46話
ジェイル・スカリエッティが潜伏しているアジト内に侵入できたフェイト達。 入り口でメタルローリのコピーと思わしき存在の相手をしているキリンを心配しつつもスカリエッティを目標に進む。
フェイト、シャッハ、ヴェロッサはそれぞれ別れ謎に包まれているスカリエッティのアジトを回る。
「(広い……のもあるんだけど……)」
フェイトは気配を可能な限り殺しながらアジトの内を歩く。 罠が敷き詰められている可能性が大いにあるので慎重に慎重を重ねているのだが……
「(こんなに静かなの……? まだ2.3人戦闘機人がここにいてもおかしくないのに……)」
やけに静かで、入り口に大量に配置されていたガジェット達ですら内部では見かけない。
こちらの動きが監視されている可能性は当然あるが……それにしても不気味な程静かである。
「(何にせよ、早い所スカリエッティを捕縛しないと……)」
足を止める事なく進むフェイト。 AMFが展開されているアジト内でも彼女なら十分に実力を発揮できる。 シスターシャッハもまた熟練の魔導師、ヴェロッサも荒事が苦手なだけで不得手ではない。
各人いつでも戦闘態勢に移行できる状況下、そんな彼女達の中からジェイル・スカリエッティが遭遇するのは……
「(ーー!? あれは……!!)」
「そこにいるんだろう……「プロジェクトF」の残滓……いや完成体」
フェイトだった。 スカリエッティはフェイトを見るや否や、右手に装着しているグローブ型のデバイスから光球を発射する。
「くっ……そんな攻撃は無駄だ! 今すぐ降伏しなさい!」
「ふふふ……」
光球を避けながらやや語彙が強めになった説得だが、スカリエッティは意にも返さない。 ニヤついた顔でフェイトに攻撃を行う。
「そういう事なら……制圧させてもらう!」
バルディッシュをザンバーファームに切り替えスカリエッティに切りかかる。
「非殺傷設定にしているから、大人しく寝てなさい!」
「お優しいねぇ管理局の魔導師は……だが……!」
バルディッシュによる斬撃、それをスカリエッティは
「な……!?」
「君の魔力波はすでに解析済み。 解析が済めばこのように簡単に対策ができる」
スカリエッティが、バルディッシュの刀身を握る力を強める。 その瞬間、金色の刀身にヒビが走る。
「彼みたいに対策をしても力技で突破されるならまだしも……君程度のS級魔導師なら、なんて事はない」
次の瞬間、金色の刃が砕け散る。 いともあっさりと、ガラス細工のようにあっさりと。
「バルディッ……!!」
マズイ、そう思った時には自身の身体が動かない事に気付いた。
フェイトの四肢に絡むように天井から赤い拘束用の糸が。
「ほうら……なんて事はない」
「うぅ……っ……!!」
フェイト・T・ハラオウン、S級の魔導師ですらいとも容易く拘束する恐るべきジェイル・スカリエッティ。
フェイトは膝を地面に着き、両手を磔刑台に貼り付けられたように上に広げさせられる。
バルディッシュも床に落ち、抵抗する事すら出来ぬ状況になってしまった。
「くっ……!」
「私の予測通り……いやローリのおかげでもあるな。 ほぅら、私だけで十分だっただろう?」
スカリエッティが背後の闇にそう投げかけると、通路の奥から控えていたのであろう二人のナンバーズが。
「私は最初からそう思ってた……ドクターならともかくローリの案だったから……」
「ローリの事は信頼してますが……やはりドクター一人だけでというのは心配でしたよ」
「おっとセッテにトーレ、ローリと比較して私に対してはちょっと辛辣じゃあないかい?」
武装状態で現れたセッテにトーレ。 どうやらフェイトがこうなるのは予めローリの助言によって想定されていたようだ。
流石は転生者、原作知識を遺憾なく見せびらかしてくる。
「(この拘束具……魔力が抑えられる……! これもAMFなの!?)」
フェイトを縛り上げる赤い糸。 アジト内のAMFだけでなくこの拘束具によるAMFによりフェイトの魔力はほんのわずかしか利用する事が出来なくなっていた。
「(くそ……せめて手が動かせればアレを使えるのに……!)」
シャッハはアジト内を探索しながら、二人と別れた際にフェイトから貰った「カートリッジ」の使い道について考えていた。
そのカートリッジとは、先程アジト入り口付近でキリンと別れる際にフェイトが受け取っていたものである。
このカートリッジは少々特別製で、キリンの魔力が込められている。 つまり無限の魔力を有するキリンが込めたカートリッジ。 内包魔力は『150万』。 ちなみにこの特別なカートリッジを作ったのは我らが管理局のドッキリメカ開発担当のマリーである。
