ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 …やることがあると言ってるのに…、水曜までに片付けないといけないのに…。気が付いたら執筆欲を抑えられず、49話を書き上げてしまいました…。しかも…今回もハロウィンは終わりません…。今度からもう前書きと後書きの私の予告は信じないようにお願いします…。orzホントスンマセン。

 感想文見させていただきました、意外に白新川君の評判がよく、個人的に新川×詩乃がありだと思っている自分にとっては嬉しい反応でした。
こちらもバッドエンドにはいたしませんので引き続き温かい目で見守っていただければと思います。

 しかし…木綿季の日常編だと言うのに…木綿季の出番が減っているような…。一応詩乃と新川君が目立ってる間は…GGO編ってことになるのかな…、いやでもGGO出てこないしな…。






第49話~詩乃の気持ち~

 

 

 

 西暦2026年10月31日土曜日 午後16:15 埼玉県川越市桐ヶ谷邸

 

 

 和人を含む、木綿季、詩乃、恭二、直葉の五人は和人の母親、翠の監督の下、庭で焼き芋をすることを許可してもらった。和人と直葉は実に数年ぶり、木綿季、詩乃、恭二は初の焼き芋体験となった。桐ヶ谷邸の庭には、過去にキャンプに行ったときに使った焚き木の余りとそこらに落ちてる朽ち木と落ち葉がかき集められ、焚火の準備が黙々と進められていた。

 

 桐ヶ谷邸の庭は結構広く、木々が何本か植えられ、池もそれなりに大きいものが拵えられており、剣道場も敷地内にあることもありかなり風流漂う和の雰囲気を感じさせていた。適度に落ち葉が舞い降り、夕陽が差し掛かってたこともあり、如何にも今の季節が秋真っ盛りといったものを感じさせる。

 

 

「なんかわくわくするねー!」

 

「そう思うなら、お前も少しは手伝わんかいっ」

 

 

 木綿季が期待に胸を躍らせ、腕を体の後ろに回して組みながら準備している和人たちを見ていた。和人は木綿季に見てないで手伝えとよう促して軍手とトングを差し出した。差し出された軍手もトングも長年使い込まれて、煤だらけになっているものだった。

 

 

「えー、でもボク…やり方わかんないもん」

 

「なら俺が教えてやるから手伝え」

 

「え~…」

 

「それなら僕にやらせてもらっていいかな、こういうの…一度やってみたかったんだ」

 

 木綿季が手伝いを渋っていると、恭二が間に入って助け舟を出した。自分から手伝いを名乗り出た恭二は、軍手を両手にはめて、トングで火の燃料となる薪を焚火をする地点にくべ始めた。

 

 

「あ、恭二ちょっとまってくれ。火を効率よく燃え広がらせるための裏技があるんだ」

 

 

 全員が裏技?と首をかしげると、和人はビニール袋の中からガムテープらしきものをこれ見よがしに取り出した。取り出したガムテープをビビーッと伸ばすとその形を円の形にこしらえた。一体何をすると言うのだろうか。

 

 

「へへ、まあ…見ててくれ」

 

 

 直径20センチほどの大きさの、円状の形をしたガムテープを地面に置くと、和人はそこにチャッカマンで火を点けた。灯された火は少しずつじわじわと、ガムテープ全体に燃え広がっていった。

 

 

「今だ恭二、細い薪をくべてくれ」

 

「わ…わかったっ」

 

 

 そう言われた恭二は和人の指示通り、細め、普通、太めの薪の中から細身のものを取り出して、燃え続けるガムテープのある場所にくべ始めた。炎は薪に燃え移り、白い煙を上げながら薪全体に燃え広がっていった。いかにも焚火といった感じになっていった。

 

 

「おー! すごーい!」

 

「へぇ…慣れたものね…」

 

 

 木綿季と詩乃は感心していた。和人は食べ物のこととなると、どんなスキルでも身に着けるのだなと感心していた。そして、そんなことならVRMMOでも料理スキルを取ればいいのにとも思っていた。

 

 

「あとは…火が広がるにつれて…落ち葉を乗せる…。よく勘違いされがちなんだけど、芋そのものを火に突っ込むと周りが焦げるだけで中は生になっちまう。木や落ち葉が燃え尽きて出来た灰を使うのが焼き芋のコツさ」

 

 

 和人は恭二がくべた薪に、落ち葉をビニール袋2袋分を投下した。投下した落ち葉を空気がしっかり通過するようにトングで積み方を、慣れた手つきで調節していった。

 

 

「和人…すごいね…」

 

「俺だってゲームばっかりしてるわけじゃないんだぜ? アウトドア経験はこれでもある方なんだからな」

 

