ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味 作:むこ(連載継続頑張ります)
前回の41話の内容…非常に重たく。
木綿季を幸せにするという前提で描いているこの物語で、大いに矛盾を抱えた内容だったと思います。
木綿季を幸せにするんじゃなかったのかよと仰る方もいらっしゃると思います。
今回の件のことを釈明させていただきますと、木綿季が日常に復帰したとなりますと、遅かれ早かれ木綿季の過去が表沙汰になるだろうと思ったからです。
ならば早い段階で解決してしまおうといった経緯がありました。
日常編が始まったばかりの1話目で幸せな日常どころか殺伐としてしまい、出鼻を挫かれた方もいらっしゃったことでしょう。この場を借りてお詫びを申し上げます。
言い訳の仕様がありません。木綿季を悲しませたのは事実です。
また木綿季を好きな方々にも不快な思いをさせてしまったと思います。
大変に申し訳ありませんでした。
だからというワケではないですが、今回からはもう重たい話は比較的ないと思っていただいて大丈夫だと思います。
少なくともトラウマをほじくり出す、心を抉るといった展開は今後はありませんので、安心して読んでいただけると思います。
今度こそ、木綿季と和人の幸せな毎日を描いていけると思いますので、差し支えなければ今後も応援いただければと思います。
改めてお詫び申し上げます。不快に思わせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
それでは、42話ご覧ください。
西暦2026年10月26日月曜日午後15:35
和人たちは公園での事件のあと、調書を取る為に市内の警察署に任意同行を求められていた。
神田は現行犯で逮捕され、余罪を追及されている。
かなりの罪が暴露されていき、未成年であっても実刑の可能性が浮上してきた。
情状酌量の余地が全くないため、法廷でもそう難しくなく裁判は進むことだろうと、担当の刑事さんが言っていた。
たとえ実刑でも、そうでなくてもシャバに出てきた後、二度と木綿季たちに近付くことはないだろう。
何故なら…和人が警察に連れていかれる神田に向かって、あることを耳打ちしたからだ。
――――――――
『ああ刑事さん、ちょっとそいつ連れてくの待ってもらっていいですか?』
『ああ…何だろうか、早くしてくれたまえよ?』
和人は涙目になっている神田に向かって近寄ると、自分の顔を神田の耳に近付けて何やら呟いた。
『今度木綿季にちょっかい出したら…"殺す”からな?』
『ッ!?』
神田は恐怖の表情を浮かべながらも恐る恐る和人の顔を見る、冗談だよな?と思いながら。
しかし和人の顔は本気だった。SAO時代にロザリアを牢獄送りにした時、
『二度はないと思え、幸い俺にはこの界隈にこの手のツテがいる。お前を殺したところですぐにムショから出られるからな』
これは半分嘘で半分本当だった。しかし何を勘違いしたのか神田は和人が…そっちの道の関係者だと思ったみたいだった。次関わったら取られてしまうのは命だけじゃないと思い込んでしまっていた。
『は…はひっ…』
『ま、がんばんな』
木綿季は和人が神田に何を吹き込んだかある程度想像がついていた。
神田から離れてきたあとの和人の表情は非常に晴れ晴れとしていた。いつもはドン引きするところだがこの時ばかりは和人に称賛を送っていた。
――――――――
といったことがあり、現在二人は徒歩で自宅まで向かっていた。
翠と直葉には午前中に既に連絡を入れてあり、二人は既にこちらに向かってきてくれてると言う。
