ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 お久しぶりです、大分ご無沙汰してしまいました。かなりリアルでごたごたがあり、ようやく書けるだけの時間を確保出来るようになりました。
 今後のボク意味スケジュールに関しましては、活動報告の方にも書いてありますのでお目通しいただければと思います。
 そして……お気に入り登録数がとうとう1000件、UA数も150.000を突破いたしました! ありがとうございます!
 そして再来月にはボク意味が一周年を迎えます。早いですね……、これも皆様の温かいお声あってのことだと思っております。なるべく更新ペースは早めて行きたいと思いますのでこれからも何卒、宜しくお願い申し上げます。
 それでは……第70話、ご観覧くださいませ。
 


第70話~捜査開始~

 

 西暦2026年 11月17日(火)午前08:39 埼玉県川越市 桐ヶ谷邸 和人と木綿季の部屋

 

 

『……キリト君、その話は……本当なのかい?』

 

「ああ、今ある全ての情報を整理し、組み立てた結論がこれだ。ただ……確固たる証拠がない以上、推測の域を出ないけど……」

 

『……なるほどね、興味深いな……』

 

 和人は自身のPCデスクに腰を落ち着けながら、スマートフォンで通話をしている。相手は先日依頼の件で話をしたばかりの菊岡誠二郎。

 一度は保留と言う形で、十分に考えてから答えを聞くということになってはいたのだが、恭二の今現在の立場を考え、翌朝すぐに事件解決に協力を打って出る姿勢を見せたというわけだ。

 

 今の所、容疑者最有力候補は赤眼のザザこと新川昌一だ。恭二も何らかの理由で手を貸してしまっているのだろう。昌一が捕まれば、内容によっては恭二も警察にしょっぴかれるかもしれない。

 だがしかし、問題はそこではない。

 

 あの赤眼のザザの内情を知っていて、尚且つ協力的な態度ではない、ということに問題がある。

 かつてのSAOで、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)に所属していながらも、PK、即ち人の命を奪うことに抵抗を感じるメンバーも現れ始めた。

 

 良心の呵責があるメンバーは、当然ギルドから抜けたいと幹部のザザ、ジョニー・ブラック、ないしはギルドマスターのPoHに直訴する。

 しかし、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)は殺人を犯す犯罪者プレイヤーの集まり。現実世界で言うところのギャングやマフィアに該当する集団だ。

 

 無傷でホイホイと簡単に脱退できるはずがない。気の遠くなるような膨大な額の金、もしくはとんでもないレアアイテムを献上する。

 それが出来なければ残るしかない。しかし、それでもまだ抜けたいと豪語する輩も現れ始める。

 

 そのようなプレイヤーがどうなってしまったかは、言うまでもないだろう。

 マスターであるPoHはギルドメンバー全員をかき集めて、注目が集まる中で堂々と目の前で、その脱退希望者を処刑して見せた。

 つまり、見せしめというわけだ。

 

 PoHを崇拝しているザザも、その精神を受け継いでいる。だからこそタチが悪い。

 デスゲームから解放され、漸く命の危機に脅かされることのない世界に戻れたというのに、すっかり身も心も人殺しになってしまったザザは、もう現実と仮想世界の区別が出来なくなっていた。

 

 そこで、院長の長男という立場を、そして弟の恭二をも利用して、今回の犯行に及んだのだ。

 作戦は見事に成功。ターゲットをすんなり殺害することに成功し、更には警察の目をも欺くことが出来た。

 この調子で次も標的を仕留めていこう、そう思った矢先だった。

 

 僕はもう兄貴に手を貸さない。

 

 恭二がこの死銃(デスガン)事件の末路を知ったのは、計画遂行日の翌週のネットニュースでのことだった。

 直接のプレイヤーネームなどは書かれてはいなかったが、GGO内で自分が撃ったプレイヤーがログインしていなかったこと、そしてGGOプレイヤーが一人現実世界で死亡しているという事実を目にした瞬間、自分が手を貸したあの一件だと確信した。

 

 自分が殺人に加担してしまった。人殺しの手伝いをしてしまった。

 その事実は、彼を追い込むのには十分過ぎた。しばらく勉強に身が入らなかったし、かといって遊ぶ気にもなれなかった。

 

 そして、恭二は実の兄を拒絶した。本物の人殺しに成り果ててしまった彼を、自分の世界から断絶したのだ。

 