 

 自信満々で落ち葉を掻きわける和人を尻目に、恭二は感心しながらその様子を見ていた。女性陣が遠くで見守り、男性陣が炎の近くで作業をしている。どこのキャンプでも見るような光景が広がっていた。

 

 

「おし、薪や落ち葉が灰になるまで少し時間がかかる。木綿季、シノン、スグ! 悪いけどこの芋を水でキレイに洗ってきてくれ!」

 

「お芋洗うの?」

 

「ああ、直接口をつけるんだから泥が付いたままなわけにもいかないだろ? 間違っても洗剤なんか使うなよ?」

 

「つ…使わないよ! 和人ボクを馬鹿にしすぎでしょ!」

 

「お前ならやりかねんからな」

 

「ぶー、和人のいじわる…」

 

 

 直葉がまあまあとなだめると、不機嫌そうに木綿季達3人は両手に芋を持ちながら、台所へと姿を消していった。外の蛇口を使ってもよかったのだが衛生上、台所の水道を使うことにした。和人と恭二は引き続き、焚火の灰を育てていった。翠は和人と恭二が仲良さそうに作業をしている様子を、微笑ましそうに庭の縁側に腰を落ち着けて見ていた。

 

 

「それにしても…和人が同年代の男の子を連れてくるなんて…意外だわ」

 

「え…そうなんですか…?」

 

 

 のほほんとした顔をしながら口を開いた翠に、恭二は首を傾げた。和人のコミュ力なら結構気の合う友達とか結構いそうなものなのにと思っていたようだ。

 

 

「ええ…何でかはよくわからないけど、和人の連れてくるお友達は女の子ばっかりなのよ。男の人の友達っていったら、和人よりもかなり年上の人ばっかりだったものねえ…」

 

 

 その事実を聞かされた恭二は、疑いの眼で和人を見つめた。この世にそんなに女の子の友達ばかりいるような、ゲームの世界でしかありえないようなシチュエーションを持った男がいるなんて…と思っていた。彼女がいるのに羨ましい、いやけしからん。この時ばかりは恭二は和人に軽蔑の眼差しを送っていた。

 

 

「和人…君ってやつは…」

 

「いや待て、ちょっと待て。確かに母さんの言った通り俺は女子の友達が多い、それは否定しない。だが…恭二…、今俺のこと絶対に"タラシ"だとかなんとか思っただろ」

 

 

 恭二は和人にそう言い返されると、視線を逸らし、口笛を吹きながら焚火をトングでつつき始めた。微妙な空気が辺りに流れると、恭二の顔が次第に苦笑いへと変わっていき、やがて少しずつ切なさを感じさせていった。そして視線を和人の方に移し、ゆっくりと自分の心情を語り始めた。

 

 

「あはは…でも友達が多いのは…正直羨ましいよ。僕なんか…友達って言えるのは詩乃一人だけだった。それも…きっかけがなければ…声を掛けることすらもなかった。だから…友達がたくさんいる和人が羨ましいよ」

 

 

 そんな恭二を見て、和人も切ない顔になってしまった。和人も、自分が桐ヶ谷家の養子と知ったときに塞ぎこみ、友達がいない時期があった。その時の幼少時代を思い出していた。当時の自分の姿を、少しだけ恭二に重ねてみていた。しかし今は違う、友達に…仲間に、恋人に、家族に恵まれている。それは…目の前にいる恭二も同じことだ。

 

 

「…なあ恭二、俺たちはさ…もう"友達"なんじゃないか?」

 

「え…?」

 

 

 同じように落ち葉を掻き分けながら口を開いた和人の言葉に、恭二は目を丸くしていた。こんなことを言われたのは初めてだった。この時恭二が感じた感覚は、背中がむずかゆくなるような、こっぱずかしい感じがした。でも…嫌いじゃなかった。

 

 

「まだ会って半日しか経ってないけどさ…、俺たちもう…"友達"だよな…?」

 

「え…、えっと…そう…なのかな…」

 

「ああ…、少なくとも今日、俺は恭二達と川越を見て回って、楽しかったと感じた。一緒にいて楽しいと想える関係なら…それはもう友達だと思うけどな…」

 

 

 和人がほっこりした表情で焚火をつついていると、恭二の瞳が潤みはじめていた。僕に…友達、僕と一緒にいて…楽しいと言ってくれた…友達。心の中でそう思うと、自然と目から涙があふれてきた。

 

 

「恭二…?」

 

「あ…ううん、何でもない…大丈夫…」

 

 

