ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 引き続きの投稿です。前回、メンバー全員からアッシー君をせびられた和人くん。今回はその現場から物語が始まります。
 


OS第2話〜オーディナル・スケール〜

 

 西暦2027年 4月23日(金)午後20:50 東京都千代田区外神田 秋葉原UDX前

 

 

 JR中央・総武線の秋葉原駅から歩いてすぐ、アニメとゲームの聖地とも言える秋葉原の看板的建物「UDX」の広場に、多くの人が詰めかけていた。

 

 夜遅くまで、いやむしろ夜中から深夜にかけてイベントや、限定品の深夜販売を行っていることが珍しくないこの秋葉原で、とあるゲームのイベントが執り行われようとしていた。

 

 しかし、イベントに参加するという割には、集まっている人という人は、ほぼ全員軽装で何かを買いに来たり、記念品にあやかろうといった様子は感じさせなかった。

 

 それもその筈、今夜ここで行われようとしているイベントは、ゲームソフトや限定グッズの深夜販売や、夜間路上コンサートでもなく、とあるゲームのイベントが行われるからだ。

 

「和人~機嫌直しなって~……」

 

「……別に……」

 

「……もう、子供なんだから……」

 

 あたりがすっかり暗くなったUDX広場にあるベンチに、ご機嫌ナナメで腰掛けている全身に黒い服装を身に纏った和人を、木綿季が必死でなだめていた。

 

 ここに集まっているのは和人と木綿季の他に、同じ学校に通う明日奈、里香、珪子、准の六人だ。このメンバーがここに集まっていたのは他でもない。

 

 今、世間を震撼させている新世代MMORPG「オーディナル・スケール」のイベントがここで行われるというのだ。

 東京23区内を中心に、かつて和人たちがクリアしたデス・ゲーム「ソードアート・オンライン」のフロアボスが出現するという。

 

 少し前まで噂程度のものだと思われていたが、火のないところに煙は立たぬという言葉通り、それは確かな情報であった。

 

 旧アインクラッドの第一層のボス「イルファング・ザ・コボルト・ロード」がイベントボスとして出現したのを封切りに、日が変わるごとに次々とフロアボスが出現しているというのだ。

 

 そして今日、ここ秋葉原のUDX広場にも、今夜21時からボスが出現するという情報が、公式からアナウンスされたのだ。

 しかしその情報が解禁されたのが、イベントが始まる30分前とあまりにも直前すぎるということもあり、ユーザーは中々参加できないでいた。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが、新年度を迎える前に自動四輪の免許を取った和人であった。

 家の車がワンボックスカーで結構な人数で移動出来るということもあり、今回のイベントにうってつけじゃないかということで、脚として使わされてしまっていた、というわけだ。

 

 故に、彼は今とってもとってもご機嫌ナナメなのだ。

 

「もう……キリト君ってば、折角のイベントなんだから楽しめばいいのに……」

 

「な、なんかごめんね……明日奈」

 

 姿勢悪く、太ももに肘を立て、顎を掌の上に乗せながらムスっとしている和人に対して、明日奈が少し残念そうに話しかけていた。

 普段から木綿季といろんなところに出かけている和人だが、今回ばかりは気が進まなかった。

 

 ARというコンテンツは嫌いではないが、イマイチ正面たって好きと言えるわけでもない。

 何故かというと、自身が昔から憧れていたVR世界というものを、遠まわしに否定されているような気がしていたからだ。

 

 自分が将来VR関連の仕事をしたいと思っていることもあり、自ら進んでこのコンテンツを利用しようとは思わなかった。

 

 まるで今時の流行を認めないで自分の道を突き進んでいくような、頭の固い頑固親父のような考えを持っている和人であった。

 

「SAOのボスか、オレは始めてだな……」

 

「あ……そっか、ジュン君はSAOにいませんでしたもんね」

 

「うん、だから……ちょっと楽しみだ」

 

 ここにいる准を除いて、他のメンバーはSAOにダイブした経験がある面々だ。最前線で闘っていた和人と明日奈はもちろん、76層に到達したあとは珪子と里香も積極的に戦場に足を運び、攻略組として活躍していた。

 

 木綿季だけはアインクラッド全層攻略後にSAOの世界に迷い込んだのだが、それも含めてその世界を知っているメンバーが揃っている。

 

