ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 こんばんは、今回はいつもより短めで一万文字程しかありません。そして今後のボク意味のスケジューリングも決まりました。木綿季の養子縁組までいった後は、いよいよ詩乃編、つまりファントム・バレット編に入ります。ただ、今作ではGGOにはログインしないので、現実世界での戦いがメインになります。だからといって本物の実弾銃を街中とかでぶっぱなすわけではないです。どうなるかはお楽しみにどうぞ!
 


第56話~桐ヶ谷親子~

 

 

「木綿季……! 木綿季! もう絶対に離さない……!」

 

「かずと……かずと……! ボク……寂しかった……怖かったよぉ……」

 

「ごめんな、俺がしっかりしてないばっかりに……木綿季につらい思いをさせちまったよな……」

 

「ううん、ボクも……和人にすっごく迷惑かけちゃった……ホントにごめんなさい……」

 

「迷惑だなんて……もういいんだ。木綿季が無事ならそれでいいんだよ……」

 

「かず……と……」

 

「木綿季……」

 

 

 和人と木綿季は一層抱く手に力を込め、お互いを近くに感じあっていた。今まで抱き合ったどの時よりも、手に力を込めて愛する人を離さなかった。和人が大声で叫んで走ってそのまま木綿季を抱き締めにいったので、近くにいた子連れ客がなんだなんだと和人達を凝視していた。

 

 十数秒ほど遅れて里香達も和人に追い付き、和人が木綿季を抱き締めている光景が視界に飛び込んでくると、安堵感にも似た深い息を吐き出しながら腰に手を当てて、やれやれといった表情でほっこりしながら事の成り行きを見守っていた。

 

 

「……どうやら、解決したみたいね……」

 

「そうみたいですね……よかったです……」

 

「しっかしそいつはいいけどよう、見せつけてくれるぜ全く……」

 

 

 木綿季が無事に見つかると、安堵感もさながら同時にあの二人の関係が羨ましいと思い始めた三人であった。中でも二十代後半に差し掛かってるのにもかかわらず、未だに彼女がいない遼太郎はあからさまに肩を落として大きな溜め息を吐き出していた。

 

 

「はぁ……キリの字が羨ましいぜ……。あんなに可愛い彼女がいてよう。ただでさえあいつ女の子にモテるっつーのによう……」

 

「まあまあ、キリトだからしょうがないわよ。それに木綿季とは共に大変な道を歩んできたんですもの。あの二人の絆はちょっとやそっとじゃビクともしないわよ」

 

「大丈夫ですよ! クラインさんにも素敵な人が現れますって! だって……クラインさんいい人ですから!」

 

「ありがとよシリカちゃん。それじゃあ俺様と付き合ってくれるか?」

 

「えっと……それはごめんなさい……」

 

 

 珪子が遼太郎からの誘いを光の速さで首を横に降ると、真横でそのやりとりを見ていた里香が腹を抱えて笑い転げていた。この二人が仮に付き合うとしたら何やら犯罪臭がプンプン漂いそうなので、むしろ断った方が互いの為だったのかもしれない。

 

 

「安心しなさい、アンタがシリカと付き合おうもんならあたしが警察に通報しといてあげるから」

 

「なっ、うぅ……辛辣だぜ……」

 

「ごめんなさいクラインさん……」

 

「畜生……、来年こそ絶対に彼女作ってやるからなあ!」

 

 

 二十代後半に差し掛かりつつも来年こそ彼女を作ると意気込んでいるクラインであったが、確かにそろそろ真剣に交際を始めなくてはマズイ年齢だ。何故ならクラインと同じぐらいの歳で既に結婚し、子供もいる人も決して少なくはないからだ。結婚期やモテ期は人それぞれであるが、クラインに一向にその気配がないことから、もうここまできたら手遅れなのではないかとも思わせてしまう。しかし本人がひたすらポジティブなのでまあきっとなんとかなるだろう。

 

 

「でもあたし達も欲しいわよね……一生のパートナー……」

 

「……そうですよね……」

 

 

