ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 こんばんは、活動報告でも話をさせていただきましたが、ボク意味のUA数が100.000を突破いたしました。ありがとうございます、まことにありがとうございます。

 ボク意味本編の投稿が遅れておりますのは、リアルの事情もありますが、近頃はお絵かきや、隠れて書いてるオーディナル・スケール編に力を入れてることもあります。

 まあともかくとして、幻の銃弾(ファントムバレット)編第2話、お楽しみください。
 


第64話~女の子~

 

 西暦2026年 11月15日 (日) 午後12:30

 東京都千代田区外神田 秋葉原 メイド喫茶『メイドドリーミング』

 

 

「おかえりなさいませ! ご主人様!」

 

「…………え?」

 

 和人と木綿季はお昼ご飯を食べるため、今や秋葉原の風物詩ともなり、この街のいたるところに店を構えているメイド喫茶に足を運んでいた。

 

 椅子やテーブル、壁紙などは普通の飲食店と変わりがないが、メニュー表や灯り、そして何より接客する従業員が全員メイド服を身にまとっている店が、やはり一般の飲食店とは違う空気を漂わせている。

 

 お客の入店時にも「いらっしゃいませ」ではなく「おかえりなさいませ」と言いながら歓迎するのも、メイド喫茶ならではの挨拶だ。

 

 和人は過去一度だけ、このメイド喫茶に訪れている。木綿季も話しでこういうお店が存在するということは知っている。しかし、予想していなかった目の前の光景に、思わず驚きの声を上げてしまったのだ。

 

「やっほー! キリト君! 木綿季ちゃん!」

 

「よう、久しぶりだな」

 

 クリーム色のふわふわとしたロングヘアに、可愛らしいピンクのリボンがついた真っ白なヘッドドレス。手首にはフリル付きの白いレースリング。

 

 ブラウンのワンピースに大きなピンクのリボンとフリルがついた、真っ白いエプロンドレスのメイド服を着て姿を現したのは、今年行ったユウキのチャリティーライブに協力してくれた、セブンの実の姉でもある枳殻虹架ことレインであった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「本当にきてくれたんだ、嬉しいなー!」

 

「れ、レインってここで働いてたんだ……!」

 

 木綿季は右手にお盆を持ちながらニコニコ笑顔で接客している虹架の姿に驚いていた。彼女がメイド喫茶で働いているということは予め聞かされてはいたが、いざ実際に目にするとやはりびっくりするものがあったのだ。

 

 虹架は自分の髪の毛をふわりとなびかせながら早足で和人たちに近寄ると「二名様ごあんなーい♪」と店内に声を響き渡らせて、二人の背中を押しながら半ば強引に席まで案内した。

 相変わらずの若干の強引さに苦笑いを浮かべつつも、流されるまま和人は入口から一番遠い席に腰を落ち着けていた。

 一方で木綿季は何がなんだか、といった様子だったが始めて訪れるメイド喫茶に心を躍らせていた。

 

 虹架以外にもショートヘアやポニーテールなど色々なヘアスタイル、色々なカラーリングのメイド服に身をまとって仕事をしている光景は、それはそれは木綿季にとっては見ていて楽しくなるものだった。

 

「みんな可愛いねー!」

 

「もちろん! 当店自慢のメイドたちですから!」

 

 虹架の働いている店はお昼ご飯時もあってそこそこのお客さんで賑わっており、女の子目的できたお客や、秋葉原観光目的で立ち寄ったと思われる外国人の姿もあった。

 

 どこのメイド店員も普通の接客とは違い、言ってしまえば「萌え」というものを連想させる仕草をところどころに挟んでいる。多分、これもそういう指導を受けてきたのだろう。

 こういったのも、メイド喫茶ならではだ。

 

「あはは、レインも元気そうで何よりだよ」

 

「うん、お陰様でね♪」

 

 七色・アルシャービンことセブンとの姉妹コンサートツアーに忙しい虹架ことレインであったが、歌の仕事がない時はこうしてメイドの仕事に精を出している。

 多忙な日々を送る彼女であったが、メイド業と歌活動、どちらも虹架にとっては捨てられないものであったのだ。

 

 確かに毎日が忙しくて、疲れているのも事実だ。しかしそれ以上に充実している。大好きな夢を二つも叶えることができて、むしろ幸せを感じているぐらいだ。

 

 これも自分と七色を助けてくれたキリトのおかげ、彼と出会わなければ七色と再開出来なかっただろうし、アイドルになるという自分の夢も叶わなかっただろう。

 

「キリト君にはすっごく感謝してるんだ、君のおかげで七色とも再開出来たし、やりたい仕事を二つも続けられてるんだからね♪」

 

「お、俺はただほっとけなかっただけで……」

 

