ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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こんにちは、今回は提案のありましたタイムリーな(月変わりましたが)
ハロウィン企画の前編です。
今回でリアルの話を描いて次回でALOの話を描いていきます。
そうなると木綿季にアミュスフィアを買ってあげないといけなくなるな…。

というわけで桐ヶ谷家の日常ハロウィン編、ご覧ください。


第44話~悪戯しちゃうぞ?~

西暦2026年10月30日金曜日 午後17:40 和人の部屋

 

 

 

「はろうぃん?」

 

 

和人のPCデスクで詩乃から歴史を教えてもらっている木綿季がきょとんとした顔を浮かべていた。

詩乃もそれに釣られるかのように木綿季と一緒に和人の顔を見た。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ああ…、明日の31日19:30、アルンの街で受けられるクエストがあるみたいなんだ。NPCから受注して、ハロウィンモンスターとそのボスを倒すとアイテムをドロップするんだとか」

 

 

「…なんだかよく聞くような内容のクエストね…」

 

 

詩乃がやれやれといった顔でコメントを並べた。

確かにこの手のシーズンイベントは内容がどのMMOも被ってしまう傾向にある。

運営会社がそれぞれ差別化を図ろうと努力はしているものの、やはり根本的なところでゲームのシステムに合わせないといけないため、大概内容は被ってしまっているのだ。

 

 

「まあ…それはどこもかしこも似たようなもんだよ。んでそのクエストを達成すると、ハロウィン限定の衣装と特殊なお菓子が報酬としてもらえるらしいんだ」

 

 

和人の話を聞いていた木綿季と詩乃は「へぇ~」といった顔で話を聞き流していた。

そして木綿季は和人からの熱い視線を送られていることに気が付いた。

 

 

「木綿季、俺はお前のハロウィン姿が見たい」

 

 

和人のド直球な願望を言い伝えられた木綿季は途端に顔が真っ赤になってしまった。

今横に詩乃がいるのに何でそんなことを躊躇せずに言い放てるんだろうか?

やはりこの男の辞書に恥ずかしさという文字はないのだろうと、心から痛感していた。

 

 

「あ…う…えと、和人…見たいの…? ボクの…ハロウィン衣装…」

 

 

「ああ、去年見たデザインと一緒ならかなり可愛くなると俺は思ってるんだけど」

 

 

和人はそんな木綿季などお構いなしに一人で話をどんどん進めていた。

目的は木綿季と一緒にイベントを楽しみたいのと、ユウキのハロウィン衣装姿をその眼に焼き付けたい。

ただそれだけであった。

 

 

「えと…、和人が見たいなら…ボクは…構わないよ…?」

 

 

木綿季は両手を真っすぐ伸ばし太ももに乗せながらもじもじと恥ずかしがっていた。

しかし、和人が望むならと満更でもない様子も見せていた。

詩乃はそのバカップルっぷりに呆れ果てて大きな溜め息をこぼしていた。

 

 

「…私、帰ろうか?」

 

 

突如帰宅宣言した詩乃に対して二人は慌てて止めに入る。

いきなりゲームの話になってしまっていたが今は木綿季の勉強中なのだ。

詩乃も暇ではない放課後の時間を作ってこうして木綿季の勉強を見てくれている。

 

 

「す…すまんシノン! 今は勉強の途中だったよな…ついつい暇でALOの情報に走ってしまったよ…あはは…」

 

 

「ボクからもごめんねシノン…、忙しい中わざわざ来てもらったのに…」

 

 

「ううん、別に大したことないわよ。忙しいって言っても一人暮らしだから帰宅したって夜ご飯を作るぐらいしかやることないし」

 

 

「へ~…、シノンって一人暮らしなんだ」

 

 

「え…、ええ…ちょっと家で色々あって…母さんとは別居してるの…」

 

 

詩乃は表情を曇らせた。

木綿季はその様子を見て詩乃はただならぬ過去を抱えて今まで生きてきているんだなと悟ってしまっていた。

何があったのか聞いてみたかったが、とても他人の心にずかずかと踏み入る勇気はなかった。

これが和人なら迷わず聞いていただろうが。

 

