クゥ……」

 

 和人は左手に点滴を刺しながら、一人で白いベッドの上で寝息を立てている。これまで散々な無茶を重ねたしっぺ返しがきてしまった体を、ゆっくりと休めていた。

 むしろこうゆう状況が来ない限り休まなかったであろう分、逆に好都合だったのではとも捉えられる。

 

 昼食を取り、特に暇つぶしの道具を持ち合わせてなかった彼はひたすら眠るしかやることがなかった。

 一応スマホは持ってきてるのだが病棟内なので使用は禁じられている。電波が様々な医療機器に影響を与える恐れがあるためだ。

 

 そんな寝ている和人のいる病室のドアが『コンコン』と音を立ててノックされる。

 家族は午前中に見舞いに来たので看護師か先生が来たのであろうか。

 肝心の和人本人は夢の中なのでそのノックに気付くことはなかった。

 やがてノックから数秒後、そのドアはゆっくりと横にスライドしてされていき、そこには見覚えのある女の子の姿が見えてきた。

 

「失礼しまぁーす……」

 

 綺麗な栗色の長く伸びたロングの髪、整った出で立ち、すらっとしたスタイルの女の子が顔をのぞかせていた。和人の元恋人の明日奈だ。

 直葉から彼が倒れたと聞かされて、お見舞いに足を運んできたというわけだった。

 

「キリト君……」

 

 和人は明日奈が入室したことに全く気付かず、ひたすら深い眠りについている。中性的で整った顔立ちをしている和人のその寝顔は完全に女の子と見間違いそうなほどだ。

 明日奈は彼を起こさないよう、そっと荷物を足元に置き、立てかけてあるパイプ椅子を静かに取ると、和人の横につけるように開きそこに腰かけた。

 

「キリト君、頑張り過ぎたんだね……」

 

 パイプ椅子に座りながら、明日奈はここ最近の彼の行動を思い出していた。

 考えてみれば自分の母親と仲直りするきっかけを作ってくれたのも和人だ。彼のあの行動力がなかったら、もしかしたら一生自分の母親との間に軋轢があったままだったかもしれない。

 そして、親友である木綿季のことも助けてくれようとしている。

 誰かを守るために戦う彼は、別れてしまっている今でも、誰かの英雄(ヒーロー)だった。

 

「ゆう……き、ごめん……な……」

 

 和人が寝言で木綿季の名前を呼ぶと、その言葉に明日奈は少し複雑な想いを胸に秘めていた。

 もう、こんな風に私のことは呼んでくれないんだねと、心に少しばかり寂しさを覚えていた。

 けじめはもうつけたはずだったのに、木綿季を応援すると決めていたのに、彼女の中の未練は消えてないままであった。

 

 すると、明日奈は無意識に彼の手を握っていた。別に深い意味はなかったのだが、横たわる和人を見ていると、握らずにはいられなかった。

 

「ん……」

 

 握られた手の感触に反応したのか、和人が小さく声を漏らす。

 自分が触れた影響で起こしてしまったと思った明日奈は「あ……」と小さく呟くと、和人が眠たそうな瞳をゆっくりと開けていった。

 まだ下がり切ってない熱と、昼食の時に飲んだ抗生物質の所為で脱力感が全身をまとっている。

 だが、なんとか重たい瞼をあげていき、その意識を覚醒させる。

 

「ご、ごめんねキリト君。起こしちゃった……?」

 

「ん……、ゆう……き?」

 

「……ユウキじゃないよ、キリト君」

 

 和人は眠い瞳をごしごしと擦りながら、目の前にいる少女の姿を確認しようとする。

 しかし、起きたばかりで焦点が合わない。

 ゆっくりと上体を起こすと大きな欠伸をし、ぼーっとしながら周りを見渡した。

 

 まだ意識は半分夢の世界に置き去りにしているようだ。やがて「んん……ッ」と声を発しながら大きく伸びをすると、点滴の針が刺さっている腕が管に引っ張られ痛みが生じ、それがきっかけで

彼は漸く目を覚ました。

 

「あつ……てて、点滴してるの……毎回忘れるな

。……ん、あれ?」

 

「おはよう、キリト君」

 

「やあアスナ、おはよう……」

 

「…………」

 

 長い眠りから漸く目が覚めたはいいが、和人はイマイチこの状況に理解できないでいた。

 何故目の前に明日奈がいるのだろう、どうしてここまで来たのだろうと。

 自分は確か、点滴を受けながら食事を取り、その後解熱剤と抗生物質を飲んだ。

 そして強烈な眠気と脱力感に襲われて、うとうとと寝入ってしまったのだ。

 

 覚醒したばかりの脳をフルに回転させて、これまでの状況を整理する。

 やがてひとしきりの整理が終わると、今度は目の前の光景の疑問に改めて意識が向かった。

 

「え、あ、明日奈……?」

 

「キリト君、ようやく気付いたの……?」

 

「い、いつからそこに……?」

 

「えっと、十分ぐらい前……かな?」

 

「そうだったのか……」

 

「だ、大丈夫? キリト君……」

 

 起きたのはいいものの、まだ和人は上手く体を起こすことを維持するのが難しいようだ。

 薬の効果も相まってか、目眩に近い感覚までやってきた。

 眉間のあたりを手で抑えてふらついた和人を、明日奈はそっと背中に手を当て、彼を支える。

 

「ほら、無理しないで……横になって?」

 

「あ……、ああ……ごめん手間をかけて、昼間の薬の所為でまだよく力が入らないんだ……」

 

「全くもう、いいから横になってて? 無茶しすぎだよキリト君は……」

 

「あ、あはは……返す言葉もないな、今回ばかりは……」

 

