ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 大変、ご無沙汰しております。
 一先ずご報告といたしましてはこの度私、新型コロナウィルスに感染致しました。
 皮肉にも感染し、どこにも出掛けることが出来ず、それによって時間が空いたことにより、執筆する事が出来たという。
 なんとも言えない巡り合わせに複雑な思いを抱いております。
 次の投稿まで一体どれくらいの間が空いてしまうのかはわかりませぬが、スローペースで書き進めていくつもりです。
 最近の私が何をやっているかは、自身のTwitterをご参照していただければと存じます。
 それでは新章第一話、ご観覧下さいませ。
 


第三章〜復学編〜
第87話〜大掃除!?〜


 西暦2026年12月18日(土) 午前9:18 埼玉県川越市宮下町 桐ヶ谷邸

 

「うわ、これは本当に色んな物があるな……」

 

「ホントだー! なんかすごーい!」

 

 時は師走、本年も終わりを迎えようとする暮れの季節だ。

 この時期はどこの家庭も大掃除という名の年内最後の大仕事に駆られている。

 この桐ヶ谷邸もご多分にもれず、週末土曜日ということもあり、一家総出で家庭内の大片付けを決行しているというわけだった。

 

「お、お父さん……随分溜め込んだねえ……」

 

「と、言うよりはだ。多方面に手を出しすぎたツケが回ってきてる感じはするけどな」

 

 和人、直葉、木綿季の桐ヶ谷三兄妹が見つめている先は、家屋の二階部分にある倉庫だ。

 ここには主に、一家の大黒柱である峰嵩の私物が仕舞われている。

 その内容は様々で、スポーツ用品、書籍、骨董品、仕事で使ったのか私用で使ったのかよくわからない書面など、様々な物が保管されていた。

 一見しっかりと整理整頓されてるようには見えるが、実際はここに仕舞った峰嵩本人にもどのように片付けたかおぼろげであり、普段の掃除も埃を取るくらいしかしていなかった。

 更にはその簡単な掃除も翠、和人、直葉が順番にやっていただけなので、詳しい所は家族の誰も把握していないといった状況だ。

 

「倉庫って言ってもこれ、お父さんのモノばかりだよね?」

 

「そうみたいだ、一応必要かどうか後で聞くけど、とりあえず一度外に引っ張り出して見てもらわないとな」

 

「っていうかさ、ウチでよくわかってない場所ってここの倉庫くらいなものだよね……?」

 

 一体この物の山となってる倉庫のどこから手を出していいかわからない三人が、物静かな倉庫のあちこちを見つめる。

 掃除というものは闇雲に始めても早く終わらない。何をどうするかある程度段取りを組み立てないと余計に散らかり、訳が分からなくなって長引いてしまうのだ。

 

「とりあえず、書類だとかそういうのは本人に任せるとして、まずは趣味関連の物から何とかしていこうぜ」

 

「そうしますかぁー」

 

「よーし、やるぞー!」

 

 退院してから二ヶ月目、最初の一大イベントである大掃除に木綿季は気合十分だ。

 両手に白の軍手をはめ、埃が舞ってもいいようにマスクもしっかりと装着し、手近にある重たくないものから作業を開始する。

 

「木綿季とスグは細々としたものを頼むな。重たそうなものは俺が片付けていくから」

 

「うん、わかったよ」

 

 和人はゴルフバッグや古いチェスト等の重量物、木綿季や直葉は模型やラジカセ等の趣味系の物に手をかける。

 倉庫内の何も無いスペースに邪魔にならないよう、ある程度カテゴリーを定めて仮置きしていく。

 そんな中で、明らかに古過ぎて使えなくなったものや、完全に壊れてしまっているもの、劣化してしまってるものを、更に分別していく。

 恐らく捨てることになるとは思うが、価値があるかもしれないので最終的には峰嵩に確認を取ってからの処分となる予定だ。

 

「え、なにコレ? 写真集……?」

 

「昔のアイドルのかなー? 髪型に時代を感じるねー?」

 

「すごいカールがかかってるね? 昭和のアイドルって感じがする!」

 

 父親の昔の趣味の名残を見つけると、それを材料に花を咲かせる。

 作業は一時的に手が止まってしまうが、こういった思いもよらぬものを掘り出し、それについて話が盛り上がるのも、大掃除の醍醐味だ。

 

「おーい、あまり無駄話ばかりしてると日が暮れるぞー?」

 

「わ、わかってるってー」

 

 黙々と大きいものを片付けてる長兄から注意を促されると書籍系のアイテムをカテゴリ別に分けていく。

 写真集、ビジネス本、一昔の月刊経済誌、アウトドア本等、正に峰嵩が何を読んで生きてきたかというのが見て取れる。

 

「あれ? コレなんだろ?」

 

 ふと、木綿季が本の影に隠れていた金属缶の様なものを見つけ、手に取った。

 見た目はずんぐりしていて、平べったいペットボトルのようなもの、といえば伝わるだろうか。

 頂上部分には若者が被るようなつば付きの帽子のような形の蓋がしてある。

 手に取った感じ、重さはほとんど感じない。中に何か入っていたのだろうか?

