多分6話くらいでーす
だからあと6ヶ月でーす(白目)
69話
──私は誰だ?
そこは暗い深海の中にいるような浮遊感と孤独感。 光も闇も何もない無の空間。
そこに意識だけがあった。
──いや、もはや私などどうでもいい。
自分の輪郭も何も描くことができない無の世界。
──私は初めからこうなっていれば良かったのだ。
その中で一人、懺悔にも似た告白が行われていた。
──妻が死んだあの時、娘を否定してしまったあの瞬間。 私はこうして死ぬべきであった。 だのに妄執に取り憑かれ酷く遠回りをしてしまった。 もっと早くに死んでおくべきだったのだ。
男の後悔の念は止まらない。
──しかし、まぁ……
だがここで、感謝の言葉が生まれる。
──あいつらといるのは悪くはなかった。
思い浮かぶのは、長い時を共に過ごした同士とその家族達の顔。
──それだけだったが……まぁ、この私が最後に味わう平穏としては……十分だったがな。
たた感謝をする。 『ただそれだけ』であった。
ふと、自身の身体から何かがつたって落ちていく。 落ちた何かはこの無の空間に波紋を起こす。
──これはなんだ……?
それは雫であった。 しかしこの男が流した雫ではない。 もっと上の方から流れ落ちてきた雫だ。
その雫に触れる。 何故か暖かさを感じた。
──あいつら……?
何故か、『彼女達』の顔が浮かび思わず上を見上げる。 雫が落ちてくる空間から小さな光が生まれ始めていた。 その光は雫と共に男の目の前に落ちてくる。
──この光は……あいつら……なのか?
その光に触れるかどうか迷ってしまう。 触れてしまいたい、しかしそれをしてしまうことは失った家族に見せる顔がなくなってしまう。
一瞬の躊躇。
その時であった。
──なっ!?
背中を押される。 二つの小さな力に押し出される。 男は──ローリは光の中に。
「ッ!!」
視界が光に包まれるその一瞬、振り返りローリが見たものは……
「アレックス!」
彼の妻と。
「──『サクラ』!!」
いつか子どもが生まれた時に名付けようと妻と一緒に考えた名前。 『サクラ』。 その名前をあげようと決めていた……
彼らの娘であった。
『……む……』
「……あ」
気が付くとローリは自分という意識データがはっきりと存在していることに気付いた。 そして今自分が入っている機械のカメラとマイクと同期して周囲の状況を確認する。
「ローリ!」
「ローリさん!」
『セッテ……クアットロ……それにお前たち』
ナンバーズ全員が、彼を囲むように居た。 居てくれていた。
当然彼の同士であり友でもあるこの男も。
「おはようローリ、気分はどうだい?」
『スカリエッティ……』
「ギリギリだったよ。 君のデリートゾーンから魂のデータを吸い上げるのは。 最後の最後でデリートに追いつかれると思っていたが……奇跡か何かが起こったのさ。 君の魂のデータは消えることなくこうして戻ってきたということさ」
『……ふん、気分はどうだ。 だと? このような窮屈な入れ物に入れられて些か不満だがね』
「ふふっ、そう言えるということはいつもの君ということだ」
そこにいたのは、彼の家族であった。
「……」
そしてもう一人。
『……村咲 輝凛』
「……別に、お前を助けたかったわけじゃあない」
ローリを助けると決め、そして無事助け上げたキリン。 ローリの本体であるマイクロチップを取り戻した実行人として、キチンと見届けようと同席していたのだ。
ローリの無事を確認し終えたからか、キリンは去ろうとする。
「ただまぁ……今度からはちゃんと
『……貴様に言われんでも、分かっている』
「ふん……」
未だ確執はあるものの、かつては同じ世界に生きていた者同士。 奇妙な因縁が繋がれ始めていた。
これがローリが無事生き返った顛末である。
そしてその後の彼はカメラとマイク、自分の姿を映すモニターだけが付いている小型の機械に入れられ、スカリエッティ達と同じ収容施設に。
特別の好意なのか、それとも別々に分ける意味も大してないからか、彼らと同じ独房に入れられていた。
『……やはり、この女と同じ部屋に居ないといけないのは些か苦痛ではあるな』
