オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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一月空いてすまぬすまぬ……


56話 空のように雄大で、海のように慈愛に満ちた、アイ色

 56話

 

 

 

 フェイトが拘束され、エリオとキャロの戦いを見ている同じ頃。

 シャッハとセインの戦いは佳境に入っていた。

 

「くっ……なんで……! チューンアップした私が押されてる!?」

「ハァッ!」

 

 シャッハに分がある。 それもそのはず。

 彼女は飛行を行えないものの、その実力はシグナムやなのはにも劣らない。 そんな彼女を相手取るにはもう一人ナンバーズがいてちょうどトントン。

 最初の奇襲が失敗した時点でセインの勝ち目は本当に薄くなっているのだ。

 

「デヤァァァ!」

「うぐっ!」

 

 腹部に強烈な一撃。 シャッハの鉄拳が深く刺さる。

 この拳を受けてようやく、セインは撤退を選択する。

 

「(ちょっと!? マジでこの人強いんですけどぉ! こんなのトーレとかに任せるしかないって!)」

 

 若干判断が遅いのだが、まぁお調子者であるセインにとっては早い方だ。

 

「(幸いすぐ後ろは壁、このまま『潜らせて』もらうよ! ……いやホント逃げないとヤバイって!)」

 

 セインは背後にある壁との距離を確認してのち、シャッハに捨て台詞を吐きながら壁の中に潜り始める。

 

「へっ! あんたが強いってのはよく分かったけど、負けるのは嫌いなのよね! アデュー!」

「……待ちなさい」

「待つと言われて待つバカはいないって!」

 

 セインは波紋を立たせながら壁の中に潜る。 その姿を見ているシャッハは、驚きもせず、慌てもせず、冷静に壁の中に潜伏したセインに話しかける。

 

「あなたの能力、非常に潜入向きで優秀なスキルだと思います。 本当に……()()()()()()()です」

 

 その言葉はセインには届いているのかそれとも否か。 そんな事はシャッハにもセインにも関係ない、何故なら。

 

「何……これ……」

 

 セインは自分が先ほど拳を叩き込まれた腹部を見て、困惑する。

 そこには何故か、『カートリッジ』があった。

 

「自分だけでなく、質量兵器も手にしているのであればそのまま一緒に潜伏できる。 だから私があの時ーー」

 

 そのカートリッジは魔力が送られていたのか、共鳴し光を放ち始める。

 

「ーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え、何これナニコレー!?」

 

 それは、キリンに渡された、キリンの魔力を内包した特殊カートリッジ。 リロードすれば大量の雷の魔力を解放し……カートリッジそのものに微量な魔力を込めれば、内包していた雷の魔力が解放され周囲に魔力を拡散させる『爆弾』と化す。

 

 そしてセインは今、逃げ場のない壁の中。

 

「きゃあああああああああっ!?」

 

 襲いかかる雷に全て絶えず感電し続ける。

 例え防御しようにも、キリンの魔力は特殊な魔力。 バリアジャケットすら焼き切る雷に意識は当然保てるはずもなく……

 

「ーーーー」

 

 壁の中から、意識を失った状態でぬるりと出てきた。 全身焼け焦げ、完璧にダウンしている。

 

「このような勝ち方はあまり好きではありませんが……ですが私にも戦う理由があります」

 

 シャッハはセインをバインドで縛り、壁にもたれかかるように座らせる。

 

「ですがあなたのその力、今度もっと教えてくださいね。 きっと、私にもあなたにも、新たな成長をもたらしてくれるはずです」

 

 シャッハは汚れたセインの顔を少し拭って綺麗にしてから、その場を離れた。

 

 シャッハ・ヌエラ、貫禄の勝利であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャッハがセインを倒したのはちょうどエリオ達がルーテシアに勝った時とほぼ同じ。

 フェイトの目に二人の勝利が映っていた時だった。

 

『どうだジェイル・スカリエッティ!』

『私たちが勝った!』

 