 恭二は泣いてる顔を見られないように和人からも、翠からも見えない角度で服の袖で顔をこすり、涙を拭った。恭二にとっても、男の子の友達が出来たのは小学生以来だろうか。気の合う友達などいなかった。むしろ…内気な性格が災いしていじめにも遭った。そんな幼少時代を過ごしていた。

 

 

「…俺も久しぶりだよ…、同年代の男の子の友達なんてな…。これからもよろしくな…恭二」

 

 

 そう言うと和人は右手を恭二の前に差し出した。恭二は差し出された手を見ながら、照れくさそうに、そして少しばかり困ったような表情を浮かべながら、ゆっくりと和人の手を握り返した。

 

 

「うん…よろしく…、和人…」

 

「今度…泊まりに来いよ、恭二なら…いつでも歓迎するからさ」

 

「…わかった、その時は…是非お邪魔させてもらうね」

 

 

 二人は夕陽をバックに硬い握手を交わした。男同士の、友情の握手を。翠はその様子をほっこりとした笑顔で温かく見守っていた。それと同時に芋を洗い終えた木綿季たちがいいタイミングで戻ってきた。

 

 

「かーずとー! お芋全部洗ったよー! 紫色でピカピカだよー!」

 

 

 木綿季が芋の乗ったザルを頭の上に掲げて上機嫌になっていた。芋はこのまま生でも食べられそうなぐらいキレイに洗われて、ピカピカツヤツヤになっていた。

 

 

「ボクがほとんど洗ったんだよー! エッヘン!」

 

 

 木綿季はどんなもんだいと洗った芋を目の前に差し出した。和人はその中から一つだけ掴み取ると、まじまじと芋を見つめた。少しの土もついていない、この洗いっぷりなら文句はないだろう。

 

 

「うん、隅々までピカピカだ。これなら美味しく焼けると思うぞ。いい仕事をしたな、木綿季」

 

「ホント? やったー!」

 

 

 和人に褒められた木綿季は嬉しそうに喜んだ。自分も何かしら貢献出来たことが嬉しかったようだ。焚火の方も落ち葉と朽ち木がいい感じに灰化してきて、いよいよ本格的に芋投入といった時間になっていた。

 

 

「ようし、焚火の方も準備完了だ。そしたら…各々好きな形の芋をとってくださーい」

 

 

 和人の指示通り、この場にいる全員が自分好みの芋を手に取った。

木綿季は一番大きいものを、詩乃は食べやすそうな形をしたものを、恭二は芋らしい形をした芋を、直葉は少し奇抜な形をしたものを手に握っていた。

 

 

「取ったな…? そしたらその芋に、この…濡らした新聞紙をぐるぐる巻きつけてくださーい」

 

 

 次々に自分のとった芋に、濡れた新聞紙をぐるぐる巻きつける。濡れた新聞紙が冷たかったのか、女性陣は手先をぷるぷる震わせながら巻き付けていた。

 

 

「つめたーい! 手がかじかんじゃうよー!」

 

「もう少しだから我慢する! よし、さて次は…このアルミホイルで芋全体を包んでください。2回分の面積で包むと丁度良くなりまーす」

 

 

 皆言われるがまま、和人の指示通りに銀色のアルミホイルで芋を包んでいった。詩乃、恭二、直葉、翠は手際よくアルミを包んでいったが、木綿季だけ若干苦戦していた。よくみると手持ちのアルミホイルをかなり余分に切り取っていたようだ。まああのままでも熱は伝わるから問題ないのだが。

 

 

「よし、あとはこのトングで…、自分の好きな場所に芋を突っ込んで下さい。出来るだけ風通しがいいところに置いた方がよく熱されて仕上がりがよくなるぞ」

 

「それじゃあ…ボクはここ!」

 

「私は…ここにするわ」

 

「あたしは…ここにしようかな」

 

「僕は…ここにしよう」

 

「私は…ここにしようかしら…」

 

 

 和人以外の五人が次々に焚火の中へと芋を入れた。それを確認すると和人も自分のこしらえた芋を木綿季の芋の隣に入れ、残った芋も開いているであろう場所に突っ込むだけ突っ込んだ。そして熱された灰をかぶせてその上から更に落ち葉を掛けて、火力が落ちないように施した。このまま30~50分ほどかけて、じっくりゆっくり…芋に熱を加えていく。

 

 

「よし…あとは…30~50分ほどこのまま熱を加え続ける」

 

「結構かかるんだねー」

 

「ああ、焦って強火なんかにしたら焦げちまうからな。火そのもので焼くと言うより、この焚火全体の熱で焼いていくって感じだと思ってもらえればいい。60℃ぐらいがベストだ」

