ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味 作:むこ(連載継続頑張ります)
書いてて涙がとまりませんでした。横でマザーズ・ロザリオ本編見ながらだから涙腺がやばいです。出来ればこの回の中盤辺りからは、是非「シルシ」を流しながらご覧ください。
(ボク、キリトの側にいる資格……ない……)
和人はユウキが最後に言い放った言葉を思い出しながら、無我夢中でオートバイを走らせた。埼玉県川越市から神奈川県横浜市、車で約2時間の距離を、我先にと法定速度ギリギリで駆け抜けた。
ユウキが何故自分の前から姿を消したか聞かなくてはいけない。そして、ユウキに伝えないといけないことがある。もう自分の気持ちに嘘はつかない。 “ぶつからなきゃ伝わらないことだってある”
ユウキの言葉だ。ユウキは俺にぶつかってくれた、今度は俺の番だ。結果ユウキを傷つけることになろうとも、俺は……ユウキにこの気持ちをぶつける。何もしないまま後悔するのだけは絶対に嫌だ。
和人は長距離移動を経て、横浜港北総合病院の駐輪場へやってきた。はやる気持ちを抑えられず急いで駐輪場にオートバイを停め、白いキレイな外観をした病棟の自動ドアをくぐり、病院内へと駆け込んだ。病院のエントランスは白と水色を基調とした人間を落ち着かせる。
リラックスさせる為の色合いが壁や天井に施されていた。畳二十畳分程の広さのあちこちに観葉植物や案内板、グリーンカラーのベンチが置かれている。和人は足の速度を落とさないまま、そのエントランス内を走り、フロントに飛び込んだ。
「あの! 面会をお願いしたいのですが……!」
和人は慌ててフロントの看護師に話しかけた。二時間休憩なしぶっ通しでオートバイを走らせ、バイクを降りてからもノンストップでここまできた。
息が上がってちゃんと喋れてないが、受付のお姉さんに目的をしっかりと伝える。お姉さんはフロントに突っ込んできた和人に対して、あくまで丁寧に冷静に対応した。和人のように駆けこんでくる面会希望者は珍しくなかったのだ。
「はい、ではお名前と面会希望の患者さんのお名前をお願いします」
和人はお姉さんから声を掛けられると、一呼吸整えてから落ち着いてあくまでも冷静に、ここまできた目的を伝えた。
「俺の名前は……桐ヶ谷和人です。患者さんの名前は紺野……、紺野木綿季です!」
和人がその名前を告げた瞬間、受付の表情が強張った。一瞬の緊張感とざわつきがフロント全域に流れてから、少し急いだ様子でお姉さんが対応した。
「……あちらにお掛けになって、しばらくお待ちください」
受付のお姉さんは、和人をベンチに案内をすると慌ただしく奥に消えていった。木綿季はこの病院でも特別な患者の為、話を通したりと裏で色々と準備することがあるのだろう。
和人はお姉さんに言われるがまま、ベンチに腰を落ち着けていた。しかし気分の方は一向に落ち着かないそわそわする。こんなに気持ちが落ち着かないのはいつ以来だろうか?