「それにしても…あの神田ってやつ…お前の事本気で殴ろうとしてたよな…」
和人が腕を後頭部の位置に回して機嫌悪そうに神田のことを言い放った。
「うん…実はアイツ、暴力を振るってたのはボクだけじゃなかったの。他のクラスの弱そうな子とかも…いじめてたの。相手が女の子だろうが下級生だろうが…関係なかったよ」
「…根っからのクズだったんだな…。よく野球部なんて続けられたもんだ」
「うん…正直…二度と関わりたくなかったな…」
「…大丈夫だ、もうあいつは俺たちには近寄ってこないさ」
「あ…そういえば…あの時和人はなんて言ってたの?」
木綿季に質問を投げられた和人が機嫌よさそうに「聞きたいか?」と聞き返す。
「あ…うん、大体察しはつくけど…ちょっと気になるし」
「ああ…、今度木綿季にちょっかいだしたら、"殺す"って脅しといた」
「えっ…」
木綿季は若干引いていた、自分のことを守ってくれるのは嬉しいが…限度があるんじゃないか?と。
勿論本当に殺すことはないだろうが言い方というものがある。
「それは…言い過ぎなんじゃ…」
「何言ってんだ。俺の木綿季に手を出しておいて、五体満足で済んでるだけで儲けモンだと思ってもらわないと困る」
「ああ…うん…、そう…なんだけど…」
「それに…ああなっちまったら俺は止められないんだよ。言ったろ? ぶち切れると周りが見えなくなるって…」
「そういえばそんなこと言ってたね…」
木綿季は若干呆れ顔であったが、内心はとても嬉しかった。ボクのために真剣に怒ってくれたこと。必死にボクを守ろうとしてくれたこと。そしてボクのことを何よりも大切にしてくれていることに。
「ねえ、和人。くっついていい?」
「ん…ああ…、別にいいんじゃないか?」
「やたっ♪」
そう言うと木綿季は和人の右腕に左腕を絡めて、これでもかというぐらい密着した。
和人は非常に歩きづらそうにしていた。それでも木綿季は大変にご機嫌な表情を浮かべて歩き続けた。
「あの…木綿季先生…歩きづらいです…」
「え~我慢我慢! お家まであとちょっとなんだから文句言わないのー!」
「へぇ~い…」
和人は諦め顔を浮かべていた。昔からこうなった木綿季は言ったことを曲げないからだった。
しかし悪い気はしなかった。こんな自分を頼りにしてくれているのが嬉しかった。
今日は怖い思いをさせてしまったが、結果的に過去との確執を少しは無くせたかなと思っていた。
「なあ…木綿季…」
「なあに? かずと」
「…ふふっ、何でもないよ」
「なあにそれ! 和人のいじわる!」
微笑ましいやり取りをしていると、突如和人のスマートフォンに着信が入った。
和人は楽しくやりとりしてる最中を邪魔されて若干不機嫌になっていた。
「悪い…ちょっと電話だ」
「うん、わかった」
和人は木綿季の腕をほどいて、ポケットからスマホを取り出して発信者の名前を確認した。
…発信者の名前は桐ヶ谷峰嵩、和人と直葉の父親からだった。
「父さんからだ…珍しいな…」
「え…お父さん?」
和人は木綿季に頷きながら峰嵩からの電話に出た。
「もしもし…父さん?」
『…和人か…私だ』
「珍しいな父さん…どうしたんだ?」
『どうしたもこうしたもあるか! 聞いたぞ? 母さんから、事件に巻き込まれたって』
「ああ…そのことか。うん、大丈夫だよ。ちょっと腕を打撲しただけで他に被害はないから」
『お前のことじゃない、木綿季のことを心配してるんだ。…そこにいるのか?』
自分のことを心配されてないことを知った和人は若干不機嫌になる。
もちろん峰嵩は心配してないわけじゃない、和人と同じでぶっきらぼうで不器用なだけなのだ。
