ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 こんばんは、今回は割と間が空く前に投稿出来たと思います。
 さあ、いよいよ物語が本格的に動き始めます。原作とは全く違った形で展開いたしますボク意味ファントム・バレット編、是非、お楽しみくださいませ。
 


第67話~依頼~

 

 西暦2026年 11月16日(月)午後14:00 東京都中央区銀座 資生堂パーラー

 

「…………」

 

 ゴウンゴウンという音を響かせながら、エレベーターが上階へと動いている。エレベーターの中には男の子のが二人、女の子が一人、搭乗している。

 

 普段は羽振りのいいセレブしか立ち寄らないような、高級感あふれる雰囲気が漂うこのビル、資生堂パーラーの中に、あまりその雰囲気に似つかわしくない普通の少年少女が立ち寄っている。

 

「ね、ねえ和人、本当にここで場所あってるの……?」

 

「ああ、ヤツ(・・)が指定した場所はここだよ。以前にコンタクトとった時もこの場所だった」

 

「な、ならいいんだけど……」

 

 普段自分が立ち寄っている場所とはまるで違う雰囲気に、木綿季はすっかりたじろいてしまっていた。

 地元のスーパーともコンビニとも、レストランとも喫茶店とも違う、ちょっとだけ張り詰めた空気。

 どちらかというと、近所の小金もちのおばさん連中が、旦那の小遣いを減らして懐が潤った分、そのお金で贅沢をしにくる場所のような、そんな空気を感じ取っている。

 

 こんなすごく高そうな場所にボクらがきていいのか、もう少し大人になってからくるべきだったんじゃないのかと、額に汗をかいて不安を抱いていた。

 

「き、緊張してるの? 木綿季ちゃん……」

 

 いつも身にまとっている黄色いパーカーのポケットに手をつっこみながら、恭二が木綿季に尋ねた。

 彼も彼で、見てくれはごく普通のどこにでもいるような少年だ。手持ちの小遣い程度でこんなところにこれるような身振りでもなかった。

 

「う、うん……ちょっとね……」

 

「大丈夫だ、ここの代金はヤツ(・・)持ちなんだから。遠慮なく注文しまくればいいさ、いつもみたいにな?」

 

 これから出会うことになる男の顔が、この建物を出る頃には青ざめているだろうと想像している和人が、不敵に顔を歪めて悪い笑顔を見せている。

 

「和人、顔がすっごく悪役みたいになってるよ……?」

 

「……む、そんな顔してたか……」

 

「あ、あはは……」

 

 この三人が、何故このようなお金持ち御用達のお店に足を運んでいるかと言うと、先の件。

 例の総務省・仮想科に属しているクリスハイトこと、菊岡誠二郎からの依頼を受けるためであった。

 

 木綿季の闘病もあり、ここ一年は和人も菊岡とはとんと音沙汰がなかったのだが、出費に出費が重なり続け、貯金がそこを尽きるのが秒読み開始となってきたため致し方なく(・・・・・)、彼からの依頼を受けることにしたのだ。

 しかし、出来ることなら(・・・・・・・)会いたくない(・・・・・・)

 

(どうもイマイチ信用出来ないんだよな、アイツは……)

 

 左手を上着のポケットにつっこみ、頭をぽりぽりと右手でかきながら、和人は浮かない表情を浮かべていた。

 彼らがこれから会うことになる菊岡誠二郎なる人物は、言ってしまえば「胡散臭い」の一言である。

 

 事の発端は、SAOから目覚めて間もない和人に、彼が真っ先に接触してきたことから始まる。

 アインクラッドの中で出会った仲間たちのリアルの情報を得る代わりに、SAOのこと、ホロウエリアのことを洗いざらい情報提供する。こういった取引を持ち出されていたためだ。

 

 和人でなくても、やっと死の恐怖から開放され、これから現実世界で平和に暮らせると思った矢先に、こんな人がずけずけと接触してきたら、まず間違いなく胡散臭い、信用出来ないと思うに違いない。

 

 しかし、和人はそれをしてまで仲間たちの情報が欲しかった。直接会って、本当の意味でのSAOクリアを祝い合いたかった。

 ただ、情報を聞き出す菊岡の様子が、逐一ふわふわしていたり、公務員にしてはどことなくチャラチャラしていたりといった独特の雰囲気を出していた所為もあり、胡散臭さに拍車をかけ、疑いの眼を向けていたと言うわけだ。

 

「まあ、今日は話を聞くだけでもいいさ。依頼を受けるかどうかは、俺たち次第だからな」

 

「は、はあ……」

 

「か、和人……機嫌悪そうだね……」

 

 三人がやりとりを交わしていると、上昇していたエレベーターの動きが止まった。

 目的の階層に到着すると、丈夫そうな鉄製の扉が左右に開き、高級感あふれる淡い色合いをした、マホガニー製の木材で出来たフロントカウンターが、目の前に飛び込んできた。

 まるで超高級ホテルのフロントのような見てくれをしている。それだけでこの立ち寄った店がどれだけ高いお店だということを伺わせる。

 