SAOに初めてログインした時? βテストに当選した時? いつ以来だかわからないが、和人が落ち着かない、自分を冷静でいさせることが出来なかった。
木綿季に会いたい。ただひたすら、この気持ちだけを胸に抱いていた。ただそれ一心であった。会って気持ちを伝えたい。
もしかしたら嫌われるかもしれないがその時はその時だ。ただ木綿季に会いたいという気持ちだけを想ってベンチに座っていると、やがてそこに和人に話しかけようと近寄る、とある男の姿があった。
「桐ヶ谷……和人君ですね?」
聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると和人のよく知る人物、木綿季の主治医である倉橋が佇んでいた。和人と打って変わって全身ほぼ真っ白の服装で如何にも医師といった格好だ。
短めのヘアーカットに度の強い眼鏡、白衣の下にはグレー気味の白いワイシャツにベスト、下はあまり高くない素材で出来てそうな黒いズボンを履いていた。和人は倉橋とは、以前明日奈と一緒に木綿季の初めての面会の時に訪れた時に顔を合わせており、互いに面識があったのだ。
「先生……! 倉橋先生! 木綿季に木綿季に会わせてください! 俺は……彼女に伝えなきゃいけないことがあるんです! 木綿季に……木綿季に会わせてください!!」
鼻と鼻がくっつくぐらいの位置にまで接近し、和人は興奮気味に倉橋に食ってかかった。あまりに興奮していた和人は倉橋の胸倉を両手で掴んでしまっていた。自分の気持ちを抑えるのに限界が来ていた。倉橋はそんな和人を冷静になだめるように声を掛けて落ち着かせた。
「か、和人君……少し落ち着きましょう。ここは病院です、木綿季君以外にも患者さんはたくさんいます。まずは落ち着いてください」
和人は倉橋に言われるとハッとなり、周りの様子を見渡していた。気が付いてみれば周りの人たちの視線を集めてしまっている、先生に掴みかかっている光景を見れば何事かと注目が集まるのも無理はない。
和人は自分のした事に気付くと少々バツが悪そうにして「すみませんでした……」と頭を下げた。
「いえ、大丈夫ですよ。それでは歩きながら話しましょうか、和人君こちらへ」
和人は案内されるまま、倉橋の後を追うように歩きだした。自分を落ち着かせながら一歩一歩、木綿季の病室へと足を運ぶ。二人が歩いている廊下は病院らしく、白を基調とした内装になっており、途中途中で患者さんや、医療スタッフ、看護師さんの姿が見受けられた。
しばらく一緒に病室に向かって歩いていると、倉橋は重苦しそうに木綿季に関するであろうことを話し出した。
「しかしまた木綿季君に面会に来たと聞かされた時は驚きました。まさか君だったとは……、私はてっきりまた明日奈さんだと……」
「明日奈は、家の事情でちょっとこれなくて……」
「……そうですか、来てもらえれば木綿季君も喜んだでしょうに……それは残念です」
……多分それは叶わない。明日奈は……下手すればもう自由に家から出してもらえないだろう。本当は一緒に来て木綿季を元気付けてほしかったところだ。
……いや違うか、明日奈が来てくれる状況なら、多分俺は明日奈と別れていないし、俺が木綿季のことを好きになることもなかっただろう。何だか複雑だな……。
その後数分間無言の時間が続き、二人の間に少し気まずい空気が流れてしまった。和人は首を項垂れて表情を暗くしてしまい、倉橋はそれを何とも言えないやるせない表情で見守っていた。
和人君と木綿季君の間に何かあったんだなと、その暗い様子を見てある程度悟ったようだった。ならばと思い、倉橋は和人に木綿季の今の体の状況を話し出した。
「和人君、よく聞いてくださいね。実は二時間ほど前、一瞬ではありますが……一度木綿季君の心臓が止まりかけました」
和人はその言葉を聞いた瞬間固まってしまい、目を見開いて信じられないような顔をした。二時間前と言えばユウキがログアウトした時間だ。
あの後……心臓が止まりかけたっていうのか? だとしたら俺の……俺の所為で木綿季は……。
「先生……木綿季はどうなったんですか……、木綿季の容態はどうなったんですか!」
いやだいやだ! 俺は聞きたくない! 木綿季が長くないなんて聞きたくない! 俺はまだ木綿季に恩返しが出来ていない、話さなきゃいけないことだってある! それに何より……木綿季が遠くにいっちまうなんて……俺は嫌だ!!