 

「そう…なんだ…大変なんだね…」

 

 

「うん…まあ…ね…」

 

 

詩乃が表情を暗くして黙りこくってしまったばかりに、勉強の場は重たい空気に包まれてしまった。

和人と木綿季もどうしたらいいのか?という表情を浮かべながら困り果てていた。

教えてもらっている歴史も中途半端な進行度で止まってしまっていた。

中学の授業内容なので和人でもある程度は教えられるだろうが。

 

その後勉強は大して進まず、時刻も夕方18時を回ろうとしていた。

10月末に差し掛かっていることもあって、この時間は陽の沈みが早い。

女の子が一人で帰宅するには物騒な時間帯となってしまっていた。

 

 

 

「もうこんな時間か…シノン、帰りはどうするんだ? 確かシノンの住んでる所って…都心だったよな?」

 

 

「そうなんだ…でもこんな暗くなっちゃったら女の子一人で帰るのは危ないんじゃ…?」

 

 

木綿季は先日の神田事件のことを思い出し、詩乃に万が一のことがあってはいけないと考えてた。

もしも神田じゃないにしろ、変質者に詩乃が襲われてしまったらどうしよう?と。

 

 

「そうだな…、そしたら俺がバイクで送り届けても構わないけど…、どうする?」

 

 

詩乃は若干困っていた。

別に一人でも問題なく帰れる。今まで変質者に出くわしたことなどないし。

あっても防犯グッズをいくつも持ってるので容易に撃退できるだろう。そう考えていた。

 

 

「大丈夫よ…、別にそんなにふらふらと怪しい人間がうろついてるわけでもないし…」

 

 

「…いや、だめだ」

 

 

自分は大丈夫、もし襲われても撃退出来るから気にしなくていいと考えてる詩乃に対し、和人は否定的な意見を出した。

 

 

「シノン、やっぱり君は一人では帰らせられない。俺が送っていく」

 

 

「え…どうしてよ…、平気よ」

 

 

「駄目だ!!」

 

 

頑なに一人で帰ろうとする詩乃に対して、和人はうっかり声を荒げてしまった。

木綿季が襲われた神田事件のことがどうしても頭から離れなかったのだ。

 

 

「シノン…実はな…、木綿季が退院してこの家にやってきた翌日…、この近くの公園で木綿季が…襲われたんだ」

 

 

「え…?」

 

 

詩乃は目を点にして「噓でしょ…?」といった表情を浮かべていた。

こんな非力な女の子が…この家の付近で襲われた…?

 

 

「犯人は木綿季の小学校時代の同級生だった。HIVが原因で木綿季をいじめてた主犯格の人間だったんだ」

 

 

「………」

 

 

木綿季はそのことを思い出して暗い表情になってしまっていた。

出来ることならヤツのことは思い出したくもなかったのだ。それぐらい木綿季にとっては忌々しい出来事だった。

 

 

「…だから…もしシノンに万が一のことがあるって思ったら…俺はとても君を一人で帰すことなんて出来ない」

 

 

「……でも…ここから私の家までバイクでも、多分1時間はかかるわよ? 私を送って帰ってきたらアンタだって遅くなっちゃうじゃない。それに…木綿季が寂しがるんじゃないかしら?」

 

 

「しかし…」

 

 

確かに木綿季と数時間とは言え離れ離れになってしまう。常に隣にいるのが当たり前になっていた二人なだけに、少しでも離れてしまうと心にぽっかりと穴が空いてしまうことに気が付いていたのだ。

良く言えば絶大な絆で結ばれている間、悪く言えば依存してしまっているとも言えるが。

 

 

「えっと…じゃあさ…」

 

 

木綿季が改まったような態度で二人に提案を持ち掛けた。

非常に嬉しそうだがちょっと言いづらそうでもある顔色になりながら。

 

 