それでも言われるとムカつくのは事実だが。
「ああ…いるよ、代わろうか?」
峰嵩が「頼む」と伝えると、和人はスマホを木綿季に手渡した。
初めて触るスマートフォンに木綿季は若干戸惑いを見せていた。
「そのまま耳に当てれば話せるからな」
「え…あ…、うん」
木綿季は恐る恐るスマホを耳に当て、初めて話す父親との会話へと赴いた。
「えっと…初めまして、紺野木綿季…です! お父さん…ですか?」
『…初めまして…紺野木綿季ちゃん、和人の父親の…桐ヶ谷峰嵩です。よろしく』
「ぶふっ」
和人は吹き出した。あの堅物な父親がちゃんづけで女の子を呼んでいることに笑いを抑えられなかった。
スピーカーから音漏れをしていたためにバッチリ聞こえていたのだった。
「あ…はい! よろしくお願いします! 昨日から…お世話になってます!」
『そう畏まることはないよ、私たちはもう家族なんだから。もっと…こう…気さくに話しかけておくれ』
「あ…はい…じゃない、うん…わかった!」
『ははは、元気の良い子だ。和人とは大違いだな』
「…全部聞こえてるぞ…父さん…」
峰嵩は和人に会話を聞かれていることを知るとワザとらしく咳き込んだ。
『先ほど…母さんから事件に巻き込まれたと連絡がきた。木綿季ちゃ…木綿季は…怪我はないかい?』
「あ…うん、和人が守ってくれたから…平気だよ」
『ほう…和人が…』
あの息子にそんな度胸があったとはと峰嵩は感心していた。
これは若干スパルタでも親父の剣道場に通わせていた甲斐があったというもんだと感じていた。
何を隠そう、この峰嵩も若いころは随分と和人の祖父から揉まれたものである。
『とにかく怪我がなくてよかった。私の出張も今週で終わりにさせてもらうことになったから、来週には…顔を合わせられると思うよ』
「え…ってことは…!」
『ああ、既に家庭裁判所から許可は出てるからね。来週…皆で一緒に役所へ養子縁組届を提出しに行こうと思う。…よろしいかな?』
「はい! よろしくお願いします!」
『まあ…よく飛ばされる会社だから…また出張に出ることになるかもしれないがね』
「あはは! お父さん…忙しいですね!」
和人は楽しそうに会話をしている木綿季を笑顔で見つめていた。
本当に木綿季は誰とでも仲良くなれる。素晴らしいコミュニケーション能力の持ち主だ。
このコミュ力があったからこそ…木綿季は塞ぎこんでいる俺に…声を掛けてきてくれたんだな…。
『というワケだ…和人にも伝えておいてくれないか? そろそろ仕事に戻るから』
「うん! 頼まれました!」
『ああ…。これからよろしくな…木綿季』
「うん! ボク、お父さんの帰りを待ってるからね!」
お互いにさよならの挨拶を済ませると、通話を終えた。
通話アプリの使い方がわからない木綿季はスマホをそのまま和人に返した。
「ふぃい~…ちょっと緊張した~…」
「まあ…あんな親父だけど…見た目ほど堅物じゃないからな?ちょっと掴みどころがない性格だけど…」
「へぇ~そうなんだ…」
「じゃなきゃ…養子の俺をここまで真剣に育ててくれたりしてないさ…」
「あ…、うん…そう…だね…」
木綿季と和人は境遇がよく似ていた。
お互いに血のつながった家族を亡くし、長期間のフルダイブ環境に囚われ、現在は同じ家庭にお世話になっている。些細な違いはあれど、非常によく似た環境でここまで育ってきたと言えよう。
「…帰るか、木綿季」
「うん…帰ろ! 和人!」
二人はお互いの手を握ると、今度は足取り良く自宅へと向かっていた。
――――――――
同日午後15:45 桐ヶ谷邸
