オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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8月に入ってしまってすまぬすまぬ……


55話 Clear bird and Bullet

 55話

 

 

 

 

 ティアナと翔次達を結界で閉じ込めているのはナンバーズのオットーである。 元々フォワード陣を分断するためにティアナを結界で閉じ込める作戦ではあったものの、自ら翔次が結界内に入ったため引き続き結界の操作を行なっている。 彼女の固有武装によって魔法による探知を回避できるため、少し離れた所とはいえほとんど安全な状態であった。

 

 冷静な彼女はディードと同時期に開発されたため双子のように見える、そして性格も似ている。 そのため普段は表情を崩すことなく、戦闘時でもクールな表情で戦っていた。

 

「結界内での大きな動きはない……でももうあの爆弾は使用しているはず……そろそろ解除する用意をしておこう」

 

 しかし、オットーの目には驚くべき事が起きた。

 

「ッ!?」

 

 その光景に驚かざるをえなかった。

 

「結界が……内側からの衝撃だけで破壊された……!?」

 

 物体が破裂する時に内側から膨張する。 膨らんだ風船が限界点を超えた瞬間に破裂するように。

 結界は内側から溢れ出す衝撃によって破裂し、壊れたのだ。

 

「一体何が起こって……!!」

 

 オットーは結界を張ってあったビルを見る。 しかしビルは衝撃によって舞っている大量の土煙によって上手く視認することは出来ない。

 動揺し、次の手をこまねいているオットー。 そのオットーの背後には……

 

「そこを動くな」

「大人しく捕まっててね」

「ーー管理局!? しまっ……!?」

 

 全身を包帯で包んでいる守護獣形態のザフィーラと、少し怪我の跡が見られるシャマルの姿があった。 結界が目の前で破裂し破壊されるという想定外の事に動揺していたせいで、オットーはシャマルのワイヤー状のバインドで拘束されてしまう。

 

「くっ……接近に気付かなかったのは僕のミス……だけどどうして僕の居場所が!?」

 

 オットーは隠密に徹する事ができる固有武装がある。 魔力探知からすり抜けるはずである。 そう、並大抵の探知ならの話だ。

 

「貴方の潜伏がどれだけ巧妙でも、私のクラールヴィントは絶対に見つける」

「くっ……でもまだ僕が負けたわけではない! うおおおおおおお!!」

 

 オットーはシャマルのバインドを力ずくで引き千切る。 後方支援型とはいえ戦闘機人、その戦闘能力はシャマルを遥かに凌駕する。

 だがここにも、戦闘能力に秀でている男がいることを忘れてはいけない。

 

「暴れるなと言ったはずだ!」

「なっ!? ぐぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 守護獣形態から人間形態に入れ替わり、飛びかかりオットーの両肩を掴み上からのしかかる。 そのままオットーを地面に落とし、その上に馬乗りになる。

 

「暴れるな……無駄な傷を増やしたくないなかろう」

「断る……僕はドクターのために……!!」

「ならばやむなし……覚悟しろ」

「ッ!!」

 

 状況は馬乗り。 圧倒的に下になっているオットーの不利。 ここから力任せに顔面を殴られてもおかしくはない、そうオットーも気付いているためこれから訪れるであろう苦痛に耐えるべく表情を強張らせる。

 しかし、ザフィーラがこれから行うのは……

 

「お前にはこれから1時間……」

「……ゴクリ」

「人智を超越した地獄を味わってもらう」

「そ、それは……!?」

 

 ザフィーラが取り出したるは、タッパーである。

 

「……?」

「え、ザフィーラ?」

 

 タッパーとは、食品の保存などに用いるプラスチック製のふた付き密閉容器の通称である。 多くの家庭で用いられており、食べ物の保存や調理のためにも用いられる。

 特にこの密閉状態は非常によく……

 

「……何だその……え、何それは……」

「待ってザフィーラ、それ……それって……!」

 

 保存方法が良ければ新鮮なまま料理を保存できる。

 

「私の料理ー!?」

「さぁ、こいつを食らってもらおう!」

 

 今まさに、いともたやすく行われるエゲツない行為(マジカル☆シャマル☆クッキング)がオットーを襲う。

 

「むぐっ! ……?」

 

 味は、悪くなかった。 不思議と芳醇な香りと濃厚な味付けが奏でるハーモニー……

 

「……?……!……??……???!!?!?!!!??!」

 

