22話
「ぬわーん、疲れたわー」
そう言って八神 はやては誰もいない給湯室のソファに勢いをつけて座る。 今日も多忙極まる仕事の量に悲鳴を上げていた。
「っていかんいかん、最近キリン君の影響で変な言葉言うようになってしもうなぁ……」
六課のトップであるはやてが社畜のように働くのは中々に奇妙な話ではあるが、トップが忙しい会社にブラックは少ない……はずである。 フォワード陣や隊長、客員扱いのキリンや翔次が前線で働いている後ろではやては書類やらの仕事の処理をしているのだ。 時たまなのは達に助けてもらうこともあるが、それでも前線に立つ仲間の負担が増えぬように椅子に座り格闘していた。
「うぅ〜……にしてもホンマに疲れたわ〜……」
「ーーお疲れでごぜーますか?」
そんなはやての前に以前姿を現した子どもが立っていた。 今日は動物を模した服を着ており、頭にはウサギやカンガルーのような長い耳が立っている。 いきなり現れた訳だが、はやては動じずに接する。
「何時もの五割増しで仕事多かったのよ……ホンマキッツイ……」
「お姉さん偉いのに『社畜』でごぜーますか!?」
「せやねん……自分で作っておいて私がいっちゃんの社畜やねん」
「うぅぅ……可愛そうでごぜーます」
「せやろ……ところでや」
少々の愚痴を零しつつ、はやては本題に入る。 もちろんこの子どもの事についてだ。
「あんた……名前は?」
「ふぇ? ふ、ふーかは『フーカ』でごぜーます!」
「ほーん……男の子やろ?」
「そうでごぜーます! フーカは男の子でごぜーますよ!」
「ちゃんとついてるんか?」
「はい、ちゃんとおちん◯んあるでごぜーますよ」
「ほうほう、私の審美眼も捨てたものじゃ……ってこんなこと聞いてるからリインにショタコン疑惑持たれるんか……」
「……りいん?」
疲労のせいかはやては変なことを口走る。 いやでも多分すっごい変態だと思うんですけど。
「そんじゃ名字……あぁファミリーネームって聞いたほうがええか」
「名字でごぜーますか? ふーー」
「ふ?」
「ふ……フーカの名字は言えないのでごぜーますよぉ!」
「ほーん……?」
フーカと名乗る少年は両手で口を塞ぐ。 その反応からはやてにはいくつかの憶測が立つ。 一つは犯罪者等の超重要人物に関係がある。 二つ目は忌み名等の言えない特別な事情がある。 三つ目は線は薄いがそもそも名字がない説。 これらの推測からはやては目の前の可愛らしい少年の反応を見て、意地悪をしたくなる衝動に駆られる。
「ほーん……教えてくれたってもええやん」
「い、言えないのでごぜーます! 言ったらママに怒られるですよー!」
「大丈夫やって、内緒にしとけばバレへんバレへん」
「うぅ……フーカは……」
「私も口は堅いほうや、ここだけの話にしとくから。 な?」
「ふ、フーカの名字……」
名字を聞くだけなのに何やら怪しい雰囲気が出ている。 怪しく詰め寄るはやてにちょっぴり涙目のフーカ、犯罪臭がしてくる姿である。 ……こんな事をしてるからショタコンとか言われるってそれ一番言われてるから。
「ふ、ふ、ふーーやっぱりフーカは言えねぇでごぜーます!」
「あら、それなら仕方ないわ」
「うぅ……お姉さんはイジワルでごぜーますよぉ……」
「ぬふふ、フーカが可愛いのがいけないんよ?」
うわぁ……これは変態ですね、間違いない。
「ちょぉっと疲れてたからフーカいじって癒されたかったんよ」
「……お姉さん癒されたいですか?」
「せやなぁ……誰かにマッサージでもしてもらおかな……」
「それならフーカが肩たたきしてあげるでごぜーますよ!」
「お?」
フーカが元気よく手を上げる。 その様子は自分の特技を見せたい子どものようだ。 さっきまではやてに弄られていた(健全)のにもう弾けんばかりの笑顔でいる。
「パパによく肩たたきしてるんでごぜーますよ! パパはいつも褒めてくれるんですよ!」
「そうか? そんならお願いしようかな」
「はーい♪」
はやての後ろにパタパタと走る。 はやて自身別にフーカに技術的なモノは特に期待していない。 健気で可愛いフーカから元気を分けてもらおうと思っていた。 だがその期待は一瞬で裏切られる。
「トントントントーン♪」
「ーーッ!?」
「トントントン……どうしましたお姉さん?」
「な、何でもあらへん……よ?」
「そうでごぜーますか? トントントントーン♪」
