ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味 作:むこ(連載継続頑張ります)
昨日10月19日付けで再び日刊ランキングに載らせていただきました
前回より高い8位にランクインさせていただきました、ありがとうございます。
UA25000目前に迫り、お気に入りは気が付いたら300を突破していました。
評価の方も高評価をいただき、真っ赤に染まっていました。
20日の深夜とお昼にやった長時間生放送の方にも足を運んでいただいた方々にも改めて感謝の気持ちを贈らせていただきます。
リアリゼーション…面白いです。そして…ユウキが超可愛いです。
デートに連れまわしまくってます。ペアで狩りも出掛けてます。
この時系列ではアスナが恋人のままみたいなので、さっさと振ってユウキEND目指します。
許せよ、アスナ。
それでは38話どうぞ!
西暦2026年5月26日午後17:45 木綿季の病室
木綿季は三年ぶりに食事を楽しんだ。
現実世界に戻って最初の食事は、愛する和人の作ってくれた手作りの料理だった。
木綿季の体調を考慮してということで栄養士の高橋がお粥をチョイスした。こんぶとかつおで出汁を取り、弱火でじっくり煮込み、歯がない人でも食べられるぐらいにまで柔らかく仕上げた。
試しに一口…うん、いける。薄めの味付けだがいい味が出ている。木綿季も多分…喜んでくれる。
和人は考えていたより上手くできたと思い、木綿季の喜ぶ顔を思い浮かべながら期待に胸を膨らませ土鍋に蓋をして、木綿季のもとまで持っていった。
木綿季は俺が来るまでに既に眠りから目を覚ましていた。
現実世界に戻ってからの初めての風景を窓から眺めていた。その瞳は感慨深そうに思いを巡らせて風景を見つめていた。
声を掛けると木綿季は俺に気付き、嬉しそうに話しかけてくれた。
今朝よりも声が出せていたので俺まで嬉しくなった。
そして木綿季は俺の作ったお粥の匂いに気付き、鼻をひくひくとさせていた。
目の前で土鍋の蓋を開け、ツヤツヤに輝く白いお粥を目にした木綿季は表情を輝かせていた。
三年ぶりの…現実世界での食べ物に…心を躍らせていた。
俺は木綿季が食べやすいような量に調節して、口に運んであげた。
舌と顎を上手に使い、少しずつお粥を食べてくれた。
そして一口目を飲み込むといきなり泣き出してしまったので俺は焦ってしまった。
酷いものを食べさせてしまったかと思ってしまった。しかしそうではなかった。
和人の想いがこもったお粥を口にし、胸からあふれてくるものがいっぱいすぎて、涙を流してしまったのだ。
決して俺の作ったお粥がまずかったとかいうワケではなかったらしい。
嬉し涙を流しながら俺の料理を美味しいと言ってくれた。俺は嬉しかった。
美味くできた自信がなかったわけじゃないが…目の前で美味しいと言われると…やっぱり嬉しかった。
そうなると自然と木綿季の口にお粥を運ぶ手に力も入る。
木綿季は次から次へとお粥を口にして、満足そうな顔をしてくれた。
気が付くと多く作ってしまって残すと思われたお粥は全部木綿季の胃袋へと収められていた。
三年ぶりの食事はきっかり全部完食してくれた。俺は安心した。
全部平らげた木綿季は幸せそうな表情をしていた。その表情を見て俺も…心の底から嬉しくなった。
毎回こんな顔をしてくれるなら…次も何か作ってあげたくなった。
傍に木綿季がいてくれて…俺も…幸せだった。
「けぽっ…」
