オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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ただいま


68話 I'm name. Cry name.

 68話

 

 

 

 

 決着はついた。 この空の下に集いし戦士達全ての命を守り、この空を落とさんとするローリを助けた輝凛。

 

「……」

 

 しかして、その領域に踏み込んでいられる時間に限界がきた。

 

「……──」

 

 輝凛はその姿を普段のキリンに戻し、ゆっくりと頭から地面に落下し始める。

 

「キリン!」

 

 フェイトが駆け出す。 フェイトだけでなく、皆の目には特に力を入れている様子には見えない。 ダランと脱力しながらおちていく。

 

「みんな、私行ってくるね」

「あ、フェイトちゃん……」

 

 まだフェイトの治療は済んでいない。 裂傷、火傷、どちらも残ったまま。 しかしフェイトは笑いながらヘリの屋根から飛び降りる。

 

「……いってらっしゃい」

 

 その背を見て、親友であるなのはは静かに送り出した。 誰もそれを咎めるものはいない。

 

 フェイトにはもう魔力は殆ど残っていない。 だが一人分の人間を抱えて地面に着地できるくらいの魔力は残っている。

 落ちていくキリンに急接近し、飛行魔法を解除して落ちながらキリンを抱きとめる。 頭を優しく腕で包み、自身の胸元へ。

 

「キリン、お疲れ様」

 

 優しく労う。 その言葉を聞いてようやくキリンは自分がフェイトに抱きしめられているのだと気付いたのか、ボンヤリとしながらフェイトと話し始める。

 

「……あれ、フェイトちゃん……」

「うん、私だよキリン」

「そっか……オレ……ローリのチップ渡して……それで元に戻ったんだっけ……」

「うん、そうだよ。 お疲れ様、キリン」

「うん……すごい疲れた……」

 

 地面まであと数分、その間だけ二人だけの時間。 それを楽しむようにフェイトはキリンに話し続ける。

 

「ありがとう、みんなを守ってくれて」

「……それならオレだってありがとうだ。 みんながオレを信じてくれたから、フェイトちゃんがオレと一緒にいてくれたから、そして拳君がいてくれたからオレはあの領域に入れた」

「それでも、最後の最後にキリンがなんとかしてくれた。 それだけが何よりも嬉しい」

「そっか……そう言ってもらえるのは嬉しいな」

 

 キリンは目を閉じ、眠るようにフェイトに話す。

 

「フェイトちゃん……オレ、君ともっと話しがしたいんだ」

「うん、私も」

「オレ……多分いつも誰かの幸せばっか心配して……だからオレ自身の幸せなんて考えたことがなかった……」

「……うん、私も」

「だから……だからさ、オレ、フェイトちゃんにもっと色んなものを見せてあげたい。 知らない所にも行って……そして君を幸せにしたいんだ」

 

 こんな時にしなくてもいい話。 しかしこんな時だからこそ言いたい。 戦いは終わったが、これから先も次々と新たな戦いが待ち受けている。 そのしばしの間。 そのいとまにある優しく穏やかな平穏だからこそ、眠るように、宣言する。

 

「そうすれば……いつだって幸せなフェイトちゃんに会いに行けるだろ……? そうすればオレはきっといつだって幸せなんだ……──」

「……!!」

 

 幸せを、自分にとっての幸せを見つけたのだ。 それは誰でもないフェイト・T・ハラオウン。 その幸せに『会いに行く』こと、それが村咲 輝凛にとっての幸せなのだ。

 その何物にも変えがたい幸せを、幸せにしたい人に告げて眠りにつく。 その暖かな体温に包まれて。

 

「……おやすみ、キリン。 起きたらたくさんの事をしよう」

 

 フェイトは最後の魔力を使って空中で制御を取り、緩やかに着地する。 大きな木々が群がるこの森の中で、陽だまりに照らされながらキリンの頭を自分の膝に乗せる。

 

「約束だよ……キリン」

 

 陽だまりの中で、静かな幕引きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わった戦士達は休息に入った。