 准だけSAOがどういう世界だったかというのを知らないので、ここにいるメンバーの中で一番今回のイベントに期待を胸に踊らせていたのだ。

 

「出現するボスは低い層から順番に出てくるんでしたっけ?」

 

「そうみたいだよ? 今日のイベントで丁度十日目だから、恐らく第10層のボスが出てくるんじゃないかな?」

 

「ってことはこの中でパターンを知ってるのはキリトとアスナだけってことになるわね?」

 

「そうゆうことだね、頼りにしてるよ? 和人!」

 

「……はいはい」

 

 時刻は午後20:55を指している。ボスが出現する時間まで残り五分。いよいよもうすぐイベントが始まるということもあり、先程よりも左耳にオーグマーをつけた人の数が増え始めていた。

 おそらく、この中のほとんどの使用者がオーディナル・スケールのプレイヤーなのだろう。

 

 全身をなるたけ軽装で済ませているものもいれば、イベントがどんなものかを観るために広場の外で待機している者もいる。

 仕事帰りのサラリーマンや塾帰りの中高生がちらほら見かけられる。

 

 しかしそんな人をかき分けながら、どこか見知った顔が六人、全員全く同じ服装でまっすぐ和人達のもとへと歩いてきている集団がいた。その集団の先頭を歩いている男は、和人達がよーく知っている人物であった。

 

 仮想世界と変わらず暑苦しい真っ赤な逆毛のヘアスタイルに、黒色のヘアバンド。グレーの生地に炎のイラストと漢字で「風林火山」と書かれたパーカー。

 そう、SAO時代からの友人クラインこと壺井遼太郎と、彼が束ねるギルド「風林火山」のギルドメンバーの面々だ。

 

「ようキリの字、時間ギリギリだな!」

 

「こんばんは、クラインさん!」

 

 一歩前に出て和人たちに挨拶をした遼太郎に、木綿季が元気よくピョンッと飛び出して、礼儀正しく挨拶を返した。

 

「よう、木綿季ちゃんたちも来てたんだな」

 

「はい! ボクたちだけじゃなくて明日奈たちも来てるんですよ! 和人の運転で!」

 

「ははは、さしづめアッシー君にでも使われたか? キリの字よう」

 

「……うるせーよ……」

 

 遼太郎が和人をからかうと、他の面々の間に笑い声が交わされた。ここに出てたるメンバー、実に十二人。その気になればALOの新生アインクラッドでフロアボスに挑めるぐらいの戦力が揃っている。

 

 いや、その気にならなくても倒せるだろう。何せ、明日奈と木綿季、そして准はワンパーティで、そして和人と木綿季はペアでボスを倒した実績があるのだから。

 

「ようし……私も頑張るぞ……!」

 

 プレイしているゲームの初めてのイベントというものは、非常にワクワクするものだ。普段とは違う空気を感じるし、これから何かすごいことが始まるといった高揚感に包まれる。

 

 珪子にとっては後半になるまで旧アインクラッドのボス攻略に参加していなかったこともあり、今回のボスイベントに胸を躍らせていたのだ。

 

「シリカ、危なくなったらオレが守ってやるからな」

 

「は、ハイ! でも、ジュン君だけに無茶はさせないですから♪」

 

「……ああ、そしたら背中はまかせるからな?」

 

「ハイ! えへへ……♪」

 

 珪子が楽しみにしているのはボスと戦えるからだけではないようだ。今回のこのイベント参加が、恋人である准との初のお出かけでもあったからだ。

 今までデートらしいデートをしたことがなかったので、今回はいいところ見せてやると、准も意気込んでいる。

 

 初デートがモンスターと戦うというもの、なんだかとても奇妙なものだとは思うが、本人たちが楽しそうにしているのだから、よしとしよう。

 しかし、その仲睦まじいこの二人を快く思っていない人物も、ここにいる。

 

「ジュン坊も彼女持ち、しかもよりによってシリカちゃんかよ……くそう」

 

 年齢=彼女居ない歴の遼太郎が恨めしそうに珪子と准に視線を送っていた。会社でもゲームでも面倒見がよく、人当たりが良い彼に、一向に恋人ができないのが不思議である。

 

 大切な人が出来れば、一生をかけて守りぬく器量と度胸はあるというのにだ。やはり、和人が近くにいることが要因だろうが、本人は決して諦めてはいない様子だ。

 

