ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 大変お待たせいたしました。今日の休日を活かして65話一気に書き上げました。
 漸くです、漸く幻の銃弾編、及びオーディナル・スケール編のシナリオが固まってきました。あとは体力と時間さえあれば書けると思います。
 この感覚を忘れないようにして、今後も活動できたらと思います。それでは65話、どうぞご覧ください♪
 


第65話~新川恭二~

 

 西暦2026年 11月15日 (日) 午後13:20

 東京都千代田区外神田 JR秋葉原駅前

 

 

「トホホ……」

 

「フン、自業自得よ」

 

 週末の観光客や買い物客で賑わっている電気街、秋葉原の駅前の入口で、和人が大きく肩を落として落ち込んでいた。

 周囲の道行く人々が和気あいあいとしている中、ただひとりだけ暗い雰囲気を漂わせている。

 

 メイド喫茶で詩乃と木綿季、そして虹架にされた仕打ちがそうとうメンタルに大きなダメージを与えていたようだ。

 あの後のことと言えば、よく言えば愉快、悪く言えば凄惨たるものだった。

 

 虹架が次から次へと、客へ貸し出すためのメイドグッズをバックヤードから持ち出し、片っ端から和人に装着させていったのだ。

 

 和人も最初は見苦しく抵抗を続けていたが四対一で勝てるはずがなく、早々に抵抗を諦め、なすがままにされ続けていたのだ。

 散々写メも撮られまくり、本人曰く心に大きくダメージを負ってしまったのだとか。

 

「でも和人、こう言っちゃなんだけど可愛かったよ?」

 

「言うな、むしろ黒歴史だ……」

 

「いいザマよ、ねえ恭二クン?」

 

「……え、あ、あぁ……えっと、ノーコメントで……」

 

「……覚えとけよ、恭二……」

 

 事の発端は自分だというのに、何故か和人は恨めしい視線を恭二に向けていた。女性陣にはどうあがいてもかないっこないと悟ったのか、数少ない男友達である恭二に矛先を変え、毒を吐き続けていた。

 

「あ、あはは……」

 

 和人からの恨めしい視線を感じながら恭二は「何で僕なんだよ」と心に思いながらも、頭をぽりぽりかきながら苦笑いを浮かべている。

 少し和人への対応が困っている恭二であったが、今こうしてやってる何の変哲もない友達同士でよくあるやりとりを、こういったことも悪くない、むしろ心地よいと感じている。

 

 以前までやっていたGGOでは和気あいあいどころか、殺伐としていた。スコードロン同士での殺し合い、アイテムの奪い合い。ステ振り、募るイライラ。

 かつて通っていた学校も学校で、楽しいことなどまるでなかった。陰口を叩かれ、物を隠され、殴られ、いじめられ続けて、いいことなど何もない。

 

 しかし、今はどうだ? 自分のまわりにはこれだけ僕と温かく接してくれる友達がこんなにもいてくれる。

 詩乃は僕を慕ってくれてるし、和人は意気の合う数少ない男の子の友達だ。その恋人の木綿季ちゃんも、快く元気に僕と接してくれている。

 

 多分あれだろう、今この時感じている感覚こそが「幸せ」というやつなんだろう。父さんからも、兄貴からも、このような気持ちを感じることなどなかった。

 

 ならば、今のこの関係をいつまでも大事にしていきたい。この一生の大切な人たちと、ずっとずっと笑い合っていきたい。それとも贅沢かな、こんなことを感じるのは。

 

「恭二君、どうしたの?」

 

 上の空気味に遠くを眺めながら物思いにふけっている恭二に、詩乃が気になって声をかけると「ううん、何でもないよ」と恭二が爽やかな笑顔で返していた。

 何を考えていたのか少し気になる詩乃であったが、恭二が楽しそうに笑ってるので、別にいいかと思っていた。

 

