ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味 作:むこ(連載継続頑張ります)
お久しぶりです。色々とここで綴りたいことはあるのですが、本当に色々ありすぎたため、またTwitterや活動報告で語ろうかと思います。
今年最後の更新になります。この投稿がきっかけとなって、またペースが早まればな、と思います。
では、小さな春編第3話、ご覧くださいませ。
西暦2026年12月17日(木) 午後13:45 アルヴヘイムオンライン スヴァルトアールヴヘイム 浮島草原ヴォーグリンデ
「あ……アルゴさん!」
激しい衝撃音、そして土煙と共に突如戦場に現れたプレイヤーは、シリカのよく知る人物、同じケットシー族のアルゴであった。
巨大狼に何が起こったのかはもう言うまでもない。
アルゴの得意とする武器、ナックルによる一撃が、見事狼の脳天に決まっていたのだ。
ALOによる打撃武器であるハンマーやナックルは、相手の頭の部位に当てると、状態異常:
アルゴの渾身の一撃により、ナックルは狼のドタマにクリーンヒット。
まるでテレビで放送している特撮ヒーローかのように、シリカ達のピンチを救ったのだ。
「のんびり話してる余裕はないゾ、今のうちにソイツを回復してやるんダ!」
彼女とは一年ぶりの再会だ。しかしその感動に浸っている余裕はなさそうだ。
時間が経てば狼も状態異常から立ち直る。そうなれば再び苦戦を強いられるのは必至。
そうなる前に態勢を立て直し、決着をつけなくては。
「あ……はい!」
アルゴから指示を受けると、シリカはすぐさまジュンに駆け寄り、彼の背中に手を回し、介抱する。
そしてピナに状態異常回復スキル『キュアブレス』の指示を送る。
するとピナの口から水色にキラキラ光る霧状のブレスが吐き出され、ジュンの体の周りを優しく包み込む。
すると先程までに彼にまとわりついていた状態異常のアイコンとエフェクトが、キレイさっぱり消えてなくなった。
それと同時にジュンの視界もクリアになり、アバターを動かす力も戻ってきた。
剣を杖にして立ち上がると、口元を左手で拭い、視線をシリカ、ピナ、アルゴの順に向ける。
「あ、ありがとう……」
窮地を救ってくれたアルゴに、そして状態異常を治療してくれたシリカとピナに感謝の気持ちを伝える。
二人は簡単な笑顔で返事を返すと、視線を再び視線を狼に向ける。
「ホラ! ぼさっとしてる余裕はないゾ! ジュン坊!」
「ジュ、ジュン坊って……」
体制を整えたのも束の間、アルゴが檄を飛ばす。
狼はあくまでも一時的に
そして、状態異常の持続時間はモンスターによってバラツキがある。
元々効果がない敵や、ほんの数秒しか効かない場合もある。
新たにカーディナル・システムから生み出されたこの狼の状態異常持続時間が、どれほどのものかはわからないが、仕留めるチャンスは今しかないと言ってもいいだろう。
「急げ! もう目覚めるゾ!」
アルゴが叫ぶと、狼は体を震わせながらムクリと起き上がった。
そして自分を傷付けた目の前の妖精達に、鋭い眼光を差し向ける。
「ちぇ、思ったよりも早かったナ……」
状態異常が解除されると、狼は敵意を剥き出しにしながら、唸り声を上げる。
眉間にしわを寄せ、恨みと憎しみを込めて、今にも再び襲いかかってきそうな迫力だ。
「……とは言ったものの、ここからどうしましょうか……」
ダガーを構えて臨戦態勢を整えながら、シリカが相談を持ちかける。
未だ膠着状態が続いていることに変わりはない。
アルゴが新たに戦力として加わったとしても、シリカと同様サポート型ビルドである彼女では、決定力は得られないだろう。
ここはやはり、何とかして両手剣使いであるジュンの高火力による一撃をお見舞したいところだ。