 

「ゆーきなにそれ? ジュースの缶?」

 

「なんだろ? でも多分何も入ってないと思うよ? すごく軽いし」

 

 木綿季が直葉にそれを手渡す。直葉も初めて見るアイテムに首を斜めに傾げながら頭の上にハテナマークを浮かべている。

 そして、先程から気になっていた蓋の様なものを摘み、上に引っ張ってみる。

 すると、いとも簡単にそれは剥がされた。ペットボトルと違い、気をつけていないとすぐに無くしてしまいそうに小さい蓋だ。

 

「あ、とれたー」

 

「……あれ? これもしかしてガス缶?」

 

 蓋が外れると、その中にはカセットコンロ等で使うミニガスボンベのような口が目に入った。

 しかしこんなずんぐりした形状ではとてもカセットコンロには差し込めそうにない。

 どうやって使うんだろう、と姉妹二人が首を傾げていると、また油を売ってるなとため息を漏らしながら、和人が二人の様相を覗き込んできた。

 

「おいおい、二人とも……時間なくなるっていうのに……」

 

「ねえお兄ちゃん、これなんだかわかるー?」

 

 徐に手に取ったそれを和人の前に差し出す。また文句を言われるよりも前に新たな話題を振って誤魔化してしまおう、といった企みも含めてその疑問に答えてもらおうと兄に期待の眼差しを向ける。

 

 和人も和人で色々言いたいことはあったが、言い返したところで大掃除が前進する訳でもないので、渋々と妹たちからの疑問に応える。

 早く片付けて午後はゆっくりしたいのに、という気持ちをグッと堪え、直葉からそれを渡されるとガス缶のようなものを見つめた。

 

「ああ……これか、これはOD缶だよ」

 

「おー、でぃー、かん?」

 

「ああ、ようはガス缶だよ。ほら、カセットコンロに差し込むようなアレさ」

 

 どうやら木綿季たちの推察は正しかったようだ。これがガス缶であることも、コンロに取り付けて使用することも。

 

「でもこれ、どうやってもカタチが合わないと思うんだけど……」

 

「うんうん、こんなにまるまるとしてたらはまらないよね?」

 

「そりゃあ、この前の鍋で使ったようなコンロには使えないさ。これはアウトドア用の缶だからな」

 

「アウトドア用?」

 

 普通のガス缶とどう違うのだろうと、姉妹揃って肩を並べながら引き続き和人からの答えに期待を寄せる。

 

「ああ、シングルバーナーって道具に装着させて使うんだよ。多分一通りのアイテムは揃ってると思うけど……」

 

「これで、お料理出来るの?」

 

「バーナーがあればな? 父さんが残してれば……」

 

「探そう! 和人!」

 

「…………」

 

 また始まったと、半ば呆れた感情の視線を木綿季に向ける。

 新しいことに興味を持つのは大いに結構なのだが、時と場合を考えて欲しいと、どう答えたらいいんだと頭をポリポリと人差し指で掻きながら大きく溜め息を吐く。

 

「あのな、今大掃除してるんだぞ……そんなこと」

 

「あたしも見てみたい! 多分そっちかなー?」

 

 兄の忠告など馬耳東風のように、今真っ先にやらなくてはいけない大掃除をほっぽりだし、まるでお宝探しをするように和人の片付けていた辺りを捜索し始める。

 この瞬間、和人は午後にゆっくりしようとしていた計画が頓挫してしまうことを察していた。

 

「ま、待て待て! そこは俺が綺麗に小分けしておいたんだぞ!」

 

 額に流したくない汗を流しながら、妹たちの奇行に釘を刺そうとする。

 この場の流れにむざむざ流されるわけにはいかない。なんとか彼女たちを諌めて、大掃除を進めなくては。

 

「でもー、気になっちゃうんだもんー」

 

「うんうん、お父さんの倉庫、色んなものが出てくるからさー」

 

「はあ……わかったわかった。じゃあこうしよう。その手の道具を見つけたら俺が外に出しておくから……」

 

「ホント?」

 

 木綿季はともかく、直葉までこんなに食いつくとは思わなんだと、先行きの怪しい大掃除を前進させるべく妥協案を提示する。

 ただでさえ時間のかかる大掃除をこんな訳の分からないゴタゴタで停滞させる訳にはいかない。

 

「ああ、全部部屋の外に出しておくよ。だから……頼むからちゃんと大掃除してくれ」

 

「ん、わかったー」

 

「仕方ないなあ……」

 

 かつてこの二人がこんなに扱いづらいことがあっただろうか。何だかんだでいつも兄の言うことを聞いてくれてた次姉直葉。

 生きることに真っ直ぐで、純粋無垢な性格な末妹木綿季。

 しかし、二人は年頃の女の子でもある。高校生ともなれば今まで以上に色んな新しいものに触れ、刺激を受ける年代だ。

 特に天真爛漫な木綿季は他の子以上に興味を持ってしまうことだろう。

 