「……あらぁ? ローリさんってばこんなせまぁい空間で何を言っちゃってるのかしらぁ? 殺されたいのぉ〜?」
「オイお前達、下らん喧嘩はやめろ」
「そうよ全く……まぁ確かに狭いってのは同意だけどね」
「仕方がないでしょう……我々は敗北した身。 こうして一緒の空間にいるだけマシというものです」
「ローリ……クアットロ……喧嘩はダメ」
「ちっ」
『ふん』
ここに収容されてから数週間。 やはりこの環境には慣れない様子。
しかし楽しそうなのがここに一名。
「ふふふっ、相変わらず仲が良いねぇ二人は」
『良くない!』
「ほら、息だってピッタリ」
『ぐぬぬ』
ジェイル・スカリエッティはあいも変わらず娘達の様子を見て笑っている。 ウーノ、ドゥーエ、トーレ、クアットロ、セッテ、スカリエッティ、そしてローリ。 さしずめスカリエッティ一家とでもいうべきか。
その彼らの元にやってくる二人組。
「……おやおや、君がくることは分かっていたが彼までくるとはね」
「言ったはずよ、もう一人先生を呼ぶって」
スカリエッティの視線が檻の外側へ向く。 そこにいたのは彼らの事を一任されているギンガ。 そして……
「ご機嫌はいかがかな? まぁ窮屈そうなのは心を見なくても分かるけどねぇ」
心悟であった。
監房からスカリエッティとローリだけを出し、聴取を行う部屋にて色々な事をスカリエッティから聞き出す。 そのためにギンガはやってきたし、心悟を連れてきた。
「さて、ジェイル・スカリエッティ、そしてローリ。 心悟さんがいるからはぐらかしたり嘘を言うのは意味ないわ。 少しは協力してくれると嬉しいわ」
「ふむ、それはそれは怖いなぁ。 隠し事ができないじゃあないか」
『今の私にも通じる能力とはな……さしずめそこに意思や魂があれば可能といったところか』
「まぁまぁ落ち着きたまえ。 聴取を行なってそれを記録するのはギンガの役割だ。 僕はただの『
「ほう?」
心悟の言葉に目を細め何かを察知するスカリエッティ、そしてローリ。ギンガは隣で少しだけ目を逸らし汗をかいているが、それは気のせいだろう。 気のせいということにした。
「じゃ、じゃあ早速始めていくわ」
「お手柔らかに頼むよ」
「それじゃあこれはこの前も少し聞いた事だけど、貴方達が今回の事件を起こした理由を──」
そこから小一時間ほどクエッションアンサーが行われた。 素直に答える場面もあれば、はぐらかしたりどうでもいいことを答えたりする犯罪者二人。 その内容を記録するギンガ。
そしてその隣でメモ用紙に何かをサラサラっと書いている心悟。 特に二人がまともに解答していない場面で見られる光景であった。
「……まぁこんなところね」
「おや、もう終わりかい? もっと楽しく『
「……よくいうわよ、半分以上はデタラメに答えたりしたくせに」
「ふふふ、ならいくつか我々の質問に答えてくれるのであれば……そうだな……一つずつ真面目に答えてあげてもいいだろう。 なぁローリ」
「なっ!?」
『そうだな、確認したいこともある。 ドラマでよく見る展開と行こうじゃないか』
思いもよらぬ展開。 スカリエッティ達が真面目に答えるとは思ってもいなかったが、しかし今後の管理局の動きを左右するかもしれない大きな何かを知っている可能性は高い。
「う……え、えっとぉ〜……」
しかし権限があってやってきているのはギンガだけである。 心悟は今回あくまで精神科医としての動向のみ。 心悟の方からの質問は禁じられている。 何とかするのはギンガのみ。
「まぁ先に我々の方からいいかな?」
「あ、う……いいわ」
「そうだね……まずは私から」
スカリエッティの問い。 これを答える事が質問に答えてもらえる交換条件。 だがどんな情報からこの男が悪事を閃くは分からない。 質問の内容によっては答える事は出来ない上に大きなチャンスを逃すことになる。 この大事な大一番。 スカリエッティの口から出てくる質問は……
「私の娘達は元気かな?」
「……へ?」
結構素朴な質問だった。
「おっと、今は君の妹達と言った方がいいのかな? 何にしても元気にしていると嬉しいんだけどなぁ」
「……え、えぇ。 まぁ元気かな」
