37話
ミョルニルの謎のメッセージを受信する。 見たことのないアドレス、しかしその内容で送り主は判明する。
『【果たし状】……騎士ゼストからですってよ』
「……あのおっさんから? つーかどうやってミョルニルにメール送れたんだ?」
『向こうにはジェイル・スカリエッティが居ますからね。 私の事もある程度分析済みかと。 それに彼なら超秘密裏にメッセージを送りつけるなんてあくびをしながらでも可能かと』
「んだとしても、果たし状かぁ……」
メッセージには次のように記載されている。
『今再び、誰にも邪魔されずにあの時の続きを。 場所は誰にも邪魔されることの無い荒野の岩場。 もちろんそこには俺しかいない。 今日の正午、正当なる果たし合いができる事を期待する』
そしてメッセージと一緒に地図まで添付されている。 確かにそこは生き物も存在しない荒野、生き物の気配すら感じさせない無骨な場所。 そこで果たし合おうと言うのだ。
『……行きますか?』
「……そう、だな……」
普通に考えれば罠である。 だがキリンはゼストという男について少し分かっている事がある。 それはゼストは非常に騎士として高潔で真摯な矜持を持っている事である。 ホテル・アグスタでの一戦も、ルーテシアとガリューが乱入するまでキリンと正当な一対一を行い激戦を繰り広げた。
ならばこそ、この果たし状は『正当』であり『信頼』するに値する。
「よし、じゃあ行くか」
『……皆様に怒られてもしりませんよ全く……』
この決断は決してフェイトとまだ顔を合わせにくいからではない。 一度戦ったゼスト、未だ決着が付いていない事にキリンもどこかでもう一度戦いたい衝動があった。 それはキリンの中にある闘争本能がそうさせていふのだ。
「んじゃ、バレないようにこっそりと行きますか」
抜き足差し足でアースラから出ようとする。
「ーーこっそりと、どこに行くのかなぁ〜……?」
「ひゅい!?」
そこに現る白い悪魔。
「キリン君? どうしたの……そぉんなに誰にも気付かれたくないみたいに……どこに行くのぉ……かな?」
「ゲェ! なのはちゃん!?」
「行くのかな? ……かな……?」
『もうダメだ……お終いだぁ……!!』
ものすごいピンポイントに現れるなのはは最早関羽かブロッコリー並みの恐怖があった。 実際頭冷やされそうななのはを見ていると恐ろしくて漏らしてしまいそうになるくらいの恐怖を放っていた。
「お話……しよっか……ね?」
「ふぉぉ!?」
『勝てるわけがない……ッ! 奴は伝説の白い悪魔なんだ……ッ!』
こうして白い悪魔に拘束されたキリンとミョルニル。
というか、フェイトといい恐ろしい女ばかりである……機動六課の隊長達は。
「ふーん……それで今から決闘をしに行きたいんだね?」
「い、イエスマム……」
取り敢えず正座をさせるなのは。 やはり教導官は厳しい。 スバル達も日々なのはのスパルタを経験しているから話には聞いていたが、やはり恐ろしい。
「まぁ私個人としてはあまり行かせたくないんだよねぇ……あ、別にキリン君が負けちゃうとかそういうのじゃないよ? ただねぇ……」
ミョルニルにはなんとなくなのはが渋っている理由は察している。 もちろんそれを主人であるキリンには言わなかったが、だからと言ってなのはが口にするのは止めはしない。 何故なら本人にも自覚して欲しいからだ。
「フェイトちゃんを……放っておいていいのかなぁ〜……って」
「うっ!」
「きっとフェイト今頃どうしたらいいか分からなくてぬいぐるみとか枕辺りを抱きしめているんじゃないかなぁ〜……って」
「うぅ……」
「どう? 心当たりある?」
「メガッサありまうす……」
『流石なのは様……キレッキレやでぇ……』
ちょっぴり教官モードに入ってキリンを叱る。 まぁ普通に考えれば結論を後回しにしてちょっと気分転換にパチ屋行ってくるって事なので至極当然なお説教なのだが。
「……あのなのはちゃん様……?」
「はい、何でしょうか?」
「発言……というか言い訳をしてもよろしいでしょうか……?」
「……え、この状況で言い訳が出来るの? それは流石になのはさんビックリだよ……」
「あ、はい……」
「そもそも何かする前にフェイトちゃんに会って話をしないといけないよね? まだフェイトちゃんの気持ちに寄り添ってないよね?」