 

「ほえー…」

 

 

 翠と直葉以外の全員が和人を尊敬の眼差しで見つめていた。和人にこんなサバイバルスキルがあるなんてと。とうの和人本人は俺でもこれぐらいは出来るんだぞと、自慢げな表情を浮かべていた。

 

 

「お兄ちゃん…誇らしげに話してるけど…、昔キャンプファイヤーでカレー失敗した事…忘れてるでしょ…」

 

 

 直葉は呆れた表情で兄を見つめていた。和人にはその昔、泊まりのキャンプで晩御飯のカレーをこしらえたときに水の量を盛大に間違えて、ゆるゆるどころか"カレーっぽい水スープ"が出来上がった黒歴史があった。

 

 

「…何でそういう昔のことをほじくり出すんだお前は…」

 

「へえー、和人って昔は料理出来なかったんだ」

 

「あ…あくまでも小学校の時の話だぞ!? 今は…簡単な料理ぐらいなら出来る!」

 

「ボクにお粥も作ってくれたしね、あれは嬉しかったな~♪」

 

「また食べたいなら作るぞ?」

 

「ホント!? んじゃあ今度はもっと味が濃いのがいいな!」

 

「…塩分取り過ぎない程度になら…別に構わないぞ」

 

「やった! 楽しみにしてるね!」

 

 

 楽しそうに談笑する和人達を見ながら、恭二と詩乃は近くにあった切り株に腰を落ち着けていた。時刻は16:30に差し掛かり、キレイな夕陽が焚火をしている桐ヶ谷邸の庭を真っ赤に染め、優しく照らしていた。照らされた和人達の影が長く伸びていて、すっかり秋の夕暮れ時の、なんともいえない懐かしさを感じさせる時間帯となっていた。

 

 

「何か…賑やか…だね…」

 

「…うん…そうね…」

 

「僕…こういう感じに慣れてないけど、なんか…嫌いじゃないな…」

 

「私も…、あの事件が起きてから…全く笑えなくなってしまってたけど…、今なら…心の底から笑える…」

 

 

 詩乃はそう言いながら、恭二の手に自分の手を伸ばしていた。そして探るように指に辿り着き、恭二の手を握った。それに気付いた恭二も少しだけたじろいたが、詩乃の手を握り返した。二人が握り合った手からは、互いの温かさが伝わってきた。

 

 

「…ありがと…」

 

「…うん…」

 

「恭二君の手…温かい…」

 

「…詩乃の手も…その…温かいよ…」

 

「…うん…ありがと…」

 

 

 詩乃は好きな人の温もりを感じながら、今の幸せを噛みしめていた。そして心から安心したのか、自然と恭二のいる方向へと自分の体重をけ預けていった。

 

 

「し…詩乃…?」

 

「…お願い…、このままで…いさせて…」

 

「……う…うん…」

 

 

 恭二は顔が真っ赤になっていた。非常に嬉しい気持ちでいっぱいになっていた。憧れていた少女から好意を寄せられていることに。それは確かに嬉しい、しかし…やはり心のモヤモヤがとれないでいた。

 

 

(…このまま詩乃をだまし続けてて…いいのか…僕は…)

 

 

 恭二は薄々と感じていた。遠くないうちに今のこの関係が、変わってしまうことになるかもしれないこと。詩乃に…真実を告げるときが来ようとしていること。そして…自分と詩乃の運命が大きく変わろうとしていることを…。

 

 

(…僕は…どうしたらいいんだ…)

 

 

 

――――――

 

 

 

 程なくして時間が経ち、いい感じに芋が焼きあがる頃合いとなっていた。和人が軍手をはめて「そろそろだな」と言うと、全員の視線が焚火にトングを突っ込む和人へと集まった。

 

 トングはまず和人が入れたであろう位置に突っ込まれ、焼き芋を探していた。そして何かの手ごたえを感じると、位置を調整してその手ごたえのしたところを掴んで一気に引き抜いた。銀色のアルミに包まれた物が姿を現した。

 

 

「よし、いい具合だ」

 

 

 和人が軍手越しに熱々の焼き芋を手に取っていた。その様子を見た面子も、次々にトングを手に取り、自分の入れたであろう場所を探って芋を掘り出した。

 

 

「わ…あちゃちゃちゃ…」

 

「すごい熱いわね…」

 

「軍手は外すなよー? 60℃の熱でずっと焼かれてたんだからな。素手で触ろうものなら火傷するぞ?」

 

 