「流石にオレっちの腕っ節じゃあアイツを仕留めるのは難しいナ……」
STRよりAGIにステ振りをしているアルゴでは、狼にこれ以上まとまったダメージを与えるのは困難を極めそうだった。
先程の一撃はあくまでも不意を突いたからこそ出来た芸当だ。
既に敵として認識されてしまっている今では、あの様なチャンスは訪れることはないだろう。
『GAAAAAAA!!』
空気が震えるほどの雄叫びか、
あちらさんは、どうやらあまり考える猶予を与えてはくれなさそうだ。
「来るゾ!」
アルゴがジュンとシリカに警戒を促すと、狼は自慢の牙と爪を光らせて、三人に襲い掛かる。
アルゴは左に、シリカは右に、ジュンは後方に地面を蹴ってステップし、いきり立つ狼の爪攻撃を回避する。
『GAOOOO!!』
繰り出された右足による攻撃は『ゴスン』という大きな音とともに地面を抉った。
それと同時に、今度は左足からの攻撃が、狼から見て正面にいるジュン目掛けて振るわれる。
「なっ……」
「さ、さっきとパターンが違います!?」
先程までは地面に爪を立てる時、僅かに隙を晒していた狼であったが、今度の攻撃はその隙すらも見せなかった。
よくよく見てみると、狼のHPバーは最後の一本のレッドゾーンまで突入している。
この為に、また攻撃パターンが変化したというわけだ。
攻撃頻度は激しさを増し、狼自身の動きの機敏さもより上がっていた。
もはやここまで早いと、ただのAGI型特化ビルドというだけでは、太刀打ち出来そうにないアクティブさだ。
キリトやユウキといった、並外れた反応速度と戦闘経験を積んだプレイヤーでなければ対峙できないだろう。
ステップの動作の最中であるジュンに、狼の爪が襲い掛かる。
このままの回避は不可能と判断したジュンは、咄嗟に右手に握っている両手剣を構え、防御の姿勢を取る。
「ぐぅッ!?」
「ジュン君ッ!」
狼の左爪による攻撃は『ガキィン』という激しい金属音を轟かせ、ジュンの両手剣に防がれていた。
辛うじて防御に成功したジュンは、右手で剣の柄を握り、左手を刀身に当て、片膝立ちの状態で狼の攻撃に耐えていた。
重鎧を身にまとい、重い両手剣を振り回すパワー型ビルドであるジュンは、こうしたタンクの役割も兼任出来る。
しかし本職のタンクではないため、盾を使っていないせいもあってか、そのHPはゴリゴリと削られていった。
「ジュン君、今加勢します!」
シリカがこのままにしておけないと、ダガーを握りしめて一歩、脚を踏み出す。
「シリカ! 来ないで!」
「え……!?」
あろうことか、ジュンはシリカの助太刀を拒否した。彼のHPはまだ十分に回復しきっていない。
外側からであっても、ピナのヒールブレス等で援護も出来るのだが、ジュンはそれすらも拒否してしまったのだ。
「ど、どうしてですか! このままじゃやられちゃいます!」
「そうだゾ! 変な意地張ってないで、全員で連携して戦うんダ!」
二人の心配をよそに、頑なにジュンは態度を改めようとはしなかった。
今の彼を突き動かしているものは、なんてことのないものだ。
男の意地。
ただそれだけだ。
男は決して、引いてはいけないことがある。譲ってはならないものがある。
ただの強情っ張りだとか、頑固だとか、そういう風に感じ取られることもあるだろう。
しかし、それでも男には一歩も引けない、妥協してはならない場面があるのだ。
ジュンにとっては、今のこの状況がそれなのだ。
自分の慢心が原因でパートナーに負担を掛けてしまい、カッコ悪い所を晒したばかりか、危機一髪な所を助けてもらった。
男としてこれ以上情けないことは無い。
「イヤだ……オレ一人でやる!」
「じ、ジュンくん……」
「…………」
必死で狼の攻撃を防いでいるジュンをシリカは心配そうに、アルゴは呆れた顔で見つめていた。