 再び身体をベッドに横たわらせた和人だったが、ここで当然の疑問が浮かぶ。

 何故彼女がここにいるか(・・・・・・・・・・)

 和人と明日奈が別れてから、数日は経過している。母親である京子とも、絶対に顔を合わせているはず。

 ほとんどの時間を奪われた今の彼女に、ここまで自由に行動出来るはずがなかった。

 

 しかし、明日奈はたしかにここにいる。

 つまり、それは彼女が母親と和解したことを表していた。

 

「明日奈、一ついいか? 君が今ここにいるってことは……その、お母さんと……仲直りできたのか?」

 

 彼からの質問に対し、明日奈は笑顔頷き、肯定の返事を返す。

 これまでは家庭の話を振ると、決まって暗い顔をする彼女だったが、今日はいつもより穏やかな顔で話をしてくれた。

 今まで、かなりの重荷をその大きくない肩に背負わされていたが、今は違う。

 親子らしい会話も交わせているし、和人以外で気になる異性はいないの? 等と、下世話な話題にも事欠かない。

 

「うん、キリト君のおかげでね。あの晩、佐田さんと一緒にお母さんと話し合ったの」

 

「佐田さん……、あの使用人の人か……」

 

「うん、思い切ってね……。佐田さんがいなかったら、どうなってたか……」

 

「そう……だったのか、よかったじゃないか、明日奈」

 

 和人の心の引っ掛かりの一つでもあった、明日奈の家庭の事情が落ち着いたことを知ると、彼の表情はほのかに明るくなっていった。

 当然だ、別れたとはいえ、和人にとって明日奈は今でも大切な人であることには変わりないからだ。

 恋人という関係は終わってしまったが、かけがえのない親友であることは確かなのだ。

 

「うん、キリト君と木綿季のおかげだよ。来年度進学できるかどうかは、今学期残りの成績次第だけどね」

 

「明日奈の成績なら大丈夫だろ? ずっと学年トップだったし、行けるさ」

 

「……うん、ありがとう、キリト君」

 

 それから二人は、この短い間で起きた濃い出来事の全てを語り合った。

 計画の進捗、互いの生活など、些細なことから大事なことまで包み隠さず話し合った。

 

 大抵、別れたばかりの男女というものは、気まずさというものがどうしても残る。

 互いの意見が合わなかったり、すれ違いが生まれたり、はたまた浮気が発覚したりなど、そのような内情がほとんどだ。

 

 しかし、この二人はそんな様子など全く見せていない。別れたくて別れたわけではなかったからだ。

 あくまでも家庭の事情で、別れざるを得ない状況に追いやられただけだったのだ。

 

「あ……そういえばね、キリトくん?」

 

「……ん?」

 

「私もね? 例のライブ、手伝うことになったの」

 

「……え?」

 

 リアクションは薄いが和人は内心非常に驚いていた。明日奈には最初に木綿季を元気づけてもらえれば、それで十分と思っていたからだ。

 彼女がステージの上で最高の演出をするには、彼女のメンタルを最高の状態にしてやる必要があった。

 

 その為には明日奈の存在が必要不可欠であったのだ。家のいざこざで途中からは無理だと思ってたが、明日奈はこれまで通り、木綿季の力になってくれるという。

 これは彼にとって非常にありがたい誤算だった。これにより木綿季は更に元気になることだろう。

 

「すごいな、君が来てくれるなんて……頼もしいぜ」

 

「私これでも昔、ピアノやってたんだからね? 音感はあるつもりだよ?」

 

「ははは、んじゃあ……俺からも頼む。ユウキの側にいて……やってく、れ……」

 

「うん……、って……き、キリト君!?」

 

 和人はそう言い残すと、瞼をそっと閉じて、力なく意識を失ってしまった。

 明日奈は慌ててパイプ椅子から立ち上がり、和人の元へ駆け寄って彼の腕へ自分の指をあて、そして目を閉じ精神を集中させ、脈を確かめてみる。

 

 脈は感じられる。ほのかにだがしっかりと血の流れは感じ取れる。そして次は彼の口元へと自分の耳を近付け、彼が呼吸出来ているのかどうかを確かめる。

 

「……スゥ……」

 

「……もう、キリト君のバカ……ッ」

 

 口では悪態を吐きつつも、なんやかんや内心では安心していた明日奈であった。

 彼の無茶しがちな性格から、今回のこともかなり心配していただけに、もしかしたらという考えも巡っていたのだ。

 

「私も頑張るから、キリト君は休んでてね……」

 

 和人の頭を手の平でさすると、明日奈はパイプ椅子を片付け、自分の荷物をまとめる。

 白いシーツの掛け布団をそっと彼の首元までしっかりかけ、背を向けて扉の方へと歩き始めた。

 

「あり……がと、あす……な……」

 

 部屋を出てドアを閉めようとノブに手を伸ばす直前で、明日奈の耳に和人の声が聞こえてきた。

 明日奈はピクリと反応し、上体だけ後ろを振り返り、彼の寝顔を遠目に見つめる。

 

 静かに寝息を立てている和人の顔つきは非常に穏やかなものとなっていた。

 汗をかいていて、ぱっと見は調子が悪そうに見えることもあったが、薬の影響なのだろう。

 

「お礼を言うのは私の方だよ、ありがとう……キリト君。ゆっくり休んでね……?」

 

 温かい笑顔を浮かべながら、明日奈はそっと扉を開き、彼のいる病室を後にした。

 明日奈がいなくなると、途端に和人の病室は静かになり、点滴の垂れる音と、外からの雑音だけしか聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 同日 午後14:55 アルヴヘイムオンライン 新生アインクラッド第22層 キリトのホーム

 

 

 