「いらっしゃいませ」

 

 店内に足を踏み入れると、タキシード姿の男性店員が和人たちを出迎えた。丁寧に頭を下げた店員は空いているお席へどうぞと礼儀正しく、店の奥へと案内した。

 

 それに従うように歩を進めていくと、銀座の街にふさわしい高級感あふれる内装が目に入ってくる。

 室内灯はシンプルながらも、フロアの雰囲気を壊さない程度の明るさを保った丸型の灯り。

 床にはいかにもと言っていいぐらいの素材で出来た高級カーペット。

 

 その上にはやはりマホガニー製のテーブルとイスが並べられており、白く透き通るようなテーブルクロスが敷かれ、その上に造花ではない本物の花が花瓶に添えられている。

 この花だけで、子供の月の小遣いなど消し飛んでしまいそうな印象をちらつかせる。

 

 腰を落ち着かせている客層も、旦那の稼ぎがいいのか、はたまた自分自身がそこまで稼げているのか、中年女性客の姿が目立ち、誰もが誰もケーキにフォークをつつき、コーヒーや紅茶を嗜んでいる。

 

 和人が店内のすみずみまで視界を動かしていくと、やがてこのセレブ感あふれる高級喫茶店の雰囲気に似つかわしくない、四角いメガネをかけ、黒いビジネススーツに身を包んだ、サラリーマン風の男が何やら手を大きく上にあげてぶんぶんとふっている。

 その男の視線は、真っ直ぐに和人を見つめていた。

 

 そう、この男こそが和人が今日会おうとしていた人物である「菊岡誠二郎」その人であった。

 無邪気とも言える明るく満面の笑みで、子供みたいに手を降っている姿だけで、この喫茶店の雰囲気をぶち壊してしまっている。

 

「おーい! キリトくーん! こっちこっちー!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 店内に響き渡るぐらいの大声で菊岡が声を上げると、周りの客の視線が一斉に彼へと集まった。

 こんな高貴な場所で何をしてるんだ、周りに迷惑だろう……と、ティータイムを邪魔された誰もが目で訴えている。

 

「あ、あのバカ……」

 

 これにはさしもの和人も開いた口がふさがらず、何をやっているんだアイツはと呆れた表情で見つめていた。

 そんな和人の背後から木綿季と恭二が顔をひょこっとのぞかせて、なんだなんだと店内を見回している。

 

 和人は「はぁ……」と大きく溜め息を吐き出すと、重い足取りで菊岡が座っている、店内中央の四人用の四角テーブルへと渋々歩いて行った。

 ただでさえこの男とは関わりたくなかったのに、こんな恥ずかしい真似をされて、今この瞬間は他人同士でありたい。そんな心境だった。

 

 

――――――

 

 

 常にニコニコしている菊岡が腰を落ち着けているテーブルに、和人たちも同じように腰掛けている。

 菊岡の正面に和人、その右手に木綿季。その木綿季の向かいに恭二といった位置関係だ。

 和人は席につくなり、頬に手のひらを当ててテーブルに肘を立てて、ムスッと不機嫌オーラを全身から発信していた。

 

「キリト君以外は……はじめまして、かな?」

 

「あ、は、はい! ボクは紺野……じゃない、桐ヶ谷木綿季です。よろしくお願いします!」

 

「し、新川恭二です。今日はお忙しい中、ありがとうございます」

 

 菊岡が柔らかい口調で声をかけると、木綿季と恭二が礼儀正しく会釈をし、丁寧に挨拶を返した。

 和人だけはそっけない態度をとってはいるが、仮にも相手は目上の相手、社会に出て働いている身だ。最低限の礼儀は尽くさなければならない。

 それも相手は公務員、少しだけだが木綿季と恭二は方に力が入ってしまっていた。

 

「ご丁寧にありがとう、木綿季ちゃんに新川君。僕は菊岡誠二郎。総務省の仮想科というところで働いている、しがない公務員だよ。よろしくね」

 

 テーブルに肘をたてながら、リラックスムードで菊岡が自分の身分を明かし、傍らに置かれた赤紫色のメニュー表を手に取り、三人に見えるように見開いた。

 

「ここの払いは僕が持つからさ、なんでも好きに頼んでくれて構わないよ」

 

「……ほう、随分と気前がいいじゃないか、菊岡さん」

 

 差し出されたメニュー表を、和人が右手で受け取りながら皮肉の意味も込めて菊岡に嫌味を言い放つ。とてもこれから仕事をもらおうとする立場の人間の態度ではないが、菊岡は笑って受け流していた。

 

 普段とは異質な棘のある和人の雰囲気に、木綿季と恭二も額に嫌な汗を垂らしながら、緊張の思惑で様子を伺っている。

 きっと二人も、いくらなんでも失礼や過ぎないかと思っているに違いない。実際に二人は苦しい苦笑いを浮かべながら、ことの成り行きを見守っている。

 