 そして訪れるこの世の終わり。

 オットーはシャマルの料理を咀嚼し、飲み込んでしまったがあまり、その圧倒的な破壊力を胃で受け止めてしまった。

 だとすれば結果は火を見るよりも明らか。

 

「ーーーーぐふっ」

 

 オットー、ノックダウン。

 

「ふむ、無事制圧できたな」

「全然無事じゃないわよ!? ザフィーラいつのまに私の料理を持ってきてたの!?」

「このマリーが開発した、シャマルの兵器を持ち運べるタッパーはこうして魔力を込めれば小さく収納できる。 便利なものだ」

「その便利なものを最低の使い方したわよ!? あと兵器って言った!?」

 

 シャマルの料理は、あれから進化した。

 まず、味付けは間違いなくよくなった。 以前はあまりにも恐ろしい兵器だったため、味を楽しむ前に食べる人間を悶絶させていた。 あれから数年、シャマルはまず相手に味合わせる事が可能になった。

 そして飲み込んだ瞬間、胃の中で暴れまわる料理達。 ここでほとんどの人間はさながらフリーフォールのアトラクションのような急降下にも似た恐怖と絶望を味わう。

 

 シャマルの料理は確実に進化しているのである!!

 

「シャマル、そいつはまだしばらくは起き上がれん。 もう一回バインドをしておけ」

「うぅ……ザフィーラまで私をイジメるぅ〜」

「そういうな、おかげでどちらも無傷で終わる事ができた」

「私の心はズタボロよぉ!」

 

 オットーの胃袋もズタボロである。

 

「まぁ、そう憤慨するな。 見てみろ、あそこを」

「……あそこってさっきまで結界が張ってた場所よね?」

「チラリとだが、翔次の姿が見えた。 つまり、結界を破壊したのもあいつだ」

 

 泡を吹いて時々ビタンビタンとオットセイのように跳ねるオットーを尻目に、ザフィーラとシャマルは翔次達の戦いを観戦する。

 

「見せてもらおう……お前の築き上げた力の全てを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 卍解、とは久保帯人原作によるBLEACHの中で登場する斬魄刀の最終形態。 一度解放すれば、必ず強力な力を得る。 しかしそれは誰もが到達できる領域ではなく、また使いこなすのにさらに年月をかける必要がある。

 

 つまりは最終奥義にも等しい。

 

 故に、これほどまでに光を放っているのであろう。 故に、これほどまでに溢れているのであろう。

 その光を、力の荒ぶりを見ながらノーヴェは思考回路を一人回していた。

 

(意味が分からねえ……何だよバンカイって……!?)

 

 ノーヴェには理解ができなかった。

 ローリとスカリエッティが用意した爆弾により翔次の左腕は潰れている。 いわば致命傷を負っている、この状況で。 翔次は不敵に笑い、まだ勝つつもりでいるのだ。

 

(何だよチクショウ……何なんだよこの光は! 何なんだよこの意味分かんねー力は!!)

 

 理解が出来なかった。 その力の根底にある、底知れない何かを。 翔次とティアナの力が理解できなかった。

 

 否、ノーヴェにとって目の前で起こっている全てが理解不能である。 突然光を放った翔次も斬魄刀も、直後に激しい衝撃を撒き散らしながら土煙が渦を巻いて翔次を囲んでいるのも。 その光が今いるビルのフロアから上全てを吹き飛ばし結界すら破壊したもの、未だ翔次と斬魄刀が姿を現さずに煙で姿を隠しているのも。

 何もかもが理解できない。

 

「ーーーー」

 

 そしてついに、その理解不能が動く。

 上段に構えているであろう獄砕鳥を振り下ろし、自身に取り巻く渦を切り払う。

 ついに陽の目を見る姿の名を言いながら。

 

「ーー『魔嵐射獄砕鳥(まらんしゃごくさいちょう)』」

 

 まず初めに、ティアナは翔次本人に対する変化に気付いた。

 今まで翔次は動きやすく改造された黒コートを着ていた。 どんな時でもそれを着ていたし、戦闘用に仕立て上げられているのでそう簡単には破損しない、そんな黒コート。

 だが、卍解をした今の翔次の格好は同じ黒でありながら先ほどまでとは違う。

 その身に包むのは『黒い袴』。 皆さんはご存知、死神本来の姿である『死覇装』だ。

 

 だが、敵側であるノーヴェ達は違う所を見ている。

 

「何だ……お前それ…………!?」

 

 ノーヴェ達ナンバーズは翔次が手にする得物を見ていた。 『それ』は、デカいとか長いとか鋭利だとか凶暴だとか、そんな単純な事では流石に彼女達は驚かない。

 なら何に驚く?