 基本的に自分の周りが女の子しかいない和人と共通の女友達とばっかりつるんでいる所為で、中々男の子との出会いがない珪子と里香はお互いに視線を合わせると、大きな溜め息を吐いていた。里香はその視線をやたらと来年の野望に暑苦しい炎を燃え上がらせているクラインに移すと「コイツだけは無いわね……」という思いを胸に抱き、更に項垂れてもっと深い溜め息を吐いていた。

 

 

「あたし達にも来ないかしらね……春……」

 

「そう……ですねぇ……ははは……」

 

 

 長年異性と交際経験がない三人がそれぞれ色々な想いを胸に抱いている一方で、和人と木綿季は漸く抱擁を解いていた。二人の顔は涙の跡が残っており、顔中を真っ赤に染めていた。しかし、お互いを見つめる眼差しは非常に温かいものであった。

 

 

「木綿季、リズ達も一緒にお前を探してくれてたんだぞ」

 

「……そうだったんだ……皆に心配かけちゃったんだね……」

 

「皆にお礼、言わないとな」

 

「う、うん……」

 

 

 和人が里香達のいる方に目をやると、それに続くように木綿季も視線を向けた。そこには誇らしげな表情をしながら勝利のVサインを木綿季達に向けている里香、珪子、遼太郎の姿があった。その光景を見た木綿季はたまらず嬉しくなり、思わず満面の笑みが溢れ出し、同じようにVサインを見せていた。

 

 Vサインが終わると、木綿季は和人より先に里香達に向かってとことこ歩み寄り、残り1メートルほどの距離まで近寄ると畏まったような表情をしながら丁寧に里香達に頭を下げた。和人も木綿季に続き頭を下げ、感謝の気持ちを表した。

 

 

「リズ……シリカ……、それにクラインさん。心配掛けて……本当にごめんなさい……」

 

「え、あ……頭あげてちょうだいよ! 二人共っ」

 

「そ、そうですよ! 木綿季さんが無事で何よりなんですから!」

 

「そうだぜ? 俺たちはダチなんだからよ、助け合うのは当たり前だ」

 

「……お前ら……」

 

 

 和人は再び仲間のありがたさを感じていた。こんなに迷惑かけたのに、こんなに掻き回したのにもかかわらず、気にするな、助け合うのは当たり前だ、そんな事をさも当然のように言ってくれる仲間達に頭が上がらなかった。さんざ木綿季と抱き合い泣いた後だというのに、また胸の奥から込み上げてくるものを感じていた。

 

 

「サンキュな、本当に……」

 

「ボクからも……ありがとうございました……」

 

 

 またもや頭を下げてしまっている二人の態度に、里香達はしょうがないなと苦笑いを浮かべていた。皆がいる場は、迷子になっていた木綿季が何事もなく無事に見つかったこともあり、すっかり緊張感がなくなり漸く一息つけるといった雰囲気となっていた。全員がなんとも言えない表情で話しづらそうにしていると、突然「ぐ~~」とお腹の虫の音が鳴り響いた。遊園地の施設の騒音越しでも全員がバッチリと聞いてしまっていた。

 

 

「…………」

 

「…………今の誰だ?」

 

「ボ、ボクじゃないよ!?」

 

「俺様でもないぞ?」

 

「あたしでもないわよ!?」

 

「……わ、私です……」

 

 

 音の主の正体は珪子であった。珪子を含む里香、遼太郎の三人は今朝方8時に秩父の宿場を朝飯抜きでチェックアウト、そしてそのまま川越までノンストップで来たおかげで、すっかり胃袋が空っぽになってしまっていたのだ。腹の虫を鳴らした珪子は顔を真っ赤に染め上げて恥ずかしそうに俯いてしまっていた。その様子を里香と木綿季はクスクスと楽しそうに笑っていた。

 

 

「そういえばあたし達、朝食まだ食べてなかったのよね……」

 

「そういやここに来たのも飯食う為だっもんなあ」

 

 

 木綿季の捜索ですっかり忘れ去られていたが、珪子の腹の虫に釣られるように自分のお腹をさすっていた里香と遼太郎は自分達が空腹であることと、この百貨店に来た本来の目的を思い出していた。気が付くと時刻は昼近くに差し掛かり、時計の針は11時過ぎを指していた。朝食をとるにしても中途半端なタイミングだ。