「そうかな? まあそうだとしたら、君に久しぶりに会えたから……かな?」

 

「……俺に?」

 

「ああそうさ、言わなかったかな? 僕は君のことが好き(・・)なんだ」

 

「なっ……」

 

 菊岡がとんでもないことを言い放つと、和人をはじめ木綿季と恭二も言葉を喉につまらせ、自分たちはやばい男を相手に、仕事を受け持とうとしてるのではないかという危機感に苛まれた。

 

 目が点になり、こめかみの当たりをピクピクと引き攣らせ、言葉にならない言葉を言い続け、彼らがついてる席は、なんともいえないおかしいな気まずさにつつまれてしまっていた。

 

「き、菊岡さん!」

 

「ん……なんだい? 木綿季ちゃん」

 

 木綿季が声を荒らげ、菊岡が惚けた顔で返事を返すと、途端に木綿季が和人の腕に自分の腕を絡みつかせ、自分たちはこういう関係なんだとこれみよがしに見せつける。

 菊岡がそっち(・・・)の気がある人間だと思ったのか、和人を引き渡すまいと必死だ。

 

「和人は……ボクのなんだから!」

 

「……ふふ、わかってるよ。僕はあくまで友人(・・)として好きだってだけさ。何も君からキリト君を奪おうだなんてこれっぽっちも考えてないよ」

 

「……むぅ、そうですか……」

 

 如何わしい趣味をもつ大人がいてもおかしくないこの世の中で、菊岡もひょっとしたらそうなのではないかと疑いを持った木綿季だったが、本人からの一応の弁解を得て、とりあえずの警戒は解いたようだ。

 

「しかし、キリト君の方から声を掛けてくれて、僕は嬉しいよ。実はこちらも色々と複雑な状況でね、そろそろ僕の方から話を持ちかけようと思ってたんだ」

 

「……菊岡さんの方から?」

 

「ああ、何せ君たちから聞きたいことはまだたくさんあるからね」

 

「き、聞きたいことって……? もうクラウド・ブレイン計画のこととかも洗いざらい話したろ? セブンからも話はいってるはずだし」

 

 もう仮想世界に関係することで、自分が知っていることは全て話して聞かせたはずだと、和人は腑に落ちない様子で菊岡に訪ねた。

 すると菊岡は、自身のメガネのブリッジ部分を中指でくんっと上に押し上げ、レンズ部分を光らせながら、意味ありげに、静かに口ずさんだ。

 

「……メディキュボイド」

 

「……!」

 

 菊岡が口にした瞬間、和人と木綿季が凍りついた。

 これまでに起きた仮想世界での事件や出来事、そしてこれからのことを可能性も含めて話し、論議し尽くし、もう話し合うことはないだろうと思いきや、今度はメディキュボイドだ。

 

 和人には大体察しがついていた。恐らくはメディキュボイドの臨床試験を三年間も継続した木綿季の体験談を聞き出そうというのだろうと。

 

 たちまち和人は眉間にシワを寄せて、菊岡を睨みつけていた。

 

「総務省に送られてきたデータだけでは、まだ少し足りないんだ。実際に使って見せてくれた木綿季ちゃんに、直接話を聞かせて欲しいと思ってね……」

 

「菊岡さん……アンタ!」

 

 和人がガタッという音を立てて、椅子から立ち上がり、菊岡をより鋭く睨みつける。

 そもそもにして、仕事を受けようと名乗り出た和人と恭二はともかく、木綿季に同伴を求めた時点で疑ってかかるべきだった。

 

 かつて身体に重たい病気を抱え、心に深い傷を負った木綿季のプライバシーにかかわることを聞き出そうとしている菊岡が、和人はやっぱり信用出来なかった。

 

 自分のことはいい、だが木綿季にまで手を出すのならこの話はおしまいだ。何も話すことは無い。

 木綿季に手を出すのなら、例え世話になった菊岡さんでも容赦はしない。和人の顔がそう物語っていた。

 

「すまないが話は終わりだ。帰るぞ……木綿季、恭二」

 

「え……、か、和人?」

 

 席を立った和人は、不機嫌を通り越して怒りにも似た感情を振りまきながら、椅子を定位置に戻し、店の出口まで戻ろうとした。

 正に一触即発、触らぬ神に祟りなしといった雰囲気を漂わせている。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよキリト君!」

 

「待たない、今回の話は無しだ。他を当たってくれ」

 

「他も何も、今回の件は君たちにしか頼めないんだよ! 」

 

 和人たちの物々しいやりとりに、またもや辺りの客からの視線が集まりだした。

 優雅で静かな空間を過ごせるはずのこの喫茶店が何やら穏やかではなくなってきていた。その様子を不安に思ったのか、店のスタッフも何人か遠くで様子を伺っている。

 

「……和人、お話だけでも聞こ? ボクは大丈夫だから……」

 

