オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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ぬわつか!

最近なろうにでもオリジナルの小説を投稿しようかな、と考えてます。 何でって? ハーメルンだとオリジナルは閲覧されにくいし……


29話 Rage of Thunder 虚ろな勝敗

 29話

 

 

 

 

 再生されたローリを前にキリンは苦戦を強いられる。 ……いや苦戦とも呼ばないその戦いは一方的と言っても良い。

 

「どうした? さっきまでの威勢はどこに消えた?」

「うぐっ……」

 

 美しいまでに煌めく光沢が全身に写っているローリ、それとは正反対にボロボロで流血もし、息絶え絶えなキリン。 戦局は明らかにキリンの不利。 圧倒的不利。

 

「そらっ!」

 

 しなる右足。 キリンはとっさにミョルニルでガードしようと、狙われている右の胴にミョルニルを構える。 だが高速をも超えるローリの蹴りはミョルニルごとキリンを蹴り飛ばす。

 

「がはっ!?」

 

 聞こえた打撃音は三回。 一発の蹴りのように見えて高速で三回の蹴りを放っていた。 恐るべしローリの身体能力、もはやこの宇宙どこを探しても彼と同じレベルの存在など数えるほどでしかないだろう。

 

「一瞬で三回蹴りを……!」

「一瞬だと? 貴様にとって一瞬に感じるという事は!」

「早っ……」

「貴様の反応速度はそこが限界だという事だ!」

「おぐぅぇ!?」

 

 またもや恐るべき速度でキリンに迫る。 そして容赦なく右の拳をみぞおちへと深々と突き刺す。 今日一番鈍く重い音が響く。 そして突き刺した右手から魔力弾を形成、爆発させる。

 

「……カ……ハッ……」

「……昔、「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画を読んだことがある。 主人公の敵であるキャラクターがダイナマイトを胃の中で爆発させて処理するシーンがあってな、とても興味深かった記憶がある」

 

 腹を爆破され苦痛に顔を歪ませるキリンの表情を見ながらローリは淡々と語る。 目の前で打撃と爆発を連続で味わっている人間を見てもローリは何とも思わない。

 いや、一つ思う事がある。

 

「ちょうど、今の貴様の状態の事を言うんだろか? いや、胃を直接爆発して見なければ分からんか……ククク」

「ハッ……ハッ……や、やろう……!」

 

 ひたすらに……愉しいのだろう。

 そんなローリはまだまだキリンをいたぶるつもりである。 当然だ、キリンに受けた屈辱はこの程度ではまだ足りないのだから。

 

 

「さっさと殺しても構わないが……どうせヴィヴィオは後であいつらが持ってくる。 時間になるまで遊ばせてもらう」

「……あんだとぉ?」

 

 受けたダメージに表情を歪ませながらキリンはローリの口からヴィヴィオの名が出たことに驚く。 何故ローリがヴィヴィオの名を? もちろんローリはスカリエッティ陣営の人間。 だがローリの目的はあくまで自分だと、転生者と勘違いしている自分なのだとキリンは思っていた。

 だが違うのだ。 ローリの目的はヴィヴィオにあるのだ。

 

「……何だって……てめぇがヴィヴィオちゃんの事を……」

「ふん……貴様に話した所で意味はないが……いいだろう。 まだ時間はたっぷりある」

 

 ローリは自らの目的をキリンに打ち明ける。

 

「私には妻がいた」

「妻……?」

「そうだ、私が唯一愛した人間だ」

 

 意外や意外。 よもやロリコンであるローリに妻と呼べる人間がいるとは思わなかった。ちょっとした東洋の神秘を感じながらローリの話を聞いていく。

 

「順風満帆とは呼べないが……それでも充実した日々だった。 そう……時が経ち、妻は身篭り出産間近となるあの瞬間までは……!」

 

 ローリはワナワナと両手を震わせて顔面を覆う。 それは悲劇に見舞われた人間が現実を拒絶する時と似ている。

 

「つ、妻は……事故にあった……!」

「……!」

「どうしようもない、運が悪いとしかいいようのない事故で……妻は死んだ……!」

 

 両手だけではない、ローリの身体すべてが震えている。 機械となった筈なのに、心が覚えている恐怖がローリの思考回路を支配する。

 

「妻は死に……う、う、産まれるはずだった……わ、わた、私の……私と妻の……娘、娘はぁぁあああああ!!」

「ッ!?」

『なっ、何ですか一体!?』

 

 脳内に映し出されるフラッシュバックがローリを発狂させる。

 キリンは気付く。 ローリはとっくに正気をかなぐり捨てている。 だから自らの転生先をマイクロチップに出来たのだ、機械の身体に抵抗がないのだと。

 