これは答えても大丈夫。 そう確信してギンガは少し落ち着きを取り戻して話す。
「今のところはまだ拘留措置だけど、私が作成している更正プログラムの概要は伝えてあるわ。 まぁ勉強してもらうことの方が多いけど、本人達は結構ノリ気みたい。 元気にしてるわよ」
「そうか、それは良かった」
ギンガの言葉を受け、スカリエッティが始めて邪悪なシワの無い笑みを浮かべる。 それを見て少し驚いてしまうのも仕方あるまい。
「……」
「おや、どうかしたかい?」
「い、や、別に……」
「そうか。 なら娘達によろしく伝えておいてくれたまえ」
「まぁ、それくらいなら……」
意外な父性のようなものを垣間見たギンガは少しだけ目の前にいる次元世界最悪の犯罪者の印象か少しだけ、ミリ単位の話ではあるが変わった。 狂気と欲望に取り憑かれた男、故に『無限の欲望』。 しかしその欲望の中に自分で生み出した戦闘機人達への愛情のようなものがあるのかもしれない。
そしてそれはもしかしたら、隣にいる男から教わったのかもしれない。
『では次は私だ』
「っ!!」
ローリ。 ギンガも話だけは聞いている。 この目の前にいるスピーカーとマイク、そして自分のアバターを表示するだけのディスプレイだけがある機械の中にある小さなマイクロチップ。 その正体は妻と娘を事故で亡くし、終わることのない絶望と狂気を身に宿した大量猟奇殺人者。 この世界でもその狂気は健在しており、ヴィヴィオを自分の娘に仕立て上げ、共に死ぬ事を目的としていた。
話を聞くだけでも寒気のする悪。 果たしてこの男から出てくる言葉はギンガをどう震え上がらせるのか……
『ヴィヴィオは元気にしているか?』
「……は?」
震え上らなかった。
『私の目的のためとはいえ目の前で母親代わりである高町 なのはをボコボコにしてトドメまでもうすぐというところまで見せてしまったからな。 精神状態含め元気かどうかを確認したい』
「え、えぇ……」
二連続である。 ガクッと張っていた力が下に落ちる。 落ちすぎて椅子からも落ちそうになるが何とか持ちこたえてローリの質問に答える。
「……んんっ! ヴィヴィオちゃんはもう体調面も安定してるし、精神的な面でも問題ないわ。 そこはシャマル先生と『シンゴさん♡』が保証しているわ」
『なるほど。 ロリの健やかなる成長は守られたということか』
「……」
ローリの言葉にギンガが少しだけ引っかかる。 そしてある考えがよぎる。 (もしかしてこの男はまだヴィヴィオを諦めていないのでは?)と。
そう思いローリに鋭い視線を向けていると、それに気付いたローリが弁明を始める。
『待てギンガ・ナカジマ。 お前のその疑問は、次に質問することでいいのか?』
「っ!」
『大切なのは新体制になった管理局へ有効な情報を持ち帰ること、それがこの尋問の答えだ。 今お前が感じている疑問を管理局に持ち帰る情報にしていいのか? もっといい情報を引き出そうとはしないのか?』
「……っ……」
ヴィヴィオを守るのはギンガだけでなくあの時戦ったメンバー全員の使命。 そのためにもローリがヴィヴィオを狙っているのかどうかは確認したいし伝えたい。 だが管理局にとってそれは大きな情報ではない。
このギャップをどうするか、唐突に出口の見えない迷路に追いやられた気分になる。
だが。
「ギンガ」
「っ!」
隣にいる心悟を見る。 心悟の能力は心の領域を自由に操りその中に入り込める。 心がある限りそれは可能。
二つの巨悪を前に緊張していたギンガだったが、隣に座る心悟の顔を見て安心する。 仕事とはいえ、隣にいるのはこの世界で最もギンガが信頼を置く男。 その横顔の何と頼もしいことか。
「……ローリ、残念だけどそれは違うわ」
『ほう?』
気を引き締め、ローリに向き合う。 先ほどまでとは違って凛とした表情で。
「私は私だけで戦うわけじゃない。 私にはたくさんの仲間と助け合える人たちがいる。 だからローリ、例え貴方が再びヴィヴィオちゃんを狙ったとしても、全員で必ず阻止してみせる」
『……その内、私をあの時殺しておかなかった事を後悔することになってもか?』