 詩乃も薄々感じてきているようだ。恭二自身が以前よりも明るく笑えることが出来るようになったことに。

 

 アインクラッド第76層からデス・ゲームに巻き込まれ、ふさぎ込んでいた自分の心が、少しずつ晴れやかになっていったあの時と同じように、恭二が明るくなっていくのが嬉しく思っていた。

 

 

――――――

 

 

 それから四人は一時間ほど行動を共にし、秋葉原の街を散策していった。

 

 レコードやカセットテープなどの骨董品や、かつて莫大な人気を誇ったアーティストのデビューマキシシングルやアルバムを扱っている中古レコードショップ。

 蓄音機、FMラジオ、アンプなどの昭和の時代に大活躍した電化製品の修理、買取、販売を受け持っている個人経営の電器店。

 

 かつてテレビが白黒時代から放映していたアニメから、つい最近のアニメまでのグッズを扱っているアニメグッズショップ。

 黄色、白、赤の三色のコンポジットケーブルをテレビに直接つないで遊ぶタイプのレトロゲームハードを取り扱っているゲームショップなど、秋葉原ならではのお店を転々としていた。

 

 そして道中、目的のPCショップにもたどり着くことができ、和人も昼食の出費で財布のHPを大きくえぐられながらも、なんとか帰りの電車賃を維持しつつ、当初の目的であるPCパーツを購入することができ、ほっと胸をなでおろしていた。

 

「ギリギリだ……、財布が」

 

「ご、ごめんね、和人……」

 

「い、いや大丈夫だ。気にするな、木綿季」

 

 口では大丈夫と言いつつも、微妙に顔が引きつってしまっている。まだ和人の貯金に蓄えはあるが、このペースで出費がかさみ続けると、すぐになくなってしまうだろう。

 木綿季の大食いをどうにかするか、何かバイトをして蓄えを増やさないといけない。

 

 学生ながらにして、早々に財政危機を抱えてしまってる和人は、今後の木綿季との生活が不安になってきていたが、すぐに考えるのをやめた。

 

 いま対策を講じたところですぐにどうこうなるものでないし、それを考えるのは家に帰ってからでも遅くはないだろうと、もやもやを抱えている今の自分を強引に納得させていた。

 

「あ、あそこだよ」

 

 恭二が声を発し、指さした方向を見てみると、そこにはショウウィンドゥにロボットやモデルガンが展示されているのが確認できた。

 

 いわゆる模型店というやつだ。子供でも簡単に作ることが出来るプラモデルや、パーツがやたらと多い玄人向けのガレージキット。

 

 そしてミリタリー好きにもたまらない片手に収まるサイズの拳銃から、両手をしっかり使って握るタイプのライフルタイプの銃まで、様々ま種類のモデルガンも扱っている。恭二がこの日一番に来たがっていた場所だ。

 

「恭二君も好きねぇ……」

 

「えへへ、伊達に元GGOプレイヤーじゃないからね」

 

「へぇー、ボク模型店なんて始めてだよー♪」

 

「俺もだ」

 

 和人と木綿季がショウウィンドゥの模型やモデルガンに目をやっていると「こっちだよ」と恭二が手招きしながら店の中へ誘導している。

 二人がそれに気付くとあとを追うように模型店の中へと足を運んでいった。

 

「おお、たくさんあるなぁ」

 

「すごーい!」

 

 二人が模型店の中に入ると、右手にプラモデルやガレージキットを扱う模型コーナー、左手にモデルガンやサバイバルゲーム用のグッズを売っている、ミリタリーコーナーが広がっていた。

 

 店内も狭くなく、しかしそれほど広くもないが、ゴチャゴチャしているといったわけではなく、巧みに店内のあらゆるスペースを、無駄なく使いきり設置された棚に様々な商品が陳列されている。

 

