ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 皆様こんばんは、大変お待たせいたしました。日常編10話Trick or Treatと言うことでハロウィンイベント編の前編となります。二話構成で次回の後編でイベント達成する予定です。

 そしてそのあとしばらくは詩乃と新川君にスポットライトが当たります。詩乃のトラウマを克服させるために、原作のファントム・バレット編とは違った形でPTSDに決着をつけます。原作では和人のお陰で銃のトラウマを克服することが出来た詩乃でしたが、ボク意味での詩乃はどうやって克服するのでしょうか…?

 そして一週間以上間をあけている間に、UAは50000を突破していました。ありがとうございます。コンスタントに読んでいただいている方が増えていて本当に嬉しいです。Twitterでもたくさんの方々にフォローしていただき、本当に応援ありがとうございます。

 用事も片付き、新しい生活リズムにも慣れてきたので闘病編の時ほどの投稿ペースとまではいきませんが、今後も早い段階での更新が出来るよう、尽力してまいります。前書きが長くなりましたが、記念すべき50話…ご覧くださいませ。





第50話~Trick or Treat 前編~

 西暦2026年10月31日土曜日 午後19:00

 

 

 恭二は自宅のベッドに体を横にし、リラックスさせてゆっくりと目を閉じた。そしていつもやっているゲームにログインするときのセリフを、今度は違うゲームにログインするために口にしようとしていた。

 

 そう、今夜彼がやるゲームはGGO…、いつもプレイしている「ガンゲイル・オンライン」ではない。VRMMOソフト「アルヴヘイム・オンライン」通称ALOである。詩乃が恭二と一緒にやりたいと言いだし、川越からの帰りに寄った駅前の総合家電量販店で詩乃にALOのパッケージを買ってもらい、今に至る。

 

 元々は詩乃が恭二に告白をしようとしたのだが、あと一歩の勇気が足りずに言いそびれてしまい、その恥ずかしさと気まずさを誤魔化すためにALOをやりたいと言ったのが事の始まりだった。結果的に一緒のゲームで遊べることになったので、詩乃にとっては美味しい結果となった。恭二自身も詩乃と一緒に遊べるのはやはり嬉しいし、GGOもいよいよ引退かなと思い始めていたこともあり、いい機会となっていた。

 

 恭二の戦闘スタイルはAGI…スピードに特化して中距離のアサルトライフルを乱射するアジリティスタイル。しかしGGOでSTR型、VIT型有利の仕様に少しずつ変わっていくにあたって、AGI型で立ち回るのがだんだん厳しくなり、フレンドもいない彼にとってはソロでのMOB狩りがきつくなっていった。高い月額を払い続けるのもバカバカしくなってきており、近頃はログインすらしていなかった。

 

 詩乃の口から直接「好き」と言われなかったのは残念だったが、今までよりも長い時間詩乃と一緒にいられることを考えると、これはこれでいいかなとも思っていた。実際恭二は詩乃の気持ちに気付いているし、彼もまた詩乃に対して好意を抱いている。あとは…そう、きっかけだけであった。

 

 

(…うだうだ考えててもしょうがないか…。折角詩乃がプレゼントしてくれたんだ。今はこのゲームを楽しもう)

 

 

 迷いを無理やり吹っ切るように恭二は目の前のアミュスフィアへと意識を集中させていった。今現実世界にある自分の意識を仮想空間へとゆだねる、そしていつも言っているあのセリフを口ずさむ。

 

 

「リンク・スタート!」

 

 

――――――

 

 

 

 恭二が仮想世界に意識をゆだねると、彼の視界に真っ白な空間が現れた。アミュスフィアが自動で一つずつ表示されていくチェック項目をクリアしていき、言語設定を日本語に設定し終わると視界の中央には≪Welcome to ALFheim Online!≫の横文字が表示されていた。

 

 恭二はALOのキャラクター作成空間に足をついていた。キャリブレーションをした自分の仮想空間のアバターで目の前の光景を見つめていた。しばらくこの空間を見渡していると聞き取りやすい女性の声が、恭二をALOの世界へ誘うための音声ガイダンスを始めた。恭二はその声に気付くとガイダンスの言うことに従っていった。

 

 

『アルヴヘイム・オンラインへようこそ。最初に性別とキャラクターの名前を入力してください』

 

「…ここら辺は…GGOとあまり変わらないか…。…えっと…」

 

 