木綿季が可愛らしいげっぷをした、部屋には俺しかいないので聞かれたと思った木綿季は恥ずかしそうに口元を押さえていた。可愛い。
「…聞い…た?」
「うん、ばっちり」
「ぁ…ぅ…」
恥ずかしがるほどのことではないと思ったが下を向いて顔を赤くしてしまった。
顔が赤くなってるのは多分あつあつのお粥を食べたせいもあるだろうが、とにかく耳まで真っ赤にしていた。
そんなに恥ずかしかったのだろうか、あれよりでかいげっぷなら俺だってもっとでる。
「食べたら出るさ、気にするな」
「でも…恥ず…かしいのは…恥ずか…しい…から…」
木綿季はひたすらもじもじと先ほどの行為を恥ずかしがっていた。ああもう可愛い。
「でもそれだけ満足してくれたんだろ?俺は…食べてくれて本当に嬉しかったぞ」
「あ…う…ん…おいし…かった」
その言葉を聞いて改めて俺は嬉しくなった。こんなことぐらいしか出来ないが…それで木綿季を元気づけてあげられるなら…もっと頑張ろうと思った。
「ありがとな」
食器をお盆ごとカートに戻して、簡易テーブルも下げて、先ほどのベッドの形と同じ形に戻す。
「んじゃあ俺はこれを片付けてくるよ、飲み物…何か買ってこようか?」
「あ…んと…かずとに…まか…せるよ」
「そうか…んじゃあ温かいお茶でも買ってくるよ」
「うん…ありが…と…」
心なしか先ほどより声が出ている気がする。日常の動作をすればするほど体にいい刺激が来るに違いない。
このまま元通りの体に戻ってくれれば…御の字だ。
「んじゃあ、ちょっと行ってくるよ」
「うん…まって…るね」
和人は病室のドアをスライドさせ、後ろ向きでカートを引きながら部屋からでた。
出る直前に見た木綿季の表情はとてもいい表情をしていた。でもちょこっとだけ寂しそうだった。
「片付けて…早く戻ってあげないとな…、いっぱい話したいこともあるし…」
そう考えた和人の足は自然と早くなっていった。時間はたくさんあるが…これからリハビリやらなんやらでゆっくり出来る時間は限られてくる。
なら今のうちにたくさん話しておきたい、木綿季の…昔の話とかも聞きたいしな…。
「おや? 和人君じゃないですか、こんばんは」
カートを押していると向こう側から倉橋が書類を持って歩いてきた。
木綿季の病気という肩に重いものを背負っていた倉橋だったが、木綿季の病気が治ってからは自然と張りつめた顔をしなくなっていた。最近はすごく晴れやかだ。
「こんばんは先生、今…木綿季の食事の後片付けをしようとしてまして」
和人はそう言いながら、土鍋の蓋を取って中身を倉橋に見せた。
「おや…からっぽ…ということは…木綿季君食べられたんですね…よかった…」
「ええ…結構多めに作ってしまったんですが…全部平らげてくれました。美味しかったと…言ってくれました」
「……そうですか…それは…本当によかったですね…」
倉橋は本当に嬉しそうな顔をした。このまま経過良くいけば…早い段階で木綿季は退院出来ると感じていた。
しかし…その表情はどことなく少しだけ寂しそうにしているようにも思えた。
「はい…胃が受け付けないかとも思ったんですが…しっかり食べてくれたので安心しました」
「良かったです…、しかし木綿季君も嬉しかったでしょう…ちょっと遅かったですがいい誕生日プレゼントになったんじゃないでしょうか…」
「え?」
今、先生とんでもないことを口走らなかったか?…ちょっと遅かったが…誕生日プレゼント…?
ちょっとまて、誕生日って…どういうことだ…?