 客足はそれほど多いというわけではなく、マニアックな店ということもあってか、混雑はしていなかった。

 模型コーナーもミリタリーコーナーも、二十代から三十代の男性客が目立ち、それぞれが懐かしさ溢れる模型、油と埃臭いモデルガンを物色している。

 

 模型コーナーには、昭和四十年代から昭和末期まで活躍していたような、コテコテのデザインをした重厚感溢れるスーパーロボットの「超合金シリーズ」と言われる、値段が五桁も六桁もするプレミアがつけられている模型が目に入った。

 ボディのディティールにも拘りが見られ、表面のツヤやスーパーロボット特有の重厚感を見事に再現している。

 

 そしてその隣の棚には昔の大人から、現代の子供まで人気を保ち続けている宇宙を舞台とした、リアルロボットのお手頃な値段のプラモデルが何種類、何十種類と陳列されている。

 

 地球を悪から守る正義のロボットがスーパーロボットならば、こちらは人間同士の戦争がテーマになった作品のロボットが多い。

 相手の基地を攻め落としたり、作戦に沿ったコンセプトの機体が多く、ロボットというよりは兵器らしさを感じさせるものがほとんどだ。

 

「へぇ……父さんが好きそうなのがたくさんあるな」

 

「ボク、一度こういうの組み立ててみたかったんだよね♪」

 

「へぇ、意外だな?」

 

「こういうの見てるとワクワクしてきちゃって♪」

 

 そう言いながら木綿季は先程の超合金シリーズの「ダッカンロボ」の箱を手にとった。

 三機の戦闘機が一体のロボットに合体し、地底から攻めてきたドラゴン軍団と戦う、昭和のスーパーロボットの代表格の一つである作品だ。戦闘機の合体する順番で陸海空それぞれ得意とする地形があるのも特徴の一つだ。

 

「おれはこっちの方が好きだな」

 

「どれどれー?」

 

 和人が手に取ったのはロボットではなく、SLの模型だった。しかしただのSLではなく、銀河の星と星の間を旅するSF作品「宇宙鉄道555」に登場する全五両編成のSLの模型だ。

 

 いい年をした大人向けに作られていることもあり、列車の車両の内装も拘っており、大きさもそれなりにある。全部まともに組み立てると、全長1メートルを超えそうだ。

 

 値段も勿論宇宙級で今の和人が気軽に手を出せる価格ではなかった。値段の書かれている白いラベルに目を通すと、途端に和人の顔が引きつっていった。

 

「ま、また今度だな……」

 

「あはは、そうだね」

 

 和人と木綿季が様々な模型を見ている一方で、正反対のミリタリーコーナーでは、恭二が詩乃と一緒にモデルガンを物色していた。

 箱に包まれているものから、白い網のフックに引っかかって展示されているものまで陳列方法は様々で、この手のものが好きな人にとってはたまらない空間であろう。

 

「いいなあこれ、ほしいなあ……」

 

「でも高いわよ、私たちじゃとても買えないわよ……」

 

 恭二が目を奪われているのは彼がGGOや昔やっていたFPSゲームで愛用していたアサルトライフルの「FA-MAS」である。

 1978年から現代まで、フランス軍で長年愛用され続けてきたアサルトライフルだ。

 

 携帯性を重視しし、他のライフルと比べても軽く扱えるため、銃剣を装着して近接戦闘も行える死角がない兵器になっている。

 

 AGI特化ビルドである彼の、中距離で素早く動きながらアサルトライフルを撃ちまくり、近づかれたら銃剣で迎撃するといったスタイルは、このFA-MASあって確立されていたのだ。

 

 そして今彼が手にしているこのFA-MAS、普通のモデルガンと違い、重量と質感を限りなく本物のFA-MASに近づけ、再現性を高めた商品となっている。

 当然値段も高く、学生がほいほいと出せる価格ではない。

 

 恭二は右手でFA-MASのグリップを握り、人差し指をトリガーにかけ、反対側の左手を銃身のハンドガードに当て、GGOでいつもやっていた体制を作った。

 右目の視線をリアサイト越しの先に移し、完全に銃と一体化しようとしていた。

 