 ナンバーズ達を含む最後の戦闘に参加したメンバーは全員病院に入院した。 もちろん管理局の特別病院である。

 ほぼほぼ全員が一ヶ月の入院をし、特に負担の大きかったなのはや翔次、入院中にも関わらず病院を抜け出してきた心悟は一ヶ月以上の入院となった。

 

 その後の処遇も決まりつつあった。 だがまずはこの戦いでの管理局側の変化について記す。

 最高評議会のメンバーはドゥーエが全て破壊したため機能が停止。 地上本部はレジアス中将が生き残ったため引き続き地上の防衛を任されることとなる。 もちろん裏でスカリエッティと癒着していた事実があるものの、情状酌量の余地ありとの判断を受けた。

 レジアス本人は依然変わらぬ様子ではあるが、以前と違い空の部隊との連携や交流を増やす意向を示している。 恐らくはこれまでの地上の空の間にあった確執を埋めてくれることであろう。

 

 ジェイル・スカリエッティ及び戦闘機人並びに共犯者達に関して。

 ジェイル・スカリエッティ並びに数人の戦闘機人達は第9無人世界の「グリューエン」軌道拘置所第1監房に収監されることになった。 しかし罪を認め事件の捜査に協力し、更生プログラムを受ける者も複数人いた。

 更生プログラムを受けるものはチンク、セイン、オットー、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ、ディード。 それを拒否したのはウーノ、トーレ、クアットロ、セッテ。

 なおジェイル・スカリエッティは「敗者には敗者なりの通すべき意地がある」と言いつつも、付け足すように「だがそれなりの感謝もある、だからそれなりの姿勢は示そう」とも言っていた。

 

 ルーテシアもまた更生プログラムを受けることを了承し、それが終わり次第、管理局の保護下ではあるものの母親であるメガーヌと共に静かな星で生活できることが確約されている。

 ゼストはしばらくは拘束される身となるが、レジアスの計らいによってその後は管理局の影から支援を行うことになるであろう。 形はどうあれ、再び彼らは共に同じ目標の元で戦える日がくる。

 アギトはまだ決定はしてないものの、恐らくは八神一家について行くことになるであろう。

 

 そしてローリはあの後スカリエッティの手によってデリートゾーンの中で削除されないでいたローリの魂のデータを復旧させ、無事ローリは元に戻った。 といっても監房の中では小さなモニターに姿を映し出す程度の事しかできないものの、スカリエッティやナンバーズ達と会話できる現状で満足とのこと。

 

 そしてなのは達は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜にしても久しぶりだなぁ二人に会うのは」

「あ、そっか。 キリン君はこの間の通信には参加してないもんね」

「まぁ私たちはあんたの訓練風景とか動画で送られてきてるからどんなもんかは知ってるけどね」

「うんうん、いつも通りで安心したよ」

「そうなの? 言ってくれればアリサちゃんとすすがちゃんのためにバッチしおめかししたのに……」

「すんな。 いやしてもいいけど」

 

 ここは管理局の特別病院。 その屋上に許可をもらってたむろしている男女達。 なのは、フェイト、はやて、キリン、心悟、翔次、ギンガ、ティアナ、アイカ、そして今日お見舞いに来てくれたアリサとすずか。

 なおアリサだけはアルコールを摂取している。

 

「なぁアリサちゃん、何で病院でお酒飲んでるん? いやここでお喋りしていいし飲み食いしてもいいって許可は私が取ったけども」

「んー? ほら、なのは達がでかい仕事を片付けてめでたいって話じゃない。 でもみんな入院してて酒飲めないっていうから私がみんなの代わりに飲んであげてるのよ。 感謝しなさい」

「……あれ? ちゃんアリサってもう二十歳?」

「この間誕生日で二十歳になったばかりよ。 ってかみんなももう二十歳になるじゃない」

「……確かに! ここ最近忙しすぎてそんなの考えてる余裕なかったわ〜」

「僕は一応前世的には二十歳は超えてたけどね。 お酒は嗜む程度だったよ」

「そう考えるとキリンと木村だけか、酒を飲んだことがあるのは。 ボクは当時中学生だったし」

「あーまぁオレはあんまり酒ぐびぐび飲むタイプじゃないからなぁ。 ノンノとかはガブガブ飲んでたけど、あいつらは英語圏だからなぁ」

 