 和人は全員芋を取り出して、アルミと新聞紙を剥がしたところまで確認すると、芋を片手で掲げた。芋の表面は最初に含ませた水分は全てとび、ガサガサになっていた。如何にもどこでも見かける焼き芋といった感じの見た目となっていた。

 

 

「えーでは、焼きあがったこの芋を…、皆さんで一緒に食べようと思います。両手で端っこをもってくださーい」

 

 

 みんなは和人に言われるがまま、各々芋の端と端をそれぞれ両手で握っていった。手首にほんの少し力を加えるだけで、持ってる芋が真っ二つに割れる、その寸前まで持っていった。

 

 

「…よろしいですねー、それじゃあ…行きます。…せーのっ!」

 

 

 和人の合図と共に、全員一斉に手持ちの芋を真っ二つに割った。割れた場所からツヤツヤした黄色い中身が姿を現した。ほかほかと湯気が立ち上り、芋独特のほのかな何とも言えない甘い香りが広がっていった。

 

 

「うわー! すごーい! 中が真っ黄色だよー! 光ってるよー!」

 

「美味しそうね…」

 

「いい香りがするね…、あれだけ食べたけど…ちょっとお腹すいてきちゃった」

 

「お兄ちゃん! 早く食べようよー!」

 

「いつ嗅いでもいい香りだわ…」

 

 

 その場にいる全員が、焼きあがった焼き芋に心を躍らせていた。じっくりと時間をかけて焼き上げ、芋の成分のでんぷんが、60℃の熱でじっくりと糖分へと変化して、甘さを出していたのだ。その甘さが湯気と共に立ち上り、全員の食欲をそそっていた。

 

 木綿季と直葉は「早く食べようよ!」と和人を急かしていた。直葉はともかく、木綿季は先ほどまで和菓子を食べまくっていたのでそんなに腹が減っているはずがないのだが、しかしここまできて食べないという選択肢はないので、和人は再び皆に合図を送った。

 

 

「わかってるよ、それじゃあ皆様、お行儀よく行きましょう…せーのっ」

 

 

「いただきまーす」

「いただきまぁーす!」

「いただきまーす!」

「いただきます…」

「いただきます」

「いただきますっ」

 

 

 和人の合図で全員一斉にいただきますを済ませ、焼き芋にかぶりついた。予想以上に熱かったのか木綿季は口をつけるなり「あちゃちゃ」と声を上げて熱がっていた。他の面々はフゥーフゥーと息を吹きかけてある程度冷ましてから口へと運んだ。

 

 

「木綿季、熱いからよーくフーフーしてからにしろよ?」

 

「あ、うん。わかった」

 

 和人はそういいながら自分の持っている焼き芋に口をつけた。木綿季はその様子を少し疑問を持って見ていた。あれ? 和人そういえばフーフーしてないような…? その記憶は正しく、和人は60℃の熱で焼かれた芋の熱をもろに舌に喰らい、派手にダメージを喰らってしまっていた。

 

 

「あっつぅぅぁぁっ!?」

 

「あはははは! 自分で言った和人がやらかした! あははは!」

 

「アンタ…、バカでしょ…」

 

 

 木綿季は和人の反応を見て面白がり、詩乃は呆れた表情を浮かべていた。その他の面々も苦笑いを浮かべながらも、辺りはほっこりとした空気に包まれた。やがて和人は何事も無かったかのように…いや、何もなかったことにして仕切り直し、再びいただきますと言いながら芋に口をつけた。

 

 

「おお…中々…というかすごい美味いぞ! これ!」

 

「ホント! 熱々すぎだけど…甘くて美味しいー!」

 

「これは…定期的に食べたくなるわね…」  

 

「ホントだね…甘くて…温かいや…」 

 

「久しぶりに食べたけどやっぱり美味しいね! 自分たちで焼くと!」

       

「ほんと…懐かしい味だわ…」

 

 

 ほくほく甘々な芋に、面々はご満悦だった。夕刻の時間に合わせて味わったため、これから夕飯をいただくには少しだけ抵抗があったが、この最高の夕陽と和風の庭、一緒にいて楽しい面子で食べれたことを考えると、非常に有意義な時間を過ごしたと言えるだろう。

 

 恭二、詩乃、直葉、翠は最初に入れた芋一つを味わった。一方、和人と木綿季はこれから夕飯があるというのに、芋を二つも食べてしまった。この日胃の中に納まった食べ物の量は一般人が一日に食べていい量をはるかに超えていた。しかし、夕飯は夕飯で全然食べられるという。よく太らないものだ。

 

