ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

57 / 92
 
 皆様こんばんは、年末いかがお過ごしでしょうか? 私は年末年始休みは僅かしなく、仕事三昧です。そして今回の57話が年内最後の投稿となります。私達の現実の時間経過やシーズンに合わせるのはもはや不可能なのでボク意味はボク意味の時間経過でゆっくりと物語を進めていきます。もしかしたら夏場に入学式かもしれないですし、そもそもバレンタインかもしれません。そんな感じでゆったりと木綿季たちの日常が進んでいきます。

 非常に長い物語になりますが、末永くお付き合いいただければと思います。それでは2016年内最後の物語をご覧くださいませ。今回も短く1万文字程度で完全なごく普通の日常回となっております。
 
 


第57話〜寒空の下で〜

 

 西暦2026年11月1日 日曜日 午後12:07 円広百貨店

 

 

 和人達五人は川越市内で一番の規模を誇る老舗の百貨店、円広百貨店内六階にあるレストランにてわいわいと楽しい食事に花を咲かせていた。オンラインゲームの中で出会った五人であったが、こうやってリアルでも集まり、何処でも同じように楽しめるのは素晴らしいことだと思う。

 

 生まれた場所も時間も育ち方も違うのに、たまたま同じゲームをやっていたというだけでここまでの関係を持てるのは貴重だ。しかし彼らがここまで仲がいいのも、生死を共にしてきた仲間だということに他ならなかった。SAO生還者は文字通りゲームオーバー=現実世界での死を乗り越えたおかげで命の大切さ尊さを身に染みて感じている。

 

 木綿季は自分も含め家族全員が不治と呼ばれていたHIVに感染し、家族を全て亡くし、自身も死の一歩手前までいったことから命の重みを誰より知っている。だからこそスリーピング・ナイツを亡き姉の藍子と共に結成したのだ。

 

 彼女はSAOにはほんのちょこっとしかいなかったが、必死に闘病を続けている間にも、明日奈や里香達は自分を支える為に当然のように力を貸してくれた。そのことからも木綿季を含むSAO関係者は、もはや「仲間」という言葉以上の固い絆で結ばれた仲であった。

 

 

「ふぅー食べた食べたー!」

 

 

 円広百貨店内のレストランの出入り口から、木綿季がお腹をポンポンと叩きながら満足そうな顔をしてご機嫌で出てきた。その後に里香、珪子、遼太朗も満足のいく食事だったと言いたげに笑顔を浮かべていた。その少し後から続き和人が財布の中身とレシートに書かれてる数字を見ながらトホホといった表情を浮かべて退店してきた。

 

 流石に安めの値段設定とはいえ、木綿季が調子に乗り次から次へとポンポン注文を繰り返した為、なんやかんや言って結構な代金に跳ね上がったのであった。和人はやっぱり見栄を張らずに翠のお言葉に甘えたほうがよかったかなと感じ始めていた。蓄えがあるとはいえ、こうも短期間で出費が重なれば懐なんてすぐに寂しくなっていってしまう。このままではまた菊岡からの依頼をこなさなければいけない羽目になると、和人は思い始めた。出来ればあの男とは関わりたくないとも。

 

 

「いやー、安いから味はアレなのかなと思ったがそうでもなかったな! 普通に美味かったぜ」

 

「全くだわ、かなりいい腕してるわよね。ここのシェフ」

 

「キリトさん! ご馳走様でした!」

 

「あ、ああ……喜んでもらえたなら俺も何よりだよ……」

 

 

 精一杯の爽やかな笑顔を作ろうとしていた和人であったが、やはり財布が軽くなってしまったことが結構こたえているらしく、若干引きつり気味なぎこちない笑顔を作ってしまっていた。無理して笑っているせいで瞼と頬がピクピクと震えてしまっていた。

 

 

「和人どうしたの?」

 

「あ、いや……何でもないよ」

 

 

 木綿季に声を掛けられた和人は自分の財布の中身を見つめながら苦笑いを浮かべていた。確かに貯蓄は一応はある、学生にしては充分すぎるほどだ。しかしこれから木綿季と楽しい毎日を過ごしていくには何かとお金が必要になってくる。どこかに遊びにいくにしても、身の回りのものを買い直すにしてもだ。貯金そのものは圧倒的に木綿季の方があるのだが、やはり男としては胸を張って堂々と好きな女の子の前では強がりたいものだ。

 

 

(こりゃ、また菊岡さんのお世話になるかもしれないな……)