 

「何だそれ……()()()()()()()()()()()

 

 何も無いから、である。

 確かに翔次は柄を握っている、鍔も見える。 しかし刀身が無い。 刃紋も光沢も刃も峰も無い。

 ノーヴェ達の、いや全員の目を持ってしても刀身を確認する事ができない。

 

「……」

「は……ははっ……!」

 

 不意に、変な笑いが込み上がってきた。 安堵か驚きか、自分でもよく分からない笑い声がノーヴェから発せられる。

 

「はははは……脅かしやがって……はっ! ナメた真似してんじゃねぇ!」

 

 またもや放たれるノーヴェの魔法弾。 今までなら翔次が斬り伏せていた攻撃。 しかし刀身が無いこの新たな姿で一体なるのか?

 答えは簡単。

 

「ーーッ!」

「……は?」

 

 同じく斬り伏せるのみである。 翔次が無造作に柄を持っている右手で一振り。 すると魔法弾は綺麗に分断され、このまま軌道を大きく開いたまま後方へ飛んでいき背後にあるビルに直撃して爆発する。

 

「な……あっ……!?」

 

 刀身は『無い』はずなのに、『斬られた』。

 

「何……しやがったぁぁぁぁ!!」

「……」

 

 三発連続、困惑と恐怖が困っている攻撃。 しかしそんなものは今の翔次にとっては脅威でも何でもない。

 翔次は魔法弾に触れる距離になる前に、魔法弾の軌道上で右手を振るい『斬る』。

 明らかに早すぎる動作、だが魔法弾は確実に右手が振るった『後』の地点で切り裂かれた。

 

「何っ!?」

「……斬る前に斬っていた? でもこれは……」

 

 驚きを隠せないナンバーズ達、だが翔次の後ろでその様子を見ているティアナは違う。 着々と翔次の卍解、『魔嵐射獄砕鳥』の分析を進めていた。

 その姿を確認した翔次は少しずつ前へ足を進める。

 

「くっ……グッ……クソおおおおお!!」

 

 ノーヴェ、抑えきれず前へ飛び出す。 魔法がダメなら直接攻撃しかない、そう本能的にも悟った彼女は翔次に拳を向ける。

 純粋なパワーでいえば、今までであれば戦闘機人であるノーヴェ達の方が上であった。

 しかし。

 

「……」

「何だよそれ……何で……!!」

「…………」

「何で『無いはず』の剣で防げるんだよぉ!?」

 

 ノーヴェの拳は空中にある見えない『ナニカ』によって、甲高い金属音が鳴ると同時に止められる。 しかも翔次は右手に持つ柄を前に差し出しているが、もしこの見えない何かが翔次によるものだとすれば。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だ。

 

「クソッ!」

「ーーっ!」

「消えあああああーーガハッ!?」

 

 右手を振りながらノーヴェに何か攻撃を放つ翔次。 ノーヴェの動きから読み解く事ができるのであれば、恐らくは、まずはしゃがんでからノーヴェ突き出していた右腕に下から一本。 そして右斜めからの袈裟斬りによりノーヴェの左肩から右腰の辺りまでを抜けながら一本。 計2回の攻撃が行われていたと予測できる。

 しかし、刀身の姿は以前現れることはない。

 

「ノーヴェ!? くっそぉぉぉぉ!!」

 

 ウェンディはライディングボードに乗り、機動力を生かして翔次の周囲を飛び回りながら砲撃を行う。

 

「四方八方からの砲撃ならどうっすか!?」

「…………ティアナ」

「え、あっハイ!」

「ボクの側に来い、そこでは『当たる』」

「は、ハイ!」

 

 翔次の普段とは違う冷静で静かで、それでいて溢れ出る貫禄にも似た威圧感なら思わず敬語で答えてしまうティアナ。

 

「ふっ……」

「きゃっ!?」

 

 翔次は持ち手を逆手に変え、ティアナを潰れたはずの左腕で抱き込むように抱えたまま一回転。 そして最後に頭上辺りで柄を1回転。

 

「一体何をああああうわああああ!?」

「ウェンディ姉様!?」

「攻撃が跳ね返った……?」

 