「ぜっったいに今年中に彼女作ったるからなー!」

 

「アンタじゃ無理よ!」

 

「う、うるせえやい!」

 

 何が何でも彼女を作ると意気込んでいる遼太郎であったが、息をつくまもなく里香に否定されてしまっていた。

 

 その後しばらくメンバーが楽しく談笑をしていると、刻々とイベントの開始時間が迫ってきた。

 

 現在、時刻は20:57に差し掛かり、あたりにいる人々もスマホや腕時計、ないしオーグマーで現在の時間をせわしなさそうに確認を繰り返していた。

 

「そろそろ……だね」

 

「そうだな、……よっと」

 

 イベント開始時間が目の前に迫っていることもあり、ベンチに座りっぱなしだった和人が漸く重たい腰を上げた。

 ここまで車の運転をしてきたこともあり、エコノミー症候群が心配されるところだが、恐らく問題はないだろう。

 

 何しろ、このイベントでめいっぱい体を動かす……、いや動かされるハメになるのだから。

 

「なあキリの字、俺様たちとレイドを組めよ」

 

「レイド……?」

 

「おうよ。俺様たち風林火山のメンバーが六人、そちらさんも六人。SAOやALOのボス戦の感覚で動けると思うぜ? 俺様たちならな」

 

「あぁ、それいい案じゃない!」

 

 風林火山のメンバーは遼太郎を含む四人がアタッカー、二人が敵の攻撃を受け止めるタンクで構成されている。

 一方で和人ら学生組はというと、六人中六人全員がアタッカーというアンバランスすぎる構成であった。

 

 同じアタッカーでも和人、木綿季、明日奈の三人はスピード重視、里香は盾持ちということもあり、バランス型のアタッカー。

 

 珪子はアタッカーというよりも援護に回るサポート型なのだが、オーディナル・スケールでは相棒であるピナがいないため、致し方なくアタッカーに回っている。

 

 そしてスリーピング・ナイツでは両手剣でバリバリのフォワードを担当している准は、スピードというよりも防御も出来るタンク寄りのアタッカーとなる。

 

 まさに、攻めることしか考えてない「力こそパワー」を体現したかのようなパーティ構成だ。ここに詩乃などのガンナーでもいれば、また戦いのバリエーションは増えていくのだろうが。

 

 そんな脳筋構成のパーティに、バランスの整った風林火山が加わるというのだ。全員SAOを生き残った実力者だということもあり、これ以上頼もしいメンバーもいないだろう。

 

「まあ、悪くはないな……」

 

「だろ? なら決まりだな。六人パーティ同士の十二人でレイドを組んで、ボスを倒したろうぜ!」

 

 遼太郎が右手で握り拳を作り、高々と空に掲げて気合の入った音頭を取ると、和人を除いた残り十人のメンバーが次々に手を掲げ、気合を入れていった。

 

 そして時刻はイベント開始の一分前の20:59に差し掛かり、いよいよイベントが始まろうとしていた。

 UDX広場にいるプレイヤーが、次々にオーディナル・スケールを起動し、私服から仮想世界のアバターのような見た目へと姿を変えていった。中には人間ではない見た目をしたプレイヤーの姿も見受けられる。

 

「ほら……和人!」

 

「あ、ああ……」

 

 和人は肩から下げている黒い鞄から自分のオーグマーを取り出すと、そそくさと自身の左耳に装着し、電源を入れた。

 そしてタッチペンも取り出し、すっぽ抜け防止用のストラップを右手首に巻きつけ、しっかりと握り締める。

 

 他のメンバーも同じように、オーグマーとタッチペンの装着を完了させると、次々にボスイベントに備えていった。

 

 そしてフルダイブするときとは別の、オーディナル・スケールをプレイするためワード(・・・)を気合のこもった声で発した。

 

 

「オーディナル・スケール、起動!」

「オーディナル・スケール、起動!」

 

 

 和人と木綿季がオーディナル・スケールを起動させると、たちまち二人の体が白い光に包まれ、先程まで私服だった姿が、SFの世界にあるような近未来的な服装へと変わっていった。

 

 和人は普段の彼からは想像できないような白と水色を基調としたSFに出てくるような上着に、下は真っ黒なズボンに、右手には片手剣が握られている。

 

