63話
ゆりかごが『真ゆりかご』となるその時、ローリは自身が心を使い行う『最期の作業』に入っていた。
やることは簡単。 自分の心というデータをゴミ箱に投げるだけの簡単な動作。 ドラッグ&ドロップ、誰にでもできるマウス操作を行うだけ。
『…………』
迷いはない。 しいて、心の隅にある気掛かりがあるとすれば……
『…………スカリエッティ』
スカリエッティとナンバーズ。 自分の仲間達、そして友。 唯一の気掛かりはただそれだけ。 無事でいて欲しいと願う、望み薄なその願い。 しかしもはや……
『……さらばだ』
もはや……
そして今。
『ーーーー』
『真ゆりかご』が動き出す。
殻が開き始めた。 開くというよりは、変形に近い。 殻は折りたたまれながら、その形を形成しなおしながら徐々にその姿を見せていく。
最初に現れたのは『船首』だった。 その次に砲塔、そびえ立つような外観はまさに……『戦艦』。 だがゆりかごの時とは違う。 圧倒的に違う。
ゆりかごは人造である。 人の手によって作られてる、つまりその造形や機能美は人に委ねられて作られた。
だが、
外観は筋肉や血管を思わせるような赤と青のグラデーション。 末端まで生物と思わせるしなやかなフォルム。 主砲には悪魔を思わせる顔がついており、副砲は骨を連想させるゴツゴツとした形。 そして何よりも異質なのが戦艦の後方にそびえ立つ玉座ににた物体の上にいる巨大なメタルローリ。 巨大といっても『壊物』よりも多少は小さいが、それでも大きいサイズ。
全長何メートルあるのか、元のゆりかごより長いのか短いのか。 高さや内部はどうなっているのか……そんな疑問を吹き飛ばす程の悪魔的デザイン。 混沌と狂気の象徴。
これが『真ゆりかご』。 悪魔や邪神を連想させる、生き物にも似た戦艦。 これが全てを破壊する『闇』。
だが、こんなもので怯むことはない。 もう覚悟はできたのだから。
合図はもちろんこの人から。
「『
『おー!!』
はやての号令から始まる。
「ウィングロード!」
「エアライナー!」
戦いの始まりはゆりかごを囲むように展開された空の道。 飛行魔法を使用できない者のための足場。 真ゆりかごの攻撃によって破壊される可能性はあるが、足場がなければ陽動はできない。
スバル、ギンガ、ノーヴェの3人で絶えず道を維持し続ける。
「行くぞ!」
「おう!」
飛行組も広がりながらゆりかごの周囲に飛び始める。 縦移動もフルに活用できる彼女らがゆりかごを翻弄することで飛行できない組の補助にもなる。
そして今回の作戦の要。 砲撃手達。
「よっしゃ、行くでみんな!」
「うん!」
キリン、なのは、フェイト、はやて。 この4人による最大火力による砲撃が必要不可欠なのだ。 特に、キリンは。
「……ジェイル・スカリエッティ、貴様にはこの作戦の成功率……正確にはどれくらいだと思っている?」
ヘリの中に残っているのは心悟、スカリエッティ、ヴィヴィオ、操縦士のヴァイス、そして眠っているメガーヌ。 心悟とスカリエッティは遠く離れたヘリの中から様子を見守っていた。
「そうだねぇ……さっきも話したがあのゆりかごを止めるにはただ破壊すればいいわけじゃあない。 ローリをあのゆりかごから切り離さないといけない。『球体』以下の防御力とはいえ、それでも先程までのゆりかごとは訳が違う」
「……キリンとフェイトが壊した時のようにはいかないというわけか」
なのは達救出のためにゆりかごの外装を破壊した時、キリンは『
だが、スカリエッティにはそれらを足しても今のゆりかごを破壊することが可能かもしれないがそこから先、ローリを救出するのは困難だと考えていた。
アイカの存在が明らかになってない時までは。
「フノクゼ・アイカ……あの子のおかげで作戦の成功率はグンと上がったよ」
「あれほどの魔法補助……僕も知らないことだったよ」
「おや、それは意外だ」
「僕にだって知らないものくらいある……よもや子どもが生まれているとは思わなんだ」
『
