いきなり1万文字を詰め込むとかたまげたなぁ……
34話
先の戦いにおいて六課本部がやられた現状、どうしても拠点が必要であった。 そんなところで誰かが言った。 「廃艦寸前で破棄されそうなアースラを使おう」と。
そうして現在動ける六課のメンツはアースラに乗り込み待機している。 あるものは訓練に勤しみ、あるものはデバイスのさらなる強化を、そしてあるものは…………
「…………」
あるものは……キリンは一人黄昏ていた。 かつて自分が使用していた部屋の中で、ベッドに腰掛けながら自分の行いを振り返っていた。
『そうすりゃ……消えるだろ?』
『やめて! キリン!!』
内なる魔力を解放し、ローリを消し去ろうとする自分をフェイトは止めようとした。
その理由は分かっている。 六課は人殺しの集団ではない、事件を解決し平和を守る為に戦ってきた。 だから例え、ゾッとするような殺人犯でも、快楽主義な科学者だろうと、殺してはいけない。 捕まえて罰しなければいけない。 それは六課、ひいては管理局のルールだ。
そこを逸脱しようとしていたキリンをフェイトは止めた。 だが理由はそれだけではない。
『そんな……怖い顔は……やめて……ッ……』
身を張って止めてくれたフェイトの言葉。 それを言われて気づく。
あの時の自分は、かつてのプレシアや翔次と同じ……『人の道から外れた顔』をしていた。 それを怒りではなく、心がドス黒く輝く『漆黒の意思』。 目的の為なら平気で人を殺せる黒の光が宿っている。
フェイトはキリンにそんな顔をして欲しくなかった。 だから止めた、その手に、その身に傷を負いながら。
キリンは気付いていた。 あの時の自分は、かつての敵であるジャガーや翔次の時の『守る為の戦い』ではなく、『殲滅する戦い』をしていた。
それはもはや暴力、キリンがもっとも行ってはいけない力の行使。
キリンは一人、己の力について今一度問い直すのであった。
「調子はどうかしら? ミョルニル」
『はい、もうすっかり良くなりました。 ありがとうございますマリエル様』
ここはアースラ内の技術室。 ここではデバイスやらの検査及び修理も含めデバイス関連のことを全て行なっている。 そこで作業をしていたのはマリエル・アテンザ。 通称マリー。
「もう、私のことはマリーで良いのに」
『そういう訳にもいきません、マリエル様』
「うわっ! デバイスが意地悪だ! どういう回路してるんだろ……修理したのに未だに分からないわ……」
このマリー、実はとても優秀な技師である。 レイジングハート・エクセリオンとバルディッシュ・アサルトを組み上げたのはこのマリーである。 故に腕は保障されている。
そのおかげでローリの手によって分解寸前だったミョルニルは無事修理を終えていた。
「ミョルニルが色々教えてくれたから早く終わったけど……あなたってデバイスの形をした全く別の存在よね?」
『そこら辺は事務所を通してください』
「事務所って……あなたはアイドルか何か?」
『そりゃ銀河ぶっちぎりの超絶デバイスアイドルですから!』
「……こういうジョークが言えるのもすごいわね……」
ミョルニルがいつものジョークを飛ばしていると、部屋に一人の女性が入ってくる。
「お邪魔しまーす」
「あ、フェイトちゃんじゃない!」
『フェイト様、どうぞどうぞ』
「いやここあなたの部屋じゃないから」
やって来たのはフェイト。
先の戦いでキリンの魔力に触れ一時は両手とも包帯を巻いていたが、今はもうすっかり良くなっている。
そんなフェイトがやってきた理由とは……
「ミョルニル、今大丈夫?」
『はい、もう完全復活しましたからね』
「直したのは私だけどねぇ〜」
「ありがとうマリーさん。 ……ミョルニル、聞きたいの」
『……はい?』
「あの時……私が離れてからキリンとローリの間に何があったのか……を」
『…………』
フェイトが聞きたい事、それはキリンが激昂するに至るまでの経緯。 普段のキリンでは考えられないその姿にフェイトはどうしても知りたくなってしまった。 そのワケを。
