ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 こんばんは、お久しぶりです。
 非常に、非常にゆっくりとしたペースではありますが、なんとか投稿出来ております。
 つい先月、誕生日を迎えると共に、我がボク意味が二周年を迎えることが出来ました。ありがとうございます。
 皆様の支えもあり、なんとか今回も筆を執れることが出来ました。
 それでは……記念すべき第80話、お楽しみください……。
 


第80話〜恋愛相談?〜

 

 

 西暦2026年12月18日(金) 午後19:12 ALO内 新生アインクラッド 第22層キリトのホーム

 

 

 

「やっほー! いらっしゃいみんなー!」

 

「まあ、ゆっくりしていってくれ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 このホームの持ち主である全身黒ずくめの装備に身を包んだスプリガンの少年キリトと、その恋人である元気ハツラツなインプの少女ユウキが、我が家を尋ねてきてくれた友人達を招き入れる。

 

「うん、お邪魔するね? キリトくん、ユウキ」

 

「ほらほら、シリカ……早くこっち来なさいよ?」

 

「あ……は、はいっ」

 

 透き通るように綺麗なアクアブルーのロングヘアをなびかせながら、ウンディーネの少女アスナが招かれたキリトたちのホームに足を踏み入れる。

 その後にレプラコーンのリズベットが続き、入口から一番遠い位置でたじたじになっているケットシーであるシリカに、早くこっちにくるようにと催促を促していた。

 

 別に今すぐ好きな彼に出会うというわけでもなく、ただ単に相談をもちかけるだけなのだが、彼女は今朝からこんな調子だ。

 

「今ココアでもいれるから、適当にくつろいでくれな」

 

「あ、出たわね? ここの名物のココア」

 

「め、名物って……いつからそうなったんだよ」

 

 一番初めにソファに腰を下ろしたリズベットがからかうと、キリトが苦笑いを浮かべながらキッチンに立ち、人数分のココアを入れるためにメニューをいじくる。

 別に本人からしてもココアが名物というわけではなく、ここに遊びに来るとかなりの確率で最初にココアでお出迎えされることから、仲間内でいつの間にかそう呼ばれるようになったようだ。

 

「だってキリトくん、遊びに来ると必ずそれ振る舞うじゃない?」

 

「あ、ボクの時もそうだったよね?」

 

「……だって、みんな好きだろ? ココア」

 

 苦味やクセのあるコーヒー等を出すより、甘くて万人受けがいいココアを振舞った方が外れが少なく、彼自身もそれなりに好きだということもあり、ここでは頻繁にココアが差し出される。

 確かに、ココアを振る舞われて嫌な顔をする人間は少ないだろう。

 人数分のココアをリビング中央のテーブルに並べ終え、キリトも他のみんなと同じようにソファに腰を落ちつける。

 

 入口側から見て手前側のソファには左からアスナ、シリカ、リズベット。

 奥側にはユウキ、キリトの順で並んでいる。

 ココアが淹れられたカップからは、ほのかな甘みを含んだ香りが湯気と共に立ち上っている。

 

「さて……と。ところで……相談したいことってなんなんだい?」

 

 右手にカップを持ち、ココアを口につけながらキリトが話をもちかける。

 するとアスナとリズベットの視線がシリカに向けられた。それに釣られるようにユウキ、そしてキリトの視線も彼女の方に向けられる。

 この様子から、この相談事の核はシリカなのだなと、キリトもユウキもなんとなく悟っていた。

 

「あ、えっと……ですね……」

 

 周りからの視線に気付いたシリカは、自分の今の正直な気持ちを打ち明けようとしたが、なかなか表に出せないようでいた。

 アスナとリズベットは知っているが、やはり事実を知らない人に打ち明けるというものは大変に勇気がいるものだ。

 好意を寄せる彼がいないというのにこの始末なのだから、本人に気持ちを伝える時は一体どうなってしまうというのだろうか?