和人は倉橋の口から木綿季の容態を聞かされるのが恐ろしかった、しかし聞かないわけにはいかない。二時間前に体調を崩したとなれば、恐らくはボス討伐後のやり取りが一番の原因かもしれない。
あの時、ログアウトさせずに無理やりにでも話を聞いて、安心させてやればよかったと和人は後悔していた。そんな不安そうな顔を浮かべている和人に対して、倉橋は安心させるように笑顔で対応した。
「和人君心配せずとも大丈夫です、今は心肺ともに安定しています。精神面の不安からくる影響だと考えてます。しかし今は以前の明日奈さんの時のように閉じこもってしまったんですよ。今日は楽しみにしている約束があると聞いていたのですが……」
「………」
和人は首を垂れ、音を立てずに握り拳に力を入れた。罪悪感と後悔に押し潰されてどうにかなりそうだった。俺の所為だ……俺の所為で木綿季は……。その和人の様子のおかしさに気付いた倉橋は、心配そうに声を掛けた。
「和人君、どうかしましたか?」
「先生……今日、木綿季と遊ぶ約束していたのは、俺なんです……」
体を震わせながら姿勢を戻し、和人は重々しく口を開いた。倉橋は驚いた様子だった。木綿季からは何も知らされていなかったからである。どういうことですかと倉橋は尋ねると、和人は体を震わせながら口を開いた。
「昨夜一緒に遊ぶ約束をしていて……今日ダンジョンの一番奥まで行ったんです。二人でボスと戦って……それから……」
和人は重い口調で話し続けた。全滅寸前まで追い詰められたこと、諦めかけた木綿季を励ましたこと、なんとか辛勝したこと、そしてその後に……。
「ユウキはその後、俺が無事だって理解したあと……泣きながら抱きついてきたんです。そしたら彼女の方から急にログアウトしてしまって……」
「…………」
「何で木綿季が俺の前から姿を消したかその時はわかりませんでした。でも俺は気付いたんです、俺の本当の気持ちが……、俺は……木綿季のことが……!」
和人がその話の続きを言おうとしたところで、前を歩いていた倉橋の足が止まった。和人もそれに気付き、一歩遅れて歩みを止めてふと前方を確認すると、木綿季の病室に辿り着いていたことに気付いた。
倉橋は無菌室へと続くゲートのセキュリティ端末に自分のカードキーをタッチし、扉のロックを解除すると、奥まで和人を案内した。
「和人君、あとは本人と話すのが一番だと思います。必要とあらば隣の部屋のアミュスフィアを使ってもらってもかまいません。……頑張ってくださいね……」
倉橋はそう言うと手前のパネルを操作して無菌室のブラインドを解除した。窓ガラス越しにやせ細った現実のユウキ、紺野木綿季がメディキュボイドを装着し、ベッドに横になっている姿があらわになった。
和人がこの姿を目にするのは二度目だ。倉橋は木綿季と会話できるマイクのスイッチをONにすると「私は別室にいますので何かあったら呼んでください」という言葉を残して退室していった。
「…………」
和人はメディキュボイドに身を包んでいる木綿季を無菌室のガラス越しに見ていた。再び木綿季に会うためにここまで来た。しかしあの時とは目的がちがう。俺は木綿季から話を聞かなくてはいけない。そして、伝えなくちゃいけない。
「聞こえるか……木綿季……」
『………』
和人は優しい口調でガラス越しの木綿季に向かって声をかけるが、木綿季の反応はない。無視されてるのか返事が出来ないのかどちらかはわからないが、しかし和人は構わず木綿季に声を掛け続けた。
「ごめんな……返事をしたくないなら、してくれなくて構わない。聞きたくないなら、聞き流してくれて構わない。……今から言うのは俺の独り言だと思ってくれ」
和人は一呼吸置いてから続きを話しだした。ほぼ一方的に、もしかしたら木綿季の方からマイクのスイッチを切られてしまっているかもしれないというのに。それでも和人は想っていることを伝えるために話し続けた。
「俺は木綿季と話がしたくてここに来た。木綿季から聞きたいことがあってここに来た。そして……木綿季に聞いてもらいたいこともあってここまで来た……」
『………』
メディキュボイドの仮想空間の中に生成された部屋にいる木綿季は、体育座りをしながら顔を俯かせ、和人の姿が映されているスクリーンから目を背けていた。
肩まで伸びたショートヘアに、オレンジ色のパジャマ、そこに黄色い上着を羽織った服装に身を包んでいた。この小学生高学年ほどの背丈の小さい少女こそが、メディキュボイドの仮想空間での彼女の姿、アバターである。
(……キリト……)
木綿季も和人のことを嫌っているわけではない。むしろ特別な感情を持っている。しかしだからこそ、拒絶してしまっているのだ。この先の未来がどうなるか、わかってしまっているから……。
「勿論お前が嫌だと言うのなら、俺は大人しく帰るよ。俺と付き合うことで、お前を苦しめたり悲しませることになるのなら、もう俺はお前と……二度と会わない」
『…………ッ!』
ここに来てひたすら無言の態度を貫いていた木綿季が、初めて和人に対して反応を見せていた。
「二度と会わない」 このワードを聞いた瞬間、胸が締め付けられる想いがした。大切なものを手放してしまう想いがした。このままでいいのだろうか?