 いちいちあざとく、可愛いらしい仕草をする虹架の態度に、恋人が居るというのにもかかわらず、和人は頬を赤らめて視線を逸らしていた。

 そんな和人の態度にちょっとだけヤキモチを妬いた木綿季は、少しだけ不満そうにぷくーっと顔を膨らませて彼の顔に視線を送りつけていた。

 

「かずとー、ボクお腹すいたー!」

 

 空腹も相まって虫の居所が悪くなり始めた木綿季は、両手両足を子供っぽくばたばたとさせて和人に訴えていた。

 

 その様子を虹架はクスクスと笑みを浮かべながら、お盆から水の入ったグラスを一つずつ丁寧にテーブルに並べ、注文を取るべく小さいバインダーとボールペンを傍らのポケットから取り出した。

 

「ふふふ、木綿季ちゃんもそう言ってるし、ご注文をお伺いします♪」

 

「わーい! 何にしようかなー!」

 

 和人と木綿季はテーブルの中央のメニューファイルスタンドからメニューを手に取り、パラパラとページをめくりながら自分の食べたいものを探していた。

 普通のレストランとは一風変わった、メイド喫茶ならではの楽しい料理のラインナップに、木綿季は目を輝かせている。

 

 オリジナル文字を書いてもらえる定番のオムライス。特性シナモンが入ったフレンチトースト。当店オーナー自慢の豆を使ったオリジナル珈琲。

 

 じっくりコトコト煮込んだ超本格派ミートソーススパゲティなど、ここでしか食べられないようなメニューから、手の込んだ食べ物まで様々だ。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様ー!」

 

「ん……お客さんか」

 

 注文待ちしている虹架が新たなお客の来店に挨拶を響かせた。なんとなく和人も虹架と同じ方向に視線を送ってみると、そこには驚くべき光景が飛び込んできた。

 

「こんにちはレイン。言われたとおり来てたげたわよ?」

 

「お、お邪魔しまあす……?」

 

「あーっ!」

 

 新たな二人組のお客の来店に、和人はおろか木綿季も椅子から立ち上がって驚きの声を上げていた。

 

 その声のボリュームに、一時的に周りのお客からの視線が集まると「しまった」と思ったのか、木綿季は思わず自分の口に手を当てて目線をあちらこちらにやっていた。

 

「ゆ、木綿季……周りのお客さんに迷惑だろ」

 

「ご、ごめんなさい……、で……でも何でー?」

 

「それはこっちのセリフよ、何でキリトたちがここにいるのよ?」

 

「や、やあ……久しぶり、和人に木綿季ちゃん」

 

 店の入口のドアを開けて入店してきたのは、先程までゲームセンターのクレーンゲームに大量投資していた恭二と、その相方の詩乃であった。

 というのも、詩乃たちも虹架に是非今度お店に遊びに来てねと割引券を渡されていたのだ。

 

 割引だのサービスだの言ってはいるが、結局は売上に貢献してねという、営業でもあった。商売に熱心な虹架のたくましさに、和人たちは揃いも揃って脱帽であった。

 

 やがて思わぬところで再会を果たした和人たちは、折角みんないるのだからと同じテーブルで食事を取ることにした。

 

 二人用のテーブルから四人用のテーブルへと席を移し、持っていた鞄などの荷物を椅子の傍らに置き、ゆっくりと椅子に腰を落ち着けていた。

 

 

――――――

 

 

「ふう……」

 

「えっと、彼女が詩乃のお友達なのかい?」

 

「ええ、この娘がそうよ」

 

 詩乃に自分のことを紹介されると、虹架はすかさず営業スマイル&上半身を斜めに傾かせ、ウィンクをしながらあざとい仕草で恭二を誘惑していた。

 

 虹架本人にその気はないのだろうが、この仕草だけで何人のお客のハートが奪われたことか。

 歌も上手く、容姿も完璧、人当たりもよく、家族の面倒みもいい。これでアイドルだというのだから、たまったものではない。

 

「あ、え、えっと……詩乃と同じ学校だった、新川恭二です! よ、よろしく……」

 

「恭二君、顔が赤いわよ……」

 

 不機嫌そうな視線を送りながら、水の入ったグラスに口をつけた詩乃に言われると、恭二は冷や汗をかきながらたじろいてしまい、慌てた様子で「ち、違うんだ」と弁解をしていた。

 

 傍から見るともうすっかり恋人関係の二人に見えるが、未だにこの二人は互いに想いを伝えていない。

 

 告白する一歩手前まではいったのだが、あと一歩というところで勇気が足らずに話がそれてしまっていたり、素っ頓狂なことを言ってしまったりと、奇妙な形のすれ違いが生まれていたのだ。

 

 しかし、今はそれでもいいのかもしれない。互いに好きだという気持ちは変わっていないし、詩乃も恭二の気持ちに、恭二も詩乃の気持ちに薄々と気付いている。

 自分が相手にどんな目で見られているか、どのような視線を送られているか、わかってはいるのだ。

 