「そしたらさ…、シノンが…泊まっていけばいいんじゃないかな…?」

 

 

「へ…?」

「へ…?」

 

 

和人と詩乃がステレオでハモった。まさかまさかの木綿季から泊まっていけという提案が出るとは思わずおかしな声を上げてしまった。

 

 

「ほら…、それなら夜出歩いて襲われる心配もないし安心出来るし…、ボクたちもシノンがいてくれれば…楽しいし…」

 

 

木綿季はあくまでも親切心で言ったつもりだったのだが、本心はと言うと詩乃が一晩だけでも一緒にいてくれればきっと楽しくなると思っていた。

友達がお泊りにくるなんてことは今までなかったしきっと楽しくなる。

そう考えていた。

 

 

「でも…迷惑じゃないかしら…、ほら…キリトのお母さんとか…」

 

 

「うちなら多分大丈夫だと思うよ、スグも首を横に振るなんてことないだろ。それに明日は土曜日だし朝帰っても問題ないだろ」

 

 

和人はあくまでも桐ヶ谷家は歓迎ムードだという。

確かに詩乃にとっても食費や電気代は浮くし、夜出歩くリスクがなくなるし、このまま休めるということもあってメリットだらけであった。

そして何より詩乃も友達の家にお泊りをしたことがない、そのチャンスにちょっとだけ心の中が躍っていた。

 

 

「…んじゃあ…ちょっと、お言葉に甘えちゃおう…かな…」

 

 

「ホント!? やったぁ! シノンと一緒だーっ!」

 

 

詩乃が一晩一緒にいてくれると決まった瞬間木綿季は飛び跳ねて喜んだ。

さきほどまで暗い雰囲気につつまれていた和人の部屋は、一転変わって楽しい雰囲気に包まれていた。

 

 

「ちょっと…はしゃぎすぎでしょ…、まあでも…一晩お世話になるわね」

 

 

「んじゃ、母さんが帰ってきたら挨拶しないとな、家の中も案内するよ」

 

 

「あ! それならボクが案内するよ! シノン! ついてきて!」

 

 

木綿季は勉強などそっちのけで一方的に詩乃の腕を掴んで引っ張っていった。

 

 

「ちょ…木綿季いきなり引っ張らないでって! ちゃんとついてくから!」

 

 

「あ…、えへへ…ごめんごめん」

 

 

木綿季は首を横にかしげて舌を出し、自分の頭をコツンと叩いて「やっちまった」といった表情を浮かべていた。

詩乃はその仕草をみてしまい、すっかり木綿季に心を奪われていた。

 

 

(か…かわいい…)

 

 

同じ女の子に心を奪われている詩乃を、木綿季は今度は優しく手を掴んで桐ヶ谷家を案内した。

和人はその様子を微笑ましくベッドに腰かけながら見守っていた。

 

 

「楽しそうだな…木綿季…」

 

 

和人は退院後、桐ヶ谷家に来てからの木綿季の様子に安堵していた。

長いこと病院暮らしを過ごし、日常へなかなか溶け込めないかなとも思っていたのだ。

しかしその辺りは木綿季の持ち前の明るさと、なんにでも全力でぶつかっていく姿勢のお陰ですんなり…というわけにはいかないが日常に溶け込めていた。

 

木綿季にとっては現実世界のどんな些細な出来事も最高に楽しい。毎日が本当に刺激的だ。

でもそれもやがて慣れていくと感動も少しずつ薄れていくのだろう。

それでも、木綿季なら全力で楽しもうとするだろう。

何故なら、それが木綿季だからだ。

 

 

「…俺は木綿季の恋人で…兄貴になるのか…、ちょっと複雑だな…」

 

 

明後日の11月1日の日曜日、父親の峰嵩が帰宅することになっている。

日曜なので役所は休みなのだが、翌朝の月曜日に家族そろって川越市役所に趣き、養子縁組届を提出する。

それが受理されれば、晴れて正式に木綿季は桐ヶ谷家の家族となる。

 