『…………』
「……あの〜これ私いない方がいいかな? かな?」
『…………いえ、そうですね。 待ってくださいマリエル様』
場違いな空気を察し避難しようとするマリー。 だがそれをミョルニルが止めてしまう。
『六課の皆様、そしてかつてマスターと懇意にしてもらっている方々にも聞いて貰います。 聖王教会の方にも、クロノ様やリンディ様にも、地球のアリサ様やすずか様にも』
話さねばならない、そう考えたのは組み込まれたプログラムが導いたのか? それともミョルニルの魂がそう感じたのか? それはさっきまでミョルニルの内部を見ていたマリーにも分からない。
アースラのデッキに集められた、キリンを除く現在動ける六課の面子。 そしてモニターには入院しているザフィーラや翔次達、眠ったままの心悟。 別の艦に乗っているクロノ、本部にいるリンディ、自宅で家事をしていたエイミィと彼女に変わって子ども達の相手をしているアルフ。 聖王教会のカリムにシャッハ。 現在も様々な調査をしているユーノ。 そして地球にいるアリサとすずかと通信が繋がっている。
久しぶりの再会となる者もいたが、今回の話の概要を聞いてそれもそこそこにし、ミョルニルの大事な話を聞くことになる。
『皆様、お忙しい中私のマスターの……キリン様の為にありがとうございます』
始めに、ミョルニルが皆に礼を言う。 ミッドはそもそも緊急事態だが、地球にいる彼女達も普段の仕事がある中、こうして話を聞いてくれるのだ。 礼を言わずして始まる事はない。
「あら、気にしなくていいのよ。 あの変態に何かあったんでしょ? 昔じゃ当たり前の事よ。 今更気にしなくて大丈夫よ」
「アリサちゃんの言う通りだよ。 それにキリン君には昔助けてもらったし、これくらいお安い御用だよ」
アリサとすずかからしてみれば、10年近く会っていない友人の最新情報なのだ。 例え大事な商談があったとしても蹴ってくる事だろう。
「うんうん、彼のおかげで『あの時』は何とかなったし。 それにクロノ君のコスプレ写真も手に入った事だし! 全然ダイジョーブ!」
「その言葉がすでに大丈夫じゃないわ!」
「ふふ、キリン君にはお世話になったし。 フェイトの事も助けてもらっているって聞いてるし。 こんなおばさんでも力になるわ」
「ま、あの変態にはフェイトとババァの事で恩があるし。 昔のよしみだ、何でも聞いてやるよ」
クロノ、エイミィ、リンディからすれば今は無き『ジュエルシード事件』の功労者。 今でも感謝しきれない程である。
アルフからしてみれば、主人であるフェイトに笑顔を取り戻してくれたので非常に恩義を感じている。
拒む理由などない。
「キリンさんは共に脅威に立ち向かう仲間です。 その仲間のデバイスの頼みと聞いて断る事は出来ません。 それにまだ知らないキリンさんを知るチャンスですし」
「共に戦う仲間として彼のことを知る事は事件解決に繋がるかもしれません。 むしろ教えてくださいと頼む所でしたので渡りに船です」
カリム、シャッハはキリンの事を知ってまだ日は浅い。 だからこそ知らねばならぬ、この事件を解決するためにもキリンという人物を知らなくてはいけないと考えた。
「キリンさんは昔に助けられて恩なんて一度も返した事はないからね。 あの人の手助けに繋がるなら何でもするよ」
かつてユーノは自分が起こした事件の尻拭いを一人でやろうとしていた。 だがなのはやキリンを巻き込んでしまった、その事を悔いているとキリンに言った事がある。 だがキリンはそんな事を気にするなと励ました。 それを当たり前のように行ったキリンの事をユーノは尊敬している。
だからこうして忙しいのにも関わらず二つ返事で参加しているのだ。
「心悟君にも一応繋いでおいたけど……」
「心悟さんなら大丈夫ですよ。 あの人、その気になれば寝てても能力使って外の状況を知る事が出来るってギン姉から聞いた事あります」
「心の境界を操る能力で……寝てても心で察知できるのかな……?」