 詩乃と恭二はお土産に何個か焼いた芋をもらい、来た時と比べて随分と大荷物になっていた。流石にいい時間なのでそろそろ帰ることにしたようだ。詩乃にいたっては二日連続でお世話になるわけにもいかず、恭二は夜には勉強をしないといけないので、なんやかんやで忙しいのである。恭二と詩乃は帰り支度を始め、桐ヶ谷邸を後にしようとしていた。

 

 

「それじゃあ…僕らはそろそろおいとまさせてもらいます」

 

「昨日の晩から…何から何までお世話になりました」

 

 

 恭二と詩乃は翠たちに対して丁寧に頭を下げた。二人にとって、この日は大変に充実した一日であった。温かいものをたくさん受け取り、桐ヶ谷家に心から感謝をしていた。

 

 

「また…遊びにこいよ」

 

「詩乃と恭二ならいつでも大歓迎だよ!」

 

 

 いつでも歓迎といった桐ヶ谷家の態度に、二人にまた笑顔が零れていた。恭二と詩乃は、家族っていいものなのだなとしみじみ感じていた。一人暮らしの二人には、今日の出来事は本当に心から温かさを感じさせてくれていた。

 

 

「うん…またね…和人」

 

「また来るわね…、それじゃあ…」

 

 

 二人は再び軽く会釈をすると、桐ヶ谷邸を後にした。恭二は菓子屋横丁で買った土産ともらった芋を紙袋にぶら下げて、詩乃は学校で使っている勉強鞄の中をパンパンに膨らませていた。詩乃達が暮らす東京都文京区へは歩きと電車を含めて1時間弱。ゆっくり帰っても到着は19時頃、一緒に約束していたハロウィンイベントまで十分に間に合う帰宅時間だ。

 

 二人は夕焼けに照らされながら、秋の夕方の歩道を手を繋ぎながら歩いていた。二人とも終始無言であったが、時折視線を合わせると、一瞬照れくさくなり、そしてすぐに互いに笑顔を見せあっていた。

 

 

「ね…恭二君、今日は…来てくれてありがとう…」

 

「ん…、平気だよ。むしろ…僕も楽しい時間を過ごせたし…お礼を言うのは…むしろ僕の方かな…」

 

 

 恭二はゆっくりと詩乃の方を向き、まじまじと視線を合わせて、笑顔でお礼の言葉を送った。

 

 

「ありがとう…詩乃、今日は…とっても楽しかったよ」

 

 

 面と向かってお礼を言われた詩乃は、恭二の顔を直視できずに視線を逸らしてしまった。そして次第に顔が耳まで真っ赤に染まっていった。恭二を異性として認識してから、その一つ一つの行動が詩乃にとっては何もかもドキドキしてしまい、非常に心臓に悪くなっていた。

 

 

「え…と…、わ…私も…楽しかった…よ…?」

 

「…ならよかった…かな…」

 

 

 互いの気持ちを伝えた二人は、再び自宅への道を歩いていった。この時の詩乃は、何やら考え事をしている様子だった。そしてしばらく時間が経つと表情を変え、歩いていた足を止めて、意を決したように恭二の方を向いた。手を繋いでいた恭二は自分の腕が急に後ろに引っ張られたので、不思議に思い振り返って何事かと確認する。詩乃が目を瞑って何やら小さい声で呟いていた。

 

 

「……詩乃?」

 

 

 恭二が首をかしげながら詩乃の様子をうかがっていた。一体何をしているんだろう? 何を呟いているんだろう? 詩乃は自分に何かを言い聞かせるように、ひたすら小さい声で呟き続けた。そして…やがて眼を大きく開けた。

 

 

「あ…あの…、恭二…君!」

 

「は…はい! 何でしょうか…!」

 

 

 詩乃の改まった態度に、恭二は思わず畏まってしまった。詩乃の表情があまりにも真剣だったからだ。これから何か重要なことを言われるということを悟っていた。何を言われるんだろう、こっそりお土産の芋を取り出すときに大きいのとすり替えたのがばれたのだろうか…?

 

 

「あ…あのね…私…」

 

「う…うん…」

 

 

 詩乃の体がぷるぷると震える、一世一代の大勝負と言わんばかりに、心の底から叫びたい言葉を口から出そうとしていた。あと一歩…あと一歩…!

 

 

「わ…私…、その…恭二君のことが…!」

 

 

 恭二の心臓もバクバクになっていた。芋のことなんかじゃない、詩乃は…何か自分に大事なことを伝えようとしている。それが何かどうかは…恭二も悟っていた。もしそうだとしたら…女の子の口から言わせていいものなのだろうかとも思っていた。しかし恭二には自分の口から言い出す勇気がなかった。

 

 

「きょうじ…くんの…こと…が…」

 

 

 詩乃は勇気を振り絞って、その先の言葉を出そうとした。

次の一言だ、その一言を伝える。ただ一言「好き」と伝える。ほんの少しだけ勇気をだせ、詩乃!恭二君は待っててくれてる! 勇気を…勇気を…出すんだ!