「娘は……死んではいなかった。 ただ……事故の衝撃で、ぁぁあああ!!」

 

 叫ばずにはいられない。 いくらスーパーコンピュータ並みの処理能力があろうと、心の恐怖を、トラウマを消し去る事は出来ない。 故に叫ぶしかない。 この心の叫びを外に放出しなければ自我が崩壊してしまうからだ。

 

「あ、あ、頭が歪みミme……目と鼻がツブレれれれrere……!!」

「……奇形児か」

「ああああああああ!! そ、そ、そして、そして、医者どもは『不運な事故』だと言い切りやがったぁぁぁぁ……!!」

 

 ローリの顔面を覆う両手の指の隙間から見えるその表情は、怒り。 怒り。怒り。 機械が作り上げた顔だというのに物凄い迫力なんてものじゃない。

 

「ふざけるなぁ! 私と妻の……愛の結晶が……あ、あ、あんな……()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「ッ!!」

『なっ……自分の娘なのに……!?』

 

 憤怒。 まさにローリにぴったりの言葉だ。

 いや、怒りを感じているのはローリだけでない。 今の話を聞いていたキリンも同じだ。 だがローリの怒りは溢れ出て止まらない。

 

「それから娘は次の日に死んだ……否! あんなもの娘でもない!」

「何言ってんだお前!」

「だから私は、私と妻の娘に相応しい子を探していたのだ!」

「探していた……だと……!?」

 

 ここからが……ローリの深い闇である事にまだキリンとミョルニルは気付かなかった。 ローリの深い深い狂気の闇。

 

「名前はすでに妻と決めてあった。 髪の色も後から変えられる。 だから血液型や性格、骨格に笑い方、私と妻に似るように何度も何度も監禁しては『教育』したさ」

「ッ……!?」

『!?』

「だがいつも最後には殺してしまう……どれだけ教育しても娘に相応しい存在にはならんかったからな」

 

 これが、20人強の少女を殺害した『理由』である。 そして理解不能な動機だ。 娘にするために拉致監禁し、娘に近づかなければ命を奪う。 理解しがたい自分勝手な理由にキリンはとうとう怒りを振り切る。

 

「そんな理由で……そんなふざけた主張にキリト君は巻き込まれたってのか!?」

「ふざけただと? 私は至って真面目だ! 最期には正気を失い道端に転がっていたトラックを奪い運転し死んだが、私はふざけたつもりは一切ない!」

「じゃあ待てよてめぇ……ヴィヴィオちゃんを狙っているのは……!!」

 

 キリンは気付く。 ローリの恐ろしい目的に。

 

「そうだ。 すべてが終わればアレは私が自由にしてよい、それがスカリエッティとの契約でな。 ヴィヴィオは妻と同じブランド、異彩好色は仕方ないとして骨格などは幼少期の私に酷似している。 あとは『教育』するのみ……!!」

 

 ローリの目的とは、すなわち()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事である。 恐ろしすぎる、無理心中という言葉すら当てはまることが出来ない恐ろしい執念にして妄念。

 

 かつてとある国では、自らの人種が最も優れた人種である事を信じて疑わず、同じ人種のみで親衛隊を作るために占領した地域から自分達の特徴と似ている子どもを施設に入れさせ、そこで自分達と同じ人種なのだと教育したと記録にある。

 しかし大人になっていくにつれその特徴は薄れていき、最終的にはごく僅かな子どもしか残らなかったという。 当然の話だ、そもそも違う人種なのだから。

 

 ローリの目的はこれに似ている。 似るはずのない子どもを無理やり自分の娘になるように教育し、ダメならすぐに他の子どもをターゲットにする。 数撃てば当たる、そんな言葉が出てくる。

 

「そうすれば、私はようやく死ねる! あの世で妻と再会出来るのだ!」

「ふざけんなよ……この野郎……! 死ぬならてめぇで勝手に死にやがれ! ヴィヴィオちゃんを、沢山のガキどもを巻き込むんじゃねぇ!」

「そのために……まず貴様は死んでもらう!!」

『マスター! 逃げーー

 

 ーーーー鮮血が、夜空に舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の戦闘機人を前に、フェイトは一歩も譲らない戦いをしていた。 空戦魔導師でも行う事が少ない超高速戦闘を繰り広げる。

 だがそこに一つの飛来物が。

 

「っ! ……これって……ミョルニル……?」

 

 少し距離を離しキャッチしたそれはキリンのデバイスであるミョルニルであった。 しかしその形状は待機状態に戻っており、今にも壊れそうなほどヒビ割れており、フェイトに一気に嫌な想像を掻き立ててしまう。