峰高は父親、翠は母親、直葉は姉、そして…恋人でもある和人は木綿季の兄ということになる。

こんなに可愛くて元気な子が、自分の恋人でもあり妹でもあるというのだから。

和人はあらゆる方面から恨みを買いそうなシチュエーションに恵まれていた。

本人は決してその自覚がないだけだが。

 

 

「まあ…、妹で恋人でも…構わないけどな」

 

 

そう言いながら和人はベッドに体を横にした。

そして俺と木綿季の関係は今後どうなっていくのだろうと考えていた。

周りの人間は結婚してしまえと囃し立てている。実際和人はその方面に対して否定的な答えは決して出していない。

むしろ本人との問題だ、木綿季と相談して決める、と表向きではあるが肯定的な返答を返しているのだ。

もちろん本人も将来木綿季と結婚の契りを交わすことはやぶさかではない。

 

 

「……俺が…木綿季と…結婚か…」

 

 

和人は仰向けの状態から横向きになり、再び木綿季との結婚について考えていた。

 

 

「…俺は…木綿季が望むなら一生隣にいてやりたい。むしろ…俺も死ぬまで木綿季の隣にいたいな…」

 

 

事実上の結婚宣言を呟きながら和人はそっと目を閉じて眠りに入ってしまった。

やがてほどなくして家の案内を終えた木綿季が詩乃を連れて部屋へと帰ってきた。

 

 

「ふぃー!ただいまーかずとー!…ってあれ…?」

 

 

「……すぅ…すぅ…」

 

 

「……寝ちゃってるじゃない…。ALOでもそうだったけどよく寝てるわよね…コイツ…」

 

 

「まあ…ね…、でも和人…寝相はいいよ?」

 

 

「えっ!?」

 

 

木綿季のさりげない爆弾発言に詩乃は目を丸くして驚いた。

まさか木綿季は和人と一緒の部屋で寝ているのか?と。

その事実は桐ヶ谷家の人間と明日奈以外知らされていなかった事実であった。

 

冷静に考えてみれば血のつながっていない年頃の男の子と女の子が一つ屋根の下で一緒にいるなど。

十中八九やましい考えて辿り着いてしまうのがほとんだ。

実際、退院した初日に和人は木綿季を襲おうとしたわけなのだが。

 

 

「えっと…木綿季、アンタひょっとして…キリトと同じ部屋で…?」

 

 

「うん! 一緒に暮らしてるよ! 夜も一緒のベッドで寝てるんだ! 和人って可愛い寝顔するんだよねー!」

 

 

天真爛漫な無邪気な笑顔に、詩乃は何も言い返すことが出来なかった。

この子は一体どれだけとんでもないことを口走っているのか分かっているのか…と呆れ果てていた。

 

 

「木綿季、貴女は今日、私と一緒に寝なさい」

 

 

「え…でも…和人が…」

 

 

「いいから! 今日はこの部屋で私と寝るの!」

 

 

「和人はどうするの…?」

 

 

「一階のソファにでも放り出しておけばいいじゃない」

 

 

「ええ~…それは可哀そうだよ…」

 

 

ああ…哀れ和人也。

それからしばらくして、直葉が翠と同じタイミングで帰宅してきた。

駅前でたまたま顔を合わせて、そのまま晩御飯の買い物を済ませて帰ってきたのだという。

 

 

「ただいま~」

「ただいまぁ」

 

 

木綿季は階段を降りて帰ってきた二人を玄関まで出迎えに行った。

詩乃もその後に続くように階段を降りて玄関まで赴いた。

 

 

「お母さん、直葉、おかえりなさい!」

 

 

「うん、ただいま木綿季!…あれ? シノンさん?」

 

 

「ただいま木綿季…、あら?そちらは…確か…朝田さんだったかしら?」

 

 

木綿季の斜め後ろにいた詩乃が少しだけ前に出て礼儀正しく挨拶をした。

 

 

「今晩は、お邪魔してます。木綿季と和人の友達の朝田詩乃です。何回か…病院でお顔を合わせてると思いますけど…」

 