 帰ろうとする和人の黒い服の袖を、小さい手で掴んで静止させると、和人は首だけ振り返り、真っ直ぐに木綿季を見つめた。

 

「……木綿季が……そう言うなら……ッ」

 

 恋人の木綿季になだめられると、和人は荒くなった呼吸を少しずつ落ち着かせ、握りこぶしに込めた力も弱め、怒りを無理やり抑えながらもう一度席についた。

 しかし、菊岡へ向けた怒りの視線だけはそのままであった。

 

「……君の気に触ることを言ってしまったのなら謝罪するよ、すまなかった、キリト君」

 

「すまなかったって……、おい菊岡さん、アンタ自分が何を言ってるのかわかって言ってるのか?」

 

 菊岡の謝罪の言葉は、和人をなだめるどころか、火に油を注いでしまっていた。

 前からデリカシーや、他人に遠慮がない性格の男だと思ってはいたが、ここまで酷いとは思いもよらなかった。

 

 和人は、声を荒げないよう気持ちを無理やり落ち着かせて、自分が何故ここまで起こっているかを話して聞かせた。

 

「菊岡さん、アンタ……木綿季がどんな思いでメディキュボイド(あの中)にいたと思ってるんだ?」

 

「…………」

 

「現実から切り離されて、外に出ることを禁じられて、ずっと暗い暗い空間の中で、いつ死ぬかもわからない恐怖と、ずっとずっと独りで闘ってたんだ!」

 

「……和人……」

 

 菊岡は、ただただ無表情のまま、静かに和人の話に耳を傾け続けていた。

 何故ここまで落ち着いているのか、大人の余裕があるからなのか、はたまたこういう性格だからなのか、違う理由なのかはさだかではないが、とにかく落ち着いて話を聞き続けた。

 

「それでも木綿季は、必死に前へ歩き続けた! あの暗い部屋で、ひたすら独りで頑張ったんだ!」

 

「…………」

 

「それを……よくもアンタ軽い気持ちで聞かせてくれだなんて言えたもんだな……」

 

 和人の両手は、怒りのあまりに小刻みにぷるぷる震えていた。呼吸もまた荒くなり、菊岡の態度しだいではすぐにでも彼に殴りかかっていきそうな勢いだった。

 

 そんな和人を見かねてか、木綿季は自分の手をそっと和人の手の甲に包み込むようにして当て、彼の顔をじっと見つめ「ボクは大丈夫だよ」と目で訴え続けた。

 

「……ゆ、木綿季……」

 

「かずと……」

 

 木綿季の手の温もりが伝わってきたのか、段々と和人は怒りが収まり、呼吸も気持ちの高ぶりも落ち着いてきた。

 心拍数があがって体温が上昇したためか、額から汗が吹き出している。木綿季はそんな和人の汗を手元に置かれていたウォッシュペーパーで優しく拭き取った。

 

「……ごめんな木綿季、ありがとう……」

 

「ううん、ボクは大丈夫、大丈夫だから……」

 

 大切な人のために、ここまで怒ることが出来る。和人はそこまで木綿季のことを想っている。

 そんな和人が羨ましい。

 

 大切なもののためなら、自分はどうなってもかまわない、そう思うための硬い意識があることが、僕には羨ましいと、恭二は真っ直ぐに和人を見つめていた。

 

 僕にあんな度胸があるだろうか?

 もしも仮に詩乃が誰かに襲われでもして、助けられるのが自分だけだったとしよう。

 その時、僕に立ち向かうだけの勇気があるのだろうか?

 

 ……ないな、あったとしたら……僕はそもそも高校を中退していないし、父さんともちゃんと話し合っていたはずだ。

 結局、僕は臆病者なんだ。他人の目を気にして、ご機嫌を伺って、敷かれたレールの上を辿るしかない。

 そんな生き方しか、許されないんだ。

 

「……二人共すまないね、別にこれに関しては僕からは無理強いはしないよ。個人のプライバシーが関わってくるし、第一関係者の許可を得ないことには決行できないからね」

 

「……か、関係者……ですか?」

 

「そう、キリト君やリーファちゃんたち家族の許可はもとより、主治医の倉橋さんの許可も取らないといけないんだ」

 

「……なんだよ、今更掌返しか?」

 

「そうじゃないさ、メディキュボイドはまだ公には非公開。これぐらい慎重にことを運ばないといけない事案なんだ」

 

 その割には、随分と軽口を叩いてくれるじゃないかと内心思った和人であったが、ここはぐっと堪える。

 これ以上激昂しても、木綿季を不安がらせるだけだし、周りの客にも迷惑がかかる。何より話が前に進まない。

 ここは気持ちを落ち着かせて、引き続き菊岡からの話を聞くとしよう。

 

「……わかった、そういうことにしておくよ……」

 

「こちらとしても、出来れば聞かせてもらいたいってだけなんだ、本当にすまなかった」

 

 気持ちが落ち着いて、冷静に考えるだけの余裕が出来てくると、和人は先の自分の態度に少しだけ後悔をしていた。

 もし、あそこで木綿季が止めなかったらどうなっていただろう?