スバル……というかギンガの言葉を信じ、未だ眠りについている心悟にも繋いでおく。
さて、六課及び今回の事件解決に動く者。 そしてキリンを知る者達が大勢いる中、ミョルニルは静かに話し始める。
『まずは…………これまでのマスターについて話しましょうか』
それは世界を超える話。 一人と女性と小さな男の子を繋ぐ物語。
そして少年から新たな未来を授かる話。
『都 霧刀』から『村咲 輝凛』へと送られる感謝と希望の話。
ミョルニルが話し、当事者であったなのはやフェイト、ユーノやクロノ達が途中途中口を挟みながら話は進んでいった。
その驚くべき経緯に、世にも奇妙な出来事に知らなかった者は口から思わず声が漏れ動揺してしまう。 だが聞けば聞くほど奇妙で不可思議で……悲しい道のり。
故に最後まで聞けた。 聞きたいと思った。
『それでは……』
『ここまで』はなのはやフェイト達でも『知っている』話。
『本題といきましょうか。 ……マスターとローリの関係について』
『
『修復中にマスターから聞きました。 小五 楼人という人間の話と……その出会うはずのない因縁を…………』
「……何? 私の話……だと?」
時を同じくして、スカリエッティのアジト内。
未だローリと「ゆりかご」と呼ばれる存在のドッキングの準備が行われていた。
スカリエッティの作業が進まない限りローリのやる事はない。 そんな暇な時間の中でセッテとクアットロが彼の過去について聞いていた。
「そうよ〜ローリさんはアレと同期したらもうお話するのも難しいじゃなぁ〜い? そしたらセッテちゃんがお話したいって」
「……そうなのかセッテ」
「うん……」
セッテは目に見えて落ち込んでいた。 セッテはローリに唯一懐いていた、故にローリの事で一番驚き、困惑していた。
「…………」
「ダメなら……ダメでいい……」
その姿は普段のクールな彼女からは想像が出来ないほどのしょげっぷり。 借りてきた猫のように背を丸くしてローリを見ている。
その姿に何か思ったのか、しばしの沈黙の後にローリは口を開く。
「いいだろう……話したとしても構わん内容だしな」
「本当……?」
「二言はない」
「……!」
その言葉に自然と表情が柔らかくなる。 気持ちちょっとの話だが、こんなのはローリ相手にしかしないであろう。
「よかったわねぇセッテちゃん」
「クアットロがいるのは気に食わんが……まぁセッテの顔を立てといてやる」
「やだもうローリさんったら、殺意が湧いてくるわぁ」
クアットロにはいつもの辛辣なコメントをぶつけ、ローリは一息つく。
「ふぅ……そうだな……」
何から話せばいいか、そう考えて……ローリはここから始める。
「まずは整理しようか。 この私には二つの名前がある……」
小五 楼人はそもそも、『小五 楼人』と名乗っている時期と『ローリ・ビレッジストレート』と言う名になっていた時期がある。
『小五 楼人』の頃、彼は非常に優れたボクシングの選手だった。 階級はフライ級。 持ち味は的確なカウンター。 チャンピオンベルトを賭けた試合には出場はしなかったが、実力はかなりのものであった。
当の本人はストイックではあったが、欲がなかった。 チャンピオンという頂を目指す事はなく、いつもジムの会長にどやされていた。
いや、彼にも欲と言えるものがあった。
彼には『弟』がいた。 その弟は唯一の家族。 血の繋がった家族はその弟だけ。 彼はその弟の為にボクシングでファイトをし続けた。
しかしある時、楼人の弟は事故にあい死亡した。 事件性など一切ない事故。 誰が悪だと決めつけられない、誰も何も悪くない事故。 彼の弟は偶然と偶然が重なった交通事故により死亡。
そして楼人の生きる為の指標が消えてしまった。
楼人は歩く亡霊のように、空っぽの心を抱えたまま世界中を旅をして回った。 しかし素晴らしい景色でも、愛に溢れた自然でも、彼の心を癒すことは叶わなかった。
そんな時に、『同士』のような者に出会った。
その者の名は『アレキサンドラ・ビレッジストレート』。 自らをアレックスと名乗る女性だった。