 

「ほら、シリカちゃん?」

 

「別に今告白(・・)するわけじゃないんだから、早く話しちゃいなさいよ!」

 

「へ、告白?」

 

 やってしまった。シリカ当人が内容を打ち明けるよりも前に、リズベットが話の軸の、それも一番核心に近い部分をバラしてしまった。

 

 思いもよらぬワードを耳にしたユウキたちは目を丸くして、二、三度瞬きを繰り返す。

 そんな彼女たちなどつゆ知らず、シリカは顔を真っ赤にしながら横にいるリズベットをポカポカと両手で可愛らしく叩いていた。

 

「り……リズさーん!」

 

「あたっ、あたたっ。ちょ、ちょっと何するのよシリカ」

 

「ど、どうして先に言ってしまうんですかー!」

 

「え、あれ? あたし変なこと言った……?」

 

「い……言いましたよ!」

 

 やってしまったものは、言ってしまったものはしょうがないじゃないかとあまり反省するそぶりを見せないリズベットに対し、シリカはポカポカと手の動きを辞めようとはしなかった。

 今のシリカは感情が高ぶりすぎている。ジュンへの想いが強いのか、自分の気持ちに正直過ぎるのか。

 しかしこのままでは話がなかなか先に進まない。見兼ねたアスナが「仕方ないなあ」と一言漏らすと、話の主導権を一時的に握り、どうして自分らがここに来たのかをユウキたちに身振り手振りで話して聞かせる。

 

 アスナの説明は至極わかりやすく丁寧で、誰でも理解出来るよう綺麗に整理整頓されている形で話して聞かされていた。

 隣でその様子を目の当たりにしていたシリカは自分の気持ちが晒されてしまったためか、先ほどよりも顔が真っ赤になってしまい、ソファの真ん中で縮こまってしまっていた。

 

 話の内容が進む度に、キリトは足を組みながら「ほうほう」と頷きながら。

 ユウキは目をキラキラ輝かせながら前のめりに興味津々といった様子で、シリカの恋バナに食ってかかるように耳を傾けていた。

 

 やはり、女の子というのは自分以外の色恋話に目がないようだ。

 

「へえー……シリカ、ジュンのこと好きになっちゃったんだ!?」

 

「う、うぅ……」

 

 ど真ん中ストレートを豪速球で投げつけるような性格をしてるユウキから、改めて事実をハッキリと言われたシリカは、アバターの頭から湯気が立ち上ってしまうくらい顔を真っ赤にしてしまっている。

 もはやこのままでは火山が噴火するかのごとく、色々なものがシリカから噴き出てしまいそうだ。

 

「そっかあ……ジュン、女の子から好かれるようになったのかあ……」

 

 今ここにいるメンバーの中で、一番ジュンと付き合いの長いユウキは色々と思うことがあるようだ。

 やんちゃでぶっきらぼうで、小生意気でうるさくてイタズラっ子で。

 そんなメンバー最年少のあのジュンが女の子から、しかも彼より年上のシリカから好意を寄せられている。

 ギルドマスターのユウキとしては、何やら感慨深いものがあるようだ。

 

 ユウキにとって、ジュンは弟みたいな存在だ。いつもそれとなく近くにいて、ちょっと鬱陶しく思う時もあったりした。

 しかし、どこかそんな彼が放っておけなかった。いきすぎないようやりすぎないよう、さりげなく見守っていたりもしていたのだ。

 

 そんな世話のやける弟分が、大人の階段を登ろうとしているのだ。色々と感じることがあるのも不思議ではないだろう。

 

「シリカ、頑張ってね? ボク……応援するから!」

 

「あ、ありがとう……ございます……っ」

 

「……ところでユウキ? そのジュンのことなんだけど……」

 

「ん? なあに、アスナ?」

 

 半分ほど飲み干したココアが入ってるカップを両手で包むように持ちながら、アスナが静かに声を掛ける。

 ちょっと様子が違うアスナの様子に、ユウキも首を傾けてきょとんとその動向を伺う。

 

「えっとね……実は……」

 

「ま、待ってください!」

 

 体を前のめりにして身を乗り出し、アスナの話に割り込む形でシリカが声を上げる。

 話の進行を他人に任せっぱなしで申し訳ないと思ったのか、やはり自分自身でやらないと意味が無いと感じたのか。

 このままでは良くないと感じたシリカは、自分自身で想いのうちを話そうとしていた。

 

「私に……話させてください……」

 

「……シリカちゃん……」

 

 覚悟を決め、キリッとした表情のシリカを見ると、誰もそれを止めようとはしなかった。

 昔からどんな困難な目にあおうとも、気持ちだけは負けないようにと、前に進みながら生きてきた。

 気持ちだけならユウキさんにだって、誰にだって負けないつもりと、シリカは学校でアスナから聞かされた言葉を思い出しながら、ユウキに語りかける。

 