「頼むぞ、本当に……マジに日が暮れちまうからな……」

 

「はぁーい、じゃあやろっか、ゆーき」

 

「うん! がんっばるっぞー!」

 

 既に興味が大掃除よりも目の前で発掘したお宝の方に向いてしまった妹達を尻目に、和人はなんとかこの大仕事が少しでも想定より遅れないでくれと祈りながら、両手を動かしていった。

 ただてさえモノが多い父親の倉庫。木綿季の部屋になるはずだった部屋。

 大まかに片付けてしまえばなんてことは無いのだが、何しろ峰嵩の私物が多すぎたのだ。

 何がそれらしき物を発見する度に目を輝かせ、手の動きを止めてしまう妹たちを窘めながら、早く終わらせようと廃棄物と保持しておく物を分けていく。

 そんな長兄の苦労が報われたのは、当初彼が予定していた終了時刻の正午を大きく上回る、午後一三時を超える頃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日 午後13:07 埼玉県川越市宮下町 桐ヶ谷邸

 

「お疲れ様、かずと!」

 

 元気いっぱいの木綿季に労いの言葉をかけられると、ガクッと大きく肩を落としながら恨めしそうにそちらを見返す和人の姿があった。

 誰のせいでこんなにお疲れ様な結果になったと思っているんだ。

 結局全体の八割を片付けたのは自分だぞと、恨めしそうにほとんど仕事をしなかった妹たち二人へ念の込められた視線を送る。

 ある意味呪いの目線と言っても良さそうだ。

 

「……二人のおかげで無事に終わったよ、ありがとう」

 

「えへへー、どんなもんでしょー!」

 

 しかし、決して不満は表に出さない。

 出したところでこの二人の暴走は止まらないだろうし、そもそも思春期の興味はそう簡単に阻止出来るものではないからだ。

 それに、もう彼には文句を言いたいと思ってもそれだけの体力も気力も残されていなかった。

 さっさとこの大掃除で出てきた大量のゴミを処理してスッキリしたい、ただそれだけを彼の脳裏を過ぎっていたのだ。

 

「ゴミ出しは後でいいか……ちょっと疲れた」

 

 庭の縁側に腰を下ろし大きくため息を吐き出すと、既にバキバキになってしまった身体を休ませる。

 そして傍らに視線をやると、山積みになってるゴミとは別に、別のものがまた山を作り上げていた。

 そう、大小様々な大きさに分かれたキャンプギアだ。

 

「よくもまあ、すぐやらなくなるのにこんなにも買い集めたもんだよ……」

 

「どう使ったらいいんだろ……?」

 

「何が何だかわかんないよー」

 

「まあそうだろうなあ、ほとんど組み立ててから使うものばかりだし。パッと見てこれがアレなんだってわかるようなものは無いさ」

 

 和人の言う通り、目の前に積み上げられたギアの山のほとんどが、布やポリエステルの袋に入れられているものばかりで、とても初見ではキャンプで使うものだとはわからない。

 試しに中から取り出してみるものの、骨組みとまた布が姿を現して、説明書無しではどうやって使用するのかも不明だ。

 

「この板キレみたいなのがテーブルになるのは多分わかるんだけど、この骨組みとか一体なんなのか分からないよー」

 

「あはは、そうだな……じゃあまずは一つずつ説明していくよ」

 

 そう言いながら和人が骨組みのようなものを手に取ると、慣れた手さばきですらすらとそれを組み立ててていく。

 学校で使うパイプ椅子のような形になり、そこに付属の布を装着させる。

 するとそこには、見事なブラックカラーのアウトドアチェアが出来上がっていた。

 

 しかし、その組み立てている様を見ていても、一体何がどうなって椅子を形どっていったのか二人には理解が出来なかった。

 構造自体はごくごくシンプルなものなのだが、やはりアウトドア初心者には簡単に理解し難いものなのだろう。

 

「えっ!? ちょ、お兄ちゃん今どうやったの!?」

 

「すごいすごーい! 椅子になっちゃったー!」

 

 最近兄へのリスペクトが減ってきたと感じている中、素直に褒められるとやはり悪い気はしない和人が、『どうだ』と自慢げに鼻を高くする。

 目をきらきらさせている木綿季に「座ってみるか?」と促すと、当然彼女は嬉しそうに返事を返し、一見華奢だが作りはしっかりしているロングチェアにゆっくりと腰を下ろす。

 するとどうだろう。粗末な座り心地だと思っていたその感触は想像を大きく裏切り、腰を落ち着けた瞬間に優しく受け入れ、快適な時間へと誘ってくれた。

 

「わあ……これ、すごくいいよぉ……」

 

 外での解放感があることもそうだが、思いっきり足を伸ばすことが出来て、後頭部までしっかりと背もたれがカバーし、程よい角度を保っていることもあり、今まで感じたことの無いような快適感を木綿季は味わっていた。