 

「ええ勿論覚えているわ! 初めてのお見舞いの時も手術の時も、退院の時も来てくれていたわよね! あの時は木綿季を元気づけてくれて本当にありがとうね、朝田さん」

 

 

母親らしい温かくて柔らかい表情でお礼を言われた詩乃は少し照れ臭そうにしてしまった。

 

 

「あ…いえ…別に私は…、大したことはしてませんから…」

 

 

「そんなに謙遜にすることじゃないと思うよ? ボクはシノンが来てくれてすっごく嬉しかったな~!」

 

 

木綿季はそう言いながら背中から詩乃にのしかかった。木綿季の体重は軽かったため、詩乃でも簡単に支えることが出来た。

 

 

「そういえば…和人はどうしたのかしら」

 

 

「寝てるよ」

 

 

「…ああそう…」

 

 

あのバカ息子は四六時中寝てばっかりいて…と思う翠であった。

まあいつもつきっきりで木綿季の面倒を見ているので疲れがたまっているのだろうと、勝手に結論付けていた。

 

 

「そういえば…シノンさん帰りはどうするの? もうお外すっかり暗くなっちゃってるけど…」

 

 

「あ…えっと…そのことなんだけ」

「そのことなんだけどね!」

 

 

詩乃が説明をしようとした瞬間に木綿季が話に割って入った。

 

 

「えっと…お母さん、シノンを…今日うちで泊めてあげることって出来ないかな…?」

 

 

和人から言われていたので大丈夫だとは思うが、木綿季は恐る恐る翠に聞いてみた。

 

 

「別に構わないわよ? 直葉もいい?」

 

 

「え…あ…うん、あたしも構わないよ? むしろ…シノンさんが泊まってくれるなら楽しくなりそうだし!」

 

 

「寝るときは直葉か和人の部屋を使えばいいわ、和人はソファにでも寝かせておけば大丈夫だから」

 

 

「はい…ありがとうございます。一晩…お世話になります」

 

 

「いいのよ、か弱い女の子一人をこんな夜遅く外を出歩かせるなんて物騒よ。こちらこそよろしくね、朝田さん」

 

 

「よろしくお願いします。あ…それと私のことは…詩乃って呼んでください」

 

 

「…わかったわ、詩乃ちゃん。よろしくね」

 

 

翠と直葉、そして詩乃が互いに挨拶を済ますと翠は晩御飯の支度をしにリビングに、直葉は木綿季と詩乃と一緒に自分の部屋へと足を運んだ。

 

階段を登り、和人の部屋の隣にある直葉の部屋のドアを開け、三人は直葉の部屋へと入っていった。

直葉の部屋に入ってまず飛び込んできたのが天井に貼ってあるALOで直葉が動かしているキャラクター「リーファ」の特大POPだった。

 

 

「あれ? これって…リーファだよね?」

 

 

「ああ…うん…やっぱり気付いちゃうよね…」

 

 

POPに描かれているリーファの姿は、ALOの大空を気持ちよさそうに飛んでいる様が描かれていた。

恐らくスクリーンショットを撮影してプリントアウトしたものを貼っているのだろう。

HD解像度か4K解像度か、それぐらい精細な解像度でプリントされたものだろう。

 

 

「貴女…、これ自分の部屋に貼って恥ずかしくないの…?」

 

 

「えっと…最初は恥ずかしかった…、お母さんにも見られて何これ?って聞かれたこともあったよ」

 

 

直葉は少しバツが悪そうにもじもじと自分の頬を人差し指でかいていた。

詩乃は呆れ顔で天井のPOPをまじまじと見つめ、木綿季は感心するような目で眺めていた。

 

 

「そういえば…私ちょっとだけ…気になることがあるんだけど」

 

 

詩乃が改まったように話を切り出した。

直葉と木綿季は視線を詩乃に移し、引き続き詩乃が話し続けるのを待った。

 

 