 恭二は目の前に表示された仮想キーボードを操作しキャラクターの作成を始めた。利き手である右手でキーボードを入力する。キャラ名は「Spiegel」 性別は男を選択し、決定キーである◎のアイコンをタップした。すると次は種族の選択画面が目の前に大きく表示されてきた。全九つの種族が存在するALOでは、この中からどれか一つを選択しなければならない。

 

 

『それでは、種族を決めましょう。九つの種族の中から一つ、選択してください』

 

「え…この中から…選ぶの…?」

 

 

 しまった、完全に不勉強だった、もっと詩乃からいろいろ聞いておけばよかったと思った恭二はここで早速キャラ作成に躓いていた。しかし今更ここでログアウトして詩乃に連絡をとって聞き出すのもなんだかカッコ悪いし、だからといって見当違いな種族を選んだら絶対に後悔する。恐らくこういうのは後々で絶対に途中変更出来ない仕様だ。慎重に選ばなくては。

 

 額に冷や汗をかきながら、恭二は表示された九つの種族の一つずつをじっくりと観察していった。歌で仲間を支援することを得意とするプーカ。炎魔法を得意とし、好戦的な種族のサラマンダー。風魔法と治癒を得意とし、空中飛行最速を誇るシルフ。耐久力と金属の採掘、土魔法に長けたノーム。トレジャーハントと幻惑を得意とするスプリガン。闇の中での行動に一番長けたインプ。水中活動と水魔法、そして全種族で一番の治癒魔法を使いこなせるウンディーネ。鍛冶や細工等、生産スキルに特化した能力を持つレプラコーン。敏捷性、敵MOBを操るテイミングを得意とするケットシー。

 

 以上九つの種族とその特徴を見終えた恭二は、顎に指を当ててどの種族にするかを考えていた。戦闘特化スタイルだったことを考えるとウンディーネやレプラコーン、プーカは除外。何の特徴もなさそうなスプリガンとインプもちょっと違う。となるとあとは戦闘に有利な特徴を持ったノームかサラマンダー、シルフかケットシー…。この中から恭二の戦闘スタイルにあった種族が絞られた。

 

 

(サラマンダーは攻撃特化だったな…となると他のステータスを犠牲にしてまで攻撃にまわしてるような気がするな…これは除外っと。ノームは耐久力重視…僕の戦闘スタイルと合わないから除外…。シルフは速いは速いが飛行時だけか…、地上で足が速くないとちょっと僕的には困るな…惜しいけど除外。となると残るは…)

 

 

 恭二の選択肢に最後まで残った種族は、全種族の中で最速の敏捷性を誇る「ケットシー」だった。AGI特化型だった恭二の戦闘スタイルを考えるとまさにぴったりな種族と言えよう。ただし、恭二には少しばかり気になるポイントがあった。ケットシーの能力というよりも、その外見的特徴の方に目が行ってしまっていた。

 

 

「…これ…外せないのかな…」

 

 

 その視線の先にはその種族を選ぶことで絶対に避けて通れないものが写っていた。そう…ケットシーの最大の特徴である猫耳と尻尾だった。つい最近まで油と埃まみれの炎の匂いがしみついた世界で、銃撃を繰り返していた彼のイメージとは程遠い、可愛らしいオプションがその種族にはついていた。仮にこの見た目でGGOの世界に降り立ってみるとしようか。…うん、絶対に浮いてしまっている。絶望的にあの世界とは相いれない見た目だった。

 

 

「…僕が…猫耳に…尻尾…」

 

 

 恭二は深いため息を吐きだしながら頭を抱えていた。決してコスプレしにきたわけじゃない、僕はゲームを楽しみに来たんだ。いきなり目的を踏み外しそうになった恭二はステータスを選ぶか外見を選ぶか悩んでいた。外見的にGGOのシュピーゲルと似そうなのはシルフであった。特徴も空を飛んでいるとき限定だが早く移動が出来る。AGI特化の恭二とも相性がいいと言えなくもない。だが恭二は悩みに悩んだ結果、再び種族アイコンをケットシーの場所に戻していた。

 

 

「…見た目は多分装備でどうにでも出来る…特徴だけは…裏切れないからな…あはは…」

 

 

 恭二は半ば投げやり気味に、諦めたようにケットシーのアイコンをタップした。タップされたケットシーの3Dイメージポリゴンがあざといポーズを恭二に見せつけた。恭二はその様子を複雑な心意気で苦笑いを浮かべながら見つめていた。もうどうにでもなってしまえ、そんな心境だった。