 エリオとキャロは通信モニター越しにスカリエッティにそう宣言する。

 

『フェイトさんは何も間違ってなんかいない!!』

 

 声を揃えてそう宣言する。

 その言葉にフェイトは強く胸を打たれた。

 

「ーーーー」

 

 思い起こせば、フェイト・テスタロッサの人生には常に誰かが導くように立っていた。

 初めて目を開けた日、目の前にいる存在が自分の母親であることを理解し、その母親のためにジュエルシードを集め始めた。 そして転生者によって母親は奪われ、その母親を助けるためにジュエルシードをがむしゃらに探した。

 母親の名前は「プレシア・テスタロッサ」。

 

 そして出会ったのは自分と同じくらいの女の子と、不思議な子ども。

 女の子は怖がりながらもフェイトを見つめていた。 真っ直ぐな目でフェイトを知ろうとしていた。

 そんな彼女とぶつかり合いたいと強く思った。 その背中を不思議なあの子どもに押してもらった。

 その日初めて出来た友達、名前は「高町 なのは」。

 

 初めて友達が出来たその矢先に、転生者から告げられた真実。 自分はクローンであり、プレシアの本当の娘を生き返らせるために生まれたコマであると知った。

 心が壊れそうになった。

 でも、隣にいたのは、自分よりも何も持っていない、記憶の全てを失った子ども。 何も思い出せない、本当の名前すら知らない子ども。

 そしてその子から貰ったたくさんの感情が、フェイトの心を強くした。

 その不思議な子どもの名前は「村咲 輝凛」。

 

 闇の書に飲まれた時、夢から覚めるために必要だった1%をくれたのも、「村咲 輝凛」。

 

 そして今。

 

「その……っとおぉぉぉぉり!!」

 

 目の前で自分の行いが間違っていないと教えてくれた二人の子ども達の言葉に、更なる言葉をくれるのも……

 

「フェイトちゃん、君は、君のこれまでの人生全て! 何一つとして間違いはないってのを!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、彼なのであろう。

 

「このオレが何度でも叫んでやるからよぉ!」

「キリン……!」

「なに……!?」

 

 スカリエッティはキリンの姿を捉えてからすぐにアジト入り口を映していたモニターを確認する。

 どうやらエリオとキャロ達の戦いに集中していた間に、キリンはここまでやってきたのだろう。

 

「……おかしい……ねぇ」

「へっ、なにがだよ」

「君のその腹、間違いなくメタルローリコピーが貫いたはず……なのにどうして出血が止まっているんだい?」

 

 キリンはミョルニルを肩にかけ、少しだけ笑いながらスカリエッティの問いに答える。

 

「随分と何かに夢中になって見てたから知らねえんだろうなぁ」

「……まさか、まさか君の魔力……!」

「流石天才科学者、お察しがはえーはえー」

 

 キリンは左手で服を巻き上げ、傷となっていた箇所を露出する。

 そこには、痛々しい『跡』が残っていた。

 

「……!」

「火傷のあと……だと!?」

「オレの魔力はちょいと特殊でな、こんな風に人体に影響が出やすくてな。 こうやって傷口を焼く、なんてことが出来ちまうのさ」

 

 流石のトーレやセッテもこれには驚きを隠せない。

 炎の変換気質ならまだしも、雷の変換気質で傷口を焼いたのだ。 焼けば火傷となり塞がれる。 だがそれは『焼く』というよりは『焼き切る』に近い。 当然そのショックで命を落とす可能性大である。

 

「ま、おかげで意識が5.6回はトンでたけどな」

「……バケモノめ」

「そりゃ光栄」

 

 痛みに耐える、その事にトーレはたじろいでいるのではない。 それだけのショックの後だというのに、真っ直ぐにフェイトの元へやってきたその行動力にたじろいでいるのだ。

 普通、すぐに立ち上がることすら困難。 意識を手放さないようにするのでさえ十分過ぎる健闘である。

 だがキリンは、立ち上がっただけでなくフェイトの元へ推参し、ここから戦おうというのだ。

 バケモノと呼んでしまっても仕方ない。

 