「よーし、おっけーユウキちゃん! そろそろ休憩にするよー!」

 

 セブンの休憩を告げる声が、22層の湖畔エリアに響き渡る。

 昼前から始まっていた今日のレッスンは折り返しの三時間時点まで来ていた。

 ユウキは初日の苦戦っぷりが嘘のように上達し、セブンが悔しさを覚えるほどの歌唱力を身に着けていた。

 

「うん、りょうかーい!」

 

 

 今日も楽しくレッスンを重ねられたようで、ユウキは練習疲れというものを全く感じさせなかった。

 むしろもっと歌いたい、もっと覚えたい、もっといろいろやってみたいと、そう思っていた。

 

「ユウキ、お疲れ様!」

 

「わあ、ありがとうリーファ!」

 

 ユウキに労いの言葉をかけたリーファはストレージからオブジェクト化した水入り瓶を取り出し、彼女に手渡した。

 それを受け取るとユウキは喉を潤わせるためにゴクゴクと瓶の中身を飲み干していく。

 

「ずっと聞いてたけど、やっぱりすごいね、ユウキは」

 

「そ、そうでもないよ。ここまで上達できたのはセブンのおかげだし。ボク一人じゃとても無理だったよ……」

 

 ユウキの才能は、素人目に見ても目を見張るものがあった。

 元々張りのある声をしているし、容姿端麗で元気いっぱい、素質も十分。

 しかしその才能を開花させたのは適切なトレーニングをしたセブンと、そして冷静に答えに導いたスメラギがいたからこそである。

 

「でもね? ボクまだまだ出来る気がする、もっともっとうまくやれる気がするんだ!」

 

「それじゃあさ、デュオでもやってみる? ユウキちゃん」

 

「え、デュオ……?」

 

「デュエットのことよ」

 

 瓶を片手にきょとんとしているユウキに、すぐ隣で座っているセブンが提案を持ち出した。

 チャリティーライブのメインパーソナリティはセブンの担当だ。

 あくまでユウキはスペシャルゲストにすぎないのだが、彼女の印象をよくするため、他のプログラムにも参加させようという試みだ。

 

 ユウキの担当する曲は二曲。

 ステージのプログラム的にも余裕があるので、他の曲のパートナーもしくはバックコーラスの選択肢も入れた方が、プラスになるのではないかと考えたのだ。

 

「うん、ボクに出来ることなら、チャレンジしてみたい!」

 

 やる気満々に明るく返事を返すユウキの態度に、セブンは思わず笑を零した。

 まるでそう、彼女が提案を受け入れるのを分かっていたかのように。

 

 しかし、そうなると当然の疑問が浮かんでくる。一体ユウキとデュオを組むという人物は誰なのか、ということだ。

 

「あれ……ってことはさ、ボクと組む人はセブンかレインのどっちか、ってことなの?」

 

 今回、ライブの出演者には勿論歌唱力とパフォーマンスが必要不可欠。それもプロ並みの実力を持つ者でなければならない。

 故に、ユウキはセブンかレインのどちらかと組むのだと、そう思っていた。

 しかし、セブンは肯定も否定もせず、ただただニコニコ笑顔で、その場を濁すばかりであった。

 

「ち、違うの……?」

 

 ユウキが首をかしげて疑問を投げかけても、セブンもレインも終始ニヤけており、そしてスメラギも無言を貫き、答えをくれそうにはなかった。

 ということは、この二人の他に音楽に嗜みがあり、なおかつ歌唱力がある人物ということになる。

 だがその様な人物、ユウキに思い当たる節はなかった。歌うといえば、鼻歌交じりのようなものを、ストレアやクライン、シリカが歌うくらいだ。

 ユウキはその他にも当てはまる人物がいないかどうか必死に思考を巡らせたが、いくら考えてもそのような人物は思い浮かばなかった。

 

「うぅ、他に誰も思い浮かばないよー……」

 

 完全にお手上げの状態となったユウキの姿を見るや否や、セブンとレインは互いに視線を合わせ、ニコッとスマイルを交わし合い、ようやくその口を開いた。

 ヒントをあげなくてもユウキなら簡単にわかると思ったのか、それとも意外な人物が出てくるのか。

 それは定かではないが、とにかくその人物はようやく現れるようだ。

 

「ユウキちゃん、彼女が……ユウキちゃんのデュオのパートナー、だよ」

 

 レインとセブンの視線が、キリトのホームのある方へと向けられる。

 それに釣られるかのように、ユウキの視線も彼のログハウスを捉える。しばらく見つめていると、奥のほうから「ザッザッ」と何者かがこちらに歩いてくる足音のようなものが聞こえてきた。

 

 その足音の正体が判明するまで、そう時間はかからなかった。

 白い装束を身にまとい、水色の透き通ったような、キレイなロングの髪。

 落ち着いた物腰を見せつつも、しっかりとした意志力を感じさせる立ち振る舞い。

 一人のウンディーネ族の女性プレイヤーが姿を現した。

 

「え……」

 

「あ、アスナさん……!」

 

 その人物は何を隠そう、ユウキのとてもよく知る人物、そして一番の大親友。閃光こと、アスナであった。

 何故、何故彼女がここにいるのだろう?