「せ…先生…木綿季の誕生日って…いつなんですか…?」
気まずそうに汗をかきながら和人は倉橋に問いただした。倉橋は知らなかったのですか?といった表情をしながらその質問に答えた。
「いつって…3日前の5月23日ですけど…和人君…知らなかったんですか…?」
「…………」
知らなかったとか言えない、というより俺は木綿季の病気のこと以外過去のことを何にも知らなった。
横浜に住んでたことも本人から教えてもらうまでは知らなかったし…考えてみたらほとんど木綿季のこと知らないじゃないか。
それにしても恋人のくせに相手の誕生日も知らないとは…情けない限りである、と和人は思っていた。
「…先生!ごめんなさい! ちょっとこれ調理室まで運んでもらっていいですか! 俺…ちょっと急用が出来てしまいました!」
「え…あ…別に調理室は私が行く先の途中にあるので構いませんが…どこか行くのですか?」
和人はそう言うと時間を確認しながら慌てて病院の出口へを足を運んだ。
「はい! ちょっと時間ないんであとで説明します! 木綿季には…1時間か2時間で戻ると伝えてください!」
倉橋は呆気にとられていたがすぐに状況を理解した。和人君は木綿季君の誕生日を知らなかったんだ…と。
だから今慌ててプレゼントを買いに走っていった。そういうことか…と思っていた。
「そういえば教えていませんでしたね…木綿季君も話していなかったんでしょうか…。ちょっと悪いことをしてしまいましたね…」
倉橋は申し訳なさそうな表情を作りながら頭をぽりぽりとかいていた。あとで謝らなければと思いながらカートを調理室に運んでいた。この後は非番だから洗い物もしてあげますか…と思いながら。
――――――
同日17:50 横浜港北総合病院 駐輪場
和人は慌ててシートからヘルメットを取り出し、キーを差し込みエンジンを起動させるとサイドスタンドを蹴り、バイクを発進させた。
しまった…木綿季の誕生日を知らないだなんて…恋人失格だ…。
さんざん木綿季が大切だ言ってても肝心なときにこれなんだもんな…。
今更買ってきたところで木綿季が喜んでくれるかどうかは分からないが…せめて何か贈りたい。
病気が治ったお祝いも込めて…何か買ってきてあげないと…。
しかし何がいいだろうか…何を買えば喜んでくれるだろうか…、木綿季が喜びそうなもの…。
和人はいろいろ考えてはいるが、木綿季なら和人のくれたものなら何でも喜んで受け取ってくれるだろう。
しかし…贈るならとびっきり木綿季の喜ぶものがいい、和人はそう考えていた。
(女の子だから…やっぱり宝石とか…おしゃれするものに…喜んでくれるのかもしれないな…よしっ)
和人は道路の路肩にオートバイを一時停車させて、ポケットからスマホを取り出し、付近の店を検索した。
アクセサリーショップやファッションを扱っている店がいくつかヒットした。
現在位置から一番近い店へと和人はバイクを走らせた。
――――――――
同日18:00
和人は横浜市金沢区能見台にあるとあるショッピングモールのファッション売り場に足を運んでいた。
まず和人が木綿季に贈りたいと思ったものはファッション関係のものだった。
(でも俺…木綿季のスリーサイズとか知らないしな…第一今は痩せてるから買ってきても肉付きがよくなってくるとまたサイズが合わなくなりそうだ…どうしたもんか…)
「何かお探しですか?」
突如和人は女性店員から声を掛けられた。和人が足を運んでいたのはレディース売り場であった。
挙動不審な和人の佇まいに、女性物を選び慣れてないんだなと悟った店員が気を使って声を掛けに来てくれたのだ。
「あ…はい…ちょっと恋人の…誕生日プレゼントに…」
「あら…それはそれは…」
店員はニヤニヤして和人を見つめていた。この手の女性は和人は非常に苦手だ。
それはもう思う存分横浜港北総合病院で嫌というほど味わっている。これ以上からかわれる前に和人は目的を伝える。
「えっと…実は今入院してまして…リハビリの最中なんです。だから…洋服を買ってやっても多分すぐサイズが合わなくなると思うんですよ。だから…それ以外で何かないかなと思いまして…」
それだけ聞くと店員はふんふんと言いながら考え込んでいた。この道何年のプロなんだろうか…?