アレックスもまた楼人のように悲惨な出来事に遭遇し、同じように旅をし、素晴らしい景色と愛に溢れた自然でも心が安らがなかった『同士』だった。
その似た者同士だからなのか、不思議と二人は惹かれあった。
アレックスは元々恋人がいたが、楼人の弟のように不運の事故によりすでにこの世から去っている。 彼女の親は死んでいるが、彼女の祖父は健在。 その祖父に勧められ旅をしていた。
出会った二人は不器用な付き合い方を始め…………出会ってから5年後に結婚した。
その際、楼人はアレックスの性をもらい、『ローリ・ビレッジストレート』と名を変えた。
これが二つの名前の経緯であった。
ここまでの話を聞き、一息を入れる
「ここまでが、私の『二つの名』の経緯だ」
「……ふーん。 奥さんがいた事は聞いてましたけど、そういう過去があったのは初耳だわぁ」
「……弟……いたんだ」
クアットロ、セッテ共にローリのこれまでの一端に触れ何とも言えない感情が生まれる。
悲しむのでもなく、同情する訳でもなく。 ただただ何とも言葉に表すのが難しい、『人間くさい感覚』を味わう。
これが二人に何かの影響を与えているかは分からない。
「それで……だ。 ここから先を話しても構わないが……私が発狂した時は頼むぞ」
「え……えぇ……?」
「未だにあの頃の事を思い出すと……!」
「わ、分かった……」
以前キリンとの交戦中に話した事ではあるが、その時にローリは話し終える前に発狂し、機械とは思えないくらいに精神と感情の爆発した。 それはキリンやミョルニルですら、一瞬引いてしまうくらいに……恐ろしい。
「全ては……あの……『人生の絶頂期』に訪れた……」
第二幕、人が化け物に変貌する。
それはとある日の事である。 晴れていたのか雨が降り続けていたのか……そもそも曜日も時間も季節でさえも、今のローリは覚えていない。
辛うじて覚えているのは……嫌なクッキリと記憶している凄惨な光景だけだった。
『アレックス! アレックス!!』
ローリの妻は予定日よりも早い段階で激しい陣痛に襲われた。 ローリは陣痛に苦しむ彼女を支えながら自身の車に乗せ病院へと走らせる。
急がねばならない状況、しかし安全を欠いてしまえばもっと最悪な事が起こってしまう
ローリは慎重かつ迅速にアレックスを病院に連れて行く。
まさにその最中であった。
『アレッーー
一瞬の事であった。
信号で、赤信号だったので、止まって待っていた。
普通に、しかし内心焦りながらも、交通ルールを守っていたのだ。
そこに……不意の落下物。
すぐ近くの歩道に生えていた大きな街路樹。 ズッシリとした重みがある立派な木だ。 ただここ最近は老化が激しく、大型のハリケーンが来てしまえば倒れてしまうと危惧されていた。 近々切り倒される予定があった。
そこにたまたま吹いた突風。 そして偶然、台風だとかハリケーンに匹敵する程の強風が吹いた。
車も一瞬傾くレベルの突風。
そして……そして……
煽られた木はその根を地面から離し、ローリが運転している車に、『後部座席で横になっているアレックス』がいる場所へ、『倒れて来た』。
車はそう簡単に壊れる事はない。 いくら重い木だとしても『乗った』ぐらいでは潰れたりはしない。
だが勢いが付けば話は別。 その巨躯に耐え切れず潰れてしまった。
『後部座席で横になっているアレックス』諸共。
その後、アレックスは救急車に運ばれた。 彼女は衝撃により死亡していた。 しかしお腹の赤ん坊は辛うじてまだ息があった。 状態によりけりだが、まだ希望があった。
だが、腹を割いて取り出した医者は、目を見開いてしまう。
希望であった赤子は……頭部が歪み、目と鼻が潰れていた。
もはや希望は存在しなかった。
全てが不運、不慮、偶然……誰がその日ハリケーンレベルの突風が吹くと予測できた? 誰がその突風によって巨木が倒れると推測できた? 誰がその日……倒れた巨木の下に新たな命を宿した妊婦がいると予見できた?