 四方八方からの砲撃、それらは全て翔次とティアナに触れることなく跳ね返っていく。 跳弾のように跳ね返ってきた砲撃にウェンディが被弾する。

 今度は跳ね返した。

 

「くっ……でやあああああ!!」

「向かってくるな……お前のその魔法剣が一番ボクと相性が悪い」

 

 抱えていたティアナをそっと離し、走って向かってくるなディードに対して穏やかな徒歩で向かう。 すでに逆手から元に戻している。

 

「……」

「ハアアアアアア!」

 

 気合いを入れた一撃。 双剣を翔次の頭上から切り落とそうとする。

 

「おい」

「アアアアア!!」

 

 だが、翔次は動かない。 否、動く必要すらなかった。

 

「もうそれ、()()()()ぞ」

「ーーッ!?」

 

 ディードの二本の光剣は真っ二つになっていた。 長さは半分となり、消えた上部はどこにもない。

 半分になってしまっては翔次に届くはずもなく……

 

「……フッ!」

「うあああああ!!」

 

 ダランと下がっていた右腕を、まるで斬り上げるように放つ。 すると突如発生した衝撃にディードは吹き飛ばされる。 その威力は始解時の滑砕流と同等かそれ以上の威力であり、ディードはビルから身体を飛ばされるも、何とか塀の部分を掴み落下を凌いだ。

 

「……すごい」

 

 ティアナの口から漏れた素直な感想。 未だによく分からない翔次の能力、しかしその進化した力は確実に戦闘機人達を凌駕しているのは明らか。 僅かな時間で、これ程までに上達したのは間違いなく翔次本人の努力、その賜物であろう。

 

「ぐっ……クソッ……スーツが斬れてやがる……!」

「まさか跳ね返られるなんて……ディード大丈夫っすか?」

「ありがとうございますウェンディ姉様……光剣は再生しませんが、まだ身体は動きます」

 

 まだまだ動ける辺り流石は戦闘機人といった所、しかし被害は甚大である。

 ノーヴェは斬られた部分のバリアジャケットが見事に切り裂かれ、ウェンディは自分の攻撃をくらいダメージがかなり蓄積されており、ディードに至っては斬られた光剣が再生しない。

 もはや圧倒的に優位に立っているのは翔次側である。

 だが、それでも彼女達は戦うことをやめない。

 

 故に翔次も詰めに入る。

 

「そろそろ、種明かしをしてやろう」

 

 翔次は右手に持つ柄を指先で器用に回転させた後に……地面に向かって投げる。

 

「なっ!?」

「どう……なってるんすか!?」

 

 その光景に、目を疑う。

 何故なら柄は()()()()()()()()()からだ。

 

「止まっている……停止している……違うこれは……!?」

 

 もうここまでくれば誰でも分かる、解る。

 

「卍解した獄砕鳥……『魔嵐射獄砕鳥』は始解時の能力をさらに強めた。 異能を斬り裂くその刃は、いよいよもって生きとし生けるもの以外全てを斬り始めた」

 

 翔次は柄を持ち、ゆっくりと歩き始める。

 

「全てを斬り……そして遂には『()()()()()()()()()()()』を斬り……こうして如何なる方法を持っても姿をこの世に映し出す事が出来なくなった」

 

 目の前にある砕かれた廃ビルの柱。 もう上層部は存在しないため役に立たない瓦礫。 それに翔次一振り。

 

「透明になったんじゃあない。 ()()()()()()()()()()刀身になったんだ」

 

 斬り裂かれ崩れる柱。 捲き上る噴煙。 しかしその中でも魔嵐射獄砕鳥が、映し出される事はない。 煙の動きで読み取るだとか、反射具合で位置を把握するとか、『そういう次元の話』ですらない。

 

「刀身に触れたものは、例えどんなものだろうと魔嵐射獄砕鳥を映し出す事はできない。 例え水だろうと空気だろうと、音波の反射だとか光の反射だとかそういう科学ですら不可能だ」

 

 刀身が『無い』のではなく『視認』できない。 『透明』ではなく『見る手段が無い』。

 持ち主の翔次だけが、長さを、重さを、形状を知っている。 だがそれでも翔次本人でさえ魔嵐射獄砕鳥の姿を見る事はできない。

 

「姿が見えないだと……ふざけやがって……!」

「お前達戦闘機人には、勘というものがない。 故に勘で避けることはできないし、視認出来なければ何も対処ができない」

「ぐっ……で、でもあんたのその柄だけは見れるっすよ! そこから計算すれば……!」

「ほーぅ……なら今お前らは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

『!?』

 