 

 

「あら、もうこんな時間よ。これじゃあ朝飯じゃなくてお昼ご飯になっちゃうわよ」

 

「あ……ご、ごめんねみんな……ボクの所為で……」

 

「だから気にすんなって木綿季ちゃんよう、むしろ朝昼兼用って考えれば一食分食費が浮くってモンよ!」

 

「で、でも……」

 

「…………」

 

 

 和人は顎に手を当てて何やら考え込み、しばらくすると何を思い立ったのか徐にスマホを取り出して何処かへと電話をかけ始めた。一体何処へ電話をかけてるんだろうと思っている木綿季達を尻目に和人は「俺にまかせろ」と言いたげに自信に満ち溢れた表情でスピーカーに耳を当てていた。何回かプルルというコール音が鳴り続け、やがてガチャッという受話器を取る音が聞こえるとすぐに和人に馴染みのある声がスピーカーから聞こえてきた。

 

 

『はい、桐ヶ谷です』

 

「あ、スグか? 俺だ」

 

『あれ、お兄ちゃん……どうしたの? お買い物は?』

 

「ああ、そのことなんだが……母さんに代わってもらっていいか?」

 

『あ……うん、ちょっと待ってね? ……おかーさーん! おにーちゃんからでんわー!』

 

 

 電話越しに直葉が母親の翠を呼ぶ声が聞こえると、何やら慌ただしそうな足音が段々と大きくなって聞こえてきた。やがて足音が止まると今度も和人に馴染みのある優しい声が聞こえてきた。 

 

 

『もしもし和人? ……一体どうしたの? お買い物は終わったの?』

 

「あ、母さんごめん……そのことなんだけど、父さんはまだ帰ってきてない?」

 

『あの人ならさっき渋滞に巻き込まれてるって連絡があったわ。夕方予定だったのが夜になりそうだって。……でもそれがどうかしたの?』

 

「えっと、実は……」

 

 

 和人は翠に今日、先ほど百貨店で起こったことを事細かに口で説明した。木綿季が中で迷子になってしまったこと、その場に友達が偶然居合わせて手を貸してくれたこと、そして肝心の買い物がまだ終わっていないことまで、隅々まで事細かに言って聞かせていた。

 

 

『……和人、木綿季は無事なの?』

 

「え? あ、ああ……無事だよ。擦り傷一つ負ってないよ」

 

『……貴方に言ったわよね? 木綿季のこと見てあげてって』

 

「え……あ……うん、ごめん……」

 

『それと悪いんだけど、ちょっと木綿季と代わってくれないかしら』

 

 

 穏和な口調で話している翠の声色が普段と変わっていた。明らかにいつものふわふわした翠の雰囲気ではなくなっていた。そのただならぬ空気の違いに、和人は一瞬呆気に取られて、木綿季へ電話を代わったのだった。間違いなく翠は怒っていた。

 

 

「えっ、あ……わ、わかった。……ほら木綿季、母さんが電話代われだって」

 

「え、ボク? ……わ、わかった! ……えっと、もしもし……お母さん……?」

 

『もしもし木綿季? 迷子になったって聞いたけど大丈夫? 何処も怪我したりしてない?』

 

「……うん! 大丈夫だよ! ちょっと心細かったけど、和人がちゃんと見つけてくれたから……」

 

 

 最初に木綿季が迷子になったと聞かされた時には肝が冷える思いに見舞われたが、木綿季の元気一杯な声が聞こえた瞬間に、翠はほっと胸を撫で下ろしていた。しかし安心してばかりではダメだ、親としての役割を果たさなくてはいけない。心配をかけさせた娘をちゃんと叱らなくてはいけない。翠はあくまでも一人の母親として、木綿季の母親として娘を叱るため、静かに口を開き始めた。

 

 

『……それならよかったわ。……あのね木綿季、お願いだからあんまりお母さんに心配かけないでちょうだい。貴方にもしものことがあったら、母さんは一体どうしたらいいの?』

 

「あ、う……はい……ごめんなさいお母さん、心配かけちゃって……」

 