女性のお洒落にかんしてはティーンズからセレブまで御用達といった風貌を感じさせるベテラン店員だ。
きっといいものを紹介してくれるに違いない、俺が選んでもヘンテコなものになっちまうだろうからな。
「となると…身に着けるものですね…リストバンドや…帽子等の小物ぐらいの大きさのファッションアイテムでしたらよいかと思われます」
なるほどいい案じゃないか。確かにそれなら体のサイズの影響を受けることは少ないし管理もしやすい。
嵩張ることもないし木綿季は喜んでくれるかもしれない。
和人は早速そのレディース小物売り場に案内をしてもらった。
「帽子は…実に120種類ほどのものを取り揃えております。形とサイズごとに並んでおりまして色なども様々です。彼女さんは…どんな方なんでしょうか?」
「あ…えっと…俺より二つ年下なんですけど…すごく元気で活発で明るい子です」
「なるほど…なら…これでしょうか…?」
店員はそういうと明るい赤のベレー帽とキャスケット帽を陳列棚から取り出した。
ベレー帽とキャスケット帽…確かに木綿季には似合うかもしれない。しかし生地が少し厚いな…。
これから夏が来るというのにこんなものを被ってしまったら頭が蒸れてしまわないか心配だ。
「そうですね…ちょっと生地が厚い気がしますね…、これから夏が来るのでこれはちょっと…」
店員はそうですか…と少しだけがっかりしながら帽子を棚に戻した。ごめんなさい店員さん、秋ごろになったらまたここに買いに来ますから…その時またその帽子を売ってください。
とは言ったものの…あとはもうセレブ御用達のようなデザインの帽子しか見当たらない。
いかにも上品な大人の女性が被るような高級感溢れるものばかりだ、値段も勿論高級。
和人に払えない金額でもないが気軽に出せるような金額でもなかった。
「どうしたもんかな…何か…木綿季に似合うものは………あ…?」
和人は帽子売り場の端っこにある売り場に目を止めた。
そこに陳列されている商品は決して他の商品ほど上品さはなく、気軽に誰でも買って身につけられるようなラインナップのものが並べられていた。和人はそこに何か感じるものがあり、そそくさとその売り場に足を運んだ。
そこにはヘアバンドが並べられていた。色、模様、柄、様々なヘアバンドがずらりと並んでいた。
和人は一つ一つまじまじと見つめながらヘアバンドを見ていた。
どれもいい生地を使用しているもので、それなりの値段をしていた。
「あ…これ…」
和人はとあるヘアバンドに目を止めた。それを棚から取り出してまじまじと見つめた。
その手にとったヘアバンドは、ALOでユウキが身に着けているヘアバンドとそっくりなデザインをしていた。
「…偶然…なのかもしれないが…妙な運命を感じるな…これにしよう。…すみません! これをください!」
店員に渡してプレゼント包装をしてもらい、レジで会計を済ますと和人はすぐさま店を出た。ここでの目的は達成した。
「あと一つ…何か…受け取ってもらいたいな…」
欲深い和人はもう一つ木綿季へのプレゼントを買おうと思っていた。
本人の自己満足でもあるのだが何かもう一つ、木綿季に贈り物をしたかった。
「よし…宝石でも見てみるか…」
和人は同じアウトレットに開店しているジュエリーショップに足を運んだ。
和人が入店すると店内のとあちらこちらから「いらっしゃいませー」という入店の挨拶がこだました。
こういう機会でもないと一生足を運びそうにない店内の雰囲気に和人は完全にのまれていた。
何せあちらこちらキラキラと光り輝くものがたくさん並んでいるのだ。
ネックレス、指輪、イヤリング、ピアス、ブレスレットなどなど…。
あまりにもあたりがキラキラしているので若干頭もクラクラしてきた和人であった。
「お客様、何をお探しですか?」
「あ…えっと…ちょっと恋人への…贈り物をと…」
「あらあら…それはようございますね!」
なんだかデジャブを感じた。俺に近寄ってくる女性は何故みなこうなのだ。