 ただ、互いにちょっと素直になれないだけで、二人共お互いを大切に思っている。この問題は、やがて時間の流れが解決してくれることだろう。

 

 そう、どんなに時間がかかったとしても……。

 

「え!? えっと……あ、あはは……」

 

「おやおや~? シノンちゃんってばヤキモチかな~?」

 

「ちょっ……、な、何でそうなるのよ!」

 

「だってシノンちゃん、顔怖いもんー!」

 

 虹架にそう言われると、詩乃は慌てて自分の鞄から手鏡を取り出して、自分の表情を確認していた。

 ちょっと引きつってはいるかもしれないが、特別怒っているわけではないはずだ。確かに普段から自分は気難しい表情をしている自覚はある。

 だからといって、常日頃からそんな露骨に不機嫌なオーラを表に出してはいないはずだ。

 

「あはは! 嘘だよシノンちゃん! シノンちゃんも弄り甲斐があるね、あははは!」

 

 まんまといっぱい食わされた詩乃は、顔を真っ赤にして虹架を睨みつけていた。明日奈といい和人といい、そしてこの目の前の虹架といい、何でこうも自分をこんなにからかってくるのだろう。

 すっかり丸め込まれてしまった詩乃は俯いて、顔をむすっと赤くしたままテーブルのメニュー表を手に取っていた。

 

「ちゅ、注文よ! レイン!」

 

「はいはーい♪」

 

 眉間にしわを寄せた詩乃が完全にこの場の流れを作ってしまっていた。しかしいろんな人の接客の経験がある虹架は、これぐらいで自分のペースを乱さない。

 

 商売上、ここの店にはいろんな人が来る。怒りっぽい人、おどおどした人、ただ単に寂しくてメイドさんとお話したい人、そして困ったことにお触りをしてくる人など様々だ。

 

 そんな人たちからすれば、今回の詩乃のこの態度も可愛いものだ。友達同士ということも相まって、詩乃は虹架の格好のおもちゃになってしまっている。

 しかしそれも、傍らに恭二という男の子がいる所為もあるだろう。

 

「えっと、シノンちゃんたちは以上で?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

 それほど多く食べない詩乃が注文したのはこの店自慢のミートソーススパゲティにレモンティー。恭二はふんわり卵のオムライスとメロンソーダを注文した。

 

「キリト君たちはー?」

 

「俺は……このオリジナルカレーライスとコーラにしようかな」

 

「はいはーい♪ ありがとうございまーす♪」

 

 注文が来るたびに、レインは嬉しそうに手元の注文表にボールペンでメニューを書き加えていった。

 

 その笑顔には友達に見せる笑顔とは別に「売上に貢献してくれてありがとう」「私の給料のためにありがとう」といっているようにも見えてしまう。

 

「木綿季は?」

 

「え、えっと……」

 

 和人ら三人はすぱっとメニューを決めることが出来たのだが、木綿季だけは未だにどれを食べようか頭を抱えている。

 メニュー表に乗っている料理の写真はどれも見ているだけで楽しく、そして美味しそうに見えてしまっていて、それが木綿季を悩ませていたのだ。

 

 どれもこれも美味しそうだし楽しそう、一体ボクはどれを注文したらいいんだろう、ボクのお腹は今一体何腹なんだ?

 と、どこかのグルメドラマで聞いたことがあるようなことを思い浮かべつつも、木綿季はメニュー表を真剣な眼差しで見つめながら迷い続けていた。

 

「うー、どれ頼もうか悩んじゃうよー……」

 

「なら食べたいもの片っ端から頼めばいいんじゃないか?」

 

「えっ」

 

 和人の言う食べたいものを片っ端からというのは、文字通り片っ端からという意味だ。普通の人より多く食べる和人だが、その恋人である木綿季もそれはそれはものすごい量を食べる。

 

 普段の食事も和人からおかずを拝借したり、三時のおやつもしっかり食べて、晩ご飯をたらふく食べてもまだ満足いっていない、といった様子だ。

 

 いくら育ち盛りで新陳代謝がいいといっても、この小さい体にどうやってそんな大量の食べ物が収まるというのだろうか。

 それとも、三年間に渡り現実世界で食べられなかった分を体が、胃袋が、食欲が求めているのだとでもいうのだろうか? 全く不思議なことである。

 

「お前のことだ、一品二品ぐらいじゃ満足しないだろ?」

 

「えっと、それはそうだけどさ、いいの……?」

 

「俺は構わないよ。むしろ、腹いっぱい食べてくれよ」

 

 先程スカイツリーでプレゼントをもらったばかりだというのに、今度はお腹いっぱいになるまで食べていいという。

 

 木綿季は若干いたたまれなくなりつつも、自分の心の奥底から溢れ出てくる食欲に勝つことができずに、和人のお言葉に甘えることにし、虹架に次々と自分の食べたいものの注文を述べていった。

 

「え、えっと……、い、以上で……よろしいですか?」

 