 

 

 正直言って和人は菊岡とは金輪際一切関わりたくなかった。SAOから目覚めたばかりの和人に一番真っ先に接触してきた理由だって仮想世界関連事件の情報を得るためだ。SAO被害者の心のケアとは建て前に過ぎない。現に菊岡と面識がある明日奈や詩乃、里香あたりは警戒こそしてないものの、彼のことを胡散臭く感じているほどだ。和人への依頼内容がそれほど難しくもないわりには、報酬が高めになっていたのも胡散臭さに拍車をかけていた。

 

 和人はいつか菊岡からの依頼で、かつてのSAOほどではないものの、危ないことに首をつっこまされるのではと嫌な予感がしていた。木綿季へのマスコミ対策も表向きはセブンが依頼したことになってはいるが、和人が間接的に依頼していたことにも薄々と勘付いているはずだ。しかし木綿季に決して心配掛けたくないのと、出来るだけ一緒にいたいという気持ちが、和人を菊岡から依頼を受ける一歩手前で踏みとどまらせていた。

 

 

「ちょっとキリト、きいてる?」

 

「え……あ、ご、ごめん……ちょっと考え事してた」

 

「なんだなんだ、おめさんやっぱり無理してたんじゃないか?」

 

 

 遼太郎は自分より背が小さい和人の肩に片手をぐるんと回し、顔を近づけるとニヤケ顔をしながら自分の顎を和人の頬に当て擦った。無精髭がじょりじょりと頬に当たっている和人は迷惑顔をしながら遼太郎から視線を逸らして黙りこくってしまっていた。ズバリ図星を突かれたからだ。

 

 

「そんなことないっての、……で何だ?」

 

「あ……はい、私たちこの後、川越を見て回ってから帰ろうかと思います!」

 

「そうゆうこった、本当なら地元民のお前さんに案内してほしいところなんだけどな」

 

「……すまん、俺もそうしたいんだが……今日は用事があるんだ」

 

「ごめんね……皆折角埼玉まで来てくれたのに……」

 

 

 和人と木綿季がバツが悪そうにすると里香が咄嗟に「仕方ないわよ」とフォローに入った。詩乃達の時と同じように小江戸川越を案内でも出来ればよかったのだが、和人達には家の用事がある。里香達に申し訳ないと思いつつも時間が押してることもあり、このままお開きとなった。

 

 

「ほんじゃまキリの字よ、俺様達もそろそろ行くからな、飯……あんがとよ」

 

「ああ、今度また遊びに来いよ。次は俺ん家に招待するから」

 

「うん! それいい! リズ達もおいでよ! 」

 

「え……気持ちはありがたいけど、いいのかしら……?」

 

 

 和人が家に遊びに来いと誘った瞬間に木綿季の顔がぱあっと明るくなった。出先で遊ぶのも楽しいが、やはり自分のホームまで足を運んでもらうとなると、また別の嬉しさというものがある。一昨日に詩乃が泊まってくれたときは、それはそれは木綿季にとっては楽しい時間だった。今度はリズたちがお泊りに来ないかな、そう思っていた。

 

 

「うちは構わないぞ、シノンは一昨日泊まっていったし、今度遊びに来いよ」

 

「し、シノンが……いつの間にそんなことを……」

 

「ボク一緒にお風呂に入ったんだよ! 夜も一緒に寝たしね!」

 

「……俺は一人でソファで寝たけどな……」

 

 

 役回りが災難な和人の扱いの悪さに一行の間に笑い声が交わされた。そして流石に時間がないこともあり、宴もたけなわながら一行はこれにて解散となった。里香達旅行組は引き続き埼玉を観光に、和人達買い出し組はここ円広百貨店で翠からのおつかいを済ませる為に、それぞれ足を運んでいった。

 

 そして木綿季が見つかったことを百貨店側に知らせてないことを思い出した和人は慌ててまず一階フロア内にあるインフォメーションセンターに足を運び、迷子になっていた木綿季が何事もなく見つかったことを、受付のお姉さんに頭を下げながら知らせた。あくまでも黙って食事を取っていたことをふせながら。

 

 

「お騒がせしました、でもお陰様でこうして無事に木綿季が見つかりました。本当に何とお礼を言って良いやら……」

 

「……迷惑掛けてごめんなさい、お姉さん……」

 

「いえいえそんな……こちらこそすぐに探し出せずに申し訳ないです……」

 

 