 だが、昌一から見ればきっとそれは裏切りに近い行為に等しい。

 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の掟に従うとするならば、彼も見せしめに殺すべきなのだろう。

 

 しかし昌一はそうしなかった。

 実の弟だというちょっとした情と、ここが仮想世界ではなく現実世界だということ。そしてまだ彼に利用価値があったからだ。

 

「どうだろうか菊岡さん、最近の恭二の様子のおかしさと、俺とシノンの推理から導き出した答えなんだけど……」

 

『………………』

 

 和人が全てを菊岡に伝え、彼からの最終的な反応を待つ。本来ならば昨日のように直接顔を合わせて話をするのが好ましいのだろう。

 今回の目的は、黒幕であろう新川昌一を逮捕して、恭二の身の安全を確保すること。

 

 恭二にとってそうだったように、和人にとっても、彼は歳の近い同性の友達だ。

 周りに話せないようなことでも、互いになら思い切って話せることもあるような仲だ。

 見捨てるわけにはいかない、何故なら……彼は友達、仲間なのだから……。

 

『僕の結論を述べさせてもらっていいかな? キリト君』

 

 しばらくの間が置かれた後、スピーカー越しに落ち着いた口調で菊岡の声が聞こえる。

 その声を聞くと和人は「ああ」と返事を返し、引き続き彼の導き出した結論に耳を傾ける。

 

『まず、君たちの考えだけど……、かなりいい線を行ってると思う。僕も恭二君のことはずっと引っかかっていたんだ。あのカフェでもずっと無言だったからね』

 

「しかも、アンタが死銃(デスガン)の話を持ち出した直後あたりからな……」

 

『やっぱり、君も同じ違和感を感じていたか……』

 

 菊岡からの回答を聞くと、一先ずは和人の心にほっと安心という思いが抱かれた。

 普段ふわふわとしてはいるが、こう見えても菊岡は国家公務員。味方についてもらってこれ以上頼りになる大人も、そうそういないだろう。

 

『しかし……キリト君、一つだけ致命的な点がある』

 

「ち、致命的だって……?」

 

『……ああ、恐らくは君たちもわかってはいると思うけど、証拠(・・)がないよね?』

 

「……そ、それは……ッ」

 

 証拠がない(・・・・・)。誰かを告発する上で、絶対になくてはならないことだ。人を罪に陥れるということは、それだけの責任が伴う。絵空事や推論だけでは逮捕できないのだ。

 

 それが、日本の司法の限界ということもあるが。しかし裏を返せば、確固たる証拠さえ見つかってしまえば、昌一を逮捕することが出来る。

 

 今回の殺人をどうやって実行したかはまだわからないが、人を殺めているのだ。何も見つかっていないのではなく、見落としがあったのではないかという結論にも、二人は辿り着こうとしていた。

 

『キリト君、それでも君は……恭二君のお兄さんが、赤眼のザザが今回の事件の真犯人だと考えているんだね?』

 

「……ああ、そうとしか考えられないからな」

 

『…………なるほどね』

 

 菊岡は電話の向こうで何やら考え込んでいる様子だ。今置かれているこの状況下で、どうやれば最善の動きが出来るかというのを、模索しているようだ。

 再び長い沈黙が流れ、和人の部屋のベッドに腰掛けている木綿季が、穏やかではない表情でスマホを片手に握っている彼を、心配そうに見つめている。

 

「和人……」

 

「…………」

 

 和人は木綿季からの視線に気付くと、ニコッと優しい笑顔で返事を返す。

 木綿季は何も心配しないでいい、俺が解決するからと、目で彼女に訴えていた。

 

『よし……キリト君、いいかな?』

 

「……ああ、いいぜ」

 

『僕個人としては、君たちの路線はかなり濃いものだと考えている。しかし証拠がない以上、やはり警察は動かせない』

 

「……クソッ、肝心なところで……ッ」

 

 肝心なところで大人は役にな立たない。そう続きを呟こうとしたところで、菊岡が和人の独り言に割って入るかのように、話の続きを語り出す。

 

『そう急くのは早いよキリト君。確かに警察は動かすことは出来ないが、僕直属の人間なら、動かすことが出来る』

 

「なっ……そ、それじゃあ菊岡さん……!」

 

『ああ、君たちの情報を元に、この事件を追っていく。ありがとうキリト君、僕達としてもいきなり大きな前身だ』

 