「その程度の事で私達は自分の選択に疑問は持たないし……『覚悟』もしたわ」
『……』
真っ直ぐなギンガの目にローリが笑う。
『いいぞ。 良い覚悟だ。 退屈しのぎには十分な意思を見させてもらったぞ』
邪悪な笑みかどうかは分からないが、やけに挑発的である。
「さて、それじゃあ今度は君たちからの質問を受け付けようか」
『我々に一つずつ、するがいい』
今度はこちらのターン。 ギンガが選ぶ質問は……
「……まずはジェイル・スカリエッティ、あなたは──」
「おや、お帰りなさいませドクター」
時間にしておよそ一時間弱。 ギンガ達に連れられローリとスカリエッティは元の監房に戻ってきた。
「一応貴方に行う調書は終わりよ。 でも今後必要に応じて私や他の職員が貴方の所に来るわ」
「それは嬉しい。 今度はワインの一つでも持ってきてくれると嬉しいねぇ」
「……ここは禁酒よ」
「それは残念」
二人を中に入れ、厳重なロックをかけ直す。 とは言ってもこれもスカリエッティの前には意味のない代物とも噂されているが……まぁ本人がこれをバラす意思はないとのこと。
「さて、それじゃあ失礼するわ」
ギンガが立ち去る……
「待て」
「シンゴさん?」
のを止める心悟。 何事かとナンバーズ達も心悟の方を見る。
その心悟の視線の先はローリ。
「僕はこれから『仕事』として提出する書類がいくつかあるのだが……ローリよ」
『……なんだ?』
「一つ聞きたいことがある」
聞きたいこと。 心を覗ける心悟が何故ローリに質問を? そのこと自体に疑問が浮かぶが、心悟は周りの疑問を気にせずに問いかける。
「今のキミは……「小五 楼人」と呼ぶべきなのか、それとも「ローリ・ビレッジストレート」と呼ぶべきなのか」
『む?』
「どちらがいいのだろうか?」
「シンゴさん……?」
ただの呼び方の質問であった。 そう、ただの。
『……ほう?』
「……」
だがそれはあまりにも『ただの』とは言えない質問。
だが今はそれを大っぴらにはせずにローリは答える。
『しかし……そうだな。 私自身その事について考えた事はなかったな』
少しの思考時間。 そしてその後にローリは答える。
『ふむ……いや、やはり今の私は『ただのローリ』だ。 それが一番いい』
「なるほど了解した。 いや何、記録を取る時は何事も正確にしておきたいものでね。 答えてくれて感謝するよ。 ギンガ、行くぞ」
「あ、はーい!」
それだけだったのか、それとも
「……ふぅむ」
去っていった二人、正確には心悟の事について思考を巡らすスカリエッティ。
「さては、何かしてたねローリ」
『まぁな』
『????』
何のことか分からないナンバーズ達、彼女たちのためにもローリが改めて今起こった事実を説明する。
『木村 心悟の『心を覗く能力』、恐らく私にはあまり効果がないようだ』
「そうなんですかローリさん?」
『効いてはいるのだろうが……こちらも心に関してはデータとして保存してある。 その保存されているファイルに強固なロックをかけると『心の上澄み』しか覗けないようだ。 恐らく、だがな』
どんな能力にも相性というものがある。 『心の境界を超える』事が出来たとしても、それはそこに何の壁もないからである。 そこに意図的に壁を立てる事が出来るのであれば一筋縄ではいかない。
「あら、それって結構凄い情報ね」
『どうだろうな。 さっきは一瞬のことであった上にそれほど奴も力を入れて心を覗いていたわけではない。 心の中からの攻撃を受ければどうなるかは分からん』
「……ローリの言っている心のロックというのは私達にも可能なのですか?」
『いや無理だ。 可能かもしれんが……まぁすぐに破られてしまう可能性の方が大きい』
ウーノの問いに対してすぐにNoを言い放つローリ。 そして唐突にナンバーズ一人一人の事を言い始める。
『ウーノ、お前はスカリエッティの事になるとすぐにムキになるな?』
「え? ま、まぁ……」
『ドゥーエ、お前は最近美容に対してえらく敏感だな?』
「それは、こんな所に入れられてたら嫌でも気になるわよ」
『トーレ、すぐに臨戦態勢に入るのは悪くないが顔に出過ぎだ』
「あ、おおう……」