 

 神田の時みたいに、殴りかかっていたかもしれない。馬鹿な、そんなことしたらどうなる? 木綿季を悲しませちまうだけだ。

 熱くなるな、冷静になれ……。これじゃSAOにいた時と変わらないじゃないか。もっと気持ちに余裕を持つんだ。

 

「……もうこの件に関しては何も言わないよ、菊岡さん……」

 

「……ありがとう、それじゃあメディキュボイドの件については、一旦保留にさせてもらうよ」

 

 菊岡はそう言いながら足元に置いた黒いビジネスバッグから、業務用だと思われるタブレットを取り出して、何やら操作を始めた。

 

 菊岡が木綿季を呼び出した件については、一旦これにておしまいとなった。

 仮に木綿季が話してもいいとなっても、両親の翠、峰嵩、兄妹である和人と直葉、更には主治医の倉橋全員から許可を貰わなければならない。

 いろんな複雑な事情が絡み合ったメディキュボイドに関することだからこそ、政府も菊岡も、和人たちも慎重になっているのだ。

 

 

――――――

 

 

「さて、それでは本題に入らせてもらってもいいかい?」

 

「ああ、構わない」

 

「……お願いします」

 

「それじゃあ、まずはこれを見てもらいたんだけど……」

 

 タブレットの操作を終えた菊岡が、必要な資料を見せるためのページを表示させると、端末の向きを百八十度変え、和人たちに見えるように卓上に置いた。

 

 その端末を、一番取りやすい位置にいた和人が、恭二にも見えるようにして角度を調整して手にとった。

 そうすると、必然的に木綿季から見えにくい角度になってしまっているため、木綿季はイスを少しだけ和人のいる方に寄せて、タブレットの画面を覗き込んだ。

 

死銃(デスガン)事件……って、聞いたことないかな、君たちは」

 

「で、ですがん……?」

 

 まるで耳にしたことのないワードに、木綿季は頭に?マークを浮かべて首をかしげている。

 デスガン、日本語直訳で死の銃。先日和人が興味本位でインターネットで調べた、あの死銃(デスガン)だ。

 

 VRMMO、ガンゲイル・オンライン、通称GGOのゲーム内で、死銃(デスガン)なるプレイヤーに銃で撃たれると、撃たれたプレイヤーそのものが現実世界で死んでしまうという、今VRMMO界隈で話題沸騰中のウワサだ。

 

 その、都市伝説にも近い、事件性がまるで伺えないこの騒動の話を、菊岡が持ち出してきた。国家公務員である菊岡がだ。

 

「俺は……知ってる。先日……たまたまインターネットで目について、個人的に調べてた」

 

「……なら話は早いかな。単刀直入に言うと、この死銃(デスガン)事件の真相を、君たちに調べてきてもらいたい」

 

「…………は?」

 

 菊岡の突拍子もない話に、またもや和人は凍りついた。

 なんだって? かの死銃(デスガン)さんの事件の真相を? 探偵でも警察でもない俺たちが調べて解決してこいだ?

 何を言っているんだこの陰気メガネは、ついに気でも狂ったかと、軽蔑の眼差しを送り続けていた。

 

「だから、キリト君たちにこの事件のことを調べて欲しいんだ」

 

「……どうしてそうなるんだ?」

 

「……似てると思わないかい? 三年前の、SAO事件と……」

 

「……何が言いたい? 菊岡さん」

 

 和人の顔が穏やかではなくなっていった。

 先ほどまで見せていた怒りの表情ではない、目の前に迫る危機から自分や周りを守るための、戦う人としての表情をみせていた。

 

 菊岡の言いたいことは、つまりこうだ。

 死銃(デスガン)に撃たれたユーザーが亡くなっている可能性が強く、もしかすると今回の件は、先のSAO事件と何らかの関連性があるのではないか。

 

 そこで、SAOをクリアしたキリトこと和人に今回の件について、事件のおこったゲーム「ガンゲイル・オンライン」にダイブして調べてきてほしいと、こういうわけだ。

 

「……本気で言っているのか? 菊岡さん」

 

「……僕は仕事に関しては、冗談は言わないよ。少なくとも、GGOにダイブしているプレイヤーが不自然な死を遂げているんだ。きな臭いと思うのが普通じゃないのかい?」

 

「…………」

 

 また、ゲーム内で人が実際に死んでいる。外部的要因で死んだのか、本人の健康管理で死んだのか、はたまた……本当にゲーム内での死が、現実にも反映されたのかは定かではない。

 しかし、自分の愛しているこの仮想世界で、かつて自らが体験したデスゲームが再び行われているとしたら、このまま黙っているわけにはいかない。

 

 黙っているわけにはいかない……、が……。

 

「…………」

 

「な、何? 和人……?」

 

「え、あ……いや、なんでもない……」

 