 和人達が頭を下げると、お姉さんも同じように礼儀正しく、深々と頭を垂れた。客商売らしく、一従業員としてお客様に誠心誠意を込めて丁寧に対応してくれた。別に店側に落ち度があるわけではないが、また次回気持ちよく利用していただく為に、精一杯の接客をする。それが客商売というものだ。中にはその立場につけ込んで高圧的な態度に出る輩もいるが決してやらないようにお願いしたい。

 

 

「あとこちらですね、別のお客様からお預かりしておりました」

 

「え……あ、それは……」

 

 

 お姉さんはそう言いながらカウンターの中から和人が地下一階フロアで放置した銀色のキャリーを取り出した。木綿季を探す為に思わず放り出したやつだ。和人はお姉さんからキャリーを受け取ると「ありがとうございます」と一言添えながら軽く会釈をした。

 

 

「見つかってよかったです。……あの、これよろしければお使いください」

 

 

 お姉さんはカウンターの引き出しから何やら水色の封筒のようなものを取り出して和人に手渡した。和人は不思議そうに片手で受け取って封を剥がして中身を取り出した。封筒の中に入っていたのはここ円広百貨店の食料品売場で使うことの出来る商品券であった。若干使用期限がギリギリなのが気になるが食料品3000円分にもなる商品券の存在は今の和人には大きかった。何しろ木綿季からお菓子やらなんやらをせびられることがわかっていたからだ。

 

 

「いいんですか……いただいてしまって」

 

「ええ、期限もギリギリですし是非お使いください」

 

「……わかりました、ありがとうございます。使わせてもらいます」

 

「はい! 是非お買い物をお楽しみくださいませ!」

 

「お姉さん……ありがとうございます!」

 

 

 木綿季が元気よく笑顔でお礼を言うと受付のお姉さんにも思わず笑みがこぼれていた。和人たちは立ち去り際にお姉さんに頭を下げると、今度は離れ離れにならないようにな手を繋ぎながら再びエスカレーターに向かって足を運んでいった。お姉さんは手を振りながらほっこりとした視線を送り、二人を見送っていた。大切な家族と言っていたことから和人達のことを兄妹か何かだと思ったのだろう。この二人が恋人同士だと言うことも知らずに。

 

 

――――――

 

 

 和人と木綿季はエスカレーターで地下フロアに降りると一番大きいショッピングカートにキャリーをコンパクトに畳んで収納し、翠から頼まれた買い出しを漸くスタートさせた。和人がカートを押し、木綿季がメモを見ながらカートて商品を持ってくるといった作戦だ。翠から渡された買い物リストには晩餐のメインであるしゃぶしゃぶの材料、酒の友である刺身や枝豆などのおつまみの類、その他常日頃から家庭で使う野菜やお肉などといった食料品を買うよう指示が書かれていた。

 

 

「ようし、やるぞー!」

 

 

 木綿季は妙に気合が入っていた。両肘をガッツポーズのように曲げ、瞳の奥にはメラメラとやる気に満ち溢れた炎が燃え上がっていた。おそらく初めてのお使いと誰かの役に立てるということが、木綿季の背中を強く押しているのだろう。木綿季は買い物リストのメモと店内フロアマップに視線を送りながら「和人、こっちだよ!」とカートを押している和人を売場に誘導しては次々と指示にあったものをカートにひょいひょいと入れていった。

 

 

「えーっと、次はね……」

 

「楽しそうだな、木綿季」

 

 

 商品が山盛りに入れられたカートを力強く押しながら和人が木綿季に尋ねると、木綿季は一瞬顔をキョトンとさせ、すぐさま笑顔になると明るく木綿季らしく「うん! 今すっごく楽しいよ!」と元気に振る舞った。和人はその様子を見届けると爽やかな笑顔で「そうか」と返事を返した。木綿季は本当に毎日が楽しくて仕方ないといった様子だ。

 

 一方で退院して桐ヶ谷家で暮らすようにようになってから毎日が楽しいのは、何も木綿季だけではなかった。木綿季の恋人である和人も、木綿季が日常を楽しんでる姿を見て嬉しく思っていた。いや和人だけではない、親友の明日奈も、父親代わりだった倉橋も、スリーピング・ナイツのメンバーも、皆木綿季が普通の日常を過ごしていけることに喜びを感じていた。

 

 

「な、何……? かずと」

 

 