 いや、今はそんなことはどうでもいい。アスナが、親友のアスナが来てくれた。

 心の底から感じる「嬉しい」という感情を抑えられずに、ユウキは彼女の姿を見るや否や、条件反射で彼女の元へと急ぎ足を動かしていった。

 

「アスナ……アスナ!」

 

「ユウキ……!」

 

 力いっぱい、力いっぱい互いを抱き締める。二人の温もりが、互いの体に伝わり合う。

 ユウキにとってはかつて感じたことがある、姉の温かさ。

 アスナにとっては、二度と会えないと思っていた大切な親友の温かさ。

 それをただひたすら、感じあった。また会えたことが嬉しかった。その喜びを分かちあった。

 しばらくして二人はゆっくりと身体を離し、互いの目線を合わせ、ニッコリと微笑み合う。

 

「ユウキありがとう、私ね? 母さんと仲直り出来たの……!」

 

「え……ほ、ホント?」

 

「うん、やっぱりね? 母さんも私もお互い素直になれてなかっただけだったんだ。母さんの気持ちに気付いてなくて、反抗的な娘でごめんなさいって言ったら、母さんも泣き出しちゃって」

 

「……うん」

 

「母さんの方も、アナタに押し付けすぎてしまってごめんなさいって、言ってくれたの……」

 

 このアスナの親子間での問題は、ユウキにとっても気がかりなことであった。

 『ぶつからなきゃ伝わらないことだってある』そうアスナに直接言い伝えた後、あの悲劇は起きてしまったのだ。

 その事で責任を誰よりも感じてるユウキは、結城母子のことが気になって仕方なかったのだ。

 

「じゃ、じゃあ……あの学校に?」

 

「うん、ちゃんと戻れたよ」

 

「そ、そうなんだ……よかった、ホントによかったよアスナ! お母さんと仲直り出来て、よかった……!」

 

 彼女らの関係について、一先ずの安堵を得たユウキであったが、少々心持ちは複雑だった。

 

 嫌な言い方になるが、あの時彼女が母親に連れていかれたからこそ、キリトと仲良くなり、恋人同士にまで関係は発展したのだから。

 自分の病気も治る可能性が出てきた。

 

 そう考えると、ユウキは少しだけいたたまれない気持ちになってしまった。

 けじめをつけ、自分とキリトの仲を応援すると背中を押してくれているとはいえ、若干の後ろめたさを覚えてしまっていた。

 

「でもアスナ、それだとやっぱりボク、アスナからキリトを横取りしたことになっちゃってるんじゃ……」

 

 ユウキはバツが悪そうな表情をしながらアスナに語り掛けた。

 経緯はどうあれ、やっぱり恋人を横取りしたということには変わりないと、そう考えていたからだ。

 しかしアスナは首を横に強く振り、そんなことはないと強く否定する。

 

「そんなことない、確かに……今でも私はキリト君のことは好きだよ?」

 

「…………」

 

「でも、それは私が母さんの気持ちを理解していなかったから招いてしまったことだし。それにユウキがキリト君と結ばれて、私はとっても嬉しいんだよ?」

 

「……で、でも……」

 

「私は大丈夫だから! それよりに? ユウキがキリト君と幸せになってもらわないと、私が困るな……?」

 

「ボ、ボクがキリトと……」

 

 そう言われたユウキの顔はたちまち真っ赤になっていき、湯気のようなものを立ち登らせていた。

 病気が治り、首尾よくリハビリもこなすことが出来れば、木綿季は晴れて現実社会へと復帰することが出来る。

 その先の未来、桐ヶ谷家の一員となることの、更にちょっと先の未来の出来事を想像してしまうと、たちまち熱い感情が胸から立ち上ってくる。

 

「ふふふ、ユウキ……顔真っ赤だよ?」

 

「あ……アスナがあんなこと言うからだよー!」

 

 ユウキがこんなに顔を赤くして困った表情を浮かべている姿を見せるのは、初めてかもしれない。

 元々が感情豊かで元気いっぱいの女の子だ。笑ったり怒ったり、はたまた悲しくなったり、年齢相応の反応を見せてくれる。

 しかし、それは普通の子が持っている感情とは、少し違ったものだ。

 

 どんなに笑っても、その笑顔は遠くないうちに永遠に見せられなくなってしまう。

 そのひっかかりがある感情に他ならなかった。

 

 しかし、今は違う。

 キリトが、リーファが、セブンが、レインが、スメラギが、そしてここに駆けつけてくれたアスナが、彼女の病気を治そうと一致団結、立ち上がってくれている。

 

 希望という名の剣を手に入れた今のユウキは、本当の意味で心からの感情を表に出せるようになっていたのだ。

 

「あ……、そう言えばね? ボクの退院後の受け入れ先も決まったんだよ?」

 

「え……ほ、本当なの?」

 

「本当ですよ、アスナさん」

 

 受け入れ先の人間であるリーファが、ポニーテールを揺らしながら二人の間に割って入る。

 アスナはユウキから半歩体を話すとリーファの方を向き、首をかしげて疑問符を浮かべていた。

 

「ユウキの受け入れ先、あたしの家になったんです。養子縁組であたしたちの家族になるんですよ」

 

 身内を全て亡くしているユウキの行く先は、アスナの気がかりなことの一つであった。

 病気を治して無事退院するまではいいものの、そこから先が全くわからず不安で仕方なかった。

 

 しかしリーファの口から、自分たちの家で面倒を見るということを知らされると、たちまちその不安は消え去り、途端に安堵感へと変わっていった。

 

 彼女らの家なら安心だ。優しい両親に豊かな家庭、そして何より優しい家族もいる。

 みんなユウキを暖かく出迎えてくれることだろう。

 

「そう……よかったじゃない、キリト君のところなら、私も安心だなあ」

 

「えへへ……あ、ねえアスナ! 久しぶりに決闘(デュエル)しようよ!」

 

「え……決闘(デュエル)?ここで?」

 

「うん! ボク、久しぶりにアスナと闘ってみたいなあ!」

 