 

 

『ケットシー、ですね? キャラクターの見た目はランダムで生成されます。よろしいですか?』

 

「よろしいも何も…消去法でもうこれしかないっての…」

 

 

 悪態を吐きながらも恭二はYESである◎アイコンをタップした。すると最後のメッセージらしきものが表示されていた。内容は「コンバートできるキャラクターがいます。他のゲームからキャラクターをコンバートしますか」といった内容だった。もうGGOに戻るつもりはない彼は迷わず◎アイコンをタップした。

 

 

『それでは、ケットシー領のホームタウンに転送します。幸運を祈ります』

 

「…いよいよか…」

 

 

 音声ガイダンスから最後のメッセージが聞かされると、恭二のアバターは青白く光り輝き、キャラクター作成空間からどこかへと転送された。恭二の意識もこの空間から切り離され、一時的に目の前が真っ白になった。

 

 真っ白になった恭二…いや、シュピーゲルの意識は空高い空間へと投げ出されていた。頭から地上に向かって自由落下運動を行っているシュピーゲルがゆっくりと目を開けると、しばらくして自分の置かれている状況を理解した。

 

 

「…これ…非常に不味くない…!?」

 

 

 彼の目の前にはケットシー領である島全体が写っていた。他の種族の領地が存在する大陸とは離れた場所に、ケットシー領の首都である「フリーリア」は存在する。鋭角な形をした塔がそびえたっており、どことなくアラビア風な建物が目立っている様子に見える。他種族が暮らす大陸とは巨大な橋一本でつながっており、ここから交流をしている模様だ。

 

 しかし今のシュピーゲルにとってそんなことはどうでもよかった。今はまずこの落っこちている現状をなんとか打破しなくては。恐らく…いや確実にこのまま地面に激突でもしたら大ダメージを受けてしまうだろう。いや、下手したらゲーム開始早々即死なんて笑えない事態にもなりかねない。それだけは避けなくては、しかし人間は本来空を飛べない、いくらALOでアバターが空を飛べると言ってもいきなりログインして飛べるものではない。シュピーゲルは早々に抗うことを諦め、今の自分の状況を受け入れていた。

 

 

「ログインして早々にデスペナルティか…初心者に厳しいゲームだ…トホホ…」

 

 

 デスペナルティ、自分のキャラクターのHPが全損すると死亡扱いとなり、お金やアイテム、スキル熟練度の一定量の減少などのペナルティが科せられる。GGOにもデスペナルティは存在し、あちらは装備を落とすだけの仕様となっている。しかしどんな形であれ出来れば喰らいたくない、死なないに越したことはないのだ。かつてのSAOであれば特に。しかしコンバートしたとはいえシュピーゲルは初心者、装備はニュービー用の初期服に初期の剣、お金も1000ユルドと初期金額値。普通なら何も失うものはない…はずだった。

 

 

「まてよ…失う装備もお金もないけど…スキルは…不味いんじゃないか!?」

 

 

 そう、他のゲームからキャラデータをコンバートしたシュピーゲルはGGOで上げたステータスが何らかの形でALOに反映されてると判断したのである。おそらく彼のAGIを最大限に活かしたステータスが、何らかのスキルに影響を与えているはずなのである。

 

 となると話は変わってくる。これからそのスタイル一本で戦っていかなくてはならない、いきなりそれをデスペナルティという形である程度失うという事態はなんとしても避けたかった。のんびりしている余裕はない、どうにかしてこの落下運動を止めなくては…!

 

 

「でも…どうやってええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 飛び方がわからないシュピーゲルにはこの状況を打開するすべがなかった。ああ、せめてパッケージに同梱されている簡易マニュアルか、電子マニュアルぐらいは目を通しておくんだった。マニュアルなんて読まなくたって手探りでどうにかなると思い込んだのが間違いだった。まさかいきなりこんな方法で出鼻を挫かれるとは。

 

 その時だった。どうにか落下ダメージを防ごうとあがいているシュピーゲルに近付くプレイヤーの姿があった。水色の髪の毛に見覚えのある左右のお下げと猫耳に長い尻尾、そして銀色の胸当てに緑色のコートを羽織ったケットシー族の少女が、落下し続けているシュピーゲルに向かって飛行をしていた。

 

 

「シュピーゲル!!」

 

 