 木綿季は彼女らしく、紫と黒を基調とし白のパイピングが入った上着。下は紫のミニスカートに黒のニーソックスといった姿をし、利き手には細剣のようなすらっと細めの片手剣が装備されていた。

 

 明日奈はまるで血盟騎士団時代を思わせるような、真紅と白を基調とした服を身にまとい、下は和人と同じ色のぴっちりとしたストッキングを履き、腰にはレイピアのような細剣が収められていた。

 

 珪子や准、里香もALOでのアバターと同じイメージカラーを基調とした服装を身にまとい、それぞれが自分の得意分野とする武器を右手に握り締めてた。

 珪子は短剣、里香はメイス、准は両手剣を握り、あと数十秒のうちに出現するボスに備え、身構えている。

 

 遼太郎ら風林火山のメンバーは全員が全員和風の侍のような格好をし、着流しとも言える服装に変わっていった。

 

「…………」

 

 全員が緊張の渦の中にいた。そしてやがて時刻はイベント開始時刻の21時に差し掛かり、UDXのビルに備え付けられた巨大ディスプレイに、現在の時刻が21時だということが知らされる。

 

 するとビルが並び立つ現代の秋葉原の街がたちまち、欧州の観光名所を思わせる中世風の町並みへとエフェクトとともに姿を変えていった。

 アスファルトだった道路は大理石で出来た明るいタイル状の地面へと変わり、電柱や電灯も油を使うランプへと変化した。

 ガードレールも豪邸にあるようなおしゃれな柵へと見た目がかわり、とても先程までここが秋葉原だとは思えないような景観へと変わっていった。

 

 これがARMMO、オーディナル・スケールだ。

 

「……すごいな」

 

「でしょ?」

 

 オーディナル・スケールを始めて起動する和人は目の前の景観の変化に大変驚いていた。仮想世界や観光名所でしか見れないような光景を、東京のど真ん中で目の当たりにしてるのだ。驚くのもうなずける。

 いつもプレイしているVRMMOと違うといえば、アバター、つまり体がいつもよりも重たい、といったところだろうか。

 

「な、何かくるよ……!」

 

 木綿季が全員に注意を促すと、彼女の視線の先の地面にサークルのようなものが現れた。

 

 そしてそれを取り囲むように炎が燃え上がる。炎は大きく燃え上がっていき、やがて空まで伸びる火柱へと姿を変えると、ぼっと一瞬で消えてしまった。

 

 そして消えた火柱の中から、真っ赤な炎のイメージにたがわぬ赤い布に、鎧武者を思わせるような真っ黒な甲冑を着た落ち武者のような巨大なモンスターが現れた。

 

 頭には侍の兜が被さっており、三日月型を思わせる鍬形が街灯の光を反射している。志半ばで戦場(いくさば)で命を落とした設定なのか、甲冑には籠手がついておらず、肘から先がむき出しになってしまっている。

 

 そのむき出しになっている左手には白いまだら模様のような刺青が入れられており、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。反対の右手にはこのボスの身長ほどもある、長い長い太刀が握られている。

 

 更に素顔は般若の仮面のようなもので隠されており、赤く不気味にきらめく目と、口から時折見せる蛇のような長い舌がプレイヤーに戦慄を与えていた。

 

「お、お侍さん……?」

 

「キリト君、あれは……」

 

「……旧アインクラッド第10層ボスモンスター ”カガチ・ザ・サムライ・ロード” ……!」

 

 落ち武者のような出で立ちのボスモンスターは、現れるなりすぐに周囲に居るプレイヤーたちを、その長い舌で不気味な鳴き声とともに威嚇をしていた。今すぐにでも襲いかかってきそうな迫力だ。

 

「本当にSAOのボスにそっくり……」

 

「……オーディナル・スケールじゃソードスキルが使えないから、立ち回りと連携が大事になってくるぞ……」

 

 現実世界を舞台にしているオーディナル・スケールでは、当然システムアシストが乗ったソードスキルは使えない。

 自身の生身の体を直接動かし、モーションだけで戦わねばならないのだ。当然ALOではないので魔法の類も使用不可能となっている。

 

「……お?」

 

「あ! キリトさんあれ……!」

 

 珪子が指さした方向を全員が見ると、プロペラが四つ付いたドローンが飛行している。

 ドローンはボスモンスターの背後にある進入不可エリアでホバリングをすると、下方に向かって紫色の光を照らし始めた。

 