 ただの他愛のない話。 しかしそれは望んでいた平穏な時間。 行く年ぶりかの再開に話のネタは尽きることはない。

 

 が、ここに少し居心地の悪そうにしているのが一人。

 

「……ねぇ翔次、私ちょっと場違いじゃない?」

「む、そうか?」

 

 ティアナである。 最初はなのは達と話をすると聞いて付いてきたのに何故かそのなのはの旧知の仲である二人が来たので圧倒的アウェー感を今ヒシヒシと感じているのだ。

 なおギンガは心悟がいればそれでいいので唯我独尊である。 強い。

 

「ギンガを少しは見習ったらどうだ? 見ろ、やつのあの姿を」

 

 翔次の指差す先には、心悟の後ろから抱きついて顔を近づけようとしてそれを拒否られて手で顔を掴まれているギンガの姿があった。 心悟は心底嫌そうな顔をしているが、その様子が面白いのか誰も手を貸そうとはしない。 むしろ面白がっている。

 

「普段弄られない奴が弄られる対象になるくらいの無双っぷりを見習え」

「いや、流石にアレはちょっと無理」

「ボクもそう思う」

 

 何やかんや場の空気に慣れてきていた。

 

 そう、こんなありふれた場。

 

「そういえばキリン。 あんたフェイトとはどこまでヤッたの?」

「ブゥゥゥー!」

「あ、アリサ!?」

「キスしたんだからもっと進んだんじゃないの?」

「もーアリサちゃん、アイカおるんやからそういう話は控えたってぇなぁ」

「はやてお姉さん? どうしてアイカの耳塞ぐのでごぜーますか?」

「えーいいじゃない、気になるし」

「まぁまぁアリサちゃん。 みんな忙しかったしそれどころじゃなかったんじゃないかな?」

 

 下世話な話もしたり。

 

「そういえばその子、何? はやてったら男っ気ないからって攫っちゃダメじゃない」

「ちゃうよ〜。 この子は祝歌さんのお子さんや。 うちで預かることになってん」

「ふーん……アイカだったっけ? よろしくね」

「よろしくねアイカちゃん」

「アイカは男でごぜーます!?」

 

 初めましてな話もしたり。

 

「あ、ママまだお話してたの?」

「ヴィヴィオ? 先に寝てていいのに」

「なんか寝れない〜」

「よしよし、ならママの膝に座ってようか」

「あ、なのはズルい! 私もヴィヴィオ乗せたい!」

「私も私も!」

「フェイトちゃんはともかくお酒飲んでるアリサちゃんはダメ!」

「けち〜」

「……お姉さん達がなのはママとフェイトママのお友達?」

「うん、アリサちゃんとすずかちゃんだよ」

「よろしくね」

「よろしく〜」

 

 娘の紹介をしたり。

 

 なんて事の無い他愛のない時間。 幼馴染達と、新しい仲間と、ただただそこにいて話すだけの時間。

 しかし、だからこそなのはは感じてしまう。

 ここに、隣に、彼がいたらもっと良かった……と。

 

 そう考えてしまって、心悟は立ち上がってしまう。

 

「……さて、僕はまだまだ仕事があるから先に引き上げるよ」

「あらシンゴ、あんたも怪我人なのに大変ね」

「これから僕もそうだし、みんな忙しいだろうからねぇ。 ……暇なのはせいぜい朱澤弟とキリンくらいだろうねぇ」

「ボクは違う、これからさらに修行しないといけない。 そんなに暇ではない」

「あ、おいまてい。 まるでオレが暇人みたいな言い方はNG」

「でも実際暇でしょ?」

「(´・ω・`)」

 

 暇人であるキリンを置いて、心悟は屋上から去ろうとする。

 その後を追うようにギンガも立ち上がる。

 