『何回も言うけど木綿季はもう桐ヶ谷家の……私達の家族なの。あんまり心配かけられたら……お母さん心配し過ぎてどうにかなってしまいそうよ……。自分の周りの人達の気持ちも少しは考えなさい』

 

 

 和人のスマホのスピーカーの向こうからは、本気で木綿季のことを心配する翠の様子が伺えた。怒ってはいるのだが、気のせいでなければ少しだけ泣いているような話し声にも聞こえなくなかった。木綿季に何もなくてよかった、無事でホッとした。そんな様子も感じられた。

 

 木綿季は電話越しにひたすら翠に心配かけてごめんなさいと謝っていた。木綿季にとっては翠から初めて娘として怒られた瞬間だった。キツめの言い方をする翠の話し方は木綿季にとっては正直少し怖かったが、同時にこんな自分をちゃんと叱ってくれる親がいるということのありがたさも感じ取っていた。

 

 お母さん……本気でボクのこと心配してくれてるんだ。嬉しいな……、誰かに本気で怒られたことなんて、和人以外いなかったからなんか嬉しい。パパとママ、姉ちゃんにも思いっきり叱られたことがあったな……。あの時も怖かったけど、ボクのことを心から想っていたから叱ってくれてたんだよね、この歳になって漸く気が付いた……。ボクって親不孝者だったんだな、ごめんね、パパ、ママ、姉ちゃん……。

 

 

『……木綿季、聞いてるの?』

 

「え、あ……はい……ご、ごめんなさいお母さん……」

 

『……とにかく木綿季が無事でよかったわ……もう心配かけないでね……?』

 

「はい……気を付けます……」

 

『よろしい、……それじゃあ和人と代わってもらえるかしら?』

 

「あ……うん!」

 

 

 木綿季は翠に返事を返すと笑顔になりながらも悲しそうに涙を流して、和人にスマホを手渡した。近年の若い子供からすれば、親から叱ってもらえることのありがたさをわかっている時点で、木綿季は大変に立派な子供だと言えるだろう。自分を心配してくれてる人の気持ちをちゃんと汲み取っているのだから、決して親不孝ものではない筈だ。和人はそんな複雑な表情を作っている木綿季の様子が気になりながらも手渡されたスマホを首を傾げながら自分の耳に当てた。

 

 

「もしもし、代わったよ」

 

『……和人、木綿季は……大丈夫かしら?』

 

「へ?」

 

『ちょっとだけきつめに言いつけてしまったから……その、シュンとしてたりしてないかしら……』

 

「……大丈夫だよ、ちょっと泣いてるけど笑顔だよ。多分母さんに叱ってもらったのが嬉しかったんじゃないか?」

 

『え、私に……?』

 

「ああ、木綿季の本当の家族は……もう皆亡くなってるから、木綿季をちゃんと叱れる人なんてもう随分と長い間いなかったんだと思う。だからじゃないかな」

 

 

 和人が電話越しにフォローを入れると、翠は何やら考え込んでしまった。自分にとって血の繋がった子供は長女の直葉だけだ。だけど義理の息子の和人にだって同じぐらいの愛情を注いできたつもりだ。しかしもしかしてそれは自分が勝手にそうやってきたつもりで、単なる思い込みだったのではないかという考えも頭をよぎっていた。

 

 

『……ねえ和人、私は……あの子のお母さんになれるかしら……』

 

「なれるさ。だって……この俺のことだってここまで育ててくれたじゃないか……」

 

『和人……』

 

 

 和人は翠なら立派な木綿季の母親になれると迷わず言い切った。木綿季と同じく養子として桐ヶ谷家の一員となった自分を立派に育て上げてくれた翠の頑張りを、一番間近で見てきたからだ。血の繋がりのない子供を、実の子供と同じように愛情を注ぐというのは並大抵のことではない。心のどこかで他人意識などをどうしてもしてしまうものだ。

 

 しかしそれでも翠はたくましく和人を育て上げた。好きな女の子を守れるぐらいの男にまで育て上げてたのだ。和人は自分の気持ちを伝えるなら今しかないと思い、少しだけ恥ずかしいと思いつつも、長年ずっと伝えたかった胸の内に秘めていた想いを翠に届けるべく、ゆっくりと口を開き、語り出した。