何故か欠点ともいえる微妙な部分の説明。 それも何故か急に始めたので皆混乱している。
『セッテ、あまり表には出ていないがすぐ感情的に行動してしまう事が多々あるな?』
「う、うん。 たまにだけど……」
『クアットロは……』
「……? 何かしらローリさん?」
『……まぁいいか』
「何で!? 何でなのかしらぁ!?」
一人だけすごい雑にハブられて抗議するクアットロ。 しかしその様子を見ていたスカリエッティはローリが何を言いたいのかすぐに分かった。
「……なるほど、私の娘達は『感情が豊か』だから無理なのか」
『そういうことだ』
「……感情が」
「豊か……?」
ドゥーエとクアットロが感情の起伏が小さいウーノやトーレ、セッテを見る。 二人が気になるのも無理はなく、セッテやトーレは感情的になったとしてもそれは戦闘中のことであるし、ウーノに限ってはあまりにも冷静で落ち着いているイメージの方が強い。
だがそうではないことを一番知っているのは誰でもなくスカリエッティなのだ。
「良くも悪くも、ローリやムラサキ キリン達『この次元世界の外側からやってきた者達』のおかげで君たちはかなり感情豊かになったからねぇ」
『まぁ元々お前達は原作でも感情豊かに見えたが……まぁ今のようにそこまで自由自在ではない。 だからこそこの世界でのお前達では『心をロック』するという『感情のシャットアウト』は無理なのだ』
「へぇ〜……」
「……でもクアットロとかはそういうの関係なく無理くさそうだけどねぇ」
「あ〜らドゥーエお姉様? どういうことですかぁ〜?」
「何でもないでーす」
『感情のシャットアウト』、それは心をデータとしているローリだからこそ行えるやり方。 もちろんその全てをシャットアウトしてしまうとまた黒いローリのようになってしまうのでできないが、それでも心悟の能力に対して非常に大きな抵抗力がある。
スカリエッティとローリの中では更なる思考が続いていた。
「そうなると……いいねぇ」
『あぁ、実に良い』
「お二人共、そんなに悪い顔をして……いえ、ドクターやローリにとってはいつもの顔でしたね。 いつもみたいな悪どい顔をしてどうかしたのですか?」
「うーん! ウーノはこういう路線でくるのは私も当初は考えてなかったなー!」
ウーノのキャラに些かの疑問とツッコミを入れながらスカリエッティは話す。
「まぁそれはともかく。 ローリの心のデータを見破らなくできるというのであれば……我々の『
「ローリ……」
「強化計画ぅ〜?」
字面に起こせば何ともシンプルな内容。 しかもその内容はシンプル故に凄まじい。
『端的に言えば……私の戦闘能力を『神の領域』に達したあの
「そんな事が可能なのか!?」
「あれよね、あの黒くて大きいローリを一方的にボコボコにしてたあの姿よね?」
『そう、アレだ』
この世のどの力に該当しない神の領域。 それは果たしている機械でたどり着けるものなのだろいか? 誰もがそう考えてしまう。
だがローリ達が考えているのは少し違う。
『私が神の領域にたどり着けることはない。 しかしその領域に近いパワーを持つ事は恐らく可能だ』
「どうやって、ですか?」
『それはまだ模索中だ。 方法のいくつかはすでにスカリエッティと話であるがな』
「いつの間に……そんな素振りはここに来てから見たことはなかったのに」
「ふふふ、こういうのはまずは味方から悟られないようにするのが大切なのさ」
『ローリ強化計画』はすでに始動していたようだ。 しかしそれも当然の事だろう。 目指す目標はあまりにも高く、もはや雲を掴むような果て。 そこに辿り着くためにも今から始めては遅いのだから。
「……ねぇ、ローリ」
『どうしたセッテ』
その計画を聞いて、セッテは一つだけ不安に思うことがあった。
「それって……またあの黒いローリになったり……しない?」
それは再びローリが心をデリートゾーンに放り込んでしまわないか。 セッテにはそれだけが気がかりであった。
しかし、ローリは不安げなセッテに優しく答える。 自信と確信を持って。
『……それはない、とだけは断言しておこう』
「……本当?」
『本当だ。 そもそもアレでは私達も目的とも外れてしまう』