 翔次はまるでオモチャのように柄を……魔嵐射獄砕鳥を手で器用に回転させる。

 何回転した? いやそもそも最初はどっちの手で持っていた? そもそも刀身は片方だけについているのか? 両方に付いている可能性だってある。

 

「……まぁ混乱させるるつもりもないが、勝手に困ってるのはいいか」

 

 そして翔次は卍解時のメインの能力を明かす。

 

「さっきから、ボクが直接斬る前にすでに斬られたりしていただろう。 アレは『斬撃痕』だ」

「斬撃痕……?」

 

 ここまで唯一冷静に話を聞いているティアナ。 ティアナはすでに卍解を理解しつつある。 そんな冷静な彼女を見て小さく笑いながら翔次は卍解の本当の力を説明していく。

 

「残像……ってあるだろ? 眼に映る動きの残影、跡、痕。 だが『魔嵐射獄砕鳥』の斬撃痕は残るのではなく『()()()()()()()』」

「斬り続けて……え?」

「ボクが振るう全ては斬撃となり、そこで斬り続ける。 だから勝手に魔法を斬ってしまう。 さっきみたいにな」

「なっ!? だ、だから私の光剣が復活しない……!!」

「あとそうだ、刃に当たれば斬るが腹に当たれば跳ね返す性質がある。 遠距離からの砲撃も最早無意味だ」

「うそ……!?」

 

 卍解『魔嵐射獄砕鳥』の能力とは、『斬撃』が永遠にその場で斬り続ける能力である。 もちろん生き物か機械などは斬られる事はないが、魔法などを始めとする異能は確実に斬られる。 どのような形状でどのような効果を持っていようと、例外なく斬られる。

 

「ティアナ」

「……なに?」

「説明すべき事は全て話した。 あとは……もう分かるはずだ」

 

 ティアナの方に振り返りその場で獄砕鳥を振るう。 その動作を目に焼き付けながら、ティアナは少し考えたのち答える。

 

「……任せなさい!」

「それじゃあ任せるぞ、リーダー!」

 

 翔次、発進。

 

「ッ!!」

「消えーー」

「ーー後ろだ」

 

 ノーヴェ達の背後を一瞬でとる。そしてその場で数回獄砕鳥を振るったのち、ようやく振り返ってきたノーヴェ達に一閃。

 

「ぐぁぁぁぁ!!」

「速すぎる……!!」

 

 そこからはもう翔次の高速移動によって翻弄され、数十発獄砕鳥を打ち込まれた。 肉体が斬れることはないものの、斬撃は残り続ける。 そして翔次は攻撃を入れる合間に何もない空中を斬っている。 どこに斬撃が残り続けているかどうか誰にも分からない。

 ただ一人を除いて。

 

「もう、十分か」

 

 そう呟くと翔次は歩いてティアナの方へ向かう。

 そこでナンバーズ達は気付いた。 ティアナの周囲に浮かんでいるいくつもの弾丸、それはティアナの『クロスファイヤーシュート』。 空間制圧を可能にできるティアナのとっておき。

 

「ば、バカが! はっ! この空間はすでにそいつの斬撃のせいでまともに魔法は使えねぇ! それどころか跳弾して自分に跳ね返ってくるだけだ!」

 

 ノーヴェが吠える。 確かに彼女の言うことが正しい。 しかし、それはあくまで彼女達の話なら、ではある。

 

「お前、そこまで分かっているなら何故気付かない?」

「何だと……?」

「お前達を中心に、()()()()()()()()()()()()()()()()()が出来ていることに」

『!?』

 

 見渡す、しかし何も見えない。

 だが言っていることは理解できる。 攻撃の合間に空を斬っていた理由もようやく合点がいく。

 しかし、それでもおかしい。 仮にティアナの射撃をここで放っても斬られ反射され終わるのは目に見えている。

 

「お前ら……まだ理解していないな?」

 

 だがこの場で唯一、翔次は知っている。

 ティアナ・ランスターという魔導師の事を。

 

()()()()()()()だ。 お前ら()()とは努力の練度が違うんだよ」

 

 常日頃から自分、仲間、越えるべき上司、周囲の全ての動きを見て学ぶ彼女にとって、ティアナ・ランスターにとって斬撃がどこに残っているかなんて覚えるのに苦労はいらない。

 