しかし、二人は決してその気持ちを無下にするようなことはしない。
何となく、彼の気持ちが、男の子のプライドというものがわかっていたからだ。
傍から見たら、それはとてもちっぽけで下らないものなのかもしれない。
しかし、そんなちっぽけなものが、時には絶対に譲れないものになる。
「……シリカ、ここはアイツに任せるゾ」
「あ、アルゴさん……」
腕を頭の後ろで組ませながら、アルゴは淡々と話を続ける。
「ジュン坊は今、プライドと戦ってるのサ」
「ぷ、プライド……ですか?」
「……アア、ちっぽけでつまらないプライド……サ」
口では悪態を吐きながらも、どこか微笑ましく、アルゴは語り続ける。
かつてSAOで、大切な人のためにがむしゃらにモンスターを倒し続けたとある黒い剣士のことを、間近で見てきたことがあったからだ。
「……少し似てるナ、アイツに……」
そんな彼女には、今のジュンの姿がかつて自分がSAOで見ていた彼と、どことなく重なって見えていたのだ。
だからジュンの気持ちを、アルゴはなんとなく察していた。
「でも、本気でヤバくなったら、オレっちたちも動くからナ?」
「……は、はい……」
(頑張れヨ……、男の子)
折角助けに来たのに、このままでは本末転倒ではないかという、アルゴ達の気持ちを理解しつつ、ジュンは狼と対峙していた。
狼の力は強く、パワー型ビルドであるジュンも、徐々に徐々にだが押されていっていた。
少しずつ、少しずつ、ジュンの身体は狼の爪と地面に挟まれそうなくらいにまで追い詰められていった。
「ジュ、ジュンくんッ!」
「ぐ……っ」
持っている剣ごと押しつぶそうと、狼はさらに前足に力を込める。
ズンッ、ズンッと周囲に音を轟かせながら、ジュンにかかる圧力を増していく。
どうみても劣勢。このままではジュンがやられてしまうのも時間の問題だろう。
しかし、難しい性格をしているジュンは、頑なに助けを拒んでいた。
一見、ただのワガママに見えるこの無謀な戦いであったが、ジュンは諦めようとはしなかった。
退けない戦いだからというわけではない。何か彼には秘策が、勝つための活路があるかように、目の光を絶やさなかった。
「……ジュンくん……」
気が付くと、圧倒的不利の戦いを強いられていたはずのジュンの表情は、不敵な笑みへと変わっていた。
敗北を察して笑っているのか、それとも何か勝機を見出したのかはわからない。
しかし、彼はその口元を歪ませて『勝った』とでも言いたげに微笑んでいる。
「……やっと、やっとだよ……」
「GARRRR……」
「やっと……お前の動きを止めることが出来たよ……ッ」
そう言い放つとジュンは目を閉じ、ぶつぶつと何かを呟き始めた。
声量が小さく、遠くからは何を言ってるのかわからないが、彼の前方にスペルワードが浮かび上がってるのを見ると、何やら魔法の詠唱をしていることがわかる。
「エック・フレイギュア・スリール・ゲイール・ムスピーリ……ッ」
詠唱が完了しスペルワードが完成すると、何も無かった空間に光が集まり始める。
それは周囲の光源を吸収しているかのように少しずつ大きくなり、火球の形を作っていった。
炎属性中級魔法『フレイム・ブラスト』
通常ならば、放物線を描いてターゲットに真っ直ぐ飛翔していくはずの火球魔法だ。
しかし今回は標的が超至近距離にいたこともあり、いきなりジュンの目の前で『ドゴォン』という激しい轟音を響かせながら爆散していった。
『GOAAAAAA!!』
爆散した炎魔法は激しい爆炎と火柱を舞い上げ、ヴォーグリンデの草原フィールドを
炎妖精種族のサラマンダーであるジュンの放った魔法は、それほど強力だったのだ。
水妖精種族であるウンディーネのアスナやシウネーが、回復魔法や氷魔法を得意とするようにように、炎魔法はジュンの十八番、というわけだった。
