ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味 作:むこ(連載継続頑張ります)
気が付いたらUAが18000突破、お気に入りは200件を突破していました。
ありがとうございます!ありがとうございます!
初投稿から3週間ほど経ちますが変わらぬご贔屓をいただいて誠恐縮の至りです。
闘病編も大きな山場です。
近いうちに…ユウキの命運が…決まることでしょう…。
それではご覧ください。
「今、万感の想いを込めて!」
「今、万感の想いを込めて!」
左右からそれぞれステージに登場し、オリジナルソードスキル"マザーズ・ロザリオ"を撃ち合った二人は、最後にシンメトリカルに剣を交差させ、派手な登場を決め飾った。
剣と剣がぶつかり合う金属音が会場に鳴り響き、しばらくの静寂が流れた。
交差させるポーズをやめ、二人が剣を鞘に納めたタイミングと同時に、再び会場は大歓声に包まれた。
「ウオオオすげえええ!!」
「おいなんだ今のソードスキル!?」
「あれじゃねえか…噂の絶剣の11連撃ってやつ!!」
「今…アスナ様も使ってたよな…?」
「なんでもいいぜ! とにかくめっちゃかっこよかったぞー!!」
アスナの思惑通り、二人はこの演出で観客の心をがっちり掴んだようで第一印象は手ごたえ十分といったところだ。
あとは…歌でさらにこの場を沸かせてみせる。すでにアスナにはプロ魂が宿っていた。
アスナとユウキは剣をマイクに持ち替え、会場のみんなに改めて挨拶をした。
『みなさんこんばんはー! 閃光のアスナでーす! ここからは、私とユウキでこの会場を盛り上げていきたいと思います! 楽しんでいってくださいねー!』
『みんなー! こんばんはー! 絶剣のユウキです! ボクとアスナで全力で歌うから、応援よろしく頼んだよー!』
二人の挨拶で会場は更に歓声を上げた。会場の全員の視線と期待がステージ上のアスナとユウキに一度に集まっている。
しかし二人に緊張の様子は全くない、それどころかかつてないぐらい燃えていた。ボクたちで、私たちでこの会場を、セブン以上に盛り上げてみせる。
『ボクたちが歌うのは…この曲だよ!!』
ユウキが指をパチンと鳴らすと演奏がスタートした。前奏が始まると会場は更に盛り上がりを見せた。
歌い出しはアスナとユウキが同時に入り、アスナがソプラノ気味、ユウキはアルト気味の高音のキレイでよく通る声で歌い続けた。
二人の意気はぴったりで、ゼロコンマの歌声のズレもなくキレイなハモリ声を会場全体にひびかせていた。
客席では観客がサイリウムをリズムよく左右前後に振り、綺麗な蛍光色を輝かせながら弧を描いていた。
その輝きの一つ一つを視認することで、本当にボクたちの歌をこんなにたくさんの人たちが聴いてくれてるんだとユウキたちは実感した。
(すごい…ボクたちの歌を聴いて…こんなにたくさんの人が…盛り上がってる…楽しんでくれてる…応援してくれてる…)
ユウキのテンションは最高潮になっていた、かつてないぐらいのやり甲斐をその心に刻み込んでいた。
もっと歌いたい、もっと響かせたい、そして…もっと自分もこの場を楽しみたい。
そう考えると…どんどん心の底から力が湧いてくる。
そしてこの歌声を…キリトに…最後まで聞いていてもらいたいな…。
曲はサビに突入した、演奏の雰囲気が変わりこの曲のクライマックスを迎えたところで、観客も大盛り上がりを見せた。
リズムに合わせて観客席から「ハイ! ハイ!」といった合いの手の声が聞こえてくる。
こういうのもライブの醍醐味と言える。普段CDなどで聞いている曲とはまた違った魅力があるのだ。
アスナとユウキは夢中で歌っていた、この世界に酔いしれていた。
会場と自分自身が一体化していることを感じていた。
楽しい…楽しい…! もっと…もっと声が出る…もっと…響かせられる…!!