「あの…、木綿季が退院した日のことなんだけど。今思えばちょっと不自然な所があったと思うの」

 

 

「不自然…?」

 

 

木綿季の退院した日、10月25日のことだ。

当日は日曜日とはいえ午前中から、100人余のALOプレイヤーが木綿季の病院前に駆け付けて、木綿季の退院を盛大に祝福したのだ。

これは明日奈やセブンたちが呼びかけた結果でもあった。

木綿季の記念すべき一日目の出発を盛大に祝って、素敵な門出にしよう。そう裏で計画していたのだ。

 

 

「でも…あれは明日奈さんやセブンちゃんが、集まれるプレイヤーに声を掛けたから実現したっていう認識だったんだけど…。そんなにおかしいのかな」

 

 

「うーん…そうじゃないのよ。私がおかしいって感じたのは」

 

 

「ほえ? どゆこと? シノン」

 

 

木綿季が首をかしげて頭に?マークを浮かべていた。

 

 

「あのね…、ALOプレイヤーが祝福に駆け付けてくれたのは全然不思議なことじゃないのよ。むしろ明日奈とセブンが声を掛けたんだからああなってしかるべきだったと思うのよ。ただ…私は別のところに違和感を覚えてたの」

 

 

「え…どうゆうことですか…それは…」

 

 

詩乃は一度息を飲み込んでから真剣に語り出した。

 

 

「変だと思わない…? 木綿季が国内で初のAIDS完治者だっていうのに…、当日はこれっぽっちもマスコミがいなかったじゃない」

 

 

「あ…」

 

 

詩乃の言うことはもっともだった。

確かに国内初のAIDS完治者ともあれば、病院側が会見を行い、退院して病院の外へ出たあともマスコミ関係者が取材に殺到することは必至であった。

桐ヶ谷家に帰宅してからもドアの前でカメラマンが待ち構えている日常が容易に想像できた。

しかし現実は違っていた。木綿季や桐ヶ谷家を取材しようとするマスコミ関係者は一人としていなかったのだ。

新聞のニュース欄にも端っこに「国内初のAIDS完治者か!?」と非常に小さく報道されている程度のものだけだった。

 

三人は首をかしげてその理由を考えていた。

木綿季と詩乃は全く心当たりがなかったが、直葉は少しだけ思い当たることがあったようだった。

 

 

「もしかして…お兄ちゃんが前言ってた…政府の人が関係してるのかも…」

 

 

「え…それってもしかして…"クリスハイト"のこと?」

 

 

クリスハイト、和人らと同じようにALOにダイブしているプレイヤーのことだ。本名、菊岡誠二郎。

総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二分室(通信ネットワーク内仮想空間管理課:通称「仮想課」)の職員だ。

SAO事件の被害者の搬送や対応を整えたチームの中心的人物でもあった。

和人がSAOから目覚めた後真っ先に接触し、互いに様々な情報提供をしていた。

 

和人としても少なからず世話になった人物でもあることから、彼からの頼みを断り切れないことが数少なくあった。勿論その度に和人はしっかりと報酬を受け取っていたのでお互い様なのだが。

 

そして、今回木綿季のAIDS完治に関してマスコミが殺到しなかったのも、菊岡が政府を通して圧力を掛けたからであった。

和人はセブンが病院に見舞いに来てくれた時に、セブンに頼んで菊岡に今回のことを依頼していたのだ。

セブンとしては菊岡に借りを返させるためでもあったので、表向きとしてはセブンが菊岡に依頼したことになっている。

さしもの菊岡もセブンには頭が上がらないらしく、渋々今回の件を承諾した。

 

 

「ってなことを…前にお兄ちゃんが言ってたんだ。あたしには何のことだかさっぱりだったんだけど…このことだったんだね…」

 

 

「そう…だったんだ…」

 

 

木綿季は和人の部屋がある方を見ながら、そんなところにまで和人は気を使ってくれてたんだなと感謝の気持ちを抱いていた。今もこうして静かに暮らせているのは和人のお陰なんだと。