「……?」

 

 今の俺に……出来るだろうか、もう一度、死のリスクがあるゲームにダイブすることなんて。

 やっと死に物狂いであのデスゲームから解放されて、普通の暮らしを取り戻し、守るべきものをまた手に入れられたのに。

 

 それらを失ってしまうかもしれない覚悟が、今の俺に出来るのだろうか……。

 

「…………」

 

「……和人?」

 

「……ゆ、木綿季……」

 

 ……ダメだ、今の俺には……守りたい者がいる。ずっと傍にいてほしい、ずっと一緒に居たい存在がいる。

 片時も離れて欲しくなくて、一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に苦楽をともに乗り越えていきたい者がいる。

 

 今の俺には、もう一度死に立ち向かっていく勇気は……ない(・・)

 

「…………」

 

 気が付くと、和人の手は震えてしまっていた。怒りからくる震えではない。死への恐怖、そして、大切な者と離れ離れになってしまうかもしれないという恐怖に襲われていた。

 

 もう俺は、アインクラッドにいた黒の剣士キリトじゃない。

 VRMMOが好きなただの学生、桐ヶ谷……和人だ。

 

「和人……大丈夫?」

 

 先ほどとは打って変わって、冷や汗をかき、青ざめた顔になっている和人の手を、木綿季は優しく握り締めた。 

 心配そうな表情を浮かべ、真っ直ぐに和人の顔を見つめ、彼が安心するまで手を握り続ける。

 

「……あ、ああ……」

 

「……ふむぅ」

 

 ただごとではない和人の様子に、菊岡も険しい表情を浮かべている。

 菊岡はVRMMOで一番の実力を持つ和人なら、GGOの世界にダイブしても、なんら労せずに死銃(デスガン)と接触し、情報を得ることが出来るかもしれないと踏んでいたのだ。

 

 しかし、冷静に考えてみれば、彼らは正義のヒーローでも、物語に出てくる伝説の勇者でもない。普通の一般人、子供なのだ。

 

 本来ならば、こういった危険性が伴う事案ならば、従来通り菊岡ら大人が対応すべき一件なのだ。子供の手を借りようとしている時点でどうかしている。

 

「厳しそう、かな……?」

 

「……ごめん菊岡さん、ちょっと今回の件は……考えさせて欲しい……」

 

「……そう、だね……」

 

 和人の様子を見れば、今回の件について荷が重いのは明らかだった。今の彼は、ただ木綿季と楽しく毎日を生きていきたいだけなのだ。

 わざわざ危険を犯してまで、首を突っ込む必要はもうない。

 

「それじゃあ、キリト君はともかくとして、そっちの彼はどうかな? さっきからずっと考え込んでいるようだけど……」

 

 菊岡が掌の方向を恭二の方へ向けると、下を俯いてテーブルの上を見つめ、右手の指を顎の先端に当て、腕を組んで何やら考え込んでいる様子だった。

 

「新川君?」

 

「…………」

 

「お、おい恭二?」

 

「えっ、……あ、えっと……何?」

 

 二人から声をかけられて、ようやく我に帰った恭二が、きょとんとした表情を浮かべながら二人を見つめ返す。

 和人と菊岡は、今までの話をちゃんと聞いていたのかと、若干呆れた様子で彼を見つめていた。

 

 菊岡は一度溜め息を吐き出すと、メガネの位置を直して腕を組み、改めて今回の依頼を受けるかどうかについて、恭二に語りかけた。

 

「それで、君はどうなんだろう? 聞いた話では、新川君は元GGOプレイヤーだって聞いたけど、何か耳に挟んだこととかないかい?」

 

「……いえ、何も」

 

「そうか……残念だね」

 

「……すみません」

 

 元GGOプレイヤーの恭二なら、和人よりも効率よく、情報を集められると踏んでいた菊岡は、またもや大きく肩を落としていた。

 正直言って、菊岡は今回の事件については、この二人の協力が得られれば、そう時間をかけずに解決できるだろうと目星をつけていたのだ。

 

 死銃(デスガン)のターゲットとなっているプレイヤー全員に共通してることが、一つある。

 

 それは、全員が全員プレイヤースキルが高く、上位プレイヤーに食い込んでいるユーザーか、GGO内最大のイベント『バレット・オブ・バレッツ』通称BoBで上位に入賞しているということである。

 

 砕けて言ってしまうと、強いGGOプレイヤーばかりが狙われているということだ。先の件での被害者であるゼクシードは第二回BoB覇者、二件目の被害者薄塩たらこも、名を馳せた実力派プレイヤーだ。

 

 結論から言えばGGO内で有名になり、強いプレイヤーだと死銃(デスガン)に認識されれば、自らがターゲットとなり、死銃(デスガン)と接触するチャンスが出来る。

 