しかし楽しい時間は過ぎ去るのが早い、やがて…二人のデュオの曲の終わりが近づいてきた。
――長い夢見る――
――心はそう――
―――永遠で―――
最後の歌詞に合わせ、二人は再び腰の鞘から剣を抜き、シンメトリカルに左右それぞれ外側斜め下に向かい剣を振りかざして曲を締めた。
後奏が流れ続け、やがてその演奏は少しずつ音を小さくしていき、演奏を終えた。
演奏が終わると同時に歓声と拍手が二人に向けられ鳴り響いた。
その音を聞いた二人は、深々と頭を下げたのちに、歌を聞いてくれたみんなに感謝の意を表した。
『ありがとうございまあ~~すっ!!』
『ありがとーう! みんなありがとーう!』
アスナとユウキは曲の最後まで聞いてくれた人たちに改めて感謝の意を表した。
二人の歌った最初の曲は見事大成功を収めていた、その証拠に二人の姿が舞台裏に消えていっても、その歓声と拍手はしばらく消えることがなかった。
アスナとユウキは舞台裏に戻ると、ほっと胸をなでおろし安堵の表情を浮かべた。そこにキリトとセブン、レインらが駆け寄って労った。
「二人ともお疲れ様! 最高のステージだったよ!」
セブンはそう言うと二人にドリンクを投げた。アスナとユウキはそれぞれ片手で見事キャッチし、ふたを空けてぐびぐびと飲み始めた。三分の一ほどを飲み干し、プハーッと一息ついたあと出迎えてくれたみんなにお礼を言った。
「うん! ありがとうみんな! すっごい楽しかった!」
「私も…昔コンクールで入賞したときよりも…すっごい楽しくてうれしかった…!」
「うん…これが…ライブなんだよ…ユウキちゃん! 歌い手と…お客さんが…完全に一つになるの!」
セブンとレインは興奮冷めやらぬユウキとアスナに向かい、ライブの魅力を伝えていった。
しかしあまり悠長にしている時間はなかった、5分後にはユウキのソロが始まる。
「さあ、余韻に浸ってる暇はあんまりないよ! ユウキちゃん! 着替えてすぐに次の曲の準備!」
「あ…う…ウン!」
ユウキはそう言うと、舞台裏の近くにある簡易更衣室に身を潜め、左手でメニューを操作し、装備フィギュアを表示していつも装備しているナイトリークロークから、アスナにこしらえてもらったドレスへと着替えた。
ドレスの装備が終わると簡易更衣室のカーテンが開き、いつもの元気なユウキとは想像もつかない、清楚なイメージの姿へと変わっていた。ユウキは少しだけ照れくさそうにしていた。
「えっと…似合う…かな…」
ユウキは視線を外側にそらしながら、両手を前に組ませてもじもじしていた。
キリトはそんなユウキの姿に見惚れていた。俺の知らないユウキを見れて得をしたといった感じだった。
これからこの衣装を俺のためにいつでも着てくれることを考えたら…胸が躍る気分だった。
「すごい…似合ってる…きれいだぞ…ユウキ」
キリトは思ったことを恥ずかしげもなく表にだして言った。その率直な感想を聞いたユウキは更に照れ臭くなり、首を垂れて耳まで真っ赤にしてしまっている。
「うん…デザインしたのは私だけど…すっごい可愛いよ! ユウキ! 似合う似合う!」
アスナも追い打ちをかける、普段なかなかおしゃれをする機会がないユウキにとっては実に新鮮な感覚だった。
そして、いつかこういうのをアスナと一緒にお出かけした時にやりたいなとも思っていた。
キリトは多分こういうのには疎いからだめだ、アスナじゃないと。
「ありがと…えへへ…」
ユウキも恥ずかしさ半分だが満更でもない様子だった。そして、ユウキソロの時間が秒読み開始まで迫っていた。
「ユウキちゃん! そろそろだよ!」
「あ…うん…。ねえキリト…」
「ん? なんだ?」
「えと…ぎゅってして…?」
それだけ言われたキリトは迷わず無言でドレスに身を包んだユウキに向かい抱擁をした。人前でも構わずユウキに力いっぱいの大好きをあげた。ドレス越しにユウキの体温がキリトの体に伝わっていった。仮想空間でもその温かさはしっかりと感じられた。
「さ…時間だ…頑張れよ、ユウキ…」
「うん!…ボク行ってくるね!」
それだけ言い残すと、ユウキは方向を180度かえステージに向かい、女の子走りで元気に走り去っていった。
いつもと違う清楚な雰囲気に、キリトはいつも以上にドキドキしていた。
ハーフタイムの会場は相変わらずざわついていた。観客にもプログラムは伝えられているが、詳細までは伝えられていなかった。誰が歌うかとかまでの情報しかいっていない。従ってこれからユウキが何を歌い、何曲歌うかは全く知らない。
勿論…ユウキがHIVキャリアだという事実も…。
ユウキが三度会場に姿を現すと、またもや会場は先ほどより大歓声に包まれた。清楚な雰囲気のドレスに身を包んだユウキの姿に大盛り上がりを見せていたのだ。
「うおー! ユウキちゃんめっちゃ可愛いー!」
「すごいきれいだよー!」
「うおー! 俺と付き合ってくれー!!」
「似合ってるよー! 絶剣ちゃーん!」
またもや会場のあちこちから野次が飛ぶ、先ほどユウキに求婚した男は懲りずにユウキにアプローチを掛け続けていた。
その声の主をキリトはまたもや探しだし、顔をまじまじと見て記憶した。このライブが終わったら探し出してシメてやる、心にそう強く誓って。
ユウキはステージの中央に立つと、観客席の中央を向きスカートの両裾をつまに、両足をクロスさせて、華麗な