 

 

(ありがとね…和人)

 

 

程なくして三人はガールズトークを展開していった。

普段家で何しているか、お洒落とかお食事とかおススメのお店はあるかなどなど。

和人では絶対に入り込めないようなきらびやかな会話に身を投じていた。

 

そしていい時間になると直葉がお風呂を沸かしに行った。

部屋には詩乃と木綿季の二人だけが残されていた。

 

 

「ねえ…シノンってさ、SAOサバイバー…なんだよね?」

 

 

木綿季が突如として質問を詩乃に投げかける。

 

 

「ええ…といっても、私は直葉と同じく76層の時点であの世界に迷い込んじゃったんだけどね…偶然だったんだけど」

 

 

「え…そうだったの?」

 

 

「うん…実はね、私も…メディキュボイドを使ったことがあるの…」

 

 

「…え…?」

 

 

そう、詩乃は過去にメディキュボイドを使っていたことがある。

とある事件に巻き込まれ、精神を病んでしまった詩乃だったが、メディキュボイドを使ったカウンセリングを受けてみないかという提案を持ち出されていた。それに承諾して、公にはされていない現存している2台目のメディキュボイドを使っていたのだ。

そしてそのカウンセリング中に回線混雑に巻き込まれ、SAO世界へとダイブしてしまったということだった。

 

 

「そう…だったんだ…、ボクとシノンは…同じだったんだね…」

 

 

「同じなんて…そんなことないじゃない。木綿季が受けてきた苦しみなんて…私の過去に比べたら…」

 

 

「シノンの…過去…?」

 

 

その言葉を口にした瞬間、詩乃は「しまった」という顔を浮かべながら自分の口を押さえていた。

慌てて木綿季から視線を逸らすと、その場を誤魔化すように口を開いた。

 

 

「…何でもないわ…、今のは…忘れて…」

 

 

「え…? う…うん…」

 

 

木綿季は感じていた、シノンはボクと同じか、もしくはそれ以上の大変な闇を抱えていると。

聞いてみたかったが…、その闇は木綿季の思っている以上に深そうだった。

そして何より「私の過去」と口ずさんだ瞬間にシノンの顔色が悪くなっていたことに気付いてしまっていた。

ボクじゃあその闇は取り除けないと悟っていた。

 

 

「シノン…、大丈夫…? 気分悪そうだよ…?」

 

 

「だ…大丈夫よ…でも、ちょっとだけ横になってもいいかしら…」

 

 

「あ…うん、直葉の部屋だけど…大丈夫だと思うよ?」

 

 

そういうと木綿季は詩乃に優しく肩を貸すとゆっくりと歩きだし、直葉のベッドに誘導した。

詩乃をそっと直葉のベッドに横たわらせた。

 

 

「ごめんなさい…世話を焼かせて…」

 

 

「んーん、気にすることないよ。ボク…シノンにもすっごい助けてもらってきたから…、これぐらいのことさせてほしいな」

 

 

「……ありがと…木綿季…」

 

 

「うん…、少し眠る?」

 

 

「ええ…そうさせてもらうわね…」

 

 

「わかった、何かあったら呼んでね? すぐに駆け付けるから」

 

 

「ありがとう…、おやすみなさい…」

 

 

「おやすみ、シノン」

 

 

木綿季はそういうと、直葉がいつも使っている布団をシノンに優しくかけてあげた。

シノンは心から安心したのか程なくして静かに寝息を立て始めた。

 

 

「スゥ…スゥ…」

 

 

「………シノン…」

 

 

木綿季は考えていた。

シノンといい、和人といい、みんなボクには言えないような秘密を抱えている。

SAOに関わった人たちはみんなそうなのだろうか…?