 VRMMOで屈指の実力を持つ和人と、元GGOプレイヤーである恭二がコンビを組めば、死銃(デスガン)も早々に注目するだろうというのが、菊岡の算段だった。

 最高の実力と最高の知識、これらが合わされば、早くにも事件の真相にたどり着くことができるだろう。

 だがしかし、そんな菊岡のアテは外れてしまった。

 

「僕もちょっと、考えさせてもらっていいですか……?」

 

「構わないよ。返答はなるべく早いほうがいいけど、こればかりは君たちの意思を尊重しないといけないからね」

 

 恭二も依頼を保留したことにより、メディキュボイドの件、死銃(デスガン)事件の件ともに、全て依頼は保留となった。

 菊岡としては、是非とも受けてもらいたいところだったが、流石に相手はまだ未成年で一般人だ。

 無理強いするわけにもいかないし、危険に巻き込むわけにもいかない。非常に残念ではあるが、無難な判断だと言えるだろう。

 

「それじゃあ仕事の話はここまでとして、ここからは……楽しいお茶会といこうか、キリト君♪」

 

「……え?」

 

 先ほどの真剣な顔つきから、急にふわっとチャラチャラし表情へと代わった菊岡は、笑顔を振りまきながら近くの店員に向かい豪快に手を振り、こっちの注文をお願いと合図を送っていた。

 

 本当に掴みどころがわからない男だ。よく言えばオンオフの切り替えが、メリハリが出来ていると言える。

 悪く言えば何を考えているのかわからず、そういうところが他人の不信感を煽ってしまう、といったところだろうか。

 

「最初に言っただろ? ここの払いは僕が持つって、今日は他に公務もないし、ここでたくさん食べて帰って行ってくれて構わないよ♪」

 

 突然の菊岡の態度の変化に、一行は戸惑いを見せていたが、話を聞いていくうちに、自分たちの意思を尊重してくれていることだけは確かなものがあるため、少しだけ腑に落ちないがこのまま彼を信用することにしたのだった。

 

「だとさ、木綿季」

 

「え……、えっと菊岡さん、ここのメニュー……ものすごく高いけど、本当にご馳走になっていいの?」

 

「いいからいいから、素直にご馳走になれ、木綿季」

 

「キリト君の言うとおりだよ、遠慮なく限界(・・)まで食べてってくれ、木綿季ちゃん」

 

 人間とは不思議なもので、一度遠慮すると中々それ以上踏み込むことが出来ない事の方が多い。

 しかし、これ以上断って無下にするのも失礼と感じたとき、その言葉に甘えなくてはいけないときもある。

 

 木綿季にとって、今がまさにその時なのだが、菊岡は知る由もなかった。

 木綿季は常人の女の子と比べてはるかに上回る量の食べ物を食べることを。いやそれどころではない、成人男性も真っ青になるぐらいに胃に食べ物を突っ込むことが出来る、その驚異の内蔵の持ち主だということを。

 

「……そういうことだ、遠慮するな、木綿季」

 

「……え、えへへ……そ、それじゃあ……」

 

 木綿季は和人からメニュー表を受け取ると、この店自慢のケーキやパフェといったスイーツのリストに目を輝かせていた。

 高級セレブ御用達のお店とだけあって、メニューの値段もセレブ級だ。

 コーヒー一杯注文するだけで、市販のお菓子が何個買えるだろうか。それぐらいの値段の張ったメニューを踏破するかのごとく、まずは気になった飲み物を注文する。

 

 次はこの店の主役でもあるケーキに目を移す。ショートケーキ、チーズケーキ、モンブラン、ショコラケーキなど、定番から通の好みのものまで種類は様々だ。

 

 木綿季はとりあえず、目に付いたスイーツ気になったものを全部(・・)迷わず注文した。そう、全部(・・)である。

 

 このあたりから、菊岡の様子がおかしくなっていった。

 しかし、ここまではまあたまにいる、スイーツには目がないたくさん食べる女の子もいる、ぐらいの認識だった。

 

 だが、その考えは文字通り甘い考えで、羽振りがいい菊岡でもなかなかに手痛い出費となるぐらいの怒涛の注文をしていく木綿季の食欲に、段々と顔が青ざめていった。

 

 

――――――

 

 

「おかわりください!」

 

「……ま、まだ食べるの……かい?」

 

「ぷ……くくくっ」

 

 あからさまに引きつった顔つきになっていく菊岡の表情を見て、今までのうっぷんをはらすかのように、和人が笑いをこらえている。

 

 どうだ、俺の恋人の食欲は。

 そもそもにしてアンタの依頼を聞きにくる羽目になったのも、この食欲が元凶だ。

 文字通りたっぷり味わってくれ、この大出費を。

 

 それから言わずもがな、木綿季の食欲はものすごく、高級喫茶には異様な光景の皿のタワーが積み重なるほどのスイーツのおかわりが続いた。

 

 おかしい、いつからここはケーキバイキング、ないしは回転寿司になったんだと、錯覚まで覚えてしまいそうなこの異常事態に、店側も困惑している始末だ。

 