赤の他人ですらこうもニヤニヤしてくるとは…絶対に俺の前世は女事で嫌なことがあったに違いない。
いろいろツッコまれる前にさっさと用件を済ませるとしよう、あまり木綿季も待たせられないしな。
「んと…そうですね…あの…紫と黒がまざったアクセサリーとかありますか…?」
「黒と紫がまざったものですか…難しいご注文ですね…」
和人がイメージしてたのは過去に二人で新生アインクラッド第29層のボスを倒したときにドロップした「ブラックアメジストネックレス」と似たネックレスだった。
しかしそんな宝石な自然界に存在しない。黒真珠やアメジストなど、黒と紫を基調とした宝石は存在するが、それらが混ざり合った宝石など聞いたことがない。
色が混ざり合い違う光を放つ宝石などせいぜいアレキサンドライトぐらいだろう。
「そう…ですよね…、んじゃあ黒と紫…それぞれで構いませんのでネックレスかペンダント的な物をいただけませんか?」
店員は「畏まりました」と返して和人をネックレス売り場に案内した。
そこにはガラスケースに保管されているネックレスがずらりと並んでいた。
とんでもなく値段の高いものもあれば和人でも十分に買うことの出来る値段設定のアクセサリーまで様々な品揃えだった。
「すごい…こんなにあるんですか…」
「これでもほんの一部です、本店になれば…ネックレスだけでここの三倍近くの品揃えになります」
和人が呆気に取られていると店員がケースのカギを外し、和人の所望する見た目のペンダントを二つ取り出した。
「黒と紫と言いますと…こちらですね。黒真珠とアメジストのペンダントです。こちらを選ばれるお客様はなかなかおりませんが」
遠まわしに俺の美的センスに包丁を刺すようなことを言われた気がするがここは気にしないことにしよう。
「…そんなに高くないんですね…」
「はい、皆様やっぱりエメラルドやルビーといったポピュラーなアクセサリーを選ばれることが多いので、こういった淡い色合いのアクセサリーはなかなか選ばれないものでして…」
「…これ、ください」
「…こちらでよろしいですか?」
「はい、包装もお願いします」
店員は「畏まりました」と言うとガラスケースの鍵を閉め、そのまま商品をカウンターに持ち出した。
和人は財布を片手に店員の後を追った。
先に会計を済ました和人はカウンターの奥で包装する様子を見ていた。
奥では手慣れた様子で店員がラッピングをしていた。黒のペンダントには黒の包装用紙を、紫のペンダントには紫の包装用紙でくるみ、平べったいプレゼント箱に形を整えて入れ、最後に専用のリボンを使って封をした。
ラッピングが終わると店員は小さい紙袋に包装されたペンダントをいれ、厳重に衝撃吸収材を入れてこちらに持ってきた。
「お待たせしました、お気をつけてお帰りください」
「どうも、お世話になりました」
店員が「ありがとうございました!」と頭を下げているうちに和人は踵を返して店を後にした。
「さて、こんなもんか…一応考えて買ったけど…木綿季…喜んでくれるかな…」
行きの時にも思ったことだが和人は木綿季が喜ぶか不安だった。多分快く受け取ってくれるとは思うが…木綿季に想いがちゃんと伝わるかどうか心配していた。
「まあ…買っちまったもんはもう仕方ないよな、帰るか…」
和人は自分のオートバイのシートを開くと、買ったものに負担を賭けないような配置にしてシートを閉めた。
ヘルメットをかぶり、エンジンを吹かしてサイドスタンドを蹴り、慣れた手つきで再び病院への道のりを戻っていった。
――――――
同日午後18:35 横浜港北総合病院駐輪場
ちょっとばかり遅くなってしまった。
陽は既に傾いており、夕方と夜の中間の色合いの空となっていた。和人が好きな時間帯の空模様だった。
「木綿季…待ちくたびれて寝ちまってたりしないかな…」
いそいそと移動する和人は途中で自販機を見つけた。そういえばお茶を買っていく約束もしていたなと思い出した和人は小銭を入れて「わ~いお茶」の温かい方を購入した。