 注文を受ければ受けるほど嬉しいお店側の人間である虹架も、その膨大な量の注文に若干顔を引きつらせていた。

 

「ああ、頼むよレイン」

 

「ま、まああたしが作るわけじゃないからいいんだけど……、しょ、少々お待ちください~!」

 

 先程まで作っていた営業スマイルも曇っていくほどの焦りの様子を見せた虹架が、慌てた様子で厨房に注文を伝えに小走りで向かっていった。

 

 その様子を後ろから見ている木綿季は、注文を終えて少しだけ気持ちの余裕が出来たのか、いつも見せている笑顔を周りに振りまいていた。

 

「楽しみだなー♪」

 

「ちょ、ちょっとキリト、あんなに注文して大丈夫なの!?」

 

 呑気に水の入ったグラスに口をつけている和人に、詩乃は心配そうに声をかけている。すると和人は「大丈夫大丈夫、木綿季なら全部食べられるから」と余裕綽々といった立ち振る舞いだ。

 

 しかし何だろうか、和人はそれ以外にも何か非常に重要なことを忘れているような気がしてならなかった。

 はて、それは一体なんだったか……?

 

「大丈夫だよ、木綿季なら食べきれる」

 

「い、いや私が言いたいのはそうじゃなくて……」

 

「……?」

 

 詩乃が訴えているのは、木綿季が出された料理を残してしまうのではないかと、そういうことではなかった。

 先程、相方が目の前で大金を溶かしている様を見ていたこともあり、和人の懐の心配をしていたのだ。

 

「お、お金のことだよ和人……、木綿季ちゃんすっごく注文しまくってたけど、料金表ちゃんと見てた……?」

 

「……へ?」

 

 詩乃と恭二に諭された和人は、焦りの表情を浮かべながら慌てて手元のメニュー表に目をやっていた。

 

 恐らく普通の飲食店と同じ感覚で注文をしたのだろうが、ここはメイド喫茶だ。そこいらにあるレストランやカフェと比べても、一品あたりのメニューの値段が二倍も三倍も高い。

 

 メインメニューは平均1500円、サイドメニューは590円、ドリンクが390円とかなり割高だ。木綿季以外はメインメニューとドリンクを一品ずつなので、そこまで値が貼ることはない。

 

 しかし、木綿季の方がそうもいかなかった。

 

 木綿季が注文したのは、特製カレーライス、コトコト煮込んだビーフシチュー、ハートの形のハンバーグステーキ、スパゲティナポリタン、デミグラスソールのオムライス。

 

 大盛り焼きそば、フライの盛り合わせ。デザートにオリジナルジャンボパフェ、特製シナモンのフレンチトースト。

 そして飲み物はこだわりカフェラテとココア、アイスティーにレモンティーと大盤振る舞いだ。

 

 単純計算で木綿季の注文だけで一万円を軽く超えてしまう浪費となってしまっている。

 

 しかし奥にある厨房では、すでに調理が始められてしまっていた。今更取り消すこともできないし、何より男が一度口にしたことを撤回するなど、出来るはずがない。

 それに恋人の前で大口を叩いたのだ、引き返せるわけがなかった。

 

「……あは、あはは……」

 

「アンタ……、バカでしょ……」

 

「え、えっと……和人、ゴチになるね……?」

 

「……で、デジャヴだ……」

 

 和人は今年の一月、木綿季と仮想世界で一緒に食事したときのことを思い出していた。

 あの時の確かそうだ、ユウキがやたらと割高なレストラン風のカフェで注文しまくった結果、74000ユルドものお金を一晩の食事で溶かしたのだ。

 

 その反省点を、今回全く活かせていなかったのだ。

 

「き、キリト、少しなら私が出そうか……?」

 

「い、いや大丈夫だよ……、これは俺たち家族の問題だからさ、あは、あははは……」

 

「だ、だって……和人がいっぱい頼んでいいって言ったから……」

 

 度が過ぎた注文をしてしまった木綿季も、若干の反省の色を見せていたが、そもそも許可を出したのは和人。木綿季の食欲のことと、メイド喫茶のメニューの割高具合を懸念していなかった彼に落ち度があるといえよう。

 元々木綿季の食欲を知っていた詩乃と恭二も、木綿季の注文料に驚きを隠せないでいた。

 

「き、キリト君ごめんね、ちょっといいかな?」

 

「ん、どうしたレイン?」

 

 厨房の奥から、レインが少しだけ慌てた様子でお盆を片手に和人たちのテーブルに歩み寄ってきた。

 気が付くと店内は休日の昼ということもあり、お客さんでごった返している。

 

「ちょっとお客さんが増えてきたのと、木綿季ちゃんの注文がすごいこともあって、調理が遅れちゃってるんだ……」

 

「あらら、そうなのか」

 

「そりゃそうよ……」

 