 例えるならそう、健康ランドに置かれている有料のマッサージチェアのような快適感と言えば伝わるだろうか。

 

「わあ、ゆーきいいなあー! お兄ちゃんあたしにもー!」

 

「じ、自分で組み立ててみろって、簡単だから……」

 

「えー、出来るかなあ……」

 

「簡単だよ、骨組みを展開させたらはめ込んで、そこに布被せるだけなんだから」

 

「うー、わかった……やってみるよー」

 

「ほら木綿季も、いつまでもサボってないで他の道具やるぞ」

 

「えー……もうちょっとボクここにいるぅー……」

 

 完全にアウトドアチェアの魔力に取り憑かれてしまった木綿季は、最早テコでも動かないように椅子に固定されてしまっていた。

 かつての家族が存命だった頃、横浜の実家の庭でバーベキューをやった時には経験しなかった新しい快感を、木綿季は存分に満喫していたのだ。

 

「手伝わなかったら飯抜きだぞ」

 

 その悪魔のようなお告げを耳にすると、だらけ切ってた表情は途端に凛とし、瞬時にその場から立ち上がり、キリッとした目つきで和人の方向を見る。

 

「さあ和人、ボクに出来ることは!?」

 

「……お前なあ……」

 

 絵に書いたような現金な態度に大きなため息を吐き出すと、呆れながらもひとつひとつ丁寧にギアを説明する。

 現在桐ヶ谷家にあるキャンプギアは次の通りだ。

 4、5人用のファミリーテント。ヘキサゴンタープ。炭火グリル。折りたたみ式焚き火台。

 シングルバーナー。アウトドアテーブル。ロングチェアが四つ。ランタンが二つ。

 

「……これだけ、か。ほとんど使ってないやつばかりじゃないか……」

 

「グリルとかちょっとだけ煤で汚れてるだけだね? 一回しか使ってないんじゃない?」

 

「このランタンキレー! お部屋に飾りたいー!」

 

 現状、とりあえず一通りバーベキューが出来そうなギアは揃っていた。

 しかし寝るためのシュラフがなかったり、テントの下に敷くグランドシートが欠けてたり、火を消すための道具がなかったりと。

 イマイチ詰めが甘いラインナップに和人はどことない違和感を感じ取っていた。

 

「なんか揃ってるようにみえて、中途半端だな……」

 

「そーなの? 一通りのことは出来そうな気がするけど……」

 

 多趣味の欠点はそのような所にある。

 形から入るばかりにそれっぽい道具を揃えたまではいいものの、いかんせんよくわからないまま実践するので、考えていたより上手くいかず結局鳴かず飛ばずな結果になり。途中で断念してそれらを投げてしまうのだ。

 

「これだけ買い揃えて放置って勿体ないよー……」

 

「いやまったくだ、金の無駄遣いもいい所だよ……」

 

 目の前に広げられたギアは中古品、いや新古品と言われても差し支えないようなコンディションをキープしている。

 流石にグリルや焚き火台は炭や薪の燃えカスや煤汚れがこびりついているのでキレイとまでは言い難いが、それでも過去に使ったものとしてはいい状態を保っていた。

 

「だったらさー、今日使ってみようよ!」

 

「……え?」

 

 ランタンを両手で抱えながら、木綿季が無邪気な顔で見つめる。

 それと同時に何かを企んでいるような顔、そして期待に満ち溢れた顔。

 そこから溢れ出るわくわくしたオーラを、木綿季は隠しきれていなかった。

 

「ボク、バーベキューしたい!」

 

「わあ、それいい! あたしもやりたーい!」

 

「え……ええ!?」

 

 木綿季の突拍子もない提案に、すぐさま直葉が乗っかる。この時点で既に体勢は二対一。

 多数決で和人に勝ち目はまったく無かった。

 だがしかし、和人も面倒くさいと思ってはいつつも、久しぶりにバーベキューをやるのもやぶさかではないと思ってはいた。

 炭火で焼かれた肉にかぶりついてみたいし、海の幸を豪快に並べてみたかった。

 そんな天使の警告と悪魔の誘惑が交錯する天秤に揺られながら、和人は腕を組んで目を瞑り『うーん』と声を漏らしながら葛藤を続けていた。

 

「ねえ、かずとー、おーねーがーいー!」

 

「あたしもやーりーたーいー!」

 

 左右から肩を捕まれ、右へ左へとゆさゆさ揺らされながら、和人は頭の中で今から準備した場合の時間の逆算、足りないギアや食材の買い出し。仕込みに掛かる時間等を大まかに計算する。

 そう、アウトドアは準備が物凄く大変なのだ。

 道具や具材の用意は勿論、終わった後の片付け、ゴミ出し、洗い物等。やる事は一気に増えてしまう。

 和人はそれら全てを把握してるからこそ、今から準備する事に抵抗を感じているのだ。

 

「……そんなにやってみたいか?」

 

「うん! ボクやりたい!」

 

「あたしもあたしもー!」

 