「ただいま~」
和人と木綿季は自宅へと戻っていた。
ドアにカギは掛けられていなかった。恐らく直葉か翠が既に帰宅していると思われた。
「和人…木綿季!…無事だったのね…よかったわ…」
まずは翠が玄関に顔を出してきた。二人の身に何かあったらと心配そうな表情を浮かべながら駆け寄ってきた。
直葉も二階から階段を降りてすぐに玄関まで駆け付けてきた。
「お兄ちゃん! 木綿季! 事件に巻き込まれたって聞いたよ! 大丈夫だったの!?」
「ああ…大丈夫だ。ちょっと腕を打撲しただけで他に怪我はない。木綿季も無傷だ」
和人の背後から、五体満足の木綿季がひょこっと姿を現した。
「和人が…守ってくれたの…」
木綿季が和人の手を握ると翠が「玄関で立ち話もあれだからリビングに行きましょう」と言い、全員リビングへと足を運んだ。
木綿季と和人は買ってきた雑貨などをソファに置き、いつも食事をしているテーブルの椅子に腰を落ち着けた。
翠は落ち着かない表情で和人たちに事の一件の説明を求めた。
無理もない、木綿季が我が家に来てから二日目でもう危険な目にあってるというのだ。
親として気にかけるのは当然のことだった。
「母さん…えっと…その…今回の件は…」
和人はバツが悪そうにしている。
今回の事件のことを話すということは、二人に木綿季の過去のことを話すことになるのと同義であったからだ。
あれだけ表沙汰にしたくなかった木綿季の闇を再び話すなど、和人には出来なかった。
「和人…いいよ、お母さんと直葉になら…ボク…話しても…、全部知ってもらっても…いい」
木綿季は自ら自分の過去を明かそうとしていた。その表情にはもう全て話して楽になりたい、もうこれ以上ボクの所為で、みんなに迷惑をかけたくないといった気持ちが表れていた。
「木綿季…でも…」
「いいんだ…和人、多分…いつかはバレることだから…」
木綿季は大きく呼吸をすると、翠と直葉に子供の頃のことを全て包み隠さず話した。
いじめられていたこと、体に消えない傷を負わされたこと、そして今日その元凶に襲われたこと…。
そして…和人に助けてもらったこと。
全てを聞いた翠と直葉は何とも言えない、悲しそうな表情を浮かべていた。
いつも明るく接してくれてる木綿季にそんな凄惨な過去があったんて…と。
「…そう…だったんだ…。だから木綿季…あの時隠れて着替えてたんだね…」
「うん…ごめんね…騙すようなことしちゃって…」
木綿季は項垂れながら瞳に涙を浮かべていた。その様子を見て慌てて直葉がフォローに入る。
「何言ってんの! 木綿季はちっとも悪くないよ! むしろ悪いのはその神田ってやつだよ! あたしの可愛い妹に手を出すなんて…許さん!!」
「ええ…まったくだわ…。私の健気な娘に手を出すなんて…これは落とし前をつけてもらわないとね…」
直葉は怒りの炎をゴゴゴゴという音を立てながら燃やしていた。
翠は翠で静かな殺気めいた怒りを放っていた。顔は笑っているが目が全く笑っていなかった。
今止めないと不味そうなのは直葉よりも翠だった。
暴走してしまいそうな二人を和人が慌てて落ち着ける。
「お…落ち着けって二人とも! 俺らが手を下さずともヤツは逮捕されたよ。このままいけば実刑が下されるだろうって刑事さんが言ってた!」
「それは…検察側がやることでしょ? 私たちは私たちでやらないと…ねえ?」
翠はそう言うとニッコリ笑いながらヤツをどうしてくれようかという考えを巡らせていた。
いかん、これは非常にいかん。何とかして説得しなくては本当に塀の中に乗り込んでまで報復しに行きそうだ。