だとしたら、なんだかボクだけが仲間外れにされているみたいでいやだな。

一体…みんなSAOでどんなことを経験してきたんだろう…。

HPがゼロになったら…現実でも本当に死んじゃうSAOで…皆何をして生きてきたんだろう…。

 

 

「………」

 

 

木綿季は眼鏡をかけっぱなしで寝ているシノンの眼鏡を外して枕元に置いてあげた。

そしてゆっくりと立ち上がり、直葉の部屋を出て和人の部屋へと足を運んでいた。

ドアノブに手を掛けてドアを開くと、寝ている和人の姿が目に入った。

 

 

「和人…まだ寝てる…」

 

 

和人は仰向けの状態ですかーすかーと寝息を立てながら眠っていた。

木綿季はベッドの前に座り込み、和人の顔に自分の顔を近づけた。

 

 

「もし…もしも…、もしもボクが…SAOの世界に最初から迷い込んでいたとしたら…。和人は…ボクを守ってくれたのかな…。明日奈とボクが一緒にいたら…どっちを好きになってくれたんだろう…」

 

 

そう思った木綿季は、無意識に和人の頭を撫でていた。

和人の髪の毛はさらさらだった。触ってて心地が良かった。

頬っぺたも触って指でつんつんしてみた。肌はすべすべでぷにぷにしていた。

 

 

「本当に…女の子みたいなんだね…和人」

 

 

木綿季はALOで男の子も装備出来る女の子の衣装を着せてみたら、非常に可愛くなるのではないかと悪魔的な考えを思い浮かべていた。ハロウィンなんだからちょっとぐらいお茶目な悪戯があっても…いいんじゃないかなと思っていた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「かずと、起きないと悪戯しちゃうぞ?」

 

 

 

そう言いながら木綿季は、仰向けで寝ている和人に馬乗りの体勢になった。

端から見たら非常にいかがわしい、いけない行為にみえる。勿論木綿季にそんな気はない。

 

しかし世間はハロウィンシーズン、トリックオアトリートなのだ。

今までこういった行事に参加できなかった木綿季には、俗世間でのイベントにはどうしても興味が出てきてしまう。

少々の勘違いが混ざっているようではあるが…。

 

 

「かずと…」

 

 

木綿季は無抵抗のまま眠っている和人の顔に、自分の顔を近づけていった。

近付けるにつれ、目を細め、やがて瞑り、自分の唇を和人の唇に段々と近づけた。

あと10センチ、5センチ、3センチ、数ミリ…。木綿季の唇が一方的に和人の唇を奪おうとしていた。

 

 

 

 

ガチャッバタンッ

 

 

 

 

「おにいちゃーん、お風呂沸いた…よ…う…?」

 

 

 

その時だった、直葉が和人の部屋のドアをバタンッと勢いよく開け、ベッドの上でナニをしている木綿季の行動をまともに視界に捉えてしまっていた。

その光景を見られてしまった木綿季は口をパクパクさせ、顔を真っ赤にしてこの状況をどう誤魔化そうと考えていた。

 

 

「えっと…、あたし…お邪魔だった…みたいね…?」

 

 

「あ…、ち…ちがっ、直葉! 違うの! これは…ボクは…!」

 

 

「お…お邪魔しましたー! ごゆっくりー!」

 

 

それだけ言い放つと直葉はドアを素早く締めて、そそくさと逃げるようにその場から立ち去っていった。

 

 

「す…直葉ぁー! 違うんだよォー! これはハロウィンで…! トリックオアトリートなんだってばぁーっ!!」

 

 

木綿季はすぐに弁解すべく、意味不明な言葉を並べつつ、慌てて直葉のあとを追いかけていった。

肝心の和人はそんなことなどお構いなしに寝息を立て続け、夢の世界に酔いしれていた。

 

 

 

 

 

桐ヶ谷家は、今日も平和であった。

 

 

 

 

 

 




ハイ!思う存分トリックオアトリートでしたね!
こんなお茶目な悪戯だったら私も思う存分にされたいです!(血眼)

お次はハロウィン編の後編となります。
恐らく今週中には更新出来ると思いますので気長にお待ちいただければと思います。

それでは以下次回。




何か挿絵とかで閲覧数稼いでる気がしないでもない…。
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