「だが、体力が戻った訳ではない。 ローリのコピーとはいえ彼の戦闘経験値のデータをインプットした、そして君の脇腹は貫かれている。 以前私達に優位な状態であることには変わりない」

 

 スカリエッティの言う通りである。 いくらキリンと言えども、この状態で無傷であるナンバーズ二人と戦闘を行うのはリスクが高い。 おまけにここはスカリエッティのホーム、何が仕掛けられても不思議ではない。

 

 だがそれも。

 

「キリン……」

 

 フェイトが加われば話は別である。

 

「てめーら、人の〝じょかの〝を緊縛プレイして楽しみやがって……許さん! でもナイスゥ!」

『マスター、何アホな事言ってるんですか。 さっさとフェイト様助けますよ』

「あたぼうよ!」

 

 キリンはミョルニルを構えフェイトを見る。 先ほどまで涙を流していたのか、目元が少し腫れており、頬が濡れた後がある。

 だからキリンはいつものように、声をかける。

 

「もう大丈夫だからなフェイトちゃん! 超スーパー美少女コスプレイヤーのキリンちゃんがズバッと解決すっからよぉ!」

『超スーパーってなんですか?』

 

 笑顔で、もう大丈夫だ、そう安心させるために。

 

「もう勝った気でいるのは困るな」

「……倒す」

「ローリの仇……ふふっ、この私が仇などと言うのは誠に不思議であるが……君はここで倒させてもらうよ」

 

 スカリエッティ、ナンバーズ両名、共に戦闘態勢に入る。

 

 それでもフェイトはずっとキリンを見ていた。

 ずっと、ずっと……

 

 ずっと自分の側で励ましてくれた、時に自分が励ました、最愛の彼を。

 

 最愛の彼の笑顔を……ずっと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、キリン」

 

 フェイトの全身から魔力が溢れ出す。

 

「何っ!?」

「くっ……!」

 

 溢れ出した魔力はAMFの抑圧を跳ね除け、フェイトを縛るバインドも弾け飛ばす。

 そしてフェイトは足元に落ちた、キリン特製のカートリッジを手にして、バルディッシュを構える。

 

「キリン」

「フェイトちゃん……」

 

 静かに、フェイトは微笑みながらキリンに声をかける。

 もう大丈夫だよ、と。

 

「今から私、頑張ってカッコいい所見せるから……見ててくれる?」

「……あぁ、見てるから、頑張れフェイトちゃん!」

 

 フェイトの顔を見てキリンはミョルニルを小さくする。 もう、自分の出る幕がない事を悟った。

 もう、フェイトなら負けないと知った。

 

「いくら君のようなS級魔導師とは言えども、この強力なAMF内でどれだけその魔力を維持できるかな……!」

「もう、無駄だ」

 

 スカリエッティの言葉を、短い言葉で切る。

 フェイトはカートリッジをバルディッシュにリロードしながら、告げる。

 

「もうここからは、誰も知らない、私すら予測できない『私になる』。 故にお前たちに勝ち目はない」

「何だと……!?」

 

 リロードした、キリンの魔力が内包されたカートリッジ。 つまり、荒れ狂う雷がバルディッシュを通してフェイトに送られる。 だがフェイトはそれを巧みに操り、自分の魔力の中に『混ぜていく』。

 

 三原色というのが存在する。 あらゆる色の原点である「赤・青・緑」、それらを合わせることによりこの世の色彩全てを映し出している。

 キリンの魔力が混ざり合い、フェイトの魔力光は金色から徐々に変化していく。

 新緑の艶やかな緑色に変わり、やがて吸い込まれるような美しい青……蒼……藍色に。

 

 それに伴いフェイトの髪の色も、美しいブランドから青空のような透き通る淡い青色へ変色していく。

 

「フェイトちゃん……!」

 

 バルディッシュの刃の色も淡い青色へ。

 