このカートリッジの魔力変質は当然雷なので、実際にカートリッジとして使えるのはフェイトのみであろう、それでもフェイトにこの膨大な魔力が扱いきれるかどうかは別だが。
実はこのカートリッジ、微量の魔力を込める事で爆弾としても使えるシロモノだ。 魔力を込めて投げれば手榴弾、置いておけば地雷、正直質量兵器越えの恐ろしいシロモノだが、まぁこれもキリンの「無限の魔力」と「雷神の雷」あってのものだ。
転生者特有のトンデモ兵器、それを開発してしまうマリーが一番恐ろしいのだが……
「……こんなもの勝手に開発していいのかしら……流石にちょっと心配だわ……」
ちょっぴり不安に思いながらも、いざとなったら頼りにはするので一先ずは閉まっておく。
「それにしても静かな……ガジェットはまさか入り口で倒したので全てなのかしら……?」
あまりにも静かな空間でシャッハの声が無駄に響いたように思えた。 それが恐ろしくもあり、よもや……
「ーーそういうこと♪」
「っ!?」
よもや……自分の声に反応するものが現れるとは思わなかった。
それも
「戦闘機人……!」
「ハロー歓迎するよ……そしてオヤスミ!」
壁の中から現れたのはナンバーズのセイン。 彼女の固有のISである「ディープダイバー」は物質に『潜る』事ができる、超特質な能力である。
その能力を使いシャッハのすぐ隣にある壁から右拳を飛ばす。
「ぐっ! ……!?」
予想外の不意打ちに顔面をやられる。 だがそんなことは些細な事であるかのようにシャッハの目が見開く。
シャッハの目には壁に潜航するセインの姿と……置き土産のように放られた質量兵器である手榴弾数個。
「ーーーー!!」
そう認識した時にはもう爆発が起こっていた。 アジトを揺らすほどの衝撃。目の前で爆破されては、例えバリアジャケットを身に着けようとも、死んでおかしくはない。
巻き上がる煙が晴れ始めた頃、壁の中から再び現れるセイン。
彼女の視線の先には爆発の中心地、そこには何もない。
「おー跡も形もないねぇ……こりゃ奇襲大成功かな?」
自分の作戦の成功、それを考えると少し頬がニヤける。 だが。
「……何が成功したんですか……?」
「ーーっ!?」
こんなものでシャッハはやられない。
「ハァ!!」
「うぐっ!」
「タァ!!」
「うわああああ!?」
セインの真横から一直線の攻撃。 一段目は脇腹、二段目は先程の顔面のお返しのように自分の双剣を叩き込み、飛ばす。
「いっつつ……今の高速移動は一体……?」
「教える訳はない……!」
「だよねー……っしょっと」
シスター・シャッハが得意とする移動系魔法、その中でも瞬間的に一定の距離を移動できる『跳躍系』は管理局でも右に出るものはいないとされている。 もちろんキリンやフェイトの高速移動はまた違う種類である。
彼女程の練度なら一瞬で爆発範囲から逃れ、奇襲に転じることも容易である。
姑息な手段は意味がない、そうセインは理解した。
理解し……構える。
「ふふん、私はローリに一騎打ちは勝ち目が無いからやめとけって言われたけど、ドクターがしてくれたバージョンアップのおかげで近接戦もイケるようになったんだ」
「……それが?」
「分かんないかなぁ〜? ……今の私は、強いって事さ!!」
シャッハとセイン、スカリエッティアジト内での新たな戦いが始まった。
アジト入り口付近メタルローリのコピーと交戦しているキリンは、先程のセインの投じた手榴弾による爆発でアジト全体が揺れたのを確認し、皆の心配をしていた。
「(大きな揺れ……アレはフェイトちゃんに渡したカートリッジでも激しい揺れは起こらないはず……大丈夫かなみんな)」
コピーとはいえ、メタルローリの前だと言うのに、余裕ある態度で。
「ーーーー」
「あ? てめぇいつまで向かってくるんだ? そろそろ学習しろよ」
メタルローリは両手から楕円型の魔力刃を作り、それをキリンに向かって投げる。
だが、機械的に生み出された攻撃なぞキリンには意味はない。
「遅え」
ミョルニルを一振り、軽くなぎ払うだけでガラスのように砕け散る。
「憎しみも恨みも怒りも何もないコピー如きに、『限界突破』もいらねぇ」
コピーの攻撃はキリンには効かない。 もちろん直撃すれば大ダメージではあるが……オリジナルには遠く及ばない。
「だからいい加減……ぶっ壊れろ!!」
メタルローリコピーに急接近。 そしてその勢いのままミョルニルを振り抜く。 避けることもできないコピーは腹部を抉られ内部が露出。 このコピーにも当然再生能力があるが……間に合わない。