「よもや戦闘能力の底上げだけでなく魔力による攻撃魔法の大幅強化……あんなものを目の前で行われるとはね。 『コア』が破壊されるのも頷ける」
アイカによる魔力支援ならば、一人一人の最大高火力がだせるならば、ゆりかごを破壊することは難しくなくなる。
そして肝心のローリの救出。 これを行うのはキリンである。
キリンも3人と同じように砲撃を行い、その途中で砲撃を中断し全速力でゆりかごに突撃。 内部を突き進みながらローリの本体であるマイクロチップを探す。 スカリエッティからローリのマイクロチップが出す独特の電波を察知できるプログラムをインストールされたので、探すこと自体は容易になった。 あとは再生が行われるまでの数秒の間が勝負となった。
「あとは……砲撃準備が整うまでの1分……そこをなんとかできれば……」
「……そこまでやって、成功する確率はどれくらいだ?」
「…………」
心悟の問いにスカリエッティの言葉が止まる。 数秒の後、短く簡潔に答えた。
「4%だ」
「レイジングハート!」
『OK、スターライトブレイカーの準備を行います』
なのはは収束砲を。
「バルディッシュ」
『Yes sir』
フェイトは再び『藍色』の姿となりザンバーフォームになる。
「うちも久しぶりに……気合い入れるよ!」
はやてはラグナロクの準備。
これはかつて闇の書の闇に対して行われた同時砲撃、『トリプルブレイカー』である。 闇の書の闇の最後の防壁を破壊する、若干オーバーキル感のあったあの特大攻撃。
それに加えアイカの魔力支援。
「フレー! フレー! でごぜーます!」
今の彼女らなら戦艦どころか本当に星すら破壊できるかもしれない程のエネルギーが充填されていく。 推測するならば……戦艦砲の役3倍?
さらにそこに……
「はあああああぁぁぁぁぁぁ…………!」
『いい調子ですよマスター、そのまま1分じっくりと高めていきましょう』
キリンである。 魔力無限にして1000万オーバーも叩き出せるキリンの存在により、もはやゆりかごよりもこの5人の周囲にいる方が危険なくらい魔力の膨張が激しい。
しかしキリンは一気にはあげない。 少しずつ身体に慣らしながら高めている。 いつものように激しく解放する事ができない理由があるからだ。
作戦の最重要事項、『ローリのゆりかごとのアクセス遮断』を行うためにも、破壊の後にローリ本体を見つけ奪取する必要がある。 それを瞬時に、インターバル無しに行えるのはキリンしかいない。 砲撃の途中でゆりかごに突撃、破壊しながらローリを見つけ一気に奪取。 フェイトでは肉体に負担がかかり瞬時に行えない、なのはやはやて、アイカはもちろん行えない。 周りにいるメンバーはそもそも砲撃の衝撃に耐えられない。
つまり化け物レベルの魔力を放出し自分の身を守りながら超高速でインターバル無しに突撃できるのはキリンしかいないのである。
だからキリンはじっくりと魔力を高めている。 要する時間は1分、その1分にみんなが全力を注いでいる。
現在キリンの魔力値は765万……身体に傷が少しでき始めたが、こんなものでは足りない。 一瞬の勝負に全てをかけるため、まだ上昇させていく。
その間も、皆が全力で陽動にあたる。
「うおおおおお!」
全力で加速しゆりかごからの砲撃をすれすれで躱すスバル。 危なっかしい所もあるが何とか避けきれている。
「全力で回避に徹しろ! 1分間それだけに全力をそそげ!」
翔次は高速移動出来ない組みを守るように獄砕鳥を振るう。 さしもの獄砕鳥といえども、高密度なゆりかごの砲撃を斬るには全力でいかないといけない。
「くっ……幻術で陽動しても全部砲撃されるから意味がないわね……!」
クアットロの『
「この威力……「白天王」達を呼んでも足止めにもならない……!」
ルーテシアの召喚獣達も今呼んだところでただのデカい的。 出てきたところに即砲撃されやられてしまうだろう。
現状、まだ誰一人としてやられていない。 ゆりかごからの変則的な砲撃も直線的な巨大砲撃も、今のところは誰も被弾していない。