「目的? ローリさんが強くなる事が目的ではなくて?」
『ふっ……そんな発想しか出来ないからお前はまだまだダメなのだ』
「何ですってゴラァ!」
「落ち着いてくださいクアットロ……あと言葉が悪いです」
「あら失敬。 おほほ」
クアットロが一つ二つ咳払いをし、ローリに説明の続きを求める。 また一つ二つ悪口が出るかと思ったが、ローリは素直に説明する。
『我々の目標は元々ムラサキ キリンを超える肉体を創り上げることだった。 当初観測した魔力346万超えをな。 そして500万、1000万……奴の魔力の最大上昇値を計測しながらアップデートを繰り返し……そして我々がこの宇宙で最も最上の強さを持っていることを証明する。 それこそが私とスカリエッティの約束だ』
「……初めて聞きました」
「ウーノも聞いたことないんだ」
「えぇ、恐らくは誰にも話していないのでしょう」
ローリとスカリエッティの目標。 ローリは狂気に堕ちた心によりヴィヴィオを道連れにするのが目的であり、スカリエッティは管理局への復讐と際限のない悪の追求。
だがこの二人が組んだ理由とその目標は何なのか? それがローリが口にした『キリン超え』であり、『次元宇宙最強』だ。
意外にもスカリエッティの側に常にいたウーノですら知らない二人の約束。 しかしスカリエッティとローリは特段秘密にしていたかったようではなく。
「誰にも話していないというか、聞かれなかったから話さなかっただけだよ」
「……確かにローリの目的を聞いた事はあったが、組んだ目的や目標については聞いた事はなかった」
知ってもらってもいい情報のようだ。
『そういうわけで、だ。 更なるアップデートを重ねるためにもあの黒い私ではいけないというわけだ。 あの姿ではスカリエッティと意思疎通を図れないからな』
「じゃあ……大丈夫……?」
『……』
少しだけ言葉を考えるローリ、そして彼らしくもない言葉がセッテに向けられる。
『……あの黒い姿は、いわば私の中にある狂気的部分の権化だ。 亡き妻と娘への裏返った愛、狂った心の暴力、それがあの姿の私だ』
「……」
『だが……何故か分からないが……』
「……?」
『何故か思い浮かぶのだ、笑顔である妻と娘の……サクラの姿が』
以前のローリであれば、思い浮かぶの死に際の妻アレクサンドリアと事故で顔が歪み死んでしまった娘サクラの姿。 どちらも血にまみれ黒く黒く彩られてしまった絶望の記憶。
だが心のデータを掬い上げられたローリは以前とは違い笑顔の姿を思い浮かべる事ができているのだ。
それはどこにも繋がっていない無の世界からスカリエッティ達がいる世界へ心が舞い戻った時、背中を押してくれた妻と娘のおかげなのであろう。
『それから私は自分自身の心が狂気に狂う事がないと気付いた』
「そう……なの?」
『あぁ、娘や妻の事を思い出しても心が激しく乱れることはない。 何故かは私にも分からない』
ローリ本人は自分でもよく分かっていないが、自分自身の中にある歪んだ愛情はなくなり、以前のような狂気に心は犯されていなかった。
それはもしかしたら彼の仲間であり家族であるスカリエッティやクアットロ、セッテを始めとするナンバーズ達のおかげなのかもしれない。
『……だからセッテが考えているような事態にはもうならん。 だからいらぬ心配をするな』
「……うん!」
セッテを安心させるために、それとも自分のために? 訳は分からないが優しい語気でセッテを諭す。 父親のように、娘をあやす。
『とりあえずまたお前達と同じように『戦闘機人』の姿から始めることにしている』
「あら? それって私達聞いちゃっても平気? 私達の心を読まれてバレたりしない?」
『肝心な計画を実行するプランは話したりしないから平気だ。 何をどうするかはお前達も知っておきたいだろう』
ローリのこれからのプラン。 一先ずは最初の肉体を取り戻すこと。 方法はローリのデータの中に密かに作り上げられてはいるものの、すぐにとはいかないだろう。
「……本当?」
『セッテ?』
しかしそれはセッテにとって、とても嬉しいことである。
「また最初の姿になってくれる……の?」
『ああ』
「っ! やったぁ!」