 

 

「僕の…ことが…?」

 

「きょ…きょうじ…くん…と…!」

 

 

 恭二はただひたすらに、詩乃の口から出てくる言葉を待った。

 

 

 

 

「恭二君と…ALOで…一緒に遊びたいな…って…」

 

「…え?」

 

 

 

 

 詩乃は告白に失敗した。ただ一言「好き」と伝えるだけなのであったが、その一言を言い出すだけの勇気がなかった。詩乃は恭二が自分に対してどんな感情を持ってくれているかを、ある程度感じ取っていた。しかしやはり言葉にして伝えないと伝わらない部分があるのも事実だ。だから勇気を振り絞って伝えようとしたのだが…、最終的に妥協した答えに辿り着いてしまっていた。

 

 

「僕と…ALOで…?」

 

「え…あ…う…、うん…。恭二君最近GGOやってないみたいだし、コンバートしてALOにキャラを引き継ぎすれば…、課金切れでキャラ削除されることも無いし、ALOはGGOほど殺伐としてないから、二人でのんびり遊べるかなって…思ったの…」

 

 

 詩乃からのまさかの回答に恭二は言葉を詰まらせていた。一瞬思考が停止したが、詩乃が何故ALOに誘っているかという理由を聞いているうちに、平静さを取り戻し、話を聞き続けた。

 

 

「そ…そうだね…。GGOは前とほとんど仕様が変わっちゃったし。AGI特化型じゃ限界が来てもうほとんどやってないから、これを機会に…ALOに行くのも…ありかな…」

 

「ほんと!? ALOはGGOより月額も安いし…自由度も高いし…、あとプレイヤースキル次第だからステ振りがそのまま勝率に繋がるわけじゃないの。だから恭二君の戦闘スタイルの確立次第では独自の戦い方を編み出せるかもしれないよ! あと…やっぱり空を飛べるのが気持ちいいよ!」

 

 

 恭二から肯定的な回答をもらった詩乃はパアっと笑顔になった。

本当は好きと言い出せなかった気まずさを誤魔化すための話だったが、結果的に恭二と遊べるきっかけとなったため、別の意味で嬉しい結果となった。棚から牡丹餅とはまさにこのことである。

 

 

「そう…だね…、武器はどんなのがあるの?」

 

「んと…私は弓を使ってるかな…。種類は…片手剣、細剣、両手剣、太刀、ダガー、ナックル、槍、斧、鈍器…杖。確かこれだけだったはずよ」

 

「……随分と多いね…」

 

「GGOほどじゃないと思うわよ? あっちは同じカテゴリの武器でも…弾数とか射程とか連射速度とかブレとかいろいろあるから…、まあ…ALOも細かい数値を気にし始めたらきりがないけど…」

 

「僕の場合…キャラをコンバートするから…GGOでのステータスが影響されるのかな…」

 

「そう…だね…、恭二君は…AGI特化型だから…ALOでも速さを売りにした武器が相性いいかもしれない。例えば…ダガーとか…?」

 

「ダガーか…、確かに速そうだけど…ライフルと同じ感覚ってわけには…いかないよなあ…。一応コンバットナイフも使ったことはあるけど…」

 

「まあ…その辺に関しては…周りに優秀な先生たちがいるから…多分大丈夫じゃないかしら…?」

 

「…それはもしかして…和人達のことかな…」

 

 

 詩乃が笑顔で「ご明察♪」と言うと恭二は俯いてしまった。中距離銃を得意としていた彼が、今度はリーチの短いダガーを片手に戦場を駆け回ると言うのだ。GGOは重火器がメインのゲームな為、わざわざリスクを冒してまで近接戦闘を仕掛ける変わり者はまずいない。そんなテクニックがあるならGGOではなく他のゲームをやるべきだ、とまで言われる始末である。

 

 仮にダガーが自分のスタイルと馴染んでいくとしても、元SAOプレイヤーの和人たちが先生になるとあっては、非常に厳しい訓練が待ち受けているに違いない。何しろSAOを生き延びた連中だ。訓練にも熱が入るだろう。勉強ばっかりしてる自分にそれが耐えられるのかが心配になっていた。

 

 

「厳しそうだね…和人の訓練…」

 

「私も当時一緒に付き合ってもらったけど…、スパルタに近かったわよ…」

 

 