 和人は気がつくと真っ直ぐに木綿季を見つめてしまっていた。カートに商品を入れに来た木綿季が気づきぼーっと見つめ返すと、その視線に気づいた和人がはっと我に返り、照れ臭そうにこめかみをポリポリとかくとその場を誤魔化すように買い物を再開するように促した。

 

 

「何でもないよ……ほら、買い物続けるぞ」

 

「あ……、うん! ねねね、お菓子買っていい?」

 

「構わないぞ、商品券もあることだしな」

 

「わーいやったー! えへへ……どれにしようかな~……」

 

 

 木綿季はまるで親に好きなお菓子を買ってもらう小学生のように喜んで、お菓子売り場で好きなお菓子を物色していった。3000円分の手助けもあり、気になったお菓子、昔好きだった駄菓子等をかたっぱしから手にとってはぽいぽいとリズムよくカートに次から次へと放り投げていった。とても16歳とは思えない行動だった。和人は「おいおい……」と呆れ顔で木綿季の行動を見守っていた。

 

 その後も品切れ等といったトラブルに見舞われることも無く順調に買い出しリストを埋めていった二人は、木綿季が和人に買ってくれるようせがんできたお菓子類等も含めて、大きいカートをカチ盛りにしてレジに進み、後続に長蛇の列を作りながらも会計を進めていった。周りの買い物客からの視線がちょっとだけ痛かったが、一つの家庭と同じぐらいの量の買った商品を見ると、まるで結婚後初めて晩御飯の買い物にきた若い一夫婦のような光景だった。

 

 商品をレジに通し続け長かった会計をやっと済ませると、和人は買った商品をカートに乗せなおし「会計済み」の札を下げながら商品をレジ袋に包むために、一番近くのサッカー台へと足を運んでいった。サッカー台の周りには主に主婦や母子連れといった買い物客がせっせこせっせこと各々買った商品をレジ袋に詰め込んでいた。和人と木綿季も慣れない手つきでレジ袋にデッドスペースが出来ないよう、しっかりと一つずつ商品を入れていった。

 

 和人は野菜は野菜、パック詰めの肉などは同じパック詰めのグループ等できちんと整理して入れていった。一方で木綿季は買い物そのものが初めてだということもあり、四苦八苦しながら商品を詰めていった。和人のアドバイス通りに商品を入れていったが、どことなく袋の中が乱雑というかぎこちない仕舞われ方に見えた。和人は複雑そうな顔を浮かべながら木綿季の作業を見守っていたが別に壊れるものが入れられているわけでもないので「まあいっか」と無理やり納得していた。

 

 やがて全ての商品を詰め終わると和人は近くのサービスカウンターから手ごろなサイズの段ボールを何個か受け取り、段ボールの大きさに合った袋を手際よく詰めていき、持ってきたキャリーを展開させ、重心バランスに傾きがないよう丁寧に乗せていき、全て乗せ終わるとキャリーについているゴム紐を使ってしっかりと固定し、あとは引っ張って自宅へ帰るだけの状態となっていた。ここでさりげなく自分の持つ方は重い荷物でまとめ、木綿季の持つ方を軽い荷物でまとめているところが中々に憎めない。

 

 

「よし、これで全部だ」

 

「結構大荷物だねー!」

 

「まあ……それだけ今夜の晩餐が豪勢だってことだよ。帰ったら俺たちも仕込み手伝わないとな」

 

「そうだね、よし……それじゃあ帰ろ、和人」

 

 

 木綿季がそう言うと二人はそれぞれキャリーを手に持ち、カラカラという車輪が回る音を鳴らしながら帰路へとついていった。時刻は午後13時、日曜日のこの時間帯は店側にとって一番のピークを迎える時間帯だ。気が付くと周りには午前中にここに来た時よりも買い物客、中でも特に子連れ客と年配の夫婦客が目立ち、古くから地元の住民に長く利用されてきているんだなということが感じられる。見渡すとどのお客さんも笑顔で買い物をしており、木綿季はそのお客さんたちを見て、改めて自分はいい所に住んでるんだなと実感していた。

 

 長く居座ってしまった円広百貨店を後にした二人は随分久しぶりかのような感覚で屋外へと足を運んでいた。太陽はもうすでに十分に上り、外の気温も今朝に家を出てきたときと比べて大分温かくなっていた。適度な気温となった川越の駅前郊外を、木綿季と和人は手を繋ぎながら歩いていた。まだ半日しか経っていないのに今日もいろいろとあったな、疲れたけど楽しかったなと感じていた。地面を見ながら、時折遠くの風景を見ながら、通り過ぎていく人々に視線をやりながら、ひたすらに一歩ずつ歩を進めていった。