「バルディッシュ」

『All right』

「ーー真ソニックフォーム」

 

 フェイトのバリアジャケットが大きく変化する。 可能な限りの装甲を削り……なんて物ではない。 もはや防御力は0に等しく、その全ての魔力を加速と攻撃に回す。

 フェイトだからこそできるスタイル。

 

『Riot Zamber』

 

 そしてバルディッシュの姿も大きく変わる。

『ライオットブレード』と呼ばれるフェイトの切り札がある。 細身で片刃の長剣であり高密度の魔力が込められたフェイトのフルドライブ状態に使われる形態である。

 このライオットザンバー、これを()()()()という非常にシンプルなものである。

 非常にシンプルであり、非常に強力だ。

 

 何せこれだけで充分だというのに、キリンの魔力も溶け合っているのだ。

 

「すっげ……!」

『これは……マスターを超えたかもしれませんよ』

「かもしんねぇなぁ……!」

 

 キリンやミョルニルですら冷や汗をかくほどの力がアジト全体を支配している。 深い藍色の魔力が、その場にいる全員を照らす。

 その光に照らされたトーレとセッテの表情には恐怖の混じった嫌な汗が流れ始める。

 

「くっ……ククッ……クソったれめ……!」

「……ッ!」

 

 バケモノはキリンだけだと踏んでいた。 しかし理解してしまう。

 フェイト・T・ハラオウンもまたバケモノだ。 何せプロジェクトFで生まれた存在であり……あの最強の魔女が手塩をかけたのだ。

 戦闘機人である彼女とフェイトでは……『格』が違う。

 

 それでもトーレは振り絞るように、フェイトに襲いかかる。

 

「うおおおおおおおお!」

 

 トーレの拳は真っ直ぐにフェイトの顔面に向かう。

 恐怖を振り切りがむしゃらに突き出された拳を前にフェイトは……

 

「ーーーー」

「なっ……!?」

 

 何もしなかった。

 だのにトーレの拳は伸びきった所で停止している。 ()()()()()()()()()()()()()で。

 

「なっ……何をしたぁ!」

 

 続いて二発目。

 

「ーーーー」

「バカな!?」

 

 これもまた伸びきった所で停止する。 もちろん顔面すれすれで。

 

「何がおこーー」

「ーーかわいそうに、こんなに怯えてちゃって……」

「!?」

 

 瞬間、トーレの目の前からフェイトは消えた。 そして背後にいるセッテの前でしゃがみながら彼女をあやすように話しかけていた。

 トーレの視認能力が追いつかない。

 

「あっ……あぁ……!」

 

 セッテは何が起こったのか分からず震えてしまう。 動くことを身体がしてくれない、思考回路が置いてけぼりをくらっている。

 

「貴様ぁ!」

 

 トーレは怯まずに攻撃する。 いや、攻撃しなければ今すぐにでも降伏してしまいそうになるから、そうなればスカリエッティを守れない。 己の存在理由を全うするためにもフェイトに立ち向かう。

 

「あなたもーー」

「うおおおお!」

「かわいそうにーーーーーー

ーーーーゴハァッ!?」

 

 気が付いたら、トーレは壁に打ち付けられていた。 瞬きをする暇すらなく、音も光も置き去りにしてフェイトがトーレを攻撃していた。

 残像も何も残らない程の速度をトーレが追えるはずもない。

 

『……マスター、今の見えましたか? ちな、私はまっっっったく確認できませんでした』

「オレもだ……辛うじて、辛うじてフェイトの髪の毛の動きで動きの予測を立てられるくらいだ……初動どころか終動すら見えなかった……!」

 

 あのゼストにすら動きを視認させなかったキリンですら、フェイトの動きの欠片しか追うことができなかった。

 圧倒的に、圧倒的に『迅い(はやい)』。

 

「うっ……うぅぅぅぅぅ……!」

 