 

 

「……あのな、あのな母さん……普段中々言えなかったけど……、俺を引き取ってここまで育ててくれて、ホントに……ホントにありがとう。心から……感謝してる」

 

『え……?』

 

「悪いことしたらちゃんと叱ってくれたし、俺がSAOに囚われてた時だって、見捨てずに待っててくれてた。何にもしないでただ眠っているだけの俺のことを、ずっと待っててくれてた……」

 

『…………』

 

「木綿季のこともそうだ。骨髄移植だって母さんが調べてくれなかったら絶対に気付けなかったし、受け入れ先のないあいつを養子にも迎え入れてくれた。みんな母さんのおかげなんだ。母さんは俺たちの命の恩人なんだよ。本当に感謝してもしきれない」

 

『…………』

 

「本当にありがとう母さん、俺、絶対に……絶対に親孝行するから……!」

 

『…………ッ』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 翠は電話の向こう側で泣き崩れてしまっていた。床に膝をつき、片手で口元を押さえ、涙をポロポロ流し、言葉を殺して泣いていた。かつて和人に自分と距離を置かれてしまった時期もあった。桐ヶ谷家の人間に対してよそよそしい態度をとっていた時期もあった。ずっと苗字が同じだけの他人なのかと思ってた。

 

 だが和人はそんな薄情な人間ではなかった。しっかりと翠から、峰嵩から親としての愛を受け取っていたのだ。そんな和人が自分に対して感謝の気持ちを抱いてくれていた。親孝行をすると言ってくれた。翠はそれだけで満足だった。三人の子の親として心からの幸せを感じていた。

 

 

「……母さん……?」

 

『……ッ、大丈夫、聞いてるわ……』

 

「……ああ……」

 

『あのね和人、後からでいいのよ……。まずは貴方たちが幸せになりなさい。私達への親孝行は……それからでも遅くはないんですから……』

 

「……母さん……」

 

『貴方たちが幸せに育ってくれれば、それが母さんの幸せだから……。母さんだって貴方たちからたくさんの幸せをもらってるんですからね……』

 

「……そんなこと……」

 

 

 和人の目にもうっすらと涙が浮かんでいた。正直言ってまだまだ翠への感謝の気持ちは伝え切れないほどある。だがこれ以上言ってしまうと、また感情が爆発して顔が涙でくしゃくしゃになってしまいそうだったので、和人は敢えて胸の内に留めておいた。これからはゆっくりと伝えていこう、そして親孝行していこう、そう思っていた。

 

 それから程なくして、翠も和人も高ぶった感情が少しずつ収まり、落ち着きを取り戻していた。確かに直接の血のつながりはないかもしれないが翠と和人、そして木綿季も、紛れもない本当の意味での親子なのだった。

 

 

『和人、木綿季を探すのに手伝ってもらったお友達に、ちゃんとお礼をしなさい。お父さん遅くなるって言ってたから少しぐらいお買い物が遅れても大丈夫よ。お昼時だし……お金は後で母さんが支払うから どこかでご飯でもご馳走してあげなさい』

 

「いいよ、元々何かお礼しようと思ってたし。そのためにちょっと買い物遅れるっていう電話をしようとしてたんだから」

 

『あらそう? それならいいんだけど……』

 

「ああ、だけどまあ15時ぐらいまでには必ず帰るよ。仕込みとかもあるしな」

 

『そうね……そうしてちょうだい』

 

「んじゃあ……そろそろ電話切るよ」

 

『わかったわ。あ……それと和人……』

 

「……何だい?」

 

『……ありがとね、母さん元気出たわ……』

 

「……ああ、んじゃあ……また後で……」

 

『ええ……また……』

 

 

 和人は翠との通話を終えると、通話終了の赤いアイコンをタップして、スマホをポケットに仕舞い込んだ。直接ではなく電話越しではあったが、漸く翠に息子として感謝の気持ちを伝えられたことに、安堵感に似たものを得ていた。心の中のどこかにひっかかっていたものが取れたような気もした。

 

 

「……終わった? キリト」

 

 