何もかもが不運。 最悪の偶然。
そしてついでに襲いかかるように……次の日に赤子は死亡した。
病院も人力したが……やはり事故による影響が強すぎた。 小さな命を奪うには十分過ぎる力であった。
こうしてローリは再び『独り』になった。
ローリが壊れ始めたのは、ここからだった。
まず、愛する妻を失った事で壊れた。
次に、自分達の愛の結晶が『ああなってしまった』事により壊れた。
壊れたローリは、自分の中で『辻褄』が合うようにする為に、自分の娘を追い求め……日本で次々と誘拐事件を起こしていった。
そして数十名の被害者を出した『平成の殺人鬼』としてその名を馳せ、警察に追われた。
もうその頃のローリには正気など等になく、狂いに狂った彼は……奇しくも大切だった弟の命を奪ったトラックに乗り込み、キリトの命と自分の命をこの世から消した。
そして……
『やぁ、キミは転生したいかい?』
神に出会った。
『キミのその狂気、実に素晴らしい。 人間が持ちうる正気を全て失ったキミは、『人生の絶頂期』から叩き落とされた事で生まれたキミの狂気は人間のそれを超えている。 『魂の器』には何もないのに、狂気という誰もが手に出来る領域で常人を超えている!』
神は、それはそれは楽しそうに……愉しそうに……ローリを迎え入れる。
『キミの狂気で何を成したいのか、何が起こるのか是非見てみたい! どうだい? 『転生』、してみるかい?』
ローリは簡単に、淡白に答えた。
ーーあぁ。
こうして『魔法少女リリカルなのは』の世界に招かれた彼は、その身をマイクロチップにした。 この後にキリトと翔次、そして一喜が神の元に訪れた。
ローリを担当していた『管理会』のメンバーは翔次も担当していた。 その管理会の人間も翔次が殺した。 つまり、ローリが後にスカリエッティに出会い暗躍し、『リリカルなのは』の世界を荒らす原因になったとしても、誰も止める事が出来なくなっていた。
ーーーー総ては……私と妻の為に……!
奇跡的に、ローリは発狂しなかった。 多少取り乱したりはしたが、何とかこれまでを話す事が出来た。
「…………」
「…………」
話を聞いていた二人は共に微妙な顔をしていた。 仕方ない事だが、一人の人間の転落話を聞き、殺人を犯し、生まれ変わって人間を辞め、恐るべき凶行をする話だ。
恐ろしさがやって来る前に困惑してしまう。
「……そんなに愉快な話ではなかったわぁ」
「スカリエッティ本人に話した時に同じ事を言われた。 奴と同じ思想を持っているなら妥当な反応だ」
「……人間の転落話って結構愉快だったりするんですけどぉ……ローリさんのはちょっとドン引きぃ……」
「ふん、別にどう思われようが私は気にせん」
ローリはすでに正気なんてない。 クトゥルフTRPG風に言えばSAN値ゼロである。 永久的に発狂している状態だ。
だがローリが普通の受け答えが出来るのは、常時発狂と言うことは発狂している状態が正常なのだ。
トラウマを思い返して発狂するのは、逆に正気が蘇るのを拒絶する反応なのだ。
正気ではいられない。 故に常に発狂してなければいけない。 それが今のローリ。 正気を取り戻してしまえば、彼は廃人になってしまうだろう。
そこまで聞いて理解し、手を組む事にしたのがスカリエッティだ。 彼はローリの狂気を理解した、しかしまだ計り知れないその赤黒い闇が興味深く、そしてそれを抱えているローリと『友達』になりたいと思った。 だからローリの要求には常に応えようとする。
そこまで理解して複雑なのがクアットロだ。 クアットロは確かにスカリエッティの思想が植え付けられている。 それでも目の前の男に共感できない。 見たことのないその狂気は、データには存在しない深い闇が、無駄に頭が回ってしまうクアットロを混乱させていた。
しかし、セッテは違う。
「ローリ……」
「……? 何だセッテ」