 詩乃が呆れた様子で頭を抱えていた。

 当然だ、飲食店の書き入れ時でもある日曜のこの時間、ましてや観光客で溢れかえるこの秋葉原の名物であるメイド喫茶だ。

 当然お客さんは溢れかえるし、先の木綿季の膨大な量の注文もあり店内は大変に、主に厨房の方が慌ただしくなっていた。

 

「だから料理が運ばれてくるのがちょっと遅れちゃうんだけど、いいかな?」

 

「んー、なら仕方ないな。木綿季もいいか?」

 

「ボクもへーきだよ! って元はといえばボクの注文だろうし……」

 

「ごめんねー、ご協力感謝します!」

 

 虹架は和人たちに事の状況を説明すると、テーブルを離れて同じように店内で料理が運ばれてくるのを待っている、他のお客に丁寧に説明して回っていた。

 

 あくまでも相手はお客、接客業であることに変わりはないので心身丁寧な態度を心がけながらわかりやすいように説明をする。

 

 幸いにもこの混雑状況に文句を言うような輩はいなかったようで、全てのお客に説明を終えた虹架は一時的にやることがなくなったのか、再び和人達の座っているテーブルに向かって歩み寄ってきた。

 

「お疲れ様、レイン」

 

「大変だねー、接客って……」

 

 和人と木綿季が必死に仕事をこなしている虹架に労いの言葉をかけると、片手に水の入ったピッチャーを持ち、和人たちのグラスに一つ一つ丁寧に注いでいった。

 

 少しずつ傾けたピッチャーから水が滴り落ち、コポポポという心地よい水の音と共にグラスに水が注がれていく。

 

 このお客のグラスに水を注ぐときも、入念な教育が施されている。失礼のない角度、失礼のない注ぎ方、言葉遣い等々、接客対応一つとっても最大限のサービスが求められる。

 

「そうでもないよ? やっててすっごく楽しいもん。いろんなお客さんも見れるし。あたしは天職だと思ってるよ♪」

 

「あはは、そうだな。確かに歌ってるときのレインと同じように、すっごく楽しそうだもんな」

 

「えっへへー、まあね♪」

 

 好きなことを生業として続けていくというのは考えているよりも難しいことだ。趣味は自分の好きな時に出来るが、それを仕事としてとなると、そうもいかない。

 

 どうしてもそれをやり続けて(・・・・・)いかないと(・・・・・)いけなくなる(・・・・・・)

 

 そうすると話は変わってきてしまう。趣味とはたまにやるから趣味なのだ。仕事にして、常に付き合うようになると見方が変わってしまい、逆に嫌いになってしまうことも珍しくない。

 

 好きなことを仕事にするという夢を叶えることも難しいが、それを持続させていくということは、もっともっと難しいのだ。

 

 しかしレインは歌とメイド、二つの仕事を嫌な顔をすることなくこなし続けている。長年憧れていたということもあったが、彼女もまた木綿季と同じように、自分のやりたいことに全力でぶつかっているだけなのだろう。

 

 そして、大変だけどそれが本当に心の底から楽しいと思えているからこそ、苦にならずに続けていられるのだろう。

 

「あ、そうだ!」

 

「……ん?」

 

 レインは突如として、何かを思い出したかのように肘で抱え、両手をパァンと目の前で鳴らすと木綿季と詩乃の体をまじまじと見つめ始めた。

 

 肩から胸、脇腹から腰にかけてまでじっくり舐め回すように見ると、虹架はまたもや顔をにやつかせ、そのいやらしい視線を木綿季と詩乃に送っていた。

 

「え、えっと……何? レイン」

 

「おっさんくさいわよ、アンタ……」

 

 ひとしきり二人の体を見回した虹架は、自身の顎に親指と人差し指を当てて、真剣な表情で何かを考え込んでいた。

 そしてその表情はまたニマァっと歪み、いけないことを考えている、といった顔になっていった。

 

「ねえ木綿季ちゃん、シノンちゃん。メイド服、着てみない?」

 

「えっ!?」

 

「め、メイド服……!?」

 

「うん、うちのお店ね、女の子限定で有料でメイド服試着なんてのもやってるの」

 

 虹架はそう言いながら、テーブルの中央に置かれているメニュー表をひょいと手に取り、ページの一番最後に書かれているメイド服試着サービスの欄を広げて見せて回った。

 

 そのページにはさまざまな種類のメイド服とその料金が書かれていた。女性客限定で30分間300円でメイド服を着られるサービスだ。

 メイド服は赤、水色、黄色などお好みで選べる様々な豊富なカラーバリエーション。

 

 種類も数多くあり、スカートの丈が短いパティシエメイド服。メイド服といえばこれ、スタンダードな形のロングスカートランチェスターメイド服。

 

 一際目立つフリルとゴスロリチックなチェック柄が特徴のギンガムチェックsジャンティルメイド服など、全てのメイド好きのニーズに応えられそうなラインナップが取り揃っていた。

 