「俺もお前には出来るだけ長く生きてほしい、無理に俺に付き合って体に負担を掛けさせるわけにはいかないからな……」
(……キリト……)
それからしばらく長い沈黙が続いた。和人が本当に木綿季に伝えたかったことはこんなことではない、もっと………和人と木綿季の運命を、大きく変えてしまうほどの重要なことを伝えるためにここまで来た。しかし木綿季はこれ以上話を聞くそぶりを見せなかった。
和人は木綿季が何らかの反応を見せてくれると思っていたが、一向に待っても物音ひとつ立てなかったため「もう……無理なんだな」と小さい声で呟くと、諦めたかのように窓ガラスから距離を置いた。
「急に押しかけてきて……ごめんな。それじゃ俺は帰るよ……。体、大事にしてくれよ……」
両手をジャケットのポケットに突っ込み、名残惜しそうにしながらも、踵を返して和人は面会室から立ち去ろうとした、……その時である。
『キリト! 待って!!』
スピーカーから、聞き慣れた声が聞こえてきた。数時間前まで聞いていたのにもう何年も聞いてないような感覚を覚えた。和人は目を見開き体の向きを180度変え、無菌室のガラスに両手を当て、会いたかった人の名前を呼んだ。
「ゆ、木綿季……? 木綿季か……? 木綿季! いるんだなそこに……!」
『ウン……いるよ、キリト……』
和人は木綿季の声を聞くと途端に安堵し、ほっと胸を撫で下ろした。もう二度と聞けないかもしれないと思っていたからだ。
その安堵感からか、少し瞳に涙を浮かべていた。和人は泣いているのがばれないように、目線をずらし冗談交じりに皮肉を言った。
「まったく……ここまで来るのに片道2時間もかかっちまったぞ? ガソリン代立て替えてくれるんだろうな……」
『アハハッゴメンね……それについては多分倉橋先生が立て替えてくれるよ! 領収書があれば、だけどね』
和人の冗談に対して、木綿季も冗談で返していた。和人の扱い方が少しだけわかってきたみたいである。そして少し空気が和んだところで木綿季が本題を切り出した。
『キリト、さっきはゴメンね……。ボク、取り乱しちゃって……』
「――和人だ」
『……へ?』
「桐ヶ谷和人、俺の名前だ。倉橋先生から聞いてなかったのか? リアルではこっちで呼んでくれよな」
『かず……と、……かずと! 桐ヶ谷……和人……!』
スピーカー越しに嬉しい声が聞こえてきた。木綿季は何度も何度も嬉しそうにキリトの現実での名前を口ずさんだ。
特別な想いを込めて、何度も何度も和人の名前を口にした。普通の名前なのに、何故かすごく安心出来た気がした。
『んでね……キリッ……じゃない。かずと、ボク……和人に話さなきゃいけない事があるんだ……』
「ああ、俺も木綿季と話がしたい」
『うん……そしたらさ、ALOで話し合お? 昨日和人と
「……わかった。隣の部屋のアミュスフィアですぐに行くな」
そう言うと和人は早歩きで隣部屋に向かい、アミュスフィアを被り姿勢をリラックスさせた。
木綿季に逢いたいという気持ちを少しだけ落ち着かせ、一呼吸置いてからゆっくりと目を閉じて、仮想世界に自分の意識をゆだねていった。
「……リンク・スタート!」
――――――
西暦2026年1月31日(土)午後17:30 アルヴヘイム・オンライン アルンの街 緑の丘