「……とと」

 

 一体化しようとしていたが、それは叶わなかった。重さも忠実に再現していたFA-MASの重量は、3.7キログラムにもなる。普段勉強漬けでそこまでスタミナがない恭二には、銃撃するための体制を維持するための持続力がなかった。

 

 普段使わない筋肉を使った恭二は大きく息を吐きながら、親父臭く肩のあたりに手を当て「やれやれ」と声を漏らしていた。たった三十秒ほど筋肉を使っただけで、もうすっかり息の根を上げてしまっている。

 

 勉強だけでなく、運動ももう少しやったほうが良いのではないかと、詩乃が心に思いながら適当なモデルガンを手に取っていた。

 

「少し運動したら? 恭二君……」

 

「たはは……、最近はサバゲーもしなくなっちゃったからね……」

 

「朝のランニングとかなら付き合うわよ? どうせ私達、家近いんだし」

 

「そ、そうだね、その時が来たらお願いしようかな」

 

 微妙に歯切れが悪い答えを返してきた恭二の態度から、詩乃はこりゃ当分運動する機会はないなと悟り始めていた。

 仮想世界ではあんなに機敏に動くのに、現実世界ではモデルガン一つ構えるのにも一苦労だ。

 

 半分その男らしくないところに呆れ、もう半分は恭二君らしいやとちょっとだけ安堵の気持ちも抱いていた。

 ちょっとだけ弱気なぐらいが彼らしくていい、むしろその分私がしっかりしていけばいいだけの話だ。

 

 詩乃はクスッと笑みをこぼしながら違う種類のモデルガンコーナーへと足を運んでいた。恭二もFA-MASを元の場所に戻し、ちょっとだけ名残惜しそうにしながら詩乃のあとを追いかけた。

 名残惜しくしても、FA-MASが買えないという事実には変わりないというのに、である。

 

 アサルトライフルコーナーから移動した二人はひとしきり大きい両手銃コーナーへと足を運んでいた。リボルバーやコルトといったハンドガンと違い、どっしりとした重量感溢れるデザインの銃が目立つ。

 

 狙撃銃スナイパーライフルや遠距離爆撃兵器ロケットランチャーなど、本当にサバイバルゲームで使うのかと言われるようなものまで様々だ。

 

 自分のスタイルの関係上、使う機会がないであろう武器の数々に、恭二も物珍しそうな視線を送っていた。

 中には自分の身の丈ほどの長さはあろうかというスナイパーライフルまである。

 

「もし詩乃がGGOに来てたらさ、やっぱりスナイパーライフルだったりするのかな」

 

「そうかもしれないわね。私は弓使いだし、長距離から相手を一方的に狙い撃てる武器がしっくりくるわ」

 

「あはは、なら……このあたり物色してみる?」

 

「そうしましょうか、買うかどうかは別として」

 

 詩乃はそう言いながら、一番手元にあったスナイパーライフルを手に取り、ミリタリー映画などでよく見る狙撃手の見よう見まねで構えてみせた。

 

 右手でトリガーを握り、左手で銃身を支え、左目でスコープを覗き込み、遠くにいる標的を狙い撃つかの如く、スナイパーライフルを構える。

 

「あってるのかしら? これで……」

 

「えっと、あってるんじゃないかな……?」

 

「でもなんかしっくりこないわね……」

 

「ははは、弓じゃなくて銃だもの」

 

「……それもそうね」

 

 そう言うと、詩乃は両手で抱えていたスナイパーライフルを棚に戻し、他の銃に目をやっていた。

 

 もし私がサバイバルゲームをやっていたら、恐らく狙撃手として、恭二君の援護に回っているのでしょうねと思いながら、もしかして将来手に取ることになるかもしれない相棒を探していた。

 