 

『フェイト様……マスターが……』

「ミョルニルどうしたの!? キリンはっ!?」

『マスターが……』

「ーーこいつをお探しかな?」

 

 その声の主は上空からトーレ達とフェイトの間に降りて来た。 だがおかしい。 そのシルエットが大きい。 ローリは何かを掴んでいる。

 

「……どうやら無事撃破出来たようだな」

「ふん、これでも何回か壊されたがな」

「でも……勝ったのはローリ」

「……まぁな」

 

 戦闘機人達は呑気な会話をしている。 目の前の光景に何ら反応を示さない。 唯一反応しているのはフェイトのみ。 そのフェイトも信じられないと言った表情で……ソレを見ている。

 

「キリ……ン……?」

「 」

 

 ローリの左手は首を持っている。 キリンの首だ。 そして右手は……キリンの腹部を突き破っている。 フェイトの目にはキリンの背中からローリの腕が生えているように見えてしまう。 見えてしまう。

 

「キリン!!!」

『マスター……!!』

 

 フェイトの悲痛な声が響く。 しかしキリンはそれに応える事はない。 その四肢は力を無くし、赤い赤い血がキリンの腹から流れる。

 

「さてさて、これで三対一という訳だ。 どうしてくれようか……」

「キリンを離して!!」

「そいつは出来ない相談だ。 こいつはまだ死んではいない。 ここから少しずつ痛みと恐怖を与える予定なのでな」

「ふざけないで!!」

 

 フェイトの目に宿るのは涙ではなく、激しい怒り。 キリンが負けた事に腹を立てている訳ではない。 すでに戦う事のできないキリンをさらに痛め付けるローリが許せないのだ。

 キリンが血塗れになっていた事によるショック等もうフェイトにはない。 目の前の機械人間からキリンを奪還する事のみ考えていた。

 

「ならば仕方ないフェイト・テスタロッサ……お前には一先ず沈んでもらおう……!」

「……ッ!!」

「我々がいる事も忘れるなよ……!」

 

 囲まれるフェイト。 だがフェイトが見据えるのは目の前のローリのみ。 もはや出し惜しみはせずに全力を出そうとフェイトがーーーー

 

「ふざけんなてめぇ……」

「キリン!」

「ほぅ、まだ意識があったか」

 

 キリンが意識を取り戻したのを確認するとローリは突き刺していた右手を腹から抜く。 そして右手に魔力を集結させる。

 

「ならここらで死んでおくのも一興か」

「なっ! やめろ!!」

「次は刺すどころの騒ぎではない。 ……消し飛ばしてやる!!」

「やめろぉぉぉぉ!!」

『マスタァァァァァ!!』

 

 紫色に輝く右手を広げキリンの眼前で構える。 その光はローリの悪どい笑みを照らす。

 フェイトが止めに入ろうと駆け出すも、もう間に合わない。 手の平から発射される魔法がキリンの頭部を削りーーーー

 

 ゴキンッ!!

 

「……え?」

 

 放たれた魔法はあらぬ方向へと飛んでいく。 誰もがその光景に目を疑い、ローリ本人も何故そうなったのか理解出来なかった。

 確かに右手から魔法を放ったはず。 そう思い右手を確認すると……

 

「なっ!? わ、私の腕がァァァァァ!?」

『ッ!?』

 

 ローリの右腕は、キリンの左手が折っていた。 潰された竹のように中心から握り潰されていたのだ。

 あり得ない、そうローリが思っているとキリンが声を上げる。

 

「てめぇ……今オレもろともフェイトちゃんを……」

「ぐっ、貴様……!」

「許さねぇぞ……貴様ァ!!」

 

 キリンの叫びと同時に放出される魔力。 だがそれは先程までの戦いよりも凄まじい勢いがある。

 その勢いに圧倒され掴んでいた首を離してしまうが、ローリはすぐさま右腕を再生させ、強化する。

 

「い、今さらそんなこけ脅しで私に勝てるとでも思っているのか! 今の再生でさらに強化された私相手に、イタチの最後っ屁しか出せない貴様が私に勝てるとでも……」

 

 ローリは握り締めた右の拳をキリンに放つ。

 

「思っているのかァァァ!!」

『ッ! いけませんマスター!!』

 

 ミョルニルが叫ぶ中、ローリの拳はキリンの顔面目掛け勢いと威力を高めながら…………止まる。

 

「お、おぉ……ゴォ……!!」

「ば、バカな!? ローリの装甲を貫いた!?」

 