「(あ、あかんこれ……)」
フーカは元気よくリズムよくはやての肩を交互に叩く。 それを受けているはやては物凄い顔をしていた。
「(気持ち……よすぎ……ッ……!)」
女騎士みたいな感想を心の底で言っていた。
「トントントントン♪」
「(何やこの極上の快感は!? リラックスってレベルやないで!?)」
「トントントーン♪ トントントーン♪」
「(えらいのはこのフーカの両手から感じる柔らかさや!! 私の肩を叩いた手が柔らかすぎる、私の肩が沈んでいる!!)」
予想外の気持ち良さにはやてはそこそこだらしない顔をしている。
「あ゛〜ごっつ気持ちええ〜」
「そうですか? ならもっと頑張るでごぜーます!」
「お゛お゛お゛〜」
八神 はやて(19歳)、年下の男の子にマッサージでだらしない顔を晒す。 世が世ならSNSで拡散されていたであろう。 まぁしかしはやてがだらしなくなるのも仕方なし。
フーカがやっているのはTDN肩たたきに非ず。 人間は振動のリズムで快感を得たりストレスの発散、癒しを得ている。 クラシックを聞いてリラックスをするのも高速道路を走行している車に揺られて眠くなるのも全て人間のリズムに上手くハマっているからだ。 フーカの肩を叩くリズム、それにより伝わる振動。 それらがはやてに極上の癒しをもたらしている。 もちろん『それだけ』ではないが。
「ふぃ〜……ほんま気持ちよかったわ。 ありがとうなフーカ」
「うぇっへっへ……お姉さんが元気になってくれてフーカも嬉しいですよ!」
大きく身体を伸ばすはやて。 身体が軽くなっているどころか血行もよくなっている。 はやてはフーカを労うように頭を優しく撫でる。 フーカは猫のように嬉しそうに撫でられていたが、突然大きな声を出す。
「あっ! マズイでごぜーます!」
「お、どうした?」
「そろそろ戻らないとママに怒られるですよー!」
「お?」
フーカは両手を広げて上下に大きく振りわちゃわちゃしている。 その姿がとても愛らしく見えてはやてはもう少し見ていたい気持ちだったが、ぐっと堪えて、断腸の思いでフーカに帰るよう促す。
「ん〜まぁ心配してるかもしれへんし、早く帰ったり」
「はいですー!」
フーカは給湯室を出ようと扉の前に向かい、少し立ち止まってはやての方を見る。 そして満開の笑顔で別れの挨拶をする。
「それじゃあさよーならでごぜーます!」
「ん、気ぃつけて帰りぃ」
「バイバーイです、
フーカは給湯室から出る。 はやてがその後をこっそり追うと、たった数秒の間にフーカは消えていた。 魔法による転移を疑いたくなるが、今は余り考えたくないと頭の隅に置く。 はやては軽くなった身体を仕事に向かわせるべく自分の机に向かうのであった。
その途中。
「あれ、はやてちゃん。 休憩は終わりですか?」
「おうリイン、ばっちしリフレッシュしてきたで!」
リインに遭遇。 一緒に部屋に戻る間、はやてはリフレッシュされた自分の身体を見せつける。
「どやどや〜? 私の身体こぉ〜んなに軽ぅなったで?」
「はぇ〜もしかしてシャマルにマッサージでもしてもらったんですか?」
「うーん? まぁマッサージ言うかそれっぽいことはされたけど、シャマルじゃないんよ」
「ふぇ? それなら誰に……?」
「んふふ、これは教えられへん。 私一人で独り占めや」
「あーずるいですよー!」
とても上機嫌なはやて、それを見て若干困惑しながらも元気な姿に嬉しいリイン。
「いやぁ逆にすご過ぎて困ったわー」
だからかもしれない。
「いやぁ困った困ったー」
元気になったはやての……
「……私名乗った覚えはないんやけどなぁ」
「……? 何か言いましたか?」
「んにゃ、何でもあらへんよぉ〜」
新たな疑問に対する微細な変化に気付かなかったのは。
「さぁーて、お仕事頑張るよー!」
「はーい!」
『フーカ』という名前が判明し、一歩前進したところで新たな疑問が浮上してきた。 未だそのヴェールは何層にも重なっていて、その真意は掴めない。
今回判明した『フーカ』ですが、vivid strike! のフーカとは関係ないです。 だって公式が後出しで出してきたんだもん! 私はvivid strike! が放送される前からこの名前だった決めてたもん!
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。