 プラスティック製のモデルガンなのでそこまで重量はなく、両手を使えば女の子でも扱えるようなものばかりだったが、それでも詩乃にしっくりくるような狙撃銃は中々見当たらなかった。

 

「まあ、そんな簡単に見つから……」

 

 長く、重量があるものから、比較的短く、軽めのものまで種類様々なスナイパーライフルが陳列されている棚の端っこに、一際彼女の心を揺さぶるような狙撃銃が置かれていた。

 

 ウルティマラティオシリーズ・PGM ヘカートII。全長138センチ、銃口12.7ミリ口径、装弾数7発、有効射程距離およそ2キロメートル。1994年、フランス軍によって開発され、こちらも現代にいたるまで運用されている現役狙撃兵器だ。

 

 元々は敵兵を狙撃するものではなく、長距離での破壊射撃、嫌がらせ射撃、カウンター狙撃などの運用方法を想定されて開発されたものだ。敵戦車や資材運搬ジープなどを破壊するために用いられている。

 

 そんなヘカートIIのモデルガンを、詩乃は穴のあくほど見つめていた。十八歳未満は購入が禁止されているものだったが、持つだけなら問題はないため、詩乃はそのまま両手で抱え、先程と同じように構えてみせた。

 

 恭二はその様を無言で傍らから見守っていた。

 なんだか、詩乃がへカートを構えている光景は不思議と様になっていた。まるで、詩乃と一緒にいるのが当たり前のような、そのような印象を受けた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 スコープを覗き込んでいる光景は、まるで周りの空気を凍てつかせ、彼女の冷静さを具現化させているような錯覚を覚える。

 その詩乃の放つスナイパー独特の、張り詰めた空気、獲物を狙い撃つための集中力。ただならぬ緊張感を、恭二だけでなく他の買い物客や店員も肌でピリピリと感じ取っていた。

 

「……いいわ、これ」

 

「なんか……すっごく似合ってるよ、詩乃」

 

 じっくりとへカートの感触を体全体で堪能した詩乃は、そっと元あった陳列棚の位置に、同じように陳列し直した。

 

 幼少期の時に起きた郵便局での事件以来、銃火器を見るとPTSDの症状が出てしまっていた詩乃であったが、恭二の必死の協力もあり、今ではご覧のとおりに見ても触っても平気なぐらいにまでなっている。

 

「これも恭二君のおかげよ、ありがとう……」

 

「え……い、いや……別に僕はそんな、あ、あはは……」

 

 表では大したことしてないと謙遜している恭二であったが、トラウマの克服というものはそう簡単に出来ることではない。心の奥底を深くえぐるような過去というものは、脳裏に焼き付いて離れない。

 

 とあるきっかけですぐに思い出し、手が震え、気分が悪くなり、呼吸困難に陥り、何も出来なくなる。

 擦り傷、切り傷といった外傷は跡が少し残っても時間が経てば確実に治る。しかし、心の傷というものは、時間の経過だけで簡単に治るものではない。

 

 トラウマのきっかけとなってしまった出来事や物に対して、正面から向き合えるぐらいの心が必要になる。

 勿論詩乃も例外ではない。

 

 しかし恭二が銃のこと、ミリタリーのことを心身丁寧に説明し、魅力を優しく少しずつ語り、教えていくことで、ちょっとずつではあるが、銃火器と向き合えることができるようになったのである。

 

「何かお礼をしないとね……」

 

「え、べ、別にいいよ……」

 

「クレーンゲームのお礼の意味もあるのよ。何がいいかしら?」

 

 詩乃が首に巻いてるマフラーを翻しながら、ほしいものがあったらなんでもいってと、手を伸ばしながら言葉をかけた。

 恭二も最初は遠慮していたが、折角詩乃が好意で言ってくれているのだから、断るのは失礼。

 

 ならばここは快くその好意を受けるというのが礼儀というものだ。第一、断ったところで詩乃は無理矢理にでも何かを買ってしまうことだろう。

 