「……頑張って……しか、私には……言えない」
セッテはローリを応援する。 いや、正確には違う。 応援しかできる事がないのだ。
目の前の男がどれ程の闇を抱えていようと、セッテにとっては世話をしてくれる『大人』なのだ。 信頼しているのだ。
そんな人間が、死すらいとわない目標を掲げている。 そして深い部分にある根には悲しい出来事があった。
ここまで聞いたセッテには、応援しかない。 それしか出来ない。
「ローリが頑張ってるから……頑張れって……それしか言えない」
「セッテ……」
「だから……あぅ……頑張れ……」
今のセッテには、気の利いた言葉や言い回しなど思い浮かぶ事は出来ない。 だから必死に言葉を探した、その結果「頑張れ」という凡庸な言葉を送った。
その姿はまだ言葉を知らない子どもが必死になって気持ちを伝える時のようで、伝えたい事があるのにそれを言葉に出来ないもどかしさが無性に悲しくて、辛くて……
だからなのか、そうなのかは分からないが……
「すまない、礼を言う……セッテ」
ローリはそんな彼女に礼を言う。 戦闘機人である彼女に芽生えた小さな感情に、素直に感謝をしてしまう。
セッテはその言葉を聞いて、一瞬何故か泣きそうになって、でも何とか堪えて……ローリに笑顔を見せた。
「…………?」
それを見ていたクアットロは、その場にいる自分に対して、微笑むセッテに対して……ローリに対して謎の感情が揺れ動いていた。
場所を戻して、アースラ内。
ローリが起こした事件の概要を皆に話したミョルニル。
それを聞いた全員は顔をしかめ難しい表情をしていた。
誰もが何から話すべきか考えている中、最初に口を開いたのは六課の面子ではなく、地球にいるアリサであった。
『つまり……何? キリトの奴が転生したのも、キリンの奴がその身体に乗り移ったのも、全部そのローリって奴が原因って訳?』
全部が、とは言えないが。 少なくともそう言えてしまう経緯。 いわばこの世界が普通から大きく外れそうになったのもローリが原因と言えよう。 全部が全部、そういう世界ではないのだが。
「全ての原因……か。 それならあいつが激昂し暴走したのも理解できる」
そういうのはシグナム。 戦乱の中で剣を振るっていた彼女には少し分かる。 世界を巻き込んだ争いの全ての原因が目の前に現れれば、怒りを出さずにいられない。 失った悲しみや怒りをぶつけに行くに違いない。
だがこれはキリンの話だ
『多分……キリン君ならちょっと違うかな……?』
そういうのはすずか。 キリンの優しさに助けられた彼女から見てみれば、その怒りは少し違う。
『キリン君はね、多分戸惑ったんだと思う』
「戸惑い……?」
『キリン君はね、びっくりするぐらい優しいし、それに怒る時はちゃんと怒るんだよ』
それはかつてすずかとアリサが誘拐された時である。 すずかを貶された事に対しキリンは怒り、その誘拐犯の頭を銃のグリップの部分で思いっきりぶん殴った。 彼にも怒りをぶつける時は当然ある。
だからキリンと共に戦っていたユーノにも分かる。
「キリンさんは……あの人は今更起きてしまった事に対して怒る事はない。 むしろその先で起こりうる事に対して怒りを表したらするんだ」
「……ボクの時のようにな」
「翔次の……?」
「あの時のあいつは、目の前のボクの行動に激しい怒りを覚えていた。 今は知らんが、その時のあいつは恐ろしかったよ」
キリンが自らの名前を取り戻した時、それはまだ翔次が蛮行に手を染めていた時だ。 その時のキリンは魔力を昂らせながら怒りを露わにしていた。
キリンだって怒る時は怒る。 だからローリにぶつけた怒りは彼らしくないと察していた。
「キリン君は……本当ならみんなに危害を加えようとする事に怒りたかったんだと私は思う」
「でもキリンさんにとっての因縁が、今更コンクリートを履い破って出てきた事で怒りの矛先に戸惑っていたんだ」