「ハァ!!」
「ーーーー……」
地面を蹴りコピーの頭上へ、そしてそこから高密度の魔力砲を放つ。 魔力の奔流に飲み込まれたメタリックボディはそのままチリとなり消滅した。
メタルローリのコピー、あっさりと撃破である。
『やりましたねマスター! びっくりするくらい余裕の撃破ですよ!』
「あぁ……でもオレ以外が相手をしたら骨が折れるだろう……よかったよ、オレの前に来てくれて」
相手をしたキリンとミョルニルには分かるが、メタルローリのコピーはオリジナル程の能力はないものの、それでもなのはやフェイト、はやて辺りが相手をしなければならない力がある。
もしフォワードの誰かが相手をしていればひとたまりもない。
「うっし! それじゃあ中にいるみんなのーー」
『マスター! 敵性反応です!』
「っ!?」
ミョルニルの魔力検知能力が新たな敵を捉える。
『先程のメタルローリのコピーと同じものと思われまーー
「何っ!?」
それも先程のメタルローリコピーと同じものが、いくつも。
流石の事に驚愕を隠せないキリン、その目の前には先程倒したメタルローリのコピー……およそ8体の姿が確認できる。
「スカリエッティのやろう……マジに史上最悪の科学者だぜ……!」
『マスター! 油断してはいけません! 先程とは違い数の差は歴然です!』
「わぁーってるよ、これは流石に全開で行くしかねぇ!」
キリンの視界に入っている8体のメタルローリコピー、ミョルニルの魔力検知にもこれ以上はいないと確認できる。
ならばこの8体を迅速に片付ける、それがこの場での最適解。
「ハァァァァァァァァ!!」
キリンは魔力を解放し、まずは一体を破壊するためにその身を加速させた。
はずだった。
「……………………あ?」
ーー『
ーー『
『あ……ぇ……ぅそ……』
メタルローリのコピーは、『
それなのに、いやそれならばどうやって?
『なんで……なんで……なんで……ッ……!』
何故、
「……カプ……」
キリンの身体が前に倒れるように数歩歩く。ズルリと腕が腹部から抜かれ、そこから噴水のように血が漏れ出す。
『マスター!!』
ミョルニルが音割れするくらいの大きな機械音声でキリンに呼びかける。
だがキリンは無言のまま自分の腹を串刺しにしたメタルローリのコピーに視線を写す。
そして歯を食いしばりながら殴り壊す。
「オラァ!!」
殴られ破壊された部位は頭。 怒りに任せて殴りつけた一撃だが……何故か殴られた個体は再生を行わない。
『マスター! マスター!』
「……なぁるほど……なぁ……」
以前とキリンに呼びかけるミョルニルの言葉を無視し、キリンは再生せずにそのまま倒れている個体を見つめ、気付く。
「そうかそうか……そりゃ、『
ステルスとは、いわば隠密である。
姿がバレないように、音が漏れないように、光が差さないように……全ては隠蔽するための機能である。
キリンが気付かなかったのも仕方ない。
何故なら無機質な機械は殺気も出さない。
ミョルニルが察知出来なかったのも仕方ない。
何故なら探知すべき項目全てが隠蔽されていたから。
「他には……もういねぇのか……いや……はぁ……一体いりゃ十分だもんなぁそりゃ……」
時間の都合上、スカリエッティでさえもローリのスペックのままステルス機能及び魔力コア無しでの組み立ては一体しか用意できなかった。
だがこれで十分過ぎる程の成果を上げた。
腹部を貫かれたキリン、その目の前には八体ものメタルローリのコピー。 この重症を負った状態で、相手をしないといけないのだ。
『マスター! 避難を!! マスタァァァァァァアアアアアアア!!』
これこそがジェイル・スカリエッティとローリの算段。
もっとも不確定要素であり、もっとも驚異のあるキリン。
そのキリンを確実に仕留めるための『作戦』。
そう、わざわざ宣戦布告をし、ローリがゆりかごに組み込まれたと教え、不審に思った彼がやってきて、最初に一体差し向ける事でメタルローリのコピーのスペックを理解させ……誤解させる。
そして腹を一突きできれば十分。 ここで顔や心臓部を狙えば本能的に反応されるかもしれない。
だが腹を一突き。 そして後は残りのコピー達で倒す。 全てやられたとしても致命傷からの出血により死亡は確実。
これが、キリンを確実に殺す為の、もっとも冴えたやり方であった。
ここからどうやって逆転するんだろうね?(他人事)
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。