「……いや、お礼を言うのはこっちの方だよ菊岡さん。でも多分、あまりのんびりもしていられないと思う」

 

『わかってるさ、彼の命が危ない、だろ? 迅速な解決が求められるね。しかも、犯人に悟られないように……』

 

 昌一を逮捕してしまえば事件は解決。これだけ聞けば物凄く簡単な一件に聞こえるかもしれないが、犯人に気付かれることなく証拠を集め、告発するための足場を固めていくというのは大変に困難を極めるものだ。

 

 刑事ドラマのように都合よく証人が現れたり、意外な場所で偶然にも証拠を見つけてしまう、なんてことは基本的に有り得ない。

 

 毎日の地道な聞き込み、遺留品の捜査、解析など、ひたすらにコツコツを進めていくことこそが、事件解決への一番の近道なのだ。

 こうしてる間にも、犯人は新たに犯行を重ねているかもしれないが、こういう時だからこそ、焦ってはいけない。

 

「なあ菊岡さん、アンタんとこに……いつもグラサンつけたおっかない人が護衛についているだろ? その人らを恭二の護衛に回すことは出来ないのか?」

 

『……彼らか、ちょっと難しいかな……、彼らは優秀なSPだけど、ああゾロゾロ動かれたら、あまりにも不自然だろう』

 

「そ、そうだな……それなら、一人だけ尾行につけるとか、っていうのはどうだ?」

 

『……なるほどね、流石キリト君だ、いつも君の柔らかい発想には脱帽だよ』

 

「心にも思ってないこと言うのはよせよ。それで……それからどうするんだ?」

 

 和人ら子供の手だけでは解決しそうにはなかったこの事件だが、菊岡ら大人の力を借りることによって、解決への糸口が見つかりそうなぐらいにまで話しが進展を見せていた。

 普通に考えて、子供だけで解決しようというのがそもそもの間違いだ。マンガやアニメのような子供名探偵なんてのは絵空事に過ぎない。

 大人が、警察が、そして国が解決すべき案件なのだ。

 

『君が言った通り、今日から恭二君に尾行をつけさせる。保護が可能なら、そのままこちらの監視下の元、保護をするよ』

 

「下手に話しかけたら、ザザに勘づかれるかもしれないぞ? まさか奴にも尾行をつけたりするんじゃあないだろうな?」

 

『ああ、つけるつもりだけど……』

 

 その問からの答えを聞くと、和人は小声で「マジかよ……」と呟き、右の掌で顔を覆い、大きく溜息を吐き出した。

 ザザは用心深い人間だ。奴が黒幕だとして、自分の弟をも利用し、証拠を残さず殺人を決行していることから、そのことは容易に想像出来る。

 

 尾行にもすぐに気づく可能性が高い。もし気付かれた場合、彼はすぐに第三者に自分たちの事がバレたと感づくことだろう。

 

 もしそうなればどうなるか? 当然疑いの矛先が弟である恭二に向けられるだろう。

 用心深い彼のことだから、最悪その場で恭二を消すかもしれない。

 

 なので今回の事件、容疑者については慎重に慎重にことを運ばなければならない。

 和人は呆れた表情をしながら電話越しにそのことを菊岡に伝え、今回の最も重要なことを改めて話して聞かせる。

 

『なるほどね、キリト君の言いたいことは分かったよ。けど安心してほしい。彼らはプロだ、そうそう簡単にヘマなんかしないさ、信用してくれていい』

 

「……ほ、本当なんだろうな……」

 

『勿論だとも。それに、尾行が上手く行けば尻尾を掴むことが出来るかもしれない。事件解決に一気に近づくことが出来るんだ』

 

「……わかった……、菊岡さんがそこまで言うのなら、信じることにするよ……」

 

『ああ、すまないねキリト君。なあに、恭二君にも護衛はつけるんだ。それに昌一が怪しい行動を見せたらすぐに取り押さえる。安心してくれていい』

 

「は……はあ……」

 

 正直、不安だ。彼の言っていること一つ一つが、急に不安でしからなくなってきた。

 何故だかわからないが、これからのことが心配でしょうがない。

 

『それじゃあ、僕は早速動くことにするよ。キリト君……貴重な情報提供、感謝するよ』

 

「あ、ああ……、頼んだぞ菊岡さん、本当に……」

 