 家族から、特に木綿季からやってみたいと言われて、彼の迷いはなくなった。

 木綿季が楽しいと思って貰えるようなことを一つでもやってあげたい。

 ここ最近、木綿季があまりにも日常に、家族として過ごしていく日々に溶け込みすぎて、それが普通になっていたこともあり、彼女の命を助けると決めたあの時の気持ちを少し忘れかけていた。

 それだけ常日頃の何の変哲もない毎日を彼女が何事もなく過ごせていることの証でもあるのだが。

 

「わかった、やろう」

 

「ホントー!?」

 

「やったー! バーベキューだー!」

 

 手を取り合い、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいる桐ヶ谷姉妹。

 部活も無くて休日は暇を持て余している直葉にとっても、大変に嬉しいイベントだ。

 それに、久しぶりのパーティだ。来週にはクリスマスが控えているが、それとはまた別。

 そう、これは大掃除を頑張った自分たちへのご褒美、ご褒美なのだと言い聞かせる。

 

「それじゃあ今から色々準備するけど、その代わり昼飯はナシだぞ? それだけ時間かかるんだからな」

 

「え……えええーーー!!」

 

 労働後のお昼ご飯を楽しみにしていた木綿季の悲痛な叫び声が庭にこだまする。

 玩具を取り上げられた子供のような、おあじけを食らった犬のような絶望感に満ちた表情をこぼしていた。

 

「夕方から始めるんだ。今から準備するとなるとお昼を食べてる暇なんて全然ないぞ」

 

「う、ううー……」

 

「そうむくれるなって。その代わり豪勢にしてやるから」

 

「ホントにー? むうー……約束だよー?」

 

 豪華な夕食のためなら仕方ないと、ほっぺをぷくーっと膨らませながら渋々納得いく木綿季を尻目に、和人は段取りを組み立て始めていく。

 

 現時点で足りない消耗品、ギア、食材等の準備。そして火を扱うので両親への伝達等、やることはたくさんある。

 現在、翠は師走の仕事の追い込みで泊まり込み。峰嵩は通常出勤だが残業三昧と、満足に家に帰って来れるような状況ではない。

 従って、先程までやっていた大掃除もほとんど和人主体で事が進んでいたのだ。

 まずは多忙な両親への連絡を試みる。

 

「スグ、ちょっと母さんたちに連絡しておいてくれ、今夜庭でバーベキューするからって」

 

「うん、わかったー」

 

 準備には時間もそうだが、人手も必要だ。今から夕方までの限られた時間でこなすとなると、当然二人の協力は不可欠。

 出来ることは分担して、迅速に、効率よく進めていきたい。

 

「よし……木綿季、財布とケータイ持ってこい。今から買い出し行くぞ」

 

「え? あ、う、うん!」

 

「結構大荷物になるぞ、大丈夫か?」

 

「だいじょーぶ! ボクもう体力バッチリだもん!」

 

「そいつは心強いな」

 

 自信に満ち溢れた木綿季の顔を見れば、自然と和人の顔にも自然な笑顔が浮かぶ。

 とてもHIVに苦しめられてたとは思えないほど、五体満足に動き回っている。

 今ではすっかり兄の和人よりもスタミナは上だ。よく食べよく動き、よく眠る。

 これだけで人はどんどん強い身体を作れるのだ。

 

「スグー! もうそろそろ出るぞー!」

 

 財布とスマホ、車の鍵を準備して直葉に声を掛ける。どうやら固定電話から発信しているようだ。

 妹に声を掛ければ、和人は家の車であるワンボックスカーの後部に立ち、ロックを解除し、ハッチバックを開けた。

 中の座席は三列シートで、一番後ろは荷台になっている。

 キャンプ関連の荷物はとにかくスペースを圧迫しがちだ。特にタープやテント等を含めると、その荷物量は膨大になる。

 日帰りのデイキャンプにしたとしても、椅子やテーブル。夏場ならクーラーボックス等も用意しなければならない為、荷台スペースが広いに越したことはない。

 

 和人がレバーを引くと、後部座席が畳まれる。その畳んだシートを左右にまた畳む。

 するとどうだろう、荷台スペースが一気に広くなり、それこそ何でも積み込めるような圧倒的空間が確保出来てしまった。

 これたけあればどんなものでも楽しようで積載出来ることだろう。

 

「お待たせー!」

 

 直葉が到着すると同時に和人が車に乗り込む。木綿季はスライドドアのレバーを引き、二列目へと乗車する。

 それに続くように直葉は左側の助手席へと乗り込んだ。

 全員が乗り込み、シートベルトをしっかりしていることを確認すると、和人はパワーボタンを押し込み、エンジンを作動させる。

 独特のエンジン音を響かせながら車が目を覚ますと、今日も好調に走れると訴えてるかのようにも見える。

 ハンドルの高さを合わせ、ルームミラーの角度を調整。左右のドアミラーの向きも合わせる。

 フットブレーキを踏みながら、サイドブレーキを解除しギアをDに変えて、ブレーキから脚を離す。

 すると車はゆっくりと前進し、桐ヶ谷邸の私有地内から公道へと近付いていく。

 