「普通なら有料なんだけど、木綿季ちゃんがたくさん注文してくれたから、今回は無料で貸し出すよ!」

 

「え、えっと……それをボクたちが着るの……?」

 

「わ、私はいやよ!!」

 

 木綿季と頬を赤く染め上げながらメイド服の一覧を見つめている。詩乃は詩乃で絶対にそんなものは着ないと、断固拒否の姿勢を崩さなかった。

 メイド服を着るのにあまり肯定的でない木綿季たちに「二人共可愛いのにー」と虹架は残念そうな表情を見せていた。

 

「でも、メイド服なんて着る機会なかなかないよ?」

 

「うう、確かにそうだけど……は、恥ずかしいしよぅ……」

 

「でも、キリト君たちはメイド服、期待してるみたいだよ?」

 

 虹架が木綿季たちに、男の子達の顔を見てごらんよと促すと、和人は木綿季を、恭二は詩乃の顔を照れくさそうに、そしてちょっと期待に胸をふくらませていそうな表情で見つめていた。

 

 やっぱりなんだかんだ言って、和人も恭二も男の子なのだ。二人は木綿季と詩乃に見つめ返されると、それを誤魔化すかのように手元のグラスを手に取り、ゴクゴクと音を立てて水を飲み始めた。

 

「…………」

 

 その後少しの間だけ、無言の時間が流れていた。店の中に設置されたスピーカーから流れるファンシーな音楽と、他のお客さんの話し声、厨房から聞こえる調理の音だけが響き渡っている。

 

 やがて、木綿季は何か思い立ったのか、両手を膝の上に当てて、もじもじと照れくさそうにしながら和人にとあることを聞いてみた。

 

「か、和人は……ボクのメイド姿、見たい……の?」

 

「えっ……」

 

 木綿季の照れくささがうつったのか、和人も彼女に聞かれた途端にしどろもどろになり、どう答えを返したらいいのかと考えていた。

 

 まあ率直に言ってしまうと、和人も恭二も「見たい」のだ。自分の好きな女の子のメイド姿だ。見たくないはずがない、それが男というものだ。

 

「きょ、恭二君も……?」

 

 木綿季と詩乃から聞かれると、和人と恭二は恥ずかしそうに無言で首を縦に降っていた。

 折角無料なのだから、もったいないのだから、こうして好意でサービスを提供してくれるのだから、むしろこっちも応えないといけないだろう。

 

 といったこと正論などは全くなく、二人共ただ単純に下心から来る肯定の返事だった。

 

「えっと……和人が見たいなら、ボクは……いいよ?」

 

 先程よりもさらに顔を赤くして、木綿季が恥ずかしそうに俯いていた。好きな人のためとは言え、普段とは全く違う服装に着替えるというのは、かなり度胸がいる行為だ。それもメイド服はただでさえ注目を集める。

 

「シノンちゃんはー?」

 

 木綿季は着るみたいだけどあなたはどうするの? と言わんばかりに最後の砦を築きあげている詩乃に虹架が詰め寄っていた。

 詩乃は頑なにここにいる誰とも目線を合わせようとせずに、ひたすらに俯いて視線を泳がせている。私だけは絶対に着ない、誰がなんと言おうと着てなるものですかと、体全体で態度で表していた。

 

「ここまできたら着るしかないよー♪」

 

 虹架は詩乃の最後の牙城を崩すべく、こんなに可愛いのが着れるんだよ、みんなにちやほやされるんだよーと、詩乃に対してメイド服の魅力をこれみよがしに話して聞かせていた。

 

 すでにこのテーブルは、もう着るしかないといった空気に包まれていた。和人は木綿季のメイド姿を見たがっているし、木綿季も彼が喜ぶのならと前向きだ。

 

 恭二もなんだかんだで詩乃の晴れ姿が見たいし、虹架もしつこく着よう着ようの一点張りであった。ここまで言い寄られては、一回決めたら中々意見を買えない詩乃も、折れざるを得ない。

 

 別に着て何かを失うわけでもなし、渋々詩乃もメイド服を着ることに賛同したのだった。

 

「わかったわよ、着ればいいんでしょ……」

 

「やったっ♪ さすがシノンちゃん♪」

 

「し、詩乃……」

 

「べ、別に進んで着るわけじゃないんだから! そそのかされて……仕方なく着てあげるんだからね!」

 

 詩乃はそう言い残し、不服ながらも木綿季と一緒に席から立ち上がり、虹架に案内されそのまま店のバックヤードへと姿を消していった。

 

 女の子三人がテーブルからいなくなったことにおり、ここには和人と恭二、二人だけが残る形となった。

 和人にとっても恭二にとっても、互いに数少ない同年代の男の子の友達だ。色々と積もる話はあるだろう。

 

「ず、随分騒がしい子だったね……」

 

「あれでもALOでは腕が立つプレイヤーなんだよ。腕前は俺と互角……ぐらいかな」

 