 

 やがて駅前から段々と離れていき、遠目に住宅街がちらほらと視界に入ってきた。ここからあと20分も歩けば自宅である桐ヶ谷家へと辿り着ける。同じ歩幅で歩いていた二人だったが、和人が繋いでいる手を後ろに引っ張られる感覚を覚え、ふとその方向に目をやると、木綿季が何やら真っすぐな視線をどこかへと向けていた。一体何を見ているんだろうと和人が木綿季の視線の先に目をやると、何やらワゴン車の移動販売のような店が佇んでいた。その周辺には白いイスとテーブルが並べられており、ワゴン車の近くにあるのぼり旗には「ソフトクリーム」と書かれていた。木綿季はこの店を見つめていたのだ。

 

 

「何だ木綿季、食べたいのか?」

 

「え?……えっと、……うん」

 

「……わかった、俺が買ってくるよ。味は何がいい?」

 

「あ、えっと……そうだね、じゃあボクは……バニラ!」

 

「あいよ、買ってくるからちょっと待っててくれな?」

 

 

 和人はそう言うとキャリーの片方を木綿季に任せてソフトクリーム屋に向かって歩み寄っていった。どうやら開店時間直後らしく他にお客さんがいなかったため、特に待たされることもなくすんなりと購入することが出来た。和人は店主にバニラとむらさきいもソフトの注文を伝え、支払いを済ませてソフトクリームが出来上がるのを待っていた。ワゴン車の中に設置されているソフトクリームサーバーからは白いクリームのバニラ、薄紫色をしたむらさきいもソフトがくるくるととぐろを巻いていき、コーンにその形を作っていった。形が完成すると、店主はすかさず両手で和人にソフトクリームを手渡した。

 

 

「あいよ、お待ちどうさん!」

 

「ええ、どうも」

 

「兄ちゃん、あちら彼女さん?」

 

「え? ああ……まあ、そうです」

 

「若いねえ、大切にしなよ、兄ちゃん?」

 

「……勿論です」

 

 

 ソフトクリームを扱っている甘いスイーツなイメージとは程遠い四十代程のおじさん店主が野次を飛ばすと、和人はほんのり爽やかな笑顔で返答を返した。そのおじさんからの野次は横浜港北総合病院で看護師たちから飛ばされた野次とは違い、気さくで温かく、不思議と嫌な気持ちはしなかった。やがてオープンしているのを見た通行人が次々へと店へと並んでいった。後々に結構地元では人気のお店だということが判明した。どうやらこのおじさんのキャラクターがこのソフトクリーム屋の人気の秘密のようだ。やがて集まってきたお客さんは次々と行列を作っていき、長蛇となっていった。一番に買えたのはかなりラッキーだったようだ。

 

 

「木綿季おまたせ。ほら……木綿季の分」

 

「うん、ありがとね。それにしてもすごいお客さんだねー」

 

「本当だな、かなり人気のお店みたいだ」

 

「だとしたらラッキーだったね! 一番に買えてさ」

 

「ああ、そういうことだな」

 

 

 和人は少し離れたところにあるベンチに目をやり「あそこに座って食べようぜ」と木綿季に促すと片手にキャリー、もう片手にソフトクリームを持ってゆっくりと歩を進めていった。木綿季も「うん!」と返事を返し、それに続くようにとてとてと歩いていった。ベンチに辿り着くとそれぞれ脇にキャリーを立てかけ、腰を下ろして「いただきます」とお行儀よく先ほど買ったソフトクリームに口をつけていった。

 

 

「あむ……、んー! 冷たくて美味しい!」

 

「ああ……これは美味いな。地元にこんな味があったのか」

 

「へえー、和人でも知らなかったんだ」

 

「自分から進んでソフトクリームなんてあんまり食べないからな」

 

「じゃあボクのおかげでもあるんだね!」

 

「ははは、そういうことだな」

 

「えへへ、ねね和人、そっちも食べさせてよ!」

 

「ん? 別にいいぞ、ほれ」

 

 

 木綿季が和人の食べているむらさきいもソフトをねだると、和人は気前よく木綿季の前に差し出した。木綿季は嬉しそうにむらさきいもソフトに大きな口でかぶりつくと一口でかなりの量のソフトクリームをごっそりと抉っていった。その物凄い食欲に和人は目を丸くして驚いていたが、木綿季らしいなと思わず笑みをこぼしていた。一方口を大きくしてソフトクリームを頬張っている木綿季は幸せそうな笑顔を見せながら和人のソフトクリームを味わっていた。