 飲み物の平均値段が千百円、スイーツ系が千三百円もするこのサロン・ド・カフェ。そしてそのテーブルに積み重なっている皿の山は、菊岡が大出費を抱えてしまうことを避けれないことを意味していた。

 

「ゴチになるな? 菊岡さん♪」

 

「……あ、あぁはは、か、かまわない……よ……」

 

 和人はこの日の出来事を、ここ最近起きた中で一番すっきりした一日に感じたという。

 

 食欲に従うまま、笑顔でケーキを口にほおばり続けながら、楽しくスイーツタイムを満喫している木綿季を、心からの笑顔で眺めることが出来たのは初めてだった。

 

 ああ、いくらでも食べてくれと言わなければ、遠慮なんかしないでくれと言わなければ、菊岡がここまで顔を青ざめることもなかったろうに。

 

 

――――――

 

 

 同日 午後15:10 東京都中央区 銀座八丁目 資生堂ビル前

 

 

「はぁー、食べた食べたー♪」

 

 満面の笑みで、お腹を右手でぽんぽんと叩きながら、木綿季が満足そうに資生堂ビルから姿を現した。

 季節は十一月半ば、日もこの時間あたりから傾き始め、夜になるのが段々と早くなっていく。

 道行く人々も分厚いコートに身を包む人もいれば、軽めのジャケットを着込む若者の姿も見受けられる。

 

 

 そんな冬の服装の人々が行き交う中に、和人らを含めた四人が佇んでいる。本日の結果だけを言ってしまえばまず、菊岡、及び総務省からの依頼は現在のところ保留になったこと。

 答えは急ぎすぎずとも、出来るだけ早くにやるかやらないかの明確な答えが欲しいということということで話が一旦まとまった。

 そして一つ付け加えるとするならば、菊岡の財布が大ピンチ、ということだ。

 

「そ、それじゃあ……僕は一度総務省に戻るよ。返答はメールでもメッセージでも、ALOでも構わないから……」

 

 常日頃からマイペースで仕事をこなしている菊岡の表情が、どこかぎこちなく、引きつっている。

 

 このお茶会だけで三万円以上懐を溶かしてしまっていることと、目の前で小柄な少女が、あれだけのスイーツを胃袋に詰め込んだというとんでもない真実を目の当たりにしたおかげで、軽く放心状態にもなっている。

 

「ああ、出来るだけ早く返答はするよ」

 

「菊岡さん、ご馳走様でした!」

 

「……御馳走様でした」

 

 別れの挨拶を済ませると、菊岡は「いい返事を待っているよ」と活がない声量で呟くと、自分の車が停めてある有料駐車場へと足を運び、姿を消していった。

 その後ろ姿は何故かどことなく、いつもより小さく、そして寂しそうに見えた。

 

 今、三人が立っているここは中央区銀座。東京のど真ん中といっても間違いではない場所だ。

 伝統芸である歌舞伎が見れる歌舞伎座。多目的イベントも行うことができる東京国際フォーラム。独特なセンスでの公演が大変人気な東京宝塚劇場など、観光名所も多数ある。

 それらを和人が楽しめるようになるには、まだこれから何年も先のことになるであろうが。

 

 仕事や観光目的で周囲を行き交う人々がいる中、和人は大きく伸びをして、肩をくいくいとやると、二人に視線を移し、帰宅を促す。

 

「さてと、俺たちも帰ろうぜ……」

 

「そうだね、今回のことを受けるかどうか、よく考えないと……」

 

「…………」

 

 今日の用事は全て終わったはずなのに、恭二だけは浮かない顔をしてあさっての方向を見つめている。思えば今日の会話にも、ほとんど入ってこなかった。

 一体彼は何を考えているのか、その様子がおかしいことに気づいたのか、和人が気になり声をかける。

 

「恭二……?」

 

「……和人……」

 

 考えていたことがまとまったのか、それとも声をかけられたからなのか、恭二はゆっくりと和人たちの方を向き、複雑そうな表情を見せていた。

 

「……和人」

 

 今までのどの恭二とも違う彼の表情に、和人も心配そうな表情になる。悲しそうであり、切なそうであり、はたまた……どこか怒りを見せているようでもあった。

 

「……何だ? 恭二?」

 

 和人から返事が返ってくると、恭二は顔つきを変えて、真っ直ぐに和人の目を見つめ、ゆっくりと口を開いた。

 和人は息を飲み、彼の口から何やらとんでもない事実が語られるのではないかと、緊張感に満ちた顔つきで、彼が語るのを待った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「もしも、僕が死銃(デスガン)だったとしたら、君は信じるかい?」

 

「……な、何だって……?」

 

 




 
 突如親友が告げる自分の正体。その言葉を和人はどう受け取るのか。

 いきなり新川君がすごいことを言い放ちました。これが今後どう展開に影響するのか、原作では兄と一緒に逮捕されてしまった新川君、はたしてボク意味では味方になるのか?
 その真相は続報をお待ちくださいませ!
 
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