「えっと、それじゃあ……ね、どうしようかな」

 

「あまり高いものはだめよ?」

 

「わ、わかってるって」

 

 とは言ったものの、特別何か買おうと思ってこの店に来たわけではない恭二は、何を選ぼうか考えていなかった。

 欲しいものがあるといえばあるが、どれもこれも大人用で十八歳未満は購入が禁止されているものばかりだ。

 

 この時点でかなり選択肢が狭まってしまっている。折角ミリタリーコーナーに足を運んだのだ。出来れば銃を買って帰りたい。

 

 しかし彼は拘りに拘りぬくミリタリー好きだ。安い値段のモデルガンで満足しようという妥協の心は持ち合わせていないし、そんな真似をしたらプレゼントしようとしてくれる詩乃にも失礼だ。

 

 つまりそれなりに高すぎず安すぎず、尚且つ思い出に残るものが好ましい。モデルガンではなく、ミリタリーに関するもので、だ。

 

(そ、そんな洒落たもの、ミリタリーにないぞ!?)

 

 当然の答えだ。軍事関係物を趣味にしたミリタリーに、ティーンズやセレブが喜びそうなイメージの、きらきらとして思い出に残るような洒落たものがあるはずがない。

 

 むしろ宝石やアクセサリーと違い、血と土と油や埃、炎の匂いしかしないだろう。それがミリタリーというものだ。

 

「ねえ、何かないの? ほしいモノ」

 

「え、えっと……」

 

 詩乃にずいずいとせまられると、恭二は冷や汗をかきながらも欲しいモノがないかと店内を物色し続けた。

 銃がダメなら、そのほかのミリタリーグッズでそれっぽいものをチョイスするしかない。

 

 どうする、何かいいものはないか。サバゲーで使うウェアか? グローブか? それともバックパック?

 いやいやいや、そんなもののどこにお洒落だとかロマンチックなものがあるというのだ。

 

 じゃ、じゃあステッカーはどうだろう、あれなら少しはお洒落とかにならないだろうか?

 いやだめだ、デザインがそもそも毒蛇だとか髑髏だとかで、おどろおどろしいものばっかりだ。

 

 

 ――あ、あれ? というより、何で僕は僕の欲しいものに、こんなに頭を悩ませているんだ?

 

 

 子供の頃からミリタリーと学問漬けな恭二には、女心だとかこういう買い物のセンスだとかいうのは到底わからないものだった。

 

 そのあともしばらく頭を抱えながら店内を見て回ったが、普通の人や女の子と比べても見えている角度が違う為か、ろくにいいものが見つかるということはなかった。

 

「……何もないの? 恭二君……」

 

「……えっと、ごめん……何も思い浮かばない……」

 

「はぁ……困ったものね……」

 

 頭に手を当てて苦笑いを浮かべてその場を取り繕うとしている恭二の姿に、詩乃は呆れたのか溜め息を吐き出していた。

 

 こうなったら私が選ぶしかないかなと、重い腰を上げるように、今度は女の子の視点として、今いるミリタリーコーナーの売り場を見て回ってみた。

 

 恭二君は確かに勉強は出来るかもしれない。でも人が何をすればよろこんでもらえるかというところのツボ(・・)がまるでわかっていない。

 

 社会勉強というわけではないが、こういうときはこういうものを選ぶんだよということを、実際に選んでみせて勉強していってもらおう。

 すると詩乃はミリタリーコーナーの隅っこにある、アクセサリー売り場にまっすぐ足を運んでいった。

 

 実はここ、先程一度恭二も通りかかったところなのだが、戦争にお洒落なんて必要ない。生きるか死ぬか決まるまで戦い続ける、それが軍人というものだと、頑固な上官のように、中年男性のように、華麗にこのコーナーをスルー気味に通り抜けてしまったというわけだ。