 キリンの拳がローリの腹を貫き、ローリの拳を止めていた。 トーレ達は先程ローリが何回かの再生をしていると聞いている為、その硬度はかなり高められていると考えていた。 だからこそその装甲を突き破っているキリンに恐怖する。 もはや人の業ではないと。

 

「きさっ……マァァァァ!!」

「……キッ!!」

「うぐぅあああ! 何ィ!?」

 

 キリンがローリを睨むと、何かに弾かれるようにローリの身体が吹っ飛ぶ。 フェイトはそれについて心当たりがあった。 義兄とクロノをかつて吹き飛ばした、魔力そのものを飛ばす攻撃。 不可視にの攻撃な上に速効性もあるのでローリからしてみれば何をされたのか全く分からない。

 体勢を持ち直しキリンを睨むローリ。 だがキリンもまたローリを睨んでいた。

 

「罪のねぇガキどもだけに飽き足らず……フェイトちゃんまで傷付けようとしやがって……!」

 

 キリンの魔力の放出はまだ終わらない。 もはや魔力値はとっくに平常時の限界である500万を優に超えている。

 

「お前は……もう許さん……!!」

「な、何だこの魔力は……!?」

「……ローリ……!」

 

 目の前であり得ないレベルの魔力の放出にトーレとセッテは目を見開く。 だがその視界に捉えていたキリンは次の瞬間に消える。 そして聞こえてくるローリの悲鳴。

 

「ウグゥ!!」

「は、疾い!?」

 

 キリンの右肘がローリの顎に直撃している。 しかもローリの首が180度以上回っている。 ローリの視界には誰もいない空しか映し出されない。

 

「キッ!!」

 

 修復されている途中の腹部に再び拳を入れる。 大きくなるその穴はちょうど上半身と下半身の中間に出来ている。

 再び再生されようとする。 だがその度にキリンが拳を叩き込む。

 

「ローリの再生が……!」

「追いつかない……!?」

「Guガガガ……ガァ!!」

 

 イかれた首を元に戻し、キリン目掛けて拳を放つ。 だがキリンに拳が届く前にローリの身体が後ろへ飛ぶ。

 

「アガッ!? な、見えない……!?」

 

 不可視の攻撃? いや、超高速攻撃だ。 拳を三発、蹴りを二発、それらを誰の目にも映らないレベルの速度で打ち出しただけだ。

 辛うじてフェイトにはローリの挙動から何となくで攻撃を知る。 だが知るのは放たれローリに直撃しダメージが伝わった後。 初動は誰にも見えない。

 

「ダァァァァァァ!!!」

「ガ、Gaaa!?」

 

 キリンの強烈な蹴りがローリを、ローリの上半身を蹴り飛ばす。 上半身のみだ。 穴が開けられた事で上半身と下半身を繋いでいる箇所が少なくなり、残りの接合面では蹴りの衝撃には耐え切れなかった。

 

「ローリ!!」

「ッ! 来るな馬鹿! 貴様らでは手も足も出ん!!」

 

 耐え切れなくなったセッテがローリの側による。 トーレもまた負傷したローリを庇うように立つ。

 上半身だけになり、それでもまだ会話が行えるローリを見てキリンは動かなくなった下半身の足を手に持つ。

 

「……お前の本体はそっちか」

「くっ……持っていかれた部位が大きすぎて再生が出来ん……!」

 

 ローリの視線の先には切り離された下半身が。 キリンの視線は上半身に向けられている。

 この緊迫の状況で、フェイト一人があることに気付く。

 

「……キリンの手……血が付いている……?」

 

 フェイトの眼に映るキリンの手。 先程までローリの腹部を貫いていたその手に血が付着している事に気付く。

 だが待って欲しい。 フェイトの目には身体の内部まで機械である事が露呈しているローリ。 自分と戦っていたとは言え血は流していない戦闘機人と自分。 一体どこから血が付着したのか? その疑問が解かれる前にキリンが動く。

 

「いくら再生が出来るからといって……」

「な、なにを……!」

 

 持っている動かなくなった、文字通り鉄屑を宙に投げる。

 

「ーーハッ!!」

「なっ!?」

「跡形もなく……消し飛ばした……だと……?」

 

 キリンは魔力だけを右手から放出し、ローリの下半身を跡形もなく消す。 チリ一つ残らない、まさに消し炭とはちょっと違う。 圧倒的なパワーの前にローリの身体が耐えられなかった。

 

「今のは魔力だけを飛ばした。 これなら再生は出来ねえな」

「ば、バケモノめ……!」

「これを、次は残りにぶつけてやる。 そうすりゃ……消えるだろ?」

 