病院の自販機なので少しだけ割高であるが先ほどこれより遥かに高い宝石を購入したこともあり気にかけることなくお茶を買った。
「これでよし、さあ木綿季のとこに急ごう」
木綿季の病室は三階にある。体を鍛えている和人はエレベーターではなく階段を使って三階まで登った。
せかせかと移動してきたために少しだけ息が切れていた。
「ふぅ…すっかり遅くなっちまったな…」
木綿季の病室までたどり着いた和人は、病室の扉をコンコンとノックして扉を横にスライドさせた。
「木綿季…入るぞ…」
和人は扉を開けると同時に声を掛け、部屋に入った。
そこには先ほどと同じような姿勢で窓の外を眺めている木綿季の姿があった。
上半身だけベッドから体を出し、吸い込まれるような瞳で夜と夕陽が混ざったような空を眺めていた。
「かずと…おかえり…」
和人に気付いた木綿季は嬉しそうな笑顔を見せて和人に挨拶をした。
声はまだ細いが…途切れることなく言葉を発することが出来ていた。
「ただいま…、木綿季…大分声が出るようになってるじゃないか」
「うん…セブンにやってもらった…ボイストレーニングを意識して…喉をならしてみたの…」
「そうだったのか…それにしても回復が早いな、いいことだ」
「うん…」
木綿季はそう言うと、和人の後ろに何かあることに気付いた。
「和人…どこに…いってたの…?」
「あ…ああ…ちょっとな…これを買いに行ってきたんだ」
「んと…何だろ…それ」
和人は少しだけ深呼吸をすると、ベッドの簡易テーブルを起こし先ほど買ってきたものを木綿季の前に並べた。
「…和人…これ…は…?」
「遅くなっちまったけど…誕生日おめでとう…木綿季…」
「え…?」
木綿季はキョトンとした顔で目の前に並べられた包装箱を見つめていた。
一体何でこうなっているのかが少しだけ理解できていなかった。
「5月23日…お前の…16歳の誕生日だろ? 3日ほど過ぎちまって…遅かったかもしれないが…プレゼントだ」
「え…ボク…の…?」
木綿季は自分の誕生日のことをすっかり忘れていた。
HIVに感染し、AIDSを発症して入院生活が始まってからは誕生日パーティなどの類は、一回もやってきてなかった。ましてやプレゼントなど贈られたこともなかった。
「…いいの…? 和人…?」
「ああ…そのためにひとっ走り行ってきたんだ…お前の喜びそうなものを探してきた」
「………ッ」
木綿季の瞳には涙が浮かび上がっていた。嬉しさのあまりに言葉を失っていた。
口元を押さえ、本当に受け取っていいのかという表情を浮かべていた。
「ほら…遠慮なんかすんなよ…俺が開けちまうぞ?」
「あ…えっと…ボクが…開けたいな…、開けて…いい?」
「ああ…いいぞ…」
そういうと木綿季はおぼつかない手先で苦戦しながらも、少しずつゆっくり丁寧に包装を解いていった。
手先がプルプル震えていたが、これもリハビリだと思って温かく木綿季を見守った。
一つの箱を開けるのに2分ほど費やして、木綿季は一つ目の箱を、ヘアバンドが入っている箱を開けた。
「わあ…これ…ボクが…ALOでつけてるのと…同じやつだ…」
木綿季は目を丸くしてヘアバンドを見つめていた。嬉しそうで、懐かしそうで、そんな目をしていた。
「ああ…偶然…だけどな…これしかないと思って買ったんだ」
木綿季はヘアバンドを両手で持って自分の胸に当てると嬉しそうに和人に礼を言った。
「和人…ありがとう…すっごく嬉しいな…」
「礼なんていいよ…それより…つけてみてくれないか?」
木綿季は「ウン」とだけ言うと慣れている…とは決して言えない手つきで、ヘアバンドを頑張って自分の頭につけようとしていた。
一生懸命手を動かして、「んしょっんしょっ」と声を出しながら首元まで一度ヘアバンドを通過させ、そのまま額の上までヘアバンドを戻すといつもALOで見慣れている姿をした木綿季がそこにいた。
「えっと…どう…かな…」
木綿季は少し顔を斜めにしながら恥ずかしそうにこちらを見ていた。