「あの…ごめんねお母さん、直葉…、二人の気持ちは嬉しいんだけど…。ボクはもう…あいつと関わりたくないんだ。それに…二人があいつに接触して、傷つけられるかもって思うと…ボクもう…どうしたらいいか…」
木綿季は涙をぽろぽろと流していた。その姿をみた直葉と翠は大変にいたたまれない気持ちになった。
私たちが動いても木綿季は喜ばないと気付かされた。
「ああ…、俺もあいつの姿は二度と見たくない。それに…今後金輪際近付かないことを約束させた。もし破った場合、まあ脅しだったんだが…"殺す"って言っておいたから大丈夫だろ」
その和人の言葉を聞いた瞬間、翠の顔が強張った。
「和人、それはだめよ。"殺す"だなんて…そんな言葉冗談でも使っちゃだめよ。貴方まで神田ってやつと同じになるつもりなの?」
「う…あ…、うん…ごめん…母さん」
和人は言えなかった。SAOの中とはいえ、俺は人を4人殺している。
殺人ギルド、
そして…ヒースクリフこと茅場昌彦。仲間を守るためとはいえ、VRの世界で人を4人も殺めていたのだ。
だから先ほど神田を脅迫した時も、躊躇なく"殺す"などと言えたのであった。
この時の和人の様子のおかしさに、木綿季だけが気付いていた。
和人はまだ何か隠していることがある。ボクに秘密にしていることがある。そう見抜いてしまっていた。
「とりあえず…この件に関しては以上だよ。あとは…警察と検察が何とかしてくれるさ」
「そう…、とにかく二人に大した怪我もなくて安心したわ…」
「うん…お兄ちゃんと木綿季が襲われたって聞いたときは…あたしもう…いてもたってもいられなかったよ…」
「ごめんな…心配かけた」
「ボクからも…ごめんなさい…」
直葉と翠が「二人が無事だったのなら構わない」と返事を返し、この一件は一旦の終了と相成った。
翠は今日は仕事に戻ることはなく、このまま家にいてくれるという。直葉も部活に戻る気分でもないのでこのまま家でのんびりするという。
和人と木綿季は買ってきたものを整理するために自室へと戻っていった。
「ふぃ~…、す…すっごい疲れたあ…」
「ああ…まったくだ…濃すぎたぜ…」
和人と木綿季は大きくため息をこぼすと二人同時にベッドにダイブインした。
二人の体重を受け止めたベッドは弾力性で倒れてきた二人を少しだけ跳ね上げた。
バインバインと上下に揺さぶられている二人の体はやがて完全に仰向けでベッドに体重を預ける形になった
「ねえ…かずと…」
「ん…何だ?」
「ボク…やっぱりみんなに迷惑…掛けちゃってるよね…。今日だって…偶然とは言えアイツと合っちゃって…軽傷とはいえ和人に怪我をさせちゃったし…」
「あまり気にするなよ…」
「気にするよ!!」
木綿季は突如声を荒げて仰向けの姿勢から起き上がった。
「ボク…もういやだ…、ボクの所為で…誰かが傷ついていくの…見たくない…」
「木綿季…」
「お母さんとお父さん…直葉にだって…心配かけちゃったし…、ボク…守られてばっかりで…」
木綿季は顔を押さえて泣いていた。どうしてボクは静かに暮らせないんだろう。折角病気が治ってみんなと一緒に暮らせるのに。どうしてボクにだけ変な因縁がまとわりつくんだろう…。
その所為で…周りの人達を…不幸にしてしまう…。
木綿季は自己嫌悪に陥っていた。すっかり自分の生い立ちの所為で周りの大切な人たちに迷惑を掛けている。
傷つけてしまっていると思い込んでしまっていた。
しかし和人は元より、桐ヶ谷家の人間も明日奈たちもそんなことは微塵にも思っていなかった。
「木綿季、前にお前に言ってもらったことをそのまま返すぞ…。あまり…思いつめすぎるな」
「え…?」
和人はそう言うと、優しく木綿季を抱き締めた。