以前ログアウトしたボス部屋から転移結晶を使い、アルンの街へとやってきたキリトは翅をはばたかせ、上空から必死にユウキの姿を探していた。
ALO内の時刻は夕刻にさしかかり、アルンの街を世界樹の陰から真っ赤な夕陽が照らしていた。昨日キリトとユウキが話をした時間と同じであった。
「ユウキ……どこだ!」
絶対に話を聞く、全部受け止める。そして俺の想いも全部ぶつける。
そう心に誓いながらしばらく空から地上を眺めていると、キリトの探している少女はキリトが昼寝をしていた緑の丘に佇んでいた。
キリトはユウキの姿を確認すると急降下をして、少女の3メートルほど手前でホバリングし、トトんンという音を立ててそのまま着地した。
再びユウキと会えたことに安心したキリトは、笑顔でユウキに歩み寄りながら挨拶を交わした。
「こんばんは、ユウキ」
「こ、こんばんは、キリト……」
ユウキはあんなことがあった後なのか、ちょっとだけぎこちなかった。気持ちの整理がついていないのだろう、視線が泳ぎまくってる。
彼女が落ち着くまで待っていたキリトであったが、このままでは一向に話が前に進みそうにないので、自分から話を切り出した。
「えっとユウキ、俺から話させてもらっていいか?」
「え……? あ……う、うん。いいよ?」
「俺は回りくどい事が嫌いだ、だから……思っていることを単刀直入に言う」
両手を後ろに回し、ばつが悪そうにしているユウキに少し緊張が走った。それと同時に覚悟を決めていた。
何を言われても、責められても、罵られても構わないと想っていた。しかし、キリトの口から放たれた言葉は、ユウキにとって耳を疑いたくなるような衝撃の一言だった。
「ユウキ、俺はお前が好きだ」
「……え……?」
キリトからの告白に、思わずユウキは口元を両手で押さえてしまった。目を見開き、息を飲み込み、体は小刻みに震えてしまっている。
自分の耳に聞こえてきた言葉が、キリトの告白が信じられなかった。
ユウキの目からは大粒の涙が滴り落ちていた。それが嬉しさなのか悲しさなのかはわからなかった。キリトはどうしてボクにそんなことを言うんだろうと、そう思っていた。
「どうしてそんな事、言うのさ……」
「わからないか……?」
「…………」
「わからないのなら……もう一度言うぞ……」
キリトは深く息を吸い込むと、今度はユウキが思い違いをしないように、すべての想いと力を喉に込めて、ユウキに届けるべく声を放った。
「ユウキ、俺は……お前が、お前のことが好きだ!!」
キリトからの精一杯の言葉の重さに耐え切れず、ユウキは膝から崩れてしまった。声にならない泣き声をあげ、涙を流し続けた。
そして長い長い沈黙の後、流れ続ける涙を我慢しながら、ゆっくりと口を開いた。
「……ボクの体のコト、知ってるよね……? 長くなんか生きられないんだよ? 絶対にキリトより先に死んじゃうんだよ? 先にいなくなっちゃって、キリトを独りぼっちにさせちゃって、寂しい思いを……させちゃうんだよ……?」
「…………」
「あのね……さっきボス討伐に成功したとき、ボク、自分の本当の気持ちに……気付いちゃったんだ……」
「…………」
「でもね、ボクにね……恋なんて許されないんだ……。先が短いボクには、誰かを好きになる資格なんて……ないんだよ……」
キリトは黙って彼女の話に耳を傾け続けた。
ユウキの気持ちはわかっている。でもわかっているからこそ、どこか納得できない部分もあった。