 和人からの声を聞き届けると、菊岡は『任せてくれ』と、頼もしいんだかそうじゃないんだか判断が難しい一言だけ最後に残し、通話を切った。

 

「…………」

 

「ん、電話……終わったの? 和人……?」

 

「ああ……とりあえずは……な」

 

 和人の頭には「不安」の文字でいっぱいだった。しかし、とりあえずは菊岡という大きな味方を得られたことには、安心しているのも事実だ。

 これで少しは話しが前へ進んでいってくれる。

 

「お疲れ様、和人」

 

「ああ、ありがとう、木綿季」

 

 スマートフォンを片手に持っている和人に、木綿季が労いの言葉を、ニコッと微笑みながら優しくかける。

 すると和人は、そんな彼女の笑顔が愛おしくなったのか、椅子から腰を上げて木綿季に歩み寄り、抱きしめるとそのまま勢いそのままにベッドに押し倒した。

 突然押し倒された木綿季は驚きつつも、特に何も抵抗せずに、顔を赤らめながらも彼を受け入れた。

 

「和人……」

 

「ごめん木綿季、ちょっとこのままにさせてくれ……」

 

「……うん、いいよ。ずっとずっと、頑張ってたもんね、和人……」

 

 そう言いながら、木綿季は和人の背中と後頭部に手を回し、自分の胸へと押し当てた。

 和人は少々苦しそうにしていたが、心からの安心感に包まれていた。

 木綿季の心臓の鼓動の音が、ドクンドクンという音が聞こえてくる。健康的な血液が彼女の全身を循環している証拠だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 和人が木綿季を抱き締めるように、木綿季も彼をぎゅっと力強く抱き続けた。

 今の自分の居場所を作ってくれた愛する男の子が安心出来るように、精一杯抱き締め続けた。

 

「……木綿季、温かい……」

 

「和人も……、とっても温かいや……」

 

 この温かさ、いつまでも守っていきたい。木綿季は、彼女は和人にとって陽だまりだ。

 木綿季が笑ってくれるからこそ、彼も安心して毎日を過ごすことが出来ていた。

 

「和人……」

 

 まるで母親に甘える子供のように、和人は木綿季を求めていた。そんな彼の気持ちを汲み取ったのか、木綿季は右手で彼の頭をそっと優しく、温かく撫で始めた。

 何回も何回も、彼が安心出来るように、これまでの恩返しに少しでもなるのならと、ひたすらに手を動かし続けた。

 

「木綿季……んん……ッ」

 

「よしよし……、和人も随分甘えん坊だね……」

 

「……俺だって、誰かに甘えたくなる時くらい……あるさ……」

 

「……ふふ、和人可愛い……♪」

 

「な……ッそ、そんなんじゃないっての……ッ」

 

「あはは、照れてる照れてる♪」

 

 長いこと、人に甘えるということを忘れていた和人は、木綿季の温もりを肌で感じ、周りにこんなにも自分を支えてくれる人がいるんだなと、改めてありがたいと胸に抱いていた。

 

 そしてこの温かさを、恭二も感じるべきだとも、思っていた。

 今回の事件、何もしなくても多分大人達が解決してくれそうだ。

 

 赤眼のザザの正体は新川昌一。彼の住所などの個人情報は現在総務省が所持している、旧SAOの顧客情報からすぐに割り出せるだろう。

 そして恭二には護衛がつく。多分このまま行けば事件は解決する、それは間違いない。

 

 しかし何だろう、このまま何もしないで吉報を待つのか? このまま菊岡さんに全部まかせていいのだろうか?

 昨日、俺は恭二に何て言った? シノンから何て言われた?

 

 

(俺は……君のこと、本当に友達だと思ってる!)

 

 

(お願いキリト……彼を……、恭二君を助けて……ッ)

 

 

「…………」

 

「……和人?」

 

 そうだ、俺は彼に言ったじゃないか。友達だと思ってるって、それに……シノンにも、彼を助けるって約束した。

 

 だのに、肝心な所は他人任せか? そうじゃあないだろ! 本当に大事な友達なら、大切な人たちなら、自分の手で助けてみせろよッ!

 

 かつて木綿季の為に走り回ったみたいに、もう一度走ってみせろ! 桐ヶ谷和人ッ!