「ユウキさん……ジュンくんの入院先って、わかりますか……?」

 

「え、ジュンの?」

 

「えっとそれは、ジュンの現実(リアル)ってこと……だよな?」

 

「は、はい……」

 

 なんとなく質問の意図を汲み取ったユウキは、少しだけ考えた。

 確かにスリーピング・ナイツのメンバーは結成前に、セリーン・ガーデンで出会った時、互いに本名と病名、年齢。そして入院している病院を自己紹介の時に打ち明けている。

 

 この時はまさかメンバー全員でVRMMOで遊ぶことになるとは思わなかったからだ。互いに短命の運命(さだめ)であることもあって、ネットのタブーも気にしていなかった。

 流石にゲーム上ではキャラネームで呼び合ってたいたようだが。

 

「……確かに、スリーピング・ナイツのメンバーはみんな本名も入院先も知ってるけど……」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 その答えを聞くと、シリカは更に前のめりになり、ユウキとの距離が更に近くなる。

 もう少しで鼻と鼻がくっつく距離にまで行ってしまいそうだ。

 

「う、うん。だけど……教えていいのかなあ……」

 

 シリカの恋路は応援したい。

 しかしここで身内の中だけで共有していた情報を、しかも個人情報にあたるものを教えてしまっていいのだろうかと、ユウキは後頭部をポリポリ右手でかきながら頭を悩ませる。

 

「でも、俺とアスナだって……お前の入院先に駆けつけただろ?」

 

「でもそれって、キリトが自分で調べたからでしょ? ボクが教えたわけじゃないし……」

 

「た、確かにそうだけど……」

 

「だ、だめ……ですか……?」

 

 耳としっぽを垂れ下げ、露骨にしゅんとなったシリカが、残念そうな顔でユウキを見つめる。

 しかし、こればかりは仕方の無いことだ。他人の個人情報を勝手に第三者に開示するわけにはいかない。

 如何に親しい人同士、仲のいい者同士であったとしてもだ。

 

「ごめんね……シリカ、流石に教えられないよ。現実の情報は……」

 

「……そ、そうですよね……」

 

 木綿季が首を横に振ると、更にシリカの耳としっぽは垂れ下がり、完全に重力に引っ張られてしまった。

 彼女の左右に座っているアスナとリズベットも、流石にこればかりは仕方ないのかもしれないと、複雑な表情を浮かべている。

 

 こうなってしまうと、ジュン本人から直接聞き出すしかなくなってしまうのだが、果たして彼は教えてくれるだろうか?

 彼は意外にも頑固な面もある。そして思春期だということもあり、なかなか教えてはくれないだろう。

 それが現実の情報だとすると尚更だ。

 

「残念……だね、シリカちゃん……」

 

 優しく慰めるように、アスナがシリカの背中をポンポンとそっと叩く。

 生半可じゃない覚悟を持って望んだだけに、その残念さは計り知れなかった。

 

 私じゃやっぱり彼の力になれないのか、またもや自分の恋路は叶わぬものになってしまうのかと、わかりやすいくらいに肩を落としてしまっていた。

 

「い、いえ……良いんです。無茶を言ってるのはわかってましたから……」

 

「ごめんね、シリカ……」

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 同日 午後20:03 ALO内 新生アインクラッド 第22層キリトのホーム

 

 

 

「じゃあ、私たち……落ちますね?」

 

 一通りの用事を済ませ、一時間ばかりちょっとした談笑を済ませたシリカたちはソファから腰を上げた。

 

「そうだね……シリカちゃんは病み上がりだし、早めに休んだ方がいいかもだね」

 

「は、はい……」

 

 談笑中も、どことなくシリカからは元気が感じられなかった。

 所々笑顔を振りまいてはいたのだが、どことなく空回りしているような感じがしていたのだ。

 やはり、期待していたことが叶わなくなったというのが大きいようだ。

 

「それじゃあ……バイバイ、かな……?」

 

 正しいことを言ったとはいえ、どことなく後ろめたさやちょっとした罪悪感を感じてしまっているユウキも、どことなくギクシャクした態度しか取れない。

 

 自分自身も、似たような境遇で駆け付けてくれた友人達に命を救われた身として、さらに後ろめたさに拍車がかかる。

 果たして自分に断る権利が本当にあったのだろうか?

 

 自分がまだ入院してたとき、キリトやアスナが来てくれた時、どう思った?