 かつて辻決闘(デュエル)をしていたあの時とは違い、今のユウキは希望に満ち溢れている。

 病気の治る見込みも出てきているし、、その後の生活も安心出来そうだ。

 生まれてこの方、HIVを抱えている上で不安な駆られているこの方が多かったが、今の自分ならこれまでで最高のコンディションで決闘(デュエル)に望める。

 そう考えた上での提案だった。

 

「……うん、いいわ。やりましょう、ユウキ!」

 

 しかし、それはアスナにも言えることであった。

 ずっと心に引っかかっていた家庭の問題と、親友であるユウキの身体のことについて、解決の方向へと進んでいるからだ。

 つまり、アスナも心身ともに最高のコンディションを維持出来ている。

 

 互いに最高の状態で挑めるこの今、もう剣をとる以外に選択肢などなかったのだ。

 

「さっすがアスナだね、話がわかるー!」

 

 ユウキはそう言いながら、左手でメニューを操作して、目の前のアスナに対し、決闘(デュエル)を申請する。

 するとアスナの視界に『Yuukiが決闘(デュエル)を申し込んできました』と通知が表示され、彼女はこれを承諾し、YESと書かれたアイコンをタップする。

 決闘(デュエル)モードは全損決着。互いのどちらかのHPがゼロになるまで決闘(デュエル)は続けられる。

 そのモードを選択すると、すぐさま六十秒のシークエンスが訪れ、カウントが一秒ずつ減っていく。

 

「えへへ、楽しみだなー、アスナとの決闘(デュエル)……!」

 

「私も楽しみだよ。それにユウキとは一勝一敗のイーブンだから、ここで勝って勝ち越しを決めさせてもらうわよ!」

 

「それはどうかなー? ボクだって簡単には負けないからね?」

 

 自身の愛剣、『マクアフィテル』をオブジェクト化させ、腰の鞘から抜くとその刀身が黒紫色にギラリと光る。

 アスナも同様に長く愛用している細剣『レイグレイス』を手に握ると、ソードスキル等の確認に移る。

 

 過去に互いに剣を交えたのは二度、辻決闘(デュエル)の時と、アスナがユウキを病院まで追いかけて申し込んだ決闘(デュエル)の時だ。

 正直言って、今の彼女らの勝敗の行方は誰にも予想出来るものではない。

 

 互いにこんな心持ちで決闘(デュエル)に挑むのは初めてだからだ。踏み込みの速さ、剣の振り、反応速度等、全てが今までと違うものになることだろう。

 

 スキル等の確認を終え、戦いの構えに入ると視線を合わし、アイコンタクトでいい勝負をしようと気持ちを交わす。

 半分笑顔で、そして半分真顔でカウントがゼロになるのを待っていた。

 外野で見守ってるセブンたちが固唾を飲んでその様子を見守っている。

 

 そして程なくして、その時は訪れた。

 

「――ッ!!」

「――ッ!!」

 

 カウントがゼロになった瞬間、ユウキとアスナは地面を蹴り、一直線にお互いの距離を詰めた。まず一合、力強く剣を振るう。

 ガキィンという激しい衝撃音と共に、鍔迫り合いの形になる。剣と剣が擦れ合う度に鈍い金属音が鳴り響く。

 

 この状態では先に力を抜いたほうがそのまま斬られる体勢にある。かといって力を入れ過ぎると剣をいなされ、そのまま斬られてしまう。

 様子見気味に、尚且つ力は緩めずバランスを維持しつつこの状態が続いた。

 ユウキとアスナ、互いに一歩も引かない、引いてはいけないと、剣を握る手に力を込め続ける。

 

 鍔迫り合いは十数秒間続き、お互いが剣をはじこうとするタイミングが重なり、剣がブレイクされる。

 そのノックバックで三メートルほど距離が離れるが、すぐさま距離を詰め今度は連撃の撃ち合いになった。

 

 縦、横、斜め、上から、下から、突き、薙ぎ、様々な形でお互いの攻防が続く。

 斬撃が打たれるたびに剣の間に火花が散り、またその衝撃による削りダメージで、互いのHPが少しずつ削られていく。

 同じ体勢で強烈な一撃を放ち、剣同士がぶつかり合いノックバックが発生する。この間に三十、いや四十は互いに打ち合っただろうか。衝撃と共に、再びお互いの距離がまた離れた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「ハァハァ、やっぱり……アスナは強いね」

 

「ユウキこそ……あの時より速くなってる!」

 

「それはこっちのセリフだよ……、アスナの斬撃、早すぎるもん!」

 

「それに反応するユウキも凄すぎるわよ……、剣の速さには自信があったんだけど」

 

「ウォーミングアップはこれぐらいでいいんじゃないかな? そろそろ飛ばしていくよ! アスナ!」

 

「ええ、望むところよ!」

 

 二人は再び力強く地面を蹴り、剣をぶつけた。

 ユウキの反応速度は辻決闘(デュエル)を挑んでいた時よりも速くなっていた。

 驚異の反応速度と経験豊富な仮想世界での長い生活、そして何よりずば抜けていたのが相手への対応力だ。

 

 以前キリトと行った決闘(デュエル)ではユウキの完敗であったが、あのキリトの最速の二刀流はユウキでなければ防げないだろう。

 重たい連撃をいなし、避け続ける等という芸当は様々な上位プレイヤーといえども、恐らくユウキにしか不可能だ。

 

 それもユウキの対応力があったが故である。

 常人なら最初の二撃で即刻リメインライト化していただろう。

 しかしそんなユウキの対応力をもってしてもアスナの攻撃は速すぎた。ユウキも目で追い、かろうじて防いでいるといった状況だ。

 

 だが、そんな速い攻撃も何度も何度も見れば目が慣れてくる。

 どの位置からどの角度でどのように撃ち込んでくるか、ユウキは徐々にではあったが持ち前のセンスで見極めてきていた。

 