 

「…………ッ」

 

「ねえ、和人……、和人の考えてること、当ててみせよっか……?」

 

「……なんだ?」

 

 そう言うと、和人はすっと木綿季の胸から顔を離し、彼女からの話に耳を傾ける。

 木綿季の顔は、和人の考えてることなんてお見通しだよと言わんばかりの、優しい顔をしていた。

 

「恭二を……助けたいんだよね?」

 

「……ああ」

 

「シノンとの約束、守りたいんだよね?」

 

「…………ああッ」

 

「……なら行って、和人……」

 

「え……え、で、でも……」

 

 全てを見透かされてた和人は、驚きの表情を隠せなかった。直接の会話の内容を聞かれたわけでもないのに、何が今起こっているのか、木綿季には大体冊子がついているようだった。末恐ろしい娘である。

 

「……和人と出会って、今までどれだけ一緒にいたと思ってるの? ボクが病気と闘ってる時も、治った時も、退院した時も、そして……今もずっと一緒なんだよ?」

 

「…………」

 

「和人の考えてることなんて、お見通しだよ。だって、ボクの……一番大好きな人だもん」

 

「ゆ、木綿季……ッ」

 

 この二人は、恋人、義兄妹という言葉だけでは書き表せないような、硬い硬い絆で結ばれている。

 不治の病と言われていたAIDSと真っ向から闘い、あまりにも濃すぎる毎日を過ごしてきたことにより、ここまで硬い絆が築かれていたのだ。

 

 これまでの壮絶な人生を歩んできたこともあり、片時も離れることが嫌だった二人だったが、ここにきて初めて木綿季の方から、和人の背中を押した。

 

「ボクは大丈夫だから、多分今回のことも……和人にしか出来ないことなんだと思うんだ」

 

「お、俺にしか……?」

 

「そうだよ、ボクの病気を治してくれたみたいに、多分恭二とシノンを助けられるのは、和人しかいないと思うの」

 

「…………」

 

 人間、常にずっと一緒にいるということは無理だ。それぞれ用事や学業、仕事などもある。必ず離れなくてはいけない時はあるものだ。

 しかし、この二人はあまりにも一緒にい過ぎたため『依存』にも近い関係にまでなっていた。

 

 だからこそ、これまで以上に強い自分になるため、木綿季は自分から言い出したのだ。

 いつまでも彼に守られっぱなしではダメだ。もっともっと、ボク自身も強くならないと……と、心に強く誓っていた。

 

 木綿季は真っ直ぐに、和人の瞳を見つめていた。曇のない眼差しで、自分の心と同じくらい真っ直ぐな視線を彼に向けている。

 

 心に迷いを抱えていた和人であったが、彼女からの言葉と、真剣な眼差しを受け取ると、決心がついたのか吹っ切れたのか、やれやれと言った溜め息を吐き出すとともに、奇妙な笑顔を見せていた。

 

「……わかったよ。ありがとう、木綿季」

 

「えへへ、どういたしまして♪」

 

 木綿季の曇りのない笑顔を見ると、和人は上体をスッと起こし、頭の中でこれから自分がすべき事を整理し始めた。

 

 まず今置かれている状況を一度整理してみよう。

 今回の事件を解決するためには、黒幕である新川昌一を逮捕することと、恭二を奴の手から救い出すこと。

 現在、菊岡管下の元漸く本格的な対策が講じられようとしていること。

 そして、恭二には護衛が、昌一には尾行が一人ずつ付くということ。

 

(ここまでは大丈夫だ。そしてこれからどうするか……)

 

 一番に優先させなくてはいけないのは、これ以上犠牲者を出させないことだ。

 恭二は勿論、GGOプレイヤーも殺させてはならないし、これ以上仮想世界絡みで好き勝手させてはいけない。

 ならばどうすればいいか、言うだけなら簡単だが、犯行を止めるというのは簡単ではない。警察をも欺いたザザを追い詰められるのだろうか?

 ……いや、そんなことは問題ではない。しくじれば全てがおじゃんになる。やり抜かなくてはいけない、俺の手で……友達を、恭二を救わなくては……!