 感情の起伏が薄いセッテが、内から出てくる恐怖を口に出してしまう。 言葉にすらならない恐怖が漏れる。

 しかしそれでも彼女はナンバーズ。 戦闘機人である。

 

「うわあああああ!!」

 

 腹の底から声を出し、フェイトに攻撃を仕掛ける。 本当は今すぐにでもその場でヘタリ込むくらいに震えているのに。

 

「ちょっとだけ……痛いよ」

「あああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーえ?」

 

 セッテは気が付いた。 自分が今から1秒もしない……

 

ーーガハッ!?」

 

 ……うちに地面に落とされるのを。

 

「(早ーーーーーー痛ーーーーーー!?ーーーーーー)」

 

 もはや意味が分からない。 自分は確かに手に持つ武器で攻撃をしようとしていたはずなのに。

 気が付いたら地面に仰向けで叩きつけられているのだ。 一体どんな方法で、どんな攻撃だったのかセッテには理解できない。

 

「(勝てないーーーーーー理解不能ーーーーーーロー ーーーー

 

 セッテ、ここで意識を手放す。 戦闘不能。

 

「怖かったね……」

 

 フェイトは気絶しているセッテの頭を優しく撫でる。 フェイトの慈愛に満ちた一撃はセッテへのダメージを少なくしながらも的確に意識を奪うことに成功していた。

 

 あとは。

 

「ぐぅうおおおおおおお!!」

 

 未だ戦意を失わないトーレ。

 

「私達が……ナンバーズである私達が……ドクターの目の前で敗北するなどあってはならぬぅ!!」

 

 自身のエネルギー、戦闘能力、持ちうる全ての力を解放しフェイトに吠える。

 

「あなたも……優しく撫でてあげる……」

「舐めるなぁ!!」

「来なさい……」

「ズゥァァァァァァアアアアアアアア!!」

 

 トーレ、決死の突撃。 防御を全て捨て、フェイトを倒すためにスピードとパワーに全ての力を注いだ一撃。 その速度は平常時のフェイトの速度を越すであろう勢いでフェイトに一直線に向かっていく。

 

「ーーーー」

「ダァァァァ!!」

 

 トーレの一撃がフェイトに当たる瞬間、発生する衝撃により噴煙が爆発するように発生する。 当たれば間違いなくノックアウト。 それどころか命すら簡単に奪えるトーレ渾身の一撃。

 

「ーーーー」

 

 しかし。 それでもしかし。

 

「何故だ……何故()()()()()!」

 

 トーレの突き出した右腕。 その突き出しているその先にいるのはフェイトではなくアジトの床。 トーレの一撃によりクレーターができ、通路一帯を半壊させるほどの一撃であった。

 それでもフェイトには届かない。 いや、『当たりにいくこと』ができない。

 

「そうか……そういうことか」

「なるほど……いやはや恐ろしい事だ」

 

 ここでようやく、キリンは気付いた。 そしていつのまにかキリンの隣に来ていたスカリエッティもまた気付いた。

 

「フェイトちゃんはあの戦闘機人の攻撃が当たる瞬間、しっかりと避けているんだ。 でもその後にすぐ元の位置に戻っている……だからあんな風に()()()()()()()ように錯覚するんだ!」

「おまけに髪の毛一つ揺らした跡すら残さない程の速度で行なっている……何とも恐ろしい現象だ。 当たると確信していた攻撃が目の前で届いていないだなんて悪夢のようじゃあないか」

『エゲツない……フェイト様は覚醒したら途轍もなくエゲツない方に……』

 

 二人の解説により、推測ではあるもののフェイトの動きがようやく理解可能になった。 それでもあまりにも速すぎるため、実際にどう動いていたのかは全く分からない。

 

 そしていつのまにかキリンの隣に来ていたスカリエッティだが、キリンはその事について何も言わない。

 何故ならもう勝敗は決しているからだ。

 

「あなたはきっと……しっかりと倒してあげた方がいいよね」

「ーーッ!!」

 