 ケットシーの少女はシュピーゲルの名前を呼びながら彼に近付き手を伸ばした。その少女の存在に気付いたシュピーゲルも藁をもつかむ思いで声のした方向にと手を伸ばした。とにかく今は助かるために必死だった。手の伸ばした方向をよく見ると、その女の子の姿はどことなく、現実の世界での友人に似ている気がした。

 

 

「キミ…まさか…シノン…なのかい…?」

 

「うん!…って挨拶は後! もっと手を伸ばして!」

 

「あ…う…うん!」

 

 

 シュピーゲルは必死にシノンの手を握ろうと手を伸ばした。シノンも必死に手を伸ばした。急降下しながらなんとか体をシュピーゲルに寄せて少しずつ距離を縮め、ようやく二人の手と手が触れた。触れた手は指を絡め合い、がっちりと掴むとシノンが羽をピンと伸ばし、グライダーのように滑空をした。

 

 それまで急降下していたシュピーゲルはシノンのお陰で垂直落下から脱出することに成功した。かなり鋭角な曲線を描きながら今度は地面と平行に滑空していた。シノンがシュピーゲルを助け出した高度は現実世界の距離において地上との距離30メートルほどの地点であった。あと1秒でもシノンの助けが遅かったらシュピーゲルは地面と激突していたことだろう。女の子に抱えられているという実に男らしくない光景ではあるが初心者によくみられる姿だった。間一髪で地面との激突を避けられたシュピーゲルは安堵の息を漏らしていた。

 

 

「ありがとうシノン…おかげで助かったよ…」

 

「本当に間一髪だったわね…、まあ…自種族領地じゃあ…何があってもダメージはないんだけどね」

 

「…先に言ってくれませんか…シノンさん…」

 

「だって…シュピーゲルが聞かなかったからじゃない…」

 

 

 互いに不満を漏らしている二人だったが、内心は嬉しかった。シュピーゲルとしてはログインして早々シノンに会うことが出来たし、シノンに至ってはシュピーゲルと同じ種族だということが嬉しかった。シュピーゲルを抱えながら滑空を続けているシノンは、徐々に地面との距離を縮めていき、やがてゆっくりホバリングしたあと、地面に足を降ろしていた。シュピーゲルはというと、いきなり地面に突っ伏してグロッキー状態になっていた。

 

 

「…地面だ…地面がある…!」

 

「…大丈夫…? シュピーゲル…」

 

 

 シノンからの心配の声をよそに、シュピーゲルは地面に立てていることに感激していた。おそらくシノンがいなかったらきっと彼は高所恐怖症に陥っていたに違いない。しかしそれよりもシュピーゲルの頭にはとある疑問が浮かんでいた。どうしてシノンはこんなにも早く僕のもとへ辿り着けたのだろうと。

 

 

「そうだシノン…そういえば何で僕のもとにこんなにも早く辿り着けたんだい? 何にも事前に連絡とか…してなかったけど…」

 

「それについては…歩きながら話しましょ」

 

 

 そういうとシノンは夜のケットシー領の首都、フリーリアの街中を歩いていった。シュピーゲルも解せない顔を浮かべたまま、シノンの後を追いかけるように歩を進めていった。フリーリアの街並みは彼が子供の頃に読んだシンドバッドやアラジンで見た古き良きアラビア風の建物が軒を連ねる、独特の怪しさを醸し出していた。

 

 しかしその町並みには白いターバンを巻いた男性や、ケープを被った女性、縦笛でツボからコブラを操るような人の姿は見えず、360度猫耳に尻尾を生やしたケットシー族のプレイヤーばかりであった。一見現実世界の過去のアラビア風と思わせておいて、ここはしっかりとファンタジーゲームの世界なんだなというのを痛感させられる。

 

 

「…やっぱりみんなケットシーなんだね…」

 

「当たり前よ、ここはケットシー領なんだから」

 

「まあ…そうなんだけど…」

 

 

 現実世界ではシュピーゲルこと、恭二にデレデレのシノンこと詩乃であったが、ここALOではクールなキャラを売りにしているのか、シュピーゲルに対しても若干ドライな対応だった。確かにシノンの方がALOでは先輩にあたるので、こうした態度をとられてもうなずくしかないシュピーゲルであった。しかしやはりどこか解せなかった。

 

 

「それで…何でシノンは…僕の種族がわかったんだい?」

 

「あ…えっとね…半分は…勘…かな…」

 

「か…勘?」

 