「ぐあッ!」
しかしあまりの爆風故に、狼の近くにいたジュンも勢いよく後方へと吹き飛ばされる。
三回ほどアバターを地面に打ち付け、転がりながらも必死に受け身を取り、全身を埃まみれにし、不格好ながらなんとか態勢を立て直す。
爆発による風はシリカたちの立っている位置にも到達しており、彼女らの装備や髪の毛、周囲の草木の葉っぱなどを揺らしていた。
「こ、これが中級魔法の威力なのカ? 上級魔法くらいの威力はあるゾ!」
「す、すごいです……」
爆風から顔を腕で庇っているシリカが、ジュンの魔法熟練度の高さに感心している。
やがて煙が風に煽られて辺りに散っていくと、爆発の中心地の全貌が明らかとなった。
『GA……GAGA……』
「ざ、ざまあ見ろ……、へへ……」
ジュンの視線の先には顔が焼けただれ、自慢の甲殻を大きく抉られた狼の姿があった。
あれだけ攻撃をお見舞いしても傷一つつかなかった狼の外殻を、破壊することに成功したのである。
「……部位破壊だナ、ジュン坊のヤツ、狼の弱点を突いたんダ」
アルゴの言った通り、この狼の弱点は炎属性となっている。しかし、ジュンはそれを知っていて魔法を放った訳ではない。
あの状態のまま攻撃に移れる手段が、魔法しかなかったから、あの行動を取ったにすぎない。
そして、野生動物は火に弱いのが定石という、安易な発想も手伝い、それらが重なり、今回の戦果へと繋がったのだ。
「ジュン坊! 早くトドメを刺すんダ!」
「わ……わかってる!」
アルゴに急かされると、ジュンは自分の傍らに落ちている両手剣を拾い上げ、しっかりと握り直す。
疲労困憊の身体を引きずり、自分らを散々痛めつけてくれた標的に狙いを絞る。
向こうも満身創痍、部位破壊のおかげもあり、上手く立ち上がれないようだ。トドメを刺すのなら今を置いてほかにない。
一歩ずつ足を動かし、少しずつ距離を詰めていく。狼のHPは残り数ドットという所まで追い詰めている。
ソードスキルを使わなくとも、通常攻撃の一振りで屠ることが出来るだろう。
やがてジュンは、自分の背丈とと同じくらいの大きさを誇る狼の顔の目の前までたどり着いていた。
早くしないとまた狼が立ち上がってしまう。
またパターンが変わる可能性も否定出来ない。そうなる前に決着をつけなくては。
ジュンは両手剣を右手だけで握り、片手直剣の要領で背中の方向から、自分の目の前の地面に叩きつけるようにして、思い切り乱暴に振り下ろした。
剣の切っ先は『ズドッ』という鈍い音を発しながら狼の眉間へと吸い込まれていく。
それと同時に狼のHPが残りのゲージを失い、全損させ、巨大な狼の身体が青白い光を放ち始め、辺りを照らしながら砕け散り、ポリゴン片となって爆散していった。
「や、やった……」
シリカが小さく声を漏らしながら、舞い落ちるポリゴン片を見つめている。
無数に散らばったポリゴン片はキラキラと煌めきながら、四方八方に散っていき、やがてどんどん小さくなり、見えなくなっていった。
《 Quest Clear!!》
ジュンとシリカの目の前にオーケストラ調のファンファーレが流れるとともに、クエストクリアが知らされる。
そのロゴが消えるとリザルト画面が表示され、今回のクエストの報酬のアイテムとユルドが支払われる。
しかし、シリカもジュンもその喜びや達成感よりも疲労感の方が勝っており、それらに対しては大きな反応を見せることはなかった。
そんな彼らの心情を察してか、アルゴはゆっくり歩み寄り、二人に労いの言葉をかける。
「お疲れ様ナ、二人とも。新クエストクリアーダ」
「あ、ありがとう、ございます……」
「オレっちの助太刀があったとはいえ、たった二人でクリアしちまうなんてナ」
おそらく、今回シリカたちが受注したクエストは、もっと大人数で挑むこと前提のクエストだったのだろう。