「ここだよっ!」

 

 アスナが突きを繰り出す直前、重心が一瞬後ろに傾いた瞬間を狙って、ユウキは最速で剣を下から上へ振り上げ、アスナの攻撃をブレイクした。

 アスナは懐ががら空きになってしまう。ここに一撃お見舞いしてやればかなりのアドバンテージが取れる。

 ユウキはチャンスを逃がさまいと、すかさずそのまま攻撃の態勢に入り、追撃をかけようとした。

 

 しかし、アスナの攻撃は止まらなかった。

 弾かれた剣とは反対側の手を動かし、ユウキに拳を放つ。以前もこの方法でユウキの虚を突きダメージを与えることに成功したのだ。

 

「――ッ!」

 

 アスナの左の(かいな)はユウキの左手でがっちりおっつけられていた。

 手の内が完全に読まれていたのである。

 

「ユウキに同じ手は通用しない、ってことね……!」

 

「もちろん! これでもアスナの手口はわかってるつもりだよ!」

 

 手首をがっちりつかまれたアスナはそのままユウキに一撃をもらってしまう。

 HPゲージは残り五分の三、あと一歩でイエローというところまで落ちていった。

 

「ぐっ……!」

 

 アスナは斬られた際のノックバックを利用して、そのまま数メートル後ろにバク転を繰り返し、いったん距離を置いた。

 一瞬間が置かれて、その間にユウキはニッコリと微笑んだ。アスナとのデュエルは本当に楽しい、剣を交えるたびにわくわくしてくると、心から喜びを感じていた。

 

 しかし閃光と呼ばれたアスナにもプライドがある。このままおめおめと負ける気はさらさらない。

 アスナは一呼吸置くと表情を変え、その場から半歩後ろに下がり、陸上選手などがよくやるクラウチングスタートの体勢に入った。

 

「……あの構え、あれは……」

 

 あのモーションは見覚えがある。

 記憶のどこかでそのモーションを思い出そうとするも、その間にアスナは十分なクラウチングスタートの体勢を作ると、音と共にその場から消えた。

 その瞬間耳をつんざくような音と共に速すぎる何かが、ユウキ目掛けて一直線に突っ込んできた。

 

 アスナだった。

 

「――!?」

 

 アスナが習得している中で最速の突進系細剣ソードスキル『フラッシング・ペネトレイター』

 同じ突進技であるヴォーパル・ストライクとは比較にならない突進力と攻撃力、そして前進速度を誇るソードスキルだ。

 その分ヴォーパル・ストライクより硬直は圧倒的に多いが、あたれば相手の体力をごっそりいただける。ハイリスクハイリターンなソードスキルとなっている。

 

 ユウキは一瞬反応が遅れたおかげで、フラッシング・ペネトレイターの直撃をもらってしまう。

 HPは九割近くからレッドゾーンまで一気に落ちた。残り体力的に、アスナが圧倒的優位に立った。

 

 しかし、ソードスキル独特の硬直が発生する。ユウキがその隙を見逃すはずもなく、ダメージを喰らい吹っ飛ばされながらもすばやく体勢を整えると、自身が愛用しているソードスキル『ホリゾンタル・スクウェア』を放つ。

 

 相手の周りを四角を描くように回転する四連撃のソードスキル。発生もそれなりに早く、攻撃範囲も広く、尚且つ硬直はやや少なめと非常に使いやすく汎用性が高いソードスキルだ。

 

 アスナはフラッシング・ペネトレイターの硬直のおかげで、それを避けれず四連撃全てをもらってしまった。HPもレッドに突入し、残りは一割、といったところまで追いつめられていた。

 

 ユウキはアスナの反撃をもらわないよう、彼女から数メートル離れたところでソードスキルが終わるように、位置と角度を調整した。

 ソードスキルはある程度の角度などを自身の動きで微調整できるのだ。

 このあたりのフォローもユウキは完璧だった。

 

「……」

「……」

 

 お互いにHP残量は一割ほど、まったく後がない状況となっていた。

 何かソードスキルの一つでも貰ってしまえばたちまちHPは全損、負けとなってしまうだろう。

 体制と呼吸を整え再び剣を構え直し、再度互いに視線を交わし合う。

 

「へへ、やっぱりアスナはすごいや! ボクこんなにわくわくしたのは久々だよ!」

 

「私もよ、最近ずっともやもやしてたから……こんなに晴れ晴れとした気持ちで戦えるのは、本当に久しぶり……!」

 

 お互い、あと一合で勝負が決まることを悟っていた。故に、最後の攻撃のタイミングは慎重に、神経を研ぎ澄ませて挑もうとしている。

 

 それから、長い静寂が続いた。

 彼女たちのいる22層のフロアに吹く風の音音だけが聞こえていた。

 そしてあまりにもすごすぎるデュエルの内容にセブン、リーファ、レインはおろか、スメラギすらも固唾を飲んでその様子を見守っている。

 

「…………」

 

 キリトのホームの近くには大きな湖がある。釣りスキルを使えば大きな魚が釣れる。

 普段は静かな池だが、希に魚がパシャンという音を立てて一匹水面を跳ねる時がある。

 水面近くを飛行する虫や、落ち葉に反応して魚が餌だと認識し、飛び跳ねるのだ。

 

 そしてこの時も、一枚の落ち葉がゆるりと水面近くに落ちていった。

 ひらひらと舞う落ち葉が水面近くに到達すると、待っていたかのように全長三十センチほどの魚が水中から落ち葉に食らいつくために水面から飛び跳ねた。

 その音がユウキとアスナの最後の一撃の合図となった。

 

 瞬間二人は三度(みたび)地面を蹴り、土煙を舞いあげるとお互いの距離を縮めた。

 