「うん…、シュピーゲルのステータスなら…ケットシーを選ぶかなって思ったの。脚も速いし視力も全種族で一番いいからね。私は弓で狙撃するためにこの種族にしたけど、シュピーゲルなら…脚と眼の良さを活かしたスタイルをそのままALOで活かすかなって」

 

 

 勘など簡単にくくってはいるが、シノンなりの根拠があってのことだった。昨晩しようと思えば打ち合わせは出来たはずだった。それをし忘れたことに後から気が付いたシノンであったが、不思議とシュピーゲルならきっとケットシーを選ぶ、そう思っていた。戦闘スタイルもそうであったが、きっとその心のどこかにシュピーゲルなら私と同じ種族を選ぶかもしれない、選んでくれたらいいなあと、思っていたのだ。

 

 実際シュピーゲルは彼なりに考察して、見た目などの抵抗はありつつも、シノンの思惑通りケットシーを選択した。だからフリーリアの街の上空でシュピーゲルを迎えることが出来たのだ。最も、ちゃんと事前に打ち合わせとマニュアルを熟読しておけば、このような事態は避けられただろうが。

 

 

「あ…でもまだわからないことがあるんだ。このゲーム…アバターの見た目はGGOと同じでランダムなのに…何で僕だってわかったの?」

 

「え…その見た目でそんなこと言うつもりなの…?」

 

 

 シノンは若干呆れ顔でシュピーゲルを見つつも、左手を縦にスライドし、メニューを表示させストレ―ジから手鏡のようなアイテムを取り出すと、シュピーゲルに自分の顔が見えるように手に持たせた。その手鏡に向かってシュピーゲルは身を乗り出すようにして自分の写されているであろうアバターの姿を確認した。

 

 

「な…なんじゃこりゃああああ!?」

 

「うふふ…可愛いわよ? シュピーゲル♪」

 

 

 シュピーゲルはGGOのアバターや現実の恭二と同じく、スラっと長身で一見優男風の見た目をしていた。体は太くなくむしろ細めでそれなりの装備を整えれば女性プレイヤーから積極的に声を掛けられそうな外見をしていた。ここまではVRMMOあるあるな話なのだが…。

 

 シュピーゲルのアバターは一見優男風であるが、見方を間違えると細身の女性の顔にも見える外見をしていた。薄緑の肩まで伸びたセミロングヘア、整った中性的な顔立ちと男キャラでも着ることの出来る女性用装備をつけて、それなりの仕草と所作をしていれば、男性プレイヤーが勘違いして寄ってきそうな清楚なイメージが感じられた。さらにそこに猫耳に尻尾が生えているもんだから余計に女性らしさに磨きをかけていた。シノンはそんなシュピーゲルの見た目を視界に入れて、笑いを抑えられなかった。

 

 

「いいじゃない、別に損する見た目でもないんだし。自分好みの見た目にするためにGGOみたく廃課金する人もいるって話よ? どちらかというと得する見た目だと思うから、どうせならロールプレイでも楽しんでみればいいんじゃないかしら?」

 

「…うう…なんかコレジャナイ感が…」

 

「ちなみに一回アバターを変える課金でまるまる三ヶ月はALOが遊べるわよ?」

 

「…このままでいいです…」

 

 

 シュピーゲルはログイン早々疲労困憊となっていた。キャラ作成直後に異界の上空に放り込まれ、即座に垂直落下を味わったかと思えば、しなくてもいい苦労をし、さらには自分にとっては解せない見た目をしたアバターときたもんだ。HPは減っていなくてもメンタルのHPがもうすぐ全損しそうになっていた。

 

 そんな様子をシノンは超ご機嫌で楽しんでいた。現実世界の詩乃が見せる笑顔とはまた違った笑顔だった。その表情の違いにシュピーゲルは気付いたのか、奇妙な視線をシノンに送っていた。その視線に気付いたシノンも、シュピーゲルの事を見つめ返していた。

 

 

「え…えっと…何? 私の顔に…なんかついてる…?」

 

「あ…いや…シノン、現実じゃそんな笑い方しないなーって思ったから…ちょっと珍しくて」

 

「え…?」

 

 

 シノンはハッとなり、自分の口元を右手で押さえていた。そんなに驚くほど変な笑い方でもしていたかしらと思っていた。シノンは咄嗟にシュピーゲルから半ば強引に手鏡を取り返すと自分の顔をまじまじと見つめていた。

 

 

「べ…別に変な意味はないからね? そんな表情をするシノンも…なんだか可愛いなって…思っただけだから…」

 