ユウキは挨拶を終えると右手にマイクを握り、ゆっくりとした口調で話し出した。
『みんな…今日はボクの…ボクたちの歌を聴きに来てくれて…本当にありがとう…。残りの曲は…ボクが歌う2曲だけになっちゃったけど…最後まで…一生懸命歌います! だから…よろしくおねがいします!!』
もう一度ユウキは深々と頭を下げる、その返事には会場が大歓声で応えてくれた。その歓声を聞くとユウキに笑顔がこぼれた。
『みんなありがとう…! それでは…聞いてください…ボクの…この曲を…』
前奏がかかる、今までかかっていた曲はJ-POPのロック調の曲が多かった。Mステで流れているような疾走感があるノリのいい曲ばかりであった。
しかし今度流れたユウキの曲は…今着ているドレスの雰囲気にぴったりな、しっとりとした曲だった。
セブンが作詞をした、ユウキの人生を思い描いているかのような曲の一つだった。
観客席は今までセブンのライブでは聞いたことがない曲調に一瞬驚きを見せたものの、そのしっとりとした雰囲気に酔いしれていた。すっかり溶け込んでいた。
いつも元気いっぱいで活発なユウキからはとても想像できないような歌声に、観客は聞き入っていた。合いの手もほとんどなく、ただ…ひたすらにユウキの歌声に酔いしれていた。
ユウキはその歌詞の意味を心に刻み込みながら、一声一句心を込めて歌声に乗せて会場に響かせていた。観客の中にはすでに感動して涙を流し始めている人の姿も見え始めていた。
キリト達は舞台裏からその姿を静かに見守っていた。ユウキが…すべての想いを込めている様子を…静かに静かに見守っていた。
ユウキの表情からは真剣さもうかがえるのだが、何より切なさ…悲しさといった感情が見て取れた。その独特のしっとりとした雰囲気に会場はすっかりシリアスなムードに包まれていた。
みんな聞き入っていた、ユウキの作り出している世界に。
ただ曲がシリアスなだけではない、この曲を通してユウキが作り出した世界に完全に入り込んでいた。
やがて…曲は最後のサビに差し掛かり、一曲目の演奏が終わろうとしていた。
―on―giving―for―my―way―
最後の歌詞を歌い切り、左手を外側斜め下へ伸ばし、マイクを持った手は自身の腰に当てる形でポーズを決め、曲を締めくくった。少しの静寂が訪れた後、観客席からは大変な拍手と歓声が巻き起こった。
すごい、感動した、思わず泣いてしまったよ、といった言葉が様々な方向からユウキの耳へと入っていった。
ユウキは自分の想いが…心が…この会場のみんなにちゃんと聞こえていたんだなと…実感した。
そしてそれをちゃんと聞き届けてくれたみんなに…心から感謝した。
『ありがとうございました…』
ユウキは丁寧な挨拶で一曲目を締めた。会場からはより温かい拍手と歓声が鳴り響いていた。
そして間髪容れず次のプログラムに進行を始める。次の曲でユウキが歌う曲はお終い、セブンのライブの進行プログラム的にも、最後の楽曲となっていた。
つまりユウキが歌うこの曲がこのライブのトリを務めていたのである。
そしてそれはユウキの病気のことを告白するときがついに来てしまったことを意味していた。
「………ッ」
舞台裏で見守っているメンバーにも緊張が走る。
ユウキがHIVだということを告白したら…一体このライブ会場はどうなってしまう? 中継を見ている人たちはどんな思いになる?
そればかりしか頭になかった、下手をしたら…世界中がユウキの敵になってしまうのではないかと…最悪の考えにまでいたってしまっていた。
気が付くとキリトの体は震えていた、ユウキにやめさせたい気持ちもあった…しかしそれは出来なかった。
するとアスナが優しくキリトの手を握りしめた。
「あ…アス…ナ…」
「キリト君、大丈夫だよ…」
アスナは真剣なまなざしでキリトを見つめていた。ユウキなら大丈夫、あの子は強い、これぐらいで負けたりしない。
だから信じて見守ろう。そうアスナの目が語り掛けていた。
「…ああ…ゴメン…そうだな…恋人の俺が信じてやらなきゃ…誰がユウキを信じてやるって言うんだ…」
キリトの体の震えは止まっていた、ホントにアスナが…みんなが傍にいてくれてよかったと思う。
俺一人じゃ…絶対にここまでたどり着けることは出来なかった。
改めてキリトはここまで支えてくれた人たちに感謝の気持ちを込めた。
(頑張れ…頑張れユウキ…!)
お辞儀をしていたユウキがゆっくりと頭を上げた。
そして…ついに…あの言葉を…静かに…語り出した。
『みなさん、ボクは…HIVキャリアです』
その言葉を聞いた瞬間会場が凍り付いた、そして次第にざわついていった。
お…おい…今の話マジ…なのか…?
HIVキャリアって…どういうことだよ…?
ユウキちゃんが…HIV!?
嘘だろ…あの絶剣が…?
ここに立っていて大丈夫なのかよ…。
などなどざわついた会場から様々な話し声が聞こえてきた、しかしその声からはユウキを責め立てるような意図は感じられなかった。あくまでも突然の告白に単純に困惑しているといった様子に見えた。
『まず皆さんに黙っていたことを…謝ります…、ボクが今回…このライブに参加させてもらったことには…大きな理由があります…』
会場は沈黙を守り、ユウキの話を聞き続けていた。
『ボクは生まれたときから…HIVに感染していました。帝王切開によってこの世に生を受けたボクは、たまたまその時に使われていた輸血用の血液にHIVウィルスが混在してたことにより…感染しました…』