「お兄ちゃん、車は免許取ったばかりなんでしょ? 安全運転でいこうね?」

 

「ああ、勿論だ。バイクとは全然違うからな」

 

「しゅっぱぁーつ!」

 

 そう、何を隠そう和人は、ちゃっかり自動四輪の免許を取得していたのだ。

 木綿季を家族に迎え入れ、峰嵩も家に帰ってきたこともあり、これから先家族でどこかへ出掛けることもあるかもしれない。

 その時、運転の負担が父親だけに集中するのはまずい。長男としてカバー出来るところはしなくてはと思い立ち、追加で四輪の教習を受けに行ったのだ。

 ちなみに和人は既に二輪の免許を取得している為、筆記試験は無く。

 実技による試験を突破するだけで免許が交付される。

 費用も遥かに安く済み、取得するまでの期間も短くなるので、この様な速さで手に入れることが出来たのだ。

 

「まず不足しているギアを買いに行くぞ。ふじみ野市だからちょっと遠くだ」

 

「はぁーい!」

 

「ちょっとしたお出かけだー!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日 午後13:50 埼玉県ふじみ野市東久保 ワイルドマンふじみ野店

 

 和人達の暮らしている埼玉県川越市から南東に位置する隣の市、埼玉県ふじみ野市。

 国道254号線の幹線道路沿いに位置するアウトドア専門店、ワイルドマン。三人はそこに足を運ばせていた。

 ふじみ野市と言えば長宮最中、焼きかりんとう、バームクーヘン。

 ふじみ野市の代表銘菓である福岡太鼓と呼ばれるサブレがある。

 更に「ふじみ野」と呼ばれる名前に違わず、富士山を見ることの出来るビュースポットもあちらこちらに点在している。

 しかし、今回は富士山を見るためにふじみ野に来た訳では無い。

 和人の家から一番近い大型アウトドア専門店がここ、ワイルドマンなのだ。

 

「わあ、ここなんだ! おっきー!」

 

「すごーい、あたし初めて来たよー!」

 

「川越にはあまり大きな専門店はないからな……」

 

 土曜日ということもあり、駐車場は他の買い物客の車でいっぱいだ。

 ゆっくり徐行しながら駐車スペースを探す。すると奥の方に二台分空いてる場所を発見した。

 桐ヶ谷家の車は決してコンパクトとは言えない車体なので二台分空いているのは心からありがたいと感じることだろう。

 余裕を持って駐車出来るのだから。

 

「お兄ちゃん……気をつけてね?」

 

「ま、まかせておけ」

 

 バイク乗りに取って、後退というのはなかなか慣れない行動だ。

 何故ならば二輪のギアにR、とどのつまりバックギアが存在しないからだ。

 小回りが利く二輪を乗り回している和人にとって四輪の、それもワンボックスカーを後退で駐車させるという行為はなかなかハードルが高いものであった。

 

「二台分空いててよかったねー……」

 

「う、うん。ボクもそう思った……」

 

 このワンボックスカーにはセンサーもカメラも搭載されており、障害物が近付くと音でも警告してくれる。

 これでもかと接触事故を起こさせない為の機能が充実しているにも関わらず、和人は後退駐車に苦戦してしまっていた。

 ここが特別狭い駐車場だから、という訳では無い。ただ単純に、彼の経験不足なのであろう。

 

「……ふう、着いたぞ」

 

「お、お疲れ様。お兄ちゃん」

 

「すっごいたくさん前後に往復しちゃってたねー」

 

「さ、最初はこんなもんだっての」

 

 シートベルトをゆるめ、ギアとサイドブレーキを戻すと、エンジンを停止させる。

 運転していた時間は僅か三十分。それも高速道路ではなく下道のみ。

 それらを走ってきた道のりよりも、ここでの駐車に費やした時間と精神力の方が遥かに大きかった。

 

「さあてと、実は俺もちょっと楽しみなんだよな。本格的なアウトドア専門店」

 

「すっごいワクワクするよね! ボク一度来てみたかったんだー!」

 

「あたしもあたしもー!」

 

 キャンプや登山といった非日常的イベント。普段の日本社会で過ごす学生や社会人にとって、アウトドアは触れようと思わなければまず機会は訪れない。

 故に、ほとんどの人にとっては未知の世界。ワクワクしないはずが無い。

 

「うわあーーっ!!」

 

 期待を裏切らない光景。

 木綿季が真っ先に自動ドアをくぐると、そこにはこれぞアウトドア専門店といったレイアウトが三人を出迎えてくれた。

 正面にはこれみよがしな超豪華テントスペース。ひとつ十何万もするようなセレブなギアから、テーマを統一させた一式。

 初心者も手軽に始めることの出来るお手頃価格のギアなど、価格帯は様々だ。

 入口から見えるほんの一部の光景だけで、木綿季はすっかり心を奪われていた。

 