「だからさ、ボクに会うのは……もうやめにしたほうがいいよ。最初はアスナに頼まれて一緒にいたけど……、それももう無理みたいだしね…」
ユウキはキリトからの想いを一蹴するように、ほぼ一方的に自分の都合を話し続けた。
「ボクたち……もうお終いにしよ……? ALOももうやらない……。お願いだから、これでボクのことは……忘れて……」
もう会わない、ボクらの関係はもうこれでお終い。
一方的に言葉を並べるユウキに、キリトは我慢出来ずに口を割って入った。眼光鋭くユウキを睨みつけて。しかしどことなく悲しげな表情で、でもどこか優しくて……。
「俺の気持ちは……どうなるんだ?」
そう言うとキリトはユウキに駆け寄り、一気に自分の方向にユウキの体を抱き寄せた。そして力一杯、ユウキの細い体を抱き締めた。ユウキの体が、壊れてしまうのではないかというぐらいの力を込めて。
「きり……と……?」
ユウキは何故彼が自分を抱きしめてきたのかわからなかった。
単に好きだから? いや違う。それ以上のことを思っているからだ。
ユウキは最初こそ戸惑っていたが彼からの温もりを肌で感じると、そのまま彼を受け入れた。
「勝手なこと言うな!! 先に死ぬだなんて……絶対に俺が許さない!!」
「……ッ」
「言っただろ、俺が生きてるうちは仲間を殺させやしないって……だから……諦めるな!!」
その言葉に、ユウキは大きく動揺した。
それは重病患者にとって、あまりにも重すぎる言葉だったからだ。
ユウキのようにAIDSを抱え、末期症状を迎えている患者にとっては特に言葉の重みが違いすぎる。
普通の患者ならこっちの体の事情も知らないでとでも思うだろう。しかしユウキは違った。
根拠も何もないけどキリトなら、もしかしてキリトならボクを助けてくれるのではないかと。
キリトは医者でも医者の卵でもないごく普通の一般人だ。それでも、それでもキリトなら……ボクを救ってくれるのではないかと、そう思い始めていた。
だから――勇気を振り絞って聞いてみる――。
「ボクを……助けてくれるの……? キリト……」
「ああ……助けてやる!! 絶対にお前を助けてやる! だから言ってくれ! ユウキがやりたいことを!! 俺が……全部叶えてやる!」
キリトからのその暖かく、力強い言葉を聞いた瞬間に、さらにユウキの目から大粒の涙が滝のように溢れ出た。
ああ、ボクはなんて幸せなんだろう。こんなボクのことをこれだけ大事に想ってくれる人が……こんなにもすぐ近くにいたなんて。
バカだなあボクは……もっと早く気付けばよかったのになあ……。
ユウキは生まれて初めて感じる、好きな人からの温かさを体全体で感じ取っていた。
そしてユウキは、気の遠くなるほどの長い間、ずっと諦めていた言葉を、ゆっくりと口にしようとした。
「キリト……ボク……、ボク……ッ!」
高ぶる感情を抑えられず、ユウキの瞳からは更に涙が溢れ出ていた。
長い間ずっとずっと、この気持ちを口にしたかった。でも出来なかった。
することを許されなかった。でも……でも、今なら……今なら言える気がする。
「なんだ……? 言ってみてくれ、ユウキ!」
「……ボ、ボク……ボクは……!」
言ってくれ、ユウキが望むことを。
言ってくれ、ユウキがしたいことを。
言ってくれ……、ユウキの想いを!