『ママは即感染、ボクにもその血液を通してすぐに感染しました。一緒に生まれた姉ちゃんにも…感染していました。そしてそのウィルスは…パパにまで…魔の手を伸ばしていき、とうとう…家族全員がHIVに感染していました』
『パパとママは…一度一家心中も考えたそうです、でも…クリスチャンだったパパとママは…楽な死よりも苦しい生の、病気と闘っていく道を選びました。そのあとのボクらの人生は…凄惨なものでした…』
『ボクらがHIVキャリアだと知ると、近所は手のひらを返し全部敵になりました。学校も…それまで仲良く遊んでいた友達も、先生も、親戚も…ボクらの味方は誰一人いませんでした。その迫害は…引っ越し先にまで…及んできていました』
観客の中にはすでにこのユウキの壮絶な過去を知り、涙を流し始めるものも見え始めていた。
この目の前のか弱い少女が…そんなに過酷な人生を歩んで生きていたことに…同情の涙を流していた。
ユウキの手は震えていた、この大人数の前で、永遠に封印しておきたい自分の忌々しい過去を暴露していた。出来ることなら自分の中だけで未来永劫閉じたままにしておきたかった…。
でも…これも…神様が与えた試練なら…そして…どんなことがあっても大切な仲間が…キリトが支えてくれると考えたら…次の言葉を振り絞る勇気が出てきた。
『ボクは…何度も自分の運命を呪いました、何で神様はこんな過酷な運命をボクたちにお与えになったんだろう? その答えはいくら考えても分かりませんでした。やがて…パパとママは…死んでしまいました。ボクは三年前にAIDSを発症して…そして去年、最後の家族…姉ちゃんも…ボクの側から…永遠に…いなくなってしまいました…」
その時…ユウキの姉…藍子のことを口ずさんだ瞬間、ユウキの目から大量の涙が零れ落ちた。
ユウキは感情の高ぶりに耐えきれず、押しつぶされそのまま立つ力を失いステージに膝から崩れ落ちてしまった。
「ユウキッ!!!」
キリトは崩れ落ちたユウキに駆け寄って、体を支えた。アスナもその後に続き、セブン、レイン、スメラギと順々にユウキに駆け付けた。
セブンはスタッフにタンカを持ってくるように指示したが、ユウキはそれを制止させた。
ボクは大丈夫…ちょっとだけ…力が抜けちゃっただけだから…とだけ言い残して…。
「ごめんみんな…大丈夫…ボクは大丈夫…最後までやれるから…見守ってて…?」
そのユウキの言葉に困惑しつつも、キリト達は渋々首を縦に振った。
「…俺はお前の傍にいるぞ」
「…キリ…ト…」
「お前が苦しんでるのに…悲しんでいるのに、傍にいてやれないなんて…それこそ俺が狂っちまう…」
それだけ言い放つとキリトはユウキの左手をガッチリ握りしめ、ユウキに元気を送り続けた。
「私も…」
アスナもその手に手を重ねた。
「アス…ナ…ありが…と…」
その時だった、観客席からユウキへの応援の言葉が聞こえてきた。
「ユウキちゃん頑張れー!!」
「泣くなー! みんな最後まで聞いてくれてるぞー!」
「そうだー! ここにユウキちゃんの敵なんて一人もいねえー!」
「ユウキちゃんはHIVなんかに負けねーぞ! なんたって絶剣なんだからな!」
その言葉を聞いてユウキは更に涙腺を崩壊させた。今度は苦しい悲しい涙ではない、嬉しい…嬉しい涙を流していた。
『みんな…』
キリトとアスナもこの会場の温かい声援に涙を流していた。
「がんばれ…ユウキ…がんばれ…!」
「うん…ボク…頑張る…」
ユウキはゴシゴシと自分の目をこすって涙を拭うと、顔を真っ赤にしながら続きを話し出した。
『ごめんなさい、もう大丈夫です…。…姉ちゃんが死んじゃって…ボクはとうとう独りぼっちになりました。何度も何度も…もう死にたい…生きていても楽しいコトなんてない…そう思いながらどうにか生きながらえてきました』
『でもボクはある日思いました、どうせ短い命なら…その死を受け入れ、それまでの一日一日を大事に生きよう。精一杯踏みしめて生きていこう…そう心に決めました』
『AIDSを発症したボクの体は…やがてほとんど動かせなくなりました。それからはこのVR世界での冒険が…ボクの人生でした。現実の体は動かないけど…この仮想世界でなら…思う存分動かせる…ボクはこの世界の虜になっていました』
『だけどボクは…この世界でも人と一定以上の関わりを持たないようにしてきました。仲良くなったって…どうせ自分はすぐ先に死んでしまう。相手に悲しい思いをさせるぐらいなら…これ以上の関わりは持たない程度に付き合っていこう…、ずっとそうして過ごしてきました』
『でもある日…明日にでも死んでしまいそうなボクを…一生懸命追いかけてきてくれる人が現れたんです…。ここにいる親友の…アスナと…ボクの大切な人…キリトが…』
『キリトは言ってくれたんです、ユウキは絶対死なせない、最後まで諦めるな、絶対に病気を治してやるって…。ボクは不思議とその言葉を信じて…病気になってから初めて…"生きたい"と思えるようになりました』
キリトとアスナはより力強く、ユウキの手を握りしめた。頑張れ…頑張れ…俺たちが…私たちが傍にいる…、そう想いを込めてひたすら力強く握りしめていた。
『ボクは…もう一回…普通に…生きたい…。学校にも通って…お買い物にも行きたい…贅沢なんていらない…ただ…普通に…生きていきたいだけなんです…』