「クロスファイヤーシュート……!」

「行け、ティアナ!」

「『ホログラムシフト』!!」

 

 発射された弾丸は、まず翔次が最初に残した斬撃によって斬り別れる。 そしてその弾丸はその先でまた斬られ別れ、腹で反射される。

 翔次が作り上げた魔嵐射獄砕鳥の結界に出口はない。 つまり……

 

「弾丸が無数になって跳弾してーーーーぐあああああ!!」

「うあああああああ!!」

「ッ〜!?」

 

 鳥かごの中の鳥のように、逃げ場なく弾丸の雨あられを浴びる。

 例え斬り別れようとも威力は変わらない。

 小さく分断されようと『ランスターの弾』だ。 全身にゴム弾のショットガンを浴びる……よりも痛い。

 

 やがて弾丸が無数に斬り別れ、目に見えない程にバラバラになった時にはすでに……敵は沈黙している。

 

「ぁ…………」

 

 ウェンディはすでにノックダウン。 ディードも隣で倒れている。

 そしてノーヴェは朦朧とする意識の中、ティアナを見ていた。

 

「どうしてだ……どうして私らがお前みたいな奴に……やられる……」

 

 ただただ疑問でしかなかった。 その疑問だけがギリギリの所でノーヴェの意識を保っていた。

 ティアナはノーヴェの目をしっかりと見、その疑問に答えた。

 

「分かってないわね」

 

 ティアナは隣にいる翔次を指差して、笑う。

 

「私たちは、お互いのために命をかけれる。 だから勝てた、それだけよ」

「お互いの…………はっ……意味分かんねぇあああああああ

 

 ようやくノーヴェは意識を手放した。

 ようやく、負けを認めたのである。

 

「……ふぅ」

 

 それを見て翔次は卍解を解く。 獄砕鳥は始解の姿に戻り、それと同時に空間を斬り続けていた斬撃達もようやく姿を消す。

 

「ーーそれを待っていました!!」

「なっ!?」

 

 そう言って飛び上がったのはディード。 どうやらやられた振りをしていたようだ。

 

「お姉様達の仇、そしてドクターのために死んでください!!」

 

 卍解を解いたことで彼女の光剣も復活。 二本の光剣は翔次とティアナを同時に狙っていた。

 しかし、翔次はそれをただ見ているだけであった。

 

「……見せ場くらいは流石に作ってやるさ」

「何を言ってーーカッ!?」

 

 そう、ただディードが狙撃されるのを見ていた。

 狙撃されようやくノックダウンしたディード。 ティアナだけが状況を飲み込めていない中、翔次はティアナにある方向を指差しながら喋る。

 

「結界は破壊され、ビルの上部は全て吹き飛び、周りには遮蔽物はほとんどない。 そんな中での狙撃なんぞ、お前にとっては朝飯前だろう? ヴァイス・グランセニック」

「えっ? ヴァイス陸曹!?」

 

 ティアナの目にもギリギリ映るくらいに離れた位置に、確かにヴァイスはいた。 その手には愛銃であるストームレイダーを持ちながら。

 

「……こんな俺でもまだ仲間を守るためなら引き金を引ける……見てくれただろ、しょーさん、ティアナ」

 

 ヴァイスは拳を突き上げ翔次達に示す。 言葉は届かない距離だが、想いは伝わる。

 

「……勝ったのよね、私たち」

「あぁ、勝ったさ」

「そうよね……っ……ッ〜!!」

「な、何故泣く!? 困るだろボクが!」

「うるさいわね……いいじゃない別に」

 

 勝ったという事実に涙が込み上がってくる。

 しかしまだ戦いの全てが終わった訳ではない。 まだゆりかごの中でなのはやヴィータ達が戦っている。

 

「キリンがやられたってのも確認しないといけないし……まぁ、何だ」

 

 翔次は頭をパリパリ書きながら、ぶっきらぼうにティアナ言う。

 

「勝てたのはティアナがいたからだ。 ……ありがとうな」

 

 感謝の言葉を。 その言葉に、ティアナは笑う。 涙が弾け飛ぶくらいの笑顔で。

 

「……うん! ありがと!」

 

 その笑顔が、ティアナと翔次の勝利を何よりも証明していた。

 




次回はあれです。 フェイトの方にいきます。 prayしなきゃ(使命感)

あ、8月はちょっと田舎帰るんで更新はほとんどないですので悪しからず。
ただもう4分の3くらいまできてるので、今年中には終わらせますよ!

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。
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