「シンゴさんが行くなら私も」

「君は別にいてもいいんだぞ?」

「いえいえ、シンゴ行くところに私あり!」

「堂々としたストーカー宣言はやめたまえ」

「うふふ♡」

 

 奇妙な関係の2人を見て、誰もが「果たしてあの2人はどうなってしまうのか」と疑問に思って仕方ない。 が、別に悪い話ではないので放って見守ることにした。

 

 そしてその後に続くように翔次も立ち上がる。

 

「ボクもそろそろ休むことにする。 早い所退院しないといけないからな」

「なによ翔次、あんたとはあんまり話したことないんだからもっといなさいよ」

「まぁまぁ……でも確かに色々お話したいよね」

「……別に、これからはいつでも会えるんだからいつでもいいだろ」

「おぉ……翔次君が、隠キャ代表の翔次君からこんな陽キャみたいな台詞を言えるようになるなんて……」

「キリン、うるさい」

「ふふっ、そうだね……」

「やめろフェイト・テスタロッサ。 お前が笑うとシャレに見えない」

 

 翔次は頭を掻きながら小さく息をついてティアナはどうするか尋ねる。

 

「ティアナ、お前もそろそろ休んだらどうだ?」

「そう……ね。 私もそろそろ休みますね皆さん」

「うん、お疲れ様ティアナ」

 

 翔次とティアナも屋上から退散した。

 屋上の階段から下りる最中、ティアナが翔次にある事を聞く。

 

「ねぇ、あんたもなのはさん達と付き合い古いんでしょ? だったらもっと長くいればいいのに」

「……」

 

 翔次は少しの沈黙の後に答える。

 

「ボクはともかく、キリンや木村のやつは本当に友達だからな。 ……だからこそ……というか、先に木村が退散したんだ」

「なに? どういうこと?」

「バニングスや月村、昔からのメンツが揃えば揃うほど……あいつがいない事だけがよく分かってしまう」

 

 翔次は一瞬見せていたなのはの表情を思い出す。 あの表情は間違いなく彼を思ってた。

 

「拳がいない事だけが、妙に高町に孤独感を与えている。 だから木村は先に降りたんだ」

「……」

「ボクも……似たような経験がある。 ボクはそれをもう気にする事はないが……高町はまだ、な」

「翔次……」

 

 翔次にも、いなくなった大切な兄がいた。 兄を失ってから兄の言葉を受けて前を向いて生きてきたが、時に沢山の人に囲まれている時に限っていなくなった兄の事ばかり思い出して、その姿を何故か探してしまう。 奇妙な喪失感に襲われる時があった。

 

 それは同じく兄を亡くしているティアナも同じであった。 だからティアナは翔次の行動の意味が分かる。

 

「……あんた、変な所で気遣いできるのね」

 

 不器用な優しさも、ティアナには分かる。

 

「……ふん」

 

 それだけ言うと翔次は何も言わなくなる。

 

「……ん?」

 

 と、思われていた。

 

「おい、木村? そんなところで何を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ私らもそろそろ退散しますか」

 

 宴もたけなわ。 翔次達もいなくなったことで今日のところはお開きになるようだ。

 

「あれ? アリサちゃん達ってどこで泊まるの? 病院?」

「いや、普通にはやてがホテル手配してくれてそこに泊まるわ。 クロノさん達が送ってくれるって」

「あぁそうなの。 じゃあ明日の朝帰るんだ」

「そういうことだね。 多分そろそろ来てくれるんじゃないかな?」

 

 そうすすがが言った時、ちょうどクロノとユーノがやってきた。

 

 しかし表情は何故か、何かあった様子。

 

「あ、クロノ君にユーノ君……?」

「2人ともどしたん? 何かあったの?」

「あぁいや……」

「何かあったというか、何もなさそうだったというか……?」

 

 扉を閉め、2人は先ほど階段の踊り場であった事を話す。

 