ALOのパーティ上限人数が八人に拡張されてから、必然的にモンスターの強さ、クエストの難易度が調整されていたのだ。
無論、それは運営スタッフが直接やった事ではなく、カーディナルが現状のシステムに合わせて調整を施したのだ。
これまでのような少数精鋭でクエストをこなしていたプレイヤーも、今までとは違った連携や作戦を考えてから挑まなければ、今回のシリカ達のように苦戦を強いられてしまうだろう。
「……はァ、はァ……」
ボロボロになっているジュンがガシャンと音を立てながら、地面に膝をついた。
緊張の糸が切れたのか、疲れがどっと一気に押し寄せてきたのか、大きく息を乱している。
「ジュン君!」
そんな彼を支えようと、シリカが慌ててそばまで駆け寄る。背中に手を回し、楽な姿勢になるように手を貸す。
少し落ち着き、体をリラックスさせると、ようやく周りを見る余裕が出来てきたのか、シリカとアルゴに視線を移す。
「シリカ、アルゴさん、ありがとう……。二人がいなかったらやられてた……」
「な、何言ってるんですか! わ、私たちはパートナーじゃないですか!」
「クア♪」
パートナーというワードを口にしながら、ほんの少し顔を赤らめ、シリカは必死に彼のフォローに入る。
ピナもそんな心持ちがわかるのか、可愛らしい鳴き声を響かせながら首を縦に振っている。
「そうだナ、この貸しは高くつくゾ? なんてったって、このアルゴおねーさんの手を借りたんだからナ♪」
鼠のアルゴの異名を持つ彼女がマントを翻しながら不敵な笑みを見せると、思わずシリカは「あ、あはは……」と苦笑いを見せる。
また何か見返りを求められるんだなと思ってしまっていたのだ。
SAO時代から彼女の情報網は凄まじいの一言だ。それはシリカもよく知っている。
だからこそ、貴重な情報にはそれなりの見返りを要求される。
今回のように、アルゴ自らが直接戦闘に参加するということは、かなりの報酬を要求されるに違いないだろう。
「まあ……でも、今回はタダにしといてやるヨ。新しいクエストの情報もゲット出来たし、何より……」
「……?」
「思わぬレアな情報もゲット出来たことだしナ、フフフ」
「え……?」
アルゴが両腕を後頭部で組みながら、今度はニヤニヤとした視線を二人に向けている。
その浮わついた視線が何なのかわからないシリカだったが、自分が今何をしているか改めて自覚すると、その視線の正体にようやく気付いたようだ。
レアな情報。それは言うまでもなく、シリカが異性のプレイヤーと二人きりでいたという事実のことだ。
何かと色恋沙汰や浮わついた話が大好きな年頃のプレイヤーが多いこのALO。
アルゴがそんなネタを放ったらかしにするはずがない。
勿論、シリカもジュンもそんな関係ではない。ユウキ経由で知り合った、気の合ったプレイヤー、というだけにすぎない。
しかし、年頃の異性のプレイヤー同士が二人きりで楽しく遊んでいる、といった状況を目の当たりにしてしまっては、アルゴでなくてもそう思ってしまうことだろう。
「どうやらお邪魔みたいだしナ、おねーさんは退散するとしようカ♪」
「え……、や、ちょっとアルゴさん!?」
顔を真っ赤にしながら、必死に弁明しようとするシリカの事などつゆ知らず。
アルゴは仕事を全て片付けたサラリーマンのような満足感を得ながら、翅を広げ、シリカ達に背を向けた。
「どうなったか、あとでおねーさんに教えろよナー!」
「や……、ち、違くて……、あ、アルゴさぁーんッ!」
小悪魔的な笑みを振りまきながら、アルゴはすぐさまそこから飛び去っていってしまった。
まるでシリカの今日の行動を全て見透かしてきたかのような、彼女の秘密を探るためだけに現れたような印象を受ける。
そもそも、何故彼女は一年も姿を見せなかったのだろうか?