「はい……その通りでございます……」
「大体キリン君は昔も誰にも相談とかしないで勝手に行動してたし。 勝手にフェイトちゃんとアルフさんに会ってた時もあったし」
『なのは様がド正論すぎて若干ゃ草……』
キリンにド正論を放つなのはの全力全開の物理(言葉)にキリンも大人しく叱られる。 しかし流石に可愛そうだったので仕方なくキリンに助け舟を出すミョルニル。
『まぁまぁなのは様、マスターもアレの一件でまだ気持ちに整理どころか未だに荒波に飲まれている状態なんです。 そこら辺で勘弁してやって下さい』
「あ、ミョルニルもデバイスだからってちゃんとマスターであるキリンを止めないといけないよ?」
『あ、やっべ。 これ私にまで被弾する奴だこれ』
高町なのはの砲撃からは逃れられない。(至言)
『ま、まま。(震え声) あのですね? 気持ちを整理……というかハッキリとさせないことが翔次様との会話で出てきましてね?』
「ハッキリさせたいこと?」
『えぇ……ズバリ、今のマスターは『男』か『女』か。 生物学的には『男』でも精神的には『女性』だったんです。 このジェンダーの狭間から脱出しない事にはキスの事もその先も解決できる訳がありませんからね』
「…………それで、キリン君は前に進めるの?」
なのはにとって重要なのは、この選択がキリンにとって最良であるかどうか。 そうでなければ今のキリンを敵の目の前に出すのは出来ない。 だがキリンは真っ直ぐな眼差しでなのはを見る。
「あぁ。 今ここでおっさんとやらなきゃ……多分この先で二度と戦うことはないのかもしれない。 フェイトちゃんの事を後回しにするつもりもないけど……オレはゼストのおっさんとやり合いたい……!!」
そうなのはに言うキリンの表情は先程までのなよなよしたものとは全く違く、戦闘に身を投じるグラップラーの如く荒々しい闘志をむき出しにしている。 戦う、それこそが今一番処理しなければならない衝動なのだ。
「……分かったよ。 行ってもいいし、見逃してあげる」
「マジすか!?」
「でも、戦ってる時に魔力が検出されても私は何もしないからね。 みんなが駆けつけても私に文句を言わないように」
「ありがとナス!」
キリンはそのまま勢いよくアースラから飛び出し、メッセージに添付されてた目的地に向かう。 その背を見てなのはは一人ポツリと呟く。
「あぁ言うのを見ると……もう完全に「男の子」だよねぇ……」
都心部から大きく離れ、生き物も生息していない荒野の岩場。 そこに騎士ゼストは立っていた。
「…………」
騎士ゼストはスカリエッティによって作られたクローン体である。 元々は管理局の魔導師であり、そのランクはS+でなのはやフェイトと同等の力量を持っていた。 だが彼はその当時率いていた部隊丸ごと抹殺されてしまう。
クローンとして蘇った彼はずっとその時の事件の真相を探している。 そのために戦い続けて来た。
だがこの先、おそらくはもうマトモな死に方は望めない。 もうすぐそこに自分の死が迫っていると直感していた。
だからキリンを呼んだ。 今のうちに、騎士として全力を尽くして戦いたいからだ。
「……来たか」
静寂の荒野に訪れる雷音。 村咲 輝凛の登場だ。
「ようおっさん、言われてホイホイやってきたぜ」
「……礼を言う。 来てくれてすまないな」
それぞれ同じ高さの岩場の上に立ちながら向かい合う。 もう戦いは始まっているかのような緊張感が漂っている。
「……それで、今日は一人なのか? あのちびっ子はどうした?」
「ルーテシアの事か? あいつもそうだがアギトも置いてきた……漢の戦いには不要だからな」
「ほほぅ……このキリンちゃんを捕まえて、漢の戦いと呼んでくれるのか…………嬉しいねぇ…………!」
「そういう貴様こそ、あの時と同じように違う所に仲間がいることはないだろうな?」
「まっさか、そりゃジョークだよおっさん。 ……今日は二人で仲良くランデブーだぜ? 外野は無粋さ」
「それはありがたい……」
少しずつ、お互いに全身に魔力を浴びさせる。 もはやいつぶつかり合うかなんて予測もつかない。 今にも飛び出しそうな二人の男は気が付けば飛び出す姿勢になっていた。
「……合図は?」
「必要なかろう……俺達がその瞬間になれば、自ずと身体が動く」
「ヒュー……カッコいいねぇ……たまにもオレもそうやってカッコ付けさせてもらうよ……!」