「キリト……、ボク……、
「……ユウキ……!」
AIDSを発症してからユウキが初めて発した言葉だった。たった四文字の簡単な言葉を長年口にしていなかったが、ユウキはその言葉を口にすることが出来たのだ。
言うのは簡単な筈なのに、実行するのにはあまりにも絶望的な現実が立ちはだかっている。
だがしかし、その過酷で残酷な運命に、少女は初めて抗おうとしていた。
治るかどうかはわからない、でも、目の前の少年を信じて、足掻いてみよう。そう思った。
「ボク……生きたいよう……、死にたくないよう……、普通に生きて……もう一回現実世界で暮らしたいよう……!」
震えるような声で、ユウキは喋り続けた。
今まで我慢してきたことを……、心の底からやりたかったことを、ずっと心の奥底に蓋をして、無理やり仕舞い込んでしまっていたことを、全てキリトにぶちまけた。
「あぁ……! 大丈夫だ! 俺が絶対に助けてやるから!」
「……ホント……?」
「本当だ! ……ほら、まだやりたいこと……たくさんあるだろ! 全部言え! 俺が叶えてやる……!」
やりたいこと、たくさんある。
ありすぎて、何をしたいかわからないぐらいある。でも、それも許されなかった。ずっとずっと我慢してた。
でも……もし、許されるのなら、キリトが一緒にいてくれるのなら、ボクは……、ボクは……!
「それじゃあね……キリトと一緒に現実世界で歩きたいな……。それで一緒にお買い物も行って、お食事してね? 映画も見に行きたい。あ……水族館行ってイルカさんも見たいなあ……」
その言葉を聞き届けると、キリトのユウキを抱く手に一層力が入った。
今聞き届けたユウキの現実世界でやりたいと言う夢、絶対に叶えてやる。
その為にこの目の前の少女を必ず助ける、絶対に見捨てない、そう心に強く誓い、より強くユウキを抱き締めた。
「なんとかしてやる! 俺が絶対に……絶対にお前を助けてやる! だから……俺を信じてくれ……!」
正直、ボクの病気が治るとは思えない。自分の身体は自分が一番よくわかっている。むしろ今こうして生きていられることですら奇跡に近い。
でも、こんなボクをキリトは助けるって言ってくれた。なら、その言葉を……信じてみようと思うんだ。
ボクのことを好きって言ってくれたキリトを、ボクが大好きなキリトを、ボクは……信じてみる。
「嬉しい……ボク、すっごく嬉しいよ……キリト。信じるよ……キリトのこと……、ホントに……ありがと…」
キリトとユウキは互いを、力の限り精一杯抱きしめた。
しかしキリトが決断したことはあまりにも過酷すぎる茨の道だ。自分とユウキの運命を大きく変えてしまうことだ。辛いことばかりだろう苦しくて逃げたくなるだろう。
だがキリトはどんな困難な壁が立ちはだかろうとも、絶対に助けると決めた。この愛おしい少女を、自分がどんな目にあおうとも。そしてどんな手を使ってでも、周りを犠牲にしてでも、絶対に見捨てない。
そう、誓いを立てた。
――――――――――
互いが抱き合ってからどれだけの時間が経過しただろうか。
夕焼けに染まったアルンに吹き渡る風だけが、互いの愛に気付いた二人を優しく祝福していた。
しばらくしてキリトとユウキは少しだけ体を離すと、改めて胸の内にしまっておいた想いを伝えようとした。
「ユウキ……好きだ」
「ボクも……キリトのことが……好き……!」
互いの胸のうちの本当の気持ちを伝えた二人の妖精は、次第に互いの距離をゆっくりと目を瞑りながら、近めていった。
アルンに差し込む夕焼けに映し出された二人の妖精の影は、その二人の動きに合わせて、完全にその形を重ねていった。
お読みいただき、ありがとうございます。和人はこれから、木綿季の病気を治すために走り回ります。何が何でも木綿季を助ける、そのためにあちらこちらを駆け回ります。
それでは、また次回でお会いしましょう。