「これはすごいな……ちょっと心踊っちまう」

 

「すごいよ和人ー! 色んなのがあるよー!」

 

 木綿季は迷わず、目の前のファミリーテントの内部に入り込んでいた。

 販促を前提に展示されてるので、勿論グランドシート、シュラフ、室内ランタン等など。

 それ相応のギアがそれぞれ「是非買って下さいね」と言葉を発するかのように鎮座している。

 このテント内にあるギア達だけで、軽く二十万は越えてしまうだろう。

 当然、和人たち学生がおいそれと出せる金額ではない。

 

「凄いなあ、剣道部の合宿もこーゆーのでやればもっと楽しそうなのにー」

 

「……学校にファミリーテント何個も用意させる気か?」

 

 当然、そんなことしてしまえば予算オーバー。部活動どころか学校の年間予算にも大打撃を与えてしまうことだろう。

 

「あ、あははー……じ、冗談だよ?」

 

「でも一度でいいからこんなすごいテントでキャンプしてみたいよねえー!」

 

「……確かに。ちょっとこれは憧れるな。家のテントもでかかったけど」

 

 これには流石のインドア派の和人も、このアウトドア専門店の独特の購買欲に心を揺さぶられているようだ。

 不思議とアウトドアショップというものは、商品を手に取り、店員の話を聞いたり、自分がそのギアを現地で使ってるところを想像したりしていくうちに、購買意欲がどんどん高まっていってしまうのだ。

 例えそれがどんなに高額な物だったとしても、次また来た時に買おう。今は無理でもいつか絶対買おう、と思ってしまうものなのだ。

 それが恐るべき、キャンプギアの魔力でもある。

 

 しかしそんな魔力も、社会人ほどお金を持っていない和人たちにはそこまで響かなかったようで、あまりにも現実味がない値段帯のギアも触ってみたりはするものの「凄いねー」とは言ってはいるものの、流石にお買い上げとまではいかなかったようだ。

 

「さてと……俺も見ていたいけど、目的の物を買うぞ?」

 

「あ、うん。よいしょ……」

 

 一つ二万円もする贅沢なハイチェアから立ち上がると、とてとてと木綿季が和人の傍に寄る。

 直葉も一点五万円するコットの寝心地に心を奪われていたが、和人の一言でハッと我に返る。

 そう、ここへは現時点で不足している必要なギアと、炭や着火剤、薪等の消耗品を買いに来たのだ。

 決してセレブリティな気分を味わいに来たわけではない。

 

「あ、二人とも待ってぇーっ」

 

 和人達が買いに来たアイテムは次の通り。

 まず、薪や炭の燃え残りを処分する為の火消し壺。

 炭や薪は水をかけて消火してしまうと、温度差から爆ぜる危険性がある。

 それに、次にそれらを再利用しようとなると、なまじ水で消火してしまったばかりに湿気ってしまい、点火しにくくなってしまうのだ。

 

 そこで、この火消し壺が大活躍する。

 この、寸胴の様な形をした高さ二十五センチほどの金属のギアの中に、まだ燃えている炭や薪を入れる。

 そしてすかさず蓋を閉め、酸素の供給を完全に断ってしまうのだ。

 火は酸素が無ければ燃えることは出来ない。

 密封することで酸素濃度がゼロになり、火が勝手に消えてしまうといった仕組みになっている。

 しかし、火は消えても熱は篭ったままになっているので、持ち運ぶ時は焚き火用の耐火軍手を使うなどして火傷に注意しよう。

 

 次に炭と薪。これはアウトドア専門店でなくてもホームセンター、場合によっては地元のローカルスーパーでも扱ってい店もある。

 しかし、仕入れ量も質も違うので近くにアウトドアショップがあるのならそちらで購入するようにしたい。

 

「火消し壺は一番安いヤツでいいだろ。あとは……あ、OD缶もいるな」

 

「家で見つけたヤツ、所々古ぼけてて歪んでたもんね……」

 

「使った瞬間爆発とかボクイヤだよ!?」

 

 次々に目的の物を見つけてはカートに入れていく。アウトドア専門店のカートは大きさがしっかりしている。

 大きいものが売られてるのも珍しくないので、カートもその大きさに対応している。

 また、薪や炭等の重たい商品もあるので、カートは必至と言えよう。

 

「お兄ちゃん、これで全部?」

 

「火消し壺、着火剤、炭、薪、OD缶……よし、これで全部だな」

 

「はぁーい」

 

 目的の物が入れられてるのを確認すると、三人はカートを押しながらレジカウンターへと向かう。

 その最中にも、何か面白いものはないかと陳列棚に目線をやる。

 普段なかなか来ないだけに、余すところまで堪能したいという気持ちの表れだ。

 そのような中木綿季の視線が、とある棚に並べられていた物に釘付けになっていた。

 

「……ん? 木綿季?」

 