お互いに武器を構えて静かに呼吸をする。 不思議と二人の呼吸のタイミングは同じで、同じタイミングで吐き、同じ長さで息を出し切り、そして同じ量の空気を吸い…………
『ッ!!』
激突する。
「ダラァ!」
「ッツア!」
真正面からぶつかる槌と槍。 その衝撃は周囲に広がる岩山にヒビを入れる。
力と力が拮抗する状態、そこから動いたのはキリンであった。
「『フォトンランサー』!」
ミョルニルを握る手を右手だけにし、左手から雷の魔法弾をゼストに放つ。 至近距離から放たれる巨大な魔法弾だが、ゼストは即座に上空へと加速し避ける。 ゼストが流れたすぐ後に魔力弾はそこを通過。 下に広がる岩場を崩していく。
「(避けられた……やっぱ状況判断とスピードはピカイチか……!)」
上空に飛んでいるゼストを睨みながら改めて彼の戦闘能力の高さを感じる。
しかしそれで手を止めるほどお行儀は良くない。 キリンは再び魔法弾をゼストに放つ。
「むん!」
だがゼストの一振りにより簡単に霧散してしまう。 そう、『簡単に』。
「オリャァ!!」
「何!? 魔法弾のすぐ後ろに……!?」
陽動の魔法のすぐ後ろに追尾する形でキリンがゼストの目の前に迫っていた。 決して魔法弾が遅かった訳でもない。 先ほどのフォトンランサーと同じ速度であった。 ただ、キリンも同じ速度で追走していただけのだ。
「ゼァ!!」
「くっ……!」
奇襲にも似た突撃に対し、ゼストは難なく受け止める。 再び火花を散らす両雄の得物。 だが拮抗状態はすぐに終わる。
「ふん!」
「(掬い上げられた……!? 槍術ってやつか!!)」
槍を器用に捌き、ミョルニルを上に退かす。 そして開いた所に容赦なく渾身の突きを放つ。
「ーーッ!」
だが……
「あっ…………ぶな!!」
「(切っ先が触れる一瞬、超高速で地上に退避したのか……やはりな)」
キリンお得意の超スピードで躱す。 地上にまで高速で逃げたキリンはゼストから目を離さずに次の体制へと移っていた。
それを見ていたゼストは、そのキリンのスピードについて改めて思う。
「(奴は恐ろしいスピードの持ち主……だが最も恐ろしいのはその『初速』だ)」
ゼストがキリンを最も評価している点。 それは動きの起こりである初速。 攻撃に対し、それを見て判断に行動に移す。 人間には『咄嗟の行動』という自分でも理解できない瞬時の行動を行う事が多々ある。 それは身の危険に晒された時や何かの勝負で発揮される事が多いが、キリンの場合はその速度が異常なのだ。
「(仮に一つの行動に移すまでの経過を『一拍子』、しかし正確には一拍子に移るまでにタイムラグがある)」
人間の行動には必ず『0.5秒の遅れ』がある。 例えビンタをされたとしても、その感触や痛みを理解するまでに必ずタイムラグが存在し、それを理解するために時間がかかる。 キリンはそのタイムラグが他の人間よりも速い、正確には『0.4秒』で無意識が意識に変わる。
「(まさに雷鳴の如し。 稲光が見えた瞬間には雷に打たれているのと同じ。 人類最速の初速と呼んでも違いはあるまい)」
だがこの超反応もカウンターに持ち寄れば良いのだが、ゼストにはそれは通用しない。 カウンターもゼストの技量で塞がれる。
しかしゼストもまたキリンの超初速によって会心打は放てない。
「…………」
二人の意識が通じたのか、はたまた戦場の空気がそうさせたのか。 ゼストもキリンと同様に地面に降り立つ。 キリンとゼスト、二人の間には大きな岩の塊が存在し、お互いに姿を視認させない。
だが、この岩石が二人に覚悟を決めさせる。
「ッ!!」
「……ッ!!」
瞬間、弾かれたようにお互い眼前の岩に向かう。 そして……
『ーーッ!!』
二人の攻撃が、岩を砕きお互いに届く。
ゼストの槍はキリンの肩に。
キリンの蹴りはゼストの顔面に。
お互い、捨て身にでたのだ。
遂にお互いに血を流す。 しかしその表情は苦悶に歪む事はなく……
「……ニッ」
「フッ……」
これからの闘争を歓迎するかのように笑っていた。
キリンの『0.4秒の初速』とゼストの『経験』、はたしてどちらに軍配が上がるのか!?
それは私もまだ決めてないッッ!!(見切り発車)
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。