 何となく空気を察して距離を置いていた里香が和人達に近付き、そっと声を掛けた。遼太郎が家族だけで話があるんだろうと、気を遣って珪子と里香を連れて少しだけ離れた位置で待機していたのだ。この対応力の良さはやはり大人さながらである。ここまで気遣いが出来てモテないのが本当に不思議でならない。里香に続いて遼太郎と珪子もひょこっと姿を現した。

 

 

「ああごめんな、終わったよ」

 

「……そうか、さっきよりいい顔してるぜ? キリの字よう」

 

「そういうお前はいつ見ても野武士面だな」

 

「けーっ! なんだよおめーさんはよう! 折角俺様が良いこと言ったっつーのにまったく……。そういう所はSAOにいたときと全ッ然変わっちゃいねえ!」

 

「まあまあそう言うなって、木綿季を探してくれたお礼に昼飯、俺が奢るからさ」

 

「え……いいんですか? キリトさん」

 

「俺一人じゃ絶対に見つけられなかった。みんながいてくれたからこそ冷静になれた。だから木綿季を見つけられたんだ」

 

「うん、ボクもリズ達には本当に感謝してる……」

 

「だから、ここは俺に見栄を張らせてくれないか?」

 

 

 和人がお昼ご飯を奢ると言った瞬間、三人は本当にいいの? そんなことして和人の財布は大丈夫なの? といった表情を浮かべていた。別に恩着せがましく木綿季捜索を手伝ったわけではない。見返りを求めてやったわけではない。本当に木綿季が、和人が心配で手を貸しただけに過ぎなかった。しかし和人がいくら言っても引き下がらなそうだったので里香達も「本人がそう言うなら」ということでそのままお言葉に甘えることにしたのだった。ここまで強く言われてたなら断ってしまうと逆に失礼だと感じたのだろう。

 

 

「それじゃあお言葉に甘えるとするかあ! キリの字とはSAOの時の約束もあることだしな!」

 

「SAOの時の約束……? そんなのしたか?」

 

「ちょ……てめっ忘れちまったのかよ! この俺様との男同士のあの感動的な約束を!」

 

 

 遼太郎の言う約束というのは二年前、まだ和人達がSAOの中に囚われていた時のことだ。アインクラッド第75層をクリアした攻略組の前に立ちふさがった、SAO事件の黒幕である茅場晶彦こと、ヒースクリフとキリトの一騎打ちの時に交わした約束のことであった。当時、GM権限で動けなくされていたクラインと確かに約束を交わしたのだ。文字通り命を賭けた戦いを始める前のキリトに死ぬのは許さないと言ったのだ。「現実世界(むこう)で飯の一つでも奢ってからじゃないと絶対に許さない」と涙ながらに言い放ったのだ。

 

 その男同士の約束を忘れた和人に憤慨した遼太郎は、たまらず自分より身長の小さい和人に対し、背後から自身の左足を和人の左足に重ね、和人の右腕を自分の左腕で上から封じ、首を挟んで反対側からも右腕を伸ばしてがっちり掴み、見事なコブラツイストを決めていた。この男は武士が命と言っておきながら、いつどこでこんな複雑なプロレス技を身に着けたというのだろうか、それも掛け方が実に手際よく鮮やかである。技を決められている和人は上手く入ったのか、痛そうに顔を引きつかせながらもがいていた。

 

 

「あだだだだだ!! 思い出した! 思い出したからやめてくれ! ギブギブギブ!!」

 

「く、クラインさんやめたげて! 和人が壊れちゃうよー!」

 

 

 いたいけな木綿季に言われてしまっては遼太郎も従わざるを得なくなり、まだまだ技を決めていたいと思いつつも仕方なく和人をコブラツイストから解放した。遼太郎から解放された和人は関節をさすりながら何とも言えない表情で地面に尻もちをつきながら痛みの余韻に耐えていた。どうやら約束を忘れていた以外にも遼太郎は恨みがあったようだ。いや、恨みというよりも醜い男の妬みというべきか。

 

 

「和人大丈夫……?」

 

「ああ……大丈夫だ……」

 

 

 まだ足の感覚がおかしい和人が、木綿季に肩を借りて仲良さそうに立ち上がると、その様子を見ていた遼太郎を含む三人は渋い顔をして「ご馳走様」とでも言いたげにその場に佇んでいた。和人と木綿季は何で自分たちがそんな視線を向けられているのかは理解出来なかった。