 詩乃が遠い目で夕陽を眺めていた。気のせいかその眼に光が宿っているようには見えなかった。その様子から察するに、骨の髄まで戦闘訓練を叩き込まれるのであろう。しかし、恭二はそれでもGGOで地道過ぎる作業を繰り返しているときと比べたら、幾分か楽しくなるのだろうなと感じていた。

 

 今度は友達がいてくれる、GGOにいたときは毎月の月額を払うため、自分が最強を目指すため、必死にゲーム内マネーをリアルマネーにペイバックする毎日であった。でも…ALOなら…本当の意味でゲームを楽しめるかもしれない。そう感じていた。

 

 

「…でも楽しそうだし…今夜帰ったら、シュピーゲルをコンバートするよ。あ…その前にソフトを買わないと…」

 

「なら…駅前の適当な店で買いましょ、今回は特別に…私がプレゼントしてあげる!」

 

「え…? いやいや…そんな悪いよ…、僕だってソフト買うお金と、月額をしばらく払い続けるぐらいの蓄えはあるし…」

 

「んーん、いいの! 今回は私に見栄を張らせて?」

 

 

 そう言いながら詩乃は恭二の腕に抱き着いた。体が密着している状態となり、抱き着かれた恭二は急なことに驚きを隠せなかった。詩乃の柔らかいモノが腕に当たっていることに、詩乃は気付かないでいた。

 

 

「し…詩乃?」

 

「ん…? どうかした…?恭二君…」

 

「い…いや…何でも…ない…。えっと…そしたら…お言葉に甘えちゃおうかな…」

 

「はい、お言葉に甘えられちゃいます♪」

 

 

 恭二は何回ドキドキすればいいんだろうと思っていた。確かに僕は詩乃の事が好きだ、しかし今日の詩乃は何か変だ。今までこんなに感情豊かに自分に話しかけてくれることはなかったし、ここまで積極的にスキンシップを取ってくることも無かった。

 

 多分…和人や木綿季ちゃんが…詩乃の背中を押したんだろうな…。余計なことをしてと怒ればいいのか、切欠を作ってくれてありがとうと言えばいいのか…、素直に喜んでいいのか…ちょっとわからない…。

 

 

「恭二君? どうしたの? ぼーっとしちゃって…」

 

「あ…ううん大丈夫、何でもないよ。…さ…帰ろうか…」

 

「……うん…、帰りましょ…」

 

 

 二人は夕日に染まる川越の街を、三度歩いていた。途中駅前の店でALOを購入し、電車を何本か乗り継いで、自宅のある東京都文京区へと戻ってきた。恭二は詩乃を自宅まで送り届けてから自分も家路についた。詩乃に買ってもらったALOのパッケージを見つめながら、一歩ずつ足を自宅に向かい動かしていった。

 

 

 

 西暦2026年10月31日土曜日 午後18:55 東京都文京区 恭二の自宅前

 

 

 

 しばらく歩き続けると、自宅の扉の前へと辿り着いていた。カードキーを差し込み、パスコードを入力。ピピーガシャンという機械の音がすると、ゆっくりと恭二の家のドアが開いた。家の中は少しだけ散らかっていた。和人の整頓された部屋を見た後だと尚更汚く見えてしまう。

 

 

「明日…片付けないとな…」

 

 

 恭二は川越から持ち帰ったお土産をデスクに置くとベッドに横たわった。顔の横にはALOのパッケージが見えた。そのパッケージを手に取ると、しばらく物思いにふけっていた。

 

 

「GGO以外のVRMMOをやることになるとは思わなかったな…。ファンタジーの世界か…どんな所なんだろ…」

 

 

 一呼吸置くと、恭二はアミュスフィアを手に取り電源を入れ、ALOのディスクをパッケージから取り出してアミュスフィアに挿入した。しばらくしてインストールが終わると、今度はそれを頭からかぶり、体をリラックスさせた。しばらくしてALOのランチャーが起動して、いつでも恭二を仮想世界に誘う準備が終了した。あとは、恭二のあの一言を待つだけである。

 

 

「よし…、リンク・スタート!」

 

 

 

 

 







 ご観覧ありがとうございます。ここ最近数話に渡って挿絵がありませんが、こちらは水曜日まで片付ける用事を済ませてから追加という形で描きたいと思います。照れる詩乃とか手を繋いでいる詩乃新川君とか想像すると可愛すぎて萌え死にそうです。

 早くALOでのシュピーゲルとシノンも描きたいなあああああああああああ。 キリユウも大好きだけどシュピシノも大好物じゃあああああ。それでは以下次回!多分次回は…いつになるか分かりません!

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