「……だから……私がやられる時に……ごちゃごちゃになってた怒りの沸点が爆発して……」
フェイトのその言葉の先を皆が理解し、再び重苦しい空気が流れる。
皆は理解してしまった。 キリンが暴走したのは、彼を巡る負の因縁を全て消し去ってしまおうとしたからだ。 自分すらも無意識のうちに……
だからフェイトの声で目覚めた。 フェイトの血を見て正気に戻った。
だからキリンは嫌悪している。 自分の行動に。
そこまで皆が理解したところで、ミョルニルが全員に伝える。
『お願いします皆様。 どうか、マスターにお力添えを……! どうかお願い致します!』
「ミョルニル……!」
『マスターが再び立ち上がり、正しき道に進み続けられるように……どう!……どうか……!』
ミョルニルは頭を下げていた。 いや、デバイスに頭など無い。 しかし、ミョルニルはキリンのために懇願している。 戦い続けてきたキリンを、困難にぶつかってきたキリンを助けて欲しいと。 キリン一人ではどうにも解決出来ない心の領域のもやを、みんなに取り払って欲しいのだ。
それを見て……誰もが同じ言葉を口にする。
『もちろん』
『……!』
なのはやフェイト、はやてやヴァルケン達……いや、六課の全職員も強い意志を持ってそう言った。 そして、一般の職員達が少しずつその真意を話す。
『あの人は、戦闘に出ない裏方の僕の名前をちゃんと覚えてくれたんだ。 そしてその名前を呼びながら挨拶してくれる』
『キリンさんっていつも気さくに話しかけてくれるし、それに落ち込んでたりしたらさり気なく相談に乗ってくれるいい人だって事。 みんな知ってます』
それは普段は語られる程の事では無いこと。 キリンはフォワード陣や隊長達、現場に出張る人間だけでなく、職員達全員に話しかけ、親交を深めていた。 本人にして見れば当たり前、しかし客員の魔導師という立場でそれを行うキリンの姿を見て全員が素直に尊敬していたのだ。
「みんなの言う通りや」
『はやて様……』
「キリン君がどんな人かもみんな知ってる。 だからキリン君が手を貸して欲しい言うのなら、そんなん断る理由はあらへん」
はやての言葉に、六課全職員が無言で頷く。 その頷きが何とも力強い事か。
『困った時はお互い様だよ。 地球にいるけど、私達だって力になるよ?』
『そーそー、手が無くなったら私の前に連れてきなさい。 取り敢えずぶん殴って目を覚まさせるから』
『その時は呼んでくれ。 あいつには昔の恨みがあるからな、久しぶりにデュランダルの才能を確かめたい』
『もう、ダメよそんな事しちゃあ。 あ、こんなおばさんでもキリン君の為なら人肌脱ぐわよ?』
『今すぐ、という訳にはいかないけど……僕達は必ず力を貸す。 ううん、一緒に戦うよ!』
十年が経った旧知の仲。 それでも彼らの絆は消えはしない。 キリンと共に戦う覚悟は出来ていた。
それを見たミョルニルに、何故か言葉をかけたくなったフェイト。
「よかったね、ミョルニルのマスターはみんなに愛されてるよ」
『……はい!』
感激すると人は涙を流す。 ミョルニルに涙を流す事はできない、だが溢れ出る感謝の念を感じ取ったミョルニルの心は……確かに涙を流していた。
『ありがとうございます……!!』
その言葉を言うミョルニルの姿は、不思議と人間と変わりがなかった。 何故か皆がそう思った。
「よーし。それじゃあ早速みんなの思いを伝えに行こか! …………フェイトちゃんが!!」
「ファッ!?」
そんなしんみりとした空気をぶち壊すはやて。 流石六課のトップである。(?)
ローリの過去の追加説明回みたいな感じになった。(無計画)
次回、ようやくキリンとフェイトが二人きり!(みんなに見られてる聞かれてる)
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。