 

 するとその空気をぶち壊すかのように突如としてまた「グゥ~~」とお腹の虫が鳴く音が鳴り響いた。先ほどと違って大きく、下手をすると周りの子連れ客にも聞かれてしまったのではないかというぐらいのボリュームだった。一行は一瞬何の騒音だと思い、周囲に異常が起きてないか辺りをきょろきょろと見回していたが、それが誰のものかはすぐに判明した。

 

 

「……ご、ごめんね……ボクのお腹の音……」

 

「……え?」

 

「……ぷっ」

 

「あはははははは!」

 

「ゆ……木綿季……アンタすごい音鳴らすわね……あははは!」

 

 

 音の正体が木綿季のお腹の虫と判明すると、一行は一斉に笑い出し、ぱっと場の空気が和んだ。和人も知らないほどの木綿季のお腹の虫の音だった。どうやら今朝食べた朝食は木綿季にとってはちょっとばかり足りなかったようだ。しかしそれでも白いご飯を茶碗で三杯胃に流し込み、鮭の切り身に関しては和人のをもらっていたのである。だというのにもかかわらず、このすきっ腹だ。本当に今後の桐ヶ谷家のエンゲル係数が心配でならない。

 

 

「だって朝食少なかったんだもん!!」

 

「少なかったって……お前俺の鮭の切り身で茶碗もう一膳食べてただろ! あれでもまだ足りなかったのかよ!」

 

「あれっぽっちじゃすぐお腹すいちゃうよー!」

 

 

 木綿季が現実世界に帰還し活発に食事をとるぐらいにまで回復してからは、もっぱらほぼ毎日この食欲であった。内臓機能が問題なく健康に活動している何よりの証拠なのだが、あまりにも異常なぐらいに膨れ上がった木綿季の食欲に、和人は頭を抱えていた。そいや前に言ってたな……「ボクをお嫁さんにするならたくさん稼いできてもらわないと!」 確かにそう言っていた。まさかとは思ったがここまでの食欲とは思わなかった和人であった。

 

 

「あははは! んじゃあ折角だしこの五人で昼食と行きますか!」

 

「キリトさん! ご馳走になりますね!」

 

「はぁ……ここで予想外の出費……とほほほ……」

 

「よーし! 食べるぞー!!」

 

 

 タイミング的にまさかとは思っていたが、里香ら三人に加え木綿季の昼食代まで負担する羽目にはった和人は半分涙目になりながらレストランに入っていったのであった。年齢と性別それ相応の量の物を注文した埼玉観光組に対し、木綿季は言わずもがな大量のメニューを注文し、里香たちを驚愕させながらも見事に全て完食したのであった。和人はALOのアルンの街のレストランで、ユウキにご馳走したとき光景と、今の光景にデジャヴを感じていた。

 

 幸いだったのは、ぼったくりなまでに高いアルンのレストランと違い、円広百貨店付属のレストランはかなり安めの良心的値段設定だったこともあり、なんとか和人の出費もそれほどまでいかなくて済んだのであった。まあ現実世界で仲間がこうして集まれるというのはそうそう機会があるわけでもなし、たまにこうやって集まったときぐらい、派手に楽しくバカ騒ぎしてもいいのかもしれない。ちょっとぐらい財布が軽くなっても、楽しい思い出を作れるのであれば安く済んだのかもしれない。

 

 和人と木綿季は、また二人の思い出のページに楽しい記録を残せたのであった。

 




 
 ご愛読ありがとうございます。和人と翠のやり取りは、打ってて涙がぽろぽろ溢れ出てしまい、中々執筆が進みませんでした。親の愛というのは本当に温かいものです。普段口うるさいと思っているかもしれませんが、本当に子供のことを想っているからこそやかましいことを言うのです。いくらウザいと思われても邪魔だと思われても、お父さんやお母さんはいつでも自分の子供のことしか考えてません。

 翠さんは本当にいいお母さんだと思います。そして何より美人ですよね。是非私もこの人と不倫したいです。
 
 
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