「さっきそこでシンゴさんとショージ達に出くわしたんだけど……」

「シンゴは珍しく『涙目』になってたし、ショージは普通に泣いてたし……だが一緒にいたギンガとティアナは不思議そうな顔をしていたからよく分からないんだ」

「……なんじゃそりゃ?」

 

 どういう状況か誰にも分からない。 全員の頭にハテナマークが3つくらい浮かぶ。

 

 そんな時、閉めたはずの扉が()()

 

「え……?」

 

 ドアノブを回し、ゆっくりと開かれた扉。

()()()()()()()()()()()()

 

「ちゃんと閉めてなかったのか……?」

「…………」

 

 誰の目にも何も映らない。

 

「……キリン?」

 

 しかし、キリンは驚いたかのように目だけを大きく見開き、そこを見つめている。

 

「どしたんキリン君?」

「誰かいやがるでごぜーますか?」

「…………」

「キリン?」

 

 キリンは静かに立ち上がる。 そしてゆっくりと足を運び、ゆっくりと右腕を上げる。

 そして、振る。

 

「……ニッ!」

 

 パァン……と、()()()()()()()()()()()()が響く。 まるでハイタッチのように。

 

「え?」

 

 その音に誰もが驚く。 そこに誰かいるのか? そう考えて……

 

 ────こんな事は俺も予想外なのだが……

 

「……え……」

 

 その『声』に、なのはが小さく言葉を漏らす。

 

 ────どうやら俺は認められたようだ」

 

 その声の主の輪郭が、少しずつ光によって描かれていく。 その声の主はゆっくりと歩いている、なのはに向かって。

 

 ──この世界に存在する一人の登場人物として……だから俺はもう『管理会』ではないが……」

「ぅそ……うそ……!」

「ママ? ママ……?」

 

 両手で口を覆い、涙を流す。 その温かな涙にヴィヴィオが触れる。 温かい、なのはの心のような雫。

 

 そしてなのははゆっくりと、だけれどもフラフラと立ち上がる。

 

「────だからこそ、ようやく約束を果たせる」

 

 もう声の主は、この世界での姿を取り戻していた。

 

()()()()()()()()

「拳君……ッ!!」

 

 ずっと、会いたくて焦がれていた。

 

 そして何度も助けてもらった。

 

 だからそれが最後だと覚悟していた。

 

 もう二度と、こんな距離で会えるなんて露ほどにも思っていなかったのだから。

 

「あぁ……ああああああ……!!」

「なのは……」

 

 拳に倒れるように抱きつく。 もうなのはは立っていられなかった。 拳の胸の中で泣く事しかできなかった。

 拳はなのはを優しく抱きとめ、自身も腰を落とす。

 

「うぅぁ……あぁぁぁああああ……! 拳君……拳君だぁ……!」

「あぁ、俺はここにいる」

 

 拳の胸元から聞こえる彼の心臓の音。 ゆっくりと伝わる体温。 真条 拳という生きている人間の温度を感じる度に、なのはの涙が止まらなくなる。

 

「ママ……?」

 

 それを見ていたヴィヴィオにはよく分からない光景であった。 愛する母親が、知らない男に涙を流し抱きしめている。 ヴィヴィオには拳という人物が誰かはよく知らない。

 だが、なのはから溢れた温かい涙の雫から、ヴィヴィオは言葉にできない何かを感じとる。

 

「…………」

 

 そのヴィヴィオを見て、拳は手でこちらにくるようにジェスチャーする。 それを見たヴィヴィオは少しだけ何かを考えて、なのはの隣で、二人に包まれるように身体を預ける。

 

 なのはと拳の体温に包まれたヴィヴィオは、不思議な幸福感を味わっている。 こんなにも胸に温かい熱が伝わってくるのは初めてのことだった。

 

「……ただいま」

 

 もう一度、噛みしめるように言う。

 その姿を映し出す月明かりに照らされた3人の姿は、まるで家族のようで……

 

 今この世界でなによりもの祝福を受けていた。

 




私の名前を呼んでくれた。
あなたの名前を呼んでいいかな。

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。
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