「え、本当に……?」

 

「ああ、しかも彼女はあの七色博士の実の姉だからな」

 

「え……ええぇぇ!?」

 

 和人の周りは一体どうなってるんだ、何でそんなに有名人とつながりがあるんだと、恭二は席を立ち上がり、眉をひそめて驚いていた。

 木綿季だけではあきたらず、幅広くいろんなところで女の子をたぶらかして、この天然たらしめ、と言葉にしたかったが、そっと心の中に仕舞っておいた。

 その代わりにと言わんばかりに、恭二は軽蔑の眼差しとも言える視線を和人に向けていた。

 

「…………」

 

「な、なんだよ……」

 

「いや、世の中不公平だなあって思ってさ……」

 

「何言ってるんだよ、恭二にも詩乃がいるじゃないか」

 

 俺には木綿季がいるように、恭二にも詩乃がいてくれる。そう言葉を投げかけられた恭二は、グラスに手を取り、水を一気に飲み干すと自分の今の詩乃との関係を和人に語りだした。

 

「えっとね、詩乃とは……あれから進展はないんだ」

 

「え……?」

 

「まだ互いに想いを伝えていない。ちゃんとした告白も出来てないんだ」

 

「う、嘘だろ……?」

 

 これだけ親しくしているのに、こうしてデートまでしているというのに、二人はあくまでもまだ付き合っていないという。その事実が和人には信じられなかった。

 

 しかし、告白というものは互いに気持ちがわかっているとしても、言葉にするのは難しいのだ。「好き」と二文字、たった二文字。この短い二文字を伝えるのには大変な勇気がいる。

 

 もしも断られたら、自分の思い違いだったらといった恐怖心の気持ちもあるため、中々その一歩は踏み込めないものなのだ。

 

「なあ恭二、君の気持ちもわかるよ。罪の意識があるばかりに……そっから先にいけないっての」

 

「……うん」

 

「でもさ、人を好きになるのって、そんなの関係ないと俺は思うけどな……」

 

「……え?」

 

 和人もグラスを手に取り、グッと水を一気に飲み干し、引き続き恭二の背中を押すべく、力強く安心させるように言葉を投げかけ続けた。

 

「肝心なのは、恭二がシノンを好き(・・)ってことだろ?」

 

「そ、そうなのかな……」

 

「そうだよ、だから……今度言ってみろよ」

 

「……そうだね、言うべき時が来たら、言うよ」

 

「ああ、吉報を待ってるぜ」

 

 和人が不敵な笑みを見せる中、恭二はそれに彼らしい爽やかな笑みで返す。彼が詩乃に想いを伝える、その一歩を踏み込む日は、いつになるのかはわからない。

 しかし、いつか必ず来るだろう。和人の言うとおり、彼が詩乃のことを好きだという気持ちに、嘘偽りはないのだから。

 

 

――――――

 

 

 和人と恭二がテーブルに残されてから15分ほど経過すると、虹架が大変にご機嫌な様子でバックヤードから姿を現し、それに続いて奥から見慣れない格好をした二人の女の子の姿が見えた。

 

 一人は紫に近い腰まで伸びたロングの髪の毛にピンと縦に伸びたヘッドドレスを被り、黒いワンピースにフリルのついた白いロングエプロン。

 正統派メイドと呼ぶのに相応しいロングスカートランチェスターメイド衣装を身にまとった木綿季が、照れくさそうにもじもじと指先をいじくりながら姿を現した。

 

 その木綿季に少し遅れて、胸の部分を大きく分け、膝の上までの丈のワンピース。ふりふりの白い可愛らしいエプロン。

 そしてなにより注目してしまうのが、腰周りに着けられた焦げ茶色のコルセットだ。これが詩乃のスタイルの良さを強調していた。

 

「あ、あんまりじろじろ見ないでよ……!」

 

「えへへ、和人……似合ってるかな……?」

 

「どう? あたしのチョイスは! 二人共可愛いでしょー!」

 

 普段着を脱ぎ、まるで別世界の人間のようなメイド服に身を包んだ二人の晴れ姿に、和人と恭二はすっかり釘付けになってしまっている。

 

 和人はこれまで以上に、木綿季の家族で、恋人でよかったと心の底から感じていた。

 恭二は恭二でこの時見た詩乃の姿を、一生忘れることはあるまい、と心の中で神に感謝の気持ちを送っていた。

 何度も言うが、やはり二人は男の子である。

 

「木綿季……その、すっごく可愛い……」

 

「え、えへへ……、あ、ありがと……!」

 

 和人は顔を赤らめながら、素直で彼らしい率直な感想を木綿季に送っていた。その言葉が嬉しくなった木綿季は照れくさいながらも満更ではない表情を浮かべていた。

 

「し、詩乃……」

 