「え…か…かわいい…?」

 

 

 シノンはシュピーゲルに「かわいい」と言われた瞬間に、次第に顔を赤く染めていった。猫耳はピンと真っすぐ立ち、尻尾は恥ずかしさから隠れるように、シノンの体にベルトを巻くような形で巻き付いていた。その恥ずかしがっている姿は、夕方に見せた現実の詩乃となんら変わりがなかった。クールな立ち位置を確立しようとしているシノンのキャラクターが、早速音を立てて崩壊しそうになっていた。

 

 

「か…からかわないでよ! そんな人にはもう装備とかあげないんだからね!」

 

「え…装備って…僕の…?」

 

 

 シュピーゲルがそう言うと、シノンはさっとストレージを開いてシュピーゲルのために用意したと思われる装備をオブジェクト化してシュピーゲルに投げつけた。一気に装備を渡されたシュピーゲルは慌てたがなんとか全部を自分のストレージに納めると、やったことがないゲームにもかかわらず、慣れたような手つきで早速装備フィギュアで見た目の確認をしていた。

 

 元々GGOもSAOやALOと同じエンジンを使って作られているため、大体のメニューやシステム的なものはほとんど同じ動作で出来る。その為シュピーゲルはある程度ALOのシステムを動かせていたというわけだ。そして装備の見た目を確認すると「これを装備すればいいの?」を聞くとシノンはニッコリと頷き、微笑み返していた。

 

 シノンの思惑通りになりながらも装備フィギュアを操作して、シュピーゲルはシノンから手渡された武器や防具を装備していった。両手両足、胴、頭等様々な部位に分けて一つずつつけていく。一通り装備し終えるとシュピーゲルは「どうかな?」とシノンに披露し、感想を聞いた。

 

 

「うん…すごく似合ってる。シュピーゲルらしい装備だわ」

 

 

 シュピーゲルに手渡された装備は、シノンがステータスとの相性や見た目をちゃんと考えた装備であった。全てAGIに補正がかかるのはもとより、一見ミリタリー風な雰囲気を醸し出しながらも、ファンタジーの世界に存在しても違和感がないデザインとなっていた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 全体的にミリタリー調の色合いを彷彿とさせるカーキグリーンを基調とした衣服に、シノンが装備しているものと同じようなデザインのグレーの胸当て。右肩からは白い布地の肩掛け。左右の手にはダガーをしっかり握れる滑りにくい素材で出来たカーキ色のオープンフィンガー。下半身は黒のベルトから赤の布地の下がりが、その内側には白地のズボンがちらちら見え隠れしていた。

 

 

「…見た目より全然動きやすいね、これでアサルトライフルがあれば最高なんだけどな…」

 

「…お願いだからこのファンタジーの世界にミリタリーなものを持ち込まないでね…」

 

「分かってるよ…僕はこれから…こいつ一本で戦っていかないといけないんだよね…」

 

 

 そう言いながらシュピーゲルは右の腰の鞘に納められている黒とカーキ色の色合いでデザインされたやや長めのダガーを手に取っていた。重さはほとんど感じられず、ちょっと手首をひねるだけで素早く振れた。逆にしっかり持っていないとそのまま空に放り投げてしまいかねない勢いだった。

 

 このダガーはリズがシノンに頼まれて、わざわざ一から作ったオーダーメイド品であった。通常のダガーよりもはるかに軽く、攻撃回数も多く、特殊効果としてソードスキルの隙を30%カットするという、まさに攻撃回数と素早く行動するためだけに特化した、シュピーゲルの戦闘スタイルのために作られたような武器だった。

 

 

「…ダガーか…上手く戦えるかな…」

 

「シュピーゲルなら大丈夫よ、何なら私が教えよっか? ダガーの使い方」

 

「え…シノンって…ダガーも使えるの?」

 

「使えるわよ、SAO時代は弓を手に入れるまではずっとダガーを使ってたんですもの。弓の方が長く触ってるけど…距離を詰められたときの為に一応ダガーも仕込んでるの」

 

 

 そう、シノンはかつてSAOにいたときに、ダガーを使っていた時期があった。今でこそ相棒は弓であるが、一撃離脱を得意とし、華麗に戦場を駆け巡っていたのだ。他にダガー使いというと同じケットシー族であるシリカがいるのだが、生憎今日は都合がつかず、先生役を頼めないでいた。本格的にしごいてくれるキリト達はまだログインしていないため、今シュピーゲルに戦闘のいろはを教えてくれるのは、今目の前にいるこのシノンだけであった。