『でも…ボクのように…運命のいたずらの所為で…すべてを壊された人たちが…世界中にいます…。ボクと同じぐらい…いやそれ以上に苦しい思いをしている人たちもいるかもしれません…』
ユウキの目には再び大粒の涙が浮かんでいた。
『ここにいるみんな…そして…このライブを中継で見ている人たちに…お願いです…。ボクたちを…助けてください…。何にもできない…無力なボクたちを…助けて…ください…』
ユウキはそれを言い終えると口に手を当て、力なくその場に崩れてしまった。キリトはすぐに反応し、力強くユウキを支えた。アスナも一緒にユウキの体を支えた。
「キリト…アスナ…ありがと…」
「何言ってるの…当たり前じゃない…」
「ああ…お前は俺が…俺たちが支える…、だから安心しろ!!」
「うん…うん…」
そこでセブンが一歩前へでて、衣装のポケットからマイクを取り出し、スイッチをいれて語り始めた。
『みんな…聞いての通りよ…、今も世界中で…HIVと…AIDSと苦しい闘いを続けている人たちがたくさんいるの…。ここにいるユウキちゃんも…その例外じゃない…』
セブンが会場に語り掛けたことによって、また少し雰囲気が変わる。
『だからお願い…会場のみんな…そしてこのライブを中継で見ているみんな…、人種なんて関係ない…。ドナーを…骨髄ドナーを…登録して…HIVで苦しんでいる人たちのために…ユウキちゃんのために…骨髄ドナーの登録を…どうかお願いします…!!』
セブンは深々と頭を下げた、キリト、アスナ、レイン、スメラギ達もセブンに続くように頭を下げた。
長い長い静寂が訪れた、正直この告白に混乱している客の数も少なくはなかった。一度にいろいろなことを聞いて頭の処理が追い付いていないように見えた…。
それから5分ほど経っただろうか、会場は先ほどまでの盛り上がりが全く見受けられない静かな空間と化していたが、それは一人の行動で破られることとなった。
「俺…ドナー登録する…」
観客席から一人のシルフの青年が呟いた。アバターからでは何処の国の人かは分からない…恐らく日本人だと思うがその一言が、一気に会場の空気を変えた。
「俺も…」
「俺も登録する!!」
「私も…!」
「俺…ダチにアメリカ人がいるから…協力を呼び掛けてみるよ!」
「俺もシェアハウスの外国人の友達に声かけてみる!!」
その支持の声は少しずつ…そして確実に…やがて爆発的に増えていき、会場全体を再び歓声で覆いつくすほどにまで大きくなっていった。そしてその声は会場の外まで貫くほどの大歓声になると満場一致でドナー登録に前向きな姿勢を示してくれたのだ。世界中のHIV感染者を…ユウキを…全員一体となって助けようとしてくれていたのだ。
『みん…な…』
ユウキは再び、嬉し涙を流していた。今まで敵だった世間が、初めてユウキの味方をしてくれたのだ。
インターネット配信のコメント欄もユウキを支持するコメントで埋め尽くされ、コメントサーバーが一時的にダウンしてしまうほどの混雑を招いていた。
世界各国に設置された大型ディスプレイやARヴィジョンの周りでも支援の声が続々と上がりまさに今世界が一つになってHIV感染者を…ユウキを助けようと動き出していた。一人の少女のひたむきな"生きたい"という気持ちが世界を本当に動かしたのだ。そして…会場内ではユウキコールが鳴り響いていた。
「ユウキ! ユウキ! ユウキ! ユウキ! ユウキ!」
ユウキはキリトに体を支えられながら、その眼に大粒の涙を流していた。ボクを助けてくれると言ってくれたこの場にいるみんなに…世界中のみんなに感謝の言葉を伝えた。
『みんな…ありがと…ほんとに…ありがと…ボク…すっごく嬉しい…』
「気にするなー! 絶対助かるぞー!」
「そうだー! ユウキちゃんを死なせてたまるかってんだ!」
「俺らがついてる! 安心しろユウキちゃん!」
「ブラッキー先生! ユウキちゃんのこと頼むぜー!」
「お似合いだぞ! コラー!」
何故かその声援はキリトにまで飛び火していた、まあ…あの様子を見れば二人の関係は大体御察しがついたことだろう。
キリトとユウキは涙を流しながらも照れくさい態度を取っていた。
ほどなくして落ち着きを取り戻したユウキは自分の足で立ち上がり、再びマイクを持つ手に強く力を込めた。
『みんな…ホントにありがとう…嬉しすぎて…これしか言えないけど…ホントに…ありがとう…』
ユウキは深々と頭を下げた、キリト達も一緒に観客席に向かって頭を下げた。会場からはそんなユウキたちを支持する拍手と歓声という形で答えが返ってきた。世界は…今少なくともこの瞬間だけは…優しさで出来ていたのだ…。
『随分時間が空いてお待たせしちゃったね…それじゃあ…そろそろ再開しようと思います…。ボクの歌う最後の曲…聞いてください…』
ユウキがその言葉を残し静かに目を閉じると会場は静まり返り、しっとりとした雰囲気のピアノの前奏音が聞こえてきた。キリトたちは一歩だけユウキから下がり距離をおいた。
ユウキは静かに…そして柔らかく…最後の曲を歌い始めた。
自身の人生の全てが描かれたこの曲の歌詞を…受け止めるように…声に出して…気持ちを伝えていった。
その歌をすぐ後ろで聞いていたキリトの目には…またもや涙が浮かんでいた。
本当に…泣き虫である。そしてそれに続くようにアスナももらい泣きをしてしまっていた。