「かず…と…?」
「独りで抱え込むなって言ってるんだ…。考えて悩むのは別にいい…。ただ…、思いつめすぎて自分が潰れるのだけは…勘弁してくれ…」
「……かずと…」
「もっと俺を…周りの人を…頼ってくれ。俺たちは大人じゃないんだ。もっと周りに迷惑掛けても…いいはずなんだからな」
「…和人は…ボクのこと迷惑じゃないの…?」
木綿季の問いに、和人は笑顔で答えた。
「何言ってんだよ、そんなこと思っちゃいないさ。むしろ…もっと頼ってくれないと俺は困る」
「うぅ…」
「俺はお前が好きだ…、だから…お前の力になれるのなら何だってする…」
和人はより力強く、木綿季を抱き締めた。
放っておいたら勝手にどこかに消えてしまいそうな木綿季を、その場に留めておくかのように。
「うん…うん…あり…がと…」
木綿季は和人の胸を借りて、涙を流した。
和人と出会ってからというものの、木綿季も和人のことを馬鹿に出来ないぐらい、すっかり泣き虫になってしまっていた。
「全く…、お前もすっかり泣き虫だな…」
「…かずとにだけは…言われたくないもん…」
「あはは…ごもっともだ」
和人に元気づけてもらったおかげで木綿季はすっかり元の活発な木綿季に戻っていった。
今までの人生が凄惨な道のりだっただけに、周りへの迷惑に対して人一倍敏感になっていただけなのであった。
16歳である木綿季はもっと周りの人達を、大人たちの力を借りて成長していかねばならなかったのだ。
幸い今は家族に、親友に、そして恋人である和人に恵まれている。
木綿季はこれからも強く、逞しく成長していくことだろう。信頼できる人たちが傍で見守っていてくれる限り…どこまでも…。
――――――――
同日午後16:00
心のモヤモヤがとれた木綿季は買ってきた雑貨類の設置場所などを決めていた。
この和人の部屋をこれからしばらくは二人で暮らしていくことになっている。
その為使えるスペースは限られてくる。和人はそんなこと気にしないだろうが木綿季は別である。
幸いにも和人の部屋はシンプルな構造だったので、当日買ってきた物の設置には特別困ることはなかった。
勉強机も和人のPCデスクが無駄に横に広いためキーボードを片付ければ普通に机として使用できる。
というより桐ヶ谷家そのものがでっかいため、和人の部屋も広かった。
七畳…八畳はあるだろうか? とにかくそれぐらい広かった。
「ふぅ~…とりあえずこんなところかなー?」
木綿季は一先ず和人のチェストとシェルフを借りて、買ってきたものを片付けた。
後々に木綿季のチェストとシェルフが届けられるのでそれまでのつなぎとして和人のものを借りていた。
片付けが終わった木綿季は和人のベッドに腰を落ち着けた。
「だな、お疲れ様」
和人はそう言って、買い物帰りの公園の自販機で買ったココアを木綿季にさしだした。
もう缶の熱さはなくなっていてすっかり冷めてしまっていたが。
「ん…ありがと、かずと」
「すっかり冷めちゃったけどな…」
木綿季はココアが冷めていることなど気にせず、カシュッといい音を立ててココアの缶を開けた。
「んーん、大丈夫だよ! ココアは冷めても美味しいもん!」
そう言うと木綿季は笑顔でココアを飲み始めた。
甘いものが大好きな木綿季は幸せそうな表情を浮かべていた。和人に買ってきてもらったものなら尚更だった。
足をパタパタとさせて、ココアを飲みながら木綿季は和人にとある質問をしてみた。
「ねえ和人…ちょっと聞いてみてもいいかな…」
「ん…何だ?」
「えっと…あのさ…」
木綿季は何やらもじもじしている。聞きづらい質問なのだろうか?