 

 

「おいもの味がする! こっちも美味しいねー!」

 

「そうだろ? 芋と言えば川越だからな」

 

「ボク、埼玉には葱しかないとばっかり思ってたよ」

 

「おいおい……葱は場所が違うぞ? 同じ埼玉でも葱は深谷だ」

 

「へー、そうなんだ……」

 

 

 木綿季が埼玉の意外な名産地に感心していると、和人が木綿季の頬っぺたに先ほどのむらさきいもソフトのクリームがくっついていることに気付いた。肝心の当の本人はそのことに全く気付いている様子はなく、次は自分の持ってるバニラのソフトクリームに口をつけていた。しばらく様子を見ていても気付く様子がなかったので和人は仕方なく木綿季にそのことを教えてあげることにした。

 

 

「木綿季、ほっぺにクリームついてるぞ」

 

「ふぇ!? ど、どこ? 和人とってー!」

 

 

 女の子がソフトクリームを食べるときのべたべたなネタを披露している木綿季であったが、自分のほっぺにうっかりクリームをくっつけてしまっている事態に、すっかり慌てふためいてしまっていた。周りから見ると結構ドジで可愛らしい光景であるが、くっつけてしまっている当人は大変に恥ずかしい思いをしていた。和人は顔を真っ赤にしている困り果てている木綿季の頬に手を伸ばして指でくっついているクリームをすくい取り、そのまま自分の口へと運び綺麗に舐めとっていった。

 

 

「ほらよ、これでOKだ」

 

「あ……うん、あり……がと……」

 

 

 今まで異性と交際経験がなかった木綿季は、当然こういったやり取りも初めてであった。和人と散々抱き合ったりスキンシップを繰り返してきてはいるが、今回の初めてのやり取りにどぎまぎしてしまっていた。

 

 

「なあ、木綿季のも少しくれよ」

 

「ふぇ!? ……ああ、うん……いいよ?」

 

 

 木綿季は和人にバニラソフトをねだられると、先ほどの和人と同じようにソフトクリームを和人の前に差し出した。和人は差し出されたソフトクリームにそれなりに口を開けて食らいつきもごもごとバニラ独特の濃厚な味を堪能していた。しかしバニラソフトも美味しかったが和人は今のこのやりとりにどことなくデジャヴに似たような感覚を覚えていた。

 

 

「ああ……そうか思い出した。迷宮区で……」

 

「どうしたの……? 和人」

 

「いや……似たようなことが前にもあったなーって……」

 

「……もしかしてあの時かな、ALOのお団子……」

 

「ああ、そうだな。あのときの木綿季も慌てふためいて見てて面白かったぞ?」

 

 

 くすくすと笑いながらこの状況を楽しんでいる和人に、木綿季は顔を赤くしてぷくーっと頬を膨らませ、若干不機嫌になっていた。和人は木綿季に機嫌を損ねられたら叶わないため「悪い悪い」と言いながらその場を取り繕っていた。木綿季も「しょうがないなあ……」と恥ずかしそうに頬を赤く染めながら再びソフトクリームへと口をつけていた。

 

 川越の寒空の下で食べるソフトクリームは冷たかったが、和人と木綿季は心の中が温かくなっていくのを感じていた。二人は無言でソフトクリームを食べ続け、コーンの部分まで平らげると、残った紙屑を丸めて近くのごみ箱へ捨て、ベンチから立ち上がり、手を繋いで再び家路へとついていった。

 

 

「……帰るか、木綿季」

 

「うん、帰ろ、和人」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




 
 ご観覧ありがとうございます。ほっこりするような57話だったと思います。Twitterでも呟いたんですが、木綿季をごく普通の日常生活を送らせてあげられてることに幸せを感じます。このまま彼女にも生涯幸せを掴みづつけていってほしいですね。

 そして年内最後ということで、記念イラストをお書きいたしました。MHP3よりユクモ装備を身に纏ったユウキを置いておきます。自分で描いておいてなんですが、すっごい似合いますね……ユウキにユクモってw

 それではまた来年お会いいたしましょう、2017年も筆者とユウキ、そしてボク意味をよろしくお願いいたします。よいお年を……。
 
 

【挿絵表示】

 
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。