曲はサビに差し掛かり、更に一層切ないメロディーが流れた。そのタイミングでキリトはユウキの傍までかけより、マイクを持っていない方の手を握りしめた。
一瞬ユウキは驚くが、曲に影響がでないように歌声をキープしながらキリトと視線を交わした。
(ありがと…キリト…大好きだよ…)
サビも最後の瞬間に差し掛かる、ユウキが参加する最初で最後のライブが…もうすぐ終わりを迎えようとしていた。
もう少しだけ続けていたいなと思いながらユウキは最後の歌詞を歌い上げた。
――キミと――生きた――今日を――
――ボクは――忘れない――
最後の歌声を振り絞った木綿季は天井を見上げる角度で声を出し切り、少しずつ力を抜いて、ゆっくりと直立の姿勢に戻っていった。
『…ありがとう…ございました…』
歌い終わったユウキは最後まで歌を聞いてくれた全員に感謝の意を込めて、深々と頭を下げた。
会場からは拍手と歓声、そして支援の声が返ってきていた。
ユウキはキリトの方を向くと「ボク、やり切ったよ」といった涙の浮かんだ笑顔で見つめていた。
キリトはそんなユウキを温かい笑顔で返事を返した。
トリをつとめたユウキが会場から踵を返して、舞台裏に戻ろうと思った瞬間、会場から一斉にとある声が聞こえてきた。
「アンコール! アンコール! アンコール! アンコール! アンコール!」
耳をつんざく大音量で会場のあちらこちらからアンコールが沸き起こっていたのだ。
ユウキたちは困惑の表情を浮かべていたが、セブンだけは「計算通り」と言った顔でにんまりとしていた。
「え…セブン…これは…」
「ユウキちゃん…ライブにアンコールはつきものなのよ…?」
来ると思ってなかったユウキに対し、セブンはにやにやしながら歩み寄ってきた。
「大丈夫、もう一曲…教えておいた曲が…あったでしょ?」
「あ…うん…うん…! 念のため覚えてきなさいって言ってた…アレ…!」
ユウキは思い出した、アスナと一緒に猛特訓を積んでいた時、一応念のためこの曲も歌えるようにしておきなさいとセブンからもう一曲教えてもらっていたのだ。
「ユウキ…やろう!」
アスナが力強く、ユウキの肩に両手を当てて笑顔で語り掛ける。
「うん…アスナ…もう一度一緒に…歌おう!!」
ユウキとアスナが気持ちを固めると、舞台裏が何やら騒がしくなっていた。何事だ?と思ったメンバーは舞台裏の方を見てみた…すると…。
「え…何で…? どうして…?」
ユウキは自分の目を疑った。舞台裏からは続々と…元SAOの仲間たちがやってきたのである、片手にマイクを持ちながら…。その中でもシリカがピナと共に元気に前へ出てきた。
「キリトさーん! アスナさーん! きちゃいましたー!」
「シリカちゃん!? それにリズに…、リーファちゃんに……一体どうしたの…!?」
舞台裏から出てきたのは、リズベット、シリカ、リーファ、フィリア、シノン、ストレア、ユイ、そしてギターを持ったクライン、ドラムスティックを握ったエギルであった。
「クラインにエギルまで…!? お前ら…どうしてここに…」
キリトも驚愕の表情を見せた、かつての仲間が…どうしてこの会場に…それもスタッフ側から出てくるのかが理解できなかった。
「私が呼んだのよ…キリト君」
セブンが前にちょこんと飛び出し、自分の仕業とばかりに暴露し始めた。
「アンコールが来ることは分かってたからね、なら最後の最後ぐらい、盛大にぱーっと盛り上げないと! それがライブってもんよ!」
「おうよ! セブンちゃんのライブに開催する側で参加させてもらえるなんて…このクライン、一生の誇りってやつだあっ!!」
クラインはギターをかき鳴らしながらその喜びを動きで表していた、もとの種族がサラマンダーなだけあって非常に暑苦しい。
「っていうか…みんな演奏とか歌唱とか…いけるのか…?」
「もちろん歌えないわよ…でも…レインが裏でいろいろ教えてくれたから…それなりには…歌えるようになったけど…」
リズがそう言うと、全員の視線がレインに集まった。視線を感じたレインは笑顔でVサインを作った。
「俺様はこう見えても高校時代に、バンドやってた経験があるんだぜ。少しぐらいの演奏だったらお茶の子さいさいよう!」
クラインは再びサラマンダーの色を基調としたような真っ赤なエレキギターをジャラーンとかき鳴らした、一々やかましい男だ。
「俺も…日本に来る前は…仲間と一緒にドラムをたたいてたんだぜ?」
そう言うとエギルは近くにあるドラムセットに腰を落ち着けると見事な手つきでドラムをかき鳴らしてみせた。
元々の渋い見た目もあって、なかなかにその姿はダンディーなものだった。
「キリト! ユイも連れてきたよ! キリトの役に立ちたいんだって!」
ストレアはそう言うとユイの背中を強く叩き、キリトに向かって押し出した。
「わわ…はいパパ! ママ! ユイも一生懸命お歌の練習したのです! 精一杯見てほしいのです!」
ユイはキリトとアスナの姿を確認すると二人のもとに駆け寄り、ぱあっと明るい笑顔で話しかけてきた。自立したといっても…やはりキリトとアスナのことは大好きなようだ。
「ユイ…お前まで…サンキューな…」
「ユイちゃん…ありがとう…!」
「ユウキさんはもうユイのお姉ちゃんみたいなものなのです、だから…助けるのは当たり前なのです!」
ユイの純粋無垢なその眩しい笑顔に、ユウキは感謝の言葉しかなかった。