 

 

「そうだね…そしたらお願いしようかな…僕まだ飛び方もわからないし」

 

「うん…そしたら私が手取り足取り教えてあげるね」

 

 

 シノンが優しい声でシュピーゲルに声を掛けると、シュピーゲルの顔に笑顔が戻り、ミリタリーに関わっていた人間らしく右手で直角に腕を曲げて、自分のおでこあたりに手を当てて、敬礼のポーズをとってその声掛けに応えた。

 

 

「はい…お願いいたします。教官殿」

 

「うむ…よろしい!」

 

 

 

――――――

 

 

 

 同日19:25 埼玉県川越市 桐ヶ谷邸 和人の部屋

 

 

 一方、焼き芋パーティを終え焚火の後片付けを済ませた和人と木綿季は、その後そのままの勢いで翠が作った晩御飯もぺろりと平らげ、洗い物を済ませるとそそくさと二階にある和人の部屋へ戻っていた。その勢いの衰えを全く見せない二人の食べっぷりを、同じ食卓についていた直葉は若干引きながら見守っていた。本当にこの二人の胃袋は底なしである。この細い体のどこにそんなに大量の食べ物が収まると言うのだろうか。

 

 洗い物と後片付けを済ました二人は部屋に入るなり、仲良く同じタイミングで和人のベッドにダイブインしていた。以前、埃が舞うからやめなさいと木綿季に注意していた和人であったが、この日あちこちいろいろ見て回って疲労がたまったのと、朝からお腹いっぱいに食べ続けていたことで流石に疲れを隠せないでいた。うつ伏せの体勢でベッドから足だけをはみ出させ、両手は万歳の姿勢で顔をベッドに埋めて、フカフカベッドの柔らかさに癒されていた。

 

 

「はぁ…今日はいろいろあったねぇ…」

 

「全くだ…流石にちょっと疲れたな…このまま眠りたい」

 

「えーだめだよ和人! 今日これからハロウィンイベント一緒にやるんでしょ? 寝ちゃだめだかんね!」

 

「わかってるってば…」

 

 

 木綿季が首だけ和人の方だけ向き、一緒にイベントをやる約束のことを言うと和人はむくっと起き上がり、大きく伸びをした後に、シェルフに置いてある自分の白いアミュスフィアと、木綿季がトップキッズのじっちゃんから譲り受けたメタルパープルの色をしたアミュスフィアを手に取った。デスクからALOのパッケージを二つ取り出し、一つを自分のアミュスフィアに、もう一つを木綿季のアミュスフィアに差し込み、デスクの脇にあるLANケーブルのHUBからLANケーブルを伸ばし、アミュスフィアに差し込み、そのまま木綿季に手渡した。

 

 

「ありがと、和人」

 

 

 木綿季はそう言いながらメタルパープルのアミュスフィアを両手で受け取った。既に初期設定とキャリブレーションは済ませていたため、あとは起動し、ログインするだけの状態となっていた。木綿季はおよそ半年ぶりの仮想世界に胸を躍らせていた。

 

 骨髄移植手術が終わってからというものの、リハビリを毎日こなし、現実世界に復帰するために木綿季は努力を重ねていった。別にその間にも倉橋のアミュスフィアを借りるなりしてALOはプレイ出来たのだが、一日でも早く現実の日常生活に復帰したかった木綿季はそれらを我慢し、毎日毎日体を動かし続けていた。

 

 桐ヶ谷邸で腰を落ち着けてからも、自分自身の生活の準備やら来年度から通う学校生活に備えての勉強やらで、ゲームのことなどこれっぽっちも考えてなかった。しかし今日、やっとALOに戻れる。半年前までは現実世界に戻るために必死だったのに、今となってはもう一回あの仮想世界に再び足を踏み込みたくて仕方ない。

 

 しかしこれも、木綿季がすっかり現実の世界での生活に馴染んできていた証拠ともいえるだろう。毎朝直葉の次に早く起きて朝稽古を見守り、起きていなかったら和人を叩き起こして一緒にご飯を食べ、こなせる範囲の家事は全て手伝い、空いた時間を和人とのお出掛けや勉強に費やす。こんな毎日を過ごしていた。

 

 そしてそんな木綿季の日常の一部に、VRMMOが新たにまた加わることになった。アミュスフィアが手に入ったのは偶然でもあるが、自分のイメージカラーにも合ったアミュスフィアを贈られたことにより、木綿季は再び仮想世界に戻りたくて仕方がなかった。