和人はその様子を不思議に見つめて可愛いと思いつつも木綿季の様子が気になっていた。
「何だよ…何か聞きたいんじゃなかったのか?」
「あ…う…その…」
木綿季は両手で抱えているココアの缶をくるくる回しながら視線を泳がせていた。
そして意を決して、和人に質問を投げかけてみる。
「えっと…、か…かずとは…ボクの…どこが…好きになったの…?」
「…え?」
その言葉を口にした瞬間、木綿季は缶に残っているココアを全て飲み干し、恥ずかしさを紛らわすようにして顔を伏せてしまった。言わずもがな顔は耳まで真っ赤っかに染まっていた。
「聞き…たいな…なんて…思ったりして…」
「……全部だ」
「…へ?」
和人の迷いのない即行の回答に木綿季はきょとんとした表情を浮かべていた。
「えと…」
「だから…全部だ。木綿季の全部が好きだ」
「あ…う…」
木綿季は更に顔を真っ赤にしていた。体中のあちらこちらが沸騰して水分が蒸発してしまっているようだった。
「木綿季の元気なところとか、明るいところ、機嫌を損ねてぶーたれてるところも好きだ。すぐ俺に突撃してくるところも大好きだ。俺が何かしてやると喜んでくれるところも…笑ってくれるところも…、現実の木綿季も仮想世界のユウキも…全部全部大好きだ」
「あ…え…あ…うぅ…」
恥ずかしいセリフを躊躇なくぶちまける和人に羞恥心はないのだろうか?と思う木綿季であった。
照れくさすぎてもうどうしたらいいか分からなくなっていた。でも…心は嬉しかった。
「えっと…あ…りが…と…」
「ああ、んじゃあ…次は木綿季の番な?」
「ふぇあ!?」
まさかの質問返しに木綿季は思わず後ずさりをした。そのお陰で和人のベッドのシーツが少し乱れた。
ちなみに壁を背にしているので物理的に逃げられなくなっていた。
多分和人は木綿季が答えてくれるまでここから逃げさせてくれないだろう。
「教えてくれ、木綿季は俺の…どこを好きになってくれたんだ?」
和人がジリジリと木綿季との距離を詰めていった。その距離は段々と近くなり、鼻と鼻がくっつきそうな位置にまで和人が迫ってきていた。
「えっと…その…」
「俺にだけ答えさせて、お前は答えない気か?」
木綿季はまたもや俯いてしまったが視界から外れないように和人が下から覗き込んだ。
それでようやく観念したのか木綿季が重たい口を開き始めた。
「ボク…も…かずとの…全部が…好き…」
その答えを聞けた和人に笑顔が浮かんだ。
「かずとの…かっこいいところとか…、優しいところとか…、ちょっと不器用なところとか…」
「うんうん、それで?」
「んと…、寝起きが悪いところとか…、ちょっと鈍感なところとか…、あと…ぼ…ボクを好きでいてくれているところとか…、VRMMOのキリトも…現実の和人も…ぜんぶ…好き…」
言いながら段々恥ずかしくなってきた木綿季は両手で顔を隠してしまった。
そんな恥ずかしがっている木綿季の顔を上に向かせて和人は木綿季の口に自分の口を近づけた。
「ん………」
「…………」
和人は十数秒間、木綿季の唇を奪っていた。やがて少しずつ、木綿季との距離を離していった。
木綿季は放心状態となってしまっていた。
「ありがとな…木綿季」
「はう…、ずるいよ…かずと…」
「ははは、ずるくて結構」
木綿季は幸せいっぱいだった。本来ならとっくに死んでいたかもしれない自分を救ってくれた和人が、こうして一番近くにいてくれることに心からの幸せを感じていた。
パパ…ママ…姉ちゃん…クロービス…メリダ…見てるかな?
ごめんね、皆の後を追うには…まだかなり時間がかかっちゃうみたいなんだ。
でも…皆の分まで…ボク…生きるよ、生きて…もっと幸せになって…年を取ってから…皆のところにいくね…。
だからそれまで…首を長くして…待っててもらっていいかな…。
ボク…精一杯…大切な人と…この人生を歩んでいくから…、見守ってて…ほしいな…。
甘い?知るか!ウーロン茶でも飲んでろ!!
というわけで日常らしい日常は書けたかな…と思います。
毎回ただ単に甘い話ばかりだと読んでる側も疲れたり飽きたりしてしまうと思いますので今後は色々変化球を重ねて楽しい毎日を描いていこうと思います。
桐ヶ谷家にもまた新しい風が吹き荒れると思います。勿論いい意味で。
それでは、また次回でお会いいたしましょう。