ボクとキリトが付き合い始めたばかりにユイちゃんには悲しい思いをさせてしまったというのに…。
「ユイちゃん…みんな…ありがとう…ホントにありがとう…ボクの…ために…」
「気にすることないわよ、仲間…でしょ?」
シノンが優しくユウキの肩に手を当てた。
「ほらユウキ…あんまりお客さんまたせちゃ悪いよ…歌おう! 思いっきり!」
「あ…うん…ありがとうリーファ!」
「最後は精一杯盛り上げていこうよ! ユウキちゃん!」
フィリアはユウキの背中から手を胸元に回すように飛びついた。
「わわっフィリア…うん…ホントにボク…すっごく嬉しい…」
ユウキの心は集まってくれたみんなの温かさではちきれんばかりの気持ちでいっぱいになっていた。本当に…心の底から…ボクは幸せ者だ…そう感じていた。みんなとなら…何だってやれる…やり遂げられる…そう信じて疑わなかった。
「キリト、貴様はステージの後ろの方で俺と…戦え」
スメラギはキリトに歌ではなく剣を交えるように指示をした、まあ双方音痴なのだから仕方がなかった。
「歌えない俺たちはこのステージの演出係ってことだな…いいだろう。最後の歌のシメでは…カッコよく終わらせてやろうぜ!」
キリトがそういいながら剣を抜くと、スメラギも剣を抜いた。エギルはドラムをスタンバイ、クラインもエレキギターを弾く態勢に入った。他の歌唱メンバーは全員マイクをもち、いつでも始められる状態になっていた。
「ユウキ…この曲はお前が始めろ…!」
「キリト…うん! 分かった!」
キリトに背中を押されたユウキは会場の観客席に向かい、アンコールに応えた。本当に最後の曲を始めようとした。
『みんなお待たせしてごめん! 最後は…ボクのこの…世界一大切な仲間と一緒に…お届けするね! 最後まで…お付き合いよろしくお願いします!!』
会場は大いに沸いた、最後の曲と分かると今までにない大きな歓声が巻き起こった。
ユウキが演奏開始の合図を送るとエギルがドラムスティックをリズムよく叩き、演奏の始まりを促した。
タンタンタンと心地よい木のぶつかる音が鳴り響くと最後の曲の前奏が流れ始めた。
ユウキ、セブン、アスナの三人が歌い出しからスタートし、Aメロからリズ、シリカ、リーファ、ストレア、フィリア、シノン、レイン、ユイが合唱して続く。
やがてギターのパートになるとクラインが景気よくエレキを鳴り響かせた。意外と様になっている。
エギルは軽快なリズムでドラムセットを叩き続けた、時にリズミカルに、時に激しく。
筋骨隆々なその見た目から打ち込まれるパワフルなドラムテクニックは見ているだけでも楽しい。
キリトはステージ上でスメラギと
時には羽を広げ、会場中央を飛び交いながら空中戦を繰り広げ、長い中央路で地上戦をしながら走り抜ける。
絶対に観客やユウキたちに攻撃を当てないよう注意を払いながら。
しかしあくまでも演出という名目での
観客席からは絶えず合いの手が送られ、その合いの手に合わせてサイリウムがキレイな蛍光色を放ちながら弧を描き続けていた。こんなに歌い手が集まるのはセブンのライブでは初めてのことなのでかつてない盛り上がりを見せていた。
SAOとALO…ゲームの垣根を越えて…今会場が完全に一つになっていた。
やがて最後の曲も終わりが近づき、メンバーは最後のサビに入ろうとしていた。
クラインとエギルは真剣な表情で愛用の楽器を打ち鳴らし、クライマックスにそなえ全力で演奏を続けていた。
キリトとスメラギは攻防を繰り広げ、互いのHPがイエローというところまで激しく
そしてその終わりは時一刻と迫っていた。
――Cynthia――時を超えて――笑顔に――戻れるから――
――心歌え――宙を伝え――"ボク"を待つ――空に響け――
――Ring――For――Cynthia――
全員が最後の歌詞を歌い上げると、ユウキが一人だけステージの3歩ほど前に出てきた。
そして大きく息を吸うと、心からの叫び声をあげた。
――――――――Cynthia――――――――
その叫び声にも近い歌声をシャウトすると、曲は後奏に突入。
クラインとエギルが最後まで演奏しきり、エレキギターの心地よい低音が鳴り響く形で最後の曲が終わりを告げた。
そのギターの低音が聞こえなくなると、キリトとスメラギが互いの片手剣を空中でクロスさせ金属音を鳴り響かせてカッコよく締めた。すると会場から拍手喝采と大歓声が巻き起こった。その音は最高の演出をしてくれたステージ上のメンバー全員に向かって盛大に送られていた。
大歓声に聞き入っているメンバーはお互いの顔を笑顔で見つめ、やり遂げてやったぜといった満足の表情に包まれていた。
そしてライブを締めるべく、ユウキ、セブン、レイン、アスナが前に出て、今日来てくれた観客、中継を見てくれた人たちに向かって最後の挨拶を精一杯送った。
『みんなー! 今日は本当にありがとうー! また会おうね! ダスヴィダーニャー!』
セブンがそう言い放つと、会場のあちらこちらから「ダスヴィダーニャー!」という挨拶が返ってきた。そしてその大歓声と拍手はいつまでも鳴りやむことがなかった。
チャリティーライブは…無事大成功を収めたのだ…。
たった一週間にも満たない限られた時間で準備をしたチャリティーライブは、"世界中がユウキの味方をする"という最高の結果となって締めくくられた。