クラウド・ブレイン騒動か収まってからというもの、キリトやアスナ、ユウキらといったプレイヤーは引き続きALOにダイブを続けていた。
そう、ただ一人アルゴだけが、全く姿を見せなかったのである。
SAOメンバーの中で一番謎の多い彼女が、また一つ不可解な謎を重ねたというわけだ。
「おねーさんもやっと時間によゆーが出来たからナ、またこれからちょくちょく遊ぼうナー!」
そう言い残し、アルゴは手を振りながら別れの挨拶をし、翅を大きく羽ばたかせみるみるうちに小さくなっていき、ヴォーグリンデを後にした。
風のように舞い降り、そしてまた風のように去っていく。
きっとあの俊敏さこそが、彼女が情報屋と言わしめる所以なのだろう。
そのどんどん小さくなっていく姿を、シリカはぽかーんとしながら見続けていた。
「うぅ、アルゴさんってば……」
危機を救ってもらったと思えば、今度はからかわれ、そしてあっという間に去っていってしまった。まるで嵐のようだ。
しかし、恥ずかしかったが、悪い気はしなかった。
大変な思いをしたが、何やかんやでクエストは楽しかったし、アルゴと一年ぶりの再開もできた。
またこれからのALOライフが楽しくなっていくことだろう。
すっかり自分が風邪をひいてることを忘れているシリカは、この短時間で起きたことを思い返しながら、視線をジュンに向ける。
「あれ……ジュンくん?」
「……すう、すう……」
「……くすっ」
シリカがアルゴからジュンに目をやると、その視線の先には十代の少年らしい、彼の可愛らしい寝顔があった。
よほどくたびれたのか、どうやら疲れ切って眠ってしまったようだ。
凛々しくも、どこか幼さを残すその顔は、どこか母性本能をくすぐる、なんとも言えない愛らしさがあった。
装備はボロボロ、アバターの身体も土埃で汚れてしまっている。
シリカはそんな彼に、より心地よく休んでもらうために上体をゆっくり寝かせ、自らの太ももの位置にその後頭部を乗せた。
そして、彼の顔をまじまじと見つめる。
「……ジュンくん、可愛い顔してます……」
そう呟くと、シリカはジュンの頭をそっと優しく撫でた。
彼の真紅の髪の毛はまるで女の子の髪の毛のようにサラサラだった。
風が吹くと、シリカの髪の毛や衣服、ピナの毛並みが揺れるとともに、彼の髪の毛も風に揺られてファサッとなびく。
「……ジュンくん、頑張りましたね。かっこよかったですよ……♪」
「……くぅ、くぅ……」
そんな彼の、ちょっと意地っ張りで小生意気さがある顔を、シリカはいつまでも見つめていた。
キリトとは違うタイプの、ちょっとサバサバしてぶっきらぼうだが、人に譲れない男の子らしい一面を見せる、今日だけのパートナーの顔を。
そう、いつまでも、いつまでも……。
ご閲覧、ありがとうございます。
今回は短め&挿絵なしとなっております。と言いますのも、PCモニターがぶっ壊れやがりましたため、編集や処理が出来なくなってしまいました。
そして、良くも悪くも来年から自分の置かれた環境が変わるので、これからも不安定な更新が続くと思います。
しかし、絶対に失踪や打ち切りは致しません。小さな春編が終わったら、復学編、オーディナル・スケール編、ホロウ・リアリゼーション編も控えてますからね。
何はともあれ、2017年もボク意味を愛していただき、ありがとうございました。2018年、どうなるかはわかりませぬが、これからもお付き合いいただければと思う所存でございます。
それでは皆様、良いお年を。