 するとそこには、今話題沸騰真っ最中のARアイドルである「ユナ」がふわりと舞い降りるようにして、華麗に姿を現した。

 銀色に輝くキレイなロングヘアに、左右に三つ編みのおさげ。七三分けされた前髪には右側に三つ編みがほどこされた独特のヘアスタイル。

 

 時代を一つも二つも先取りしたような未来的な、黒いと赤を基調としたワンピースのようなアイドル衣装に身を包んだユナのサプライズ演出に、珪子や遼太郎を含むユナのファンは喜びを隠せなかった。

 

「ゆ、ユナ……!」

 

「ユナちゃん!」

 

「へぇ……あの娘が……」

 

 ユナはステージに現れるなり腰のベルトにつけているマイクに手を伸ばし、パートナーロボのアインとともにこの場に集まっているプレイヤー全員にイベントのスタートを伝えた。

 

『みんな準備はいい? さあ……戦闘開始だよ! ミュージックスタート!』

 

 ユナがパチンという音とともに指をならすと、この日発売した新曲の前奏とともに、UDXのディスプレイにあたる部分に時間表示のウィンドゥが浮かび上がっていた。

 

 [10:00]と表示されている数字は、ユナの合図とともにカウントが始まり、数字が減少していった。

 どうやらこれはイベントの制限時間らしい、この時間内にボスモンスターを倒せというものだ。

 

 カウントが始まると、ボスモンスターが動き始め、同時にユナのパートナーロボのアインがプレイヤーたちに向かって緑色の光を浴びせ始めた。

 

 この光は攻撃力と防御力があがるバフ効果があるもので、ユナが出現したステージのみ適用される、特別なものだった。

 すなわち、言い換えればここのボスはそれだけ強いということを意味しているということだ。

 

「よっしゃ! ユナが歌い始めた! ボーナス付きのスペシャルステージだ!」

 

 和人たちの横に、物騒な遠距離武器であるRPGを構えたトラの姿をしたプレイヤーが意気揚々としていた。

 オーディナル・スケールにある武器は剣や斧だけではない。このトラが持っているRPGのようにライフルや弓などといった遠距離武器も存在する。

 

 ただし、ダメージ計算は接近戦の方に多く設定されており、遠くからちまちま撃っているだけではとても倒せない。

 遠くに行くほどリスクは減るがリターンがない、近くに行けばリスクは大きいがリターンも得られる。といったところだ。

 

 しかしこの男がもっているRPGなどのように遠距離でも大ダメージを与えられる武器もある。

 その場合、重すぎて動きに制限がかけられたり、再装填に時間がかかったりと、色々と問題はある。しかし、一発当たればでかいリターンを得られるのも確かだ。

 

「来るわよ!」

 

 里香がメイスと盾を構えると、カガチ・ザ・サムライ・ロードがゆったりと走り初め、徐々にその足の速さを上げてプレイヤーめがけ、襲いかかってきた。

 

 一歩踏み込むたびにズシン、ズシンと重たい足音があたりに響き渡る。一風変わったボスモンスターの登場に、エンジョイ目的で集まったプレイヤーが物珍しそうに近づいていた。

 

 サムライ・ロードは巨体であるにもかかわらずフットワークが軽く、また歩幅が非常に広いので数歩遠くにいると思ってもあっという間に近くまで寄られてしまう。

 

 サムライ・ロードが近くにいるプレイヤーを視認すると、まっすぐに駆け寄り、右手に握った長刀を振りかぶり、地面ごと砕くように振りかぶり、ズシンという音と共に早速一人のプレイヤーを斬り捨てた。

 

 そのあとも勇猛果敢に立ち向かってくるプレイヤーを、サムライ・ロードは次々と、激しい土煙を上げながらひと振りで葬り去っていく。

 斬られたプレイヤーはHPがゼロになるなり《HUNTER DOWN》の表示とともにイベントから脱落していった。

 

 デス・ゲームであるSAOと違う点といえば、プレイヤーが爆散せずに、装備が解除されるだけといったところか。

 

「早速二、三人やられたな」

 

「迂闊に近づくからだよー」

 

 対ボス戦のなんたるかのセオリーを理解している和人たちALO組が迂闊に近づいたプレイヤーたちに辛口なコメントを送っていた。

 サムライ・ロードだけに限らず、ボスモンスターというものは攻撃力も高く、このように一発もらうだけでやられてしまうことも、決して珍しくはない。

 