その熱気はしばらく収まることを知らず、メンバー全員が舞台裏に消え、楽屋入りしてもいまだに歓声と拍手が鳴り響いていたほどであった。その遠くからかすかに聞こえる熱気に、メンバーは心地よさを覚えていた。
「すごいね…まだ…聞こえてくるよ…」
シメの曲が終わってから30分ほど経過していた。
ユウキは椅子に腰を落ち着けながら目を閉じ、耳を澄ませて拍手と歓声を聞いていた。
そのユウキの顔からは全部やり遂げた…頑張った…といった達成感に満ちた表情が感じられた。
「ああ…すごいな…」
キリトはそう言うと、ユウキの頭に手をあて優しく撫でじゃくった。
「頑張ったな…ユウキ…」
「うん…ボク…やったよ…」
「お疲れ様…ユウキ…」
アスナもキリトとユウキに歩み寄った。その声にはどことなく達成感よりも疲れが感じられていた。
「集まってくれたみんなも…サンキューな…」
キリトは元SAO組のメンバーに感謝の気持ちを送った。正直、このメンバーが集まらなければ最後のアンコールのあの盛り上がりはなかったであろう。
歌うのが苦手なリズやシノンもよく頑張ってくれたと思う。
「気にすんな! ユウキちゃんのことを想えばどうってことないぜ!…このぐらい誠心誠意尽くすのは当り前よ!」
クラインは親指をたててこれからもこのクライン様を頼れよ?といった態度でキリトに返事を返した。
「んじゃあ…アンタだけはこの後の打ち上げに来ないってわけね?」
リズがすかさずクラインに食って掛かる。
「なっ…そ…そいつはねーだろ!? おい、キリの字! 何とか言ってやってくれ!」
「悪い…それを取り決める権利は…俺にはない、あきらめろクライン」
「んな…殺生な…」
楽屋は笑いに包まれた、キリトは項垂れているクラインを尻目に本当にいい仲間を持ったなと…心の底から幸福を感じていた。ユウキのために…全員欠けることなく集まってくれたことに…心から感謝していた。
「ユウキ、どうする? 打ち上げ…行くか?」
「んー…行きたいけど…ちょっと疲れちゃったから…少し休みたいな…」
「そうか…悪いセブン、打ち上げ…先にみんなで始めててくれ。ちょっと…ユウキと二人になりたい」
セブンは「しょうがないわねえ…」と渋々了承すると、キリトとユウキ以外のメンバーを連れて、打ち上げ会場に向かい楽屋を後にした。次々と楽屋を後にするメンバーにキリトとユウキは一人ずつ感謝の言葉を伝え、挨拶をすませていった。そしてメンバー全員が退室すると、楽屋にはユウキとキリトだけが残った。
「ユウキ」
「うん…」
ユウキはキリトに返事をすると、キリトの胸に抱き着いた。
「キリト…ボク…頑張ったよ…」
「ああ…本当にユウキは…頑張った…その小さい体で…よく頑張ったよ…」
キリトはユウキを優しく抱きしめ、ひたすら静かに時が経つのを待った。
会場の拍手と歓声はもう聞こえなくなっており、完全に静寂が訪れていた。その静寂が疲れ切った二人には心地よい沈黙となっていた。
十分にお互いを近くに感じたキリトとユウキは一旦距離を置き、にっこり笑うと再び抱き合った。
「何か…抱き合ってばかりだね…ボクたち…」
「俺は好きだぞ…ユウキを抱きしめるの…」
「…うん…ボクも…キリトにぎゅってされるの…嫌いじゃない…」
「そうか…」
二人の間には達成感や満足感もあったが、何より勝っていたのが疲労感であった。
ユウキはずっと自分の中だけに秘めていたことを世界中に暴露した、そして細い体で精一杯最後まで歌を歌い切った。
キリトは側でずっとユウキを支え続け、最後の最後でスメラギと
何にしろスメラギは半分本気で斬りかかってきていたからだ。それなりにこちらも全力で対応しないと折角のライブのシメのタイミングでリメインライト化してカッコ悪い姿を晒してしまう。そんなことは御免こうむりたい。
すっかり疲労感に包まれた二人にはだんだんと眠気が舞い降りて来ていた。
「もう…ここでいいか…ちょっと寝るか…ユウキ…」
「うん…寝よ…お休み…キリト…」
二人は楽屋に用意されていたソファに互いの身を寄せ合い、深い眠りについた。
1時間ほど経過したところでリズ達が様子を見に来たのだが仲良く熟睡している二人の姿を見ると「しょうがないわね」とだけ言い残し、起こさずに部屋を後にした。
また今度…今度はユウキの退院祝いとして…その時に祝福してバカ騒ぎしよう、そう考えていた。
少しイレギュラーなこともあったが、キリトがユウキの命を助けるための計画は無事に成功という形で一応の幕を閉じた。これから先はドナーを待つのみといった状態になるのだがこればかりは待つしか方法はない。
いつドナーのHLAの一致が判明して、それがいつ木綿季のいる病院に届けられるかも全く分からないのだ。
しかし…ここのところは激しい日々が続きすぎていた。
ドナーが届くまでの間は…休暇と見なして…二人でゆっくりと過ごしていくのも悪くないのかもしれない。
キリトはドナーが見つかることを祈りつつ、明日へとまた歩み始めていた。
「きりと…だい…すき…」
「ゆうき…だいすき…だ…」
to be continued...
前回に引き続きの長文をお読みいただき、誠にありがとうございます。
あまりにも長いので一度に読もうと思ってもなかなか難しいと思いますが…。
さて、ライブが終わりました…。幸いにもユウキは世界中を味方につけることが出来ました。
あとはドナーが届くかどうかにかかってます。
果たしてドナーは集まるのか…?
それでは以下次回!