 

「……とは言ったものの……、どうするかなあ」

 

「和人……どうしたの?」

 

「……ん、ああ……、今後の動きを考えていたんだけど、いざ動こうって思っても、どうやって動いていったらいいのかなって……」

 

「ふーん……和人でもわからないことがあるんだ」

 

「あのな……、俺は理系とメカトロニクスを専攻してるだけであって、全ての分野が得意ってわけじゃあないんだぞ……」

 

「へえー……そうなんだあ。和人ってすっごく頭良くて万能って印象あったから、ちょっと意外」

 

 和人にもそんな一面があると知った木綿季は、ちょっとだけ嬉しそうにベッドから足をはみ出させ、パタパタとさせてニカッと笑っている。

 

 理系より文系の方が得意な木綿季は、メカトロニクスとかのことはよくはわからないが、自分の得意な分野でなら、和人を抜かせるかもとも思っていた。いつまでも和人にいい顔させないんだからねとも。

 

「……ん、得意な分野……?」

 

「ど、どうした……木綿季?」

 

「あ、えっと……そうだね……、んと」

 

 木綿季は、今ふと思いついたことを一旦頭の中で整理整頓してから、和人に言って聞かせようとした。

 ひょっとしたら僅かにでも和人の助けになるのならと、何かのヒントにでもなればいいなと思いながら口を開く。

 

「あのね、和人はボクの病気を治してくれる方法、どうやって思いついたの?」

 

「え……、そ、それは……テレビ以外でどんなことをすれば、ドナーを集められるかなって考えたんだよ」

 

「ふんふん、それでそれで?」

 

 食い入るように次から次へと疑問をぶつけてくる木綿季の態度に若干のやりにくさを感じながらも、和人は彼女からの疑問に答えていく。

 

「それで、セブンみたいにALOでチャリティーライブをやれば、注目を集められるかなって思ったんだ」

 

「へぇー……そうだったんだ♪」

 

「あ、ああ……そうだ。最初は賭けにも近い策だと思ったけど、無事に成功してよかったよ」

 

「そっかそっか……、んー……それならさあ」

 

 そう呟きながら、木綿季はピョンとベッドから体を起こし、隣で腰掛けている和人の顔に、自身の顔をぐいぐいと近付けさせて、自分の考えを述べた。

 和人も少しだけたじたじしてしまっていたが、恥ずかしさを抑えながら彼女からの返答を待つ。

 

「もう一度……セブンの力を借りてみたらどうかな?」

 

「え……セブンの?」

 

「うん! 今回の事件の被害者って、じーじーおー? っていうVRMMOのプレイヤーさんなんだよね?」

 

「あ、ああ……そうみたいだけど……」

 

「なら、セブンなら何か詳しいこと知ってるんじゃあないかな? 茅場晶彦って人を除けば、セブンが今、一番仮想世界に詳しいでしょ?」

 

「い、言われてみれば確かにそうだな……、確かに今セブンは様々なVRMMOの開発に手を貸している。恐らくGGOのことも、何か知ってるかもしれない」

 

「それにそれに、ユイちゃんやストレアの力も借りられたら、もっと詳しく調べられるんじゃあないかな?」

 

 明るく可愛らしい口調と仕草で話しかけている木綿季であったが、言っていることは彼の助けに大きく貢献出来そうな内容であった。

 

 色々と後から見返りを求められそうだが、木綿季の助言をありがたく受け取り、和人はデスクに置いてあるスマートフォンを手に取り、七色の番号を選択して、彼女に連絡を試みた。

 

 普段アイドル活動とVR技術開発で忙しい彼女が今回協力してもらえるかどうかはわからない。

 

 前回の木綿季のチャリティーの件も半分無理言ってお願いしたようなもんだ。今回もお願いを聞いてもらえたらラッキー、といった程度の気持ちで彼女のスマホにかかっているであろうコール音を耳にし続ける。

 

 10回ほどコール音が響いた時に、ガチャっというサウンドが聞こえ、幼い女の子の眠たそうな声が聞こえてきた。

 

『……ふあ、おはよぉ……キリトくん……』

 

「ああ、おはようセブン、すまない……寝てたのか……」

 

『うん……、昨日で秋の全国ツアーが終わったから……、寝たのも遅くて……』

 

 話してる相手をも夢の世界へと誘ってしまいそうな七色の声は、彼女が普段どれだけハードな毎日を過ごしているか、というのを物語っていた。

 

「それで……? 朝から私に電話をしなければならない案件って、一体何なのかしら……?」

 