 何かを感じ取ったトーレは即座にフェイトから距離を離す。 離すといってもこの圧倒的な速度の差にどれほど距離を置いても意味はないのだが。

 

「『ライオットザンバー・カラミティ』」

 

 トーレは見た。 フェイトの両手に握られていた二本のライオットザンバーが一つに重なり、巨大な剣となったのを。 デカい、明らかに分かる重攻撃専用のフォームだと。

 そしてその美しくも吸い込まれそうな藍色に、空の果てのような久遠と海の底のような神秘を感じとり……思わず息を飲む。

 

「ぁーーーーーー

 

 そこまでは鮮明に覚えていた。 しかし、気が付いたらフェイトはその大きな巨大な(おおきな)大剣を振り抜きながら目の前にいたのだ。

 

 次の瞬間、足元が浮いた。

 もうこの時にはフェイトはトーレを斬り抜いて、トーレの背後にいた。

 

 その時キリンは見た。 トーレの正中線を通るように、真ん中を通る真っ直ぐの線を見た……瞬間、光が走る。

 

「グアアアアアアアアア!!!」

 

 藍色の光が斬撃となってトーレを斬っていた。 激しい魔力の奔流、迸る雷、トーレを中心に激しく天を貫く。

 光が収まる事でようやくトーレは光から解放され、ゆっくりと地面に伏していく。

 

「ーーーーこれで、終わり」

「あ…………ばけ…………バケモノ……め……ーー

 

 トーレ、戦闘不能。

 

 これで、アジト内に残るのはウーノのみ。 彼女は戦闘タイプではなく……いや、仮に戦闘タイプだったとしても勝ち目はないだろう。 今スバルから受けた傷を修復中のチンクを起こしたとしても勝てる見込みはない。

 

「クックックッ……まさか君ではなく管理局の魔導師に敗北するとはね」

「……もうお前に出せる手札はないのか?」

「あぁないとも。 あとはもうゆりかごの中にいるローリだけさ……クックックッ」

 

 さしもの無限の欲望でさえもこの状況では笑うしかない。 いや、本気で愉快だと思い笑っているのかもしれない。

 だがスカリエッティは本心で、この場で打つ手はないと告白する。

 

「私の計算では十分な勝算があったのだが……ことごとく打ち破られるとはね」

「おいおい、まだ終わってねーよ」

「……君の言う通りだ。 作戦の一つが破れただけでまだ私のーー」

 

「計画は終わってはいない」、そう続けようとするスカリエッティの口を。

 

「フンッ!!」

「ケグァッ!?」

 

 キリンが殴って止める。 綺麗に決まったキリンの拳は見事にスカリエッティを殴り飛ばす。 いくつもの壁を突き破りながら飛んでいく様はまさに「ホームラン!」と叫びたくなるくらいだ。

 

「ーーーー」

 

 スカリエッティは見事に意識を刈り取られた。

 

「お前をぶっ飛ばして終わりだ。 ()()()()だったな、ジェイル・スカリエッティ」

 

 時期に、ヴェロッサがウーノを捕縛するであろう。 ヴェロッサにも特注カートリッジを渡したため万が一抵抗されても制圧できる。

 

 つまり、ジェイル・スカリエッティのアジトというアウェーにて、『完全勝利』を収めた。

 

「フェイトちゃん」

 

 キリンはフェイトに右手の親指を立てて言う。

 

「めちゃくちゃカッコよかったぜ!」

 

 愛する者の勇姿を讃える。

 

「うん。 キリンもカッコよかったよ」

 

 お互いに、ここに立っていることを、ここで立ち向かったことを、ここで勝利したことを讃え合う。

 

「ありがとう、キリン……みんな」

 

 藍色に包まれ、淡い青色……『空の色』に輝くフェイトが見せてくれたのは、いつも通りの優しい笑顔であった。

 

 




ぱぱぱっと魔改造して、終わり!

次回からはゆりかご内部のヴァータちゃんとかなのはです。 頑張れ私!
今年はあと半年もないぞ!

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

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