『
「(くそっ……こんなのをまだ続けなきゃいけないってのか……!?)」
「(今はまだいいが……後半一気に撃墜させられてしまう!)」
ヴィータ達ヴォルケン達は知っている。 消耗戦になった時、もっとも不利なのはスタミナがなくなった軍勢だと。
圧倒的時間の密度、その中で誰もが思った。 「こんなにも1秒が遅く感じるなんて……」と。
しかしそれでも続けるしかない。 ティアナやオットーらの支援射撃やギンガのウイングロードによる道の確保。 翔次の獄砕鳥。 これらで何とか……
何とか無事20秒が経過した。
すでになのは達の準備は終わっている。
「ハァァァァァァァァァ……!」
あとはキリンだけ。 現在出力900万。 ゆっくりならしたおかげで肉体にかかる負荷は最小限。
こんなものでは瞬間最大出力は大したものにならない。 もっと、焦ることなくじっくりと高めていかないといけない。
それは100も承知。 しかし。
「(あれは何だ……?)」
ギリギリの回避の中、何人かが『それ』に気付いた。
真ゆりかごの上部に鎮座している、『棺桶のような部位』。 ゆりかごの剥き出しになっている不気味な部位だったりモニュメントだったりは全て攻撃を行うためについているとこの攻防の中で気付いた。
だからこそ誰かに問いたい。 「あれは果たして何の為に存在しているのか?」と。
そして勘のいい者たちの答えは共通して決まっている。
ーーーー
そう思考しておおよそ……5秒くらい?
「ーーしまっ
誰かが口を開く瞬間、ゆりかごの主砲から発射された大型の砲撃。 その射線にいるのはスバル達でもなくクアットロ達でもなくルーテシア達でもなく……
「なのはさん!!」
なのは達であった。
バレたのである。 ゆりかごの探知機能から誤魔化す為にウーノやクアットロの認識撹乱、スバル達の空中の道による妨害、シグナムを始めとするA級魔導師の陽動。
それを針の穴を通すように、僅かな抜け道からゆりかごは後方で魔力をためているキリン達に気付いた。
そして、今自身の周りにいる彼女達よりも遥かに危険であると判断して砲撃を放った。
「(今卍解してあの砲撃を斬ったとしてもーーいや間に合わない!)」
翔次の卍解では間に合わない。 というよりも、誰も間に合わないという方が正しい。 予め予測して準備してあるならいざ知らず、全員が全員自分の事で手一杯なこの状況。
ゆりかごの方が上手であっただけの話である。
「ッ!!」
そしてこの砲撃に対してなのは達のブレイカーを放ってはいけないのである。 これを跳ね返す為に放った場合、ゆりかごの中にいるローリがこれを学習しよりゆりかごを強化してしまう。
今のままで十分次元世界全てを破壊する事ができるというのに、さらに強くなってしまってはいよいよ道がなくなる。
これはうてない、されとて防ぐ手立ては彼女達にはない。
「ーースフィアプロテクション!」
着弾する直前。 突如、キリン達を覆うように球状のバリアが発生する。
「こ、このバリアは……!?」
困惑する一同、そしてさらに驚かされる。
「ゆ……ゆりかごの砲撃が……」
「弾かれた!?」
「どっか行っちまったでごぜーますよー!?」
砲撃はバリアに触れるとその軌道を変え、空に向かっていく。 弾くというよりは『
「ふぅ……よかったぁ間に合って」
「俺も手を貸してやったんだ。 間に合って当然だ」
「あ、何だよー僕のプロテクションがメインの基盤だったんだぞ」
バリアが消え、後方から現れたのは……ミッドチルダの誇る二人の天才少年達。
「ユーノ君!?」
「く、クロノ!?」
無限書庫の司書長にしてなのはの魔法の師匠、ユーノ・スクライア。
フェイトの兄にして天才執務官、クロノ・ハラオウン。
疑う必要もない、キリン達の仲間であり友の姿であった。
怒涛の連続投稿(水増し)
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。