「アスナ! これが最後の勝負だよ!」

 

「私だって……望むところよ!!」

 

 利き手に握るお互いの愛剣が白く輝く。互いにソードスキルを発動しようとしていた。正真正銘最後のソードスキルだ。

 長い髪を揺らしながら、剣の光とともに、決着をつけるため、モーションを起こし、ソードスキルの構えに入る。

 

「これが、ボクのオリジナルソードスキル!」

 

「これが、あなたから受け継いだオリジナルソードスキル!」

 

 

「マザーズ・ロザリオッ!」

「マザーズ・ロザリオッ!」

 

 

 ユウキの剣からは紫色のエフェクトののったマザーズ・ロザリオが、アスナの剣からは水色に光り輝くマザーズ・ロザリオが、全く同じタイミングで放たれてた。

 

「せええいやああぁぁッ!!」

「はあぁぁぁぁッ!!」

 

 激しいエフェクトと共に、二つのマザーズ・ロザリオがぶつかり合う。

 一撃、二撃、三撃、四撃、五撃目。

 少し間を挟んで六撃、七撃、八撃、九撃、十撃目。そして、十一連撃目。

 

 最後の十一連撃目もお互いの剣と剣がぶつかり合う。しかし、わずかにアスナの斬撃の方が速かった。

 ユウキの斬撃より深く入り込んだ位置で、いなし気味に攻撃を相殺することが出来た。

 このままソードスキルの硬直時間が発生しても、アスナの方が速く動ける。

 

「私の勝ちよ、ユウキ!!」

 

 アスナは自身の勝利を確信した。次の一撃で自分の勝ちは揺ぎないものだと思った。

 

 しかしその認識は間違っていた。

 アスナの瞳には、光り輝くユウキの拳が映っていたのだ。

 

「え……ッ」

 

 ユウキはマザーズ・ロザリオの硬直中にもう片方の手で体術スキル『スマッシュ・ナックル』を発動させていたのだ。

 かつてキリトが二刀流で見せたシステム外テスキル。片方それぞれの武器のソードスキルを交互に発動させる 『スキル・コネクト』だ。

 

 そう、ユウキは片手直剣ソードスキルと、ナックルソードスキルをコネクトさせたのだ。

 片手直剣スキルよりも、体術スキルの方が圧倒的に技の発生は早い。

 その光景を見た瞬間、アスナは改めてユウキが何故『絶剣』と呼ばれている由縁を思い出した。

 

 自分の完敗、そう悟ったアスナはゆっくり目を閉じて、自分がリメインライト化するのを待った。

 激しいエフェクトと共に決闘(デュエル)の決着はユウキの勝利という形で幕を閉じる、……はずだった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ユウキの拳はアスナの顎のすぐ真下の位置で寸止めされていた。

 恐る恐る目を開けたアスナは一瞬一体何が起こっているの? といった顔でキョトンとしていた。

 そんな彼女を尻目に、ユウキはニッコリと笑うと繰り出していた拳をスっと引き、右手に握っていたマクアフィテルを鞘に収め、臨戦態勢を解除した。

 

「ボクの勝ち、かな?」

 

 ユウキは笑顔を見せながら両腕を後頭部の後ろで組ませ、アスナに言葉を投げかける。

 アスナも視線を動かし、現在の状況を飲み込むと「やられたな」と心の中で呟くと、同じように件を収めて苦笑いを作る。

 

「悔しいけど、私の負けね……リザイン!」

 

 アスナはそう言いながら、リザインウィンドゥを開き降参(リザイン)を選択した。

 一進一退の攻防が続いた激しい決闘(デュエル)はユウキの勝利という形で幕を閉じたのだ。

 

「やったあー! アスナに勝ったー!」

 

 ユウキは飛び跳ねるようにして喜んだ。

 勝ったことも嬉しかったが、非常に充実した戦いが出来たことに何より喜んでいた。

 一方で負けてしまったアスナは、悔しそうに、しかし清々しい表情でユウキを見守っている。

「参ったなあ、今回はかなり自信あったんだけどなあ……」

 

 ユウキはひとしきり喜ぶとリーファたち見物組に向かって「ぶいっ!」と言いながら喜びのVサインを送る。

 そのVサインにスメラギ以外のメンバーも、同じようにVサインを返した。

 

「すごいよユウキ! 前の決闘(デュエル)の時よりも物凄かったよ!」

 

 余程今の戦いぶりに興奮したのか、リーファは目をキラキラさせ、食い気味にユウキの両手を掴み、手をぶんぶんと上下に揺さぶっていた。

 

「えへへ、ありがとうリーファ!」

 

 姉からの賞賛の言葉に、ユウキも素直にお礼の言葉を贈る。

 一方で負けたアスナの元にはレインが駆け寄り、労いの言葉と水が入ったボトルを差し入れる。

 

「お疲れさまアスナちゃん、はいこれ」

 

「レインちゃん……ありがと。あはは、負けちゃったよ……」

 

 アスナは苦笑いを作りながらレインから水を受け取り、ボトルに口をつける。

 よくよく見てみると、彼女の額からは汗が流れている。それほど激しい決闘(デュエル)だったということだ。

 

「でもアスナちゃんもすごかったよ? 私も今度手合わせお願いしようかな」

 

「そうね……うん、今度機会があるときに是非決闘(デュエル)しましょう!」

 

「ふふ、私負けないよー?」

 

 アスナとレインはいつか必ず決闘(デュエル)をしようと約束を取り付けた。隠れた実力を持つレインも今回の二人の決闘(デュエル)を見て偉く触発されたようである。

 

「うむ、見事な戦いぶりだったぞ。二人とも」

 