 褒められてご機嫌な木綿季とは裏腹に、詩乃は少しだけ不機嫌な様子でそこに佇んでいた。

 乗り気じゃない上に、こんな恥ずかしい格好をさせられて、周りからの視線を集めてしまっている。

 彼女にとってこれ以上の恥じらいはないであろう。

 

「な、何も言ってくれないの? 恭二君……」

 

「え、えっと……、に、似合ってるよ? 可愛いと思う……」

 

「……もっと気の利いた言葉があるでしょう? ……でも、ありがと」

 

 口では悪態を吐きつつも、心の中では恭二の口から可愛いと言ってもらった事実が嬉しい詩乃であった。

 

 別に頼まれたから着ただけだ、私は決して乗り気ではない。でも恭二君が喜んでるのなら別にいい。などとツンデレのテンプレのような態度を取っていた詩乃だったが、その満更でもない気持ちは、和人の無粋な次の行動で覆された。

 

 ―カシャッ―

 

 突如として、この場にいる全員の耳に、何やらシャッターを切るようなサウンドエフェクトが響き渡っていた。

 音の出処は最初はわからなかったが、ほどなくしてすぐにその音の正体は判明した。

 

「……アンタ、何してんの?」

 

「え? い、いやあ……明日奈たちに見せてやろうかなーって……あははは……」

 

 シャッター音の元凶は和人であった。あろうことか恥ずかしい格好をした詩乃の写真を、明日奈や里香といったALOの仲間たちに送信しようとしていたのだ。

 和人は撮影したのがばれると、それすぐに保存し、自分の背後にスマホを隠し、何事もなかったかのように振舞っていた。

 

 が、しかしそれをやすやすと見逃すほど詩乃は甘くはない。表情も不機嫌というよりは、穏やかじゃなくなっており、獲物を摸るスナイパーのような鋭い眼へと変わっていった。

 

「恭二君、そいつ、取り押さえておいて……」

 

「わ、わかりましたっ」

 

 今の詩乃に逆らったら命が危ない、そう本能的に感じ取った恭二は豊富なミリタリー知識を活かした近接格闘術である「CQC」を和人に披露していた。

 

 和人も恭二がこんな強攻策に出てくるとは思っていなかったようで、油断していた所為もあり、あっさりと不覚を取ってしまっていた。

 

「きょ、恭二、は……放せ! 放すんだ!」

 

「……ごめんね和人、僕は詩乃には逆らえないんだ」

 

 今の僕には詩乃を止めることはできない、そう悟った恭二は、哀れむような視線を和人に向け、彼の身動きを完全に封じていた。

 

 無理に動こうとすれば痛みが発する。つまち恭二はそうしなければならないほどのの危機感を、詩乃から感じ取って行動に移していたのだ。

 

「覚悟しなさい? キリト……」

 

「ねえねえシノン♪ 何するの何するの?」

 

 詩乃の両手には、メイドが頭によくつけているヘッドドレスと、可愛らしいリボン、そしてキュートな猫耳バンドが握られている。

 

 その手に握られたアイテムを、木綿季が詩乃の傍らから実に楽しそうに目を輝かせて見つめている。木綿季もこういうのは大好きなのだ。

 

「このバカの頭にくっつけてやるのよ、手伝ってくれないかしら? 木綿季」

 

「ふふふ、ごめんね和人……♪」

 

 木綿季は詩乃の手から手始めに猫耳を受け取ると、にっこり笑顔を振りまきながら、ゆっくりと和人へと近づいていった。

 

 その笑顔は、今まで見た木綿季のどの笑顔よりも眩しく、そしてある種恐怖を植え付けるような戦慄を感じさせるような不気味さがあった。

 

 いつもは木綿季が寄り添ってくるのは大歓迎な和人であったが、今回ばかりは断固としてよって来て欲しくはなかった。南無阿弥陀仏。

 

「や、やめろシノン、木綿季、恭二! お、おいレイン! 見てないで止めてくれ!」

 

 すっかり周りが敵だらけとなってしまった和人は、最後に藁をも掴む思いで虹架に助け舟を求めると、一部始終を見ていた虹架はにっこりと和人に微笑み返していた。

 

「れ、レイン……」

 

「ごめんねキリト君♪ こんな面白そうなこと、止められるわけがないよ♪」

 

「なっ、れ……レイイィィン!?」

 

 詩乃の怒りを買ってしまった和人に、慈悲は全くなかった。

 もちろん写真はしっかりと削除され、その代わりに虹架、木綿季のスマホで和人のあられもない姿を、たくさん撮影されてしまったということは言うまでもない。

 

 以降、和人は二度と詩乃をからかうまいと、固く心に決意したのであった。

 

 




 
 ご覧いただき、ありがとうございます。例のデスなんとかさんの騒ぎはまだ微塵も見られませんね。今この楽しいやりとりが、嵐の前の静けさなのか、つかの間の平和というものなのか、それはこれから明らかになるでしょう。

 それでは、是非また次回。
 
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