 

 ……嬉しかった。そう思ったはずだ。

 

 ジュンはどうなのだろうか? 余計なお世話と受け取って怒るのだろうか。

 それとも恥ずかしがって素っ気ない態度を取ってしまうのだろうか?

 

 いや、どう転んでも少なくとも嫌がったりすることはないはずだ。

 入院生活は基本的に孤独。退院するその時までずっと孤独との戦いだ。

 たまのお見舞い、看護師や医師の検診以外は全て孤独なのだ。

 

 それらは長い入院生活を送ったユウキ自身が嫌というほど分かっている。

 ユウキだけじゃあない。ジュンもシウネーも、スリーピング・ナイツのメンバーは全員理解している。

 

「……シリカ……」

 

 でも、今更どんな顔をしてやっぱり教えるよ、なんてことが言えるだろうか。

 シリカが直接お見舞いに行けばサプライズになるかもしれないし、誰も損することはいはずだ。

 ……後でジュンに怒られるかもしれないが。

 

「……ユウキ?」

 

 考え込んでるユウキに、キリトがそっと声を掛ける。ずっとシリカを見つめながら複雑な表情を浮かべている彼女を見て、少しだけ心配になったようだ。

 

「ねえキリト、ちょっと……いい?」

 

「……ん?」

 

 何やらヒソヒソと、ユウキはキリトに耳打ちをしている。

 本人からしたらアスナたちにバレないように喋っているつもりなのだろうが、その怪しげな行動は誰から見てもバレバレな様子であった。

 

 ユウキが話を進める度に、逐一キリトの表情が驚きから困り顔、真剣な顔、悩める顔と次々に変化していく。

 その様子を離れたところから見ている三人娘は、一体二人は何をやっているのだろうと、冷ややかな視線で見守っていた。

 

「……よし、ねえシリカ、アスナ、リズ!」

 

 話が終わったかと思うと、今度は忙しそうに元気で明るいいつものユウキの表情を見せ、ハキハキとした声で三人に声をかける。

 

「なあに? ユウキ」

 

 声を掛けられたアスナが、三人を代表してその声に応える。

 ちょっとだけ首をかしげ、水色のロングヘアを揺らしながら、彼女の話の続きを待つ。

 

「明日と明後日……予定ある?」

 

「え……土日、ってこと?」

 

「うん、土日!」

 

「わ、私は特に用事はないけど……習い事も今はほとんどやってないし……」

 

 私は大丈夫、そう伝えながらアスナがシリカとリズベットのいる方へ視線を移すと、二人も互いに視線を合わせ、身振り手振りで私たちも大丈夫とアスナにサインを送る。

 

「リズたちも……大丈夫そう?」

 

「あたしは特に予定は無いわよ?」

 

「わ、私も……平気です」

 

 偶然か必然かはわからないが、この場にいる全員週末は特に予定が入っていないようだ。

 それを知ったユウキはまた表情を明るくさせて両手を自身の目の前でパンッと鳴らし「ようーし!」と元気いっぱいの声を上げた。

 

「それならさ、明日みんなで名古屋に行こうよ!」

 

「……え?」

 

「な……」

 

「名古屋……っ!?」

 

 ユウキからの突然のぶっ飛んだ提案に、シリカ、アスナ、リズベットの順番に驚きの声を上げる。

 何故いきなり名古屋なんだ。いやそれより何故急に明日いくんだ。

 今日の話の流れからいってもいきなり明日皆で旅行に行こうという提案は不自然だ。

 

「ボクがプローブで外の世界を見せてもらった時、アスナたちが京都に連れて行ってくれたの覚えてる……?」

 

「え、ええ……」

 

「あの時は……確かユウキが旅館の晩御飯食べたいってごねてたのよね?」

 

 リズベットお得意のからかい文句に、ユウキが少しだけ顔を赤らめる。言われてみれば確かにそんなことも言ったかもしれない。

 しかし、今はそれは頭の片隅に置いておき、話の本筋を打ち明ける。

 

「ボク、また皆でどこか旅行に出かけてみたかったんだ! 友達同士だけで気兼ねなく!」

 

「京都の時みたいに?」

 

 アスナから逆に聞かれると「うん!」と曇りのないキラキラとした表情でユウキが返事を返すと、リズベットもやれやれといった様子で首を傾ける。

 

「仕方ないわねえ……いきなり過ぎるけど、別にいいわ。ね? シリカ?」

 