 青ざめる、とは血の気が引くとも言う。 果たしてそれが機械人間であるローリを表せるとは思えないが、それでも他に言い表す言葉が無いため、機械に対して当てはまる言葉が存在しないため、仕方なく当てはめよう。

 ローリは青ざめる。 死の恐怖ではない、限界値を超えて魔力を放出したキリンに、自分はどう足掻いても勝てない事に気付いたからだ。

 

「キリン……」

『いけませんフェイト様! マスターを止めてください! お願いします!!』

「ミョルニル?」

『今のマスターは肉体が耐えられる魔力値を大幅に超えています! 早く止めないと……!!』

「まさか……!」

 

 ミョルニルの言葉でフェイトはようやく気付く。 キリンの手に付いている血はキリンのモノなのだと。 そしてそれは膨大な魔力の放出に耐え切れなくなった肉体の悲鳴なのだと。

 キリンに流れる魔力は雷。 キリンが自分の肉体を鍛えたのはこれに耐えられるようにする為。 この10年でキリンは500万の魔力に耐えられるようになっていた。 だがこれが限界、これを越えれば魔力はキリンの身体を蝕む。

 

『今のマスターは全身に雷を浴びているも同然、それも超高圧の電流がひっきりなしに全身の細胞を焼き切っています! あんなのを続けていたら心臓に負荷がかかり過ぎてマスターが死んでしまいます!』

「嘘……!?」

『しかもまだマスターは魔力を上げるつもりです! そんな事をしたら戦いには勝ってもマスターは死んでしまいます! お願いです、マスターを止めてください!!』

 

 ミョルニルの言う通り、さらに魔力を上げ確実にローリを消し去ろうとしている。

 

「くっ、ここは引くぞローリ!」

「バカが! 私の事は捨て置け、貴様らごとヤル気だ奴は!」

「それでも……見捨てない……!!」

 

 トーレとセッテはローリを抱え全速力で戦闘から離脱する。 だがキリンにとってそれは的が大きくなるだけである。 しかし離れれば確実性は消える。 キリンは念入りに念入りに魔力を、さらに込める。

 その瞬間、キリンの身体から血が噴出される。

 

「キリン! もうやめて!」

 

 もはや皮膚、肉、骨、血管がキリンの魔力に耐えることが出来ない。 しかし流れ出る血は放出されている魔力が消し飛ばしてしまう。 例えるならウォーターカッター、超高速かつ圧縮された魔力が触れたもの全てを掻き消してしまう。

 

「キリーーーーッ!」

 

 キリンに手を伸ばす。 だが触れてもいない距離で指が火傷を負い、切り傷も出来ていた。 一応バリアジャケットを着ているはずなのに、それすら守りきることも出来ない程魔力が放出されている。

 

「……!!」

 

 だが、フェイトは止まらない。

 自分の持つ魔力を全て防護に回し、キリンに手を伸ばす。 同然傷付く手、腕、そして全身がキリンの魔力の牙を受ける。

 それでもだ、フェイトは引かない。

 

「キリン……キリン!!」

 

 フェイトはようやくキリンの背中に到着し、抱きしめる。 両手を頭に回し、キリンの目を覆うように、ローリが見えなくなるようにする。

 

「もういいの! キリンが勝った、だからもういいの!」

「…………」

「お願いキリン……」

 

 こうして呼びかけている間にも、キリンもフェイトもボロボロになっていく。

 

「……そんな……」

 

 だがフェイトの望みはただ一つ。

 

「怖い顔は……やめて……ッ……」

 

 キリンにそんな顔をして欲しくない、ただそれだけだ。

 怒りに支配され笑顔を失ったキリンなど、フェイトは見たくない。 そんな表情はもう……『もう』……御免なのだ。

 

「ーーーーーーーー」

 

 そんな呼びかけの中、視界を塞がれたキリンは……

 

「ーーーーフェイト……ちゃん……」

 

 フェイトの腕から流れる血を見てようやく魔力の放出を止める。 フェイトの願いは届いたのだ。

 

「ごめん……」

「いいの、私は大丈夫だから」

「……ごめん」

 

 闇夜の激闘はこれで終わる。 あれだけ激しく動いていた雲も海面も、今となっては穏やかに流れている。 ローリ達もすでにこの空域には存在していない。 戦いはもう起こらない。

 

 戦闘の終わった二人はそのまま六課に向かった。 その最中、ずっとキリンはフェイトに詫びていた。

 

「……ごめん」

 

 

 




ローリがサイコパスになってもうた……それともパラノイアの方が正しいのかな?

次回は翔次君がどうなったのかと六課に残っていた心悟君の話をやります。

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。
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