やっぱり木綿季にはヘアバンドがよく似合う。
「ああ…やっぱりよく似合ってるよ…すごく可愛い…」
「うぇ…あ…うん…、あり…がと…」
木綿季はさらに顔を赤くしてもじもじとしながら下を向いてしまった。
「和人…こっちも…あけてみて…いい?」
「ああ、もちろんだ」
木綿季はその言葉を聞くと嬉しそうにペンダントの入った包装箱に手を掛けた。
こちらはリボンがひっぱるだけでしゅるしゅるとほどけ、すぐに包装紙を開けられるような構造になっていた。
出てきた箱の蓋に木綿季が手を掛け、開けてみるとそこには先ほど買ったアメジストのペンダントが姿を現した。
「わあ…すごい…」
木綿季はペンダントを取り出すと目をキラキラさせながら見つめていた。
恐らくというか宝石なんて贈られるのは初めてだろう、この年で贈ってもらう女の子もそうそういないだろうが。
「いいの…? ホントに…」
「当り前だろ? お前のために買ってきたんだから…」
木綿季は本当に自分がこんなものを贈ってもらっていいのだろうか?と思っていた。
決して安くない買い物だろうに、和人は自分のためにわざわざ買いに走っていってくれた。
そう思うとまた心がいっぱいになり、自然と涙が出てきてしまった。
「ありがと…和人…ホントに…ありがと…」
「どういたしまして…んで…実はこっちの箱なんだが…」
和人はもう片方の黒い包装箱に手を伸ばし、自分で封を解いた。
中からは黒を基調とした黒真珠のペンダントが出てきた。
「この…もらった…ペンダントと…同じ形だ…」
「あ、ああ…その…同じ形で黒と紫とあったから…お揃いに出来ないかと思って…な…」
「え…和人と…お揃い…?」
お揃いという言葉を発した瞬間、和人も恥ずかしくなり下を向いてしまった。
流石に常日頃からこれをつけて回ることはないだろうがお出かけの時とかにはつけるのだろう。
「ああ…いや…だったか…?」
「ううん…いやじゃ…ないよ…むしろ…嬉しい…かな…」
二人は視線を合わせると「つけようか」と言い、和人は木綿季のペンダントを首元につけてあげた。
自分の黒いペンダントは自分で自分の首につけた。
「…なんか…妙な…感じだね…」
「あ…ああ…ペアルックなんて…明日奈とやったこともなかったな…」
「ホント? んじゃあ…ボクが…初めて…なんだ」
「そ…そう…なるな…あはは…」
二人は黙りこくってしまった。嬉しいやら恥ずかしいやら照れくさいやらといろんな感情が頭の中を巡っていた。しかしほろ苦くとも甘酸っぱいこの感覚は嫌いではなかった。
「和人…ありがと…、ボク…ホントに…嬉しい…」
「いいんだよ、むしろ遅くなっちまって…ゴメンな…」
「ううん…そんなこと…」
木綿季は大切な贈り物に手を当てて、本当に幸せそうな顔をしていた。
「リハビリ…明日からなんだっけか?」
「うん…まずは…手とか腕とか…上半身から…始めるんだって…」
「そうなのか…俺に手伝えることがあったら何でもいってくれよ?」
「うん…ありがと…」
木綿季は連日自分のためにここまでしてくれる和人に本当に感謝の気持ちしかなかった。
和人は病気を治す前から数えきれないほどの暖かいものをいっぱいくれた。
今はまだ何もやってあげられないけど…退院したら…たくさん恩返ししよう…。
何してあげれば…喜ぶかな…和人…。ボクに何が…出来るかな…?
いつかその日が来たら…たくさんお返ししてあげるね…和人…。
ご愛読ありがとうございます。いやいやいや、甘かったですな…。
でも和人に木綿季の誕生日をスルーさせるわけにはいかないので、必須イベントとして盛り込みました。
本当はペンダントをつけている挿絵も書きたかったのですが、私に宝石を描く画力がなかったために断念しました。スミマセン。
結果大して打ち込んだと思ってなかったのに10000文字を超えてしまいました。
こんなペースじゃいつまで経っても退院出来なそう…。
次回から一応リハビリ模様をお伝えしていきます。
木綿季の頑張りにご期待ください。
それでは以下次回!