 

 

「和人! 早くログインしようよ!」

 

「まあ待て、今準備するから…」

 

 

 そう言いながら和人はベッドに腰を下ろし、アミュスフィアを被り体を横に倒してリラックスさせた。木綿季も和人がベッドに寝られるように窓際に体をずらして、同じようにアミュスフィアを装着すると横になり、体の無駄な力を抜いていった。

 

 同じ仰向けの体勢で横になっている和人と木綿季、ふとお互いの視線が合うと、自然と笑顔が零れていた。こうして木綿季と普通に遊べる時がくるとはと、和人は感慨深そうに思っていた。木綿季がログインするのはあの巨大なメディキュボイドではない、誰でも気軽に遊ぶことのできるアミュスフィアだ。それを使って入れる事実に心から安心していた。そんなアミュスフィア越しからも感じる温かい視線に木綿季は気付いたのか、和人に聞いてみた。

 

 

「なあに…かずと…じっとボクを見つめて…」

 

「いや…こうしてお前と…またゲームで遊べるのが…嬉しくてな…」

 

「…ボクもだよ。以前はみんな…ボクが遊んでる姿を見るたびに、体のコト心配してくれたけど…、今度は堂々と遊べるんだね…」

 

「…そうだな…」

 

「えへへ…なんか…嬉しいな…」

 

「俺も…木綿季と一緒に遊べて…本当に嬉しい…」

 

 

 互いが今ここにいる幸せを噛みしめながら、二人は今を生きていられるように支えてくれたみんなに感謝の気持ちを抱いていた。まだ木綿季はスリーピング・ナイツを含むALOでしか会えない人たちにお礼を言えていない。ハロウィンイベントも大事だけど…まずはログインしているフレンドのみんなにちゃんとお礼を言わなきゃ。

 

 

「さてと…そろそろ行くか…仮想世界(むこう)に…」

 

「…うん!」

 

「わかってるとは思うが俺のこと本名で呼ぶなよ? 向こうでは俺は"キリト"なんだからな?」

 

「あ…うん…間違えないように頑張る…。ってそんなこといったらボクは一体どうなるのさ!」

 

「本名をキャラネームにしたりするからだ。…ほら、イベントの時間来ちまうぞ?」

 

 

 自分の責任とはいえ妙な悔しさを覚えた木綿季は少しだけ機嫌を悪くしてぶーたれていたが、イベントの時間が迫っていることを知ると、慌てて再び体をリラックスさせていた。違和感なく快適にログインするために、しっかりと体を休めて意識を仮想世界に集中させる。

 

 

「和人…仮想世界(むこう)にいったら…いっぱい遊ぼうね…」

 

「ああ…寝落ちするぐらい遊びきっちまおう…」

 

「…うん!」

 

「よし…行くぞ…」

 

 

 ALOのランチャーが立ち上がり、色の違う二つのアミュスフィアはそれぞれ、和人と木綿季のあのセリフの一言を待つだけの状態となっていた。二人は互いに笑顔で視線を交わすと、天井に視線を戻し、互いの手をぎゅっと握りしめながら二人同時に、お決まりのあのセリフを口にした。

 

 

「リンク・スタート!」

「リンク・スタート!」

 

 

 

 




 ご観覧ありがとうございました。Twitterや活動報告に目を通していただいている方はご存じだとは思いますが、一応ここでもご報告させていただきます。

 現在、過去話に加筆修正を施しております。1話から開始いたしまして、既に10話までの修正を完了いたしました。そしてさらにお知らせがございます。

 4話~感謝~、5話~木綿季~、6話~相棒~に至っては新規エピソードを引っ提げての加筆修正となっております。文字数も圧倒的に増え、過去とは完全に別のストーリーとなっておりますので、是非お目通しいただければと思います。キリトとユウキがどうやってお互いを好きになったかというのがより明確に表現されていると思います。

 それに必要な文脈や表現も、10話まで大幅に追加しておりますので、一度またお読みいただければと思います。50話の投稿が遅くなったのもその加筆修正を施していたからでもあります。今後は特に物語に大きく影響が出るような加筆修正はないので、後編の51話は3日ほどで公開できると思います。

 今までと違いローペースでの投稿になってしまっていますが、何卒今後も応援をいただければと思います。それでは引き続き、ボク意味をこれからもよろしくお願いいたします。
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