 自分たちに着いてこない木綿季に気が付いた和人が後方に取り残された彼女に首を向ける。

 もしかしてまた何か見つけたな、とカートの向きを百八十度変え、来た道を戻る。

 木綿季に近付いていくにつれ、彼女が何に夢中になっているかもわかってきた。

 取っ手が着いた金属板のようなもの。

 

 そう、これはホットサンドメーカー。

 キャンプをやらない人でも名前くらいは聞いた事があるだろう。

 自宅の台所でも気軽に使うことの出来る、あのホットサンドメーカーだ。

 二枚でひと組になっているこのギアは、中にパンや肉を入れ、サンドして火にかける事で手軽に蒸し焼きにすることが出来、簡単で美味しいキャンプご飯が作れるということで注目を集めているのだ。

 それを手に取って、興味津々にパカパカ開いてはまじまじと見つめ続ける。

 高いテントや、豪華なランタンを見た時よりもその瞳はキラキラに輝いていた。

 

「木綿季……それ、欲しいのか?」

 

「えっ? あ、えーっと……う、うん。バイト代あるし買おうかなって悩んでて……」

 

「ほえー、なにこれなにこれー?」

 

 そのギアへの興味は直葉にも芽生えていた。木綿季と同じようにパカパカさせて遊んでみたり、パッケージの説明を読んでみたりと、実に見ていて微笑ましいやり取りを繰り返す。

 

「すごーい、これでスイーツも作れるんだって!」

 

「ホントだねー! ワッフルとかシナモントーストとかも焼けるんだー!」

 

「…………」

 

 すると、和人は何も言わず、木綿季たちが手にしているホットサンドメーカーと同一の物のパッケージを手に取り、そのままカートへと運び込んだ。

 そして、何事も無かったかのように再びレジへと歩き出した。

 

「え……か、和人?」

 

「ん? どうした? 早く会計済ませちまおうぜ」

 

 あまりにも自然に買おうとしたので、思わず言葉を詰まらせてしまう。それは直葉も一緒だったようで本当にいいの? と頭に疑問符を浮かべている。

 

「い、いいの……?」

 

「いやあ、俺もこれ丁度欲しかったんだよな」

 

「…………っ」

 

 勿論、それが嘘だと言うことはお見通しだ。

 値段か高くなかったということもあるが、自分の大切な人があんなに目の前で欲しそうな顔をしていたら、買ってあげたくなると言うもの。

 嘘だとわかっていても、何も言わない。そんな野暮ったいことはしない。

 でも、この嬉しいとい気持ちに嘘はない。

 自然と笑みがこぼれる。心の底から嬉しくなる。

 そうだ、桐ヶ谷和人という人物はこういう人だ。

ぶっきらぼうに見えて、とても優しく頼りになる人。

 一番信頼出来る人。そんな大切な人の好意に、ちょっと自分は甘え過ぎていたのかもしれないと、木綿季はちょっとだけ反省したのであった。

 

「……ありがと、かずと」

 

「俺が欲しかっただけって言ったろ?」

 

「う、うん……」

 

「でもしょっちゅう使うわけじゃないからさ、これは俺たち三人の、兄妹のものってことにしといてさ、みんなで使ってこうぜ」

 

 バレていても本音を探られたくない和人が、それっぽいルールを設ける。

 中々素直になれず、嘘をつくのが下手な男だ。

 

「お兄ちゃん、素直になればいいのにー」

 

「う、うるさいぞスグ……そ、それよりだ」

 

「……それより?」

 

 まんまと見透かされていた事実から目を逸らす。今の顔色を見られまいと反対方向を向いた彼の表情は、ほんのり赤らんでおり、らしくないことをしたと後悔と小っ恥ずかしさが浮かび上がっていた。

 

「今夜のバーベキュー、楽しもうな?」

 

 ポンと木綿季の肩に手を当てて、優しいトーンで語りかける。

 その様子を見た木綿季も、なんだいつもの優しくて大好きな和人だと、気持ちの昂りを感じずにはいられず、こちらは満面の笑みがこぼれる。

 

「……うんっ!」

 

「よかったね、ゆーき!」

 

「えへへ、ありがと……!」

 

 値段はそこまで高いというわけではない。それ自体がなにか限定品とか特別な品物というわけでもない。ごく普通のアイテムだ。

 でもそれは、彼女にとっては一足早い、大切な人からのクリスマスプレゼントになっていた。

 聖夜の贈り物としてはあまりパッとしないものかもしれないが、彼女の一生の宝物の一つになることは間違いないだろう。

 

 この日、ワイルドマンふじみ野店を一番嬉しそうに退店した買い物客は、この三人組だったという。

 

 




 
 日常パートが多い私の作品。桐ヶ谷家の生活のほんの一部を見れたような気がします。
 若干ゆるキャンの影響を受けていますが、私も実はアウトドアにハマってしまってます。
 ゆくゆくはオーディナル・スケールのラストシーン、明日奈と和人がキャンプしてたように、木綿季とのペアキャンを実現させてあげたいです。
 それでは、また。
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