『う、うむ……そんなに喜ばしいことか?』
普段は聞かないセッテの嬉しそうな大きな声。 思わずローリも驚いてしまうくらいセッテにしては大きな声。
年相応な、少女の声である。
「だって……あの姿のローリは私達と同じで……」
その年相応な少女ははにかみながら、両手の指を合わせながら……
「暖かくて……好き……」
花のような笑顔を見せる。
『そ、そうか。 なら多少時期を早めることにしよう』
「やったぁ……えへへ……」
「よかったわねぇセッテ」
「うん……!」
少々困惑しているローリを尻目に、喜ぶセッテの頭を撫でるドゥーエ。
そしてもう一人にはニヤニヤしながら声をかける。
「貴女も嬉しいわよねぇ〜……クアットロ?」
「──ヘァッ!? なななな何のことかしらドゥーエお姉様ぁ!?」
顔を赤く染め上げて無駄に動揺しているクアットロ。 珍しい彼女の狼狽えっぷりにドゥーエの嗜虐心がそそられる。
「だってぇ〜また私達と同じ肉体を持ってくれるってことでしょぉおお〜?」
「そそそれが何だと言うのかしらぁ!?」
「それってつまり〜普通の人間と同じ部分もあるってことよねぇ〜……
「なっ!? ハレンチすぎますわよ!?」
「あらやだ私の妹ったら。 アソコってつまりローリさんの筋肉とか大きくて暖かそうな手のことなのに」
「とっ、当然分かってますわ! オホホホホホホ!!」
何故か年頃のJKみたいな反応をしているクアットロ。 自分でも分からない胸の奥にある奇妙な感情にただただ振り回される。
「(な、何なのよこの感じは!? ただローリさんが私達と同じ肉体に一時的に戻るってだけじゃない!! 私達と同じ機能を持っている肉体に……)」
両手を頬に当て赤くなる顔の熱を感じながらする思考は上手くまとまるはずもなく。
「(うあっ! やめなさい私! 何ローリの身体の事を考えるのよ! やめなさい! 普通の人の姿でいるローリさんなんて想像しても──うああ! な、な、何考えてるの私! ろ、ローリさんに触りたいだなんて想像するな!!)」
しっちゃかめっちゃか。 誰もそこまで口にした訳でもなく悶々とした思考に陥るクアットロの何といじらしいことか。
「あれで……よく自分の感情に気付かないものですね」
「クアットロもドクターの思想に自分が一番近いと自負しているからな。 そこから外れた思考回路を簡単には認められないのだろう」
「セッテはローリのおかげで感情表現が豊かになったし、クアットロも私が与えることのできない感情を手にしたのさ。 最初は嫌っていたけど……ふふっ、私がローリと親友になれるということはクアットロも必然的にそうなる事だったのさ」
「……ドクター、私はあまりそういうのには疎いのですが。 クアットロつまりタイプゼロ・ファースト──ギンガ・ナカジマと
「ふふふ」
かたや素直に自分の感情を伝えられるセッテ。
かたや素直に自分の感情を認められないクアットロ。
大きく原作から離れた二人の変化、しかしそれはまた元々二人にあった可能性の一つなのかもしれない。
「それも確かめるためにも、我々の研究に果てはないということさ」
ジェイル・スカリエッティ。 かつて管理局によって生み出されてしまった『無限の欲望』にして狂気の創造者。
ローリ。 唯一の家族である弟を失った悲しみを癒してくれた妻と二人の愛の形である娘を失ったことによる生きた狂気。
二人はこの世界で邂逅し、狂気と狂気が交わる混沌を目指し『破滅の追求』をし続けてきた。
しかし彼らは友として、家族として繋がりを結び、そしてその繋がりを断ち切らせはしまいと敵である管理局の機動六課、そして打ち倒し存在を超える目標であった『村咲 輝凛』によって二人はこの世界でまだ共に生きている。
スカリエッティの内に潜む『果てのない欲望』は未だ蠢いているのか。
ローリの内に潜む『破滅への欲望』は未だ息を潜めているのか。
その答えはいずれ見つかるはずだ。
ローリとスカリエッティ、そしてナンバーズ達と共に歩む──
────
始まる探求の旅。
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。