 今回のように、ボス戦というものはまずモンスターの動きを観察し、パターンを見極めるところから始まる。

 いくらリアルに、生き物のように動いているといっても、プログラムで管理されたシステムであることに変わりはないからだ。

 

 必ず思考ルーチンにパターンというものは存在する。プレイヤーとの距離、攻撃する順番、HPの減り具合などで変化するが、ある程度動きを把握すれば、ノーダメージで倒すことも可能だ。

 

「攻撃パターンがSAOの時と同じなら、楽に戦えるかもな」

 

「なら、まず私たちが切り込んだほうがいいんじゃない? キリト君」

 

「……そうだな」

 

「あ、ずるい! ボクもいくよー!」

 

 明日奈が一足先に駆け出すと、それを追いかけるように木綿季も地面を蹴り、そのあとを和人が続き、サムライ・ロード目掛けて走り出していった。

 

 ボスモンスターの攻撃力の高さに萎縮した前衛のプレイヤーたちが戦線を下げていると、入れ替わるように明日奈たちが武器を構え、勇敢に切り込んでいった。

 

 自分に近づいてくる明日奈たちにターゲットを移行したサムライ・ロードは、早速長刀を振りかぶり縦一線に振り下ろし、ズガンというものすごい音とともに土煙を舞い上げた。

 

 しかしパターンが頭の中に入っている明日奈は難なくその攻撃をかわし、ボスが装備している鎧の胴にあたる部分に、すれ違いざまに斬撃を入れていった。

 

 斬撃が入った場所には切り口のような赤いダメージエフェクトが残り、ボスにダメージが入っていることを表していた。

 

 ボスに始めてダメージを与えられたことを確認したプレイヤーたちは、常人とはかけ離れた立ち回りをしている明日奈の動きに釘付けになっており、すっかりギャラリーと化している人の姿もあった。

 

「木綿季! スイッチ!」

 

「了解だよ!」

 

 木綿季は最初に切り込んだ明日奈と位置を入れ替えると、素早くボスとの距離を詰め、懐に飛び込んで二回斬撃をお見舞いし、素早くバックステップを踏んでサムライ・ロードから距離をおいた。

 

 当然、ボスのターゲットが木綿季に移り、サムライ・ロードは長い舌を出して威嚇しながら、今度は水平に長刀を薙ぎ払うかのように振りかざしてきた。

 

 木綿季はそれを見てから身を屈めて回避し、そのまま地面を蹴って前方に跳び、細剣ソードスキル「リニアー」のようなモーションでボスの足の付け根に斬撃をお見舞いした。

 

 とても元病人とは思えないほど軽快な動きをしている木綿季だが、彼女は元々ここまで動けるほど運動が得意なのだ。

 AIDSを発症し、長いこと寝たきりの生活を続けていたが、懸命にリハビリを重ね、日常に復帰してからも運動は続けている。

 

 退院したばかりの頃は日常生活程度の動きしか出来ていなかったが、直葉に剣道を教えてもらうと、たちまち元々もっているセンスが花開き、抜群の運動神経を発揮しだしたのだ。

 

 女の子なので力では勝てないが、今では普段あまり体を動かさない和人よりも、軽快に動けるようになっている。

 

「はー……すごいなリーダー……」

 

「ほ、本当に元病人なんでしょうか……」

 

 サムライ・ロードの攻撃を次々に見てから交わしていく木綿季を、遠く離れた場所から准と珪子が見守っていた。

 その姿はALOでよく見る光景とそっくりであり、現実世界でも「絶剣」を名乗るのに相応しい立ち振る舞いだった。

 

 しかしここは仮想世界ではなく現実世界、アバターではなく現実の体を動かしているので、当然体に疲労がたまってくる。故に、木綿季の動きはだんだんと鈍くなっていってしまっていた。

 

「和人! スイッチお願い!」

 

「……あいよ!」

 

 スタミナの限界を感じた木綿季は、手早く後方にステップすると、待機していた和人と攻守を入れ替えた。和人はALOでやっていたように、足に力を込めて地面を蹴り、サムライ・ロード目掛けて切り込もうとした。

 

「……れっ!?」

 

「えっ!?」

 

「ちょ……キリト君!?」

 