 

 色々とずれている恭二を尻目に、詩乃は何かプレゼントできそうなものはないかと棚を物色し始めた。

 別にそこまで洒落たものじゃなくてもいい。身につけて恭二君にぴったりと似合うものをあげられるのであれば、それで構わない。

 

 そう思いながら商品棚と、アクセサリーの類のものがぶら下げられている網棚に目をやり、一つ一つ、ビニール製のパッケージ袋に包まれた商品を手に取っていく。

 

(ミリタリーバッジか……、この中ではお洒落な方だと思うけど、恭二君にはちょっと似合わないかな)

 

 顎に指を当て、首を斜めにしながら考えていた詩乃は、商品をフックに戻し、その左隣にあるグッズに目をやった。

 銀色のステンレス製のボールチェーンにくくりつけられ、同じステンレスで出来た銀色の金属の板のようなもの。

 

 その板には何やら英字とアラビア数字で文字が刻されており、種類によって様々な色と違う文字が刻印されたものがある。

 そう、軍人が戦死したとき、個人の特定と識別が不可能なほどに死体が損壊していたとき、その識別を可能にするためにぶらさげている「ドックタグ」だ。

 

 詩乃は数あるドックタグの中から、縦6センチ、幅3センチ、厚さ3ミリほどの、何も刻印されてない無地のカーキ色をしたものを手に取り、恭二の方を振り向いて「これなんかどうかしら」と提示してみせた。

 

 恭二は詩乃からドックタグを手渡されると、顔の目の前でぶら下げて、まじまじとそれを見つめていた。

 

「ドックタグ……か」

 

「そうよ、悪くないんじゃない?」

 

「あはは、確かに僕らしいっちゃ僕らしい……かな?」

 

「それじゃあ決まりね、ちょっと待ってて」

 

 詩乃はそう言うと、恭二から再びドックタグを受け取り、そのまま店の奥にあるレジカウンターへと足を運んだ。

 

 カウンターで待機していた店員は詩乃から商品であるドックタグを受け取ると、バーコードをスキャンするとともに「文字や数字が刻印出来ますがいかがなさいますか?」と質問してきた。

 

 詩乃はそう聞かれるのがわかっていたかのように「お願いします」と応え、店員から紙のようなものを受け取り、それに何やら立てつけられているボールペンで書き込んでいった。

 

 数歩離れたところからその様子を見つめている恭二も、大体察しがつきつつも、何しているんだろうと首をかしげている。

 やがて会計を先に済ませた詩乃はドックタグと紙を店員に手渡し、レシートと整理券を受け取り、そのまますぐ近くにあるサービスカウンターへと足を運んでいった。

 

 それから五分ほど時間が経過し、先程詩乃が買ったドックタグを店員がカウンターの奥から持ってきて、整理券と交換する形で詩乃に手渡した。

 

 ドックタグに刻印された文字を確認すると、出来栄えに満足したのか詩乃は笑顔になり、軽く店員に会釈をすると、先程から同じ場所で一歩も動いていない恭二のもとへと戻ってきた。

 

「おまたせ、恭二君」

 

「ううん、それにしても時間かかってたね?」

 

「ええ、ちょっとね。……はい、これ」

 

 詩乃にドックタグを差し出されると、恭二は「う、うん」と返事を返しながらそれを両手で受け取った。

 そして先程までは無地で真っ平らだったドックタグの、表面に刻印されている文字をまじまじと見つめていた。

 

 上から下まで五行分刻印出来るそのドックタグには上からこう刻されていた。

 

 To Spiegel.