「あ……あ、はい! わ、私も問題ない……と思います!」

 

「よーうし! それじゃあ急いで準備しないと!」

 

 即興だが話がまとまると、ユウキにより一層気合か入る。退院してからの初めての旅行。

 なんとしても成功させたい、全力で楽しみたいといった気迫がひしひしと感じられる。

 

「どうせなら……しののんとかリーファちゃんも誘ってみたらどうかな?」

 

「あ、それいい!」

 

「そうだな……スグと母さんには俺から話しておくよ」

 

 土壇場で予定をキャンセルするドタキャンとは違い、土壇場でプランを立ち上げてしまうドタプラ(・・・・)をかましてしまった。

 そもそも旅行は何週間も前から入念に準備を重ね、下調べを済ませてから行くもの。

 

 翌日の、それも遠隔の地となると今から足も用意しなくてはならない。

 果たして今から準備が間に合うのだろうか。しかし決めてしまったものら仕方がない。なんとか翌朝の出発までに準備を全て済ませなくてはいけない。

 

「そうと決まったら、早く準備しなくちゃ……ね?」

 

「ええ、名古屋なら……多分新幹線使うんでしょ? 予約空いてるのかしら……?」

 

「そこら辺は俺がなんとか探すよ。どこを見て回るかは……ユウキに調べてもらう」

 

「うん! まかせて!」

 

 現在時刻は夜の八時を回ったところ。

 今から新幹線と泊まる旅館を予約して、なおかつ泊まりの準備と観光する場所の下調べを全て済ませておかなくてはならない。

 正直言って、こんな直前も直前すぎるタイミングで旅行を計画するなぞ正気の沙汰ではない。

 

 でも、不思議と断れはしなかった。

 ちょっと思っていたこととは違う結果になってしまったが、この週末は楽しいことになりそうだ。

 気分が沈んでしまっていたシリカも、突然の旅行計画に慌ただしい様子を見せていた。

 それほど寝耳に水だったのだろう。

 

「そ、それじゃあ落ちますね! 早く準備しないと……」

 

「本当よ、予約取れたら迅速に教えなさいよー?」

 

「ああ、それはまかせてくれ」

 

 忙しそうにメニューを操作し、ログアウトメニューを表示させ、せわしなく三人は仮想世界から現実世界へと帰還していった。

 これから両親に明日のことを話したり、荷物をまとめたりと急がなくてはならないのだろう。

 ユウキの提案たった一つのために、慌ただしいことになってしまっていた。

 

「…………」

 

「……これで、よかったのかな、キリト……」

 

「さあな。でも……多分、大丈夫さ……」

 

「うーん、やっぱり怒られるかなあ……」

 

 ホロウィンドウで名古屋の観光名所や施設を調べているユウキが、何やら複雑な表情を浮かべている。

 その傍らで、キリトは新幹線の空席情報がないかどうかを確かめる。

 

「それは……どうかな。でもやってみないと……な?」

 

「う、うんー……」

 

「それに、ぶつかってみないと……わからないだろ?」

 

「……うん、そうだね……そうだよね!」

 

 自分の謳い文句をキリトに言われると、ユウキは自身の両頬を掌で「バチーン」という音を立てて叩き、気合を入れ直す。

 

「俺も手伝うから、頑張ろうな……?」

 

「う、うん……!」

 

 この日の夜は、夜中過ぎまでホロキーボードを叩く音と、暖炉の薪が燃え盛る音だけがログハウスに鳴り響いていた。

 ユウキにとって、現実世界に帰還してから、退院してからの初めての長距離旅行。

 

 本当はもっと腰を据えてゆっくり準備して、もっと日数を確保して、じっくりと楽しみたかった。

 世間はもうすぐ冬休み。それを待ってからでも良くはなかったのだろうか?

 

 しかし、ユウキには今週末、どうしても行かなくてはいけなくなった理由がつい先程(・・・・)出来てしまったのだ。

 

 是が非でも、名古屋に行かなくてはならない、その理由が……。

 

 




 
 ご閲覧、ありがとうございます。
 さて、いきなり計画された名古屋旅行一泊二日の旅。
 これから彼らは東京から新幹線で名古屋まで向かいます。本当にいきなり過ぎるこの名古屋旅行。何故ユウキはいきなり行こうと言い出したのでしょうか?
 それは……恐らく次回、わかることでしょう。
 
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