 誰もが目を疑いたくなるような光景が飛び込んできた。あろうことか和人は目の前にある道の段差に足をつまづかせ、派手に土煙を上げながら転倒してしまったのだ。

 

 和人は不幸にも、サムライ・ロードを下から見上げることが出来る距離まで吹っ飛んでいってしまっていた。仮想世界にはない痛みに悶えながらゆっくり瞼を開けると、サムライ・ロードと見つめ合う形で視線が合った。

 

「ど、どうも……」

 

 挨拶などしても返してくれるはずがない。その代わりとばかりにサムライ・ロードは長刀による斬撃を迷いなく和人目掛けて振り下ろした。

 ガスンという激しい音とともに地面がえぐられたが、間一髪和人は攻撃を避わし、一旦後方に避難することにした。

 

 当然、ターゲットを和人に移したサムライ・ロードもそれを追いかけようと地面を蹴り、一目散に走り出した。

 

「のわっ!?」

 

「……何やってんだ……アイツ」

 

 周囲に醜態を晒してしまった和人に、後方で遼太郎が呆れた視線を送っていた。

 仮想世界では向かうところ敵なしのキリトこと和人が、現実世界では上手く動くことが出来ずに、無様にサムライ・ロードに追い掛け回されている。

 

「か、体が重い……!」

 

「ただの運動不足だよ! だからボクと一緒に剣道やればよかったんだよ!」

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

「剣道だけに、一本取られたね、キリト君……!」

 

 半分冗談を交えつつも、木綿季と明日奈も和人と一緒に後方に戦線を下げていた。スピードアタッカーだけで構成されたこの三人は、一旦攻撃のリズムが狂うと中々体制を立て直すことが難しい。

 そこでタンクの役割を果たすことができる准や風林火山のメンバーと入れ替わろうというのだ。

 

「す、スイッチ!」

 

「あいよ!」

 

 和人の必死のスイッチの掛け声に、後方で待機していた准と風林火山のタンクが、和人目掛けて振り下ろしたボスの斬撃を、ガキィンという激しい金属音とともに、盾と両手剣で防いでいた。

 

 その攻撃の隙を突いて、里香、珪子がすかさず流れるように攻撃を加え、遼太郎を含む残りの風林火山のメンバーもそれに続いて次々に攻撃を浴びせていった。

 

「ようし、このまま反対側にいくぞ! 走れ!」

 

 遼太郎が合図をすると、木綿季らアタッカーがそれに続き、それをカバーするように最後尾でタンクのメンバーが駆け出していく。

 このように役割が違うプレイヤーが一人も二人もいるだけで、戦いはぐっと楽になるのだ。

 アタッカーだけでも倒せないことはないが、一度戦線が崩壊したときの立て直しが非常に難しく、そのまま全滅してしまうことも考えられる。

 

「いいぞ、この調子だ!」

 

「ほえー、タンクってやっぱり頼りになるね……」

 

 遼太郎の的確な指示で、対サムライ・ロード戦は順調に進んでいった。完全にALO組の独壇場となったこの戦場だが、この戦況を遠くで見守っているプレイヤーの姿があった。

 

「…………」

 

 青いタイツのような服を身にまとい、服のあちこちに青く光ったラインが引かれている。

 和人らALOプレイヤーとはまた違った意味で異色を放っているこの男性プレイヤーは、含みのありそうな不気味な視線をこの戦場に向けていた。

 

「……いいぞ、十人か……」

 

 男はオーグマーを操作し、何やらこの戦場をスキャニングしている様子だ。そしてその視線は戦場から和人たちへと移されていた。

 一人一人プレイヤーを確認し、自然と和人らを見つめるその顔は真顔から笑みへと変わっていった。

 

 この男は何故戦わないのか、何故冷ややかな視線でこの戦場を見つめているのか。

 和人たちはまだ知らない。自分たちがゆくゆくはこの男の掌の上で踊らされる日がくることを、いやもうすでに踊らされていることを……。

 

 




 
 ご閲覧ありがとうございます。今現在の原稿の蓄えはこれでお終いです。あくまで先行公開なので、次回からはまた小さな春編を書いていきます。
 シリカとジュンがどうやって結ばれるのか、その後の木綿季の学校生活はどうなっていくのか。
 そして、ボク意味版のオーディナル・スケールはどのような結末になるのか。ぜひ最後までお付き合いいただければなと思います。
 
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