 Fro Shinon

 2026.11.15.SUN

 

「え、えっと……こ、これは……」

 

「何よ、気に入らないっての?」

 

「い、いや……そんなことないよ」

 

 慣れない自分へのプレゼントと、ドックタグに刻された内容に恭二はどぎまぎしてしまっていた。

 ALOのときもそうだったが、どうも人からものをもらうという行為に未だに慣れない。

 

 嬉しくないということはないのだが、照れくさいというか、背中がムズ痒いというか、歯が浮つくというか、そのような感覚を覚えてしまうのだ。

 

「なら、もっと喜びなさいよ……」

 

「う、うん。そ……その、ありがとう……」

 

「どういたしまして」

 

 五千円もはたいてゲットしてくれたぬいぐるみに比べたら、決して値段は届かないかもしれないが、詩乃が詩乃なりに考えてプレゼントしたものだ。恭二も嬉しくないわけがない。

 

 表情もだんだんと自然な笑顔になり、素直に彼女からのプレゼントが嬉しいといった様子だ。その笑顔をみて、思わず詩乃にも笑みがこぼれていた。

 

「ねえ、つけてみせてよ」

 

「う、うん……」

 

 恭二はそのまま詩乃の言葉に従うように、自身の首に先程受け取ったドックタグのボールチェーンのロックを外し、喉元から首全体を囲うようにし、うなじの位置でチェーンを止めると、それを首元からぶらさげ「どうかな……」と詩乃に感想を求めた。

 

「……うん、いいんじゃないかしら、似合ってるわ」

 

「そ、そうかな……、ありがとう……」

 

「うふふ、これから出かけるときは、それつけてきてね?」

 

 詩乃がご機嫌で両手を背中の位置で組みながら新たに要望を出すと、恭二は少しだけ照れくさそうにして「な、なるべくつけてくるよ」と微妙に濁した答えを返した。

 

「なるべく、ってのがちょっとひっかかるけど……まあいいわ」

 

「あはは……。あ、そういえば知ってる? ドックタグって戦死者の死体の損壊が激しくて、識別が難しいときに判別に使われるんだ」

 

「知ってるわよ、でも今この時代戦争なんて起きないし、ファッションアイテムとしても意味合いの方が強いんじゃないかしら?」

 

「……それもそうだね。今更戦争なんて起きるはずもないか」

 

 ドックタグの本来の使用意図を知っている恭二は少しだけひっかかりを感じていた。別に詩乃にそういう意図があるとは微塵にも思っていない。

 むしろ彼女からのプレゼントだ、物凄く嬉しい。ただ、ただなんとなく、嫌な予感がしたのだ。

 

 このドックタグをつけることによって、詩乃が自分の元を離れていってしまうのではなく、自分の方から(・・・・・・)詩乃の元を(・・・・・)離れていって(・・・・・・・)しまうのではないかと(・・・・・・・・・)

 

 根拠は何もない、ただ悪寒がしただけだ。頭の片隅で、ドックタグの本来の使用意図を思い出しただけにすぎない。

 別にこれから自分の周りで実際に戦いがおこるわけじゃない。あるとしたら仮想世界、ALOでの話だろう。種族間のPVPが主のゲームだから、きっとそっちのことを気にしてたんだろう。

 

「ははは、考え過ぎかな……」

 

「どうしたの? 恭二君」

 

 上の空で考え事をしていた恭二に詩乃が声をかけると、恭二は視線を彼女のいる方に戻し「なんでもないよ」と平静を装って返事を返した。

 

「さてと、そろそろ和人たちと合流しようか」

 

「あ、そうね。あっちはあっちで何か買っているのかしらね」

 

「ははは、どうだろうね。彼……お金もうなさそうだったし」

 

「わかんないわよ? あの子、今までずっと我慢してたから、また何かねだってるかもしれないわ」

 

「あはは、そうかもね」

 

 そうさ、きっと杞憂だ。考え過ぎなだけだ。この時間を大切にしよう。

 詩乃や和人、木綿季ちゃんがいるこの時間を、いつまでも大切に……。

 




 
 ご愛読、ありがとうございます。恭二の胸騒ぎ、嫌な予感とは一体何なのか? それでは以下次回。
 
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