 眠そうな声から一転、ちょっとだけ不機嫌なオーラを醸し出しながら、七色は和人に電話の目的を尋ねた。

 気のせいかもしれないが、返答次第ではただじゃあおかないわよ、と言っているようにも聞こえてしまう。

 

「あ、朝からすまんセブン。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……大丈夫かな」

 

『……私に連絡をよこしたってことは、デートのお誘い?』

 

「なっ……、で、デートォ!?」

 

「…………ッ」

 

 デートというワードを聞いた瞬間、今度は木綿季の顔が穏やかではなくなっていった。

 ニコニコ笑ってはいるが、目が笑ってはおらず、負のオーラを全開にしながら、異常なまでのプレッシャーを和人に向かって放っている。

 

 あれだけ大切な話をしたばかりだというのに、何を呑気なことを言ってるの?

 それに浮気は許さないよ? したらわかってるよね? と、何も言わなくても態度でわかるよう、木綿季は和人にプレッシャーをかけ続けた。

 

「ち、違う! デートの話じゃない! って木綿季違うぞ! 濡れ衣だ! 落ち着いてくれ!」

 

「ならさっさと本題に入る!」

 

「は……はひぃ!?」

 

 

――――――

 

 

 それから和人は、これまでの事のあらましと、これから動くためにも七色の協力が欲しいこと、そしてユイやストレアにも手を貸してほしいことを、包み隠さず全て話して聞かせた。

 

 和人から話を聞いた七色は、先ほどの菊岡と同じようにしばらく考え込み、じっくり思考を巡らせて結論を導き出し、和人に返答を返す。

 

『なるほどね、大体キリト君の言いたい事はわかったわ』

 

「そ、それじゃあ……」

 

『ええ、私にも協力させてくれないかしら? 本当は今日くらいゆっくり休みたかったところだけど……』

 

「あ……う、そ、その……すまない……」

 

『別に構わないわよ! キリト君たちといる時間は私も楽しいから! それじゃあ……どうすればいいのかしら?』

 

「あ、えっと……、ALOで会えないかな。ユイとストレアも呼んでほしい」

 

『ええ、わかったわ。ユウキちゃんもくるのかしら?』

 

「ああ、連れてくよ」

 

 和人がちらっと木綿季のいる方を見ると、木綿季はわかっていたかのように、サムズアップして親指を立てながら、片手にアミュスフィアを抱えていた。

 

『OKよ、それじゃあ……キリト君のホームに行けばいいのかしら?』

 

「ああ、構わないよ」

 

「ボクもいくからねー!」

 

 木綿季の元気いっぱいの声が聞こえたのか、スピーカーの向こうから「くすくす」と笑い声が小さく聞こえた。

 木綿季も七色との再会が心底嬉しいようだ。それもそのはず、木綿季にとって七色は命の恩人の一人であり、退院後の平穏な生活を送れるよう手回しをしてくれた人でもあったからだ。

 本当は現実世界で顔を合わせて直接お礼を言いたいところだったが、なかなかそうもいかない。

 

 七色に会えると思った木綿季は、今起こっている事件があるのにも関わらず、少しだけ浮ついた気持ちになっていた。

 和人よりも先にアミュスフィアを装着し、ゆっくりベッドに体を寝かせる和人に「早く早く!」と急かしている。

 

「わ、わかったから少しは落ち着け木綿季、遊びに行く訳じゃあないんだぞ? まあ気持ちはわかるけどな」

 

「ボクだってわかってるよ。でも久しぶりに会えるんだよ? 嬉しいものは嬉しいもの」

 

「……まあ、そうだよな。セブンがいたからこそ、俺は木綿季を助けることが出来たわけだからな……」

 

「ちゃんとお礼、言わなきゃね」

 

「……ああ、勿論だ」

 

 和人もベッドに体を仰向けに寝かせると、いつものように体をリラックスさせ、木綿季の右手を左手で握り、アミュスフィアを装着し、ゆっくりと目を閉じる。

 そして、今まで何十回何百回と繰り返し言い続けてきたあの言葉を口ずさむ。

 

「リンク・スタートッ」

「リンク・スタート!」

 

 




 
 お読みいただき、ありがとうございます。ここにて原作と違った角度からの事件解決を目指す和人君。やはりセブンを始めゲーム組がいるとシナリオの幅がぐーんと広がりますね。
 さあさあ、私も楽しくなってまいりました! 次の投稿も早めに出来るように頑張ります!
 
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