「あれ、珍しいわね? スメラギ君が素直に褒めるなんて……」

 

 セブンがそう言うと、その場にいる全員の視線がスメラギに集まった。

 その視線を一気に感じたスメラギは、恥ずかしさを隠すようにして全員から背中を向けて、弁明するかのように語り出した。

 

「俺は一人の戦士として、今の闘いが称賛に値すると判断しただけに過ぎない」

 

「まーたそんなこと言ってスメラギ君は……、素直に二人の健闘っぷりに感動したって言えばいいのにもう……」

 

 セブンが呆れた素振りで言葉を放つと、その場が笑いに包まれた。

 背を向けているのでスメラギがどんな表情をしているかはわからない。

 

 柄でもないことを言ってしまったのか、それともただの照れ隠しなのか。スメラギは一向にこちらを向こうとはしなかった。

 セブンはそんな彼を、溜め息を吐きながら呆れた顔で見つめている。

 

「ねえアスナ? 握手しよう!」

 

「え……? あ、うん!」

 

 ユウキとアスナは互いの利き手を差し出し、固い握手を交わした。

 親友として、そして戦友として、掛け替えのない絆で結ばれた者同士、決して崩れるとの無い友情の握手だ。

 

「ユウキ、また決闘(デュエル)しましょう。今度こそ絶対に負けないから!」

 

「もちろんだよ! アスナならボクはいつでも受けて立つよ!」

 

 互いに満足した表情を見せながら、今度もいい勝負をしようと、勇ましい視線を向ける。

 体を動かしたことによって、色々スッキリしたものもあったようだ。

 

「そういえば……、最後にユウキちゃんが見せたアレ、キリト君が見せてたスキル・コネクトだよね?」

 

「あ……そ、そういえばそうだね。いつの間に身につけたの? ユウキ?」

 

 スメラギに向けられていた視線は、途端にユウキに向けられる。

 スキル・コネクトは片方のソードスキルのモーションが終わった後、もう片方の武器のソードスキルを発動させることだ。

 

 しかし、このテクニックはタイミングを掴むのが非常に難しい。

 ソードスキルの動作終了後、もう片方のソードスキルを発動させる為の猶予は、数フレームしかないからだ。

 しかもその受付フレームは、スキル・コネクトを重ねていくたびに短くなっていく。

 格闘ゲームを経験したことのある人ならば、その難易度がわかってもらえることだろう。

 

「あ……えっとね? 真似してみたら出来た……」

 

「……はい?」

 

「ま……、真似してみたらって……」

 

 ユウキのあまりにも非凡な戦闘センスにアスナはおろか、セブンやレイン、リーファとスメラギも脱帽の様子を隠せなかった。

 たった何度か見ただけで真似できるほど、スキル・コネクトは簡単なものではない。

 タイミングを掴むため、何度も何度も修練を重ねる必要がある。

 キリトですら、安定して出せるようになるまで、結構な日数を必要としたくらいだ。

 

 それを見様見真似で会得してしまっていると言うのだから、ユウキのセンスがどれだけ凄いかというのが、身にしみてわかる。

 

「まったく、ユウキにはかなわないなあ……」

 

 負けはしたが、アスナの心は晴れ晴れとしていた。互いに自分の全てをぶつけることが出来たし、何よりユウキの明るく無邪気な笑顔が、アスナの心を明るくしていた。

 そしてこの笑顔はすぐに消えることはない。希望という光を掴もうとしてることで、もっともっと長く、そばで見続けることが出来そうだからだ。

 

 しかし、彼女たちはとてもとても重要な見落としをしていることに気付いていなかった。

 そしてその真実は、セブンの口から悲しくも告げられることになった。

 

「えっと……ユウキちゃんにアスナちゃん? 盛り上がってるとこ……すごく申し訳ないんだけど」

 

「……ん?」

 

「なあに? セブンちゃん」

 

「えっとね? 今午後三時半なのね? 休憩……終わり……なんだけど……」

 

 

「……え?」

「……え?」

 

 

 決闘(デュエル)に夢中になりすぎて気付かなかったのか、はたまた時間の流れをすっかり忘れてしまっていたのか。

 無情にも時計の針は午後三時半を示していた。つまり、二人の休憩時間は激しい運動という形で終わってしまったことになる。

 

「時間もないから……、このままレッスンに入るよ? 二人とも」

 

 ライブ本番まで、彼女たちに残された時間は本当に少ない。

 本物の命がかかっていることもあり、一分一秒が本当に惜しい現状となっている。

 

 故に、休憩時間は休憩時間。練習時間は練習時間としっかり棲み分けしなければならない。

 ユウキとアスナは必死に「ご、五分だけでいいから!」とセブンに休憩を要求したが、この手の道に関するプロである彼女は、頑なに首を縦に降ることは無かった。

 

 はたしてこんな調子で、ユウキ達はライブを成功させることが出来るのだろうか……?

 

 




 
 ご愛読ありがとうございます。
 最初はキリトの見舞いにMOER DEBAN組を向かわせたり、アスナを上空から隕石のように地面に激突する形で登場させたりと迷走しかけましたがなんとかキレイにまとまったかなと思いました。

 そして次回、いよいよライブ本番を迎えます。もしかして文字数も過去にないぐらいに増えて、執筆に時間を取られるかもしれません。
 めちゃくちゃ間が空くと思いますが気長にお待ちいただければと思います。ユウキの命を助けるためには次回にすべてかかっていると言っても過言ではないでしょう。
 筆者の私が何を言っているんだと思いますがそれぐらい真剣に物語を書いてきました。次回は集大成です、ユウキへの気持ちを全て込めて書き綴りますので是非よろしくお願いいたします。

 それではまたお会いいたしましょう!
 
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